「強かったな、お前の師」
「ん? ああ、達也と模擬戦したんだったか」
風紀委員に推薦された達也だったが、服部は丁度いいとばかりに実力を示せと決闘を挑み負けたらしい。
「ふ、無様」
「うるせえ………だけど、僕の主観だが、彼奴お前より強かったか? いや、いろいろ隠しているみたいだが」
「ん〜? まあお前も知ってるだろうが、俺達サイキッカーは基本的に
魔法師に相性のいいサイキッカーだが、魔法の狙いが自分ではなく間接的ならばその限りではない。そういう意味では『超大規模破壊』を持つ達也はかなり相性がいいと言えるだろう。
「だが、戦い方がお前のそれじゃなかったな。サイキッカーでなくても、その分野を教えていると思ったが…………実践で覚えろとかいうあれなのか?」
「? 達也は俺の魔工とか、勉強の師だけど?」
「…………………そうか」
勘違いだったのか、と服部。まあそれでも負けた事実は変わらないが。
「お前は風紀委員やらないんだな。推薦きていたろ」
「興味ない」
問題起こしそうな生徒でマダラの気を引く者はいない。1年なら或は居るかも知れないが、1年だからこそ深雪と達也と比べてしまう。
「それに俺CADの携帯権とかいらねえし」
「まあ、そうだな」
「逆に達也は面白い使い方するからなあ。俺知識はあっても魔法演算追いつかねえから無理だけど」
魔法師としては達也以下。それを加味しても有り余る力がマダラにはあるが、正直魔法科に居るべき人間ではない。じゃあ何故入学したかと言うと父親の指示だ。
そもそも対外的には『BS魔法師』という異能者故に、政府、公安としても魔法師として登録しておきたいだろう。
魔法師が優遇されていると喚く輩も居るが、魔法師はそれをされるだけの管理がされているのだ。人の形をしたミサイルのようなものだから。
「達也も大変だな。これから部活勧誘がある。風紀委員の新人イビリだろ、あれ」
「マダラ………今年はやりすぎるなよ?」
「やられすぎなければなあ」
尤も、昨年の出来事を思えば2年、3年の部活動勧誘者達はわざわざマダラを勧誘などしないだろうが。
第一高校の『
なんてことはない。実力主義を謳う差別主義者は自分より上を認めたがらず、平等を謳う者達は強者を差別する。それだけのことなのだ。
達也は風紀委員。深雪は生徒会。
なので特に案内とかは要らないようなので、一人部活を見て回る。
エリカやレオも部活を決めているようだ。
「…………ん?」
真横をすごい勢いで何かが通り過ぎる。振り返ってみると、ほのかと雫を抱えた女子2人だ。
生徒ではない。不法侵入者? つまり、何しても問題ない。
ほのかと雫を攫った女の名前は萬屋と風祭。
第一高校の卒業生である。在籍時はバイアスロン部に所属していて、今回は後輩達の為に有望な部員を勧誘しにきたのだろう。勧誘というか誘拐だが。
(私達一体、どうなっちゃうの〜!?)
