アオのハコ ~鶴は鹿の元に舞い戻る~ 作:お面ライダーよっしー
それは唐突に訪れた。
「スイマセーン、4月からここの高等部でバスケ部に入る事になったんで俺も混ぜて貰えませんか、先輩方」、と誰も来ないと思っていた所に現れた急な訪問者に2人してビックリしてしまう。
「あっはっは!誰も来ないと思って油断してたでしょ。ちゃんと周りにも意識割かないと直ぐボール取られますよ」
うん、その通りだけど一応授業時間内だからキミってサボりでは?と思った私は間違ってない筈。
「え、キミ4月からって中等部は?」と渚が疑問を口にする。
すると、「あぁ、俺この前までアメリカに居て先日帰って来たんですよ。向こうは大体5月末から6月頭くらいが卒業時期なんで、時期がずれてるから一応ここの図書室で中学の復習と高校の予習、部活の先行参加を認めて貰ってるんです」
ーまぁ、まだ色々とやる事があるんで毎日じゃないですけどねー、と続ける彼。
それを聞いて、ドクン!と鼓動が跳ねる。
え?アメリカから帰って来た?来年の4月から高等部なら1つ下って事だよね?、と感情がザワつく。
まさかまさか、そんな都合の良い話がある訳が無い。そう思いつつもその後輩くんを改めて見る。
背は結構高い、180センチは超えてる。
そして「彼」と同じで、驚く程に綺麗な白い肌。
これは女子としてちょっと悔しいかな。
今では記憶も朧気だった「彼」の顔だが、後輩くんを見てると「彼が成長したら、きっとこんな感じになるんだろうな」と、不思議とスッと胸に落ちた。
「へー、そうなんだ、なら折角だし1ON1やろうか?」
「お願いします、先輩方!」
「渚、私が先にやりたい」
今までずっと黙って見てたけど、どうしても確かめたい。
「こんな偶然、都合良過ぎてまさかとは思う。でも本当にそうなら1ON1をやれば気付いてくれる筈、期待、しても良いよね?」と小声で呟く。
「ハイ、お願いします、じゃあ先攻はどっちが?」
「私から行くね」
「OK」
そして始まる1ON1
・・・レッグスルーからのクロスオーバー、そしてチェンジオブペースとあの頃よくやったフェイントを使う。
子供だから簡単に通用してたけど、これで抜く事が主目的じゃ無い。
もしこの後輩くんが居なくなってしまった「彼」だったなら、私のこのプレイで気付いてくれる筈。
そんな一縷の望みを掛けたフェイントからのドリブルを見て、一瞬気が抜けた様に見えた彼の右脇を駆け抜けてシュート、した筈だった。
が、ボールは叩き落とされる。
攻守交代。
擦れ違う時に「彼」が言った言葉に目を見開いてしまう。
ーナツ姉、凄く上手くなったね。でも俺もかーなーり上手くなったから負けてやんないよー
あぁ、この生意気な口の利き方、成長して精悍になったが人懐っこさを残した笑顔は間違いなく「彼」、私の幼馴染みの鶴羽雪だ。
帰ってきたんだ、しかも子供にはどうする事も出来ない理由で1度は守れなかった約束を守る為に、栄明に来てくれた。
その事実が嬉しくて、もう叶わないと思って1度は諦めた約束をまだ叶えられるのかと思うと感極まってしまった。
目の前でボールを持ったまま雪くんが固まったと思えば、「「えぇーーー!」」と渚と息ピッタリで叫び出す。
そんなに慌ててどうしたんだろう?
「ナツに何を言ったの?セクハラ?」
「じゃあ何でナツはあんなに泣いてるのよ」
と言っているのが聞こえて「あ、私泣いてたんだ」と気付いた。
雪くんが約束守る為に帰ってきてくれた事が嬉しくて、自然と泣いてしまっていたようだ。
でもね、初対面なのに2人とも息ピッタリ過ぎじゃない?ちょっと悔しいんだけど、むぅ。
そう思い2人に近付くと何故だか萎縮されて、渚は「先生に用があるから」と体育館から出て行ってしまった。
まぁ後で部活で会うからお仕置きはその時で良いか、と雪くんに向き直る。
すると彼は「ナツ姉、ちょっと不穏な空気醸し出してるけど一言良いか?」と言う。
「何かな?女たらしの鶴羽雪くん」
と少し意地悪な返事をする。
でも彼の口から出た言葉は、「約束、守りに来た・・・ただいま」だった。
本当にズルい。
キミが居なくなってしまったあの頃から、私が一番欲しかった言葉をただ真っ直ぐに笑顔で伝えてくれるから、さっきの渚とのやり取りを見て生まれたこのモヤモヤも直ぐに晴れてしまう。
だから私も笑顔でこう言うんだ。
「おかえり」
多少のご都合主義はご愛敬って事で(白目)