アオのハコ ~鶴は鹿の元に舞い戻る~ 作:お面ライダーよっしー
アメリカでの過去の事故が心の重石になっていた雪だが、千夏の自分を想う優しさに触れて本心を吐露する事で救われる。
そしてその心境にも、変化が起きつつあった。
「鶴羽雪 号泣事件」から一夜明けた翌日。
あ~、号泣してナツ姉に迷惑掛けちまった。今度何かお願い1つくらい聞いてやろう。
あれから気付いたらベッドで普通に寝てたから、ナツ姉と母さんがベッドに寝かせてくれたんだろう。
しかし吹っ切ったつもりだったけど、あの人の事は俺の中では相当なウエイト占めてたんだな、と改めて思う。
トラウマって程では無いが、結果的に俺の油断が原因だったのは確かだから責任を感じてしまっていたんだろうな。
帰国前に向こうの友人たちにも、もしあの人の所在が分かれば連絡してくれる様に頼んでおいたから、連絡が無い以上は何の手掛かりも無いんだろう。
もしかしたら見つかってるけど、あの人が止めてるって可能性もゼロじゃ無いけど、流石にそのセンは考えにくい。
まぁ、そっちは今気にしてもどうにもならんから置いておこう。
それよりも、だ。
昨日ナツ姉に抱き抱えられたのと、俺が縋り付く様に抱き付いてしまった事で自覚してしまった事がある。
ー俺はナツ姉の事をただの幼馴染みじゃなく、1人の女の人として意識してしまっているー
と言う事だ。
去年の話し合いの際、あの場の全員に「俺と千夏を信じてくれ」と言った手前、早々にそれを覆すのもどうなんだって話だよなぁ。
いや、元から好きではあったんだよ?幼馴染みとしては。
それが昨日の件で、完全に異性として意識しちゃったんだよなぁ。
大喜の気持ちも知ってるし、それをサポートしてやりたいって気持ちも本物だ。
だからこそ悩む。
「はぁ・・・どーしよ」
「雪、起きたの?体調は?」
母さんが入ってくる。
「ん、大丈夫。別に体調不良だった訳じゃないから」
「それにしてもビックリしたわ。あんたの大きな声が聞こえたから来てみたら今度は泣き声に変わるし、そっと中見たら千夏ちゃんに抱き付いて泣いてるんだもの」
「マジか・・・見られてたのか」
「千夏ちゃんに任せた方が良いと思って廊下で待ってたら泣き疲れて寝ちゃったみたいだから、中に入ってあんたをベッドの上に寝かせたって訳」
「あ~、面倒掛けてごめん」
「貴方はまだ子供なんだから親に面倒掛けて良いの。
何でも1人で抱え込む必要はないんだから、私でもお父さんでも良いから頼りなさい。
私達が貴方のお世話を出来るのも後ほんの数年しか無いんだから、私達を貴方の親で居させて欲しいの」
あぁ、いつもは俺の扱いが酷いだ何だと思っていたが、やっぱりこの人は俺の母親なんだな。
「・・・ありがとう、俺はちゃんと父さんも母さんも頼りにしてるから、まだまだ迷惑を掛けると思うけど宜しくお願いします」
「はい、任されました。
とは言ってもこれからあんたの事についての殆どは千夏ちゃんに任せるつもりだけどね」
・・・は?
何でそこでナツ姉が出てくる?
どういう事だってばよ、母上ェ・・・
「ちょ、待てよ。頼りにしろって言った側から、何でナツ姉に任せるって話になるんだよ。飛躍し過ぎにも程があるだろ。
と言うか、親を頼りにするのとは意味が全く違うだろ!?」
「あら、どっかのイケメン芸能人の真似?
