アオのハコ ~鶴は鹿の元に舞い戻る~   作:お面ライダーよっしー

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前回なるべく早くとか言っておいて、このザマよ。

新年度通り越してGW後半になっちゃったよ・・・


EP66 大喜たちのインハイ

 

栄明高校男子バスケ部がインターハイ決勝の舞台に駒を進めた頃から、数日前。

 

 

「これが全国の舞台・・・」

 

会場の中では、見知った顔や雑誌で見た事のある人をあちこちで見掛ける。

 

雰囲気にあてられていると

 

「ゔゔっ、緊張で胃がっ・・・痛っ・・・」

 

「試合までには治せよなぁ。食いすぎとかじゃねーの?」

 

「ちげーよ」

 

と、針生先輩と西田先輩が話しているのが聞こえた。

 

ふと周りを見ると、通路から下がった観客席に佐知川の人たちが居て、遊佐くんと目が合った.

 

 

「遊佐くんとはブロックが違うから決勝にでも行かない限り、今回対戦はないだろうな」

 

「そうですね」

 

ー今大会は大舞台だけど、これから一年の火蓋でもある。

 

 

「ほら西田、水飲んで落ち着かせろ」

 

そう言って水のペットボトルを渡す針生先輩。

 

「俺らは出し切るぞ」

 

「出すって、うんk「黙れ」」

 

 

 

  ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「痛っ、昨日から緊張で胃の調子が・・・」

 

「何で由紀子が緊張してるんだ」

 

「私が緊張すれば、大喜の分まで吸い取れるかも知れないでしょう」

 

「どういう理論?」

 

「まさかインターハイに出るなんて・・・」

 

夫婦でそう話している所へ

 

「あ、いたっ。ベンチこっちだよ!」

 

息子が私たちを見付けて声を掛けてきた。

 

「大喜、あんたこんな所にいて良いの!?下で打ってる子いるわよ!」

 

「俺の練習時間は終わったから」

 

「そうなの・・・あっ、ほら糸くずつけて!」

 

「え、どこ?」

 

「少しシワにもなってるんじゃない!?」

 

話しながらユニフォームをパンパンと払う。

 

「頑張ってね、ここまでの日々に自信を持って」

 

「うん」

 

その大喜の笑顔を見て思い出す。

 

 

ーAM5:50分、ピッピッと鳴るスマホのアラームを画面をタップして切る。

 

ーもう起きるのか?

 

ーあらごめんなさい、起こした?

 

ー俺は仕事まで寝させて貰うよ。毎日大変だろ、お弁当つくるの。

 

ーほんとよ、まぶた同士くっついて離れないんだから。けど、大喜の為だからねー

 

  

 

  ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「お久し振りです、猪股さん」

 

「あら、針生君のお母さん。ご無沙汰してます」

 

「なかなか仕事で応援に来れなくて」 

 

「お忙しそうですもんねー。そちらのお嬢さんは・・・」

 

「健吾の彼女なんですよ」

 

「えっ!」

 

ー凄い美人さんだわ!顔も小さくて針生くんもイケメンだものね、お似合いだわぁ」

 

「母さん、途中から全部口から漏れてるよ」

 

 

ー大喜くんのお母さん、いい人だわ。

 

「この前の県予選も見に行ったんですが、大喜くん凄く強かったですよ」

 

「ありがとう」

 

「それに大喜くんの彼女の雛ちゃんも、凄く可愛いじゃないですか」

 

「そうなのよー、本当にあの子には勿体ないくらい良い子だし。今日は雛ちゃんも大会の日程被ってるから残念だわ」

 

「あ、来たぞ」

 

コートに立つ大喜の姿を見ると自然に声が出た。

 

「大喜!!ファイトー!!」

 

ビクッとしてこちらに目を向ける大喜。

 

ー頑張ってね。

 

 

 

  ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

試合開始の為にコートに入ろうとした正にその時

 

「大喜!!ファイトー!!」

 

と、母さんの大きな声援が耳に入った瞬間、何故か子供の頃を思い出した。

 

 

ー小さい頃、大人はアイスを食べないと思ってた。

 

ー母さんは食べないの?グレープおいしいよ。

 

ーいいのよ。大人は脂質や糖質がすぐ体に現れるからね。すぐ腹やら腕やら・・・

 

ーししつ。

 

ーほら、さっさと食べちゃいなさい。口の周りについてるわよ。

それよりほんとにバドミントンで良かったの?