など考えていると、ふと周囲の気温が下がる。
「よお光井、北山、助けようか?」
と、現れたのはマダラ。地面を滑っている。
摩擦の操作………ではない。氷のスケートシューズに、氷のレーンを滑っているのだ。
リアルタイムでレーンが引かれながら萬屋達にあっさりと並走する。
「っ! 篠村!」
「此奴!!」
風祭が慌てて加速すると風を操作し間に落とす。マダラからは向かい風、風祭達は追い風となり加速する。
「はは…………」
別段マダラは、ほのか達を助けるつもりはない。ただ問題なく力を振るえる相手に笑う。
「マテリアル・ハイ」
「!?」
周囲の空気が変わる。風祭の気流操作が乱れた。
「この速度、転べば擦り傷じゃすまねえのは解ってたよな」
「この!」
今度は萬屋が地形を操作する。
マダラはスケートシューズを消し、飛び上がる。トン、と空中で何かを踏むような音が響き………消えた。
「まず1人」
「!?」
一瞬で前方に移動していたマダラは舗装された地面が砕けるほどの踏み込みで減速し、風祭の首を掴み雫を奪い取る。
加速していた風祭はぐぇ、と悲鳴を上げ気絶。
「涼歌! この──」
加圧魔法による地形操作。萬屋の得意とする魔法で攻撃しようとして、目の前に迫るマダラの足。
「2人目」
ゴッ! と吹き飛ばしほのかを回収。
「いやぁ、いいことした。じゃ、俺は此奴等生徒会に引き渡してくるな」
風祭の首を掴んだまま、反対の手で萬屋の足を掴みズルズルと引き摺っていくマダラ。
「えっと、ありがとう?」
「この時期は面倒事多いからなあ。気をつけろ〜」
実は入学試験の実技成績上位者がこっそり公開されていたりする。学校としても九校戦などに備え、優秀な生徒が部活動で練習するのを推奨しているため黙認されているのだ。
ほのかと雫は恐らくその成績上位の生徒だったのだろう。魔法師として優秀で、故に顔も整っている。引く手数多に違いない。
「へえ、達也の方も面白そうだったな、そっち行けばよかった」
放課後、達也達と合流して今日の出来事を聞いた。何でも剣術部と剣道部が諍いを起こし、魔法を発動した剣術部をのしたら生意気だと剣術部の他の生徒が襲いかかり、全員返り討ちにしたのだとか。
返り討ちと言っても、攻撃を避けて魔法を無効化し続けただけだが。
「勘弁してくれ。お前が来たら、ややこしい事になる」
「まあ、そもそも剣術部だろうと2、3年で俺に喧嘩売るの桐原ぐらいか」
マダラが現れたら大人しく引き下がりそうではある。
「お前も、強引な勧誘をしていたOGを気絶させたと聞いたが。渡辺委員長が愚痴っていたぞ」
「ちょっと顎の骨が砕けてた程度で大袈裟な。不法侵入して魔法使用した彼奴等が悪い」
マダラは何時だって暴れる理由を欲しがっている。人助けなんてただの口実。矯正されようと調整されようと、身の内に潜む破壊衝動は変わらない。
まあ、こうして偶に発散させておくだけで『あれ』が現れないというのなら、それに越したことはないわけだが。
「ていうかお互い心配しないの?」
「たかが学生10人と少しだろ? 達也なら問題ない」
「魔法科高校を卒業しただけの2人組なら、マダラの敵じゃない」
エリカの言葉に2人はそう言う。互いへの強い信頼が見て取れる。
「本当2人って仲いいよね」
「殴り合って互いを認めた仲だからな」
「いや、俺がお前と友になったのはそのだいぶ後だろ」
殴り合いはしたらしい。しかも、発言からして友達になる前に。
「そう言えば達也君が使ってたあれ、魔法を消すやつどうやったの!?」
詳しく聞きたかったが話す気もなさそうと判断したエリカはレオ辺りがしつこく聞く前に話題をそらす。
実は達也、剣術部との乱闘で相手の魔法を消していたのだ。その際相手は倒れていた。
「ああ、あれだろ。キャスト・ジャミング」
キャスト・ジャミングとは、魔法式がエイドス………事象に付随する情報体に働きかけるのを妨害する魔法の一種。広義で見れば無系統魔法の一つ。
本来は軍事物質のアンティナイトが必要なのだ。厳密にはサイオンの波なので理論的には魔法師にも行えるはずなのだが、魔法師は本能的にそれを実行できない。
「あー、この話はオフレコで頼みたいんだが」
達也がテーブルに身を乗り出して小声で話す。
