アオのハコ ~鶴は鹿の元に舞い戻る~   作:お面ライダーよっしー

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こうやって皆でワイワイ騒ぎながら下校したかったなぁ、としみじみ思う。


EP15 ある日の下校時

 

今日の練習を終え帰宅して行く面々を見送りつつ、居残りシュート練をする。

 

今日はカズたちも用事があるとの事で、久し振りに1人で居残りシュート練だ。

 

ナツ姉もやると言っていたが、女バスの仲良し2年トリオで帰るって引っ張られて行った。

 

そうそう、俺にばかり構っていないで、チームメイトや友達ともっと交流深めなさいな。

 

さて1人だと出来る事も限られるが、ナツ姉のお陰で本当の意味であの人の事を吹っ切る事が出来た今なら、どれだけ集中しても稀にしか出来なかった“あの領域”に、自力で到達出来そうな気がする。

 

  ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

“それ”を見たのは偶然だった。

 

部室に忘れ物を取りに戻った私は、体育館から物音がするのでそっと開いている扉から中を覗きこんだ。

 

「なに、これ・・・」

 

そこにはいつもより出鱈目な動きで速く正確に、でも鬼気迫る勢いで、それでいて心から嬉しそうに笑いながら1人で練習してる雪の姿があった。

 

「はぁー、たぁーのしぃー♪」

 

普段は飄々としておちゃらけている彼、鶴羽雪が、こんな真剣で、でも心から楽しそうにバスケットをしている姿を見て「ドキッ」としてしまった。

 

ーいやいや、私は大喜の事が好きなんだから

 

と自分に言い聞かせるが、雪から目が離せなかった。

 

ピロン、とスマホが鳴る。

 

慌てて確認すると「コンビニで山本先生が好きなもの500円まで奢ってくれるから雛も早く来な」、と友達のにいなからのメッセージだった。

 

雪もそれに気付き

 

「あん?雛か、何やってんだお前?

