アオのハコ ~鶴は鹿の元に舞い戻る~ 作:お面ライダーよっしー
祖父に彼氏が居ると話した千夏。
すると祖父は、自分が見て話して納得しないと認めないと言い出す。
一方、ワカサギ釣りに興味を持った雪が取った行動は・・・
1月2日朝
目が覚める。
ーおはよう、千夏。
もう1年近く、毎朝交わしてきた挨拶をする相手が今は居ない。
スマホにも通知は来てない。
彼氏なんだから、メッセージくらい毎朝してくれても良いのにと思ってしまう。
落ち込む気持ちに蓋をして着替える。
「ちょっと外歩いてくる!」
「こんな寒いのに?」
「体動かしてないとダメなんですよ、あの子」
雪が積もる中歩く。
「へっくしょん」
「大丈夫?」
近所の人だろうか?
くしゃみをした人を隣の人が心配している。
展望台で私がくしゃみをした時、雪がジャージを貸してくれた事を思い出す。
その他のちょっとした事全てに、雪の事が頭に浮かぶ。
ーちーちゃん、ちーちゃん。さっきの話、特別に教えてあげる。
ーさっきの話?
ーおじいちゃんの告白の言葉だけどね
1月3日朝
ーおじいちゃんね、恥ずかしそうにこう言ったの
「気がついたら、朝1番にあなたに会いたいと思ってしまいます」
それを聞いて、去年の春から1番に顔を合わせてきた相手、幼馴染みから恋人になった彼の顔が浮かぶ。
私も雪に、朝1番から会いたいと思ってしまう。
「おはよー」
「おはよう、ちーちゃん。その、この間の恋人の事なんだが・・・」
「名前は鶴羽雪くん。1つ年下で私と同じバスケやってて背が高くて、私が助けて欲しい時や困った時に直ぐ助けてくれて、優しくてカッコ良いの////」
「ホントこの子がべったり過ぎて雪くんが迷惑してそうだから、少し自重しなさいって注意してるんですよ」
「3が日も終わりだから、その雪くんとやらには暇がないのかな?」
「部活もまだ休みだから予定がなければ暇だと思うけど、どうして?」
「ここまで来て貰えんかと思ってなぁ」
「っ!、聞いてみるっ!」
そう言うなり、スマホでメッセージを送る千夏。
「お義父さん・・・我慢覚えさせてるって言ったのに、これじゃあ正月休みの間離れてる意味がないじゃありませんか」
「いや、だってまさかあそこまで嬉しそうな顔をするとは・・・」
「雪、何も予定無いって!」
ピロン、と私のスマホが鳴る。
雪くんからだ。
ー千夏から予定聞かれたんですけど、何かあったんですか?長野まで来れるかって余程だと思うんですけど、家族団欒の場に呼ばれる訳無いですよね?ー
ー千夏に彼氏が出来たって聞いたおじいちゃんが、その彼氏が暇なら来られんもんか、ってポロっと零した言葉を聞いた途端、雪くんにメッセージ送ったのよー
ーあー、成る程。大事な孫娘に纏わり付く悪い虫を見定めてやろう的な・・・まぁ本気じゃないなら行かなくて良いでしょー
ーおじいちゃんはともかく、千夏がねぇ・・・ー
ーんー、ビデオ通話で良いんじゃないですかね?ー
ー聞いてみるわー
「千夏、無理言わないでビデオ通話にしたら?顔を見て話も出来るし」
「え、折角雪に会えると思ったのに・・・」
目に見えて落ち込む千夏。
「ここに来るにしても、タダじゃないのよ?」
「それはそうだけど・・・」
じっとお義父さんを見る千夏。
「交通費なら、おじいちゃんが出しても良いんだが」
それを聞いて、パーッと笑顔になる我が娘。
「駄目ですよ、甘やかしたら」
そう話していると千夏のスマホに着信がある。
「あ、雪」
「おう、ビデオ通話だ。じっちゃんが心配してんだって?」
