アオのハコ ~鶴は鹿の元に舞い戻る~ 作:お面ライダーよっしー
練習試合からの帰り道、偶然夢佳と遭遇した千夏。
そこで遂に夢佳の本心を知る事になる。
「おはー」
「雪っ、そこのおかずお弁当箱に詰めて!」
「何だよ、寝坊か?」
「深夜ドラマが面白すぎたのよ!」
「理由が子供だな。千夏はもう出たのか?」
「先に行かせたわ、どうせあんたも行くんだからお弁当届けてあげてよね。部室前に置いてって」
「はいはい。さて、どう詰めますかね」
色々考えながら詰めてたら蓋が閉まらないくらいに盛り上がってしまい、母さんに
「あんた限度ってもんがあるでしょ」
「思った」
その後ちゃんと詰め直して、俺の分も持って家を出た。
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「大喜、今日遅いじゃん」
「ちょっとコンビニ寄ってて」
ーファイトー!ー
ーオー!ー
「バスケ部大会近いんだっけ?大会近い部活あると、体育館全体の空気も変わるよな。静かでピリついた空気、こっちにまで緊張感伝わってくる」
「うん、分かるよ」
「おはよー、大喜」
「おはよ、雛」
「んじゃ大喜、俺行くわ」
「おう」
「朝からラブラブですなー、猪股くん?」
「は!?挨拶しただけじゃん!」
お幸せにー、と言って去っていく島崎さんを見送る。
「そんな空気出してないと思うんだけどなぁ」
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「あれ、これ誰のお弁当?」
「それ私の」
ー・・・何でこんな所に置いてんだ?ー
雪が届けてくれた手提げカバンの中のお弁当箱の上に、チョコレートスナックが置いてあった。
その心遣いが嬉しくて、つい笑みが零れた。
「千夏、急がないと」
「うん」
ーパスッ
ーダッシュダッシュ!
ーキュキュッ
ー1本返すよー!
パスッ
ーナイスカーッ
ー戻れ戻れーっ
「10分後再開ー」
「はいっ」
「誰かテーピング持ってない?」
「田川が持ってたよ」
「ハサミこっちに・・・」
「裕奈、今いい?」
「なに?」
「さっきのプレーなんだけど、自分で決めにいっても良かったよ。サヤは完全にマークされてたし。慌てる必要は無いけど、裕奈はもっと攻めてもいいと思う。
練習だって朝でも練習後でも付き合うよ」
「ごめん!わかってるから!実力不足って事も、皆の足引っ張ってる事も・・・だけどみんなが皆、千夏みたいに努力出来ると思わないでっ」
っ!?
ハッ「ごめんっ!ちょっとテンパってて・・・」
「ううん、私も完璧じゃないし、一緒に頑張ろ」
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ーまた1番に来たの?ー
「え?」
「さぼってゲームしたいとか思わないの?」
「だって私、皆より始めたの遅いから、1日1時間でも沢山練習しないと追いつけないなって。
他の事してられないよっ」
「そう思っててもやれるかは別だから。それが出来るのはナツの才能だね」
「ユメカにほめられたっ」
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ピピピピ
ピピピ・・・
スマホのアラームで目が覚める。
ーみんなが皆、千夏みたいに努力できると思わないでっー
昨日の裕奈の言葉が頭を過る。
少し落ち込み掛けた時
「さーて、今日も1日頑張りますかね!(ガタッ、ダンッ!)って、あっぶね!階段踏み外して落ちるかと思った・・・千夏は起こしてねーよな?」
ーふふっ、本当にいつもタイミング良く、私を助けてくれるねー
「おはようございます」
「おはようさん、千夏」
「お弁当置いておいたからね。今日は綺麗に詰まってるわよ」
「寝坊してないからなw」
「何よ、寧ろ毎朝あんたたちに付き合って早起きしてる事に感謝して欲しいわ」
「それはしてるぞ」
「ありがとうございます」
「あ、じゃあデパートのデパ地下のケーキを・・・」
「調子乗んな、オバハン」
「あんたもね」
スパーンと尻をはたかれる。
「痛てぇ」
「ねぇ雪」
「んー?」
「雪は朝練サボりたいたな、って思った事ないの?」
「出来ない事情がある時を別にすりゃあ、自分からサボりたいって思った事は無いな。
つーか、やって当たり前だからやらないって選択肢が無い、と言うべきかね?」
「雪は真面目だなぁ」
「千夏がそれ言うか?」
千夏がそんな事聞いてくるってのは、自分が休みたいと思った事があんのか?