終わったんなら早く帰れよ。まだ明るいとは言えお前普通に可愛いんだから、変な奴に絡まれない様にな」

 

~~~////

 

何でこいつはこういう事を平気な顔して言えるのよ!

 

ここだけの話、本人は知らないだろうが雪はかなり女子に人気がある。

 

端から見れば、「高身長・頭脳明晰・スポーツ万能・色白イケメン」だし、「実は面倒見が良い」ってのも好感度が高い要因だし、それは私が身を以て実感してる。

 

ただ、周りに千夏先輩を初めとした女バスのメンツがよく居るから、周りには「その中の誰かと付き合っている」と思われていて、声を掛けられていないってのが本当の所だ。

 

「にいなからメッセ来て、あそこのコンビニで山本先生が好きなもの奢ってくれるらしいから、あんたも片付けて着替えて来なさい!」

 

「は?今良い感じなんだから行かねーよ、お前はさっさと帰「い・い・か・ら、早くしなさい!」・・・ハイ」

 

  ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

全く何だってんだ、雛の奴?折角あの感覚をモノに出来た所だったのによ。

 

まぁ1度自力で出来たから、後は何とかなるだろ。

 

ーしかし“ニーナ”か、ウィリアムズ姉と知り合いだったのか、アイツー

 

「さて、着替えも終わったし行きますかね」

 

「遅ーい!」

 

「無理矢理付き合わせてる奴のセリフじゃねーな、オイ」

 

「さぁ行くわよ、何奢って貰おうかな~」

 

そう言いながら楽しそうに歩く雛。

 

ーまぁたまにはナツ姉じゃない相手と連れ立って歩くのも悪くないかー

 

そう思いながら、雛の少し後ろに着いて歩いた。

 

   ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

部活の帰り道、皆で歩いていたら西田くんに声を掛けられた。

 

「女バスのみなさーん、もっちゃんが好きなもの奢ってくれるってー!」

 

「あ、バカ、お前らの分だけだ!」

 

と言う山本先生の声も虚しく「ありがとうございまーす、センセ!」と言う渚。

 

「はぁ仕方ない、皆部活を頑張ってるしな」

 

「え、でも本当に良いんですか?」

 

「あぁ、競技を大学で続ける奴らも居るだろうが、やはり高校の3年間とは何か違う。

そんな特別な時間を大切にして欲しいからな。

高校を卒業してから、“もっと勉強しとけば良かった”とか“部活を本気でやっていれば良かった”とか、必ず後悔する事はある。

それは避けられない事ではあるが、俺は教師としてそんな後悔を1つでも減らせる様にしたいんだよ。

いつか振り返った時、今のこの時間が皆の良い想い出になっていれば嬉しいかな」

 

お母さんたちと同じ様な事を言う先生を見て、やっぱり私達の周りに居る大人は私たちを大事に見てくれているんだ、と嬉しく思った。

 

「じゃあまた誰か来る前に俺は逃げるから、お前たちも余り遅くならないように帰れよ」

と言って山本先生は帰って行った。

 

「あー、雛やっと来た。遅いよー、先生もう帰っちゃったよー」

 

新体操部の島崎さんの声に振り返る

 

「え・・・?」

 

学校の方から楽しそうに笑いながら並んで歩いて来る雪くんと蝶野さんの姿を見て、胸が「キュッ」となる。

 

今日は1人で居残り練やるって言ってたのに、何で蝶野さんと一緒に居るの?

今まで2人っきりで体育館に居たの?他に誰も居ない体育館に?

 

「えー、嘘ー!?ほら、あんたがモタモタしてたから奢られ損ねたじゃない!」

 

「はぁ?

何で俺のせいなんだよ。

俺は練習するって言ったのに、無理矢理止めさせて片付けから着替え終わるまで待ってるからだろうが。

だからさっさと帰れって言った時に帰りゃ良かったんだよ。そうすりゃもっちゃん先生に奢って貰えただろ!」

 

「く~っ、本当にああ言えばこう言うんだから雪は!」

 

「なぁ皆、これって俺は悪くないよな?ピヨが理不尽言ってるだけだよな?」

 

「ちゃんが取れた!?」

 

「お前みたいな我儘な奴は雛処かピヨちゃんも勿体ねー、ピヨで十分だわ。さーて俺も何か買って食うかな」

 

「くっ、取り敢えず私も中に入る!」

 

そんなやり取りをしながらコンビニに入って行った。

 

「コソッ なぁ、あいつらいつもより仲良く見えたのは気のせいか?」

 

「コソッ いえ、針生先輩、俺から見ても蝶野さんの距離感がいつもより雪に近かったと思います」

 

「何か不穏な感じがするな、取り敢えず様子見だな」

 

「はい、今下手な事を言えば千夏先輩と大喜がどんな反応するか分かりませんから」

 

  ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

さーて、何にするかな。

 

お、からあげさんの新味?ハバネロマヨネーズとな?

 

これは買わねばなるまい。

 

「からあげさんのハ「レギュラー1つ下さい!」バ、っておい、お前ふざけんな、自分で買え!」

 

「え~、良いじゃん、あんたが遅くなったせいなんだから、味くらい私に決めさせてよ」

 

すると店員のおばギロッお姉さまが

 

「お兄さん、可愛い彼女さんがこう言ってるんだから、今日は折れてあげなさいな」

 

と言ってくる。

 

「は?別に彼女じゃな「たまには彼女の言うこと聞いてくれても良いと思うなー?」・・・ちっ、あーもう、ハイハイ分かりましたよ、レギュラー1つ」

 

「ありがとうございましたー」

 

「お前、本当に覚えてろよ、こんちくしょう」

 

