アオのハコ ~鶴は鹿の元に舞い戻る~ 作:お面ライダーよっしー
些細な事で喧嘩になってしまった雪と千夏。
表面上は何事も無い様に振る舞っているが、お互いに気まずいまま謝るタイミングを図りかねて時間だけが過ぎて行った。
ー何か1つくらいお願い聞いてやるから考えとけよー!ー
雪くんが唐突にそんな事を言った。
どうやら昨日の件でのお礼代わりみたいだ。
それは良いんだけど、いざお願いしたいことを考えたら中々に思い浮かばない。
1ON1で鍛えて貰うのは部活でいつもやってるし、そもそも部活は何か違う。
「むむむむ、いざお願いとなると思い浮かばないなぁ」
「さっきの雪くんが言ってた事?」
「うん。急に言われたから何にも思い付かないんだよね」
「あ、デートとかは?」
「え?」
「難しく考えずに、一緒にお出掛けして遊ぼうって言えば、雪くんならOKしてくれると思うけどな」
「で、でも2人っきりで出掛けたら意識しちゃうと言うか」
「寧ろ向こうに意識して貰いたいんじゃないの?」
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ほんの少し前、そんな会話をしていた頃が懐かしく感じる。
数日前プール掃除の後、雪くんと喧嘩になってしまった。
原因は色々あるが、主に私の嫉妬だ。
プール掃除が終わってプールに水を張り、泳ぐ前に日焼け止めを塗ろうと彼がTシャツを脱いだ時、その均整の取れた身体を見た女子たちが騒いでいたのと、直前に女子人気が高いと言われて浮かれた姿を目にしたからだ。
それで碌に話しもせず、背中に日焼け止め塗ってくれと言う彼から無言で日焼け止めを受け取って背後に回り、その綺麗な背中を力を込めてひっぱたいてしまった。
完全に無防備だった彼はまともにそれを受けて激怒して言い合いになって、今に至ると言う訳だ。
うん、どう考えても私が悪いよね。
幾ら彼が嫉妬の原因を作る発言をしたからって、いきなり叩いたのはやり過ぎだったと冷静になった今なら分かる。
ただ言い訳させて貰えるなら、私がそれだけ彼の事が好きだと言う事だ。
それなら、こんな事になる前に告白していれば良かったって?
告白するって、どれだけの覚悟とエネルギーが必要な事か。
断られたら気まずい処の話じゃないし、今の私は彼の家に居候してるんだから尚更だ。
追い出される事は無いにせよ、彼と顔を合わせられなくなる。
あれからずっと謝ろうと思っているけど彼が私をさりげなく避けていて、中々2人きりで話す機会が無い。
部屋のドアをノックしても、「今日は部活で疲れてるからまた今度な」とか言って取り合ってくれない。
そうして謝罪出来ないまま、数日が経ってしまったと言う訳だ。
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プールでナツ姉に背中を叩かれて以降、まともに話してないし顔も合わせてない。
食事中は親に心配掛けない様に最低限の会話はしているが、その際も顔は向けるが目は合わせていない。
鋭い母さんにはバレてるかも知れんが何も言ってこないって事は、俺たちで解決しろと思ってるんだろう。
流石にこれ以上は見過ごせないと判断したら、介入してくるだろうが。
しっかしどうしたもんかねぇ。
俺の女子たちに対する物言いが余り宜しくなかったのは分かる。
分かるんだが、せめてひっぱたく前に言葉で言って欲しかったって気持ちは当然ある。
先日、もしかしたらナツ姉は俺に恋愛感情を持ってるんじゃないか?と思った事を考えたら、あれは嫉妬から来た行為なのかも知れない。
もしそうなら男として嬉しくはあるんだが、やはりどうしても“信じて貰えていない”って感じてしまうんだよなぁ。
「ま、今直ぐどうこうなるもんじゃないし、取り敢えず部活行くか」
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雪くんとの仲直りが出来ないまま今日も1人で部活に来た。
途中で大喜くんに出会うと制服を来ていたので疑問に思って聞いてみた。
「夏休みなのに制服で来るのって珍しいね?」
「終業式の日に雛の発案で、土曜日部活の後に皆で集まって図書館で宿題やろうって事になりまして」
「そうなんだ。他はクラスの子たち?」
「はい、部活関係無くそれなりに仲の良いクラスメイトで集まってます」
ー仲の良いクラスメイトと聞いて、彼が浮かぶー
「じゃ、じゃあ雪くんも?」
「あ、いえ、雪にも声は掛けたんですが、
“は?一緒に宿題だぁ?やってる振りして人が終わらせた宿題丸写ししそうな奴がいるじゃねーか、冗談じゃねぇ。そもそも自分でやらなきゃ結局泣きを見るのは自分だぞ、って雛にそう言っとけ!”