それより昨日試しに“これからは雪のお世話任せても良いかしら?勿論、分からない事は聞いてくれて良いからね~”って言ったら、“はい、任されました!”って、2つ返事でOKしてくれたわよ」
うっそだろ、オイ。
何で俺の居ない所でそんな話になってんだよ、おかしいよTHE・WORLDだろ。
ナツ姉も何でOKしてんの?俺の事よりまず自分の事考えろよ。
「それよりあんたは千夏ちゃんの事どう思ってんの?」
「それは、まぁ、大事な幼馴染み?」
「はぁ~、だからこの前大喜くんと2人で買い物に行かせたの?あの子が千夏ちゃんの事を好きだと分かってて?」
「あー、まぁそんなトコ」
「それであの2人が上手く行って、付き合う事になっても良いの?」
さっき自分の気持ちを自覚したばかりの俺にとって、1番痛い所を突く質問だな。
「俺の知る限り、大喜が1番ナツ姉を大事にする奴だと思ってる」
「・・・そう、あんたがそれで良いんなら私からはもう何も言う事は無いわ。でもね雪、自分の心に嘘を吐いて後悔だけはしない様にね」
そう言って母さんは部屋から出て行った。
「流石に母さんは気付いてそうだな。しっかし何で今自分の気持ちに気付くかねぇ。本当にタイミング悪いよなぁ」
雛をサポートして大喜とくっ付けてしまえば悩みとしては俺の宣言だけになるんだけど・・・それはなぁ、余りに大喜に対しての不義理が過ぎるし、雛にもどっちも贔屓しないって言ったのに、それを言った俺が自分を優先するってのもスジが通らんしなぁ。
参った、現状だと八方塞がりだ。
まぁ今は考えるだけ無駄だな、飯食って学校行くか。
リビングに行くとナツ姉が後片付けをしていた。
「おはよーナツ姉。まぁ何だ、その、昨日は迷惑掛けちまったな」
「おはよう、雪くん。昨日も言ったけど、私だけが知ってる特別感があるから、迷惑だなんて思ってないよ。こ・れ・か・ら・も、泣きたくなったら、お、お姉さんの胸を貸して上げよう////」
「いや、そんな真っ赤になって照れるくらいなら、無理して言わなきゃ良いのに」
「2人とも朝からイチャつかないの。あんたもさっさとご飯食べて学校行きなさい」
「い、イチャついてなんか・・・」
「へいへい。ナツ姉どうする?待ってる?先行く?」
「待ってよう、かな?良いかな、雪くん?」
おっふ。小首傾げて上目遣いとか、俺を殺しに掛かってるよ、この人。
「お、おぅ。なら急いで食べるわ」
自分の気持ちを自覚してしまった俺には、今までならそこまで意識せずに済んでいたナツ姉の仕草の1つ1つが、致命の一撃(フロム感)レベルの攻撃力がある。
そそくさと朝食を済ませ、歯を磨いてから玄関に向かう。
そこには持ち物チェックをするナツ姉と母さんが居た。
「ちゃんと持った?」
「はい、大丈夫です」
「そう、楽しみね」
「ちょ、ちょっと恥ずかしいですけど///」
「渚ちゃんだっけ?あの子にも頼んでるんでしょ?」
「面白そう!って2つ返事でOKしてくれました(苦笑)」
「今日帰ってきてから聞くのが楽しみだわ~」
・・・何かえらく盛り上がってんな、今日何かイベントあったっけ?
