アオのハコ ~鶴は鹿の元に舞い戻る~ 作:お面ライダーよっしー
先に朝練に向かった千夏からあるメッセージが届く。
そしてこれから雪と千夏の2人に、不穏な空気が漂う事になるとは誰も想像し得なかった。
期末試験も終わって数日。
ナツ姉が朝練の為に先に学校に向かった。
暫くしてメッセージが届いた。
ー今日はバレー部が練習試合するから体育館使えないって。その代わりプール掃除して終わったら水張って使って良いって先生が言ってたけど、来る?ー
ふむ、掃除後に水張って泳いで良いなら全身運動になるし悪くないな。
よし、海パン履いて行こう。
ありがちな着替えを忘れるなんてお約束はやらん。
ー今から行くわ。皆プール掃除してんの?ー
ーバド部もやってるー
ー分かった、今から行くから皆に宜しく言っといてー
ー気を付けて来てねー
そうメッセージを送ってくるナツ姉。
「心配し過ぎなんだよなぁ」
そう良いながら忘れ物が無いか確認する。
タオル✕2、バスタオル✕1、着替え一式OK、大事なおパンツOK。
「ま、今日は練習しないからこれで良いだろ。さーて学校行って掃除さっさと終わらせて、プールに水張って泳ぐぞー!・・・っと、おパンツと同じくらい大事な日焼け止め忘れてたわ。まだそこまで日差し強くないけど念の為塗っとかないと、後で地獄を味わうからな」
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「お、雪、来たのか」
プールの傍に行くとハリーさんに声を掛けられる。
「お、ハリーさん。進捗具合はどんなもん?」
「半分くらいかな。お前もやってくれるんだろ?」
「モチのロンよ。終わったら泳いで良いんだろ?
全身運動だから、普段使わない所も鍛えられるしな」
「鶴羽よー、残念ながら女子は泳がないから水着姿は見られないぞ~。で、誰が良いんだ?やっぱマドンナ様か?俺としては船見も中々良いと思うんだがwww」
「おーい、女性陣!西やんがエロい目で見てんぞー!気を付けろよー!!」
「ばっ、ちょっおま、何て事言うんだよ!?参加してる女性陣全てが敵に回るじゃねーか!」
「自業自得だよ、西やん。彼女たちの冷たい視線を浴びて存分に涼んでくれやw」
「にぃしぃだぁ~~!?そこに直れ!デッキブラシで槽内共々、キレイに汚れをこそぎ落としてやる!」
「ヒィイイー!お許しをーーー!」
と叫びながら隅に逃げていった。
「もー、雪くん、脅かし過ぎだよ」
「えー、西やんがエロい目で見てんのが悪いんだろ?」
「そうだよナツ。雪くんが正しい。で、雪くんはナツがそんな目で見られたから、ああ言ったの?」
「ん?いや、ナツ姉だけじゃなくてナギちゃん先輩含めた全員に失礼だろ?あの言い方は。
ま、健全な高校生男子として気持ちは分からんでもないけどな。じゃあ俺は掃除しに行くからまた後で。
おーい、西やん、フォローはしといたからなー」
「おお!マジか鶴羽、いや鶴羽様、ありがとうございます!」
「ただ日頃の行いのせいで怒られても、そこは関知しねーからな」
「ぬか喜び!?鬼、悪魔、鶴羽!」
「ほ~う、西やん。フォローした事実はスルーか。
よ~し分かった、この件新聞部の部長に持っていってある事無い事、面白おかしく記事にして貰おうじゃねーか!」
「ま、待て、待ってくれ鶴羽。あの人に持っていくのだけは止めてくれ、この通りだ!」
濡れたプールの底で土下座する西田くん。
「仕方ねーなー。先輩にそこまでされちゃあ、幾ら俺でもこれ以上大事には出来ねぇ。分かった西やん、もう終いだ」
「ありがとう、鶴羽!」
「良いって事よ、さぁちゃっちゃと掃除終わらせて泳ごうぜ、西やん」
そう言って西田くんに手を差し出し、立ち上がらせる雪くん。
「ホント、こう言う所だよねぇ」
「どう言うこと?渚」
「あんたは知らないだろうけど、雪くんは性別学年問わず困ってる人が居たらしれっと助けたり手伝ったりしてるから、人気があるのよ」
ー特に女子にはー
「え?そんなの知らないし雪くんも何も言ってない」
「多分、告白しようと思ってた子も居ただろうね。でも実際には誰もしてない」
「何で?人気あるんでしょ?」
「・・・これだよ。
いい、千夏。雪くんに1番近い女子生徒は“栄明のマドンナ“と呼ばれてるあんたなの!だから他の子はアンタと雪くんが付き合ってると思って諦めてるの!分かった?」