「うん、自分で見て話して納得しないと認めないんだって」
「そっか、じゃあ話してみるわ。じっちゃん今家に居んの?」
「ちょっと待って、はい、おじいちゃん、雪だよ」
「え、あ、急過ぎん?」
お義父さんがあたふたしていると
「あらあらこんにちは、初めまして、千夏の祖母です。いつも千夏がお世話になってます」
「あ、お婆様ですか、これはご丁寧にどうも。初めまして、千夏さんとお付き合いさせていただいている、鶴羽雪と申します。初めての会話がビデオ通話と言うのも失礼かも知れませんが、ご容赦ください」
「春菜さんが言ってた通り、しっかりした良い子ですね。これからもちーちゃんの事、宜しくお願いしますね」
「はい、任されました」
「ばあさん、そろそろ代わってくれんか?」
「はい、どうぞ。おじいさん」
「あー、初めまして、千夏の祖父です」
「初めまして、鶴羽雪です。お爺様が去年手術された事は聞いています。その後お加減は如何ですか?」
「ん?あぁ、有り難い事に何の問題も無く、今の所は健康そのものですわい」
「それは良かった。画面越しではありますが、お婆様共々まだまだお若く見えますから、千夏の花嫁姿を見てひ孫抱くまで余裕で行けますってw」
「なっ!?そこまで考えとるのか?」
「あーっと、あくまで一般論として、ですよ?」
「全く、余り年寄りをからかうもんじゃないぞ?雪くんや」
「まぁ、“その相手が俺であれば良いな”とは思ってますけどね(笑)」
「え////」
「あらまぁ、ちーちゃん真っ赤になってるわよ」
「だって、そんな事言われたの初めてだし」
雪くんの言葉を聞いて、真っ赤になったのを見たお義母さんにからかわれる千夏。
その言葉を聞いた私も『本当にそうなってくれたら良いんだけどね』、と思ってしまった。
そんな事を思っている間にも雪くんとお義父さんの話は続いていて、やれ「ちーちゃんの学校での様子はどうだ?」とか「君は雪が積もる所は来た事があるのか?」等々、色んな事を聞いたり話したりして盛り上がっている。
暫く会話していたが
「じっちゃん、俺そろそろ出掛けなきゃなんないから、悪いけど今日はここまでって事で良いかな?」
「おぉ、そうかそうか、長話して悪かったのう。今の時期こっちは湖が凍ってワカサギ釣りが出来るんで、興味があったら来てみなさい」
「え、本当に!?テレビとかでしか見た事無いからやってみたいわー。うん、都合ついたら行ってみたい」
「それじゃあ、ちーちゃんに代わるからまたの」
「はい、また」
「雪、本当は直接会いたかったけど、おじいちゃんもおばあちゃんも雪の事気に入ったみたいで良かった」
「あぁ、俺もじっちゃんとばあちゃんが良い人たちって思ったし、その内会ってみたいとも思った。まぁ今日はこれでって事で」
「うん・・・雪、好きだよ」
「俺も千夏が好きだよ、帰ってくんの待ってる。じゃあな」
そう言って通話を切る雪。
「母親と祖父母の前で好きだよ、ねぇ(ニヤ)」
「な、何?良いでしょ?ホントの事なんだし」
「確かに良い子だし、受け答えもしっかりしてるし私は雪くんが気に入りましたけど、おじいさんは?」
「ん!?ん~、今話した限りだと確かに良い子でちーちゃんが好きになるのも分かるが・・・」
「はいはい、それはいずれ雪くんと会ってから考えれば良いでしょう。千夏、雪かきしてちょうだい」
「うん、分かった」
ビデオ通話越しとは言え、雪くんの顔を見て話せた事で明らかに機嫌が良くなってる我が娘。
ピロン、とスマホが鳴る。
また雪くんから?
