アオのハコ ~鶴は鹿の元に舞い戻る~   作:お面ライダーよっしー

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雪との半日デートの最中、中学で理由も分からないまま居なくなったかつての友人、夢佳と思いがけない再会をした千夏。

しかしその態度は余りにも辛辣で・・・


EP41 ユメカ

 

「全国制覇(バスケ)はもう、諦めたんだね」

 

「白々しく、よく言えたもんだな」

 

「雪?」

 

「何の事かしら?」

 

「栄明(ウチ)がインハイでアベック優勝した事はバスケ雑誌は勿論、全国/ローカル問わずテレビを始めとした各種メディアで取り挙げられてる上に役所なんかじゃあ懸垂幕が掛かってんだから、地元の人間がそれらを1度も目にせず全く知らないなんて訳が無い。

わざと千夏を煽ってるとしか思えねーよ」

 

「・・・そっか、ナツ要領良かったもんね。最初はドリブルもまともに出来なかったのに今じゃエースプレイヤーだもん。その上プライベートも充実させて、ほんとご立派ですよね」

 

コイツ、な~んか拗らせてんな。

 

そう思った所に

 

「おいっ」

 

との声と共にユメカにチョップするメガネくんが現れた。

 

「いたっ」

 

「もっと言い方あるだろ」

 

「普通でしょ」

 

「すみません、高所で興奮してたみたいで。出直します」

 

「猿か私は」

 

「紐で繋がれてても指示に従うだけ、猿回しの猿の方がまだマシだろうよ」

 

「っ!?」

 

そう言ってやると、去り際に鋭い目付きで睨んで行きやがった。

 

 

「ごめんね」

 

「千夏が謝る事じゃねーだろ。今のは?」

 

「昔のチームメイト。中学までは栄明に居たんだけど、高校から他校行っちゃって」

 

「ユメカって言ってたけど、あれが子供の頃に言ってた“ユメカちゃん”か。何か聞いてたイメージと全然違うな」

 

「昔はキツい言い方しても、あんな事言わなかったんだけどね・・・もう遅いしそろそろ帰ろうか」

 

「あぁ。千夏、まだ3回あるぞ」

 

「え?」

 

「全国制覇のチャンス。狙うだろ?」

 

「当然」

 

 

帰りの電車で後何駅か話している所に、妊婦さんが乗って来た。

 

「「あっ」」

 

タイミングバッチリで2人立ち上がった事で笑ってしまう。

 

「ここどうぞ」

 

「あら、ありがとう」

 

「千夏も座ったらどうよ」

 

「ううん、立つ。もう少しだし」

 

 

 

  ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「走れ走れーっ」

 

「ユウキ、渚マーク!」

 

「そんなプレーでウインターカップ出るつもりか!鹿野、周り見ろっ」

 

「はいっ」

 

 

 

  ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「なぁ大喜、ウインターカップってクリスマスだだ被りらしいな」

 

「知ってるよ。そのまま夕飯もチームで食べるって」

 

「雪も居ないし、何か寂しいな」

 

「ハッキリ言うなよ」

 

「去年はクラスの連中と集まったけど、今年はなー・・・」

 

「今年は練習だぞ★」

 

「え?」

 

「聖夜だからって練習しない理由はないだろ。別に1人が寂しいとかではなく、彼女持ちが憎いとかではなく、夜までミッチリの練習メニューをプレゼントしてやるよ。なっ針生、楽しいだろ」

 

「あ?あぁ、俺は何でも・・・」

 

「お姉ぇは文句言ってましたけどね」

 

「ウエイトしに行くわ」

 

「俺も行きます」

 

 

 

男バドの会話を聞いていた私は

 

「クリスマス、部活で潰れるんだ・・・」

 

「雛、クリスマスの練習、自主参加らしいけどどうする?」

 

「やるよ」

 

大喜(彼氏)が1日部活なら、私も練習しなくちゃね!

 

 

 

ウエイトルームに行くと雪もウエイトしに来ていた。

 

「お!大喜にハリーさんも筋トレか?」

 

「うん、そんなトコ」

 

「雪、お前また良い感じに筋肉付いてきてるな」

 

「おぉ、欲しい所に付くように意識してやってるからな。それよりハリーさんに聞きたい事があってよ」

 

「なんだよ?」

 

「ユメカって奴について・・・って何だそのスゲー嫌そうな顔?」

 

一緒に練習してる俺でさえ、針生先輩がそんな嫌な顔をしてるのを初めて見た・・・

 

「久々に聞いたぜ、あの嫌味大臣の名前・・・」

 

