アオのハコ ~鶴は鹿の元に舞い戻る~ 作:お面ライダーよっしー
部長である西田のある提案で、バド部が垂直跳びの記録を測っていた所に雪が乱入する。
そしてバド部には1年生大会があり、大喜はそこで優勝を目指す。
「第一回!垂直跳び対決。優勝者にはスポーツショップの500円券プレゼント!ディフェンディングチャンピオンの俺を上回る者は現れるのか・・・!」
「針生が超えたぁ!67センチ」
「お前、俺にもっと気を・・・」
「俺も俺も!」
「おぉっ!?・・・残念、大喜は65センチ」
「ほい残念ー」
「も、も一回!」
「よくそんなにはしゃげるわね、500円で」
「男子って競うの好きだよねー」
「マネージャーも挑戦する?」
「えー、遠慮しますー」
「なら雛頼む!俺の雪辱を果たしてくれ!」
「良いの?私は蝶野、飛ぶのは得意よ」
そう言うと守屋さんに持ち上げられてタッチしている。
「いや、流石にそれは反則だよ・・・」
そう言っていると
「何だ?面白そうな事してんじゃねーか、おれも混ぜろよ」
俺たちが騒いでいるのを見た雪がやってきた。
「何だって?蝶だから飛ぶのが得意だってか、雛?」
「そ、それが何か?」
「ふっ、俺は“鶴”だぜ?翼の一振りで蝶なんぞ叩き落としてくれるわ」
ーさぁ皆の衆、俺の羽撃きをご照覧あれぃ!
そう言って跳んだ雪の記録は・・・93センチ!?
「はぁ!?もう少しでメータージャンパーじゃんか!」
「いや、まぁいつもあれだけダンク決めまくってるから、当然っちゃあ当然かも知れんけど」
「流石に比較にならん」
「どうよ、雛?俺の前では吹き飛ばされるだけの存在でしかない、と理解したかね?」
「ぐぬぬ・・・」
相変わらず煽られまくって悔しそうな雛。
そこに追い討ちで雪が
「いや、捕食される存在と言うべきかな?ニヤリ」
「はぁっ!?あんた何バカな事言ってんの!」
「大喜ー、彼女が遊ばれてるぞー」
針生先輩が全く心のこもってない言葉をくれる。
そ、そうだ、雛は俺の彼女なんだから、幾ら雪でもこれは見過ごせない!
そう思って雪に声を掛けようとした時
「へー、雪は雛ちゃんがお気に入りなんだー、そうかそうか、私と言う彼女が居るのにねー」
物凄く冷めた目でこちらを見つめる千夏先輩が、いつの間にか雪の後ろに立っていた。
ビクッと震えながら ヒェッ と声にならない声を上げ、恐る恐る振り返る雪。
「い、嫌だなぁ千夏。雛とのいつもの軽いじゃれあいじゃないかー」
雪はそう言うものの
「ちーちゃーん!雪が私を捕食するってー!怖かったよー!!」
と、雛が千夏先輩に抱き付く。
しかし俺にはハッキリ見えた
ー雛の伏せた顔は、いつもの“にっ”て感じの笑顔だった事がー
「雪、何か言い残す事はある?」
雛を抱きかかえながらそう言う千夏先輩。
「オイコラ雛テメェ、ふざけんな!どうせ千夏から見えないからってその伏せた顔、今笑ってんだろ!!」
流石雪、分かってらっしゃる。
しかし俺は助けない。
「雪、人の彼女を捕食するとか言っといて、それはないわー」
「ゆっきーって隠してただけで、実は女の敵だったんだ!」
ちっ、雛をからかったのが完全に裏目に出ちまった。
千夏が来るまでは上手く行ってたのに、流石は俺の彼女だぜ(混乱)
こうなったら仕方がねぇ、イチかバチかだ。
「さぁ雪、何か言う事は?」
問い詰めてくる千夏に向き直ると同時に、雛が離れて大喜の方へそそくさと移動した。
よっしゃ、勝ち筋が出来た!
スッと千夏に近寄りその頬に手を添える。
勿論微笑みを添えて、だ。
その場の全員がザワつく。千夏も突然の事で意表を突かれたのか、「え?」としか声が出ない様だ。
「言う事なんか決まってんだろ?
