アオのハコ ~鶴は鹿の元に舞い戻る~ 作:お面ライダーよっしー
BBQ回で買い物に行った時に、2人で居る所をある人物に見られていた様です。
そして部活中にある事件が・・・
私は蝶野 雛。
栄明高校の1年生で、新体操部の期待の星。
と言うと外部生で同級生の鶴羽 雪に「自称乙ーw」と笑われるが、事実である。
そんな私が行き付けの整骨院でメンテナンスを終えて帰路に着こうとした時、見覚えのある2人が並んで歩いているのを見てしまった。
大喜と千夏先輩だ。
ー何であの2人が一緒に歩いてるんだろうー
そう思うと共に、何故か胸の奥がチクリと痛んだ。
買い物袋を持って笑いながら歩く2人の姿は、付き合っている彼氏と彼女にしか見えない。
そのまま大喜の家の方に向かって行った。
「え?
食材持って大喜の家に向かって行ったって事は、千夏先輩が手料理を振る舞うって事?
あの2人ってそう言う関係だったの?いつから?」
頭の中で疑問符が飛び回ってる。
でも私は、どうしてこんなに動揺してるんだろう?
着いて行って確かめたい気持ちと、事実を確かめたくない気持ちがせめぎあっている自分の心に気付いてしまう。
大喜は中学の頃からの腐れ縁で親友でしかない筈なのに、彼が千夏先輩と一緒に居る所を想像するだけで胸が苦しくなる。
ー 一緒にキッチンに立つんだろうか?
ー2人笑顔でご飯を食べるんだろうか?
ーその後はもしかして・・・
そんな事を考えていると、不意に涙が溢れてきて零れそうになる。
「え、あれ?何で私泣きそうになってるの?大喜はただの同級生で親友なだけ。それなのに何でこんなに苦しくなってるの?」
自問自答するが答えは出ない。
私はその場に居たくなくて、走って家へと向かう。
ただいま、と言って直ぐ部屋に籠る。
色んな事が頭を駆け巡ってぐるぐるして、考えが纏まらない。
「雛ー、ご飯とお風呂どっちを先にするのー?」
お母さんから声が掛かる。
今は目が赤くなってるかも知れないから、顔を見られたくない。
「お風呂先に入るー!」
涙の跡も嫌な気持ちも洗い流してしまおうと、そう返事をする。
でも湯舟に入ってリラックスしたのも束の間、またあの2人の楽しそうな姿が頭に浮かぶ。
「・・・大喜が千夏先輩を好きなのは知ってたのになぁ。」
親友が恋を成就させたと言うのなら、それを喜んで祝福するのも親友と言う存在の筈。
それなのに私は「何故?どうして?」と言う事しか頭に浮かんでこない。
また泣きそうになる。
もう上がってご飯食べて寝よう、考えるのは明日になってからで良いや。
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結局土日の間は寝付けず、クマが酷い事になってる。
このままだと部活にも悪影響が出てしまう、何とかしないと・・・
そんな状態のまま放課後になってしまい、重い足取りで部活に向かう。
練習中、取り損ねたリボンが床に落ちる。
「ねぇ雛、調子悪い?」
「どうしたのかしら蝶野さん?いつもはやらないミスよ?」
「あ~、昨日久し振りに海外ドラマを観て夜更かししちゃったんで、そのせいかな~。」
アハハ、と作り笑いで誤魔化す。
嘘だ、大喜と千夏先輩の事が気になって影響が出ているのは間違いない。
「ちょっと気持ち入れ換えてきます」と言って体育館から出る。
暫く校内を歩いていると教頭先生と鉢合わせる。
ーこの人悪い人じゃ無いんだけど、学校の評判第一で考えてて、こちらへの配慮が足りてなくて余り好きじゃないんだよな。
そう思ってると案の定、やれ「インタビューでの受け答えが良かった」だの「流石蝶野弘彦選手の娘さんだ」とか、悪気無くこちらに圧を掛けて来る。
「お父様は来校されないのかな?是非ご挨拶を」
「話しておきます」
それを機に「それでは私はこれで」、と教頭は去って行った。
この前から色んな事があり過ぎて頭の中がぐちゃぐちゃだ。
学校や顧問の期待、元日本代表と言う偉大な親の名前。
それらに応えられずに本番でミスしたらどうしよう、と思うとゾッとしてしまう。
・・・不意に千夏先輩と楽しそうに笑う大喜の顔を思い出してしまう。
ポロ、と涙が一筋流れる。
「え」
ー何泣いてるんだ私。
「いかんいかん大会前でナイーブになってるな、私は1人で戦わないと」
ー1人で平気だもん
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!またリボンを落としてしまう。
「またミス?」
