アオのハコ ~鶴は鹿の元に舞い戻る~   作:お面ライダーよっしー

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屋内競技部合同での秋合宿が始まる。

この合宿が終わるまでがリミットになっているが、大喜は自分の気持ちに答えが出せるのだろうか。


EP34 秋合宿①

 

 

ーバスに揺られ約2時間。少し涼しさの増す山沿いの宿。バドミントン・バスケ・新体操部の大所帯で、合宿の始まりですー

 

「ギャー!くもーー!」

 

ーあの調子で生きて帰れるのか・・・?ー

 

ハァハァと山道を走る。

 

「ファイトー」

 

「ペース落とすな!」

 

各々が自分も含めて鼓舞する為に声を出す。

 

するとそこに

 

「がんばれー」

 

「ダッシュダッシュ!」

 

と、先に行った女子たちから声が掛かる。

 

ダダダダッ!とペースをあげる男子たち。

 

男子なんて単純な生き物で、女子に応援されたらカッコつけようとしてしまうのである。

 

「急にペースあげるな!」

 

その結果、こうやって怒られてしまうのだが。

 

 

 

「足止めるな、最後まで走り切れよ。帰りは腿上げで」

 

ファイトー、がんばー。

 

「気抜くな。ラストその場でバーピー」

 

ピーッ

「休憩ー」

 

「次フットワークな」

 

 

「地獄だ、午前は足練で終わるぞ」

 

「午後は午後でノック地獄だろ」

 

「折角2時間かけて来たのに、何て代わり映えの無い景色」

 

「違いと言えば少し涼しいくらいで・・・」

 

「大喜扉開けてくれ。少しでも空気を変えよう・・・」

 

「はい」

 

扉を開けた先に見えたのは、走っているバスケ部の姿だった。

 

「バスケ部走ってるよ」

 

「さっき一緒に山ダッシュしたのに!?」

 

「バスケ部は近くの体育館使うから、そこまで走って行かされてるんだろ」

 

そんな話を聞きながら眺めていると、千夏先輩と渚先輩と一緒に松岡って人が走っていた。

 

笑顔で話しながら走っている姿を見てイラッとしてしまう。

 

ー何であんたが千夏先輩たちと一緒なんだよ!雪は何してるんだ?千夏先輩と一緒に居なくて良いのか!?ー

 

そう思った時、新体操部のバスがバスケ部の横を通り過ぎる。

 

バスケ部を追い抜き様に、窓側に乗っていた雛と目が合う。

 

クーラーが効いている車内から、勝ち誇った笑顔で手を振って行った。

 

「は・ら・た・つ~。見たか匡?あの勝ち誇った顔!」

 

「クーラーが効いた車内・・・羨ましい」

 

あ、ダメだ、疲れ過ぎてて返答がおかしくなってる。

 

「おーい、休憩終わるよー」

 

「こっそり休憩増やしてくんねぇ?」

 

「ダメに決まってるでしょ」

 

「マネージャー厳しー」

 

それから夕方まで徹底的に扱かれた俺たちは、死屍累々となっていた。

 

 

 

  ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「いやぁ、いい湯だったなぁ!」

 

「西田、おっさんみたーい」

 

「確かにいいお湯だったけど」

 

「いいか?いい男ってのは、“湯上がりの女子いい”と思っても口に出さないものだ」

 

「思いっきり出してんじゃねーか、西やん」

 

「お、鶴羽も上がったのか。しかしお前・・・ピンクだな」

 

「色白の宿命よ。で、大喜は雛とナツ姉の湯上がり姿、どっちが楽しみなんだ?」

 

「はぁ!?いきなり何を・・・」

 

そう言った時だった

 

「随分お疲れの様子かと思えば、大きな声出てんじゃん」

 

「雛」

 

「髪下ろしてんだな。いつもと雰囲気違うけど、そっちもいいと思う」

 

「あ、ありがと////乾かしたばっかりだからー・・・」

 

そう言いながら、じっと見てくる雛。

 

「なんだよ」

 

「久し振りに会った気がする。体育館違うし」

 

「・・・確かに長い1日だった。疲れたし、さっさと寝て明日に備え・・・」

 

「何を言ってる。夜はこれからだぞ!泊まりなんだしわいわいしたいだろ?憧れだろ?だからゲーム持って来たんだよ!」

 

「ゲーム!?私もやるー」

 

「おっ、そこのお二人さんもやろーぜ!」

 

「何でおれの部屋でやるんだよ?」

 

「俺の部屋でもあるんだよ!お前もやるぞ・・・って鶴羽が居ねぇ!」

 