 

ーうん!楽しかった!

 

ーじゃあ正式に申し込みしておくわね・・・バスケのクラブもあるのよ?

 

ーバスケはいいや、母さんともさんざんやったし。

バドミントンってすごいんだ。手で投げてもふにゃふにゃな羽根が、ラケットに当たると“スコーン”って飛んで、僕が力を与えたみたいに、ビームみたいにっ。

 

ーもっと力つけるには、プチトマトも食べないとね。

 

ー・・・あれは力を奪う。

 

そんな事を思い出しながら試合に臨むが、相手も流石に強くリードされたまま試合は進んでいく。

 

 

 

  ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「ああっ!相手にリードされてしまってるな」

 

「まだまだこれからだよ!」

 

「心臓がもたないわ・・・」

 

「大喜は凄いな、俺なら手が震えてそうだ」

 

「私もよ」

 

ー本当に立派になったー

 

あの子がバドミントンを始めて少し経った頃、勝てなくて楽しかったバドミントンが楽しくなくなったと言って、こたつに頭突っ込んで拗ねていた。

 

そんな大喜に声を掛けて、苦手を倒そうと話して何が苦手なのかを聞いた。

 

ー前後のフットワークが苦手なんだー

 

ーよしっ、練習しましょう!ー

 

そう言って外に連れ出した。

 

ーほらっ、前よっー

 

ー母さん、あまり上手くない・・・ー

 

ーうるさいっー

 

 

 

  ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

キュッキュッと、シューズが床を蹴る音が響く。

 

ラリーが続く中、相手がネット際に打った羽根を逆サイドに叩き付ける様に打つと、スパンッと小気味良い音を立ててコートに突き刺さる。

 

「ナイス大喜!!良いぞ!」

 

「もういっぽーん!」

 

ー1人でここまで来た訳じゃない。

背中を追いかけたい人たちが居て、毎朝お弁当を作ってくれる人が居て。

 

 

ー母さん今度誕生日だろ。

これ誕生日プレゼントの温泉券、父さんと用意したんだ。その日は学食で食べるし夕飯も父さんと作るから、1日リフレッシュしてさー

 

ー私の教育がいいのかしら?ー

 

ー父さんのもねー

 

そうやって迎えた母さんの誕生日、父さんと一緒に夕飯の準備をしている所に母さんが帰って来た・・・のだが。

 

帰りに俺の為に新しい練習着やスポドリの粉を買って帰って来た姿を見て

 

ー母さんの誕生日なんだよ?ー

 

そう言うとじっと俺の顔を見て

 

ー母さんはいつでも、大喜のお母さんなんだからー

 

笑顔でそう言われた。

 

ーあーーー!37アイスじゃない!ー

 

ー母さんの誕生日だからねー

 

ー流石お父さんね!ー

 

ー母さんってアイス好きだったっけ?ー

 

ー大好物だぞ~ー

 

ーでも昔は・・・ー

 

ー子供の面倒見ながら食べるのは大変なんだよ、こぼしたり走り出したりして・・・アイスに限らずだけどなー

 

その時の嬉しそうな母さんの顔はハッキリと覚えている。

 

 

 

  ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

1人の人が自分より優先して大切に育ててくれたから、プチトマトは食べられる様になったよ。

逆にビームは打てなくなったけど、今日が終わったらアイスを奢らせてよ。

 

「ありがとう」の気持ちを込めて。

 

 

 

  ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「お疲れ。惜しかったな、3セット目まで行ったのに」

 

栄明の応戦席に戻ると匡にそう声を掛けられた。

 

俺のインターハイは1回戦で幕を閉じた。

 

セットカウント1ー2、3セット目18ー21の3点差で負けと言う結果だった。

 

「まだまだインターハイで勝つには力不足だったと痛感したよ。また1年目標が出来た。それよりも先輩たちは・・・」

 

そう言ってコートを見る。

 

「準々決勝だけど相手はU19の代表選手だから、この試合が最後かも知れない」

 

試合は一進一退の攻防が続いている。

 

西田先輩もちゃんと反応出来ているし、針生先輩が後衛で攻める形も出来ている。

 

応援席からも口々に声援が飛ぶ。

 

 

 

  ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

健吾の試合を見ながら、シングルスが終わった後の会話を思い出す。

 

ーダサいよな、後輩に負けて泣くとか。大喜がインハイ行ってくれるのは嬉しい、強かったし結果には納得してる。

・・・けど、悔しいは悔しいんだよなー

 

ー当然だよ。

健吾も目指してきたインターハイだもの。

その為に3年間積み上げてきたものがあるんだから、悔しくて当然でしょ!

