アオのハコ ~鶴は鹿の元に舞い戻る~   作:お面ライダーよっしー

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雪と千夏がインハイ出場を決めた裏で、大喜のインハイ出場を掛けた予選が始まっていた。


EP22 大喜のインハイ予選

 

インハイ予選が始まり試合の為に会場入りした俺は、針生先輩と待ち時間に話していた。

 

「6月半ばでこの暑さ・・・夏が恐ろしいですね」

 

「窓も碌に開けられないしな。さてと」

 

「どこ行くんですか?」

 

「・・・兵藤くんの試合。お前も来た方が良いぞ」

 

兵藤って、針生先輩が全敗してる・・・

 

「お、針生じゃないか。わざわざ負けに来たのか」

 

「兵藤くんこそ。奪わせるトロフィー返還して頂いて」

 

「返したのは運営にだが?」

 

「ホント、伝わんねーなぁ!」

 

「ま、見に来たなら少しは対策考えるんだな」

 

 

「流石に凄い自信ですね」

 

「実際凄いからな。

俺は変化球的なプレーしか出来ないけど兵藤さんは変化球も直球も打てる人で、ゲームみたいに能力値があったとしたら、技術・センス・フィジカル・スピード・etc...全ての能力がバランスよくカンストしてるのは、あの人くらいだよ」

 

そう話しながら試合を見る。

 

他校の生徒には「当たらなくて良かった」と言う人も居る。

 

ふと大喜に目をやるとワクワクした目で見ながら脳内シミュレーションをしているのだろう事を口に出していて、全くビビってなかった。

 

そんな大喜を見直すのと共に、少し頼もしく思った・・・本人には言わないが。

 

「口で言うのは簡単だよなぁ、プレーで語ってもらわんと。まぁ強ぇーってのは分かってたし、アップしに行くか」

 

「はい!」

 

移動中、ベンチで寝ている人が財布を落としていたので声を掛ける。

 

「あのー、ポケットから財布落ちちゃってますよ」

 

「え、あー、これはご親切に」

 

「いえ!気を付けて下さいね」

 

「大喜ー、行くぞー」

 

「!それじゃ」

 

 

「・・・親切な人だったな」

 

「あ、居た。遊佐ー、またこんなとこで寝て。監督呼んでたぞ」

 

「え、あー」

 

ーけど優しい人って、バドに向かないんだよなー

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

針生先輩と組んだダブルスで佐知川の兵藤さんペアとの試合に臨んだ俺は、終始圧倒されながらもチャンスでスマッシュを打った。

 

が、それはわずかにラインの外に落ちてしまい、ゲームを取られてしまう。

 

結局次のゲームも取られてしまい、負けてしまった。

 

  ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「1ゲーム目のスマッシュ外したのと、あのプレーが最初から出来てたらなぁ」と思い返す。

 

ピロンとメッセージが届く、雛からだ。

 

ー明日差し入れ持ってってあげるから、ちゃんと勝ち残りなさいよね!雛さま特製弁当作ってあげるーー

 

ー雛って料理出来たっけ?ー

 

ー失礼な!少しくらい出来ますってーのー

 

ー分かった、楽しみにしてる。ありがと雛ー

 

ーな、何か妙に素直で怖いんだけど、この雛さまに任せなさい!じゃあ明日の為に早く寝なさいよ、お休みー

 

ーお休み、雛ー

 

不思議とパワー貰えた気がする。

 

明日はシングルス頑張るぞ!

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「いいか大喜、俺と当たるのは決勝。その前にお前は準決で兵藤さんを倒さないといけない。ダブルスで負けたとは言えー」

 

「大丈夫です。全力で勝ちに行くだけなんで!」

 

「ダブルスであの人と戦って負けて、もっと弱気になると思ったけど。大喜らしいな」

 

ー勝ちたい。相手が全国トップの強敵でも、粘って食らいついて最後まで全力で。

雛だって千夏先輩だって、それこそ高校トップレベルであろう雪だって、きっとそうやって戦ってるはず。だからー

 

そんな気持ちで臨んだシングルス

 

「ゲーム!21-11、21-13、佐知川高校 遊佐くん」

 

ーえっ、もう終わり・・・?ー

 

「ありがとうございました」

 

試合後の挨拶を済ませる。

 

「あ、負けたら審判しないと・・・」

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

昨日の約束通り大喜の応援に来た・・・んだけど。

 

目にしたのは大喜が負ける所だった。

 

「あれ?終わったの?」

 

「蝶野さん」

 

「匡くん・・・」

 

「ねぇまだ試合あるんだよね?ブロックごと総当たりみたいな!大喜まだエンジンかかってなかったし」

 

「ないよそんなの」 

 

西田先輩が言う。

 

「でも、大喜・・・頑張ってたのに・・・」 

 

「君も選手なら分かってるでしょ。むしろ君の方が知ってるでしょ?大会は一瞬、自分のプレー出来るかどうかも実力のうち。頑張ったから、努力したからでは評価されない」

 

ーそれがスポーツだろー

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

廊下で俯きながら椅子に座っている大喜を見付けた・・・けど、なんて声を掛けたら言いか分からず黙っていると

 

「声かけろよ、だるまさんが転んだでもやってるのか」

 

と、寂しそうな笑顔で向こうから言われた。

 