「“アホらし、やる気ねーから帰って寝るわ”って、さっさと帰りましたよ」

 

「アホらしって、あんまりじゃね?」

 

「で、ゲームって何だよ?」

 

「ふふふ、それはだな・・・王様カードゲーム!!」

 

「・・・合コンかよ」

 

「帰るか」

 

しらーっとした空気が流れる。

 

「待った待った!君たちの想像するようなゲームじゃないんだよ。所謂王様役はこのカードだから。まずこの従者カードをひいて、命令を受ける人を決める。その後こっちの王様カードをひいて・・・命令を熟す」

 

そのカードには「左の人からデコピンされる」と書かれていた。

 

針生先輩が西田先輩にデコピンしたが、余りの威力に西田先輩が撃沈した。

 

「楽しいじゃん、このゲーム」

 

「取り敢えずやってみようぜ」

 

「ほら、ひいてひいて」

 

「あ、俺だ」

 

「匡か!」

 

「王様カードひいて」

 

そのカードには「語尾に“にゃん”をつけるにゃん」、と書かれていた。

 

「これでいいかニャン」

 

「何で素直に受け入れてるの、少しは照れなさいよ」

 

「こういうのは、恥ずかしがったら負けニャン」

 

「次ひこー次ー、従者だれ?」

 

「千夏じゃん」

 

ーにゃん来いにゃん、にゃん来いー

 

そんな俺の祈りもむなしく、ひかれたカードには「今夜は舞踏会!ヘアアレンジして貰おう!」と書かれていた。

 

「ヘアアレンジ?」

 

そう言うと守屋さん、雛、渚先輩が

 

「まかせて、ヘアゴムとかは持ってるから」

 

「私も色々持ってます」

 

「ステキにアレンジしてあげるわ!覚悟してよ千夏」

 

と言いながら千夏先輩に迫っていた。

 

「ちょ、それは流石に」

 

「コラッ、手はお膝」

 

そして出来上がったのは、両サイドが短いちょんまげ、前髪に魚のヘアクリップを着け、左後ろのみ三つ編みと言うものだった。

 

「ぷ」

 

「あはははは!可愛いー!!」

 

「ナイス、ヘアゴム!」

 

「レア過ぎだろ!雪と花恋に送るわ」

 

「む~、私だけは恥ずかし過ぎる」

 

そう言って渚先輩に魚のヘアピンを着ける千夏先輩。

 

「このゲーム油断出来ないな」

 

「見てる方が楽しいわ」

 

 

 

ーどうやら皆気付いてないみたいね、このゲームには必勝法があると言うことに・・・!

そうっ!あの従者カード、当たりには小さなキズがある!

その事に気付いてしまえば、このゲームは支配したようなものー

 

「じゃあ配りますね」

 

「俺だ」

 

ー狙い通り!ニヤッとしてしまう。前のターンでたまたま偶然次の命令(左隣の人と7秒間見つめ合う)が見えたが、これはいのたに熟して貰うべき命令(いのたの左隣がひなっち)

ひなっちに見つめられたら、いのたもコロッと・・・ー

 

「一旦シャッフルするかぁ。もっとおもろいカード、沢山あるんよ」

 

「うぉぉぉぉぉい!!」

 

本当に何してくれとんじゃー、この男はー!!

 

「じゃあ大喜これな」

 

「どうも」

 

西田先輩に手渡されたカードには、「好きな人に愛を叫ぶ!」と書かれていた。

 

「お、良いねー!」

 

「泊まりの夜っぽくなってきたじゃん!」

 

「両親とか・・・」

 

「ダメダメダメ、LOVEの方で!」

 

「ここだけの話にしておくから!」

 

「さぁ、言ってみよう!」

 

「俺の、好きな人は・・・」

 

うんうんと西田先輩たちが頷いている、が言えるかー!どうしようかと考えていると横から

 

「遊佐くんだにゃん」

 

と、匡が助け船をだしてくれた。

 

「は!?」

 

「いやー、大喜行きのバスでも“遊佐くんスマッシュ速い・・・”って寝言言ってて、夢にみるくらい好きみたいで。だから守屋さんと三角関係にゃん」

 

俺はそう言って守屋さんを見る。

 

「いのたには負けないんだから!」

 

どうやらこちらの意を汲んでくれたようだ

 

「これはバドより熱い戦いが・・・」

 

「無いですから!」

 

「お前たち、そろそろ寝ろよー」

 

見回りの先生が来てそう言われる。

 

「えー、これからだったのに」

 

「ハイハイ、解散解散ー」

 

 

「さっきはありがとう、匡」

 

「別に誰もガチな答え求めてなかったろうし」

 

「そうかも知れないけど」

 

「でもお前さ、さっき迷っただろ」

 

匡のその言葉にドキッとしてしまった。

 

 

 

部屋に戻り布団に入って考える

 

ー迷っただろ、と言われて即座に反論出来なかった。

実際その通りだったから。

千夏先輩を好きな気持ちは嘘じゃない、けど雪に言われた「憧れや敬意は恋愛感情とは似て非なるもの」って言葉がずっと引っ掛かってるー

 

ー俺は憧れを恋愛だと思い込んでるのか?

