「あ、篠村さん!」
「ん? あ〜…………美少女探偵明智君、だっけ?」
翌日、明智瑛美が声をかけてきた。一科生の生徒が二科生に話しかける姿に1年は困惑し、2年、3年は以下略………。
「探偵仕事はもう良いのか?」
「からかわないでくださいよ」
もう、と剥れる瑛美。その姿は中々可愛らしい。
「結局、何も出来なかったですし」
相手が単独とも限らないのだ。マダラが言っていたように、深追いせずに居るべきだった。
「まあ、それだけ自信があるのは良いことだ。お前は本気出せないみたいだしな」
「そんな事………」
「お前達魔法師は世界を騙す。嘘を吐くと、己も騙すぞ」
「
「え、老人っぽい?」
と、瑛美の言葉に首を傾げるマダラ。まあいいか、と言葉を続ける。
「勝ちを譲るな、貪欲になれ。負けた程度でお前を嫌うような奴とは、付き合うだけ無駄だ」
「……………結構過激なことを言うんですね」
「敬語は良い。年上つっても、今は同級生だ」
「うん、解った。私の事、エイミィでいいよ」
「俺はマダラでいいぞ」
そう言うと2人揃って歩き出す。示し合わせたわけではない。ただ食堂に向かうのだ。
「深雪と一緒じゃないの?」
「達也が居残りだからなあ。昼休み潰して飯食えねぇと、午後の授業なんてやってられねえ」
燃費が悪い訳では無い。その気になれば6日程度なら補給無しの行動が出来るが、それはそれ。
食うのが好きなのだ。
「服部がまた喧嘩売ってくりゃなあ、奢らせるのに」
この前も結局ステーキ定食10皿奢らせた。服部はとても落ち込んでいた。
「男の子って感じだね」
「ん〜、俺並に食う男って見たことねえな。ああ、テレビではたまに見かけるけど」
「大食いタレントぐらいなんだ…………」
そういえば、と移動しながらエイミィは話題を探す。
「深雪のお兄さんが居残りだからってことは、マダラは直ぐに合格したの?」
「ああ、俺BS魔法師だから起動式の展開速度とかの授業は免除されてんだ」
「BS…………」
あの時の並外れた身体能力だろうか?
BS魔法師なら、その上で魔法が使えるのって凄いことなのでは?
さてそこから何事もなく1週間。帰り支度を始めた時だった。
『全校生徒の皆さん!!』
ハウリング寸前の大声がスピーカーから飛び出した。少なくない生徒が動揺する。
『失礼しました。全校生徒の皆さん!』
もう一度、今度は決まり悪そうに同じ言葉が流れる。
「どうやらボリューム調整を間違ったようだ」
「放送部の協力者でも募っとけよなあ」
達也とマダラは冷静だった。なんならマダラはどうでも良さそうに帰りの準備を始めている。
『僕達は、学内の差別撤廃を目指す有志同盟です』
「有志ね………」
ポツリと達也が呟いた。そういえば達也が言葉責めしたと噂の美少女剣士こと壬生沙耶香からそんな話を聞いていたと言っていた。
しかし政治的な集団を形成するメンバーが自発的に「有志」になった事例が有史以来どれだけあったろうか、と達也は考える。
『僕達は生徒会と部活連に対して、対等な立場における交渉を要求します』
「どの立場から言ってんだ此奴等」
学園の秩序を守るために活動する生徒会や風紀委員、功績等を見て部費などを定める部活連………活動している者達に対してただ叫ぶだけの連中の言葉にどれだけ価値があるというのか。
達也の話を聞く限り、壬生沙耶香達の言う差別というのも意識以上にあるのかどうか。
意識改革がしたいならやり方が違うだろうに。
「お呼びがかかった。行ってくる」
「おう、頑張れよ」
エリカは面白がり、レオは好奇心で留まり、それ以外の多くの生徒もこのまま帰って良いものかと教室に留まる中、マダラは普通に帰った。
放送は続く。魔法競技系に割り当てられる部費は非魔法競技系の部活に比べ多いだの、魔法だけが全てじゃないだの…………此奴等、ここが何処だと思っているんだろう?
