アオのハコ ~鶴は鹿の元に舞い戻る~   作:お面ライダーよっしー

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原作と違い、千夏が冬樹さんの海外転勤に着いていった場合の話です。

このケースでは鶴羽家も帰国してなく、鹿野母は猪股母とも疎遠になっているので、千夏の環境は原作より悪いです。


IFストーリー 千夏が海外転勤に着いていった世界

 

ー海外への転勤が決まったー

 

珍しく早く帰宅した父の口から出た言葉は余りにも重く、残酷な現実を突きつけられたと感じた。

 

父親の海外転勤は今の自宅も引き払って、最低でも数年は帰国出来ないらしい。

 

「ごめん」

 

そう言ってベランダへ出て、膝を抱えてしゃがみこむ。

 

そんな私を心配したお母さんが傍に来て

 

「千夏。突然驚いたわよね、友達とも離れちゃうわけだし。でも千夏なら向こうでもきっと・・・」

 

「分かるよ、きっとすぐ慣れる。勉強になることだって沢山あるだろうし何だかんだ楽しく過ごして、たまに皆と連絡取っても少し胸は痛むだろうけど、仕方ないって納得できちゃう。でも・・・私はそれがイヤだー・・・イヤだよ」

 

 

そんな私の思いを尻目に時は止まる事無く、その針を未来へと進める。

 

 

ー猪股家 朝

 

「千夏先輩!?」

 

「あら、その子知ってるの?実はその子のお母さんと私、昔チームメイトだったの。

お互い結婚してから疎遠になっちゃってて、その記事見るまで忘れてたの。

でも残念よねぇ、お父さんが仕事の都合で春から海外に転勤なんて・・・3月半ばには引っ越すんだって」  

 

「は?」

 

思わず家を飛び出し体育館に向かう。

 

「何でだよ、ほんとにそれでいいのかよ、悔しい気持ちも努力も目標もチームメイトも何もかも全部、ここに置いていけんのかよ!」

 

体育館に着き中に入ると、千夏先輩はいつもの様にシュート練習をしていた。

 

「猪股くん。どうしたの?そんなに慌てて」

 

「千夏先輩、インターハイ行って下さい!俺は千夏先輩に教わったんです。目標に向かって努力する事も負けたとしても前を向き続ける事も。

だから諦めないで下さい!親の転勤とか自分以外の理由で海外なんて、そんなの」

 

そこまで言ってから千夏先輩の表情(カオ)を見て、ゾッとしてしまった。

 

 

「インターハイ行ってください?

目標に向かって努力する?負けても前を向き続ける?親の転勤とか自分以外の理由で海外に行くなんて?

・・・ねぇ猪股くん、親の海外転勤で住む家も無くなるんだよ?高校生の私が1人でここ(日本)に残ってどうやって生活するの?バイトする?そしたら部活に割く時間なんて無いよね?」

 

千夏先輩はそう言って、暗く淀んだ光の無い目で俺を見据えてくる。

 

「諦めないでください?・・・その言葉が今の私にとって、どれだけ残酷な事なのかキミには分かってないよね」

 

「え、いや、俺そんなつもりじゃ・・・」

 

「うん分かってる、キミに他意が無い事は。

でもね、私がどれだけ諦めたくないと思っても、どうにもならない事はあるんだよ?

私だってここに残りたい、残って仲間皆とインターハイやウインターカップを目指したい。だけど状況がそれを許してくれない!」

 

俺は何て馬鹿なんだ。

 

千夏先輩が1番ここ(栄明)に残ってバスケしたいに決まってるじゃないか!

それを憧れの存在に海外に行って欲しくないからって、朝練で顔合わす程度の付き合いしかない俺が何を偉そうに言ってんだよ!!

