翌日、雫は目を覚ます。
熱は嘘のように引いていた。それはもう、あっさりと。念の為その日は休むように言われた。というかテロがあったのだからどのみち休みだった。
昼頃、学友が見舞いに来たと報告があった。ほのかだけならこんな言い方しないから、他の生徒もいるのだろう。
通すように言うと、まず飛び込んできたのはほのか。本当に何の後遺症もないようだ。
「お〜、二人とも本当に仲良しだね」
次にエイミィ。少女探偵団のメンバーが揃った。
「ほのか、病み上がりなのだからゆっくりさせてあげないと」
「………………」
そして深雪。ならば当然達也も居るが、男子だからか部屋の主の言葉があるまで扉の前で待機している。
最後に…………
「よお雫、昨日熱出したんだって?」
「────!!」
マダラの姿を確認した瞬間、雫の顔が赤く染まる。
「マ、マダラ………さん」
操られていた時の記憶がある。重ね合わせた唇のぬくもりも、絡み合わせた舌の味も、雫を操っていた何かから流れ込んできた
「あ、ぅ………」
「雫? どうしたの?」
「……………!」
首を傾げる深雪。はっと何かに気付くほのか。おお、と面白そうに見守るエイミィ。我関せずな達也。
「熱はもう下がったのか?」
「あ、ひゃう………ひ………ぃ」
顔を真っ赤にした雫は涙で混乱している。マダラが近づく事に混乱が増し、とうとう爆発した。
「こ、こないで!」
「!!」
爆発した感情はそのまま物理的干渉力を持つエネルギーとなりマダラを吹き飛ばす。
誰もが目を見開く中、壁に着地したマダラはそのまま床に降りる。
「…………やっぱりか」
「…………え?」
困惑する雫。マダラはしかし、熱を出して倒れたという言葉を聞いた時から可能性は考えていた。
「し、雫?」
「な、なに………今の」
ほのかも雫自身も呆然と固まり、深雪はまさか、とマダラに目を向ける。
「マダラさん、今のは」
「ああ、PSIだな」
「やはりか」
「………サイ? マダラさん、今の知ってるの?」
エイミィが呟かれた言葉に反応する。一見すれば、干渉力の高い魔法師が起こす事故にも見えなくなかったが…………サイオンの動きがなかった。
「まあ所謂超能力ってやつだな」
「超能力……BS魔法? でも………」
BS魔法であろうとサイオンが
「…………取り敢えず雫の両親呼ぶか。将来に関わることだし」
そう言うとマダラはほのかとエイミィに目を向ける。
「どうする? 一度聞いたら引き返せねえけど」
「っ! わ、私は聞きます! 雫は、友達ですから」
「う〜ん………引き返せないと、狙われる可能性もある?」
「知ってるだけで狙われるとは思えないが………知ってることを知られると面倒かもな」
「マダラ、PSI自体は旭さんが敢えて情報を流しているんじゃなかったか?」
「そうだっけ?」
「お前から聞いたんだがな……」
「ああ、言ってた。まあ理屈の上では誰でも使えるはずだしな」
やりとりからして、達也は詳しく知っているらしい。それに、誰でも使える力? 所謂超能力と呼ばれる力は、魔法師の………現代ともなればその中の一部が使える力のはず。
普遍的な能力に超などつけまい。
「確認だが、昨日熱の他に鼻血や目の充血なんかはあったか?」
マダラの言葉に雫は父親の潮の顔を見る。コクリと頷かれたので、隠さずすべてを話すことにした。
帰った後暫くは何もなかったが、唐突に鼻血、目の充血、それから極度の高熱を出した。高い時には40度もあったらしい。
「だ、大丈夫なの雫!」
「1日で治るものなの、それ………」