ここは
「魔法師という特別感に浸りながら、魔法師として劣るところは見ないでなんて、笑い話にもなりゃしねえ」
放送室の鍵を盗むなんて犯罪行為をしておきながら、生徒会は交渉を受けるらしい。討論会を行うとのことだ。
真由美の事だから、これを上手く利用して差別意識を減らそうとしているのだろう。そういう意味では彼等の行動も無駄ではなかったかもしれない。
「まあ、真由美なら問題ないだろ」
「……………七草会長を信用しているのですね」
討論会について達也から聞いたマダラの言葉に深雪がジトリと睨みつけてくる。
「1年もいりゃなあ、信用するさ。服部が喧嘩友達なら真由美は普通に友達だからな」
「ですがあの人は…………いえ、すいません」
真由美は『七草』だと言おうとしたのだろう。確かに、十師族はマダラやマダラの父について知っている。
見目麗しい十師族の令嬢が接触する理由に
「そういうのはお前の叔母のほうが親父にやってるけどな」
自分を『壊し直した』男相手に良くやるものだ。責任感の強いあの父は、だからこそ寄り添い問題ないまで回復させた訳だが………。
「…………篠村のおじ様ですか」
深雪は、どうもマダラの父親をあまり好きではないようだ。マダラからすれば意外だ。あの父が女に悪印象を持たれたところなどあまり見たことがないのだ。
「深雪は親父が嫌いか?」
「あの人は…………貴方にお兄様と同じ事を………」
「深雪」
達也の言葉にハッと深雪は顔色を変え俯く。マダラはそんな深雪に首を傾げた。
「俺は別に気にしてないけどな。実際、あれを抑えるためには必要な措置だ。俺も達也も、感情に任せて動くには力があり過ぎる」
その為に達也は兄弟愛を除いた
尤も、マダラの場合暴れる理由を探す辺り、やはり完全に消しきれていないが。
「まあそれより討論会だ。俺は確実に動くと見るね」
「まあ、これ見よがしにあんな物を付けていたしな」
差別撤廃を謳う生徒達の腕にはブランシュである事を示す赤と青で縁取られた白いリストバンドを付けていた。
討論会で集まった生徒会や風紀委員などを一網打尽にする作戦だろう。無理だろうが。
十師族の十文字克己に真由美。服部、渡辺摩利も含めて、一高の層は厚い。反魔法主義を掲げる以上魔法師の居ないただの武装集団など物の数にもならない。
ただ、サイキッカーがいるとなると話は変わるが。
「記憶を読み取る限りはライズとトランス使いって感じだったな。後は、あの時のライズ使いみたいなのも居るか」
エイミィ達を襲ったライズ使い。脳をやられて理性を失っていたが、出力自体はドーピングや
「ただ、何か違和感があるんだよな」
魔法と異なり演算を組み立てる必要がない超能力は確かに理性が吹っ飛んでいようと発動する。しかし、それにしても理性を失いすぎていた。
そして討論会当日。
マダラは当然討論会などに興味はないので、学内を適当にぶらついていた。
「あれ、マダラさん」
「雫? ああ、ここバイアスロン部か」
部員達はOGを蹴り飛ばしたマダラに顔を青くしているが、そもそも悪いのは申請せず学内に入り魔法を使った風祭達なので文句は飛んでこないが。
「どうしてここに?」
「ああ、暇潰し」
「?」
暇潰しなら討論会にでも顔を出せばいいのでは? と首を傾げる雫。と、その時だった。
突如爆音が響く。実技棟の方から煙が上がっていた。
「………実技棟?」
型遅れのCADしか置いてないそこを襲う理由などないだろう。となると、陽動。それもかなり大規模な。と、ナイフを持った作業着姿の男が現れる。
「よっと」
「が!?」
当然、マダラに殴られ吹き飛んだ。
「化物共め!!」
と、別の男が叫び取り出されたのは銃。狙いは男と一番近い雫。
炸裂音が響き音速の鉄の礫が放たれ、チリッと髪に触れた瞬間にはマダラが雫を引き寄せると
「……………う、嘘ぉ」
ほのかが思わず声を漏らす。それはこの場の総意だろう。
「ば、化物めえ!」
「それしかいえねえのか」
と、男の顎を蹴り気絶させる。
「こ、この人達は?」
「反魔法主義のテロリスト。その実態は外国に支援された発展の邪魔をする馬鹿」
雫の疑問にそう答える。
差別撤廃だの反魔法だの、真面目に喚いている者も多いだろうが彼等彼女等が声を上げられるように支援しているのは魔法を廃れさせ、国力の低下を狙う外国の工作。