・・・あったんだろうな。
初めはユメカが居たから始めたって言ってたけど、ユメカが栄明から居なくなった今でも休まず続けてんのは、千夏らしいっちゃあらしいんだが。
ユメカは勘違いしてんだよな。
千夏は確かに1人で努力し続けてるけど、それは目標があるからで、しんどくない訳じゃあ無い。
小学生の頃に俺が居なくなってしまったからこそ、ユメカには千夏の傍に居て欲しかったと思うのは、俺の我儘なんだろうな。
「あれ?女バスは?」
「午前は練習試合だって」
「なぁなぁ」
「何スカ、男バスの監督」
「女子のウインターカップ初戦のチケット、欲しい奴おらん?うちの嫁さんが買ったんだけど、義母さんが腰いわして実家帰るって言うから余ってんのよな。
ゴール横のいい席なんだけど」
これだっ!
「へい監督、俺にくれ」
「鶴羽、お前わざわざ女子の試合観る必要あるか?」
「いや、ちょいと訳アリで」
と言ってチケットを受け取ろうとした所で、後ろからチケットを掠め取られた。
「じゃあ僕が貰うよ、本人が観る人優先でしょ?」
「どっちでもいいけど」
「オイまっつん、人が話してる後ろから掠めとるたぁどう言う了見だ?」
「え?鶴羽くんが観ないんなら別に良くない?」
「仮にテメーも欲しいってんなら、俺がくれって言った時点で自分も欲しいって言やぁ良かっただろうが、あぁん?」
「まぁ穏便に決めてくれるなら、好きにしてくれ」
そう言って監督は職員室へ戻って行った。
「ならさ、勝負して決めようよ。そうだな、例えば・・・シャトルランで長く走れた方の勝ちで」
「何だ、その程度で良いのか」
「鶴羽もかなりスタミナあるけど、松岡はアメリカに居た時、毎日10キロ走ってたってよ」
「流石に松岡に分があるだろ」
「オーディエンスがこう言ってるけど、どうする?」
「毎日10キロねぇ・・・ま、“走るだけ”なら結構居るよな。良いぜ、乗ってやるよ」
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「これから学校戻って練習かぁ。練習試合でやりきった感あるのにー」
「すぐ練習出来て良いじゃん」
「せめてバスで送迎してくれれば・・・」
「徒歩圏内だからねぇ」
「私一旦家に寄って、着替え取ってから行くね」
「了解ー」
「千夏んちって、こっちなんだ」
ーここって確か、雪が行ってる歯医者さん・・・ー
キイ、と言うドアが開く音と共に話し声が聞こえてきた。
「じゃあお使いお願いね」
「30分くらいで戻ります。行ってきまー・・・」
「後藤さん、あとトイレットペーパーもお願いできるかしら」
「はい」
「ごとう?夢佳って木戸じゃなかったっけ?」
「・・・私が中学卒業する時に親が離婚したから」
「知らなかった」
「別に珍しくもないし、言う程のことでもー・・・」
「夢佳ってほんと、何も話してくれないよね」
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「3・2・1、スタートッ」
「そんなにチケット欲しいかねぇ。わざわざ走る程か?」
「・・・・・それ以上の何かがあるんだろ」
「なんそれ」
「まだ余裕あるみたいだね」
「そりゃ始まったばかりだしな」
「良かった、まだ準備運動にもなってないもんね」
「まっつんこそ、余裕綽々じゃねーの」
「ねぇ、せっかくだしさぁ、この勝負に負けたらナツを諦めて別れるってのはどう?」
「ハッ、話にならねぇな。千夏は景品じゃねぇよ。
そんな提案が出る程度だから、あいつに相手にされなかったんだろうがよ」
「っ!痛いとこ突くね。けど乗らないにしてもここで俺に負けるのは、かなりダサいんじゃない?」
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「何も言ってくれないよね。ここでバイトしてるの?」
「・・・そう」
「じゃあ雪も知って・・・」
雪の事だ、私に気を遣ってここに夢佳が居ると教えなかったんだろう。
「他の高校行ったのって、ご両親の事があったから?」
「・・・関係ないよ」
「そっか、私はそういう事、話して欲しかった。
だけど友達だからって全部話してとは言えないし、私は夢佳の気持ちは分からないから。
夢佳の人生だもん・・・仕方ないよね。買い物邪魔してごめん」
「言えるわけないじゃん!自分のー弱いところ、特にナツにはーっ!私はあんたの憧れの存在だったから」