あんだけの人の前で告白したってのに、俺が千夏以外の女に靡く訳がねーだろ。
敢えて言うけど、雛や菖蒲みたいにレベルの高い女に誘われても、俺は千夏しか見てねーよ」
雪のその言葉に「ボッ」と一瞬で真っ赤になる千夏先輩。
「あいつマジでスゲーな。あの状況から舌先三寸、口八丁で盤面ひっくり返しやがった」
「つーか付き合ってるからって素でよくもまぁ、あんな台詞が吐けるもんだ」
「あ、ちーちゃん完全に呆けてる」
「う~ん、雪が怒られると思ったのにぃ」
ふー、何とかやり過ごせた様だ、やれやれだぜ。
「あ、西やん!俺は測りたかっただけだから、賞品はバド部で1番跳んだ奴にやってくれー!」
さーて、真面目に部活やりますかね。
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あなたには 今 目標がありますか?
「ねぇ聞いた!?」
「彩昌と三校との練習試合で、彩昌が勝ったってー」
「彩昌って夢佳の!?」
「三校って去年ベスト4だったよね?彩昌も元々弱くはなかったけど」
「夢佳パワー?」
「もしかしたらインターハイ最大の敵は、彩昌かもよ」
その目標を 達成する自信は どのくらいありますか
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「ふんっ、ふんっ」
「何でマネージャーが鍛えてんの?」
「なんでって、もう直ぐ1年生大会なのよ!」
「うん、だから何故出ないのに?」
「そんなの・・・少しでも美しい姿でマッシュくんに会いたいからよ!!」
「そう言えばそんな設定あったな」
「もうどうでも良いのかと」
「よくないわ!って、設定言うな!何の為に汚い部室の掃除に耐え抜いてきたか」
「それは・・・マジですまん」
「でもさ、もしうちの部の1年と遊佐くんが当たったら、どっち応援すんの?」
「え」
周りを見渡すと1年生の視線が集まっている。
「ごめんみんな」
てへっ、と笑いながらそう言うと
「裏切り者ー!」
「この数ヶ月なんだったんだ!」
と声が上がる。
「遊佐くんモテてるねー」
「バドも上手いしなぁ」
「練習試合の時は大喜が勝ってたけど、遊佐くんは連戦後だったし」
「だな。その後、大喜が勝ったことない針生に勝ったあたり・・・」
「あぁ。インハイ出場の最有力は、あの2人だろうな」
コート内の大喜と針生の試合を見ている部員達の感想は、皆同じ様なものだった。
パシィッ!、とスマッシュが決まる。
「ゲームセット。まだまだ甘いな」
ハァ ハァ 「もうひと試合、お願いします!」
「お前分かってるんだろうな?インハイ行くには俺や遊佐くんに勝たないといけないんだぞ。1年生大会で優勝出来なきゃ、インハイ出場なんて言ってられないぞ。そういう気持ちで臨めよ」
「分かってます。自分の力不足は痛いほど・・・だからこそ勝たないと」
そう言う大喜の表情(かお)を見て
「匡代われ」
「え まだもう1ゲーム・・・」
「1年同士の方が練習になるだろ」
休憩の為に壁際に腰を下ろす。
と、隣の西田が声を掛けてくる。
「どうよ1年の調子は?やっぱり上位狙えそうなのは大喜か?」
「実力的にはそうだろうな」
「何か含みある言い方だな」
「・・・いや、俺と試合し過ぎてんのが良くないのかもな、良くも悪くも挑戦者なんだよな。
真っ直ぐに突き進めるのは大喜の良い所だと思えるけど、挑戦者って負ける割合が多めで勘定されてるって言うか。“自分は強い”と言う自信が感じられない」
「確かにそんな所はあるかもな」
「ウサギと亀って話あるだろ。ウサギが調子に乗って亀にレースで負ける話。大喜はそれはそれは立派な亀だと思うけど、世の中にはサボらないウサギも居るんだよ・・・まぁ俺の事なんだけど」
