魔法科高校の落第生   作:超高校級の切望

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女王蜂

「ガアアア!」

「グゥアアア!!」

 

 一時代前のゾンビ映画を思い出す。

 

 理性を失い襲いかかる人の域を超えた運動能力の集団。しかも………

 

「お、おいお前等やめろ! うわあああ!?」

 

 止めようとした男子生徒が蜂の針の様なトランスに刺され感染し、集団に加わる。

 

 自己増殖プログラム。

 

 例えば機械のプログラムのように、接近、照準、駆動等の複雑性はなく、魔法式よりも単純に『攻撃せよ』というプログラムを入れておくだけで十分ではあるが、自己増殖に待機、音声起動に疑似ライズ使い化など、プログラムされている内容が多すぎる。

 

「ほのか…………」

「舌噛むぞ」

 

 数の暴力に、結局救えたのは近くにいた雫のみ。

 脳に負荷をかけた状態では魔法は使えないが、剣道部だの軍人だのは『攻撃せよ』というプログラムのみで十分な動きを行える。加えて……

 

「チッ」

 

 ブーンと雫に迫る蜂を叩き落とす。

 

 加えてこの寄生蜂。

 

 変則とは言えCURE…………物理干渉するバーストを混ぜられたトランスの為、バーストエネルギーを使わずに破壊は出来るが昆虫サイズで大量に………。

 

「………………」

 

 もう面倒くせえから全部纏めて消しちまおうか?

 

「がぁ、う……!」

「ほのか!」

 

 と、ほのかが鼻血を出してふらつく。能力の過剰使用の兆候。長引かせると、脳が潰れかねない。

 

 ライズで脳を再生させながら長持ちはさせようとしているようだが、自分を燃やしながら火力発電した電気で冷却設備を起動させるようなものだ、長くは持たないだろう。

 

「どうしようマダラさん。このままじゃ、ほのかが!」

「はぁい! こんにちは!」

 

 雫の言葉に冷静さを取り戻すと、その僅かな隙を蜂男が接近し顔を蹴られる。CUREを使うあたり素質はあるのだろうが疑似ライズ使いとは比べてもその力は規格が違う。

 

「この………」

「ありゃ」

 

 だが、マダラより下だ。足を掴み地面に向かい投げつける。働き蜂達が文字通りその身を犠牲にクッションとなる。

 

「……………っ!」

 

 壁に激突したバイクの男よりも悲惨なテロリストの姿に雫は顔を青くする。無表情な彼女だが、情動がないわけではないのだ。

 

「どう、して………こんな、酷いこと」

「はは、酷い? ちょっと日常の裏のぞけばありふれた光景だろう? お前のお友達も、そういう作られた方したんだろうが!」

 

 雫の非難を蜂男は笑い飛ばす。

 

 光井ほのか…………名前からして、やはり『エレメンツ』の末裔か。魔法の区分けが今よりオカルトだった頃の、光属性調整体………遺伝的に依存にも似た忠誠心を植え付けられた者達。

 

 風祭もその血筋が影響して萬屋へ依存心が好意へとネジ曲がったのだったか。

 

 そんな非人道的な人体実験は…………まあ、今でも行われている。軍事力としてミサイルよりも高価でその分高性能な調整体も普通に居る。

 

「ふざけんなよ。お前等ばっかり好き勝手……俺にも楽しませろ」

「この世界は、誰のものでもない!」

「取り繕うなよ! 自分が特別だと自覚してるから魔法師なんて目指すんだろ? そうとも、お前等は屑肉共とは違う。だが、俺はもっと偉いのさ! てめぇ等紛い物のゴミ石も宝石にしてやれる。だから、黙って従え」

「シーグラス以下だな」

「ああ?」

 

 はっ、と見下すマダラの笑いに、蜂男は不快げに顔を歪める。

 

「本物の原石だろうと職人がてめぇじゃ、波に揉まれたガラス片の方が価値がある」

「……………そうかよ。じゃあ、そのガラス以下に揉まれて擦り潰れろ!」

 

 蜂男が腕を振るうと再び襲いかかってくる働き蜂。寄生体が脳内に居て、エネルギーを寄生先から供給する自動PSIプログラム。本人を殺さぬ限り止めようはない。

 

「チッ!」

「捨てちまえよ、そんなお荷物!」

 