ーどうしたの?ー
ーさっき話に出たワカサギなんですけど、釣ったのを持ち帰って天ぷらとかですかね?ー
ーええ、大体いつもそうねー
ーそうですか・・・もしかしたらワカサギ目的でそっち行くかも知れませんー
ーえ?本当に?ー
ーまぁ明日明後日の電車に空きがあれば、ですけど。確定じゃないから千夏には内緒でお願いしますねー
ー分かったわ、もし来れそうなら私にメッセージちょうだいねー
ー分かりました。じゃあ本当にこれで失礼しますー
・・・雪くんもワカサギ釣りを建前にしてるけど、何だかんだ千夏にベタ惚れしてるわねぇ(苦笑)
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千夏のおじいさんからワカサギ釣りの事を聞かされた俺は、テレビで観た事がある氷に穴を開けて釣りをする一連の流れに興味を惹かれていた。
「釣りたて新鮮なワカサギを天ぷらにして食べる・・・美味いだろうなぁ」
と、ワカサギを釣って天ぷらにしている動画サイトを観て生唾を飲み込んでいた。
※そう、春菜の考えている事とは違い、この男はガチでワカサギを天ぷらにして食べる事しか考えていなかったのである。
「えーと、長野までの所要時間と往復金額は、と。
それと宿は・・・うん、往復の電車代と宿泊費がこれくらいなら、去年何回かスポットで手伝った時のバイト代の残りで余裕だな・・・よし、明日の朝イチで行くか!」
「うん?雪、あんたどっか行くの?」
「あぁ、ちょいと長野までワカサギ釣りに行こうと思って」
「おいおい、この時期にチケットや宿が取れるのか?」
「あぁ、さっき確認したらどっちも空きがあったから、さっさとネット予約しようと思ってんだけど」
「千夏ちゃん?」
「から連絡あって、何かじっちゃんが見て話して納得しないと認めないって言われたんだと。で、さっきまでビデオ通話してたんだけど、じっちゃんがワカサギ釣りの話したからやってみたくなってさ」
「あんたそれもう、交際通り越して結婚のお伺い立てに行く様なもんじゃないの。お土産くらい持っていきなさい」
「そんな大袈裟なもんじゃねーよ。ま、高校生が買ってもおかしくない様なもん何か適当に見繕ってくわ」
「今日はもう遅いから、明日の朝に私からも春菜に一言言っとくわね」
「はいよ。じゃあ明日朝イチでこっち出て、そのまま向こうで一泊して明後日帰ってくるから」
「そうか、気を付けてな。それとコレ」
「ん?何?・・・って、お金?お年玉もう貰っただろ?」
「交通費とお土産代の足しにしなさい」
「いやいや、残ってるバイト代で足りるしお年玉もあるから良いよ!」
「雪、前も言ったけどあんたの世話を焼けるのも後少しなんだから、親らしい事をさせて欲しいの。それは私も那月さんも同じだから」
「そうだぞ、雪。お前はまだ子供なんだから、親に遠慮なんかしなくて良いんだよ」
「・・・分かった、有り難く使わせて貰う。でもその内バイト代で何かお返しするからな」
「「それじゃ意味がないだろ/でしょ」」
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1月4日早朝
1泊だから大した荷物は無いし、土産も駅で何かこっちらしいもんでも買ってくかね。
「さて、行きますかね」
「あ、雪もう出るの?春菜達に宜しくね」
「はいよ」
さて、そんじゃあ駅で適当に朝メシ食って小腹空いた様にコンビニでおにぎりやサンドウィッチ等も買っとくか。
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「あら、今日は早起きね」
「そろそろお正月気分抜かないと」
「帰ったらまた早起き生活だもんね」
「6日のお昼に帰るんだよね?」
「そうね、それまではゆっくり出来るわよ」
「・・・うん」
「ちーちゃん、ちーちゃん。今日ワカサギ釣りに行かないか!小波湖って一面凍って釣り出来んだ。小さい頃行ったろ?」
「うん行く」
雪に覆われた街並みを車の窓越しに見ながら、目的地に向かう。
一面真っ白な世界を見ると、同じ“雪”と言う名の彼氏の事が頭を過る。
「よし着いたぞー。冬に来るのは小学生以来か」
「前は夏だった気がする」
「じゃあ、びっくりするぞー。湖一面、氷の世界だ」
おじいちゃんの言葉を聞いて木立を抜けると、そこは一面、真っ白な世界だった。
うわぁ
と、余りの綺麗さに言葉が出ず感嘆が漏れる。