夢佳の言葉に目を見開く。
「勿論友達として楽しい時も沢山あった。“バスケの上手い同級生”って、慕ってくれて頼ってくれて、最初はそれが嬉しかった。だけど段々・・・バスケへの熱が冷めていって」
「うそ」
「嘘じゃないよ。私はそんなかっこいい人間じゃないんだよ。サボりたいとかしょっちゅう思って、才能が意味ないって気づいたらバスケから逃げたくなってー・・・だから私には、むしろナツが憧れだった。
サボりたい気持ちなんてなく、やるべき事を黙々熟すナツが眩しくて、対照的な自分が恥ずかしくて、嫌いになっていった。
そんなの、話せる訳ないでしょ?」
ーあの努力できる力には憧れるけどねー
ーそれができるのはナツの才能だねー
「ー私、見てたんだよね。中学最後の試合の翌日ー・・・ナツが1人で練習してるの。私はその頃調子も落としてて、終わったことに解放感すら感じてたのに。だからこそショックだったんだよ、ナツが男子と2人で遊んでたの。私が敗北感を感じたナツはそういう人じゃないのに。
バスケに夢中で他の事には見向きもしないで黙々と練習する、そういう人だからっー」
「違うよ、他の事じゃない。私にとっては1つの事だよ。夢佳が辞めて身近な目標も1番の頼れる存在も居なくなって寂しかった。
小学生の時に雪が居なくなって、中学で夢佳まで居なくなったから。
全国制覇は遠い目標で、この地道な練習は本当に為になってるのか分からなくなる時、挫けそうな時、力を貰える。そういう人が居るから頑張れることもある」
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ー上手いな、さすが俺の娘
ーまぁね!
ー夢佳、バスケは好きか?
ーとーぜんでしょ!
ーパパとどっちが?
ーウザイっ
ーいいか夢佳、その気持ちを大切にしろよ。好きって気持ちは最強な感情なんだからな
ーじゃあパパも最強だね。ママの事大好きってー
ーそうだぞっ
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「ごめん、邪魔した」
ー分かってる、全部私の押し付け・・・バスケを続けなかった私の、八つ当たり・・・ー
「へぇ、あの子!1年生なのにメンバーなんだ」
「小学生の時有名な選手だったみたいよ。栄明中にも推薦で入ったって」
「それは凄いわねぇ。でもー・・・そうは見えないわね」
くそっ、驕ってた訳じゃないけど食らいつくので精一杯だ。当然か、1・2年分練習量が違うんだ・・・小学生の“天才”の才能なんて、これからは通用しない。
「木戸。次期待してるからな」
ゼェ、ゼェ、「はい」
そうだ、これから上手くなれば良い。ナツみたいに沢山練習すれば良い。活躍を求められてここに居るんだ、努力して答えないと。
ー口の中に血の味が広がるまで 手から水分が消えるまで 心臓が脈打ちすぎて破れるまでー
ー“それ”は徐々に蝕んでいく・・・ー
「ただいま」
今日も両親は喧嘩をしている。
しょうがない、気持ちは変化するものだから。
お父さん、私もパワーがなくなってきたのを感じるよ。
でも大丈夫だよね、今は練習の辛さに引っ張られてるだけで、また力は戻って来るよね。
「あ、夢佳おはよう!練習付き合ってよ!」
「相変わらず早いね」
ナツにはバレないようにしないとな。
私につられてネガティブな感情持たれたらイヤだ。
バスケが好きだから。
ー試合に於いて努力した時間は評価されない。ただ確かに努力したと言う自信が強さになるー
ここで、ここで1本決めないと。そうすればまだー・・・
だけど私はこの人よりー
何でもっと練習しなかったんだろう
何でもっとバスケに向き合わなかったんだろう
なんでなんでなんで
そればかりが頭の中を駆け巡る。
そんな時
「夢佳」
「ー何?今寝てたんだけど」
「ちょっと話があってね」
「だから何」
「あのね、お母さんたちー・・・離婚することになったから」
「最強じゃ、なくなっちゃった」
「え?」
ダッ、と部屋を飛び出す。
「夢佳?ー」
助けてっ
私はただあの頃みたいにバスケをしてたかった。
シュート決まるだけで大喜びする、あの頃みたいにっ。
気づきたくないよっ。
多分私もう・・・バスケのこと、そんなに好きじゃ・・・
家を飛び出し、走った先は学校の体育館だった。