「そんな子供っぽいことしませんー」

 

「いつもひざカックンしてくる奴がよく言うよ」

 

「そんなこと言って良いのかなー?折角差し入れ持ってきたのに」

 

「え 本当に弁当作ってきてくれたのかよ」

 

「そう思ったけどめんどくさいから、市販のお菓子とか!」

 

「お、そりゃあ安心して食べられる。生き延びたー!」

 

「はぁん?何か言ったかい?」

 

「イエ,ウレシイナーって・・・ごめんな、わざわざ持ってきてくれたのに」

 

「・・・別に良いけど」

 

「正直さ、今の俺じゃあインハイは難しいと考えたこともあった。

でも雛や千夏先輩、雪が頑張る姿を見て目標が高い方が頑張れる、目標に向かってとにかくやるしかないって気持ちになったし、針生先輩から1ゲーム取った時なんか実際上手くなったと思うし、本当にインハイ行けるんじゃないかと思った。 

けど、それって結局自分の事がちゃんと見えてなかったのかもな」

 

ーそうやって前だけ向いてがむしゃらに頑張る所が大喜の良いところじゃん・・・ー

 

結局シングルスは佐知川の兵藤さんが優勝、針生先輩が準優勝だった。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

気を利かせてくれたであろう雛と会場で別れて、俺は1人で帰路に着いていた。

 

「ただいまー」

 

「あらお帰り、大喜。そうそう千夏ちゃんと雪くん勝ってインハイ決めたって優花から連絡あったわよ」

 

「え、マジで!?有言実行するとかあの2人ってやっぱり凄いな・・・でも俺は負けてインハイ行けなかった。ちょっと走ってくる!」

 

「え?ちょっと大喜!?気をつけてね!」

 

雛も千夏先輩も雪も本当にすげーと思う。

 

なのに なのに なのに・・・

 

だけど、俺は負けた。

 

置いてけぼり感を拭えないまま、俺はただ走り続けた。

 

そしてもう1つの戦いが始まる。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 

 

インハイ予選が終わって数日後。

 

「もう無理だ、限界なんだ。俺は諦めるしかない、期末試験なんて・・・何で大会明け直ぐにテストなんだよ」

 

「だからコツコツやれってあれ程」

 

「コツコツやるって言うのが1番難しいんだよ、簡単に言うけどね君・・・分からないだろうね」

 

「それは良いとして部活行くぞ」

 

「テスト期間も部活あるし帰ってから勉強なんてやる気起きないって」

 

「筋トレは出来るのに」

 

そう話しながら体育館に向かう途中で雛が前を歩いていた。

 

「雛!」

 

「話しかけないでもらえます?今英単語以外に頭使う余裕ないんだから」

 

「仲間が居てくれて嬉しいよ」

 

「仲間にしないでもらえますー?私赤点取ったこと無いもん」

 

「俺だって赤点は・・・!」

 

「中2の前期」

 

「あれは腹痛で」

 

と、わーわー騒ぎながら体育館に着くと既に声が聞こえてくる。

 

中に入るとバスケ部が練習していた。

 

「インハイまで2ヶ月ないもんな。夜も延長して練習してるし」

 

千夏先輩も必死な顔で練習している。

 

インハイ出場決めた翌日、体調不良で休んでた雪も練習に参加して相変わらずの無双っぷりを披露していた。

 

そして同じ1年の鳴瀬くんに、鷹尾くんや陣くんと一緒に入部当時から基礎から教えている。

 

「相変わらず面倒見が良いよなぁ、雪って」

 

「スキルはピカイチだし聞かれた事は何でも答えるから、上級生も意識変わって普通に聞きに行ってるからな」

 

「俺たちも負けてられんな!」

 

そう言って体育館に入って行く大喜。

 

「あぁは言ってるけど、やっぱり落ち込んでるよね。この前の県予選で負けて本人は想像もしてたみたいなこと言ってたけど、千夏先輩はインハイ決めたんだし」

 

「先輩とはあまり話せてないみたいだな。テストと部活のすれ違いに、先輩は雪の看病もあったし」

 

「そっか」

 

沈んだ表情の蝶野さんを見て、ーここで喜べるような奴ではないんだよなーと、再確認する。

 

「ま、大喜なら大丈夫だって。何があっても直ぐ回復するのがあいつの長所なんだし」

 

「そうだよね」

 

 

 

「それじゃ改めて、針生健吾くんインハイ出場おめでとう!!

と言う事で一段落したので、それぞれ目標を書いて壁に貼るように」

 

先生のその言葉で皆が各々目標を書いていく。

 

「俺はどうしようか・・・」

 

少し考えて書いたのが

 

ースマッシュの精度を上げるー

 

だった。

 

インハイ予選でのダブルスで外したスマッシュが頭を過ったからだ。

 

「スマッシュとは書いたものの、全ての精度を上げてスタミナもつけなきゃな。そして・・・」

 

ー来年こそ、シングルスでもダブルスでもインターハイに出場するー

 

と、心に誓う。

 

それと

 

ーもし来年も雛が応援に来てくれるなら、勝って格好良いトコ見せないとなー

 





おや?

千夏先輩より雛の事を先に考えるようになって来た様ですが、大喜くんの胸中やいかに。
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