ただ・・・ダブルスがまだあるんなら、最後は悔いが残らない様にスッキリしてきなよ!ー

 

 

  

  ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ラリーが続く。

 

相手は世代別代表、流石に簡単に点を取らせてはくれない。

 

ネット際、少し浮いた羽根を叩き付ける様に打つと相手の足元に決まる。

 

わぁあああっ、と応援席から声が上がる。

 

「良い流れ来てるぞ!」

 

「行けっ、針生っ、西田っ!」

 

向こうのペアも、こちらを見て不敵に笑っている。

 

少なからず俺たちを認めてくれた様だ。

 

試合が続く中、西田が上手くプッシュを打つが相手の反応が良く逆に決められてしまう。

 

「あぁっ、返されたっ!」

 

「あのプッシュ返すなんて、どんな反射神経してんだよ!」

 

応援席も驚いている。

 

「次っ、一本取ろうぜ西田っ!」

 

「おうっ!」

 

 

  

  ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ー針生、ありがとうな。お前が居なければ俺は確実にここまで来れていない。

最初はスカした奴だなって思わないこともなかったけど、バドが好きって共通点は仲良くなるには最高の理由で、それはみんなもそうだ。

 

何気ない日々を、大切なものにしてくれてありがとう。

 

毎日練習した体育館が脳裏を過る。

 

あの箱には、思い出が詰まっているよ。

 

 

 

  ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ドンッ!

 

2人の間にスマッシュが決まる。

 

「ゲーム、2ー0、対馬第一高校」

 

・・・終わった、高校最後の試合。

ふと西田と目が合う。

 

「ありがとうな」

 

「こちらこそ」

 

 

わぁああああ!と会場が揺れるほどの声援が飛ぶ。

 

「ナイスファイトー!」

 

「両校すごかった!ナイスファイト!」

 

 

観客席から両校を称える声が飛ぶ。

 

応援していた身としては、負けたのはやっぱり悔しいし残念に思う。

 

けど、やりきった表情(かお)の2人を見ると自然に言葉が出た。

 

「お疲れ様」

 

 

 

  ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

トーナメント表を見ていると、じわじわと悔しさが込み上げてくる。

 

そこへ通り掛かった人たちの話し声が耳に入ってきた。

 

「佐知川の遊佐くんさぁ、俺ファンなんだよね」

 

「そうなの?」

 

「プレーが“粋”っていうかさ」

 

「強いもんな」

 

「今大会だってベスト4だよ」

 

 

観ていた人たちにそう言われる遊佐くんと、名前さえ知られていない自分との差を思い知らされる。

 

皆の所に戻ろうとした時、近くのベンチで遊佐くんが寝ていた。

 

ー去年初めて会った時も、こうやって会場のベンチで寝てたよな・・・何かデジャブを感じる。

 

そう思いながらも、床に落ちているジャージを拾い上げる。

 

「落としてるよ」

 

そう声を掛けるとこちらを向く遊佐くん。

 

「危ないからそこら辺で寝ない方がいいよ」

 

「寝てない・・・試合の事考えてたんだ、もっと出来た筈だって。そしたらだんだん眠く・・・」

 

ー寝てんじゃんっ。

 

「さっきの針生くんの試合、良い試合だった。見てて清々しかった」

 

「うん、俺もそう思う」

 

「あんなプレー出来るんだろうか、俺たちも一年後」

 

「俺さ、ずっとインターハイを目標にしてきたから出られるって決まった時は嬉しかった。

けど“ここに立った”ってだけでしかなく、一勝も出来ずに欠点ばかりに目が行って、インハイの舞台まで来たのに悔いが残ってしまったから“満足なプレー”って想像つかないよ」

 

「バドミントンってのは奥が深いから、研究し尽くすなんて事は無い。上には上がいる。

それを幸せだって思える奴が戦っていけるのかもな」

 

「その“上”にはっ。俺の上には遊佐くんがいる。だから勝つ。それが俺の幸せだから」

 

ー俺に負けてるのに、こんな事言ってくる人って初めてだ・・・晴人を除けば。

 

「俺は俺のする事をするだけだから」

 

ー背後には気を付けないとな・・・ただ、それは君もだけど。

上(俺)ばかり見ていたら、下(晴人)に足を掬われる事になるかも知れないよ。

 