 お荷物、とは雫のことだろう。

 確かに雫を抱えている以上、マダラが本気で動けば雫の内臓はシェイクされドロドロに溶けるだろう。かといって、放置してもあの軍勢の仲間入り。

 

 不安げに服の裾をつかみながら、雫は意を決したようにマダラを見上げる。

 

「マダラさん、私を置いて………」

「問題ない」

 

 と、マダラは言う。

 

「俺だけじゃないからな、相手は」

 

 その瞬間、目の前に迫っていた働き蜂達が吹き飛ばされる。

 

「マダラさん! ご無事ですか!?」

「深雪」

「雫? あれは………」

 

 深雪の中で雫とセットのほのかを探し、働き蜂の中に見つける。

 美しい顔が悲痛と怒りに歪む。

 

「七草会長の方は……」

「サイキッカーへの対応は知ってる」

 

 サイキッカーは()()()()()()()()()()()()()。情報を操る魔法師では認識出来ないPSIエネルギーを身に宿すライズ使い本人やバーストに干渉できないのだ。

 

 だが外部情報を書き換えれば話は別。深雪は周囲の大気を減速させ、働き蜂達を見えない拘束具で動きを縛る。

 

「ぎ、ぎぎぃ………!」

「があああ!!」

 

 それを力のみで破ろうと藻掻く働き蜂。恐るべきはPSI。だが、もう十分。

 

「受信機はそこだろ」

 

 雫を下ろし、両手にトランスエネルギーを溜め、柏手。

 パァン! と澄んだ音が響き渡り働き蜂達の動きが鈍る。

 

「此奴………!」

 

 感染したばかりの相手も、声がとどかず他の生徒と戦闘していた感染者も移動しながら戦うマダラへと標的を変えていた。

 

 攻撃以降のプログラム切り替えを行う何かが行われていたのだ。

 

 PSIはイメージの具象化。これ見よがしな虫の触角はトランスを感知する器官。本物の蜂がフェロモンでやりとりするように命令を受けた個体の放つトランスの波長を受信し行動目的を切り替えてたのだろう。

 

 だから無作為で巨大なトランスの波を放てばその命令系統も乱れる。

 

「ちぃ、使えねえ屑どもが! さっさと正気に──!!」

 

 瞬間、マダラの拳が蜂男の頬を殴り付ける。

 

「どうした、俺に会いたかったんだろ? そんなに離れるなよ」

「……………ガキが」

 

 目をかっぴらきマダラを睨みつける蜂男。瞬間溢れ出すPSI波動。

 

 ライズ全開!!

 

「なめんじゃねえええ!!」

 

 ドン! と砲弾が着弾したかの如き踏み込みで加速。装甲車すら破壊するであろう拳が叩きつけられる。

 

 凄まじい衝撃音が響く中、マダラは仰け反った勢いを利用して蹴りを放った。そのまま回転して後ろ蹴り、からのフック。

 

「ごぁ、この!!」

 

 蜂男も負けじと拳を振るう。新たに生み出された宝石蜂(ジュエル・ワスプ)の群が達也達に向かう。だが………

 

()()なら対処可能だ」

 

 術式解体(グラム・デモリッション)。達也により、並の魔法師では1日かけても絞り出せない膨大なサイオンが放たれる。

 

 バーストとライズを混ぜた本質は大気の影響を受けるトランス。既に脳内に入り込んだ後ならば兎も角、精密なプログラムだからこそ些細な大気の非物質粒子の影響で崩れ無効化される。

 

 解除こそ出来ないが、トランスは魔法師が唯一直接対抗できるPSI。尤も、術式解体(グラム・デモリッション)自体が扱える者が限られているが。

 

「この、魔法師の分際でええ!!」

「あまりなめるなよ、魔法師を」

 

 激昂し、目の前の相手すら忘れる蜂男。一科生以上に差別主義の特権主義だったらしい。魔法師、それも学生に己の力を無効化され我を忘れている。

 

 当然その隙を逃すはずもなくマダラが殴り付ける。

 

「がぁ! くそ、俺がこんなところでぇ!」

「こんなもんだ。ライズの出力も戦闘技術も、親父は勿論、俺にも劣る」

 

 寧ろこの程度の相手にいいのを何発か食らったと知られたら、マダラの父はにこやかな笑顔で「鍛え直します」とボッコボコにしてくるだろう。想像したら寒気が。

 

「ぎぃ………!!」

「テレパシー?」

 

 蜂男が放つトランスの波動。学内全域に広がる信号を感知した働き蜂達がビクリと痙攣しその場に倒れ、口や耳から蜂が現れ蜂男へ集結する。

 

「高純度のバースト波動…………」

 

 疑似サイキッカーに変化させた寄生先に生成させたPSIエネルギーを徴収し、生み出される巨大な蜂。

 輪郭にノイズが走る程のエネルギー量。

 

「消し飛びやがれ!」

 

 事実、その言葉を現実にするだけの莫大なエネルギーを前に、達也は見た。マダラが楽しそうに笑うのを。

 

(彼奴、久々の脅威に興奮している…………!)