「こないだ千夏とのデート中に、そのユメカってのに出会したんだよ。なーんか拗らせてて千夏に突っかかってる様に見えたんでな。

で、部活辞めるだけならまだしも中高一貫で学校まで変わるってのは、よっぽどの事があったんじゃないかと思ってな」

 

「俺も詳しくは知らないんだよな。プライド高くて人に相談する様な奴でもないし、あいつがバスケ嫌いになる訳もないから・・・」

 

「確かに千夏やナギちゃん先輩ですら、詳しい事は知らないみたいだったからな」

 

「けど1番ショックを受けたのは間違いなくちーだよ。同じジュニアチームで7歳からの知り合いだって。ちーってすっげえ朝早くから練習してるだろ?」

 

「あぁ」

 

「はい」

 

「言ってたよ。“夢佳に追いつく為には、このくらい当然だよ”って」

 

今も続いてる千夏の朝練の根っこには、ユメカが居るって事か。

 

なら何であんな言い方してたんだ?

 

友達で仲間で憧れだった相手に「バスケ諦めたの?」何て言われた千夏は、どんな気持ちだったんだ?

 

 

あれだけ言うのは・・・まさか“ケガ”か?

 

俺の前から姿を消したあの人みたいに、姿が見える所に居ると千夏に余計な気を遣わせるから?

 

いや、それならいつ顔合わせるか分からない同地区の学校に転校する意味が分からない。

 

それにケガの原因が千夏にあったなら、俺の過去を知ってる以上千夏がそれを話さない筈がない。

 

となると家庭の事情か?

 

俺と同じで親の転勤だから仕方なく・・・にしても、それなら理由くらい話していてもおかしくない。

 

あ~駄目だ、情報が足りなさ過ぎる。

 

「どっかで会えたら話してみるか。・・・話してくれるかは分からんけど」

 

家に帰ってそんな事を考えながら煎餅を食べていると、パキッと言う音がして歯が欠けた。

 

「あらら、歯ぁ欠けちまったよ」

 

「大丈夫?痛みは?」

 

「それはないけど、試合中に痛み出したらシャレにならんから歯医者行ってくるわ」

 

「それなら東原駅前の歯医者さんの評判が良いって由紀子に聞いたから、そこ行ってみたら?」

 

「はいよー、じゃあ行ってくる」

 

 

 

  ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「こんにちはー、先程電話予約したんですけどー」

 

「保険証お持ちですか?」

 

「あ、はいはい」

 

「お預かりします。つるば・・・ゆき?」

 

「ん?その目付きの悪さと泣きぼくろはユメカちゃんか」

 

「馴れ馴れしく呼ばないでください」

 

 

 

 

んー、まさか歯医者の受付がユメカちゃんだとはねぇ。まぁ暇だしテレビでも観るかね。

 

そう思いテレビを点けると

 

「勝手に触らないで下さい」

 

「は?ご自由にご覧くださいって書いてあんじゃねーか。俺が気に入らないからってルールねじ曲げんなよ」

 

ったく、バイトとは言え仕事に私情持ち込むなよ。

 

 

 

「鶴羽さん、どうぞ」

 

「はいはい」

 

促されて診察室に入る。

 

「あ~、少し欠けただけだから心配要りませんね。ただ、何回か通って貰う必要はあります」

 

そう言われてその日の処置は終わった。

 

「1890円です」

 

ふむ、何回か通う事にはなったが心配せずに済む方が大事だしな。

 

取り敢えず水買うか。

 

「治療直後にジュース?」

 

「ん?水だよ。帰る途中で口の中ゆすいだりするかも知れねぇだろ?しかし一応患者の心配はしてくれるんだな」

 

 

「私はただの受付バイトなので、一般論です」

 

「バイト、ねぇ」

 

「自分で使うお金くらい、自分で稼ぎたいでしょう?」

 

「ふーん、その為に部活辞めたのか?いや、それなら転校までする必要はねーか」

 

「違うよ」

 

「ん?」

 

「千夏の事が嫌いになったからやめたの」

 

「は?」

 

「バスケも飽きてきてたし、何かもう良いかなって」

 

「・・・本当にそうか?」

 

「なに?俺の彼女が他人に嫌われるわけないって?」

 

「いんや、万人の誰からも好かれる奴なんて存在しねえだろ?それを嘘だと断じる事は現時点では出来ねーよ。因みにそれを千夏には?」

 

「言ったよ」

 

 

  ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「おかえり、雪。今日冷えるね」

 

「どっか行くのか?」

 

「お散歩」

 

「このクソ寒い中?」

 