 

「だからもう、ここ(体育館)には来ない」

 

「え、な、何で?」

 

「意味がないから」

 

「意味がないって、そんな・・・」

 

「昔、本当に物心つくくらいの頃に“栄明バスケ部で男女でアベック優勝しよう”って約束した幼馴染みが居たんだ。

けど、その子は今の私と同じで親の転勤で海外に行っちゃってね、その時“私がインターハイで優勝して報告するから待ってて”って約束して別れたの」

 

ーそんな事があったから、朝練も誰よりも早く来てたんだ。

 

「中学に入ってからもその思いは強くなっていったけど、ミニバスから一緒だった子が理由も言わず急に部活辞めて転校しちゃってね、もう本当にメンタルはガタガタ、モチベーションも全く上がらずで・・・」

 

中等部の体育館で女バスの試合を何度か見たことあるけど、確か「ユメカ」って人だったハズ。

 

一応経験者で素人に毛が生えた程度の俺から見ても、「天才」と呼べるくらいに上手かった人だ。

 

いつの間にか栄明から居なくなってたけど、千夏先輩にとってはただのチームメイトじゃなかったんだろう。

 

「最近はチームの雰囲気も良くて戦力的にも上手く噛み合って来たからインハイ行けるって手応えも出てきたのに、そんな矢先に親の海外転勤の話が出てきちゃって」

 

そう言って自嘲気味に笑う千夏先輩を見て、俺は言葉が出なかった。

 

「約束した幼馴染みも目標だった友達も居なくなって、それでも約束だけは果たそうと私なりに頑張ってきて、チーム状況が良い今年こそはインハイ出場して、もしかしたら全国制覇も出来るんじゃないかと思ってたけど・・・もう良いかな、って。

こんな事言うのは間違ってるだろうし、キミにも失礼だと思う。けど」

 

そこで1度言葉を切る千夏先輩。

 

「ありがとう猪股くん、お陰で私は踏ん切りが付きました。キミはこれからも頑張ってください」

 

ーそれじゃあ

 

そう言って片付けをしてから、千夏先輩は体育館を出て行った。

 

 

俺は結局千夏先輩の気持ちを考えずに無視して、自分の手前勝手な思いを言葉にしてぶつけて千夏先輩を傷付けただけだったんだと、その背中を見送ってから気付いた。

 

そして言葉通り、千夏先輩はその後朝練はおろか部活にも来なくなってしまい、俺は謝罪処か姿を見かける事すら出来なかった。

 

 

そしてそのまま月日は過ぎ、終業式の前日。

 

 

いつも通りに部活に行くと、体育館が騒がしい。

 

「何か今日は騒がしいな、何かあったのか匡?」

 

「大喜か。あれだよ」

 

そう匡が指し示す方を見ると、女バス皆に囲まれている千夏先輩が居た。

 

「千夏先輩!?どうしてここ(体育館)に・・・」

 

「聞こえてきた話だと、当初は3月半ばに引っ越すって話だったけど、せめてキリの良い所までって家族で話し合って、父親は先に行って先輩と母親は明日の終業式が終わり次第海外に向かう事になったらしい。

それで今日がここに顔を出せる最後の日って事で、お別れ会みたいになってるんだと」

 

見れば女バスだけじゃなく、体育館組の女子部の殆どが入れ替わり立ち替わりで千夏先輩と話している。

 

序でにどさくさに紛れて、告白紛いの事を言ってる男子部員もチラホラ見受けられる。

 

まぁ全部普通に断っているし、周りの女子部員たちからは「ふざけんな、チョーシ乗んなよ男子!」と、追い払われている。

 

「お前は行かなくて良いのか?」

 

「俺は・・・」

 

いつかの体育館でのやり取りを思い出す。

 

ーあれは無遠慮に踏み込んでしまった俺に対する、やんわりとした拒絶なんだろうなー

 

そう思うと

 

「俺にそんな資格は無いよ」

 

「・・・そうか、お前がそれで良いんなら俺は何も言わないよ」

 

匡のこういったさりげない心遣いが、今の俺には本当にありがたかった。

 

 

明けて翌日、終業式

 

 

いつもは式が終わり次第部活に行くんだけど、今日ばかりはそうはいかない。

 

話が出来なくても良い、もしかしたら2度と会う事はないかもしれない千夏先輩を、一目だけでも見て見送ろうと思っている。

 

校門前で女バスを中心に多くの生徒に話し掛けられ、笑顔で答えている千夏先輩。

 

寧ろ、周りの友人たちの方が号泣しているくらいだ。

 

そんな事を思いながら見ていると、ふと千夏先輩と目が合う。

 

一瞬驚いた表情(かお)をしたが、周りに断りを入れてこちらに向かってくる。

 

え!?どうしてこっちに?あれから何の接点も無かったのに・・・

 