「ナツ姉、今日2年って何かイベントあんの?1年には無いんだけど」
「え、えっと、私にとっては、かな」
「ふ~ん、個人的な事か。まぁ応援しとくわ」
「コソッ言質取れたわよ、千夏ちゃん」
「////はい、優花さん、私頑張ります!」
「あ、そうそう雪、あんた今日は体育無かったわよね?」
「ん?あぁだから昨日余裕持ってジャージ出しただろ?洗濯宜しく、母さん。じゃあそろそろ行くか、ナツ姉」
「「行ってきます」」
「はい、行ってらっしゃい」
2人を見送った後、「雪がどんな顔するか楽しみだわ、頑張りなさい千夏ちゃん」と、それを思い付いた千夏ちゃんにエールを送る。
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さて、午前の授業も終わり弁当を食べて茶を飲んでいるとスマホが鳴った。
何だろうと思い画面を開くとそこには
ー間違えちゃった、ごめんね
とナツ姉からメッセージが届く
「何が?」
とメッセージを送ると
「こーいう事♡」とナギちゃん先輩から、メッセージと共に写真が送られてくる。
それを見た瞬間、
「ぶほっ!?」とお茶を吹き出してしまった。
机に置いといたタオルを、吹き出す瞬間に手に取って口を抑えたから周りに被害が出なかったのがせめてもの救いだ。
ゲホゲホと噎せながらスマホを見直す。
そこには「俺のジャージを着て萌え袖で両手を口許に添えて、顔を真っ赤にしたナツ姉が写っていた」んだよ。
いやホント何やってんの、この人?
同居バレしたらマズいってあんだけ話してたのに、何でよりによって話のネタにされる彼氏からジャージを借りた彼女ムーブなんてやってんだよぉーーー!
付き合ってんならともかく、そうじゃないんだからいつどうやって借りたのか?を聞かれたらどう答えるんだよ、と思ったその時、朝の会話が脳内で蘇った
ー「ちゃんと持った?」
ー「はい、大丈夫です」
ー「そう、楽しみね」
ー「あんた今日体育無かったわよね?」
・・・やられた、母さんとナツ姉は最初からこれをやるつもりだったんだ。
つか、何が目的なんだよ、生徒に同居バレしたら面倒になるだけだって母さんだって分かってるだろうに。
そんな事を考えていると
キャー!っと歓声が上がる。
窓から外を見ると、次の時間グラウンドで体育をやるクラスの女子が騒いでいた。
その中心に居たのが、今俺をパニクらせている元凶のナツ姉とナギちゃん先輩だった。
ピロン、とまた写真が来た。
萌え袖の右手を口許に添えたまま、左の萌え袖から覗く指先で胸元の「鶴羽」を指してやがる。マジで止めろ下さい。
「なぁ雪、もしかしてあのジャージって」
「聞くな・・・」
クラスの奴らも段々と異変に気付いて騒ぎ出す。
「あれ?鹿野先輩のジャージデカくね?」
「え?え?もしかして彼氏の借りて着てるとか?」
「でも凄く恥ずかしがっててカワイイよね!」
「やべぇ、破壊力半端ねぇ!好きです!付き合ってください」
おう、最後の奴は処すから動くなよ?
「ヒソヒソ 雪、これヤバくないか?ジャージの貸し借りだけなら幼馴染みだからで通し切れるけど、今日は体育がない日だし」
「ヒソヒソ そうだよ、だからアタマ抱えてんだよ俺は!
