アオのハコ ~鶴は鹿の元に舞い戻る~ 作:お面ライダーよっしー
文化祭前にライバル関係である佐知川高校との練習試合に臨む大喜。
そして佐知川の次期エースである遊佐とひょんな事から知り合った雪。
パァンッとスマッシュが決まり、1ゲームマッチが終わる。
ーまた針生先輩に負けたー
スコアは21-11、完全に力負けである。
「大喜。色々考えてる事はあるんだろうけど、自信無い奴の羽根は、俺には利かんぞ」
「はい?」
ー別に自信が無い訳じゃ無いけどー
全国大会で実績残した雛や千夏先輩、それに雪と比べたら・・・ふがいないよな。
「ちー、お疲れ」
「お疲れ様」
「バスケ部は夜練?」
「ないけど文化祭の方で残らないといけなくて」
「よくやるよな、部活も忙しいだろーに。ほんとストイックだよな。花恋もいつも言ってるわ」
「そんな事ないよ」
「毎朝朝イチに来て、練習してる時点でストイックなんだよ」
「それなら私以外にも、大喜くんが早くから居るよ?」
「大喜はストイックじゃなくて真面目なんだよ」
「どう違うの?」
「ちーはSで大喜はMだな。
勝ちたい奴が居てそいつを目標にすると、出来ないことばっかに目が行って自分を褒められなくなったりするだろ。
そんな水なしで砂漠を進むみたいな事しなくて良いのに。真面目過ぎるが故に、水分補給を忘れてんだよな」
「そのくらい早く前に進みたいって気持ちは分かるよ。
追いかけてる人が水分補給もしながらとんでもない早さで進んでると、ちゃんと水分補給をしてても諦めちゃう人だって居る。
でも諦めないで追いかけるなら、足を動かし続けるしかない。
立ち止まって置いていかれるのが、1番苦しいから」
「それはそうだが・・・雪か」
「私が小4の頃に向こう行っちゃったんだけどね、子供の時は女子の方が成長早いから、それまでは1ON1でも勝ち越してたんだ。
でも今は殆ど手も足も出ないくらいに差が付いてるからね。
男女差を考慮しても、やっぱり悔しいものは悔しい訳でして」
「まぁ、あいつに関してはバドを選ばなかった事を感謝してるよ。本気でやってたら、先ず間違いなく1枠取られてただろうからな。
さて、夜練に行きますかね」
「針生くん。そんなに心配してるなら水分を差し入れてあげれば良いのに。それも先輩としての務めだよ」
「俺が欲しいくらいだわ」
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今日は部活自体は休みで、カズ達も文化祭の準備の方が押してるって話で自主練にも来てない。
「さて、久し振りに1人寂しくシュート練でもしますかね」
そう思って体育館に向かっていると声を掛けられる。
「すみません、体育館ってどっちですか?」
「おぉ?番長!?」
「番長?」
「あー、いや失礼、体育館なら行く所だから一緒に行くわ」
「ありがとうございます。佐知川高校のバドミントン部1年、遊佐です」
「おっとこれはご丁寧にどうも。栄明高校1年、バスケ部の鶴羽です」
「つるば?」
「鳥の鶴に羽。
いやー、俺も昔は平行してバドもやってたんだけどね、小さい町で1番になっただけで満足して辞めたんだよ」
「そうなんだ、キミ強そうだしバドやってたら楽しかったと思う」
「そっかー、俺今日は部活休みで自主練だけだし、見学しに行こっかな。お、着いたよ体育館」
「じゃあ暇だったら見に来て」
「おう、じゃあな遊佐くん」
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パンッ