 

「起きろ」

「っ!!」

 

 突如達也の『目』に飛び込む、膨大なエネルギー情報。

 認識出来ないのに、そこに在るのだけは分かる超高密度のエネルギーは個別情報体(エイドス)想子(サイオン)霊子(プシオン)すらそのエネルギー圧力で押し潰し消し去る破壊の化身。

 

致命の一撃(アナフィラキシーショック)!!」

「自壊プログラム入力。暴王の月(メルゼズ・ドア)限定展開」

 

 蜂の尻が破裂し放たれるバーストの波動。眩い光、膨大なエネルギー情報は魔法師から汎ゆる知覚を奪う。

 

 PSIエネルギーの波濤。だが、それだけ。

 

 マダラの放つ漆黒の球体がバーストエネルギーに触れた瞬間巨大に膨れ上がりながらエネルギーの流れを遡る。

 

「────!!」

 

 蜂男の右腕が肩と脇腹もろとも消滅する。暴王(メルゼズ)に喰われれば汎ゆる者が消滅する。情報体(エイドス)を遡り『再生』させる事すら不可能。傷口に残ったバーストの残滓は汎ゆる魔法を受け付けない。

 

 ライズ、またはCUREなどのPSIによる回復か自然回復以外で傷は癒せず、あの男にはその余力すら残っていないだろう。

 

「い、づぅ! ああ、糞………久々とはいえ、あの数秒だぞ」

 

 頭を押さえ蹲るマダラ。バーストエネルギーを周囲に逃がしても頭が割れそうだ。

 

「マダラさん!」

「ほのか!」

 

 達也の背後に避難させられていた深雪と雫が慌てて飛び出す。

 

「深雪、頭冷やして。溶けそう」

暴王(メルゼズ)を呼び出すからです。他に方法はあったでしょうに」

「使いたくなった」

「………………」

 

 通常PSI能力は思念の具現化………本人が認識する世界を構築する力であるとマダラの父は言っていた。

 

 人間の脳は一つの宇宙。PSIはそこに存在する法則を現実に滲み出されるきっかけに過ぎないと。

 

 だからこそ、暴王(メルゼズ)は異質。

 『類似』ではなく『全く同じ力』が過去にも存在した。

 人間の意識に形作られた宇宙の力ではなく、独立して存在し人間に宿るPSI。

 

 憎悪と怒りを与え、破壊を促す力。その辺りの情動を削り取られて尚、マダラに破壊衝動を与える漆黒の球体。深雪は、あれが何よりも恐ろしい。

 

「ふぅ〜…………」

 

 文字通り頭も冷えてきた。

 

「取り敢えず寄生されてた奴等を一箇所に集めるように真由美に連絡するぞ。親父呼ぶか………まあ俺でも何人か治せるか」

 

 父親ほどではないがマダラもCUREを使える。父から受け継いだ『あれ』の副次効果だ。元々彼はバーストエネルギー量は規格外で、ライズも得意。

 あくまで本来眠っている力を引き出させられただけの負荷を癒やすだけならそこまで力を消費しない。

 

「ほのかを、治せるの?」

「ああ」

 

 血の気の引いて息の荒いほのかの頭に触れる。手が僅かに光り、ほのかの呼吸が落ち着いてきた。

 

「ん、やっぱり俺でも出来そうだな」

 

 その言葉に雫がマダラに抱きつく。深雪がなっ、と肩を震わせた。

 

「ありがとう………本当に」

 

 しかし震えながら声を絞り出す雫に、今回ばかりは仕方ないかと我慢する。見ていられなくて意識を外した。

 

 ほのかの様子を改めて見るため、マダラも視線を向けず軽く背中をたたいてやるだけ。

 

「本当に………()()()()()()()()()()()()()

 

 そう言って雫はマダラの唇を奪った。

 