そしてそこには私と同じ最後の試合に負けたのに、悔しさの余りに泣きながらもシュート練習をするナツの姿があった。
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苦しかった、私がどんどん後ろ向きになっていく中、ナツは前に進み続けてて・・・
あの時、ナツのそばに居続けたら、私はまたバスケを好きになれたのかなー・・・
そう悔いながら涙を流す私の前に、ずい、とチケットが差し出される。
「え?」
「千夏のウインターカップ初戦のチケット、ユメカちゃんにやるよ」
「・・・汗凄いよ」
「いやー、午前に散々外周した後に、午後からチケット掛けた「チキチキ!相手がくたばるまでのタイマンシャトルラン~!!」は、流石に疲れたわ」
あー、しんど、と言う割にまだ余裕がありそうな鶴羽くん。
「あげるって・・・それ、君が行った方が良いんじゃない?その方がナツも喜ぶよ」
「ふぅー、やっと落ち着いてきたわ。
・・・これに関しちゃあ俺じゃ駄目なんだよ、ユメカちゃんじゃないとな。
まぁ小難しい事考えずに、昔の相棒の試合観に行くって事で良いんだよ。
兎に角このチケット、割り込み野郎のせいで余計な苦労してまで手に入れたんだから無駄にしてくれんなよ?頼んだぞ!」
そう言って無理矢理私の手にチケットを握らせて、鶴羽くんは帰って行った。
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「やっぱり鶴羽ってバケモンだな」
「毎日10キロ走ってたんだから、松岡も悔しいだろうな」
「そんな意地になってまで誰にチケットあげるの?」
「ユメカちゃんだよ」
「夢佳?・・・今更どうしたいの?」
「あん?」
「もう辞めたのに、“こっち側”の人に何か言われるのは夢佳も辛いと思うけど。栄明に戻ってこれる訳でもないのにさ」
「確かにな。
もうどうにもならないって事もあるだろうよ。
でも千夏にとっての“ユメカちゃん”は、過去じゃなく
あいつの一部なんだよ。
そういうもん全部引っくるめた鹿野千夏って女(ひと)に俺は惚れたんでな。
だからこそそんな2人には蟠り無く仲良くして欲しいってのが、俺の我儘で自己満足だ」
ーホント、参っちゃうよねー
「どうだったよ、栄明(ウチ)の魔王様は?まぁ汗で滑ってなかったら、もっと行けただろうけど」
「実力だよ」
「なにを仰いますか。松岡くん、午前中散々外周して既に疲労してたでしょ」
「それは鶴羽もくんも同じだよ」
「え、あいつも走ってたの?」
「俺より早く来てたし20周はしてたろうね。
だから勝てると思った訳じゃないけど、それでも勝てるつもりで挑んだからね」
「それ、松岡くんの悪い所だよ」
「えっ、そうなの?」
「もっとがむしゃらにやれば、手に入るものもあったかも知れないのに」
「この件に関しては変わんなくない?」
「それもそうだな」
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「いってきます」
そう言って家を出た私の目に入って来たのは、汗まみれで歩いている雪の姿だった。
「どうしたの?」
「うぉぉい!びっくりしたー。千夏か」
「何でここに居るの?部活は?」
「あー、ちょいと野暮用でな」
ふー、と息をつく雪。
この寒い中、まだ汗は止まらずに流れている。
全く仕方のない彼氏だ。
そう思った時にはタオルを手に取り、雪の汗を拭いていた。
「汗拭かないとまた体調崩して熱出るよ」
「おいおい、これ千夏のタオルだろ?」
「新しいやつだから安心して」
「いや、安心とか古い新しいじゃなくて、お前自身に必要だろ・・・へっくしょい!」
ほら
「言わんこっちゃないって顔すんな!」
パサっと自分の上着を羽織らせてくる。
「それでも羽織ってなさい」
「こないだのお返しか?」
「雪にはいっぱい貰ってるからね、たまにはお返ししないと」
「俺だって千夏からはいっぱい色んなもの貰ってんだけどなぁ。なら次は何をくれるのかね?」
「じゃあ、雪が辛い時は隣にいるよ」
「そっか、じゃあ頼むわ千夏お姉ちゃん」
「もー、お姉ちゃんは卒業して彼女になってるでしょ!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「明日のウインターカップ、気引き締めていくぞー!」
「寒さには負けるなー!」
オー!