曰く、達也の扱った技術はキャスト・ジャミングではなく『特定魔法へのジャミング』。
CADを2つ同時に扱おうとするとサイオン波が干渉し、殆どの場合魔法が発動しない。
そのサイオンの干渉波を事象の
言葉にすると簡単だがこれを扱うためには妨害する魔法の起動式とそれと逆方向の起動式を展開し、魔法式に変換しないまま複写増幅する必要がある。
展開中の起動式を読み取り、CADの干渉波を投影するなんて、まず不可能だ。
「起動式は読めても、それは俺も真似できないしな」
「お前の場合は必要ないからと途中でやめたからだろ」
「殴った方が早いし」
チュルル、とストローからコーラを吸うマダラ。実際彼の場合、相手が起動式を展開したのを察知できる距離に居たら魔法式に切り替わる前に殴れる。
「そういえば、話は変わるけど知ってるか? 校庭の一部が凍りついてたんだってよ」
「「「………………」」」
レオの言葉にエリカと美月も思わず深雪を見つめる。
「…………私をなんだと思っているの? それに、その氷は時間をかけて溶けたのでしょう?」
通常、魔法師が作った氷はすぐに溶ける。魔法師の魔法は世界を騙しているだけ。書き換えた情報はやがて戻る。
流石に火傷や凍傷など、既に刻まれた情報はそのままだが変化させている情報は修復されようとする。温度の変化など、直ぐに戻される筈だ。だが氷はそれこそ冷凍庫から撒かれたとでも言うように時間をかけて水に変わった。
「不思議なこともあるもんだ」
「他風紀委員から、お前がアイススケートしていたという報告があるぞ」
「ああ、俺の仕業だ」
あっさり認めた。
「どうやったんだ?」
「冷やした」
そりゃそうだ。
さて、それから達也は狙われるようになった。
乱闘に見せかけ止めに来た達也へ攻撃魔法を放ち、追いかけようとした達也を他の一科生が野次馬のふりをして壁になったり、また別の乱闘を止めようとしたら背後から魔法が飛んできて追いかけようとすれば今度は逆に話を聞けと乱闘していた生徒が邪魔をする。
その嫌がらせをたまたま目撃した明智瑛美ことエイミィはほのか、雫と共に証拠を押さえようと動き剣道部主将の司甲が達也に魔法を使おうとしていたのを確認。
しかし魔法式は写真に写らず、そもそも逃げる姿を撮っただけ。
生徒会も風紀委員も動かず、エイミィ達は司の後をつけることに。
一応言っておくと、剣道部が休みじゃないのに帰宅していると少し怪しい行動をしていたからだ。子供探偵のあれれ〜、可笑しいぞ〜並にこじつけだが、彼女達は司が達也に魔法を放っているところを見ているのだ。
学校の監視システム範囲を抜け、どんどん人気がなくなる方向へと歩き、唐突に走り出した。
「気付かれた!?」
「分かんないけど、とにかく追うよ!」
しかし見失う。
困惑する彼女達を囲むように現れる3台のバイク。
加圧魔法と閃光魔法で動きを封じたところまでは良かったが、そこに襲いかかる本物のキャスト・ジャミング。
サイオン波は少女達に不快感を与えその場に膝をつかせる。
反抗的に睨みつけるエイミィに、更に波長を強めようとした瞬間………
「ひゅ──────るるるる。ずどーん!!」
上から降ってきたマダラがヘルメット男の一人を踏み潰す。
「な!?」
「新手か!!」
アンティ・ナイトを向ける男達。魔法師を酔わせる波長は、しかし非魔法師が扱う貧弱なもの。そうでなくても、マダラにはどの道関係ない。
「がぁ!?」
一瞬で接近し蹴りつける。車にでも撥ねられたかのように吹き飛び壁にめり込む男。人間の出せる力ではない。
「魔法!? 馬鹿な、アンティ・ナイトの影響下で!!」
「ほい」
困惑する最後の一人の首を掴み片手で持ち上げる。
マダラはそれなりに背が高く、体も鍛えられている方だがやはり人間の力ではない。
「ば、化物めぇ!」
「お前達は何者だ? ちょっと頭を覗かせて貰うぞ」
と、何処からか取り出した簪を構えるマダラ。その時………
「後ろ!」
「!!」
最初に踏みつけた男が立ち上がりマダラへと殴りかかる。ドン! と大気が揺れ、マダラの体が数メートル吹き飛んだ。
「…………ライズ?」
「ぎ、ぎ、ぎ…………ぎいぃ!!」
砕けたバイザーから覗く目は白目を剥いてダラダラとヘルメットの隙間から泡をふく。正気には見えない。薬物でもやってるのだろうか?
