アオのハコ ~鶴は鹿の元に舞い戻る~ 作:お面ライダーよっしー
部活パートって、頭にある映像を文章に起こすのがクソ難しい・・・
キュッキュッ、と体育館にバッシュの音が響く。
今までお客さん扱いだったバスケ部に、今日から本格的に参加する。
去年参加した時は県上位には食い込めるって感想だったが、当時はウインターカップの為に残っていた3年が居たからだったのか、今では「地区予選を勝ち抜くのも怪しい」に下方修正せざるを得なかった。
いや、ここってスポーツ名門校じゃなかったの!?
各部活で強さに多少の偏りはあるにしても、バスケに関しては頭抱えて悩むくらいに、男女でレベルとやる気に差があり過ぎる。
特に一部の上級生は、ナツ姉目当てで「ちょっとでも見ていたい、あわよくば話したい」って下心が見え見えなんだよな。
まぁそんな奴らは女バスの人たちから忌み嫌われていて、ナツ姉に近付こうもんならナギちゃん先輩や菊池と言う部長さんに追い返されている。
ー何でアイツらあんなに馬鹿なんだろー
と、ボールを人差し指で回しながら1人言ちる。
バスケに対して直向きに取り組んでるナツ姉が、やる事やらないでミーハー気分で近付いてくる奴なんかまともに相手する訳がない、って事にすら気付かないその能天気さに辟易する。
ーちょっとでも相手して貰いたいんなら、せめて真面目に部活やれよー
段々と腹が立ってくる。
ー全国制覇にはコイツら要らねーよな。今のウチに辞めるように仕向けるか?ー
と、黒い感情が出て来たが、「でも部員減り過ぎて万が一何かあったら困るしなぁ」と思い直し、深呼吸して気持ちを落ち着かせる。
そして中二階に部活見学に来ている新入生を見渡し、「この中にデキる奴が居てくれたらなぁ」と思っていると、女バスの方からボールが転がってきて足に当たる。
転がってきた方を見ると、ナツ姉が両手を合わせて「ゴメン」のポーズで小走りで近寄ってきた。
ボールを拾い上げてナツ姉に渡す。
ただそれだけの当たり前の行為に、「キャーッ」と見学している女子生徒たちから声が上がる。
あービックリした、キミらは少し落ち着きなさい。
「ん?」
上を見た流れでふと見学している男子生徒たちを見ると、その視線がこちらとは別の方に多数向いていると分かりそちらを見る。
ー成る程、新体操部ね。
そこには「自称かなりの実力者」である、ピヨちゃんが舞っていた。
これはナツ姉と人気二分してんじゃないのかねぇ、と思っていると
「・・・むぅ。
雪くん?幾ら上にTシャツ着てるとは言え、女の子のレオタード姿をまじまじと見つめるのはどうかと思うよ?」
「何っちゅう人聞きの悪い事を!?見学者、特に野郎共にとってはピヨちゃんとナツ姉が2強だなーと思って見てただけだ!」
いや、本当に母さんとナツ姉って俺に対して辛辣過ぎねぇ?
「しかし見学って毎年こうなん?スゲー人居んだけど」
「そうだね、私も去年は見学せずに部活参加したけど、多かったと思うよ?」
と、人差し指を顎に添え小首を傾げて言うナツ姉。
周りを見ると、部活組も見学組もこの仕草にやられてる被害者が多数居た。
勿論大喜もその1人だ、胸押さえて踞ってやがるw
後でからかってやろう。
ーしかしこの人これを無自覚でやってんだから、ホント性質が悪いよなぁ。
被害者増えるだけだから自分がどんだけ可愛いか理解してくれよ、頼むからー
「それより雪くん、監督からまだ来られないって連絡来たから1ON1やろ?」
「良いけど、女バスの人らに聞かなくて良いの?」
「それは了承済みだから大丈夫!みんな雪くんがどれだけ出来るのか見たいって言ってたから」
見ると部長さんが頷いてる横で、ナギちゃん先輩が腕で大きく○を作っていた。
「ならやるか。先攻は?」
「前は私だったから雪くんからで」
「はいよ」
位置についてナツ姉に向き合い集中力を高める。
「気ぃ抜くなよ、千夏」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ー気ぃ抜くなよ、千夏ー
いつもの「ナツ姉」じゃなく「千夏」と呼ばれ、ドキッとしたのも束の間、雪くんの雰囲気が一変した。
一瞬たりとも目を離すつもりは無い
そう思った瞬間、私は反応すら出来ずに抜かれてしまい、振り返るとお手本の様な綺麗なフォームでレイアップを決める雪くんの姿があった。
私だけじゃなく、周りも何が起きたのかと呆気に取られてしまい、あれだけ騒がしかった体育館が静まり返る。
「え?」
「は?」
「今、何やった?」
と困惑が広がっていた。
攻守交代でボールを渡される。
油断したつもりはなかったけど、止められなかったのは確かだ。
気持ちを切り替えて今度は私が決める!
