アオのハコ ~鶴は鹿の元に舞い戻る~ 作:お面ライダーよっしー
遂に始まったインハイ予選。
栄明女子バスケ部は、去年破れた因縁の相手である籠原学園に雪辱を晴らす事が出来るのか。
高2のインハイ予選が始まった。
初戦から順調に勝ち進み、準決勝は78-54で勝ち無事決勝にコマを進めた。
皆で勝利の喜びを分かち合ってると隣のコートの試合が終わる。
勝ったのは去年破れた相手の籠原学園だ。
「やっぱり今年も決勝で当たるのは籠原学園か。去年の雪辱を晴らさないと」
籠原学園の方を見ていると
「千夏!どうした、ボーッとして?行くよ」
と渚に声を掛けられる。
「勝ちたいな、と思って」
そう話しながら帰りの準備をしてバスを待つが10分後と言うのでトイレに向かう。
途中、通路で籠原の人達がミーティングをしていた。
「これが今の栄明の試合の映像?で10番が鹿野さんか・・・実際見てどうだった?」
「大したことないですね。以前練習試合した時から余り成長していない印象ですし、私がつけば問題ないかと。正直期待外れです」
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それを聞いた渚が文句を言おうとしたのを止める。
「渚、行こ」
「でもー」
「当たるかもしれない相手を研究するのは当然だし、それを見て何を思おうが相手の勝手だよ」
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「あー、つっかれたー。でもまぁ良い感じだったよな雪ちゃん」
「あぁ、やっぱりカズのパス回しは必須だな。ソーゴのスリーも4割近い成功率だったし、攻撃面は安定してきてるな。後はここぞって時にテツをワンポイントで使える様になれば言う事無しなんだがなぁ」
「ゴメンね、まだまだ実力不足なのは俺が1番分かってるから、少しでも早く皆の力になりたいんだけどね」
「まぁ着実に基礎が出来て来てるから、そんなに慌てなくても良いと思うよ」
そう話していると女バスも帰って来た。
ん?勝った割には何か暗れーな、何かあったのか?
「ワリ、ちょっと女バスの話聞いてくるわ」
そう言って廊下を歩いてると
「私が千夏ならもっと怒ってるよ!」
この声はナギちゃん先輩か?
そっと様子を窺うと、お下げ先輩と何やら話している。
「ちょーっと試合見ただけで“大したことない”“成長してない”とか言っちゃってさ!」
「そんないちいち文句言ってられないでしょ?」
「だけどさー、私たちは知ってる訳じゃん、千夏の家の事。バスケのー部活の為に親戚の家に住んでるんだよ?それがどれほどの覚悟か・・・」
あの2人は事情知ってるのか。流石にウチに居候している事までは話してない様だが。
「いや、分かってるんだよ?相手はそんなの知らないし試合には関係ないってのはさー。
けど私たちは鹿野千夏と言う人を知ってるから、やっぱり腹が立つよ」
なる程ねぇ、だから微妙に暗かった訳ね。
さて当の本人は、と振り返ったら目の前にナツ姉が居た。
「うおっ」
「しー、渚達に聞こえちゃうから」
「しー、じゃねぇよ、声掛けろよビックリしたわ」
「良いチームメイトでしょ?」
「あぁ」
「渚が言われた訳じゃないのにね」
「準決後に決勝の相手が言ってた事を気にしてんのか?他人がどう言おうが気にする必要はないと思うけどな。あの人たちはナツ姉の実力も努力も知ってるからああ言ってくれてんだし」
「やだ、気にする。気にして勝つの。私が籠原戦で活躍して勝てば、2度とそんな風には言えないでしょ?
籠原が私のプレーを見てそう思ったのは事実だし、だったら雪くんがいつもやってるみたいに“プレーで実力見せつけるしかない”んだよね」
「へっ、本当に負けず嫌いだな。それだけ言えりゃあ大丈夫だ!
大体誰が1ON1でナツ姉や女バスの相手してると思ってんだ?俺だぞ?
ちょっと上手い程度の女子なんて相手になんねーよ。
予言してやる、栄明は20点差以上をつけて勝つってな!」
そう言ってナツ姉の頭にポンと手を乗せて撫でる。
「あ///」
「自分の力と俺を信じろ、ナツ姉と栄明は勝ってインハイに行くってな!