「いちいち自分の情報入れないと気すまんのか・・・」
「そんな俺らに勝つには、亀じゃない何かに化ける必要があるかもな。
それこそ“自信が人の形を取ったみたいな奴”が身近に居るんだから、何かを感じ取れたら或いは・・・」
そんな話をしながら、コートに立つ大喜を眺めていた。
その辺の意識を自覚しない限り、もう1つ上には行けないんだぞ、大喜。
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帰宅して練習試合の動画を見直す。
今観直すと、あちこちに甘い所があると気付く。
「練習試合の動画撮ってて貰って良かった」
次の大会で遊佐くんに勝てば、俺もみんなと肩を並べられるかな・・・
そう思っていたら、雛から着信が来たので慌てて電話に出る。
『もしもし』
『寝てた?』
『いや、練習試合の動画観直してたから、バッチリ起きてた』
『明日大会って聞いたからエール送ろうと思って』
『あぁ、ありがとう』
『どう?自信のほどは』
『・・・あるよ』
『ほんとにぃ~?今なんか間があったと思うけどなぁ~』
『そんなことはっ』
『ねぇ大喜、私だって試合前は不安になる事はあるんだからね?』
『え?いつもあんな自信満々なのに?』
『自信はあるよ?それだけの事(練習)をやってきたって思ってるから。それでも緊張する時はする。だから大喜が今不安に思ってても変じゃない』
『やっぱり遊佐くんに勝てるかな?って不安はある。練習試合で勝ったのも遊佐くんが連戦した後ってのも事実だし、互角の状態でやってたら多分負けてただろうし』
『大喜、雪が試合前にいつも言ってる事知ってる?』
『え、何?知らない』
『“俺に勝てるのは俺だけだ”、だって』
『流石に雪レベルだと違うなぁ』
俺にはとてもそこまでの自信は持てない。
『初めてそれ聞いた時、あんた何でそんなに自信あるの?って聞いたんだ。そしたら
“そりゃあ自信はある。けど負けるのはやっぱり怖ぇんだよ。だから自分のやって来た事を信じて自分を奮い立たせる為にも、自分自身にそう言い聞かせてんだよ”、って言ってた』
『あの雪が・・・!?』
『雪でさえそうなんだから、大喜が不安でも当たり前!だから、手を上に向けて広げてみて』
『?分かった、上げたぞ』
『じゃあ、ん~~~っ、はぁっ!!・・・はい、もう良いよ』
『もしかして電話越しにパワー送ってくれた?』
『雛様からのありがたい贈り物ぞ?』
『うん、ありがとう!何か不安なんか無くなってきた!優勝するからな、雛!!』
『それでこそ我が彼氏よ!じゃあおやすみ、大喜』
『おやすみ、雛』
そう言って通話を切った。
雛のお陰で漠然と抱えていた不安が、不思議な事に消えていった。
それに、あの自信が服着て歩いてる様な雪(オイコラ、大喜テメェ!)でさえ、不安を感じる事があると知って、スッと心が軽くなった。
「よし、1年生大会、優勝するぞー!」
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そして始まる1年生大会。
夏のインハイ、シングルス枠は2枠。
そこに入る為には、この1年生大会で優勝するくらいじゃないと話にならない。
「あ、佐知川だ」
「1年しか居ないのに圧があるな」
「体つきが違うよ」
その声を聞いて佐知川の方を見る・・・が
「あれ?遊佐くんがいない・・・?」
「なぁなぁ!」
「どした?」
「今受付で聞いたんだけど、遊佐くん出場辞退したって!!」
・・・・・・は?
「辞退ぃ!!??」
「何でも佐知川主力は海外遠征だとかで、1年からは遊佐くんが・・・」
海外遠征ー・・・?