 

ーじゃあ雛に対して感じた気持ちが本当の恋愛感情なのか?

 

ー一緒に居たいと思ったのはどっちだった?

 

ー2人が俺と違う男と居る所を想像して、モヤモヤしたりイラついたりするのはどっちだった?

 

考えれば考える程、ぐるぐると頭の中で渦を巻いて考えが纏まらない。

 

しかし身体は正直なもので、直ぐに意識は暗転して眠りに落ちていった。

 

 

  ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ねみぃ・・・」

 

「全身筋肉痛だよ」

 

「これがあと3日あるとか地獄・・・」

 

「おはよーございます!!今日もハリきっていきましょー!!」

 

「何であんな元気なんだ」

 

「朝型なんでしょう」

 

「なぁ、これロビーに忘れられてたんどけど、誰のー?」

 

「あ、雛の・・・新体操部の友達のです。俺渡しときますよ」

 

「そう?新体操のバス、もう出てるけど」

 

「え"っ!オーイ!ストップストップ!」

 

バスが気付いて停まってくれ、雛が窓から顔を出す。

 

「ハッハッ、朝から、体力をっ。ほら忘れ物」

 

「ありがと・・・」

 

「じゃっ!」

 

戻る途中でバスケ部とすれ違う。

 

また松岡って人が千夏先輩と一緒に居た。

 

雪は何してるんだ!?気にならないのか?

俺には千夏先輩が好きだと宣言しといて、俺たちに関係ない所から出てきた男に、千夏先輩の隣を譲ってるのは何でなんだよ!

 

・・・やめよう、自分の気持ちが分からないからってこれは雪に対する八つ当たりでしかない。

 

それから午前の練習に取り組み、またぞろ死屍累々になるのであった。

 

 

どんっとテーブルに並べられた料理の数々を前に、腹の虫が収まらない。

 

「食え食えっ!食うのも練習の一貫だ!大喜らっきょ食えらっきょ」

 

「西田先輩こそ野菜を・・・・あっ、それ俺のカツ!!」

 

「もう少しお行儀よく食べて下さいよ」

 

「何を言う、食事は戦争だぞ」

 

「男バスの方は違うみたいですけど」

 

守屋さんのその言葉でバスケ部の方を見ると、和やかに談笑しながら食事をしていた。

 

「空気が違うな」

 

「俺あのイケメン苦手だ」

 

「イケメンって言うのは認めるんですね」

 

「この世には確かな事実というものが存在する」

 

「え、重っ」

 

「俺は好きだけどね、松岡くん。良い装備くれるし」

 

「ゲーム仲間かよ」

 

「お姉、文句言ってましたよ」

 

「バスケだって上手いし身体作りもしっかりしてて尊敬する」

 

「うんうん、お似合いだよね!」

 

「何が?」

 

守屋さんは、千夏先輩と松岡さんがお似合いって思ってるんだろうな。

 

何気なく視線を向けると、千夏先輩が違うテーブルに目を向けている。

 

その視線の先には、いつもの1年トリオと一緒に食事をしている雪が居た。

 

視野の広い鷹尾くんが真っ先に気付き、雪を肘でつついて千夏先輩の方を顎でしゃくる。

 

千夏先輩の視線に気付いた雪が笑顔で手を振ると、千夏先輩も笑顔になって手を振り返していた。

 

うん、やっぱりこの2人だとしっくりくるな。

 

でもそうなると、俺の千夏先輩への想いは届かないって事にもなる。

 

そんな事を思いながら千夏先輩たちのテーブルに目をやると、機嫌が良くなった千夏先輩とは対照的に松岡さんが面白くなさそうな顔をしていた。

 

小さい男と思われるかも知れないけど、「ざまぁ」と思ってしまった。

 

 

  ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

練習が終わり風呂から上がって部屋に戻る途中、バスケ部の皆さんと出会った。

 

「あれ?千夏先輩は・・・?」

 

「それが走りに行ったのよー」

 

「練習物足りないなんてバグってる」

 

「1人で行ったんですか?」

 

「近くぐるっとするだけだから大丈夫って。サスガについてく体力は・・・」

 

「千夏体力バケモノ」

 

「そうですか。でもそれって雪の影響なんじゃ・・・」

 

「ナツのファン?」

 

ーファン?ー

 

「バド部の1年だよね。ナツって練習熱心でさっ、いつもこうなんだよ」

 

ー彼氏ヅラかよ、鬱陶しいー

 

「何彼氏ヅラしてんの?そんな目で見られてないのに」

 

ー渚さんっ!ナイスツッコミー

 

「え?そう?」

 

へらっとした顔でそう言う松岡さん。

 

ー俺、この人スッゲー苦手だ!!