色んな事が頭の中をぐるぐると駆け巡る。

 

そうこうする内に、千夏先輩が目の前に来てしまった。

 

「あ、あの・・・ 」

 

「ごめんなさい、猪股くん!あの時は本当にメンタルがやられてボロボロだったから、キミに酷い事言ってしまって」

 

あぁ、そうか。

 

あの時の言葉は本心だったんだろうけど、それはやり場の無い気持ちをぶつける相手が、たまたまそこに居た俺だったって事なんだ。

 

「いえ、俺こそ何も知らないのにズケズケと踏み込んだ事を言ってしまってスイマセンでした」

 

「そっか、じゃあこれでお互い謝ったって事でおしまいにしよっか」

 

「はい、勿論です!

千夏先輩、ありきたりな言葉しか言えませんが、向こうに行っても頑張ってください!」

 

「うん、ありがとう。キミも針生くんに勝てるくらい強くなって、インターハイ出場出来る様に頑張ってね、それじゃ」

 

そう言って千夏先輩は皆の元に戻り挨拶を交わした後、お母さんと一緒に学校を後にした。

 

 

・・・これで良かったんだよな、いち学生でしかない俺には出来る事なんて無い。出来るとすれば千夏先輩の選択を尊重する事くらいだ。

 

「大丈夫か、大喜?」

 

匡に声を掛けられる。

 

「ん?俺は平気だよ?」

 

「でもお前、泣いて・・・」

 

「え?」

 

顔に手をやると、確かに涙が流れていた。

 

そうか、俺の千夏先輩への恋心は報われず失恋したんだな、と気付く。

 

ほんの1年とちょっとの片想い。

 

だけどそれは俺の今後の人生に於いて、1つの指針になる程に大きな経験だった。

 

 

 

  ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

終業式も終わり空港に向かう道すがら、今まで暮らし育ってきた街並みを目に焼き付ける。

 

ーあそこの公園でよく遊んだなぁ。

 

ーあ、あのお肉屋さんのコロッケは絶品だったなぁ。

 

ここにもあそこにも、そこかしこに大切な思い出がある。

 

でも、今日これから飛行機に乗って海外に行くと、今度はいつ帰ってこられるか分からない。

 

心残りはある。

 

と言うか、心残りばかりと言うべきか。

 

インターハイに行きたかった、ウインターカップにも行きたかった。

 

栄明の皆と一緒に泣いて笑って時には喧嘩もして、それでも1つの目標に向かって切磋琢磨して夢を叶えたかった。

 

でももうそれは、どうやっても叶わない。

 

そんな事を考えてる内に、いつの間にか空港に着いていた。

 

搭乗手続きも淡々と進み、何の問題もなく座席に着く。

 

機内アナウンスが流れて、いよいよ離陸体制に入る。

 

ゴオォォォーッと音を立てて、飛行機が滑走路から飛び立つ。

 

生まれ育った日本の地が、段々と小さくなっていく。

 

“あぁ、本当にここ(日本)から離れてしまうんだな”と思った瞬間、今まで過ごしてきた記憶が一気に脳裏を駆け巡り涙が込み上げてくる。

 

「うっ、ふぐっ、ううう・・・」

 

止め処なく溢れ出てくる涙と共に、圧し殺そうとしても嗚咽が漏れてしまう。

 

「・・・千夏、大丈夫?」

 

お母さんの言葉にただ頷く事しか出来ず、それでも涙は止まってくれずに私の膝を濡らしていく。

 

 

渚や部の皆、インターハイ出られる様に祈ってるよ。

 

夢佳、出来るならもう1度だけで良いから会って話したかった。

 

花恋、針生くんと仲良くね。

 

後悔も未練も心残りも全て抱えて、私は海を渡る。

 

もう叶えられなくなった夢や目標も、これからの人生に於いてはきっと糧になるのだろう。

 

まだまだ断ち切る事は出来ないし、ずっと出来ないのかも知れない。

 

それでも私は進んで行かなきゃならない。

 

たとえ周りに頼る人が居なくても、私の道は私が切り開いていくんだ!