そんで俺達男バスも勝って先ずは県大会アベック優勝だ」
「うん!勝って一緒にインハイ行こう、雪くん!」
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そして迎えた女子決勝の舞台。
男子決勝も同じ会場だが、別コートでやる上に時間も微妙に被ってるから、応援には行けない。
なので朝のウチにお互いのミサンガに激励と必勝祈願をしといた。
「このミサンガが切れるのはまだまだかな?」
「願掛けが全国制覇だからなぁ、県大会優勝で切れるかどうか。まぁ、実力で勝ちゃあ良いし、もし切れたら全国制覇も出来るって事だろ」
「そうだね。よし!雪くん今日は2人とも優勝してインハイだよ!」
「おうよ、時間的にそっちの方が早く終わるから、来れそうなら応援頼むわ、勝利の女神としてな」
「分かった!」
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さぁ決勝が始まる。
去年の雪辱もあるし、私やチームに対して侮った発言もあった。
それら全てを勝って晴らしてやる!
ティップオフ!
先ずはこちらのボールになる。パスを受け取ると私を「大したことない」と言っていた8番の選手が「10番OK」とチェックに来る。
確かに良いディフェンスだし、抜くのにも苦労すると思う。でもそれは「今までなら」って話だ。
ほぼ毎日雪くんと1ON1をしている私にとって、パワーもスピードも高さも足りない。
「宜しく、ちゃんと着いてきてね」
「は?何を言っ」
彼女がそう言い切る前に、上半身のフェイントと1回のクロスオーバーで置き去りにする。
「え?」
と唖然としている彼女を尻目にドリブルで進むとディフェンスが寄ってくる。
こちらに人を割いた分、スペースが空く。
そこに走り込んだフリーの渚にパスすると、冷静にジャンプシュートを決めた。
「渚、ナイッシュー!」
「ナツもナイスパス!」
「気を緩めない!まだまだ行くよ、2人とも!」
「「ハイ!」」
次は8番の選手がドライブを警戒して下がったのを見て、いつか雪くんにやられたプレーをここでやる。 流石にスリーは難しいから普通のシュートだけど、冷静に撃って決める。
試合前のプラン通りに行かず、修正が間に合ってない籠原は浮き足立っている。
今の内に差を広げておきたい。
第2Q終わった時点で43-35と8点差で勝っている。
でも雪くんは「20点差以上付けて勝つ」って言ってくれた。
彼がそう言うからには、第3Qと第4Qでそれだけの差を付けるだけの力が私たちにあると確信しているって事だ。
まだ実感は無いけど、彼と自分たちの力を信じて全力でプレーするだけだ!
ビィーーー!
さぁ後半開始だ、気を抜かず油断せず行こう。
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こんな筈じゃ無かった。
準決勝を見た限りだと、以前練習試合をした時から殆ど成長してなかったのに、それが今は彼女ー栄明の次期エースである鹿野千夏さんーのプレーに着いて行けずに翻弄されてしまっている。
ー大したことないですねー
ー私がつけば問題ないかとー
ー正直期待外れですー
皆の前であれだけ言い切ったのに、蓋を開ければこのザマだ。
第3Qも後2分弱で終わると言うのに、68-54と10点以上も差を付けられてしまっている。
せめて1桁に抑えて最終Qを迎えなければ、逆転はかなり厳しくなる。
そう思った瞬間、鹿野さんにボールが渡る。
ここで勢いを止めて流れを引き寄せる!