けど雪ならまったく意に介さず、逆に煽り倒して顔真っ赤にさせるんだろうなー

 

「えぇ知ってますよ、去年の今頃からですかね?特にやる気になったのは。

あぁ、時期的に松岡さんが留学に行った後の事だから、知りようがありませんよね」

 

俺にはこれが精一杯だけど、渚さんが「おぉ~、言うねぇ」って言ってくれてる。

 

当の松岡さんも少しはムッとした感じを見せるが、余裕を無くしたと思われたくないのか

 

「ナツの奴、相変わらず人気あるなぁ」

 

と、横に居る先輩に話しかけた。

 

「一時期出待ちとかあったもんな」

 

「あー、あったね。俺もそんな憧れの先輩居たなぁ」

 

ー憧れの先輩ー

 

その一言が雪の言葉を思い出させる。

 

「ボソッ 憧れや敬意は恋愛感情とは違う、か」

 

俺は千夏先輩が好きだと思っているけど、上辺だけじゃなく、その根本をしっかり見直して考えなきゃ雪の言葉をホントの意味で理解出来ないんだと思う。

 

そうすれば雛に対して持ってるこの感情が本物の恋愛感情なのかが、自ずと分かるんじゃないかとも思う。

 

雪と話してみよう。

 

「あの、渚さん、雪は何処に?」

 

「そう言えば見掛けないね。ねぇ松岡くん、雪くん知らない?」

 

「ん?鶴羽くんは風呂で見たけど、さっさと上がった事しか知らないな」

 

「だって」

 

「ありがとうございます、部屋戻っていなかったらメッセージ送ってみます」

 

そう言ってバスケ部の人たちと別れた。

 

 

 

  ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

練習終わって風呂から上がって涼んで居たら、大喜とバスケ部の話が聞こえてきた。

 

「はぁ?ナツ姉この暗くなった中、1人で走りにいっただぁ!?」

 

何考えてんだ、あのおバカ。

 

幾ら田舎で人が少いっつっても、女一人で夜出歩くなよ。

 

危険なのは人間だけじゃなくて、野生動物も居るんだからよ。

 

「あ~!もうしょうがねぇっ!風呂上がりでサッパリしたけど、もうひとっ走り探しに行くしかねーな!」

 

そう言って走り出して暫くすると

 

「雪くん?」

 

どっかの婆ちゃんを背負ったナツ姉に声を掛けられた。

 

「何やってんだナツ姉、どういう状況だよ?」

 

「これはー」

 

「私がねぇ!山菜採りに山に入ったら足を痛めてしまって!そしたらこのお姉ちゃんが通りかかって、ここまで運んで貰ったのよ!」

 

「そっか、まぁ無事で良かった。ナツ姉、婆ちゃん背負んの変わるわ」

 

「ありがと。一応さっき公衆電話があったから、宿の方に連絡はしたんだけど・・・」

 

「あー、俺が出た後だな、そりゃ」

 

「ほんと悪いわねぇ、若い子に迷惑掛けちゃって」

 

「あ、私荷物持ちますよ」

 

「疲れたでしょう」

 

「いえっ!普段から鍛えてるので!」

 

「つっても、この為に鍛えてた訳じゃないだろうに。

・・・さて、そろそろ行くか」

 

「ありがとう、雪くん」

 

 

  ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ほんとにありがとうね」

 

「足くじくなんて、私も歳を取ったものだよ」

 

「そんな事ないですよ」

 

「夕時に山に行くからだ。ワシもあっちこっち探したんだぞ!したらおぶられてるんだから世話ないなぁ」

 

「じいちゃんは黙ってて。あ、お姉ちゃんお菓子持ってく?これ私好きで美味しいやつ」

 

「そんな、気にしないで下さい」

 

「もっとちゃんとしたものあるだろ!」

 

「そうだ、仏壇にお土産で貰った・・・」

 

「いえ、これ頂きます」

 

「彼氏さんもありがとうねぇ」

 

「あっはっはっ、そう見えます?」

 