 

そう決意した時には、涙は止まっていた。

 

 

 

  ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

飛行機が着いた先はロサンゼルス国際空港、通称「LAX」と呼ばれている西海岸でも屈指の大きな空港だ。

 

「すごい・・・」

 

感嘆の溜め息が漏れる。

 

当然ながら周りは外国人(私から見て)ばかりで、日本語なんか聞こえてこない。

 

・・・私はこれからやっていけるのだろうか。

 

 

それから数日して編入手続きも滞りなく済み、週明けからは日本人学校に通う事になっている。

 

そりゃあ現地の高校が1番良いんだろうけど、如何せん英語を話せる訳もないので、それしか選択肢が無かったのである。

 

 

 

  ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

早いものでLAに来てから半年が経った。

 

仲良くなった友達も出来、こちらでもバスケを始めてそれなりに強いチームになったと自負している。

 

そんな折

 

「ねぇ聞いた、チナツ?今度地元の強豪校と練習試合するって話」

 

「うん、聞いたよエマ。来週の土曜に男女とも試合するって」

 

「今までは惨敗ばかりだったけど、今はチナツが居るからもしかして勝てるかも!」

 

「え、そんな惨敗してたの?」

 

「男女ともに代表選手を排出してる高校だし、特に男子のエースであるアレックスは、いずれNBA入りが確実視されてるしね。

それに今年は新入生の1人が特に凄くて、その子も将来NBA間違いなしって言われてるし」

 

「へー、そんな凄い人が居るんだ」

 

そんな話をエマ、栄明で言う処の渚ポジの友人と話す。

 

彼女はエマ・アンダーソン。

日本人の母とアメリカ人の父を持つダブル。

日本生まれで10歳の頃、父親の仕事の都合でアメリカに引っ越した私と似た境遇と言う事もあり、真っ先に仲良くなった友人である。

 

「何にしても楽しみだなぁ、試合するの」

 

「チナツは本当にバスケ馬鹿だよね、いつも朝は一番乗り、帰りは最後まで残ってるし。

ここは日本じゃないんだから、終わったら皆と一緒にさっさと帰らなきゃ駄目だよ?」

 

「・・・気を付けます」

 

 

 

  ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

そして試合当日、私たち女子の試合は辛くも勝利する事が出来たが、問題は男子だ。

 

「何、これ・・・」

 

相手が強豪だと言うのは分かっていたけど、これはもうそんな次元じゃない。

 

第3Q中盤で100点ゲームになってしまっている。

 

特に2人の選手が突出しているのが、誰の目にも明らかだった。

 

1人は金髪のアメリカ人、もう1人は茶髪の東洋人。

 

この2人が個人技だけじゃなく、コンビプレイでも他の追随を許さない上手さだ。

 

でも何故だろう、茶髪の選手のプレイを見ていると何だか懐かしい気持ちになる。

 

ビィイイー!とブザーが鳴り、第3Qが終わる。

 

「皆お疲れさま!あんな強い相手初めて見たよ」

 

エマの言葉に

 

「いや、本当にアイツらバケモンだよ。あんな奴らがいずれNBAに行くんだろうな」

 

「今のうちにあの2人のサイン貰っとくか?」

 

そんな事を言う男子たち。

 

「何言ってるの!勝てないかも知れないけど、そんな事は試合が終わってから言いなさい!全力でやらない人たちに勝利の女神が微笑む事はないんだからね!!」

 

「お~こわ。チナツはバスケになると人が変わるからなぁ」

 

「そうそう、バスケが絡まないといつもはぽや~んとしてるのにねw」

 

「もう、エマまでそんな事言ってー」

 

ハハハ、と皆が笑い雰囲気が良くなる。

 

「さて、じゃあ最終Qは全力で頑張りますか!」

 

「チナツとエマって女神様に笑って貰えるようにな!」

 

「「なぁっ!?」」

 

 

 

そして最終Qが始まったが、私は目を疑った。

 

それまで普通にプレーしていた茶髪の選手の動きが、明らかに変わったからだ。

 

ドリブルもパスもシュートも、その全てがセオリー無視のトリッキーなものになり、ウチの選手は誰も着いて行く事ができなかった。

 

 

「何・・・あれ、嘘でしょ!?」

 

エマも驚きが隠せない様だ。

 

私も言葉にならないのは同じだけど、彼の動き自体もそうだが特に目を惹かれたのはその表情(かお)だ。

 

試合終盤で疲れもピークであろう筈なのに、とても楽しそうに笑顔でプレーしている。

 