「ぎぃ、があああああ!!」
「そこまでです」
襲いかかってくる男を迎え討とうと少し出力を上げて構えるマダラ。しかし、凛と響く声が男の足元を凍りつかせ転ばせる。
人並み外れた身体能力で動く男はそのまま姿勢を崩して壁に激突。手足があらぬ方向に曲がっている。
「うわ………」
エイミィ達が顔を青くする中、マダラはおお、と顔を上げた。
「深雪」
「マダラさんまで? ……………4人で帰っていたのですか?」
拗ねたように睨む深雪にマダラはん? と首を傾げた。
「いや、達也に嫌がらせしたっていう男追っかけてたら此奴等が襲われててな。気付かれてたんなら、大人しく引き返すことをお勧めするぜ」
と、エイミィと雫に手を差し出すマダラ。深雪もほのかに手を貸してやる。
「深雪が助けてくれた? これは夢………?」
ほのかは本当に夢の中にでもいるような顔をしている。
「夢じゃないわ。皆が無事でよかった」
「マダラさん、ありがとう」
「助かったわ」
と、雫とエイミィが頭を下げほのかも慌てて振り返り頭を下げる。
「…………殺してませんよね?」
「殺さないようにはしたぞ。此奴も生きてるな」
壁に突っ込んでいった男もピクピク動いている。しかし、最後の動きは一体?
「…………?」
「マダラさん?」
「いや、虫の羽音が」
まあ春だし珍しくもない。
「どうする此奴等、警察行きですか?」
「大事にはしたくありません。ですが、被害者である雫達が訴えたいなら止めはしないわ」
「ううん。必要ない、監視カメラにも撮られてないし」
と、雫。
「それで、どうするんだ此奴等」
「頭の中を覗いてもらえますか?」
「ま、いいけど」
深雪の言葉にマダラは再び簪を取り出し頭に突き刺す。よくよく見ると、簪から伸びる光の線がマダラと繋がっている。
「此奴等は司甲を付けてる連中の処理を命じられたらしいな。ブランシュのリーダー、司一の命令だ」
「ブランシュのリーダー! けど、司甲先輩は魔法師ですよね」
「二科だからな。努力しても報われないことに不平不満を感じてんだろ。結果を示さないまま境遇だけ変えろなんて、傲慢だな」
その言葉に深雪はクスリと微笑む。
「お兄様と似たようなことを仰るんですね」
「達也といえば、剣道部の美少女剣士を言葉責めしてたって噂本当か? うお、寒」
「お兄様はそのようなことはしません。それから、マダラさんもそのような言葉を使うのは如何なものかと」
「悪い悪い」
と、深雪の頭に手を置く。もう、とむくれる深雪だが直ぐに首を傾げるようにマダラの手に頭を擦り付けた。やっぱ犬だな、とマダラは思った。
「それと、気を付けろよ深雪。ブランシュにサイキッカーが混じってやがる」
「…………お?」
自分へ飛んできた蜂の羽音に男は小説を映していたディスプレイから視線を外す。そのまま蜂を
「おお、はじめ〜、彼奴等捕まったみたいだ」
「何、警察か?」
「学生だな。でも1人は篠村だ」
「…………………」
その言葉に苦々しげな顔をする眼鏡をかけた男、司一。
「ははは。元々戦う予定だったんだろ?」
「お前は勝てるのか?」
「さあ? 俺達の中でも、彼奴は特に異質だからな」
「! 何のために高い金を──!!」
と、そこまで言って司一は首を掴まれる。
一瞬………人間の知覚速度を超えた速さだった。
「義兄さん!」
甲が思わず叫べば、男は彼に向かって司一を投げつける。
「何のため? そりゃお前等が出来ないことをやる為だろ。お前等に出来ないことを俺は出来る。俺にも出来ないことはお前等は出来ない。違うか?」
「げほ! あ、ああ……ぞの、そのとおりだ」
「わかりゃいいんだ。悪いね」
と、男は司義兄弟に目を向ける。2人の僅かな傷が治っていく。
「破壊の王………欲しいなあ、頭の中弄らせてくれねえかなあ」
ブブ、と男の体から響く羽音。現れる、無数の蜂の群。それは彼の力。
魔法を超えた人の果て。そうとも、自分達には此奴がいるのだと、司一は勝利を確信したような笑みを浮かべた。