アオのハコ ~鶴は鹿の元に舞い戻る~   作:お面ライダーよっしー

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いつまで経っても暑い日が続いているので、身体的にかなり参ってます。

皆さんも無理せず、適宜休憩取って暑さが過ぎるまで乗り切りましょう。


EP57 部長として

 

千夏はメンバーチェンジでコート外で治療を受けている。

 

くそっ、もっと早く動けば良かった。

あん時から自他に関わらずケガには人一倍気を付けてたのに、肝心の自分の彼女がケガしてるんじゃ何の意味もない。

 

 

「痛いか?」

 

「っ!」

 

「捻挫かもな・・・病院行こう」

 

監督に言われ、コーチと共に体育館を後にする千夏。

 

俺はその後ろ姿を、ただ見送るしか出来なかった。

 

コートを見れば、夢佳ちゃんが呆然とした表情で千夏を見ていた。

 

 

「夢佳」

 

「うん」

 

 

それからも栄明は健闘した。

 

部長兼エース不在の中でも、鍛えられた守備力は存分に発揮された。

 

しかし、それ以上に彩昌11番は止められなかった。

 

 

最終スコア 69-72

 

県予選3回戦敗退。

 

これが今年のインターハイに於ける、栄明高校女子バスケ部の成績だった。

 

 

ー診断結果は?ー

 

メッセージを送るが返信は無い。

 

 

「ねぇっ!」

 

ふいに肩を掴まれ声を掛けられる。

 

「夢佳ちゃんか・・・」

 

「千夏の様子は!?」

 

「メッセージ送ったけど、返信が無ぇ」

 

ぎゅーっと、俺の肩を掴む力が強くなる。

 

「なんでっ、何で誰よりも長い時間ボールに触ってバスケから逃げなかった千夏がっ、なんで・・・」

 

泣きそうな顔でそう言う夢佳。

 

ふーっ、と息を吐く。

 

「・・・夢佳ちゃん、気にすんなってのは無理な話かも知んねーが、切り替えろ」

 

「え?・・・なに、言ってんの?千夏がケガしたんだよ!それをー」

 

「分かってる!!」

 

俺の出した声が大きかったのもあり、夢佳がビクッとして肩から手を離す。

 

「悪りぃ、大きな声出しちまった。

心配すんのは分かるし俺からも礼を言う。

でもな、理由の如何はどうあれ彩昌は栄明に勝ったんだ。

千夏のケガを心配する余りにパフォーマンスが落ちて次アッサリ負けられたら、それこそ千夏が報われねぇ」

 

「・・・そう、だね。分かった、でも千夏の状態が分かったら直ぐ教えてよね!」

 

「あぁ、分かった」

 

じゃあ、と言って去っていく夢佳ちゃん。

 

やっとバスケに戻ってこれて、その恩人でもあり昔からの友人である千夏と試合出来たのに、その終わり方がこれじゃあな。

 

そしてそれは千夏も同じだろう。

 

返信がないのは落ち込んでんのかまだ診察終わってないのか分からんが、余り酷くない事を願うしかない。

 

 

 

  ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

帰宅して暫くすると

 

「ただいま」

 

と、父さんの声がしたので慌てて玄関に向かう。

 

そこには足首をガチガチにテーピングされ、松葉杖を着いた千夏の姿があった。

 

「大丈夫!?千夏ちゃん!」

 

「ご心配おかけして」

 

「迎えに行った時に聞いたんだが、捻挫だって、3週間くらいの」

 

「もう、びっくりしたわー。さっ入って、お腹もすいたでしょ?」

 

そんなやり取りを黙って見ている俺に気付くと

 

「心配しないで、まだウインターカップがあるから。冬に向けてまた頑張るよ」

 

「千夏ちゃん、今日1階で寝る?お布団敷くわよ?」

 

「部屋で大丈夫ですよ」

 

「階段大変でしょうに」

 

「リハビリです」

 

「雪、あんたちゃんと千夏ちゃん助けてあげなさいよ?」

 

「あぁ、分かってる」

 

「ごめんね、雪」

 

「何も謝る事なんかねーだろ。それより夢佳ちゃんが心配してたから、一休みしたら連絡してやんな」

 

「うん、分かった」

 

 

 

  ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「おはよう」

 

やっぱまだ起きてないか。

 

「おはよう、雪。千夏ちゃん暫く那月さんが送ってくれるから。でも帰りはあんたが一緒に来なさいよ」

 

「あぁ、何なら背負って来てやるよ」

 

「千夏ちゃんが嫌がらなきゃね」

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

放課後、体育館

 

「こんにちは」

 

「千夏っ!大丈夫?捻挫だって?」

 

「練習来て良いの?」

 