 

 

  ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「西田・針生・大喜、インターハイっ、お疲れ様ーっ!」

 

大会後、部の皆でお好み焼きで打ち上げに行った・・・んだが、花恋さんはまだしも何故か俺の両親まで一緒に来ていた。

 

「私たちまですみませんねぇ」

 

「いえいえ」

 

などと先生たちと挨拶を交わしている。

 

西田先輩が挨拶しているのを余所に、匡の焼いているお好み焼きの美しさに皆目が釘付けになっていた。

 

「俺の話を聞けぇい!!」

 

「いや、だって見ろよ匡の作ったお好み焼き!」

 

「この輝きっ、ソースの照りに踊る鰹節!」

 

「うまそー!」

 

「これ見たら、西田の話なんて入ってこないのも分かるだろ」

 

「えぇい!腹に入ったら同じだろ、これくらいなら針生だって・・・ってボロボロじゃねぇか!!」

 

「ひっくり返したらこうなった」

 

「プレーの繊細さは何処に消えた」

 

「全く仕方ないわね、主役の為にここは私が・・・」

 

「流石彼女っ!」

 

そう言っていた花恋さんだが、頭にハテナマークを浮かべて固まっていた。

 

「おい、固まったぞ」

 

「不器用カップルだ」

 

「お姉こうだよー、手前にくいっと」

 

守屋さんがそう言いながら手本を見せる。

 

「流石マネージャー!」

 

「ってデコるな!」

 

「しかし絵上手いな、マヨネーズでよく描けるもんだ」

 

それを“雛はああいった事は出来るのかなぁ?”等とボーッと眺めていたら

 

「あー、今彼女の事思い浮かべてたろw」

 

「へぁっ!?い、いや、明太子の可能性について考えてただけでっ」

 

そう言われて慌てて言い訳している横で、西田先輩がお好み焼きに大量にソースを掛けているのを見た守屋さんが「ソースかけすぎ」と言った事で、3年の先輩たちの“西田先輩やらかし事件”が次々と明かされていった。

 

「そんで監督までノッてきてさー」

 

「そうそう、合宿の時わざわざ2Lのソースまで用意してたりw」

 

「あれは冗談だろ」

 

「1年も気を付けろよ、変な事すると一生いじられるからなー」

 

あははと皆が笑う。

 

 

「そういや・・・何で花恋さん泣いてるの?」

 

ずびっと鼻をすすり、涙を湛えている花恋さん。

 

「だってほんとに仲良さそうで、3年間っ本当に楽しかったんだなってっ」

 

それを聞いた3年生が顔を見合わせる。

 

「あぁ、楽しかったな」

 

「しんどい事もあったけど、それが残らないくらい」

 

「でもこれで終わりなんだよな」

 

その気持ちを表す様に“カラン”とコップの中の氷が音を立てる。

 

「終わりなんかじゃないっ!卒業までまだまだあるし、たまに部活にだって遊びに行かして欲しいし!

例え卒業したってこうして集まって、最近こうだとかあんな事あっただとか、一生話せる仲だって俺は思ってる!

終わりなんかじゃない!栄明男子バドミントン部は永遠だ!」

 

「・・・はぁ、この空気とはいい加減お別れしたいな」

 

針生先輩の言葉に笑いが漏れる。

 

西田先輩にこれを引き継いでいけと言われたが、下級生一同で丁重にお断りした。

 

 

 

  ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

翌日の部活開始前に先生からインターハイの労いがあり、その後新部長の発表があった。

 

「新部長は匡に頼もうと思う」

 

「大喜は副部長を。まぁ匡の方が視野が広いし」

 

「落ち着いてるし論理的だもんな」

 

「教えるのも上手いし提出物もちゃんとしてる」

 

「俺の悪口!?」

 

先生と先輩たちから酷い言われようだった。

 

「頼めるか、匡?」

 

「はいっ」

 

「うおおおおおお!」

 

「新部長誕生だぁぁあ!!」

 

 

部員一同が盛り上がる。

 

匡が部長で俺が副部長。

 

新体制で心機一転、来年に向けて栄明男子バドミントン部が新たな一歩を踏み出した。

 





オリジナル回のネタが余りに出来ないので、原作を軸に大喜のインハイを同時進行で書いてました。

で、こちらの方が早く書けたので投稿しました。

・・・投稿始めて1周年の節目に間に合わないと言う、体たらくよ。
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