その笑顔を見て、今では顔も朧気にしか思い出せない幼馴染みを幻視してしまう。

 

彼もとても楽しくプレーしていたなぁ、あのまま成長していたらあの選手みたいになっていたのかな、と思ってしまう。

 

 

そして試合も残り数秒、アレックスからのアリウープパスを受け取った彼がダンクを決めると同時にブザーが鳴り試合終了。

 

145-88と言う大差で負けてしまった。

 

「あそこまで次元が違うと悔しいとすら思えんよな」

 

「マジでサイン貰っとくか?」

 

 

そんな事を話している所へアレックスがやってきて

 

『今日はありがとうございました、とても楽しかったです。また試合しましょう』

 

と、笑顔で挨拶してくれた。

 

『こ、こちらこそありがとうございました。あの、貴方とあの茶髪の人、物凄く上手かったです。これからも定期的に試合や練習出来たら嬉しいです』

 

『ん?キミは初めて見る人だね。改めて俺はアレクサンダー・ウォーカー、アレックスと呼ばれてる』

 

『私は鹿野・・・チナツ・カノです。半年前に日本から引っ越して来ました。まだ英語はそんなに話せないのでエマに通訳して貰ったりしてます』

 

『半年でそれだけ話せれば大丈夫だよ。それに俺の相棒も日本人だから話せると思うよ、俺も彼から日本語を教えて貰ってるんだ。今呼ぶから』

 

アレックスがそう言って呼んだ「彼」の名前を聞いて、私の時間は停まった。

 

「おーい、“ユキ”ー!ちょっと来てくれー」

 

ーユキー

 

まさか、そんな偶然ってあるの?

 

でも確かに面影は感じたし、「彼」の特徴とも言える日本人としては白い肌に1つ年下と言うのも合致する。

 

そう考えていた所へ

 

「おー、どうしたアレックス?

わざわざ日本語使って他校の日本人女子をナンパか?

サラにチクってやろうかwww」

 

「馬鹿な事言ってんじゃないよ、俺がサラ一筋なのは知ってるだろうに・・・じゃなくて、こちらの女性は半年前に日本から来たらしくて、お前と話せると思って呼んだんだよ」

 

「あ、そうなん?何でぇサラをけしかけてイビってやろうと思ったのによ」

 

あぁ、このふざけた物言い、自信に満ち溢れた態度、7年前アメリカに引っ越してしまった「彼」だ。

 

そう思うと不意に涙が込み上げて来た。

 

「え、ちょ、おいアンタ、どうしたんだよ?」

 

「チナツ?どうして泣いてるの?」

 

エマも心配して声を掛けてくれたが、それを聞いた彼は

 

「え?チナツって、もしかして鹿野千夏?ナツ姉か!?俺だ、雪だよ、鶴羽雪だ!!」

 

「やっぱり、雪くんだったんだ・・・」

 

引っ越しが決まって以来、張り詰めていた糸が切れてしまったんだろう。

 

私はそのまま雪くんに抱き着き、声を上げて泣いてしまっていた。

 

 

「えぇ・・・どうすんの、これ?」

 

 

 

  ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「いやー、しかしチナツにあんな情熱的な1面があったなんてねぇ」

 

あれから暫く泣き続けてしまい、理由を聞いた雪くんは落ち着くまで一緒に居てくれるって事をアレックスに話して向こうの監督に伝えてもらったら、「泣いてる女性の傍に居てやるのが男だ!」と、別行動を取る事を許可されていた。

 

「やめて、それ以上言わないで!私もあんなに泣くとは思ってなかったんだから!」

 

「いや~、いきなり泣かれて抱き着かれた時は、どうしたもんかと焦ったわ。久し振りだな、ナツ姉・・・しっかし綺麗になったよなぁ、マジでビビったわ」

 

「え、あ、ありがとう////

・・・うん、本当に久し振り、雪くん。

まさか雪くんがLAに居るなんて思わなかった、凄い偶然だね」

 

「そりゃあ俺だって同じ気持ちだよ。ナツ姉んちが海外転勤になるなんて想像もしてなかったわ。母さんたちなら、連絡取り合ってそうなもんだがなぁ」

 

「そう言えばそうだね。暫く疎遠になってたのは分かるけど、転勤先が近くなら連絡取り合っててもおかしくないのに・・・」

 