「遊佐くん前より強くなってね?」
「身体もデカくなってるよ」
「なのにスピードも上がってる。うちの2年でも太刀打ち出来ないんじゃないか・・・?」
ー流石に針生さんは負けないだろうけど
そんな話を聞きながら観戦していると
「お、大喜!調子はどうよ?」
「雪?どうした、部活・・・は今日休みだったか」
「おう、自主練だけな。ちょいと休憩ついでに案内した遊佐くんってどんなもんか見に来たんだよ」
「え、遊佐くんと知り合いだったの?」
「朝体育館の場所聞かれたから、一緒に来たんだよ。初見で番長かと思ったわ、あの髪型」
「ば、番長?」
「おー、ア◯ラスの昔のRPGの主人公にそんな愛称のキャラが居るんだが、スゲー似てんだよ。で、強いの?遊佐くんって」
「強いよ。インハイ予選で俺が負けた相手だし」
「ほほう、つまりこれから先、お前のライバルになるんだな。強い相手が居るとやる気出るよなー。今暇なら遊びで相手してくんねーかな」
「え、雪もバドやってたのか?」
「ん?あぁ、小学生の間だけな。小さい町で1番になった程度で、もう良いやって辞めたけどな」
話題の主の遊佐くんは、座ったまま向こうの先輩と何か話していた。
が、こちらに気付くと立ち上がって近づいてきた。
「鶴羽くん、休憩?」
「おう!で、遊佐くんはどんだけ強いのかなーって見に来たんだけど休憩中なら仕方ない、次の試合を楽しみにしてるわ」
「キミ昔やってたって言ってたし、少し打ってみない?栄明さんが良ければだけど」
「え!?ちょ、ちょっと聞いてくる!」
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コートが空いてて進行の邪魔にもならないから、との事でOKが出た。
「大喜、ラケット借してくれー」
「あ、あぁ、ほら」
「お、サンキュー」
ラケットを手に取り、ブンブンと振る。
「雪、お前のスポーツ万能は知ってるけど、勝てるとは思うなよ?」
「いやいやハリーさん、そりゃ当然でしょ。朝たまたま遊佐くんと話して面白そうだったから、片手間で遊んで貰おうと思っただけだよ」
さーて、久し振りにラケット握ったけど楽しみだなぁ、遊佐くんがどんだけ強いのか。
サーブは俺から、普通に大きく打つ。
遊佐くんはクリアで返してくる。これだけで基礎の技量が高く、彼が上手いのが分かる。
暫くクリアでラリーをしているとドライブを打ってきたので俺もドライブで返すがドロップでネット際に落とされる。
「流石に上手いねー」
「キミも何年か振りの割には、ちゃんと動けてると思う」
暫く続けていると遊佐くんのリズムも分かって来て、彼が難しいショットを打たれる方が楽しめてるのも分かった。
いやー、何か身体が思い出して来たなぁ。
「ほいっと」
ヘアピンでネット際に落としたシャトルを遊佐くんは逆サイドのネット際にヘアピンで返してくる。
「ほんじゃこれでどうよ?」
ネット際のシャトルを逆サイドのコート奥に打つ。
フットワークでコート中央に戻っていた遊佐くんが、コート奥からライン際にスマッシュを打ってくる。
が、それを拾いまた逆サイドに振るとドライブを打ってくるが、残念それは予想通りだったのでネット際でプッシュして決める。
とは言えスコアは6-20。
あと1点で俺の負けだが、最後にちょっとくらい良いトコ見せようと思い、遊佐くんが打ってきたクリアが少し短かったので思いっきり跳んでジャンピングスマッシュを打つ!