そう思った私の思考を見透かしたかの様に、アッサリとパスを出されてしまう。
それは3ポイントラインの外で待ち構えていた栄明の部長に渡り、スリーを決められてしまう。
これで17点差、基本的に取って取られてを繰り返すバスケットボールと言うスポーツに於いて、残り時間を考えるとかなり厳しい。
私個人が負けるのはともかく、チームが負けるとインハイで引退する3年生とは最後になってしまうから諦める訳にはいかない。
その思いも虚しく、2点ずつ加えた73-56で最終Qを迎える事になった。
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最終Qが始まった。
点差は17、もう少しで雪くんが予言した20点差になる。
でも相手は去年の県代表の籠原学園だから、油断は出来ないし余裕なんて全く無い。
「千夏、まだ行ける?」
「はい、大丈夫です。伊達に雪くんに鍛えられてませんから!」
「おーおーナツも言うねぇ、愛の力かな?」
「ちょっと渚!そんなんじゃないってば!////」
「それだけ騒げるなら大丈夫ね。最後まで気を抜かずに全力で行くよ!栄明ーーーファイ!」
「「「「「オーーー!!!」」」」」
そして始まった運命の最終Q。
籠原からも最後の力を振り絞り、持てる力の全てを出し切って勝つんだ、と言う気持ちが伝わってくる。
でも私たちだって全国に行きたい気持ちは同じ、いや、もっと強い。
負けたら引退する3年生も居るから、このメンバーで戦えるのは勝ってインハイに行った時だけだ。
去年も負けた相手に、また負けるなんて冗談じゃない!
渚からパスを受けてマッチアップ相手の8番を見る。
目はまだギラついていて死んでいない。
が、明らかに息切れしてきて動きに精彩がなくなっているのが目に見えて分かる。
ーここが勝負所だ!ー
そう直感した私は、試合を決めるべく8番に対して勝負を仕掛ける。
雪くんなら間違いなく相手のエース級に止めを刺し、抵抗する気力すら奪う筈だ。
試合開始当初にやったフェイントに反応した所でロールターンで逆を突くと、相手は踏ん張り切れずに倒れる。
所謂アンクルブレイクだ。
そしてフリーになった私はドリブルでゴール下に入りレイアップを決める。
これで84-64、20点差だ。
籠原の8番は体力的にも精神的にも限界で、自力で立つのがやっとらしく控えの選手と交代する様だ。
俯いた彼女の表情は分からないが、肩を震わせている事から汗だけじゃなく、恐らく涙も零れているのだろう。
これがスポーツの残酷な1面なのは確かだ。
だからと言って情けを掛けるのは筋違いだし、相手がどんな状況であっても全力を出すのが礼儀だ。
交代で入った選手は8番程の圧は無く、私はそれまでより自由にプレー出来た。
そしてその瞬間はやって来た。
ビィーーー!
『試合終了ーーー、92-67で栄明高校の勝利!今年の県女子代表は、県立栄明高校ーーー!!!』
ワーーーーッ!と、部員も客席も歓喜の渦に飲み込まれる。
「やったよ、ナツー!全国だよ!!」
「去年の雪辱を晴らせた!先輩たちに良い報告が出来る、本当に皆よくやった、お疲れ様!」
次々と喜びを口にして健闘を称え合う。
そこへ籠原の8番の選手が近付いてくる。
「鹿野さん、おめでとう。私は貴女を、いえ貴女たちを甘く見過ぎていた。その結果がこれだから言い訳1つも出来ない。インハイも頑張って下さい」
「ありがとう。
私は以前から貴女のDFに苦しめられていた。
でもそれを攻略出来る様にしてくれた人が居る。
全国では貴女たちの想いも背負って戦うと誓います」
「・・・今回はお任せします。でも私たちも鍛え直して次は勝ちます!」
「私たちも更に鍛えるから、次も負けません!」
暫く視線を合わせていたが、2人一緒に笑ってしまった。
「良かったら連絡先交換しない?チームとしてはライバルだけど、個人的には貴女と仲良くしたいと思ってる」
「良いよ。ライバルだからって常にギスギスしてるのは嫌だしね」
「じゃあこれで。インハイ終わったら練習試合組んで貰う様に頼んでみる」
「分かった。私も監督に話しておく」
そう言ってお互いチームメイトの元に戻る。
「良かったの、ナツ?準決後にあんな事言ってた相手なのに」
「良いの。あの言葉も勝ちたいからこそ出たんだろうし、自分でその非も認めてたから。
それより男子の試合は今どうなってるの?」
「ベンチ外の子に先に見に行って貰って今メッセージが来て、もう直ぐ第3Qが終わるって」
「行こう!私たちが優勝したんだから、男子にも優勝して貰わなきゃ!」
私は勝ったよ、次は雪くんの番だね!
はい、原作通り女バスはインハイ出場を決めました。
原作だと全く決勝の描写が無かったので、試合描写は完全に捏造です。
さて、優勝を決めた千夏は雪の応援に向かいましたが、その先で見た光景とは一体。