「違うのかい?てっきりお姉ちゃんが帰ってこないから、心配で探しに来たのかと」

 

「あー、それはその通りだよ、ばあちゃん。

この人自分に無頓着過ぎるから、こっちはいつも振り回されて大変な目に遭ってばかりで困ってんだわ(笑)」

 

「ちょっと雪くん、それはこっちのセリフだよ!いつもいつも人をからかって面白がってるじゃない!」

 

「ほっほっ、仲良しさんだねぇ。お付き合いするのも直ぐになりそうだねぇ、頑張んなよ」

 

「ははっ!ありがとな、ばあちゃん!」

 

そう屈託無く笑顔で返す雪くんを見て、

ーもう直ぐなのかな?ー

と思ってしまう。

 

「お2人さん、宿まで送っていくよ!」

 

「それが良いねぇ」

 

「いえ!歩いて帰れますから」

 

「良いんだ、お礼とこんな暗いところ行かせらんないよ」

 

「ナツ姉、ここはじいちゃんの厚意に甘えた方がいい。道は覚えていても俺たちには土地勘がないから、何かあったら対処が出来ねぇ」

 

「おぉ、あんちゃんの言う通りだ。お姉ちゃん、彼氏さんの言うことは間違っちゃいないから、送らせておくれ。山の上のホテルだよね?」

 

「はい、上田四季ホテルです」

 

「はいはい。本当にありがとうね、ばあさん直ぐ無理するから」

 

「いえ、お大事になさって下さい」

 

 

 

 

後部座席で隣同士で座る俺とナツ姉。

 

シートに置いた左手が道路の段差を通った衝撃で、つ、と滑る。

 

その先に置かれていたナツ姉の右手に指先が触れる。

 

一瞬ピクッと反応するが、引っ込める事はせず、逆に近付けてくる。

 

俺もナツ姉も顔は前を向いたまま、お互いの手だけが触れ合う。

 

重ねただけの状態から指を絡める所謂「恋人繋ぎ」になり、そのまま宿に着くまでお互い何も話さず、じいちゃんの話に相槌を打つだけだった。

 

 

  ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

宿に着くと責任者の先生が出迎えてくれ、じいちゃんと挨拶をかわしていた。

 

「お前たちも早く寝ろよ」

 

「「はい」」

 

「おやすみ」

 

「・・・・・」

 

「雪くん?」

 

「ふぅーーー・・・ナツ姉、あれからかなり待たせちまったけど、この合宿が終わったら伝えたい事がある」

 

「・・・え!?」

 

「ケジメはつけた。後はアイツがどんな答えを出すかだが、この合宿が終わるまでに答えを出せなくても恨みっこなしでって事で纏まった」

 

「それって・・・」

 

「だから後2日だけ待ってくれ」

 

「うん、分かった、待ってる」

 

「おやすみ、ナツ姉」

 

「おやすみ、雪くん」

 

そう言ってお互いの部屋に戻った・・・んだが

 

「で、先輩とはどうだったんだよ雪ちゃん?」

 

「連絡はあったけど、ちょっと遅くなったから皆心配してたんだよ?」

 

「猪股くんなんて、今にも探しに飛び出しそうな雰囲気だったし」

 

「どうって言われてもなぁ。実際何もなかった訳だし・・・」

 

「ふ~ん、ま、そういう事にしといてやるよ」

 

「今日も疲れたし、そろそろ寝ようか」

 

「俺、着いていくのがやっとだよ~。まだ2日もあるって地獄だ~」

 

「ま、そう言うなテツ。初心者でこのメニューをやり切ってるだけで大したもんだぞ?下手すりゃ2年でもギブアップしてるやつは居るんだからな」

 

「俺も本当に鳴瀬は良くやってると思うぞ」

 

「うん、そうだね。僕が初心者だったら先ずそれを言い訳にして休憩してると思うし」

 

「・・・ちょっとずつでも成長してるのかな?そうなら嬉しいな、俺」

 

「成長してんのは当たり前だろ。俺たちが教えてる上に合宿のメニューも熟してんだ、このまま行けば冬にはユニフォーム貰えるかもな。ま、それはこれからの事で、今は明日に備えて寝るぞ」

 

「うん、おやすみ」

 

「おやすみ~」

 

「明日も頑張ろう、おやすみ」

 

 

 

 

ーさて、ナツ姉にもあぁ言った事だし大喜よ、後はお前がリミット迄にどんな答えを出すかだぞー

 

そう思いながら、俺は眠りについた。

 

 





遂に雪が千夏に想いを伝える為のリミットを伝えました。

大喜はあと2日で、どんな答えを出すのか・・・
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