「え////そ、そうなの?」
「私たちは幼馴染みって知ってるから良いけど、知らない生徒、特に男子は絶望してる生徒が相当数居たわ。で、早上がりした日、あれからどうなったの?」
「あ・・・////ト,トクニ、ナニモアリマセンデシタ、ヨ?」
「明らかに何かあったでしょ!?その反応は!」
「フラついた雪くんを支え切れずに、ベッドに押し倒す形になっただけ」
「あ、あんた、遂にそこまで・・・」
「それだけだからね!?直ぐ離れたから、それ以上は何も・・・」
「まぁ良いわ。あんたが本当に何か出来るなんて思ってないし」
ーほっぺにキスはしましたー
とは流石に言えなかった。
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「さて、西やんイジりはもう止めにして、真面目に掃除しますかね」
そう言って裸足になってデッキブラシを手に取る。
人がまだ手を着けていない所からやるかと思い、周りを見渡すと入り口と反対側は比較的人が少く、汚れも多かったので、いそいそとそちらに向かう。
一応全体的に水は掛けてあるから擦っていくと、苔に覆われて緑色だった壁面の汚れが落ちて白くなっていく。
それを見て、「気持ち良い、チョー気持ち良い」といつかの金メダリストのセリフを真似る。
「何が気持ち良いんだ、雪?」
「おぉ、大喜も来てたのか。いやな、汚れが落ちて綺麗になっていくのを見たら、自然と口から出たんだよ。あー、それより残念だったな」
「・・・うん。
正直悔しくて情けなくてあの夜は布団被って泣いたよ。でも、俺に足りないものがあるから負けたって分かったし、だったらそれを克服して来年はシングルスでもダブルスでも必ずインハイに出るって決めたんだ」
「そうか、畑違いだけど俺に協力出来る事があれば言ってくれ。不可能な事でなけりゃあ手伝ってやるからよ」
「ありがとう雪。お前はインハイ頑張ってくれ!千夏先輩との約束守るんだろ?」
「おうよ、任せとけ!」
ー本当にブレないなぁー
そう思いながらバド部の方に戻る。
「大喜。お前の弱点スマッシュだけじゃないから。この前の県予選の遊佐って奴との試合、お前立ち上がり悪すぎだし足も全然動かせてなかっただろ。あの1年は来年までにまたレベル上げてくるぞ。落ち込んで時間無駄にするなよ」
「はい、すみません」
「大会後から覇気がないんだよ。なっ、ちー先輩」
「何の話?」
「いい天気だなって話」
「?うん、そうだね」
「そんだけ、すまん」
ーおーい、水道のホースこっちにもくれー!ー
「あ、雪くんがホース欲しがってるから行くね」
千夏先輩はそう言って、渚先輩と雪の方へと去っていった
「で、お前そっち(恋愛)は進展してんの?どっち付かずだと結局お前が泣き見るぞ。まぁ話したくないなら聞かないけど」
「あのう・・・脈アリって、何処からなんですかね?」
その言葉を聞いた針生先輩に
ーうわっこいつモテなさそう・・・ー
って顔をされてしまった。
「分かってます、自覚してます!モテませんよ!!しかし一般的に何か基準はないのかなぁ、と思いまして。例えば名前呼びされるとか同じ部屋に2人きりで居られたらとか」
ーこいつこれで本当にちーに行くのか?マジでか?ー
「あのな。そんなん人によるだろとしか言えんぞ?
いやでもお前の場合、優先順位としてはちーだろ?
男子とも普通に話すし、男女分け隔てなく仲良いと言うか。
まぁ流石に脈がないと、相手に触れたりとかは自分からしないだろうな。その辺の距離感は保ってると言うか。
まぁ、例外があるとすれば雪だな。
何だかんだ言って幼馴染みだし、子供の頃に約束した相手だから、1番気を許してるのは間違いないだろ」
「そうですよね。雪は俺が千夏先輩を好きだと知ってて色々と手助けしてくれますけど、あいつ自身は千夏先輩をどう思っているのかがサッパリ分からないのがなぁ」
そう言って千夏先輩たちとホースで水を撒いて喜んでる雪を見やる。
「あれ?」
「どうしたんですか、針生先輩?」
「いや、雪とちーって同じミサンガ着けてないか?あれ」
その言葉を聞いて2人の足元を見ると、確かに同じミサンガを着けている様に見える。
ーえ?お揃いのミサンガを着けてるって、どちらかが送ったのか一緒に買いに行ったって事だよな?