「勝ちたいって気持ちを燃やせっ(ボソッ心を燃やせ)」
オー!・・・ん?
「栄明ファイトー!!」
「「「オオオオーーー!!」」」
「女バスは明日試合か」
「何時から?」
「13時とかじゃね?」
「頑張れよー!」
「サンキュー!」
「よっしゃハイタッチー!」
その言葉に順々にハイタッチをしていく。
雪の番が近付く。
「ま、俺は何も心配してねぇからな。全員がやる事やりゃあ負けるこたぁねーよ」
そしてパンッとハイタッチを交わす。
うん、負ける気がしない。
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「明日13時集合で良い?」
「え?」
「クリスマスデート。お互いのプレゼント買いに行って珈琲美味しいカフェ行って、イルミネーションも観に行こう!」
「あのさ宗介・・・」
「それで出来ればニーハイを履いてきてほしー・・・じょふだんでふ(冗談です)」
宗介をつねっていた手を離す。
「ちょっとお手洗い行ってくる」
「ふぁい」
・・・ん?
お手洗いから戻ったら宗介がウインターカップのチケットを見ていた。
「それはっ」
「何これ、明日の高校バスケのチケット?・・・行ってきなよ!これこの前の子の試合でしょ?俺に遠慮しないで、デートは終わってからで良いからさ!
何立ってるの、座って」
「はい・・・」
「夢佳って小学校の文集とかで、将来の夢ってなんて書いてた?」
「え」
「俺サッカー選手」
「知らなかった」
「俺もすっかり忘れてた。諦めたと言うより、いつの間にかなくなってた。けど夢佳はもっと明確に目標があって、バスケをやってたからこそ、今どう接すれば良いのか戸惑ってる様に見える。
そういう時は余計なもの剥ぎ取っていかないと」
「剥ぎ取る?」
「生きてると楽しい事に、辛い事や苦しい事が張り付いてくるんだよ。そういうの1枚1枚剥ぎ取って核を見るとさ、夢佳はバスケの事好きなんじゃない?夢佳の執着は案外悪いものじゃないかもよ」
そう言われて無意識に前髪を触っていた。
「あ、出た。夢佳思ってる事悟られたくないと、前髪くしゃってするよね」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ー苦しい事ばかりだ。
しかもそれを平気で熟す人も居る。
辞めたって良い、無理をする必要はない。
だけどー、ときめきをわすれないで“好き”に自信を持って、それがあなたを最強にするー
うまい・・・ナツが出てるのちゃんと見えてた。ディフェンスも堅いし攻めのプレーが出来てる・・・
時間ってこんなに流れるの早かったっけ。
試合してる時はもっと1秒の密度が高くて、終わってからあっという間だったなって。
2年か・・・
“まだ2年”か
ガシャン
「惜しいッ!」
そのリバウンドを味方が取って、バスを貰った私がそこに居たらどうプレーするかを想像する。
ディフェンスを引き付けて右サイドに居るナツにパスを出す。
今はそれと同じプレーを渚がして、ナツにパスが渡る。
「行けっナツっ!!」
ナツが撃ったシュートが決まり歓声が響き渡る。
そして私に気付いたナツが人差し指を立てる。
私も同じ様に人差し指を立てて・・・
「1本っ!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
試合終了後、私は夢佳を探しに会場の外に出た。
ハア、ハア、ハア、ハア
「夢佳ハァ、なんでハァ、ここに居るの・・・?」
「あんたの彼氏にチケット貰ったの。
