アオのハコ ~鶴は鹿の元に舞い戻る~ 作:お面ライダーよっしー
同居についての話し合いを終えてからの、冬樹さんメインの親たちの反応です。
そしてそれを陰で聞いてしまった千夏の反応が・・・?
千夏と雪くんがそれぞれの部屋に戻って行ったのを確認してから、ゆっくりと身体を起こす。
「ふふっ」と笑みが零れる。
鶴羽 雪くん、か。
ー俺の魂と心に誓って絶対にだ!
ー俺と千夏を信じてくれ
まだ高校にも入っていない子供だから言えた事、と断じるのは簡単だ。
しかし彼の言動には、人の心を揺さぶる「何か」がある。
その証拠に口数が少く、ともすれば物事を否定から入るきらいがある私ですら、彼の言葉を聞いて彼と千夏を信じてみようと言う気になったのだから。
「珍しいわね、貴方がそんな風に笑うなんていつ振りかしら?」
「あぁ春菜、君も起きたのか。いや、少しばかり雪くんの事をね。何と言うか不思議な子だと思ったよ」
「そうね、あの子は昔から不思議と人を惹き付ける雰囲気があったわ。“カリスマ性”とでも言えば良いのかしら。
いつもはさっき千夏をからかってたみたいに飄々としていて、おちゃらけてるけどね」
ーなるほど、中々に食えない人物らしい。
そんな彼があれだけの事を言ったと言うのは場の雰囲気にあてられたと言うのもあるだろうが、それだけ本気で千夏の事を考えていると言う事の証だろう。
「彼にならいずれ、本当の意味で千夏を任せても良いのかも知れんな」
ふいに漏れた言葉に反応したのは妻で、
「なら、私たちが向こうに行く前に婚約だけでもさせましょうか?」
などと言ってくる。
「せめて雪くんが高校卒業するまでは駄目だ」、と却下する。
うん?
これでは私も2人の関係を認める事になってしまう。
否定しようと口を開こうとするが、その前に
「じゃあウチで預かって居る間に、私の味を千夏ちゃんに覚えて貰わなきゃね」
と優花さんが朗らかに笑う。
「貴女の料理は美味しいし雪くんも馴染んでるから、千夏に覚えさせたら一発で胃袋掴んじゃうわね。楽しみだわ~」
と、妻も乗り気になってしまっている。
「冬樹さん、こうなったら止められませんよ。酒席の事と割り切って、明日になったら覚えてない事を祈りましょう」
苦笑いしている那月さんにそう言われたが、不思議と嫌だと思わないくらいには私も雪くんに絆されてしまったようだ。
「那月さん。酔いも手伝っている今だから言える事ではありますが、正直な所あの2人の関係はこれからどうなって行くと思いますか?
今日の話し合いを経て私は、雪くんならば本当にいずれ千夏を任せるに足る人物になる、と思いました」
その言葉に妻である春菜は元より、鶴羽夫妻も驚いた顔をしている。
「そうですね、今はまだ“大事な幼馴染み”と言った所でしょうか。
勿論好きか嫌いかの二択なら前者なのは間違いありません。
ただあの子の性格上、あそこまで“信じてくれ”と言ったからには、それが寧ろ恋愛に於いての足枷になる様な気がします」
「そうね、あの子は良くも悪くも千夏ちゃんとの“約束”が何より大事だから、1度は途切れた約束が繋がった今、全力でそれを叶える事しか考えないと思います」
「器用なんだか不器用なんだか分からない子ね、優花。
この人にあれだけの啖呵を切ったんだから、“ごめん皆、俺、千夏が好きになった、我儘なのは分かってるけど、交際を認めてください!”くらい言ってくれても良いのにね」
「そうそう、そう言えば由紀子も含めた私たち母親は全力で味方になるのにね~」
「おいおい、本人達の居ない所で私たちが勝手にそんな話をしても意味が無いだろう。ですよね、冬樹さん」
「そうですね。
ただ千夏が雪くんと再会したと言う日、たまたま早く帰宅した私は春菜に報告しているあの子の顔を見たのですが、鶴羽家の皆さんが引っ越してから今までに見た事が無いくらいの心からの笑顔だったのを覚えています」
「そうね、空港で見送った時に泣いていたあの子は新しい約束を守る為に、いえ、雪くんの為に無理をして笑顔を作っていたのを思い出すわ」
「雪も同じよ。
“今度ナツ姉に会った時に笑われたくない”って、涙でグシャグシャになってるのに、それでも我慢して笑おうとしてたから」
「「あの子達は初恋同士で、絶対に両想いだと思う!!」」
見事にハモった母親達を見て、
「そうかも知れないし、そうであってもなくても後悔だけはしない選択をして欲しいものだ」
と、那月さんと頷きあった。
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親達が寝ていると思い、そっとトイレに向かおうとした私はリビングから声がするので、聞き耳を立てた。
ー雪くんになら、いずれ本当に千夏を任せても
ー向こう行く前に婚約だけでも
ー私の味を覚えて貰わなきゃ
等々、私達が居ない所で両親達が盛り上がっている。
お酒で酔っているせいだと思うけど、まさかお父さんまでそんな事を言うなんて思わなかった。
雪くんの言動がどれだけ大きかったのかが良く分かる。
ー俺の魂と心に誓ってー
ー俺と千夏を信じてくれー
っ~~////思い出すと恥ずかしくて・・・は違うかも。
恥ずかしいのも確かだけど、雪くんがああ言ってくれたのが嬉しいんだ、私。
そう思った丁度その時、
「「あの子達は初恋同士で、絶対に両想いだと思う!!」」
お母さんと優花さんが息ピッタリで、一言一句同じ言葉を口にする。
その瞬間、私は完全に自分の気持ちを理解した。
「あぁ、そうか、私は幼馴染みの雪くんが約束を守りに来てくれた事だけが嬉しかった訳じゃないんだ」
ー私は“鶴羽 雪と言う、1人の男の人が好き”なんだとー
雪と千夏の知らない所で、半公認になってしまってます。
そして本作の千夏は既に自分の気持ちを自覚してます。
しかし雪の宣言もあるので、早々に告白するつもりもありません。
せめてIHかWCで全国大会出場を決めてからじゃないと、と思ってます。