この景色を、雪と一緒に見たかったなぁ。
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長野駅に着いた俺は、千夏からの年賀状の住所を元に路線図を見て、分からない事を駅員さんに聞いて向かう事にした。
ピロン、とスマホが鳴るので見ると
ーワカサギ釣りに小波湖ってとこに来たよー
成る程、小波湖ね。しかし本当に一面凍ってんのはスゲーな。
春菜さんにメッセージを送る
ーおはようございます、今長野駅まで来たんですけど、小波湖ってここからどれくらい掛かりますかね?ー
ーえ、もう?優花から聞いてたけど早いわね。長野駅から最寄り駅までの時間と道路の状況も含めて考えると、大体1時間とちょっとくらいかしらねー
ー取り敢えず朝イチで出たんで。ワカサギの天ぷらが楽しみ過ぎて・・・って今更ですけど、勢いで来たのは迷惑でしたかね?ー
ーえ?本当にワカサギ目的で?千夏に会いたい建前なんじゃなくて?ー
ーあ、それも勿論ありますよ。ただ昨日じっちゃんの話と天ぷらだって話聞いたら、いても立ってもいられなくなって、つい(笑)ー
ー・・・千夏よりワカサギ優先ってバレたら怒るわよ?ー
ーそれはそれで受け入れます!ー
ーまぁ良いわ、お義父さんに迎えに行って貰うからー
ーいえ、ドッキリも兼ねて公共交通機関使います。それじゃー
そう言ってメッセージを終える雪くん。
「お金も掛かるでしょうに」
そこは大人に甘えても良いのに、本当に優花の言う通りだわ。
小波湖に来てから1時間半程経っただろうか。
皆それぞれワカサギが釣れている。
千夏も何だかんだ楽しそうで良かった。
「もうそろそろかしら?」
「何が?」
おっといけない、ポロっと口から零れた言葉を千夏に聞かれてしまった。
「何でもない、ワカサギの群れが寄ってくる頃かなーってね」
「ふーん?」
そう言って言って誤魔化した。
と、そこへ
「うっわー!マジで一面凍ってんじゃん、スッゲー!感動するわー!!」
聞きなれた声が響く。
「え、雪!?何で?」
千夏が目を見開いて驚いている・・・と思ったら、一目散に駆け出して雪くんに飛び付いた。
「おっと」
千夏が走ってきた勢いそのままに飛び付いてくるので、倒れないように踏ん張る。
「こっちに来られないからって、昨日ビデオ通話にしたんじゃなかったの?」
「あー、いやな。昨日じっちゃんに聞いたワカサギ釣りやってみたかったのと、春菜さんに釣り立て新鮮なのを天ぷらで食べるって聞いたらもう、我慢出来なくてな。朝イチの切符取って来たって訳よ」
そう言って辺りを見回すと、春菜さんは苦笑していて、ばあちゃんはにこにこして、じっちゃんは口開けてビックリしている。
んじゃ、取り敢えず挨拶しときますか。
抱き付いてる千夏をひっぺがして
「昨日のビデオ通話ぶりです。改めまして千夏さんとお付き合いさせていただいている鶴羽雪です、昨日聞いたワカサギ釣りがやりたくて来ちゃいました!」
「遠い所を、ようこそいらっしゃいました。千夏の祖母でございます。しかしまぁ、何と大きな事」
「186センチです。最近測ってないから、もっと伸びてるかもしんないけど」
まだ茫然としているじっちゃんに向かって
「直接会うのは初めましてだね、じっちゃん。穴開けから教えてくんない?昨日話聞いてから、気になって仕方ないんだよ」
「ハッ あ、あぁ千夏の祖父だ、宜しく雪くん。先ず穴開けはー」
良かった、おじいちゃんも普通に接してくれてる。
でも私に会うより、ワカサギ釣って食べる方に気が向いてるのはどうなの?
ちょっと、いや、かなりムッとしてしまう。
だからおじいちゃんに教えて貰いながら穴開けをしてる雪の傍に行って
「えい」
と横から突き飛ばす。
しゃがんでいたから踏ん張りも利かず、そのまま倒れて雪まみれになる雪。
うん?何か語呂が良いと言うか、韻を踏んでると言うか。
「つめて!いきなり何しやがる、千夏ー!」
「私よりワカサギ優先する雪が悪い!」
「はぁ!?最初からワカサギ目的だっつっただろうが!つか折角じっちゃんが教えてくれてんのに邪魔すんなよ」
「邪魔!?私はワカサギとおじいちゃんより、優先順位が下なの!?」
「こんなちーちゃん、初めて見たわ」
「いつもはこんなに騒いだりせんのになぁ」
「だから言ったでしょう?この子は雪くんにベッタリだって」
いや、本当にどうしてこうなった?