初戦突破おめでとう、良い試合だったね。
・・・ごめんね、前サボってるみたいな言い方して。私の視野が狭いだけだった」
「私もごめん。思ってる事何も言わないのは私も同じだった・・・私、夢佳ともっと一緒にバスケしたかったよ。バスケ辞めて欲しくなかった。辞める前に相談して欲しかった。
そしたら・・・もっと・・・」
「なんで・・・泣いてるの・・・」
「夢佳だって」
♪~三原色 YOASOBI~
「わたしはーっ・・・私もナツともっとバスケしたかった」
「じゃあっ、何で辞めちゃったの」
「ごめん」
「寂しかった」
「うん、ごめん」
試合終わった途端、いきなりナツが飛び出て行った。
何処に行ったか探していると、夢佳と一緒に居たのには驚いたが、それよりもっと驚いたのが
「何で号泣してんの!?」
「「だって(夢佳)(ナツ)が・・・」」
「だってって、あんたら子供か」
渚にそう言われてお互い目を合わせると、過去の光景が頭を過り、どちらからともなく笑ってしまった。
好きは最強って、好きこそものの上手なれって以上に、自分には大切なものがあると言う強さを持つ、最大の自己肯定。
「ナツ。また一緒にバスケしよう」
「うん!」
お父さん、私パワー戻って来たよ。
・・・どうやら上手く行ったみてーだな、やれやれだぜ。
さてと、じゃあ鶴羽雪はクールに去るぜ。
「あ、雪くん!観に来てたの!?」
って、オイィイイイー!ナギちゃん先輩、クールに去る前に何してくれてんのおおおーーー!!!
「雪、わざわざチケット夢佳に渡してくれたの?夢佳に聞いたよ」
「はぁああ~、見つかる前に帰ろうとしたのによぉ、何でこんな時に限ってナギちゃん先輩は鋭いのかねぇ」
「え、だって彼女の応援に来たんなら声掛けたら良いのにって思って」
「はぁ、ま、良いか。なぁ2人とも、同じ高校でバスケは出来ないかも知んねーけどよ、間違いなく一緒にプレー出来るチームがあるぞ」
「え?大学?」
「実業団とか?」
「代表」
「「「はぁあああ~!?」」」
「だから日本代表に入りゃあ一緒にプレー出来んだろ?
俺はNBA入りは勿論、日本代表入りして五輪金メダルが次の目標だ」
栄明でアベック優勝したらどうするの?って聞いた事はあったけど、まさか日本代表を目指すなんて考えた事もなかった。
そう言った雪を見ると、その目は「どうする?」って聞いている様に見えた。
「そうだね、目指せ代表!皆で五輪で金メダル、最高だと思う!」
「え、ちょっとナツ?私2年ブランクが・・・」
「私なんてレギュラー維持で精一杯なんだけど・・・」
「はいはい、泣き言言わない!やるったらやるの!」
「そうそう、世界一を決める試合、最強の相手、超満員で盛り上がる観客、そこで大歓声を浴びる・・・考えただけでも楽しくて最高じゃねーか!」
「ねぇ渚、この2人っていつも“こう”なの?」
「残念ながら・・・
去年雪くんが帰って来てから影響されまくってんのよ。それまでは夢佳も知ってるナツだったんだけどね・・・」
・・・お父さん、「好きは最強」って言っても、限度があると思う。
はい、と言う事で千夏と夢佳はお互いの気持ちを吐き出して、以前と同じ様な仲に戻る事が出来ました。
3年時のインハイ予選はどうなるのか。
あと本編読んでて思ったんですが、ミニバスの時の「ゆな」と、栄明の「裕奈」って同一人物なんですかね?
髪色は同じだけど顔が余り似てないから、やっぱり別人なのかな?
名無しキャラが多過ぎるから、公式ファンブック出してくれんもんか。
ただ連載がここまで来たら、出すにしても本編完結後かな・・・