何だそれ、名前覚えられたくらいで思い上がって、この大会で戦えるって意気込んでたのは俺だけで・・・全然相手にされてないじゃん。
「遊佐くん出場辞退!?」
「そうそう、急遽決まったらしいよ」
「海外遠征ねぇ。洒落臭いことしてくれんね」
「大喜楽しみにしてたのにな」
「公式戦で勝ちたいってなぁ」
「逆にちょうど良かったんじゃないか?」
「何でだよ?」
「これで尚更優勝以外あり得なくなっただろ」
「後輩追い詰めてやるなよ」
そこにちーと渚と蝶野さんが来る。
「何の話してんのー?」
「うさぎが飛行機乗って行っちゃったけど、どうする?って話。
大喜に必要なのは、周りが引いちゃうくらいの自信だから。
勝ちたいじゃなくて、負けない、負けるわけにいかないって、これからはそういう負荷を掛けた方がもっと強くなれる。
ほら、恋愛とかも付き合う前より付き合ってからの方が自信が必要じゃん?対等にならないと駄目って言うか。
あいつ今そんな感じ、じゃない?蝶野さん」
「そうですね、大喜は端から見て努力してると思うけど、それが自信に繋がってない所があると思います。多分身近な針生先輩に勝ててないとか、遊佐くんに勝ったのも相手が疲れてたからって、素直に自分の力を信じられていない、有り体に言えば自己肯定感が低いんだと思います」
「確かにそんなトコあるよな、大喜は」
遊佐くんに1度は勝てたんだ、いつまでも挑戦者でいるなよ、大喜。
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「遊佐くんが優勝だと思ってたのになぁ」
「他に優勝候補って居たっけ?」
「ほら、あの人じゃない?佐知川のー・・・」
「今大会、優勝はお前だって噂されてるぞ、望月」
「本当ですか、嬉しいなぁ。遊佐のいない佐知川はダメだとか、言われないようにしないと」
「なぁあれ、どうすんの?」
「ほっとけほっとけ」
「・・・・・・そんなに落ち込まなくても」
そこには遊佐くんがいないと知って、この世の終わりかと言うくらいに落ち込んでいる守屋さんがベンチにもたれて泣いていた。
「しくしくしく、マッシュ君・・・いや遊佐君・・・どうして・・・しくしくしく。
昨日マッサージもストレッチも入念にやったのにぃ」
「選手みたいな・・・」
「私のコンディションはかんぺき・・・ようやく会えると思ったのに。ああっ、でも海外遠征ってかっこいい」
「これで心置きなく、栄明(うち)の応援出来るんじゃない」
「それは最初からするつもりですが」
「やっぱり優勝は望月くんかなー」
「佐知川の坊主の人もー」
「皆優勝予想してるねー」
「それくらい1年の中じゃ、遊佐くんが1強って思われてるからな」
「匡くんは、誰が優勝すると思う?」
「それ俺に聞く?一応出場するんだけど」
「あ、ちがっ」
「匡ー」
「ん?」
いのたに呼ばれて、そちらに行く匡くん。
今のやりとり、匡くんは優勝出来ないと言ってると思われた?
「んーんー、そうじゃなくてー」
「悪化してる!!」
試合が始まると1回戦、2回戦と勝ち進んだが、内容を振り返るとまだまだ無駄なラリーが多かったと感じる。
遊佐くんと戦うなら、もっと・・・
ふと視線に気付いたのでそちらを見る。
「岸くんじゃん!!隣のコートだったんだ」
「やっぱり大喜か・・・」
「やっぱり・・・て何?」
「いや何か、前とオーラ違うから・・・」
「オーラ!?岸くん見える人?俺何色!?」
「そういう事じゃねー。今の試合も見てたけど、正直者かなり強くなってて焦ったぞ」
「・・・もっと強くなるよ」
ー俺には見習いたい人達が居るから
「何か変わったな、大喜」
「針生先輩にいつもボコボコにされてるから、やり返せるくらいにならないと!
何てったって目指すはインハイ出場なんだ!」
そう言った時
「ふっ」
と笑う声がした。
「あ、失礼しました。そんなに堂々と目標口する人も、今時珍しいなぁって。
あれ、君・・・練習試合で遊佐に勝ってた・・・
あん時遊佐の奴、連戦してたからなぁ」
「君はインハイ行きたくないの?」
「いやいやっ、俺はバドか好きでやってるだけで、そんな高望みは全然。今大会も遊佐がいなくて寧ろラッキーと言うか。
遊佐が居たら優勝出来る機会なんてないからね」
ラッキー?