「「まさか!」」

 

そう思ってお互いの母親にメッセージを送ると

 

ーえ、アンタに言ってなかったっけ?ごめんごめんー

 

ー私は千夏に言った筈なんだけど、ショックが大きすぎて聞き流してたんじゃないの?ー

 

と言う返答が来た。

 

いや、ウチのオバハンの雑さはともかく、春菜さんはその後会えたか確認くらいしたらどうよ・・・

 

 

「ったくウチのオバハンのいい加減さよな。まぁ何にせよ再会出来たのは嬉しいし、これから宜しくなナツ姉」

 

「私も再会出来て嬉しい。宜しくね、雪くん。でもごめんね、インハイ優勝処か出場も出来なかった・・・」

 

「そりゃあ仕方ねーだろ。団体競技なんだから、そうそう上手くは行かねーよ。

でもちゃんと約束果たそうとしてくれてたのが分かって、俺としちゃあそれだけで十分だよ」

 

そう言って屈託の無い笑みを浮かべる雪くん。

 

1年近く前に海外転勤の話が出てからずっと絶望にも似た気持ちを抱えてきて、日本の友達とも連絡は取り合っているものの、時差の関係もあって疎遠になりつつある中、まるで運命に導かれるかの様に再会出来た彼、鶴羽雪。

 

この彼との再会が今後の私の人生に大きな変化を齎す事になるとは、この時はまだ知る由も無かった。

 

 

・・・でも雪くん、カッコ良くなりすぎだよ////

 





と言う訳で、原作よりハードモードな千夏の状況でしたが、転居先には昔離れ離れになった幼馴染みが近くに居たと言う、使い古された展開でした。

正直、原作で描かれたIFまで引っ張っても良かったんですが、あれは大喜とほぼ関わりがないしなぁと思ったのと、15巻読んだら書きたくなってしまったのがありまして・・・

そしてアレクサンダー・ウォーカーことアレックスが、本編の「あの人」です。

今話はIFなので本編とは違う未来を辿ってますが、いずれ違う形で本編に出す事は決まってます。

おまけ

「ナツから衝撃的なメッセージが来たよー!」

「え、何々?どうしたの、渚?」

「もしかして帰ってくるとか!?」

「ちっちっちっ、甘いねキミタチ。それはそれで嬉しいけど、そんな程度じゃないんだよ!さぁご覧なさい!!」

そして私が見せた写真付きメッセージを見た皆は

「「「「「えぇ~~~~っ!!」」」」」

「「「「「キャ~~~~っ♡」」」」」

と歓声や悲鳴をあげた。

男バスや交流のあった針生くんたちも近づいてきて、どうしたのかと聞いてくる。

「ふっふっふっ、アメリカ行ったナツからメッセージが来たんだけど、それが何と!“彼氏が出来た”って内容だったのよ!」

「「「「・・・はぁ~~~っ!?」」」」

うん、そうなるよね。

「何でも子供の頃に海外に行った幼馴染みが比較的近い学校に居たらしくて、そことバスケの練習試合をした時に再会したんだって!」

「少女漫画的展開っ!なんだか憧れちゃうなー」

「しかも日本処か親の海外転勤で引っ越した先で、だもんね。運命感じちゃってもおかしくないよね」

「どんな奴なんだ?見せてくれよ」

針生くんがそう言うのでスマホを見せる。

「うわ、こりゃイケメンだわ。でもちーが惚れるって事は、中身も良い奴なんだろうな」

「確かにそうだろうな。鹿野さんは見た目で人を判断する人じゃないし」

針生先輩と西田先輩がそう言うので、俺も断りを入れて見せて貰った。

そこにはあの日の体育館で見せた暗い表情とは真逆の満面の笑みで幸せそうな千夏先輩が、同じく素敵な笑顔の男性と頬を合わせた自撮りのツーショットで一緒に映っていた。

あぁこの人は、あんな絶望していた千夏先輩をこんな笑顔に出来る人なんだ。
男としても人としても敵わないな、と素直に思った。

ー千夏先輩、俺は貴女が好きでした。
でもこれで俺も本当の意味で踏ん切りが付きました。これからはバドと同じくらい、好きな人に出会える様に頑張りますー

そう自分の心に、固く誓った。

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