ってバッサリ切り捨てられました(笑苦)」
「あ~、雪くんなら言いそう。自分でやって分からない所を聞けば教えてくれるだろうけど、丸写しとかは本当に毛嫌いしてるからね」
「千夏先輩、雪とはその、仲直りは?」
「・・・出来てない。何か避けられてる感じがする」
「そうですか、俺もメッセージでやり取りはしてるんですが当たり障りのない事だけで、仲直りしろとは中々言えなくて・・・」
「ううん、そうやって気にしてくれるだけでも嬉しいよ、ありがとう。慌てずにインハイまでには仲直り出来るように頑張る!」
「はい、応援してます、両方の意味で!」
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部活が終わり図書館で宿題に励む・・・んだが、雛がいきなり居眠りしてた。
「雛寝るな!」
「寝てないもん!」
「寝てる奴は皆そう言うんだよ!」
「だって数字見てても分かんないんだもん。こんなの絶対習ってない」
「いや、習ってるよ」
「それをXに代入すれば良いんだよ」
「コソッ伊藤の奴ようやく攻めだしたな」
「コソッ蝶野さんの事良いなって、ずっと言ってたもんな」
「夏休みで会えなくなるし、今日はチャンスだから連絡先くらい交換しないと」
「コソッ聞いた?伊藤が雛の事・・・!」
「コソッ宿題しろよ。と言うか、お前は良いのか?蝶野さんに言い寄る奴が増えても?」
「え?それは、その、雛が決める事だし・・・」
「まぁ、後悔しない様にな」
「さて、ちょっと休憩で何か飲んでくる」
そう言って休憩スペースに来ると、魂が抜けた雛が横たわっていた。
「何サボってんだよ」
「サボってるんじゃない、力尽きたんだ」
「だからって寝るなよ」
すると掲示板の方から
「あー!来週花火大会だってー」
「ほんとだ、皆で行こーよ!」
と話しているのが聞こえた。
「俺らも中1の時行ったよな。雛と話すようになったのもあの頃だよな」
「そうだっけ」
「そうだよ、りんご飴想像してよだれ垂らしてた顔見て、女子でもこんな顔するんだって衝撃だったからなー」
「あの時練習で遅くなって、着いたらもうりんご飴売り切れてたからガッカリしてたら大喜が買っといてくれたんだよね」
「買い出し頼まれた時に前通ったらラス1だったからな、念の為確保しといて良かったよ」
「でもあれ以来部活とかで行けてなかったな。何だかんだ言って楽しかったよな」
「また行こうよ。今年一緒行こ、花火大会」
「良いよ」
「本当にー・・・」
「猪股ー、電話来てたよ」
「あ、サンキュー。掛け直してくる、じゃあ今度詳しくな」
「分かった」
「見て、花火大会だってー。どうする?今年は行く?」
「あ、ごめん他の人と行く約束しちゃった」
「おデートでしょうか」
「ちがっ」
「男女2人で花火大会はおデートでしてよ」
「ほんと違うんだよ、向こうもただ友達として・・・」
「楽しめると良いね」
「うんっ!」
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「ナツー、花火大会だけどさ」
「うん?」
「今の所まりことさなとあかりが来るって」
「やったー」
「どうする?男子も誘う?もしかしたら恋的な感情生まれるかも知れないし、絡まれた時盾にもなるし、私はどっちでも良いけど」
「うーん」
「コソッそれに雪くんと仲直りするチャンスも出来るかもよ?」
「・・・じゃあちょっと聞いてみるね」