ナツ姉は何考えてんだよ、同居バレはマズいって散々話してたのによぉ・・・」
顔を上げてグラウンドを見るとナツ姉と目が合った。
胸辺りに上げた手を、小さく振ってくる。
周りの男子生徒が「俺に振ってくれた」「いや、俺だろ」「醜い争いはやめな、俺に決まってんだろ」等々喚いている。
そこに「何言ってるの、千夏先輩がウチのクラスで手を振ってくる相手なんて雪しか居ないじゃない!」と、ピシャリと言い切る1人の女子生徒、雛だ。
「さぁ雪、ボーッとしてないで手を振ってやんなさい。千夏先輩待ってるわよ」
つーかお前もこの状況で俺を目立たせようとすんな、手ぇ貸してやんねーぞ。
とは言え、そう言われたからには仕方ないと思い手を振ると、花が咲いたような笑顔で更に大きく振り返してくる。
あー、もう考えんの止めるわ、メンドクセー。
「ナツ姉ー!今日の体育は何すんのー!」
「多分サッカー!」
「ナツ姉は他のスポーツあんま上手くないんだから、ボール踏んづけて転けんなよー!ナギちゃん先輩、フォロー宜しくー!それと部活前に事情聴取なー」
げっ、て顔して慌ててるナギちゃん先輩。
今更慌てて後悔しても遅せーんだよ、俺をからかうとどうなるか昨日身を以て知った筈なのにな。
某イケボ声優のキャラ風に言えば、「からかって良いのは、からかわれる覚悟がある奴だけだ!」って話よ。
因みに俺は勿論、「からかわれた分倍返しするから、好きなだけからかい倒す主義」だ。
「あ、勿論主犯のナツ姉も知らん顔出来ねーからなー!」
それまでの満面の笑みから一転、ひきつった笑いに変わったナツ姉とナギちゃん先輩を見て、「じゃ、怪我すんなよー」と言って手を振る。
「まぁ昨日の件もあるし、何か1つくらいお願い聞いてやるから考えとけよー!」
そう言うと「え?」て顔でこちらを見て呆けている。
「じゃ、部活でな」、そう言って席に戻る。
さーて、どんな反応されるかねぇ。
ナツ姉のクラスとウチのクラスの連中には俺のジャージって事はバレてるだろうが、幼馴染みで押し通してや「ねぇ雪、あれってあんたのジャージでしょ?何で千夏先輩が着てんの?今日は体育ないからおかしくない?」るかと思っていたのに、何でこう要らない時は鋭いんだろうねぇ、ピヨちゃんよ。
「オマエちょっとコッチ来い。序でに匡も来てくれ、もう面倒だから説明するわ、大喜も良いか?」
「分かった。でも良いのか?」
「おう。もう話して問題なさそうな奴には言っといた方が、下手に隠すよりは後々の面倒が少くて済む」
教室よりはマシだろうと廊下に出て、階段の踊り場で話をする。
「結論から言う、ナツ姉は俺んちに居候してる。理由は親の海外転勤だ。ウチの母親とナツ姉の母親、そして大喜の母親がここのバスケ部OGで、その縁でな」
「え、そんな偶然って本当にあるんだな。でもそれなら大喜の家でも良かったんじゃ?」
「その話が出た時点だと、大喜とナツ姉は体育館で顔合わす程度の顔見知りって話だったからな。同居する家に同年代の男が居るなら、顔見知りより幼馴染みの方が楽ってのもあったんだろうよ」
「ホッ そうだったんだ。残念だったねー大喜、憧れの千夏先輩と1つ屋根の下で暮らせなくて」
おーおー、ナツ姉と大喜が同居しなくて良かったってあからさまに安堵してた奴が、それを棚に上げて大喜をからかってやがる。
「そうだなー、ピヨちゃんにはその方が良かったから、おちょくりたくもなるよなーwww」
「ちょ、ちょっと止めてよね、変な事言うのは!」
「ボソッ お前嬉しいからってあんま調子の言い事ばかり言ってると大喜に愛想尽かされるから自重しろよ?
完全にヘソ曲げられたら、コッチもフォローのしようが無くなるんだからな?」
「アッハイ、分かりました」
「宜しい。
まぁそう言う訳でな、学校側には話は通してあるが、生徒はお前ら含めたほんの一部しか知らねぇ。高校生がそんな話聞いたら面白がって邪推する奴が出てくるから、なるべく広めたくない」
「なら何で俺達に話したんだ?バレるリスクを考えたら、話さない方が良かったんじゃないのか?」
「んー、まぁそうなんだけどな。ただまぁ、“お前らなら大丈夫だ”と思ったから、だな。そうとしか言えねーわ」
「蝶野さん」「匡くん」
「「雪ってやっぱり人たらしだ!」」
初めは幕間にしようと思ってたけど、書いてる内に段々長くなったから本編にしちゃった。
グダグダ感が否めません・・・