「最近多いよね、大丈夫かな?」
「蝶野さん、体調でも悪いの?」
「いや~昨日ちょっと課題に苦しみまして、夜遅くまで掛かってしまって・・・」
「調子悪そうだな、めずらしい。いくら緊張してても演技はいつも完璧なのに」
今日とそう話ながら雛の様子を伺っていると、雛がこちらに目を向けるが「フイ」と逸らされる。
「あれ滅茶苦茶調子悪いって。いつもなら“何ジロジロ見てんの?観覧料3000円”とか言ってくるのに!」
「まぁ確かに。もしくはお前に怒ってるかだな」
「よしよし、これでオッケー。私が仲良くしてると千夏先輩引いちゃうかも知れないしね。顔見知り程度ならまだしも、付き合ってるなら私はお役御免。寧ろ私はお邪魔になるから、暫く親友はお休みしよう」
カツーン、とリボンが落ちる。
「雛、少し休憩したら?」
「大会前だからって根詰め過ぎだよ」
「大丈夫大丈夫、でもちょっとリフレッシュしてくるね」
そう言って外に向かおうとして、ふとバド部に目を向けると大喜が目に入る。
ホッとすると同時に、2人の笑顔を思い出すと胸が“ぎゅ~~~”っとなる。
そうだった、私は1人で何とかしないと。
「よし、まだ不安はあるけど県大会までに調整すれば全国までにはー」
そう考えて体育館から出ようとした時だった
ドンっ!と言う衝撃と共に私はバランスを崩して倒れてしまう。
ー左足が痛い。捻った?嘘、この大事な時に?試合に出られなかったらどうしよう?皆の期待を裏切ったらどうしよう?
そんな事ばかりが頭に浮かんで、相手が謝っている事にすら気付けていない。
「雛!オイ雛!!大丈夫か!?」
と声が聞こえて来たので顔を上げると、凄く心配した表情の雪が居た。
ーいつもおちゃらけてるのに、こんな真面目な顔もするんだな、と場違いな事を思ってしまう。
すると雪は
「すまん、ちょっと触るぞ」
と言って左足に触れた。
怪我の具合を見てるだけだと分かっているのに、ドキッとしてしまう。
いつもピヨちゃん呼びなのに“雛”と名前で呼ぶから、“アレだ、ギャップ萌えと言う奴だ”、と馬鹿な事を考えていると
「特に痛みに反応はしてないから大事じゃないとは思うけど、やっぱり保健室で見て貰え」
「あ、あの」
「お前はちょっと待ってろ、オイ大喜!ちょっと来い!」
「どうした雪?え、雛?怪我したのか!?」
「そんな大事じゃないとは思うが保健室で見て貰った方が良い。お前付き添ってやれ、バド部には俺から説明しとく」
「分かった。立てるか雛?保健室行こう」
「う、うん、立つのは大丈夫、ありがとね」
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雛と大喜を見送った後、ぶつかった張本人に向き直る。
「・・・オイお前、よそ見しながら駆け込んで来たな?」
「ハ、ハイ、すいませんでした!」
同じ運動部とは言え186ある俺とは体格がまるで違うコイツは、見下ろされてる上に俺の怒りを感じ取って完全に萎縮している。
「ここは人の出入りが激しいから、ここに確認する為の窓があるんだろうが!」
ダァン!と扉を叩く音が体育館中に響き渡る。
中に居る全員が何事かと、こちらを見てくる。
が、そんな事は意に介さず続ける
「ここに居る全員!怪我がどれだけ怖えーか分かってんだろうが!
ほんの一瞬の油断のせいで、今までやってきた努力も周りの期待も応援もチームワークも、全てが台無しになる!
怪我をした方だけじゃねえ、怪我させた方だって罪悪感で調子狂わせて元に戻らなくなる事だってあるんだよ!」
「雪、雪!お前の言ってる事はコイツもちゃんと分かってる。だから落ち着け!!」
「ハリーさん・・・悪い、勝手に大喜を付き添わせちまった」
「いや、それは別に良いんだが、どうしたんだ?お前らしくもない」
ハーッと息を吐く。
・・・やっちまった。
コイツに落ち度があったにせよ、怒りに任せて言い過ぎたと自戒する。
「カッとなって言い過ぎた、ごめん」
「い、いや、俺がよそ見してたのは確かだから、俺もごめん」
「ならこれで手打ちだ。後は雛が帰ってきたら謝罪してくれりゃあそれで良い。」
そして俺は騒がせた事を各部活に謝罪して周り、雰囲気を悪くした俺が居たらやりづらいだろうと顧問に断りを入れて帰路に着いた。
はぁ~、ナツ姉が帰ってきたら色々聞かれるんだろうな、と思うと自業自得とは言え気が重いぜ全く。
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ダァン!