「だからこそ冬を感じに行くんだよ。雪も行く?」

 

「当たり前だろ。こんな日が落ちて来てんのに、千夏を1人で出歩かせねーよ」

 

「ありがとう、じゃあ行こうか」

 

 

 

さっきの感じだとユメカに会ったとは言わない方が良いな。

 

「あ、カレーの匂い」

 

「カレーの匂い?するか?」

 

「ほら、ルー入れる前の野菜煮込んでる時の」

 

「そこ?」

 

「今度はシャンプーの匂い」

 

「千夏・・・変質者みたいだぞ?」

 

「え゛・・・何か不思議だね」

 

「何が?」

 

「この前展望台から見た時は、1つ1つ小さい灯りだったけど、こうして降りて見た時の密度の高さが私はすごく安心する」

 

すると

 

「ワンワン!」

 

と犬に吠えられる。

 

「コラッまるちゃん!!」

 

「わー、かわいー」

 

動じねーな、と思いつつ“まるちゃん”を見る。

 

うん、確かにかわいいなコイツ。

 

そう思うとしゃがみこんで頭を撫でる。

 

すると仰向けになり腹を見せる、所謂「ヘソ天」状態になるまるちゃん。

 

ご要望に応じてわしゃわしゃと腹も撫でてやる。

 

「あらまぁ、まるちゃんが初対面の人にここまで懐くなんて珍しいわ~。お兄ちゃんも何か犬飼ってるの?」

 

「いや、何も。ただ動物好きで昔からよく懐かれてたんだよなぁ。まるちゃんも良い子だしな、なーまるちゃん?」

 

「わん!」

 

「ありがとう、でも本当にここまで他人に直ぐ懐くなんて珍しいのよ」

 

「雪が優しいって本能で分かるんじゃない?」

 

「そんなもんかねぇ」

 

そんな事を話しながら俺も満足したから、挨拶をしてその場を離れる。

 

「雪、この前はごめんね、私の・・・知り合いが嫌な思いさせちゃったよね」

 

「気にすんな、俺も煽り返したからな」

 

「なら良いんだけど」

 

「あれが子供の頃言ってた“ユメカちゃん”なんだな?」

 

「うん、小2から。昔から嵐のような子で・・・」

 

 

 

 

ボール遊びと言えば当時の雪と凡そバスケとは呼べない、投げるだけの私にプロのバスケは衝撃で

 

 

「ママっ!ちーもこれやりたい!」

 

「なに?バスケやりたいの?雪くんと遊ぶだけじゃ足りないの?」

 

コクコクと頷く私に根負けしたお母さんが連れて行ってくれた先に居たのが夢佳だった。

 

この子人見知りなのに大丈夫かしら?

 

「大きな声で挨拶するのよ」

 

「ん・・・こんにち」

 

声小さっ。

 

 

 

「夢佳!」

 

ましてや同年代でボールを自由に扱って

 

「いけーっ!!」

 

コートを駆け抜けゴールへ運ぶ、その姿に対する強い憧れ

 

「なぁに?新しい子?ふぅ~~~~~~ん、なんか人生ゲームのピンみたいな子だね」

 

「人生ゲー・・・?」

 

「こら夢佳!!何で普通に会話出来ないの!」

 

「丁度昨日やったんだよねー」

 

「ピン・・・?」

 

 

 

「くはっ、人生ゲームのピンと来たか!確かに昔の千夏はそんな感じだったよな!」

 

「む~、そんな笑わなくても良いでしょ!」

 

「悪い悪い。で、それからどうなった?」

 

「うん、それでね」

 

 

  ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「その調子、千夏ちゃん」

 

「はい」

 

「手首柔らかくね」

 

そう言われてボールを突く

 

ダムダムと跳ねる音が響くが、バウンドが小さくなって床に押し付けてしまった。

 

「むずかしいよ・・・」

 

ふとコートを見ると、軽やかに動き回る夢佳が目に入る。

 

「上手よね、夢佳ちゃん。あの子は才能あるわ。あの年で視野広く動いて、ボールの扱いも他の子とは一線を画してる。千夏ちゃんも追いつける様に頑張りましょう」

 

 

「休憩ー」

 

 

「次はパス練習しましょうね」

 

「パスだって、パスしていいって!!」

 

「よかったわね」

 

新しい事をさせて貰えるのでドキドキわくわくしながらコートを見ると、夢佳がシュート練習をしていた。

 

ーコーチは才能って言ってたけど、多分この中で1番夢佳ちゃんがボールに触ってる時間が長い・・・ー

 