雪にそんな素振りが無かったのは確かだから、千夏先輩が雪に送った可能性が高い。
じゃあやっぱり千夏先輩は雪の事が・・・ー
「ーぃ、おい、大喜!」
針生先輩に呼ばれて我に返った。
「お前、お揃いのミサンガ着けてるってだけでショック受け過ぎだろ」
「でも、雪にそんな素振りがなかったのは確かだし、なら千夏先輩が雪に渡したって考えるのが自然ですし」
「あのな、確かにそうかも知れんがあいつらは全国制覇が子供の頃からの約束なんだろ?
なら、その約束が叶うようにって同じミサンガ着けてもおかしくないだろ。お前は入れ込み過ぎてるから、深く考え過ぎるんだよ」
確かにそうかも知れない。
雪にしたって、わざわざミサンガについて自分から説明する義務も必要も無いんだし。
その時だった
「あれー、鶴羽くんや?」
「何だい西やん?」
「今気付いたけど、そのミサンガ鹿野さんとお揃いじゃね?どう言う事なのかなぁ~?w」
西田先輩がこれだけ人が居る場所で、女子が食い付きそうな話題としてぶっ込んで来た。
周りからも「え!?お揃いのミサンガ?」「2人ってやっぱりそういう関係?」「鶴羽ぁ、うらやまけしからん!」等々騒ぎ出した。
当の2人を見ると千夏先輩は「え、え?あの、その」と慌てて真っ赤になってるが、雪は至って平然としている。
この差は何だ?
そう思った時、雪が
「あぁ、これか?
変な誤解されても困るからちゃんと説明するわ。
俺とナツ姉は子供の頃に栄明で全国制覇するって約束をしたんだが、俺が家の都合でアメリカ行きになってそれが果たせなくなった。
・・・筈だったんだが、去年父さんの本社異動で俺が帰国して栄明に来る事になったから、2人で全国制覇の約束を果たす為にその祈りを込めたミサンガをくれたって訳。
俺とナツ姉が幼馴染みってのを知ってるなら、特におかしい事はないって分かるだろ?」
余りに淡々とした説明をする雪に対して、納得するしかない西田先輩。
「西やんさぁ、健全な男子高校生として色恋沙汰に興味あるのは分かるけどよ。せめてTPOくらい弁えて話そうぜ?
俺は気にしないから良いけどよ、ナツ姉みたいな人気者がそんな下世話な話に巻き込まれたら、ファンから集中砲火浴びても文句言えねーぞ?」
「そうそう、それに西田。雪くんをからかい過ぎると、この前の私たちみたいになるからね?」
「いやいや何言ってんの?ナギちゃん先輩。女子だからあの程度で済ませてるだけで、野郎だったら毛先程も情け掛けねーよ?俺は」
「い、いや、俺もそこまで突っ込んだ話を聞こうと思ったんじゃなく、ちょっと場を盛り上げようとしただけで・・・」
「分かってる分かってる、西やん。俺もちょ~っとばかり脅かしただけだからな」
「でも鶴羽くん、1つだけ訂正」
「ん?何が?お下げ先輩」
「人気者なのはちーだけじゃなくて、キミもって事。
鶴羽くんが気付いてないだけで女子からの人気って凄いんだよ、それこそちー並みに」
「え、マジで!?そうかー、そりゃあ嬉しいねぇ。遂に俺にもモテ期が来たか!」
ふと周りを見るとナツ姉から表情が消えてて、隣でナギちゃん先輩が「あちゃー」って顔で頭抱えてた。
お下げ先輩はそれを見て、「え?もしかして私、余計な事言っちゃった!?」って慌てている。
「で、どの辺で人気なの?お下げ先輩。ちょっと挨拶行ってくるから教えてk「雪くん、ちゃんと掃除しようか?(ニッコリ)」アッハイ」
こえーよ、目が全く笑ってない笑顔って何なんだよ。
どうやりゃそんな器用な事が出来んだよ。
笑顔は元々威嚇だってのも得心がいくわ。
ま、まぁ今はさっさと掃除終わらせて水張って泳ぐ事を優先しよう。
「さぁさぁ皆の衆、口じゃなくて手を動かして、さっさと掃除終わらせて水張って泳ごうぜ!」
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何だかんだあったが、皆でプール掃除を終わらせて水を張っていよいよ泳ぐ体制が整った。
ハリーさんや西やんは既に泳いでいる。
が、俺はこれからやる事がある。
そう、色白には必須の日焼け止めを塗るのである。
本当に酷い時は火傷レベルになるから、日焼け止めとラッシュガードは必須なんだよ。
ラッシュガードも考えたんだが、今日は陽射しがそこまで強くないし短時間だから日焼け止めだけにした訳だが・・・裏目に出なきゃ良いが。
「さて、日焼け止め塗りますかね」
と言ってTシャツを脱ぐと、「キャーッ♡」と歓声が上がる。
「あービックリした。何だよ女性陣、そんなに見苦しくは無いと思うが?」
「逆、逆!耐性の無い女子にその身体は危険すぎなの、雪くん!」