そう意気込んでドリブルする。
クロスオーバーからのロールターンでかわそうとするが振り切れない。
チェンジオブペースで緩急を付けてからのレッグスルー。
どれも完璧に対応されてしまい全く抜く事が出来ず、「甘ぇよ」と言われ、遂にボールを弾かれてしまう。
「ハァハァ、雪くん、こんなに上手くなってたの?」
周りからも
「嘘でしょ、ナツが反応も出来ずに抜かれるなんて」
「ちーがあんな簡単に止められるの、初めて見た」
「あいつヤバすぎだろ、バケモンだ」
等の声が上がる。
ボールを取られた事で雪くんの攻撃になる。
スリーポイントライン手前でボールを突きながらこちらの様子を伺っているのを見て、今度は直ぐ抜かれない様にほんの少し後ろに下がった時だった。
「え?」
目の前でシュートを撃つ雪くん。
ボールは綺麗な放物線を描いてリングに吸い込まれる。
「ドリブル警戒し過ぎでスペースガラ空き、ちょっと上手い奴なら同じ事してくるぞ」
その後も圧倒され続け、苦し紛れに撃ったフェイダウェイシュートが1本何とか決まった。
ふと顔を上げると、監督が体育館の入り口から見ているのが分かった。
それなのに止めずに離れた所で見ていると言うのは、「この1ON1には意味がある」と考えているのだろう。
「雪くん監督も来てるみたいだし、これでラスト。本気で来て」
「・・・分かった、これが今の俺が出せる全力だ」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「お疲れさまでしたー!」
部活終わりの挨拶をして片付けを始める。
「いやー、雪くんがあんなに凄いとはねぇ。特に最後のスリーと見せ掛けての1人アリウープなんて漫画の主人公かい、ってくらいだったし」
と渚が言うと
「ホントホント。他の部員はアレだけど、今年の男バスは良い所まで行くんじゃない?」
部長も興奮を隠し切れない様子だ。
「・・・以前雪くんが“個人競技じゃ無いから1人だけ強くても駄目だ”って言ってたんです。だから雪くん1人が幾ら凄くてもチームとしては勝てないのかも」
その会話を聞いていた監督が
「そうだ、“個のレベルアップと共にチームとして機能する必要がある”と言うのは、団体競技全てに言える事だからな」と言う。
「つまりウチなら、苦しい時にエースである千夏だけに頼るのではなく各々が打開出来る様に強くならなきゃ駄目、って事ですね」
「うむ、今日見た限り彼個人の能力は高校生では飛び抜けている。それこそ日本一に近いと言っても差し支えないだろう。そんな彼自身が1人だけじゃ駄目と言う所に、団体競技の難しさがあるのだから」
監督の話を聞いて、「これからも雪くんに1ON1で鍛えて貰おう」と思った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「いやぁ、スゲーもん見たわー。
あの女バスの人も雑誌に取り上げられてるくらいの選手なのに圧倒してたし。
将棋や野球で現実に小説や漫画を超えた存在が居るけど、ありゃあそれに近いな」
「スポーツ名門校の謳い文句に惹かれて進学を決めたけど、とんでもない選手が居たもんだね。
彼が本気で全力を出せば個人なら敵無しだろうけど、チームが勝てるかと言われたら別問題だしね。
でも僕と君が入って彼を十全に活かす事が出来れば、全国出場処か全国制覇も実現可能な話になる」
「問題は上の連中と他の新入生にデキる奴がどれだけ居るか、だな」
「それは正式入部してから確かめるしか無いだろうね」
「ま、何にしてもあんなバケモンと一緒にやるって考えたら、楽しみで仕方ねーな」
「それには同感。僕もあり得ないくらいにワクワクしてる」
「じゃあ次は体育館のコートでな、"陣”」
「うん、またね“鷹尾”くん」
雪が千夏を1ON1で抜いた所は、誠凛戦でゾーン青峰が火神を抜いた所を想像していただければと。
そしてデキそうな雰囲気を醸し出す新入生2人は、黒バスの「高尾」とスラムダンクの「神」から来てます。