心配そうなほのかと、結局ついてくることにしたエイミィ。マダラはコーヒーに入れるミルクをもらった。
「それ自体に強い害はない。覚醒前兆だから……まあ体が弱いとそのまま死ぬ可能性もあるけど」
「覚醒?」
「超能力の覚醒。人間が普段抑え込んでいる脳の力をフルスペックで使えるように、脳細胞が目覚めた……まぁ知恵熱みたいなものだな」
「脳細胞が眠ってるって…………かなり昔の迷信なんじゃ」
血流状態、脳波などで、脳細胞は常に動いていると証明されている。受ける刺激や行動で活発化する部位はあれど9割も動いていないというのは既に否定された迷信だ。
「起動させているのと機能させているのは別だからな」
パソコンを起動させたところで電卓代わりにしか使わなければ、それは100%使用されているとは言えないだろう。
「そして100%を使って行える力がPSI。脳細胞100%、フルスペックで使い思念を現実に反映させる力」
「それって、魔法と違うの?」
「魔法は情報を書き換える力だろ? 俺達の使うPSIは現実に書き足す力とでも言うか…………俺が主に使うのはバースト。思念のエネルギーを現実に反映させる……所謂テレキネシスやパイロキネシスなんて呼ばれる奴だな。普通のBS魔法師のパイロキネシスは振動魔法に分類されて熱を生み出して発火させるのに対して」
ボウッと何もない空間に火が付く。何か燃料を入れた様子もなく、火は空中で燃え続ける。
「PSIは炎を直接生み出せる。電気とか冷気もな……んで、情報の改竄ではなく追加なので世界の修復力を受け付けない」
あ、とほのかと雫が声を漏らす。マダラかバイアスロン部に拉致されかけたほのか達を追いかけた氷のスケート。継続的にかけて世界に「その状態が正しい」と認識させたわけでもないのに春の陽気で少しずつ溶けていたのは、あれが魔法ではなかったからだ。
「でも、どうして私に?」
「さっきも言ったように、PSIは人間が持つ能力だからな。昨日の件がきっかけで目覚めたんだろ」
「昨日…………」
その言葉に昨日のことを思い出して真っ赤になる雫。
「生徒やテロリストを操った蜂。あれはかなり変則的だがトランスに分類していいだろ。思念を物理的じゃなく、心界に干渉する…………精神系統魔法に近い力だな」
そう言うとマダラは何処からともなくクナイを生み出す。元要人警護の仕事をしていた北山紅音が思わず反応する。
「基本的には無線テレパスと有線テレパスに分けられる。無線は所謂テレパシーや、思念の残留を読むサイコメトリーなんかだな。俺はサイコメトリーとかの他人の思念を読むのが苦手」
だから働き蜂達のトランスの波動に対応が遅れたわけだ。
「基本的には有線で使った方が色々出来るんだが、事前にプログラムを組んでおくことが出来る。俺の場合魔法演算領域に情報を送れなくしたり、認識機能を麻痺させたりとか単純なものを入れられる………」
森崎にやったのはそれだろう。機能の停止だけならそこまで複雑なプログラムである必要はないそうだ。
「だが昨日のあれは超複雑なプログラムが入力されてた。働き蜂ですら、俺のテレキネシスプログラムは足元にも及ばねえな。で、発言からして本来はサイキッカーに取り付く女王蜂が雫に一時的とはいえ寄生した」
そして雫の脳を使い新しくPSIプログラムを形成した。それが雫の脳に影響を与えたのかもしれない。
働き蜂にされたほのか達の寄生していたトランスの蜂達とは完成度が違い、かつ人格を一時的に複写したのも関係しているのだろうか?