「うん、見学だけ。ごめんね、迷惑掛けて」

 

「ううん、そんな事ないよ!」

 

「私たちの方こそ・・・」

 

負けた事で皆の方こそ落ち込んで見える。

 

パンッと手を叩く。

 

皆が私に注目する。

 

「切り替えよう!負けちゃったのは悔しいけど、まだ冬まで時間は残されてるから。ここからの時間をどう使うか考えよう。私も足が治るまでに、ハンドリングマスターになるから」

 

「そうだそうだ!我らは前に進み続けるのだ!」

 

「そうと決まれば練習っ練習っ!」

 

「ランニングー」

 

「「「はーいっ!」」」

 

 

 

 

「本当に送っていかなくて良いの?」

 

「荷物持つよー。家まで運ぶって」

 

「ダイジョーブ」

 

「何でロボット口調?」

 

「運動不足で体力有り余ってるし、リハビリも兼ねてね」

 

「なら良いんだけど・・・」

 

 

「思ったより平気そうで良かったね」

 

「足はね。本当は平気な筈ないよ、今年は引っ張る立場でインハイ目指して頑張ってきたんだもん」

 

「でもやっぱり帰り1人って大丈夫かな?変な人が居ないとも限らないし」

 

「それは多分大丈夫だと思う」

 

「何で?」

 

「おーい女バスの皆さん、捻挫した部長さんは何処にいらっしゃるかね?」

 

「こう言う事」

 

「あー、これ以上ない護衛だよね」

 

私たちのそんな話を、頭にハテナを浮かべながら聞いている雪くん。

 

そんな雪くんを見て女バス一同が思うのは、「ナツに雪くんがついてる限りは大丈夫!」って事だ。

 

 

 

  ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

帰りながら試合を思い出す。

 

良い感じで進んでた試合なのに、相手選手と接触して着地した時少し違和感があった。

 

あの時、1度交代して状態を見ていればここまでの事にはならなかったかも知れない。

 

たらればを言っても時は巻き戻せないと分かっていても、どうしても頭を過ってしまう。

 

蹲って歯を食いしばっていて、ふと目を前に向けると大きな背中があった。

 

「え?」

 

「ったく、捻挫してんのに1人で勝手に帰んなよな、女バスの皆に聞いて焦ったわ。ほら乗れ」

 

「雪?大丈夫だよ、少し疲れちゃっただけだから」

 

「ちょっと行きたい所があって千夏も連れて行きたいんだが、歩かせる訳にもいかねーからな。ほれ、乗った乗った」

 

「重いよ?」

 

「体育祭で千夏をお姫様抱っこした俺に言う事か?あん時も軽くて余裕だったわ」

 

 

 

そんなやり取りをしながら暫く歩き、着いた先は以前花恋さんの仕事に巻き込まれた河川敷だった。

 

土手にそっと千夏を降ろし、俺も腰を下ろす。

 

「どうして川に?」

 

「何でか水辺って惹かれるもんがあるんだよ」

 

「去年海も行ったしね」

 

「あれは帰りに酷い目にあったけどな」

 

「そうだったね」

 

「川や海ってぇのは、色んなもん飲み込んで水平線の彼方まで運んでってくれそうに思えてな」

 

「色んなものを飲み込む・・・」

 

「河川敷は風も強ぇから、話し声も直ぐ流されて」

 

そこでブオッと強い風が吹く。

 

「泣いたって気にならねぇよ」

 

そう言って微笑む雪。

 

その笑顔と気遣いを嬉しく思いながら、色んな思いが込み上げてくる。

 

 

「っはっ、ぅぐ、ううう・・・私のせいで、負けちゃったっ」

 

「千夏・・・」

 

「私が部長としてっ、引っ張っていかないといけなかった。

先輩たちはインターハイ連れていってくれたのに、私は行けなかった。

みんな辛い練習にも耐えて、鶴羽家の人たちも私の両親も、私がインターハイ行きたいって言ったから、協力して期待もしてくれた。

中学最後の試合みたいなあんな思いしたくなかったから、毎日練習したのに・・・」

 

何か声をかけるべきかとも思ったが、今は抱えてるモン全部吐き出させた方が良いと判断した俺は、そのまま千夏の言葉を最後まで聞く事にした。

 

「・・・私ね、ありがたい事に言われるんだ、“人一倍練習してて偉いね”とか“毎日朝練に1番に来て練習熱心だね”・・・って。

“誰よりもボールに触る”事が私の目標でもあったからそう言われるのは嬉しかったし、それが私の自信でもあった・・・自信だった」

 

千夏がそこで1度言葉を切った時に、ゴオッと風が吹き抜ける。

 