「はい、行ってらっしゃい」
部活中の今なら避けられない筈だ、そう思って声を掛ける。
「ね、ねぇ雪くん、花火大会だけど一緒に行かない?」
「ん?女子だけで行くんじゃねーの?」
良かった、普通に話してくれてる。
「渚と話してたんだけど、女子だけだと絡まれたりすると困るし、その、恋愛的な感情が生まれるかも知れないからって」
「ふーむ、確かにウチの女バスは見た目のレベルも高けーから、祭りに繰り出してる変な奴らにナンパされる恐れはあるな。
取り敢えず何人くらい居んの?」
「今の所5人だから、大体同じくらいが良いと思う」
「そうか、学年は関係無くて良いのか?」
「ちょっと待って、渚ー」
「どうしたのナツ?」
「今雪くんと話してて、数は合わせるとして学年はどうなのか?って聞かれたから」
「んー、学年も人数も別に関係無いと思う。合コンする訳じゃないし」
「そうか、じゃあ俺・カズ・ソーゴ・テツの4人で良いか?」
「うん、大丈夫だよ。詳しい事はまた連絡するね」
「おー、分かった。で、ナギちゃん先輩はカズとはどうなん?」
「どどど、どうって?」
「いやー、カズも何だかんだナギちゃん先輩の事を良いなーと思ってるみてーだしよ、ちょっとでもそんな気があるなら距離縮めても良いんじゃないかってな。
あ、勿論からかってないぞ、これに関しては」
「え////そうなの?本当に?」
「マジです。本人に無断で言うのもなんだとは思ったんだけど、ちょいとお節介焼きたくなってな」
「うん、たくさん話してみる」
「おう、頑張れな。じゃあまた連絡頼むわ」
「雪くん!」
「うん?」
「あの、この前はごめんなさい」
しゅんとしているナツ姉を見ると申し訳なさが湧いてきて、つい俯いてる頭をポンポンとしてしまった。
バッと顔を上げるナツ姉。
「俺もちょっと言い過ぎたと思ってる、ごめんなナツ姉。いつまでも意地張ったまま喧嘩しててもインハイにも悪影響しかないからな。お互い謝ったしこれで終わりにしようぜ」
「うん!」
「花火大会行く前に仲直り出来て良かったね、ナツ」
「渚が言ってくれなかったらまだ仲直り出来てなかったと思う、本当にありがとう」
「相棒だからね!」
「頼りにしてます!」
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ナツ姉と仲直りしてホッとしたのもあり、休憩の為に外の風に当たりに来たら、ニヤけた顔の雛が居たので声を掛ける。
「お、どうしたよ雛?何か嬉しそうだな?」
「あ、雪。花火大会に大喜を誘ったんだ。そしたらOKしてくれた!」
「おー、そりゃあ良かったな。でもちゃんと2人でって言ったんだろうな?言ってなけりゃああいつの事だ、“他に誰が来るんだ?”とか言いかねんぞ?」
ニヤけた顔のまま、サーッと雛の顔色が変わる。
「お前、まさか!?」
「誘う事で頭一杯だったから、2人でって言わなかった・・・」
「マジか!?・・・今からでもちゃんと伝えろ、まだ間に合うから!」
「恥ずかしくて無理だよ今更。どうしてこんなミスしちゃうんだろ、・・・」
そう言って泣きそうな顔をする雛。
「あ~、分かった、俺が何とかしてやるからそんな落ち込むな」
「え、でも」
「約束しただろ?サポートしてやるって。だから待ってろ」
そう言って体育館に戻り大喜を探すと、丁度コートから出て小休憩する所だった。
「おーい大喜ー、花火大会ってどうすんだ?」