「!? 雫、何を!?」

 

 ツッと2人の唇から掛かる糸は、しかし唾液が絡まったものではない。

 

 ()()()()()()。『パラサイト・スパイダー』。

 

「ふぅ……うまくいった」

 

 と、口から伸びる糸を指に絡め取る雫。異様な様子に深雪が魔法で飛ばそうとするが、移動魔法がキャンセルされる。

 

「無理だよ、深雪。私達のPSIエネルギーを、貴方達は認識できないでしょ?」

「私達………?」

 

 紡がれる言葉は不安に成る程何時もの雫。それが逆に違和感を与える。

 

「サイキッカーだったのですか」

「違うよ。私……この子は、確かに魔法師だった。ちょっと体を借りてるだけだから、あまり乱暴しないでね。華奢な体だから、ちょっと力を込めたら折れちゃいそう」

 

 と、首元に手を添える雫。操られている? だけど、何時。

 

致命の一撃(アナフィラキシーショック)………なんて、名付けてたけどあれは宿り先を変える目眩まし。流石にバーストエネルギーを纏っているマダラさんには近づけなかったから」

「…………あの男も、お前に操られていたのか」

 

 と、達也は蜂男を睨む。正解、とでもいうように雫は笑う。何時ものように、表情筋のあまり動かぬ微笑だが。

 

女王蜂(クイーン・ビー)。人格を付与したPSIプログラム………それが、今の私」

 

 人格を持つPSIプログラム。言葉にするとそれだけだが、それは行動目的をインプットされたPSIプログラムとはまるで別格。

 

 そもそも劣化復元の宝石蜂(ジュエル・ワスプ)どころか、系統こそ同じでも別物のPSIを使っている時点で異常。PSIを使えるようプログラムされているPSIプログラム。

 

 サイキッカーを新しく作っているようなものだ。

 

 それがあの蜂男に憑いていた。しかし、性格がまるで違う。

 

「まあ、人格形成って難しくて。寄生してないと少し考える知能がある程度だけど」

「寄生していないと………つまり」

「うん。あの人、下品だったでしょ? 目的意識だけ植え付けて、後はなるように任せてた。本人は自分の意志だと思っていたと思うよ?」

 

 性格は寄生先に影響される。ただ本人に自覚があったのかはしらないが、少なくともあの男は女王蜂(クイーン・ビー)の目的のまま行動していた。

 

「やっぱり同性が一番。精神構造が近いから、こうして知識を与えやすいよ」

 

 サイキッカーは女らしい。

 

「貴方の目的はなんですか」

「強力なサイキッカー集め。女王蜂(クイーン・ビー)は、サイキッカーの体を私の下に連れてきてまた新しいサイキッカーをその体で探すの」

「つまりその男は」

「正真正銘、サイキッカー。頭が痛いって、努力もしないまま自分は強い、特別だって何時も他人のせいにして暴れるような人だったけど」

 

 なので女王蜂(クイーン・ビー)がトランスで痛みを感じなくして鍛えさせたが。結果的にそれなりのサイキッカーにはなれただろう。

 

「負けちゃったけど。やっぱり、マダラさんは凄いや」

「大人しくマダラさんの身体を渡すと思っているんですか?」

「大丈夫だよ、深雪。私はマダラさんを乗っ取る気なんてないから」

「その姿と、その喋り方………今直ぐやめなさい!」

 

 深雪の激昂に、雫はまるで友達に嫌われたとでもいうように悲しそうな表情を一瞬だけ浮かべる。

 

「同性だし、少しは………んん、あ、あ〜………これでいいかな?」

 

 口調が変わる。浮かべる笑みは何処か扇情的でありながら、薄ら寒さを感じさせた。

 

「人格の再定義は女王蜂(クイーン・ビー)にも負荷が大きいんだけどね……まあ、どのみち破棄するからいいか。数分だし、この子の人格にも影響はでないよ」

「気遣っているつもりですか?」

「つもりだよ。ごめんね、さっきまでの彼は、どうにも選民思想が強かった」

「だが、宝石蜂(ジュエル・ワスプ)自体はお前のPSI能力だろ」

「ああ、石ころを宝石に、とかいう理由でつけてた名前だっけ? 正式名称は普通に寄生蜂(パラサイト)だよ」

 

 人間に寄生し強制的にサイキッカーに目覚めさせ、負荷をかけるのは他でもない彼女のPSIプログラムだろう。

 