そんなラッキー、何の意味があるんだよ。
大喜がラケットのガットをカリカリとしながら不機嫌になっていた。
「久し振り岸くん、何かあったの、アレ?」
「うす。実はさっきこんな事があって・・・」
その佐知川の人は強い相手がいなくてラッキーと思うタイプの人(まぁ殆どの人はそう思うだろう)で、強い相手と戦いたい大喜とは水と油なのは間違いない。
「俺は別にっ、ただ優勝したいんじゃなく、遊佐くんに勝って強いって証明がしたかったんだ!
どうせ戦ったって無駄みたいなのは、努力してきた自分に失礼だ」
彼ー望月くんーと当たるなら準決勝・・・
佐知川っていう強豪校に入れるくらい強いのに、何であんなに自分を下げるんだろう。
「そろそろ俺の番だ」
「頑張れよー匡」
「はい」
「笠原くん。私もトーナメント写しに下に行く」
「あぁ、ありがと」
「うぅん。それからさっきはごめんね」
「?何が」
「優勝誰だと思うって聞いたこと」
「あー、全然気にしてなかったのに」
「そうなの?」
「そう見られるのも分かるって言うか。俺は大喜みたいに目標を口には出さないから。あれは大喜の偉い所だよな。さっきも笑われたって言ったけど、怖くないのかね。叶わなかった時、ショックでかくない?」
何も言わずに俺の話を聞いている守屋さんを見て、話を続ける。
「大喜とか蝶野さん・・・雪とかを見てると思うけど、笑われたり傷付く事があったとしても、無傷で生きてるより行動してるのが格好いいよ。
かといって、あんな高らかに目標掲げようと思わないけど。
でも内心では1勝でも多く勝ってやろうと思ってるから、応援してよ」
そんな事思ってたんだ。
「私からしたら頑張ってる、皆格好いいよ!ファイト!!」
そう言うと、守屋さんは逃げるように去っていった。
「さっき試合待ってる時さぁ」
「おう」
「インハイ行きたいって言ってる人がいて、栄明のー」
「あー、あの子か」
「思わず笑っちゃってさ」
「失礼だな。まぁ俺らその感覚忘れちゃったかもな。ずっと兵藤さんの圧倒的強さを見てきたし、今も遊佐がいるからそんな事言えないよねぇ」
「願望は口に出した方が良いって言うけど」
「それはそうだけど、インハイに関しては恐れ多くて言えないよ」
「結局個人の才能と努力量に見合った未来しか来ないのに、凡人が夢語っちゃあ超人に失礼でしょ。この世には身の程ってものがあるんだから」
「分かるー・・・あ」
その声にふと振り替えると、さっきの栄明の選手が居た。
「あー、聞こえちゃった?」
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
準決勝 栄明 猪股✕佐知川 望月
「やっぱり残ってるな、佐知川の望月くん」
「相手誰?」
「えーと、栄明の・・・猪股大喜?」
「あー、針生くんのペアだった」
「そんな人居たなぁ」
「さっきの怒らないでよ」
ネットを挟んで望月くんが声をかけてくる。
「あくまで僕たちはそう思うってだけで、君の事を否定しようとか・・・」
「いいよ。気持ちは分かるから」
ラヴ オール プレー
「猪股くん、一球目から攻め気だな」
「押し込んでくプレースタイル?」
「かと思ったら、ちゃんと緩急つけてくるじゃん」
「うまいな、あいつ」
俺だって思った事ある。
身の程知らずって、遠くの目標かも知れないって。
けどそれは、自分を下げて言い理由にはならない。
そんな考えに、俺は負けるわけにいかない。
「なー針生ー」
「あぁ?」
「ウサギとカメの話だけどさ」
「あー」
「大喜ってカメってより、イノシシじゃね?名前の通り。ウサギも意外とアッサリ追い抜かれるかもよ」
「あ゙?」
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
遊佐にならまだしも、こいつに負けるのは違うー!
今まで目立った成績も残していない、無名の選手だぞ!