大きな物音に驚いて入り口を見ると、雪くんが扉を叩いて何かを叫んでいる。
ーここに居る全員!怪我がどれだけ怖えーか分かってんだろうが!ー
誰かが怪我をしたのだろうか?でも怪我をしている様な人は見当たらない。
不思議に思って思案していると部長が来て
「さっき蝶野さんがあの怒鳴られてる子とぶつかって怪我したかも知れないのよ。で、それを目にした鶴羽くんがキレてあの子に詰め寄ってるの。」
そうだったのか。友達思いの雪くんらしいと言えるんだけど、アレはちょっと相手がかわいそうだ。
実際大柄な雪くんに怒鳴られて萎縮してしまっている。
ー止めに行かなきゃ
そう思った時、針生くんが仲裁に入って雪くんも落ち着いた様だ。あの子に謝罪しているのがここからでもよく分かる。
うん、自分が悪いと思ったらちゃんと謝る事が出来るのは良い事だ。
「しかしいつも“ピヨちゃん”って呼んでるのに、さっきは“雛”って呼んでたから、よっぽど焦ってたんだろうね。もしかしたら異性として意識してるとか?
だからいつもはピヨちゃんなんて呼んで照れ隠ししてたりするのかもね」
え?雪くんが蝶野さんの事を異性として意識してる?
そんな事考えた事も無かったが、確かに蝶野さんは私から見てもかなり可愛い子だと思う。
あんな可愛い子と同じクラスで毎日顔を合わせて話していれば、彼女に惹かれてしまうのも仕方がない事なのかも知れない。
そう思った途端、胸がキュッと締め付けられる様に苦しくなる。
ー何で私は歳上なんだろう
ー何で雪くんは歳下なんだろう
ー同い年ならどんなイベントも同じクラスで、泣いて笑って楽しめたに違いないのに
と、何度思った事か。
いや、別にイベントじゃなくても良いんだ。
同じ教室で授業を受けて休み時間には他愛ない話をしたり、お昼には一緒にお弁当を食べる。
同じおかずなのに雪くんは「これ、もーらい」と言って唐揚げを取っていく。
私はそんな雪くんに、「コラー!そっちの唐揚げ寄越しなさい!」と言って詰め寄る。
そんな普通で当たり前の時間を過ごせるだけで、何と幸せなんだろうか。
そしてそれがどうやっても叶う事が無いと理解しているからこそ、やるせない気持ちになってしまう。
「え?ナツ、あんたもどっか具合悪いの?顔色悪いよ?」
と渚に言われる。
「あらら、私もしかして地雷踏んじゃった?千夏、もしかして鶴羽くんの事・・・」
「雪くんは幼馴染みですよ、部長」
「そう、なら今はそれで良いわ。でもね千夏、本当の気持ちを隠し続けてると後悔する事になるから、いつかはちゃんと向き合いなさい、自分にも鶴羽くんにも」
「はい」
そんなやり取りをしていると、話の中心人物である雪くんが近付いて来る。
今の今だからドクンと鼓動が早まる。
「お騒がせして申し訳ありませんでした!」
どうやら騒動を起こした事について、各部活に頭を下げて回っている様だ。
「分かりました。貴方が自分勝手な我儘でやった事では無い様なので、謝罪を受け入れます。
ですが今後同じ事があっても、いきなり怒鳴り付けたりしない事を約束してください」
「はい、今後は気を付けて行動します、本当にすいませんでした!」
「雪くん、大丈夫?」
「あ、ナツ姉に部長さんにナギちゃん先輩もお騒がせしてスイマセンでした。後は男バスの顧問と話して雰囲気悪くした俺が居ない方が良いと思うから、今日は帰るわ」
「え?じゃあ私も」
「は?何でだよ、ナツ姉は早上がりする理由無いだろ。じゃあまたな」
そう言って早足で男バスの顧問と話して、頭を下げて帰って行く。
「部長・・・」
「ナギ・・・」
「「これ絶対面倒臭くなる奴だ!!」」
当初は雛と雪が朝顔合わせた時点で事の真相を伝えて、雪のある発言を聞いた雛が大喜への恋心に気付く展開にしてましたが、それだとモヤモヤを抱えたまま転倒から怪我の不安と言う展開にしづらかったので大きく変更しました。
なお、「if 雛ルート」だと、大喜を呼ばずに雪が雛をお姫様抱っこで運ぶ展開になります。
書くかどうかは未定ですが。