スパァーンッ!!と音を立ててコートに突き刺さる。
「よっしゃ、1本取った!」
「マジかアイツ・・・何てエゲつないスマッシュ打つんだよ」
「まともにバドやってたら、1枠取られたんじゃないか?」
ーウチの部員も佐知川の人たちも驚いてる。
雪が何でも出来るのは知ってたけど、まさかここまでやるとは流石に思ってなかったー
いやー、あのスマッシュが利いて火が着いたのか、ラスト1本は遊佐くんがマジになって即取られた(笑)
「あー、楽しかった!ありがとな遊佐くん!たまに違う競技やんのも刺激があって良い気分転換になったわ」
「うん、こちらこそ。キミが本気でバドやってたら良かったのに」
「ま、遊佐くんのライバル的ポジションはアイツに任せるから、とことん相手してやってくれな」
と言って大喜を指す。
「確か彼が次の相手の筈。鶴羽くんがそう言うなら、彼も強い?」
「地力はまだ遊佐くんの方が上だろうけど、アイツはセンスの差を言い訳にしないで諦めずに愚直に前に進むから、案外手こずると思うよ」
「そう、楽しみ」
「じゃあ俺は自主練上がって文化祭の準備に行くわ、またな遊佐くん」
「うん、また」
「大喜!負けんなよ!」
そう言って雪は体育館から出て行った。
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「いやー、雪くんのあのスマッシュ凄かったね。バドもやってたのかな?」
「こっちにいる時はバスケだけだったから、向こうでやってたんだと思う」
「本当に万能だね。今からでも本気でやったら、レギュラー取りそう」
「それはバスケ部が困る」
「・・・ねぇ、もし違ってたらごめんだけど」
「ん?」
「いやぁ、でもなぁ~」
「何?言ってよ」
「もしかしてさ、誕生日、雪くんも一緒だった?電話切る時一瞬声聞こえてさぁ。やっぱり付き合ってる?そうなら言ってよ、水臭いなぁ!照れなくて良いのにぃ!」
「そうじゃなくて、居候させて貰ってるのが雪くんの家なの」
「え?」
「お母さん達が親友でね、部屋が空いてるからこっちが良いならどうか?って両家で話し合ってね。それで・・・」
と言った所で「ガシッ」と肩を捕まれる。
「え」
「あんたバカなの?日本残ってくれたのはすっごい嬉しかったけど、年頃の男子の居る家に住むか!?普通!!何かあったらどうすんのよ!男はケモノって昔の偉い人が言ってたでしょ!」
「何かなんて・・・・・ないよ」
ーあった人の間なのよー
「まぁ私も雪くんの為人も知ってるから、そこまで心配してないけどさぁ。せめてもっと早く言ってくれても良かったのに」
「それはごめん」
「でもさ、幾ら幼馴染みって言っても6年も会ってなかった人とよく一緒に住もうと思ったよね。変な性癖持ってなかったから良かったけど」
「去年の秋、体育館で再会して暫く部活で会ってる内に、全然変わってないって分かったから」
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「あ、大喜くんの試合これから始まるみたいーって雛、何してるの?応援するって約束したんでしょ?」
「見に行くとは言ったけど、応援するとは言ってないもん」
「うわ、めんどくさ。一緒でしょ。大喜くん県予選で負けた相手とのリベンジマッチなんでしょ?」
「そうだよ。分かってるんだけど、あんな大喜見たくない。あの時も私、何て声かければ良いのか分からなくて・・・」
「何で今回も負ける前提なのよ?」
「!!そういう訳じゃなくてー!」
「あ、始まった。別に大喜くんにどう声かけようとかじゃなくて、雛自身の為に観ておいた方が良いと思うけどな」
にいなにそう言われて、そっと試合を見る。
県予選で負けた相手だし、やっぱり強い。
「バドミントンってハードだね。相当疲れるよ、あんなスピードの羽根に付いて行くなんて」
ー私が知ってるのは、それでも楽しそうにしてる大喜で、あんな大喜初めて見たー
ーハァ、ハァ、フゥーーッ
呑気にインハイ行きたいって言ってた自分を殴ってやりたいな。
遊佐君(この)レベル・・・それ以上じゃないといけないのに、針生先輩から1セット取った時、もしかしてなんて浮かれてその結果皆がインハイ行ってる中、俺は見ているだけで。
そんな中で雛に告白されて・・・嬉しかった。
驚いたけど嬉しかった。
けど、心のどこかで“何で俺?”って。
告白に応える処か千夏先輩への想いを頑張るってはぐらかして・・・俺、何様だよってー
アウトッ!!