「なのにっケガなんかして途中退場なんかしたらっ、やってきた事出せないまま終わり。

全部っ、全部無駄になっちゃった。

無駄にーー・・・」

 

そう言って号泣する千夏。

 

一昨年、冬樹さんの海外転勤が決まった時と同じ、いや、ショックのベクトルは違うが、部長と言う部員を引っ張る立場でインハイに行けなかった今の方が辛いんだろう。

 

そう自分を責め続ける千夏を抱き寄せる。

 

「そんな事はねーよ、そんな事は・・・」

 

河川敷を吹く風は、そんな俺の言葉も千夏の泣き声も全部乗せて、彼方へと流れて行った。

 

 

 

  ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

暫くして落ち着いた千夏を背負って家路に就く。

 

「たーだいまー」

 

「おー帰りー。ちゃんと千夏ちゃんと一緒に来たわね」

 

「それがこのおバカ、1人で勝手に帰りやがってよ。まぁ直ぐ追いついたから良かったものの、ちったぁ危機感持てってんだよ、ったく」

 

「だって、そんな迷惑掛けたくなかったし・・・」

 

「千夏ちゃん、雪も私も誰も迷惑だなんて思ってないの。貴女が無理して捻挫が悪化したり、変な事件に巻き込まれたりする方が周りに迷惑が掛かるの。分かるでしょ?」

 

「はい・・・」

 

「貴女は“自分がどれだけ異性から魅力的に見えてるのか”を理解してない。普段なら走って逃げる事が出来ても今はそうはいかないんだから、そこにつけ込んでくる悪い人がいるかも知れない。

そんな事にならない為にも、この子(雪)がいるんだからね?」

 

「そういうこった。そもそも俺はお前の彼氏なんだから、遠慮なんかすんじゃねーよ。分かったか!」

 

人差し指でおでこを小突く。

 

「あぅっ・・・うん、そうだね。ごめんなさい。それとありがとう、2人とも」

 

「はい、分かれば宜しい。さぁ着替えてご飯にしましょ!雪、千夏ちゃん部屋まで送ってあげてね」

 

「はいよ。行くぞ千夏」

 

言うが早いかお姫様抱っこで抱えあげる。

 

「ひゃっ!ちょっと雪、ここまでしなくても大丈夫だって」

 

「はぁ?勝手に帰った罰だと思って、諦めて受け入れろ」

 

「・・・はい(´・ω・`)」

 

しょぼんとした千夏を2階まで運び、部屋のドアを開けさせてベッドに降ろす。

 

「なぁ千夏」

 

「うん?」

 

「お前が自分を責めんのも分かる。でもな、女バスの誰もお前のせいだなんて思ってない筈だ」

 

「え?」

 

「寧ろ、自分たちだけで勝てなかった事を悔やんでて、お前に申し訳ないと思ってるだろうよ」

 

「そう、だね。皆ならきっと私より自分たちを責めてると思う」

 

「だったら切り替えろ。落ち込むのは今日までにして、明日からは冬に向けて心機一転、イチからリスタート、ってな」

 

「うん、うん!そうだね、結果は変えられないんだから反省する所はして、冬に向けて頑張らなきゃ!」

 

・・・少しは立ち直りつつあるか。

 

それはそれとして

 

スッと千夏の前に膝をつくと、不思議な顔で千夏が見てくる。

 

ギュッと抱き締める。

 

「え?え?雪、どうしたの?」

 

「・・・あんま心配させんな。

同居の事、ナギちゃん先輩は知ってんだろ?

他の人にも家バレしたって構わねぇんだから、俺がいなけりゃ女バスの人たちに送ってもらえ」

 

「・・・うん、そうだね。ごめんなさい」

 

千夏もギュッと抱き締め返してくる。

 

「今日は溜め込んでたモン吐き出すのに1人の方が良かったんだろうけど、それでも俺が居るって事は忘れんな」

 

「うん・・・雪」

 

「ん?」

 

「ありがとう」

 

「もう大丈夫そうだな?」

 

「うん、明日からは冬に向かってファイト!だね」

 

「その意気だ、部長さん」

 

 

 

「ちょっと2人ともー、もうご飯出来てるんだから、早く降りて来なさーい!」

 

母さんのお呼びに顔を合わせて笑い合う。

 

「さっさと着替えて下行くか」

 

「うん、栄養摂って早く治さなくちゃね!」

 

そう言う千夏の顔は河川敷の時とは全く違う、先を見据えた希望に満ちたものになっていた。

 

 





試合中に監督が抜けるとは思えないし、原作だと誰と病院行ったか分からないので、流石に部員だけって事は無いだろうと思い、付き添いにコーチがいる体にしました。
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