千夏ってもっとしっかりしてて、恋愛にもあんまり興味無い感じだったよね!?
あれか?
興味なかったが故に反転して、恋愛脳になった感じか?
いや、彼氏としては彼女に好かれてんのは勿論嬉しいよ?
でも、これからもずっと“こう”なのは流石に色々と弊害が出て来るのは確実だ。
何か意識を変える為の良い方法は無いもんかねぇ。
そんな事を考えていると
「ちーちゃん、本当に好きな人なら困らせる様な事をしたら駄目よ。好きな気持ちでも押し付けてばかりいたら、相手はいずれ離れて行きますからね」
「え・・・」
「昔おばあちゃんの知り合いでね、好きな人と両想いになったけど段々と自分の気持ちばかり押し付ける様になって、相手の人が耐えられなくなって姿を消した事があったの」
「それでその人はどうなったの?」
「物凄く落ち込んでたけど、自分の行動が度を過ぎていた事を理解して立ち直ったけど、その後は良い感じの人が出来ても踏み込まず、ずっと独り身を通しているわ」
「!・・・そう、なんだ」
と言って、少し落ち込んだ顔で俺を見つめる千夏。
自分をその人と重ね合わせて、俺が離れて行く事を想像したんだろう。
はぁ、仕方ない。
「千夏、俺はお前から別れてくれと言われない限り、俺の方から離れるこたぁねーよ!」
「え?」
「俺たちが言ってんのは、“度を越すな”って事だからな。ちゃんと節度守って付き合ってれば、そうそうそんな事にはならねぇよ」
「・・・ほんと?」
「千夏がちゃんと自重すりゃあな」
「そうね。ちーちゃんなら、ちゃんと分かると思ってるわ」
「雪、おばあちゃん・・・」
「千夏、貴女は今までバスケ一筋で恋愛に興味無かったのが雪くんと恋人になった事で、今まで感じた事の無い色んな感情に振り回されてるんだと思うの」
「色んな感情に振り回される・・・」
お母さんにそう言われて、何となく分かった様な気がした。
告白されて嬉しくて、付き合う様になってからは今まで以上に距離が近くなって、クリスマスにキスをした事でこれ以上無いくらいに浮かれていた事を自覚する。
パンっ!と両頬を叩く。
雪を好きな気持ちと、それにのめり込むのは違うんだ。
だから雪やお母さん、おばあちゃんは私を心配して色々と言ってくれてたんだ。
「ありがとう、皆!私ちょっと浮かれすぎてたみたいだ。これからはちゃんと考えてから行動する!」
「ちーちゃんなら、分かってくれると思ってたわ」
「やっと元に戻ったのかねぇ?」
「雪くん、見てて暴走しそうなら、ちゃんと止めてね」
「・・・そろそろワカサギ釣り、やらんかの?」
おっと、じっちゃん放置した格好になってたわ。
「ごめんじっちゃん、続きやろうぜ!」
「ごめんねおじいちゃん、私が邪魔しちゃって」
「良いんだよ。さ、雪くん続きやろうか」
「はいよ、じっちゃん。宜しくお願いします!」
そう言っておじいちゃんと一緒に、笑顔でワカサギ釣りをする雪。
おじいちゃんもおばあちゃんも、雪のその楽しそうな顔を見てにこにこして話し掛けて、3人が本当の祖父母と孫の様に見えた。
「やっぱり雪は凄いなぁ。おばあちゃんはともかく、あれだけ心配してたおじいちゃんまで、もう昔からの付き合いみたいになってるし」
「本当にあの子は良くも悪くも“人たらし”ね。
彼女だからって油断してられないわよ?