「勿体ねぇ、チャンスだったのに。長いラリーからのミスは精神的にも良くないぞ。ただでさえ1ゲーム目で体力削られてるのに、あんなにボロボロじゃ2ゲーム目保たないって」
ー不気味だな。段々スピード上がってきてるー
私が見たことのない表情で羽根を追い、打ち返す大喜。
ー私は知ってるよ。
中学の引退試合の翌日も、雨の日も風の日も、どんな日も歩みを止めなかった事、私は知ってる。
例えそれが千夏先輩に会うのが理由の1つだったとしても、そんな大喜を尊敬してるし、好きになったんだからー
「いけっ!大喜ぃー!!」
ーいけっ!大喜ぃー!!ー
雛の声が聞こえた。不思議と力が湧いてくる気がした。
パンッ!と打ったスマッシュがライン上に決まった。
「ファイナルゲームも競ってますね」
「覚醒させちゃったって感じだな。注目選手じゃなかったのに」
ー来年のインハイのライバルが増えたってのに、随分楽しそうじゃねぇのー
「凄げぇラリーの応酬」
「大喜の奴、確実に食らいついて・・・」
「いや、寧ろ大喜の方が・・・」
スコアは20-19、俺のマッチポイント。
タァン!
スマッシュが遊佐君の足元に決まる。
「ハァ、ハァ、・・・勝っ、た?」
「うおぉおおおー!大喜が勝ったーーー!!!」
「正直勝つとは思わなかったけど、言い試合だったよ!」
「正直勝つとは思わなかったけど、成長したな」
「素直に褒めて下さいよ」
「大喜、握手!」
「はい・・・ありがとうございました」
「あのさ、俺まだ満足してないんだけど」
「じゃあ、もう1試合っ」
「アホか、お前もうヘロヘロだろーが。遊佐君も、休んだら俺とも試合してもらうから」
「すごーい!勝ったよいのまたくん!」
「さっ、劇の練習に戻ろっ!」
「え、何か声かけたりしなくて良いの、雛?」
にいなにそう言われたけど、今は無理。
今の試合で見たことのない大喜をカッコいいと思うと同時に、やっぱり大喜が好きだと再確認して、顔が真っ赤になってるからだ。
試合後、手洗い場で顔を洗っていると、足が限界で力が入らずプルプルしていた。
「ははっ、もー動けないや」
日陰の壁にもたれ掛かり空を見上げる。
風が吹くと心地良い。
「勝ったぞー!!」
あー、もう駄目だ、横になろ。
力尽きて床に横たわる。
そこへ
「あんた、そんなトコで寝ると風邪ひくわよ」
「雛っ!(そう言えば見に来るって・・・)」
「差し入れ、右と左どっちが良い?」
「じゃあ右で」
「はい、ポ○リね」
「因みに左は?」
「○カリ」
「一緒かよっ!」
「違うよ。右のには特別にねぎらいパワーと私の想いが込められてるから////」
ー///道理で疲れが消えてく訳だ・・・ー
全ての試合をが終わり、佐知川の皆さんが帰って行く。
「遊佐君。これ忘れ物、遊佐君のだよね?」
「あ、どうも」
「いえ。それじゃ」
「いのまた君」
「はい?」
「って、漢字で書くと動物の猪に股関節の股?」
「そうだけど、股関節て・・・」
「俺、漢字変換しないと名前とか覚えられないんだよね。じゃあまた、猪股くん、鶴羽くんにも宜しく」
「うん、また、って、雪の名字は覚えてるの?」
「うん、案内して貰った時の自己紹介で言ってたから」
「あー、成る程、じゃあ今度こそまたね」
「うん、次は公式戦で」
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あー、疲れたー。
帰宅してシャワー浴びて横になった俺の意識は、試合の疲れもあって直ぐ落ちていった。
『インターハイ予選決勝、試合は白熱しています!おおっと!猪股選手が決めたぁ!!
優勝は栄明高校、猪股大喜選手だぁ!』
『負けたよ猪股くん。君の完全勝利だ』
『大喜!』
『雛。見ててくれたんだ』
『うん、優勝おめでとう。カッコ良かったよ』
『ありがとな』
『じゃあ、お祝いのチュー』
『はぁっ!?』
『ちょっ、待てって雛、流石にマズい・・・』
「うわぁっ!!!」
ドキドキドキと鼓動が早い。
「・・・何て夢を見てんだよ、俺」
この時の夢は鮮明に覚えているが、千夏先輩が居なかった事に気付くのは暫く後になってからだった。
大喜の心の中では、徐々に千夏より雛の方が大きくなって来た・・・のかなぁ。