「え、あぁ雛に誘われたから一緒に行くつもり。だけど他に誰が来るんだろ?雪は?」
「俺はカズ達と行くから別だ。それより雛に誘われた時って周りに他の誰かは居たか?」
「いや、俺と雛だけだったけど、それがどうしたんだ?」
やっぱりこいつ勘違いしてやがったか。今さっき雛と顔合わせといて良かったぜ。
「は~ん、なる程ねぇ」
ちと、わざとらしいくらいに思わせ振りな言い方をする。
「何がなる程なんだ?雪」
よし、食いついた、こうなりゃこっちのもんよ。
「あのな大喜。周りに人が居ない状態で一緒に花火大会に行こうなんてのは、デートの誘いだと思え。
しかも女子から言うなんてのは、どんだけ勇気振り絞ってる事なのか考えろ。ここまで言えば後は分かるな?」
「はぁ!?え、雛はデートのつもりで俺を誘ったって事?」
「多分な。あいつの性格上、皆で行くつもりなら最初から他の奴らにも声掛けてて、○人で行くからー!って言う筈だからな。お前を誘う事でいっぱいいっぱいで、2人でって伝え忘れたんだろうよ」
「そ、そうなのかな?どうしよう雪?」
「どうもこうも行きゃあ良いだろ、普通に。ナツ姉と水族館デートした奴が何言ってんだよ?」
「あ、あれは俺が賭けに勝って知らない人に連絡先渡さずに済んだお礼だと思ってるから、今回とは全然意味が違うんだよ!」
「なら尚更行ってやんねーとな。さっきも言ったが雛がどんだけ勇気出してお前を誘ったかをちゃんと考えろ。お前がナツ姉を誘うと考えたら、それがどれだけしんどいか分かるだろ?」
「・・・うん、分かる。どれだけ大変なのか」
「お前は何でも考え過ぎなんだよ。デート1回行くだけの話で、その後はその時考えりゃ良いんだよ!
先ずは誘ってくれた雛と花火大会楽しむ事だけ考えろ!」
「そう、だな、うん、そうだ!折角誘ってくれたんだから、俺も雛を楽しませてやんないとな。ありがとう雪、俺からちゃんと2人で行こうって言って来る!」
「おー、そういやさっき風に当たりに行ったら日陰で休んでたのが見えたぞー、しっかりやれよ!」
ー分かったー!ー
と言って外に駆けていく大喜を見て、「あ~、全く世話が焼ける」と言った所で、「流石雪、ナイスフォロー」と言って匡が近寄って来る。
「お、匡か。さっき外で雛に会ったら大喜を誘ったけど2人でってのを伝え忘れたって言うし、もっかい誘えって言っても恥ずかしくて無理って言うからな。まぁ前から大喜に対してサポートしてやるって言ってた手前、こんくらいはな」
「雪はどうなんだ?千夏先輩とは?」
「ん?女バスの女子5人と、男バスの1年4人でいく事になったけど?」
「いや、そうじゃなくて恋愛的な話」
「あ~、それなぁ。取り敢えずインハイ終わってからじゃないと何ともって所だな」
「例の約束か?」
「それもあるけど、大喜と雛の関係がどうなるのかと、大喜はナツ姉に対してどうするのか?もあるからな。何ともままならんもんよ」
「まぁ、それは当事者で解決するしかないか」
「ま、そー言うこった。じゃあ俺も練習戻るわ」
ー雪も難儀な性格してるよなー
ー蝶野さんが大喜に向ける好意と、千夏先輩が雪に向ける好意は同じにしか見えないんだけどな。
鋭いあいつが気付いてないとも思えないけど、何か引っ掛かってるんだろうなー
まぁ2人とも、いや4人とも頑張れ、と願うばかりだ。
花火大会を話のネタにして雪と千夏は仲直り出来ました。
そして雛は頑張ってよく大喜を誘いました、詰めが甘かった所は次に活かせる様に。