雪くんにその気が無くても、彼を好きになる女の子は沢山出て来るだろうし」
「それはあると思うけど、私は雪を誰にも譲る気はないよ」
「そう。まぁ、さっきまでみたいに暴走しなければ良いと思うわ」
そう話していると
「釣れなくなってきたな、じっちゃん」
「ワカサギは群れで移動するからな、そこに当たらないと釣れないんだ」
「へー、そうなんだ。流石ベテランはよく知ってるんですね」
「さてと、そろそろ帰るかね。冬樹も帰ってくる頃だろうし。それに・・・雪だ」
「雪ちゃんって名前は、冬生まれだからかい?」
「そうだよ、ばあちゃん。今月末が誕生日で16になる」
「本当に名前の通り、お肌も白いしねぇ」
「私が羨ましいくらいだよ」
「じゃあ帰って天ぷらにしようか、雪くんも楽しみにしてるみたいだからな」
「ハイッ、お願いします!」
鹿野家に着いて荷物下ろしてたら冬樹さんが帰ったきて、居るはずの無い俺を見て物凄く驚いていた。
理由を話すと納得してたけど、千夏に会いに来たって思ってんだろうなぁ・・・まぁ良いけど。
そして待ちに待ったワカサギの天ぷら。
ばあちゃんの揚げ方が本当に絶妙で、美味いのなんのって。
これの為に来た甲斐があったわ。
かなりの数があったにも関わらず、「うまい!うまい!」と、何処かの柱みたいに食べまくる俺を見て、皆が呆気に取られていた。
だって美味いんだから仕方ないだろ。
「はぁー、食った食った。満足満足、来た甲斐があったわー」
食後のお茶を飲みながら一息つく。
「さて、そろそろ長野駅まで戻ってホテル行くわ。今日は本当にありがとな、じっちゃんにばあちゃん」
「え、泊まらないの?」
「そのつもりで来てないからな。宿もキャンセルしたらキャンセル料取られるし、明日は朝イチで帰るから長野駅に近い方が都合良いんだよ」
「雪くん、泊まって行けばどうかね?」
「いえ冬樹さん、ありがたくはあるんですが、今回は予定通りホテルに泊まります。こちらに泊まるのはまた次回以降と言う事で。あ、そうそう、遅ればせながらこれお土産です」
「こんな気を使わなくても良かったのに」
「母さんにも持っていけって言われたし、父さんにもお金貰ったんでこれくらいはね」
「そうか、じゃあ駅までワシが送って行こう、雪くん」
「ではお言葉に甘えさせていただきます。
じゃあ皆さん、またいずれ。千夏は帰ってくるのは明後日だったな?」
「うん・・・やっぱり行っちゃうの?」
「明後日なんか直ぐだよ。ちゃんと祖父母孝行してやんな、そんなしょっちゅう会えないんだしよ」
「そっか・・・そうだね、うん、分かった!向こう帰れば毎日会うんだしね!!」
「じゃあじっちゃん、お願いしま「その前にちょっと来て!」す?」
ぐい、と手を引かれて2階に上がる。
どうした?
と聞く前に抱きつかれる。
「これで我儘最後にするから、帰る前にお別れのキスして欲しい」
そう言って、じっと見てくる千夏。
「はぁ~、分かったよ」
下から誰も来ないのを確認してから、抱き締め返してそっと口づける。
ほんの数秒の触れ合いではあるが、俺もやはり嬉しいし気持ちが高揚する。
「じゃ、今度こそ行くからな」
「うん、待っててね、雪」
そう言って千夏と別れて、じっちゃんに送って貰う。
「ありがとう、じっちゃん。また来るよ」
「雪くん、ちーちゃんを宜しくお願いします。あんなに楽しそうなちーちゃんは初めて見た。余程君の事が好きだと見える」
「はい、任されました。何があっても千夏を大事にすると誓います」
「うん、頼んだよ、じゃあ気を付けて帰るんだよ」
「はい、ありがとうございます。ばあちゃんにも宜しくお伝えください」
そう言ってじっちゃんは帰って行った。
「いやー、色々と体験できたなぁ。何より天ぷらが絶品だった。恐るべし、ばあちゃん」
そんなアホな事を考えながらホテルにチェックインして、暫くゴロゴロしている内に眠くなって来たので、睡魔に身を任せて眠りについた。
鹿野家の実家で祖父母と顔を合わせて気になっていたワカサギ釣りも体験し、新鮮なワカサギの天ぷらを堪能して大満足の雪。
色気より食い気が勝っちゃうよね、成長期だし。
とは言え、色気に興味が無い訳じゃないのも確かで、暴走した千夏が迫ってくる度に内心はドッキドキです。