外に出て雪がからあげさんに楊枝を刺すのを見て、「もーらい♪」と言って最初の1つを取る。

 

「あ、コラ、マジでいい加減にしろよ雛!大体お前この前“1日の摂取カロリーがー”とか言って、大喜がたい焼き奢ってくれるってのを断ってたじゃねーか、ふざけんな!」

 

「たい焼き1個とからあげさん1個じゃ、摂取カロリーが大違いなのだよ、雪くん」

 

「はぁー、分かった、もう良い」

 

そう言って雛が残りのからあげさんに刺した楊枝を摘まんで1つ食べる。

 

「あ////」

 

「あ・・・」

 

瞬間、周りの空気が変わる。

 

ん?皆どうした?何で固まってんの?

 

雛は赤くなってるしナツ姉は呆然としてるし。

 

「ゆ、雪、お前その楊枝・・・」

 

「ん?楊枝がどうかしたん?」

 

「い、いや、今蝶野さんがそれで食べたからそのまま使うと思ってなかったと言うか」

 

「それがどうかしたか?

楊枝があるんだから使うだろ、普通?

変な事言うな匡もハリーさんも。

あ大喜、お前それハバネロマヨネーズじゃねーか!1個トレードしようぜ」

 

そう言って大喜とからあげさんを交換しようと声を掛けるが、ボケーッとして反応が無い。

 

「どうした大喜?そんなにハバネロマヨネーズが好きだったんなら、無理にとは言わねーが大丈夫か?ボーッとして」

 

「え?あ、あぁ1個トレードだっけ?良いよ」

 

「おー、サンキューな。さっき中で買おうとしたら雛の奴が横からレギュラーとか言いやがるからよ。店員さんが今日の所は彼女さんに譲れば?みたいに言ってくるし、彼女ってのを否定しようとしたら雛が便乗して彼女のフリしやがるから面倒臭くなって、もう良いかってな」

 

え・・・雛が雪の彼女のフリ?

 

それを考えただけでモヤモヤとイライラが湧き出てくる。

 

「ま、今回限りって事で大目に見てやるがよ、あの自由人っぷりは勘弁して欲しいぜ全くよ」

 

「そ、そうだな。ほい、トレード」

 

「じゃあコッチもほい、と。く~、やっぱこの辛さの方が正解だったぜ、ちくしょー」

 

「・・・大喜は一応大丈夫そうだな」

 

「はい、表面上は、ですが。それよりも」

 

「あぁ、ちーの奴が固まったまま動いてねぇ。あれはちょっとマズいか?」

 

そう思った時、ちーがおもむろに動きだし雪の元に向かった。

 

「雪くん」

 

「お、どしたナツ姉?」

 

「私も先生に奢って貰ってない。だから」

 

あーん

 

  ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

は?

何だこれ?

ナツ姉、どっかで頭打ったか?

 

い、今起こった事をありのまま話すぜ。

 

俺のからあげさんを勝手に食べた雛が使った楊枝で俺もからあげさんを食べたら、ナツ姉の様子がおかしくなって「私も奢って貰ってない。だから“あーん”」と言って、エサを待つ雛鳥みたいになっちまってる。

 

催眠術だとか超スピードだとか言う、チャチなもんじゃねぇ。

 

な、何を言ってるか分からねえと思うが、俺もマジで何がどうしてこうなった?ってのが本音だ。

 

超スピードはマジで関係無いが。

 

ま、まぁ周りも呆然としてるし、取り敢えずエサやるか。

 

「ホラよ、あーん」

 

「あーんっ、うん、美味しい」

 

「左様で」

 

と言いながらナギちゃん先輩とお下げ先輩を見る。

 

2人ともブンブンと首と手を振ってるから、焚き付けた訳じゃ無さそうだ。

 

「なぁナツ姉、何かあったのか?

急にあーんとか、ナツ姉がやる様なこっちゃねーだろ?」

 

「雪くんはもっと人の気持ちを理解しなきゃ駄目。理解していれば私がこんな恥ずかしい事をする必要は無かったんだから」

 

「恥ずかしかったのかよ!だったら最初からやんなきゃ良いだろうが!」

 

「だから!そうさせたのは雪くんでしょって言ってるの!」

 

ぷくっと頬を膨らませて「む~~」と唸ってるナツ姉。

 

何この可愛い生き物・・・じゃねーよ、何で俺のせいなんだよ、もう良いわ、帰ろ。

 

「じゃ、皆お疲れ~、また明日な~」

 

「え、嘘だろ?アイツ、この空気のまま放置して帰りやがった。どうすんだよ針生?」

 

「雪らしいと言えばそれまでだけど、流石にこれは酷い」

 

「あいつって本当に真面目な時の無駄なカリスマ性と、普段のおちゃらけてる時のギャップがあり過ぎですよね」

 

「蝶野さんの事を自由人って言ってたけど、雪が1番自由人だと思います」

 

「アイツは私を何だと思ってんのよ、全くもう!」

 

「いやー、ナツをここまでポンコツにするのって、雪くんくらいしか居ないと思う」

 

「鶴羽くんって本当に掴み所が無いよね」

 

「ゴメン皆、雪くん捕まえておばさんに突き出してから帰るね、また明日。

コラー!雪くん、待ちなさーい!!」

 

「ま、まぁ一段落して良かった・・・のか?」

 

「もうそれで良しとしましょう」

 

・・・場を引っ掻き回すだけ引っ掻き回して、何事も無かったかの様にさっさと帰宅する雪。

 

その背中を見送りながら、俺は何とも言えない感情が湧いてきているのを感じた。

 

「なぁ雪、お前は千夏先輩と雛のどっちが・・・」

 

ー好きなんだ?ー

 

1人呟いたその言葉は誰に聞かれる事もなく、春の空に吸い込まれて行った。

 





さて、大喜も自分の気持ちに戸惑いつつ、雪が千夏と雛をどう思っているのか知りたくてもどかしくなってますね。

まだ暫くはモヤって貰う事になります。
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