「その辺りは俺もよく解らねえなあ。今度親父が診察するとは言ってたけど、人間の脳は未だブラックボックスが多いから…………単純に資質もあるんだろうが」
確かにPSIは人間誰もが使える筈の秘めたる力。だがマダラがバーストが得意で旭がオールラウンダーのように、PSIにも素質、才能がある。雫はそれが人より高かったのだろう。
「あの力が、私にも?」
「同じになるかは知らねえが………PSIは思念の力。
まあ例外はあるのだが。
基本的に思念を形にできるようになった後、本人の性質で方向性を決めプログラムを付け足し極めて行く。
バーストなどは本人の力のイメージに反映されて方向性を決めるまでもなくパイロキネシスやエレクトロマスターになる事があり、
実際3種のPSIの果ともいえる『あれ』を扱うマダラも旭も、CUREまでは使用出来るが
「私も、マダラさんみたいに戦える?」
「それは訓練次第だが、お勧めしないぞ?」
「どうして?」
「魔法との両立が難しいから」
魔法とは
対してPSIはイメージをそのまま現実に反映させる力。起動式を必要とせず、
「親父が言ってた。魔法師とサイキッカーを両立するのは、片手で絵を描きながら片手で数式を解くようなものだって………」
「でも、マダラは魔法を」
「まあ、二科生だけどな。それにPSI発動すると暫く魔法が使えなくなる…………」
厳密には使うための起動式の読み込みから魔法式の変換までの時間が途轍もなく延びる。
例えるなら長時間水の中に居て陸に上がった後体が重くなるあの感覚を強くしたような、強烈な違和感が頭の中に出来る。
「親父はPSI使った後でも普通に魔法使えるけど、魔法師としては
「出来なくはないんだね」
「………………」
「またあの人が現れたら、私にも戦える?」
「じゃあ、魔法師は諦めるのか?」
その言葉に雫は首を横に振る。
「魔法師も、諦めない…………」
「…………親父に聞いてみる」
「良いですよ」
『は、いいの?』
「PSIに目覚めたばかりの多感の少女。それも息子の学友ですから、家庭教師をやるぐらいは……それに、僕や君と違いその子は魔法師として過ごした経験がある」
旭は妻が魔法師で、一時期軍の関係者となっていた頃学んだ。マダラは
つまりはPSIという力を先に持ってから魔法を学んだ。しかし雫は魔法師として生きて来たこれまでがある。
「とは言え、九校戦に向けた試験もありますからね。魔法の確信に触れない程度の基礎授業にしましょう。暴走しない程度には操る必要がありますし」
『ああ、そうだな』
「時間を使わせて成績を落としてしまうのはよくありませんし、筆記は貴方が見てあげてください」
『………なんで俺が?』
「北山さんが無線テレパスに寄生されたのは、貴方が油断したのもあるでしょう」
目眩ましがあったとは言え、相手がそもそも無線トランス使いなのを見ておいて正面から叩き潰そうとした。敵の大技を許した。
「まあ悪いのはあのサイキッカーなので、強制はしませんが」
『やるよ…………俺だって、油断した結果だってのは解ってる』
「それなら、力になって上げなさい」
そうすれば心も晴れるだろうと、旭は息子を理解する。
『ところで、なんか電波悪くないか?』
このご時世、電波が悪い場所なんて寧ろ限られていような気がするのだが、という疑問が伝わってくる。
「今洞窟に入るところでして、森の中なんです」
『なんで洞窟』
「後日連絡すると伝えておいてください」
と、旭は電話を切る。そして深い洞窟の奥へと歩いていった。
雫に旭の言葉を伝え、その日は解散。
マダラはキャビネットにのり帰った。
雫に勉強見ることになったと伝えたら嬉しそうにしたかと思えば真っ赤になり俯き、エイミィも勉強見て欲しいと手を挙げ、深雪から冷気を感じた。
何だったんだ?
「ただいま〜…………ん?」
姉のものではない靴が、2つ?
客だろう。挨拶しとかないと夜月に殴り飛ばされるな。
「あら、おかえりなさい」
「おかえりなさい、マダラ君」
何処にでもあるマンションの一室。だけど、その女性が微笑むだけで絵画の世界に迷い込んだと錯覚させるような、そんな美しい女だった。
もう一人は美女であることに違いはないが、美しいというより可愛らしいという感想が出る。
「