アオのハコ ~鶴は鹿の元に舞い戻る~ 作:お面ライダーよっしー
動揺と怪我と激怒を読み返していて、千夏の想いが現実だったら、と思い、書いてしまいました。
私は鹿野千夏(かのちなつ)、この春から高校2年生になる。
私には同い年の幼馴染みの男の子が居る。
お母さん同士が親友で、生まれたのは私が夏で彼が冬。
同級生だけど私の方が少しだけお姉さんだ。
保育園の頃から、高校2年の今に至るまでずっと一緒。
私は彼の事が大好きだ。
クラス分けを見ると今回も彼と同じだったので嬉しくなり、頬が緩んでしまう。
そしてここだけの話になるけど、実は私は彼と一緒に住んでいる。
と言っても同棲している訳じゃなく、父が海外転勤になり、母がそれに着いて行ったから彼の家に居候しているのだ。
当初は私も一緒にと言う話だったが、部活の皆と全国を目指したい、友達と離れたくない、そして何より彼の側に居たいと言う事を何度も話し合った結果、「家族ぐるみの付き合いがある向こうの家族に事情を話して、居候する事が了承されたら残っても良い」と言う事になった。
それを話しに行く間、ずっとドキドキしていた。
ー断られたらどうしよう
ー嫌がられたらどうしよう
そんな事ばかり考えて気分が落ち込んでしまった。
結果から言えば、驚く程アッサリと了承が得られた。
元々お母さんが向こうのお母さんに話を通していて、「逆に年頃の娘さんを預かっても良いの?何だかんだ言っても、ウチの子も思春期の男の子だから」、と言われたらしい。
それを聞いた時は思わず、「わ、私は彼となら、もしそんな事になっても・・・」と口走ってしまい、お母さん達に苦笑いされて窘められてしまった。
と、とにかく一緒に住む事は彼も了承してたし、私が残る事も喜んでくれた。
そんな事を思い返していると
「千夏ー、教室行くぞー。ハリーとナギも同クラだとよ、もはや腐れ縁だな」
そう言って私を呼ぶ彼、“鶴羽 雪(つるば ゆき)”くん。
「腐れ縁って酷くない?私ショックだな~」
「そりゃあ生まれた時から今までずっと一緒なんだから、そう言いたくもならぁな。まぁハリーとナギに関しても似た様なもんだけどな」
「む~、こんな可愛い幼馴染みに言う事かな?これでも学内外にファンが居るんですよ?告白されて付き合ったらどうするの?」
「はっ、お前と釣り合い取れる奴なんかそうそう居ねーだろ。
それに俺はお前の両親から悪い虫がつかない様に頼まれてんだから、先ずは俺のお眼鏡にかなう相手じゃないと認めねーよ」
「いやいや雪よ、ちーが言いたいのはそんな事じゃなくてな」
「そうそう、ナツが言いたいのはね~」
そこへやって来た針生くん(針生健吾/はりゅうけんご)と渚(船見渚/ふなみなぎさ)が、余計な事を言いそうになるのを慌てて止める。
「ちょっと!2人とも何言ってるの!?」
「「素直になれずにヘタれてるちー/ナツのフォロー」」
「お前らはお前らで仲良いな。
ハリーよ、現役JKモデルの彼女に“アイツ他の女子とスゲー仲良くしてたぞ”、ってメールするぞこの野郎」
「待て待て待て、何でそうなる?お前に言った訳じゃ無いだろうに」
「あん?そんなもん千夏をからかったからに決まってんだろ」
「ねぇ針生くん、これで本当にナツに恋愛感情持ってないの?この人」
「あぁ、少なくとも表向きには出てない」
「修学旅行辺りでナツから告白させる位しなきゃ無理じゃない?」
「そうだな、その辺他の連中にも根回ししとくか」
「でも他の男子が協力してくれるかな?」
「それは女子も同じだろ。性格に若干難ありとは言え、雪は頭脳明晰・スポーツ万能・色白イケメンだからな」
「まぁ芸能人とファンみたいなもんだし、実際の所あの2人は公認カップル扱いされてるから、大丈夫だと思うけどね」
「ただそれまでが長いんだよなぁ、まだ春だし」
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よう、俺は鶴羽雪、この春から高2になる男だ。
後ろであれこれ画策してる友人2人が考えてる事も、千夏が俺に向ける好意も正しく理解している。
何より俺自身が千夏に惚れているのも確かだ。
だが、今はこの気持ちを伝える気は無い。
え?相手の気持ちを分かってるのに酷いって?