そう思った私は拙いドリブルでゴール下まで行ってシュートを撃・・・ったまでは良かったが、何度やっても入る以前にリングまで届かなかった。

 

そんな私を見てくすくすと笑ってる子達が居た事にも、それを冷めた目で見ている夢佳が居た事にも気づいてなかった。

 

 

「新しい子、全然上手くならないよね」

 

「あー、北小の子?」

 

「そうそう、鹿野さん?だっけ。ゴールにも届かないんだもん、私は最初から出来たのに」

 

 

「パスも真っ直ぐ来ないし、ペアになりたくないよね」

 

「気遣っちゃうよー」

 

ー本当に下らない。他人を馬鹿にする暇があるならもっと練習したら良いのにー

 

そう思っても口には出さずその場を離れる。

 

「私先行くわ!」

 

「え?うん。夢佳ってあんまりこういう話、乗ってこないよね」

 

「・・・きっとあの新しい子も私たちも同じに見えるんだよ、夢佳は天才だから」

 

 

次の練習の日、いつも通り朝1番乗りで練習しようと体育館に行ったら、千夏が既に練習していた。

 

「こんにちは」

 

「あ、ども」

 

反対側のゴールを使ってシュート練をするが、まともに入らずリングやバックボードに当たる音ばかりが聞こえてくる。

 

だからつい声を掛けてしまった。

 

「へたくそっ」

 

「え」

 

驚いた顔をしている千夏に見せつける様にシュートを撃つと、ボールはリングを通り抜ける。

 

「こう!」

 

そう言うと千夏は、驚きとも感激とも言えない表情で私を見ていた

 

「“こう”ってどうやるの!?」

 

「だからこう、ヒュッと」

 

「もう1回!」

 

「・・・何で私が教えないと」

 

「こう?」ガシャン

 

「だからーっ!!」

 

 

 

 

「千夏、期待してるぞ」

 

「ゆにふぉーむ、ゆにふぉーむだよ!!ねぇユメカっみてっ」

 

「わかったって」

 

 

  ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「でも私がユニフォームを貰うって事は、それまで貰えてた子が外されるって事でもあって、その子は凄く悔しがってた」

 

「・・・それは実力だからどうしようもねぇよ。悔しけりゃあ、力つけて奪い返すしか方法はない」

 

「うん、だから夢佳もおんなじような事を言ってくれた」

 

 

  ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ムカつく!!何であの子にスタメン取られないといけないの!私の方が先にバスケ始めたのに!あんなの“おなさけ”のユニフォームでしょ!」

 

「ゆなちゃん落ち着いて」

 

「愚痴ってないで練習すればいいじゃん」

 

「夢佳・・・」

 

「少くても千夏はそうしてたよ。その積み重ねが、今回のユニフォームなんじゃない?私は才能あるから才能に憧れる気持ちは分からないけど、あの努力できる力には憧れるけどね」

 

「なによっ!夢佳だってチームワーク無いくせにっ!」

 

「えっ」

 

「1人で突っ走るだけじゃん!」

 

「点取れるなら良いでしょ」

 

「ほらっ!チームってものを分かってない!」

 

「今悪口言ってた人に言われたくないんだけど」

 

「なにをぅ」

 

「コラっ、何揉めてるの!」

 

 

 

ー嵐みたいな子だった。障害物はものともせず、その求心力で人を惹き付け、この子に付いて行けば大丈夫って思わせる・・・ー

 

「栄明中に推薦?」

 

「ナツもくる?」

 

 

 

  ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「憧れだった。夢佳みたいになりたくて練習も頑張ったけど・・・今でもたまに思うんだよね、このチームに夢佳がいてくれたらって」

 

そう言う千夏の顔は、寂しさや悲しさ憤りや不満が入り交じった様な複雑な表情をしていた。

 

ーこれは本人の口から本当の事言わせないと、どうにもならんなー

 

 

  ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「本当に辞めるの?」

 

「うん」

 

「親御さんはなんて?」

 

「親は興味ないから」

 

「あの子は?ほらB組のー鹿野さん?ずっと一緒にバスケやってたんでしょ」

 

「どうでも良いよ。昔からユメカユメカって、キライだった」

 

 

 

パチっと目が覚める。

 

あの頃の夢を久し振りに見た。

 

去年の雪の様に、再会して昔みたいに仲良くはなれないのだろうか・・・

 

駄目駄目、今はウインターカップに集中しないと!

 

 

  ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ガシャンッ!