「くそ、やられた!」
「油断するな! 学生でも魔法師だ!」
そう言ってCADを持った男達が叫ぶ。
目的が日本での魔法の衰退、最悪停滞なので、こうして魔法師も普通に使う。大方魔法師として大した結果も残せなかった落伍者だろう。展開も遅く、魔法師としては三流程度。
「ショットガン・ボルト」
起動式が完成するより早く雷が彼等を焼く。死んではないが、動けないだろう。
拍子抜け。この程度、後数分もあれば終わる。
「…………あの」
「おお、忘れてた」
「………私が小さいから?」
「軽いから」
と、雫を下ろす。ジーッと見つめてきた。
「………マダラさん、卒業したらボディーガードとして働かない?」
「考えとく」
「うん」
今はそれでいいと満足げな雫。
マダラはサイキッカーが現れないのかと、波動を探る。
「ははは。何だよ、俺は最終手段とか言って何もさせず、これかよ。つっかえねえなあ」
「「「!?」」」
そう言って現れたのは一人の男。中肉中背、これと言って特徴のない男だ。
「ま、まて………我々は、まだ」
「終わりだ終わり」
そう言って男は拡声器を口の前に添える。男達の顔が青く染まり……
『起きろカスども。暴れろ』
「ぐがあああああああ!!!」
直ぐに獣のような咆哮を上げ飛び上がる。変化はここだけではない。
「あ、あああ!?」
「壬生先輩!?」
「お兄様!」
エリカと戦い、戦意を失っていた壬生が頭を押さえ苦しみだし、達也がすぐさま様子を調べようとした瞬間飛び上がる。折れた筈の腕が治っている。
「………ライズか? だが、これは………」
異様な様子にバイアスロン部の生徒達が困惑し、次の瞬間部長の目の前に男の手。
マダラがその手首を掴み止めていた。
「…………え」
「お! 篠村マダラ! ははあ、見つけた! 『こいこい、集まれ!』」
再び拡声器で叫ぶと音が届いた範囲のテロリスト達が集まる。皆目が虚ろで、口元からダラダラとヨダレを垂らしている。よくよく見ればブランシュに取り込まれた生徒もいる。
全員、途轍もない運動性能を発揮し、その頭から虫の触角のようなものが生えていた。
「無線トランス。
そう叫ぶ男の周りに現れる無数の蜂。トランスエネルギーで出来た………いや、あれは。
「………変則CUREか」
「御名答! 話が早くて助かるねえ! 俺の
こんな風にな! と男が叫ぶとテロリストと同盟の生徒達が襲いかかってくる。
組み合わせであって包括ではないが、成る程出力はともかくプログラマーとしては自分以上の精密性。この規模となれば相当なPSIエネルギーも………。
猛攻をかわしながら、彼等の苦悶の顔に気付く。
「………お前、本人から」
「………………ヒヒ」
気付いたか、と笑う男。
寄生先の脳をライズで無理やり活性化させ、強制的にライズ使いに覚醒させている。当然PSIに慣れていないただの人間の脳は凄まじいダメージを負っていく。
「それだけじゃねえぜ!」
強制的な疑似サイキッカーとなったキャリア達は当然PSIエネルギーを生み出す。生み出されたエネルギーは…………
「あう!」
「部長!?」
その腕に蜂の針のような器官を作り出しバイアスロン部の部長へ襲いかかる働き蜂。慌てて生徒が駆け寄ると、部長は部員へ襲いかかる。
マダラは電気で痺れさせた。
「こんな屑肉共いくら引き入れても使えねえからよ。お前の体をよこせ、破壊の王!!」
蜂男がマダラを指差す。新たに生まれた働き蜂達もマダラへと襲いかかった。
PSI能力『
トランスに属する変則的なCURE。
ライズエネルギーをバーストの形で与えるCUREにトランスを足して作られた。配分はトランス7、ライズ2、バースト1。
寄生先を強制的にPSIに目覚めさせ疑似ライズ使いとして操る。
真に恐るべきは、無線であるため疑似ライズ使いとして目覚めさせるのは勿論、複製プログラム、移動条件の入力、音声、動作認識における命令動作の理解させるプログラムを予め入力し大量に放っておくことだろう。
PSYREN知ってる人なら分かるだろうけど、何気に凄いんだ此奴。PSI操作能力だけなら馬鹿でかい塔をパズルみたいに組み上げるグラナにも迫る。