とナギちゃん先輩が言う。
「そうか、ならよく見て耐性付けてくれや。海やプール行けば俺だけじゃなく、他の男も上裸なんだからよ」
「あいつこの状況で、よく平然と返せるよな」
「本当にそう思います・・・あれ?千夏先輩が近寄って行きますよ」
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ふんふふーん、と鼻歌交じりに日焼け止めを塗っていく。
後は背中だけだし、大喜にでも塗って貰うか?と思ったらナツ姉が寄ってきた。
「あ、ナツ姉、丁度良い所に。背中に日焼け止め塗ってくんね?」
無言で日焼け止めを受け取り、背後に回るナツ姉に疑問を持った瞬間
ーバッチィイイイーン!ー
と言う音がプール中に響き渡った。
「~~~~痛っっっってぇえええ~~~っっっ!!!いきなり何しやがるナツ姉!これ絶対モミジになってんだろ!!」
「女子が恥ずかしがってるのに、デリカシーの無い発言する雪くんが悪いんでしょ!」
「だからっていきなりぶっ叩くこたぁねーだろーが!叩く前に口で言えよ!ホモサピエンスだろ!!」
「口で言っても聞かない処か、雪くんは逆に言いくるめて来るでしょ!だから実力行使したんだよ!」
「あーそーですか!最初っから話す気も無く、俺の事なんか全然これっぽっちも信じてないって事がよく分かったよ!」
「そんな事言ってないでしょ!」
「言ってんだろーが!自分が何言ったか思い返してみろよ!それでも言ってないってんなら土下座でも何でもしてやらぁ!!」
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雪くんの女子に対するデリカシーの無い発言を理由に背中を叩いてしまったけど、それだけじゃなく彼の裸(上のみ)を他の子達が騒ぎながら見てるのと、その前に女子人気があると言われて喜ぶ姿を見て嫉妬したのも大きい。
しかも私の思った以上に力が入ってしまい、白い背中に真っ赤な手形がついてしまっている。
それで言い合いになって、「俺の事なんか全然これっぽっちも信じてない」と言われてしまう。
私も「そんな事言ってない」と意地になって言い返すが、「自分が何言ったか思い返してみろよ!」と言われたので思い返すと、確かに信じているとは言えない物の言い方をしていた事に気付く。
「あ、あ・・・信じてないって言われても仕方ない事言ってた、ごめん、なさい」
「謝れるだけ冷静になったみたいだけどよ、“1度言った言葉は無かった事には出来ねぇ”んだよ、ナツ姉。
確かに俺もノンデリ発言したかも知れねーが、だからと言っていきなり背中ぶっ叩かれて“ハイそーですね、俺が悪かったです、ごめんなさい”とは、言えねーよ。
もう泳ぐ気も失せたから俺ぁ帰るわ、じゃあな」
「え?ちょっと待って、雪くん!」
今はナツ姉と顔を合わせたくなかったから、その言葉を無視して脱いだTシャツを着て、他のメンツに挨拶してプールを後にする。
大喜が何か言いたそうな顔をしていたが、今なら少しはナツ姉を励ませるんじゃねーか?頑張れよ、と心の中でエールを贈る。
「針生くん」
「船見」
「「これ暫く引き摺る奴だ!!」」
「いや先輩たち、そんな事言ってる場合じゃないでしょ!
今までもちょっとした言い合いはありましたけど、今回は完全に喧嘩ですよ!?
しかも千夏先輩が絡んだ大抵の事は直ぐに折れる雪が千夏先輩を放置したまま帰るんだから、余程怒ってるんだと思います」
「でも大喜よ、2人が仲違いしてる今ならつけ込む隙があるんじゃないか?」
「そんなやり方で隣に立っても嬉しくありませんし、何より冷静になった時に俺の存在が異物として認識されかねません。それなら正々堂々と告白してフラれた方がマシです!」
「お前そんな事考えられるのに、何でモテないんだろうな?」
「俺が聞きたいです。それより渚先輩、千夏先輩は?」
「凄く落ち込んでる。もし言いくるめられたとしても、いきなり叩くよりは良かったはずだって言って、部室で休んでる」
「そうですか・・・俺も雪にメッセージだけでも送っときます」
「うん、お願い。いまのナツだと、それも難しいと思うから」
楽しかったはずのプール掃除とプール開きが、まさかこんな事になるなんて、誰も思っていなかった。
それに口では何だかんだ言いながらも、いつも千夏先輩を優先してきた雪が千夏先輩の言葉に耳を貸さずに先に帰るなんて、これは本当にマズいかも知れない。
ハイ、大喜と雛と違って、雪と千夏はかなり雰囲気が悪くなりました。
ここからどう仲直りするのか。