それはまぁその通りなんだが、少し俺の話も聞いてくれ。
幼い頃に俺と千夏は、互いの母親の母校でもあるこの学校、栄明高校のバスケ部史上初の全国大会でアベック優勝しようと約束をした。
簡単な事じゃないのは分かっているし、せめて全国大会出場くらいしてからじゃないと俺自身が堂々と胸を張って告白できないと思ってるからだ。
まぁ、それも普通に考えたら難しくはあるけどな。
ヘタれと言われるかも知れんが、今はアイツと普通にありふれた日常を送るだけでも十分楽しいんだよ。
授業中つい寝てしまった俺を先生に見つかる前に起こそうとする千夏、
休み時間にハリーの彼女から聞かされたって愚痴について話す千夏、
昼に同じ弁当なのに俺とおかずの奪い合いをする千夏、
そんな下らなくも掛け替えの無い普通の日々が繰り返される日常が、俺には他の何物にも代えがたい宝物なんだよ。
あー駄目だこりゃ、思い返しただけでも俺はやっぱり千夏にベタ惚れしてるわ。
あれだけ威勢の良い事言っといて何だが、俺はいつまで気持ちを抑えていられるんだろうか。
少し離れた所に居る千夏に目を向ける。
桜の花びらが舞う校舎の敷地内に佇む姿は、1枚の絵画にしても良いくらい俺の目には眩しい。
そんな俺に近寄ってくるハリー。
「なぁ雪、お前いつまでちーを待たせるんだ?」
「あー、それなんだがな。前から全国行けてからってずっと思ってたんだけどなぁ。アイツ見てたら俺が我慢出来なくなってきたんだよ。どうすっかなー」
「お前マジか!?それならもう今告っちまえよ、船見は俺がこっち呼んどくから!」
「いや、そんな事しなくて良いわ。今この場で言うからお前ら証人な」
「え、オイお前まさかこんな人の多い所で言う気か?流石にちーも恥ずかしいんじゃ・・・」
「俺がこんな性格だって知ってんだし今更だろ?本当に嫌なら断るだろうしカンケーねーよ。千夏ー!!」
「え?どうしたの雪くん、急に大きな声出して?え、針生くん、何?ごめんって、何が?」
渚と話している時、雪くんに大声で呼ばれてそちらを向けば、隣で針生くんが両手を合わせて「ごめん」のジェスチャーをしている。
むー、また雪くんが何かやらかしたのかな?
そう思って近付こうとした瞬間、
「千夏ー!子供の頃からずっとお前が好きだった!俺と付き合ってくれー!!」
・・・え?今、なんて?
周りに居た人たちは大騒ぎしているし、渚に至っては「良かったね、千夏!雪くんの方から言ってくれたんだよ!」って泣きながら祝福してくれてる。
本当に?私、今、雪くんに告白されたの?
頭が上手く回らない、でも周りの反応を見ると「スゲー、こんな所で告るとか勇者かよ!」とか「やっぱり鶴羽くんって鹿野さんの事が好きだったんだ」とか「チクショー!皆のマドンナ鹿野さんをかっさらうのはやっぱりアイツかよー!でもアイツなら仕方ねー!」とか凄い騒ぎになってるのを見て、現実なんだと理解する。
「返事はー?」
「はい!勿論お受けします!私もずっと好きだったよ、雪ー!!」
やっと「くん」を付けずに呼ぶ事が出来た。
雪に駆け寄って抱き付くと、周りから歓声が上がる。
「おめでとう、ナツ!本当に良かったぁ~~!!雪くん、ナツを待たせ過ぎだよーグスッ」
「おいおい船見、お前の方がちーより凄い顔になってんぞ」
「だって~、前からずっとナツの気持ち知ってたから、やっと想いが叶ったって思ったら~・・・」
「あー、何かすまん、ナギ。そこまで心配させてたとは思ってなかった」
「送信っと。ちー、花恋に連絡しといたから、その内向こうから連絡来て根掘り葉掘り聞かれると思うから覚悟しとけな」
「えぇ!?長くなりそう・・・」
でも、こんな幸せな気持ちを花恋は知ってたんだから、色々聞いてみたいと思ってもいる。
「ねぇ雪」
「ん?」
「次は全国制覇、だね」
「おうよ、全部勝つぞ千夏。その次は両親に挨拶か?」
「そ、それはまだ早い、かな?」
「まぁ、これから宜しくな彼女さん?」
「うん、これから宜しくね彼氏くん?」
どちらからともなく吹き出して笑ってしまう。
よく言われてる事だけど、「世界が違って見える」ってこういう事なんだ。
・・・大好きだよ、雪
その後、この告白を見た生徒達からは「伝説の告白」と呼ばれる事になり、代々語り継がれて行く事になる・・・のかも知れない。
続かないったら続かない。