「目的の為だからね。一応、ここまで寄生先が増えたのも使い潰そうとしたのも彼が初めてだよ。そこは私の人選ミスだったね。すまない」

 

 そこは反省するよ、と頭を下げる雫。

 

「謝るなら本人にしてほしいものだな」

「それは無理だ。私も『特尉』に殺されたくはないからね」

 

 その言葉に深雪と達也の警戒度がます。

 

女王蜂(クイーン・ビー)の量産は難しいけど、無意識な誘致の蜂は結構簡単でね。色々な場所に潜ませているんだよ……定期的に私に情報を流すだけで、害はない。それに、それ以上は知れなかった。なかなか大した後ろ盾を持っているみたいじゃないか」

「知られること自体が害だが」

「それもそうか…………さて、長話に付き合ったけど、君達は案外有線ジャックを甘く見てるね。一度接続すれば、そう簡単に弾けるものでもないよ」

 

 時間をかけてもマダラが自力でトランスを解除する様子はない。達也は、最悪を執り行う準備をする。

 

 トランス体である女王蜂(クイーン・ビー)を守る肉体を消し去り、術式解体(グラム・デモリッション)で本体を破壊する準備だ。

 

「…………あれ?」

 

 しかしその前に、糸が切れる。

 

 

 

 

 マダラの深層心理へと潜り込むパラサイト・スパイダー。PSI能力が本人の思想に基づく以上、下手な人格、記憶の書き換えは手に入れたかった能力を失わせる可能性がある。

 

 ならば深層心理。価値観、目的意識、行動理念に己の都合の良い物を植え付ける。

 

 故に深く深く、精神の奥底に潜り込み…………()()()()()

 

 

 

「!?」

 

 糸を通して流れ込んでくる破壊欲求。バーストではない。トランスという形すらとって居ない…………純粋な破壊衝動という感情の濁流がトランスを破壊した。

 

「……君、人間か?」

 

 困惑する雫の首をマダラが掴む。

 

「あぐ、か………!?」

「…………………あ?」

 

 そのか細い悲鳴にマダラが目を覚ました。

 

「雫?」

「マダラ、油断するな! 乗っ取られている!」

「ああ………」

 

 状況を把握したマダラはバーストを纏い雫を見る。人格を乗っ取る無線トランス…………変則的なCUREだと思っていたが、思っていたよりトランスとしてのプログラムが強いらしい。

 

「…………はは」

「? 何がおかしい」

「おかしいよ。破壊の王…………そんなものを身の内に抱えたまま、人の社会に生きるなんて」

「…………………」

「ああ、精神が組み替えられた形跡があったね。余ったバーストエネルギーが、君の多様な力の正体か。リソースが多くて羨ましいよ………」

「君が魔法師と関わっているのもそれが理由かな? 色々あるものね、リソースをそちらに使わせたいのか」

「よく喋るやつだ」

「興奮すると饒舌になるたちでね。君のこと、もっと知りたいなあ。でも仕方ない、今回は帰るとするよ」

 

 ガクリと雫が意識を失う。飛び出た蜂をバーストで包んだ手で握り潰し…………

 

「…………囮か」

 

 込められているPSIエネルギー量の少なさにマダラは忌々しげに呟いた。

 

 

 

 

「………………さて」

 

 第一高校にそこそこ近いカフェで、人目を引く美しい女はタブレットをしまい立ち上がる。

 

 サラリと流れる白銀の髪。いい匂いがした気がする。

 

「お会計を」

「はい、ただいま」

 

 ついでにカウンターに置かれていたお菓子を買い店を出る女。袋を開け、中の飴玉を口の中に転がす。じんわり広がる蜜の味。無意識に顔が綻ぶ。

 

「篠村マダラ君か…………星々を飲み込む深淵の夜闇。君は星すら飲み込めるかな?」

 

 とは言え、また新しい女王蜂(クイーン・ビー)の宿主を探さなくては。適当に見繕ってまた変なのを宿主にしてしまったら彼に嫌われそうだし………。

 

「最高傑作だと思ったんだけどなあ。もう少し改良を加えてみるか」

 

 店を出た女に話しかけようとした男達が曲がり角に曲がった女を追いかける。しかし、女の姿はそこにはなかった。

 

 かわりに建物の屋上にその姿があり、視線が向けられるのは第一高校の方角。

 

「またね、マダラ君。早めの再会を期待しているよ」

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