俺は佐知川を背負ってるんだ。それに・・・
ー海外遠征ですか。1年生大会ある週じゃ?ー
ーあんな大会より、遠征の方がお前の為になるだろー
ー分かりましたー
あんな大会でくらい勝たないと、俺の立場がー・・・
「おいおい見ろよ、あのコート。すげぇラリー・・・」
「佐知川の望月じゃん!」
「でも押してるの、栄明の方じゃね?」
やっぱりあいつ、強くなってる。
前はー・・・逆境でも、粘り強いプレーっていう印象だったけど、今はあいつが試合を動かしてる。
佐知川の代表だけあって、望月くん強い・・・強いのに・・・!自分で諦めなければ、もっと先に行けるかも知れないのにっ!
なんで・・・?
もしかしてこいつも超人側だったのか?
そう思って相手の顔を見る。
違う、こいつはー・・・
そして相手のスマッシュが決まる。
「ゲームッ、マッチ ワンバイ 栄明猪股くん」
わあーっ!と会場が湧く。
「佐知川が負けた!?マジかよ」
「栄明の猪股ってこんなに強かったのか!」
俺の負けで試合が終わり、ネットを挟んだ相手の目を見る。
こいつは俺たちと同じ凡人側だ。
ただ俺たちと違うのは、「凡人であることを受け入れた上で、諦めずに努力し続ける事が出来る人間」なんだとその目を見て思った。
「「ありがとうございました」」
挨拶を終えて部の連中と合流しようとした時
「望月くん」
猪股くんに声を掛けられる。
「何かな?勝者から声を掛けられて喜ぶ敗者はいないんだけど?」
「それは悪いと思う。ただ、1つだけ。
去年入学した時、競技は違うけど君が言う“超人”の側の人に言われたんだ。
ー俺は目標や約束を誰に笑われて馬鹿にされても、それを曲げるつもりは1ミリもない。
目標があるなら馬鹿にする奴が居ても相手にするな、時間の無駄だから、そんな時間があんなら自分の為に使えー
ってね。
勿論色んな考えがあるのは分かってるし、君の考えも間違ってるとは言わない。
ただ、それだけ強いのに勿体無いとは思ってる・・・それだけ」
それじゃあ
と言ってコートを後にする猪股くん。
「それが簡単に出来るくらいなら、こんな卑屈な事言ってないっての・・・」
でも猪股くんにそう言った超人側の人は、超人だとか凡人だとかに拘ってないと言う事は伝わってきた。
「まだ、間に合うのかな・・・」
何となく、そう思えた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
「オイ!望月の奴、準決で負けたってよ」
「何やってんだあいつは。相手は?」
「栄明の猪股くんだって」
「あー針生の」
「望月は卑屈なトコあるからなぁ!素直になればもっと強くなんのに~」
「薬師寺はもっと謙虚になれ」
「謙虚?何それうまいの?」
ー俺なら負けなかったのに。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
結果として、俺は1年生大会で優勝した。
遊佐くんが居ないから不完全燃焼ではあるが、優勝と言う結果は誇って良いだろう。
でもやっぱり、何か釈然としない・・・そう考えながら帰路に着いていると
「そこのお兄さん」
ひょこっと飛び出てきた雛に声をかけられる。
「雛っ!?」
「真っ先に伝えようと思って待ってたんだ。1年生大会、優勝おめでとう!
連絡来た時嬉しくて、ちーちゃんと一緒に叫んじゃった、やったーっ!て」
「優勝って事は、インハイ予選で負けたあの子にも勝ったんだよね?」
「いや、遊佐くんは海外遠征でいなかった」
「そうなの?」
「でも他の人も強くて何とか勝てたって感じ」
「んー、そっか、リベンジは出来なかったのか。
でも大きな方の“大”一歩だね」
「雛が贈ってくれたパワーのお陰だよ、ありがとう」
「私も大喜の頑張った姿見たから、力湧いてきたよ」
雛とお互いを思いやりながら、これからも一緒に高め合っていこう。
改めてそう思った。
作中でも書きましたが、「強い相手が居なくてラッキー」と思う人って多いと思うんですよ。
雪や大喜の様に「強い相手に勝つから意味がある」と考えて実行出来る人って、本当に凄いと思います。
さて、次はバレンタイン回ですが、文字数によっては新学期まで行くかも知れません。