 

「おしーっ」

 

「リバウンドッ」

 

「ナイスプレー!」

 

「戻れ戻れー!ハリバァーック!」

 

 

ピッ

「集合ー!」

 

「自分たちでリズムを作らないと相手に得点重ねられる事になる。今のうちの弱点はそこだ。空気を読むな、流れを作れ、分かったか」

 

「はい」

 

「じゃあ10分休憩」

 

ーもっと上手くならないと、もっと・・・ー

 

夢佳ならこうするであろうプレーを想像する。

 

と、隣から

 

「遅い遅い、もっと早く出来るぞー、テツ!」

 

「ハッハッ、雪くん、もう1本お願いします!」

 

「よーし、よく言った!けど、無理は厳禁、5分休憩な」

 

「はい、ありがとうございました!」

 

鳴瀬くんに指導している雪の姿があった。

 

じっと見ている私に雪が気付くが、その視線には心配が含まれていた。

 

だから私は笑顔で返した。

 

 

 

ーやっぱり何処か無理してんな、あれはー 

 

その日の帰り道、部活中に見た千夏の顔を思い出してそう思った。

 

ミニバスから一緒で2人で栄明に入ったってのに、中高一貫から違う学校に行くってのは相当な事だ。

 

ケガか家庭の事情か・・・そんな事を考えながら歩いていると、小学生相手にストリートでバスケをしているユメカが居た。

 

「何だ、普通にバスケは出来るんじゃねーか」

 

その俺の声に気付いたユメカは

 

「今日は終わりね」

 

と言ってプレーを止めた。

 

「えー、また相手してくれよなっ!」

 

そう言う小学生の子に振り返ること無く、その場を去ろうとする。

 

「たまにやってんのか?」

 

「遊びだから」

 

「遊びにしちゃあ、勿体ないレベルだと思うがな。他の奴らが言ってたぞ、夢佳は天才だってな」

 

 

「ははっ。他の人にはそう見えるんだね。まぁ確かに人より物覚えは良いし」

 

ほう

 

「ボールを思うままに操れたけど」

 

成る程、コイツもあの人や俺と同じタイプの人間か。

 

「だけど・・・世の中には私よりも凄い人なんて、ごまんと居るんだよ」

 

「ま、そりゃそうだわな」

 

「君は思ったことないの?このまま部活だけをして進路どうしようって。こんなに辛い練習を日々続けて何になるんだろうって。プロになれるわけでもない、トーナメントトップの人しか笑って終われない。わざわざそんな所で頑張る必要ある?」

 

「考えた事もねーな」

 

「は?」

 

「俺の目標はガキの頃から今現在までNBAプレーヤーだ、千夏との約束を除いてな。

そこに行くまでがどれだけ厳しくて険しいかは理解してるつもりだ。

でもな、その為にやってる練習が厳しくて辛いだけじゃなく、出来なかった事が出来るようになったり思い通りに身体を使えた時の嬉しさや楽しさも間違いなくあるんだよ。

あんたに何があってバスケから離れる選択をしたかは知らねぇが、ケガで出来なくなったんじゃなく、プレーが不調になったとか自分より上手い奴が居て、そこで奮起出来ずに勝手に諦めたってんなら・・・」

 

そこで一度言葉を切ってユメカの目を見る。

 

「自分がバスケから逃げた言い訳に、千夏を使うなよ」

 

パシンッ!

 

と、頬を打たれる。

 

「痛って」

 

「そりゃ客観的に見れば、いくらでも正論言えるよね!」

 

そう言うユメカの顔には、怒りや悲しみ、後悔がない交ぜになった表情が浮かんでいた。

 

「はっ、図星突かれて怒ったかよ?

結局は才能あるが故に挫折して逃げただけじゃねーか。勿体ねぇな」

 

「あー、うざいうざいうざい。その“俺正しいですっ”て顔、腹立つ。もうナツとも関わること無いんだし、ほっといてよ」

 

「最初に嫌味な感じで絡んできたのはあんただろ?」

 

「あれは全国制覇したからって遊んでるから!」

 

「練習の合間に息抜きくらいする事もあるだろ」

 

「前は息抜きもせずにもっとやってた!練習のムシってくらい。人一倍練習したからこその実力なのに、遊んでて上に行けるとは思えない」

 

・・・何だこいつ?

自分が千夏を心配した発言してるって気付いてないのか?

 

「後藤さん?」

 

「鶴羽さんも、どうかしましたか?」

 

「何でもないです」

 

 

ん~、やっぱりこの2人の関係、このままじゃ駄目だよなぁ。何とか改善出来んもんか。

 

そう独り言ちながら、俺は帰路に着いた。

 

 





解決まで結構掛かるので、ここで一旦切ります。

夢佳の本心は如何に。
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