アオのハコ ~鶴は鹿の元に舞い戻る~ 作:お面ライダーよっしー
やっと入学しました。
今日は栄明の入学式。
新しい制服に身を包み姿見の前に立つ。
「ん~、制服は初めてだから何か変な感じ」
そこへ「雪くん、準備出来た?」とナツ姉がドアの外から声を掛けてくる。
「おう、バッチリよ」と言いながらドアを開ける。
ナツ姉は俺を頭の先から爪先までチェックして、
「う~ん、ネクタイが曲がってるね、ちょっと動かないで」と言い、近付いてネクタイを直してくれるナツ姉。
「新婚夫婦プレイ?」
「////ばか・・・はい、これで大丈夫。優花さんが朝食の用意出来たからそろそろ降りてきなさいって」
「じゃあ必要なもの持って降りるけど、これで良いのかな?確認お願いしやす、鹿野先輩!」
「どれどれ・・・うん、バッチリだよ鶴羽くん」
顔を見合わせて「プッ」と吹き出してしまう。
さて、朝飯食って学校行きますか。
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母さんも一緒に行って写真撮るのかと思ったが、まだやる事があるから後から行くので撮るのは式が終わってからで良いとの事で、ナツ姉と共に向かう事にした。
だが俺は失念していた。
「鹿野千夏が栄明のマドンナと呼ばれる程の人気者である」、と言う事を。
登校中やたら視線を感じるから目を向ければあからさまに逸らされる。特に野郎共からは恨みがましい呪いでも込めてんじゃねーか?って目で見られるし、女子からはそんな目は向けられないが、こちらが視線を向けると「きゃーっ」って声を上げて走り去ったり周りの友だちとヒソヒソ話をしたりと、散々な反応をされている。
「俺って女子が悲鳴上げて逃げるくらいに怖がられてんのか・・・
流石にヘコむな~(´・ω・`)ショボン」
「おはよう!ナツに雪くん、って、どうしたの雪くん?そんなしょんぼりした顔して」
「あ、ナギちゃん先輩おはようございます。改めて今日から宜しくお願いします」
「おはよう、渚。周りからの視線が、ね。
特に女子が悲鳴上げてるのを見て“怖がられてるのか”ってヘコんでるみたい」
「はぁ?そんな勘違いしてんの、この子?
あのね雪くん、学園で大人気の千夏と高身長の色白イケメンのキミが並んで歩いてたら、恋バナ好きの女子から注目されて当たり前でしょ」
ーなんって良い人なんだ!こうやって適宜適切なフォロー入れてくれるから、ナツ姉も信頼してるんだろうなー
そう思ったらつい渚ちゃん先輩の両手をガシッと掴み、ブンブンと上下に振りながら
「やっぱりナギちゃん先輩は良い人です!こんな俺にすらフォロー入れてくれるんですから!」
と、満面の笑みで話し掛けた。
「え、ちょっと雪くん!?これゼッタイ周りに勘違いされる奴////、ねぇ聞いてる!?」
それを見ていた周りから、「キャーッ、だいたーん!」とか、「え、鹿野さんのカレシじゃなかったの!?」とか、「鹿野と船見の親友コンビを二股かよ、爆発しろやクソが!」等々の声が上がる。
ふと悪寒が走った瞬間、ドスッと脇腹に衝撃が走った、痛ぇ。
「雪くん?悪ノリしないでって言ったよね?」
ナツ姉にそれはそれはステキな笑顔で怒られた。
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入学式に向かいながら、俺はこれからの高校生活に想いを馳せ、期待に胸を膨らませていた。
今までと違い、校舎内でも千夏先輩に会えると思うと自然と足取りが軽くなる。
校舎の近くまで来ると女子の歓声が聴こえる。
ー有名なOBやOGがサプライズ来賓として来てるのかな?ー
そう思って前を見ると千夏先輩が歩いていたから、挨拶しようと1歩踏み出した瞬間、時間が止まった。
千夏先輩の隣には、背の高いイケメンが居たからだ。
ーあの人、ちょくちょくバスケ部に来てた人だ。
まさか・・・彼氏、なのか?ー
周りの女子生徒は
「あの背の高い人、凄いイケメンだよね!千夏先輩の彼氏なのかな?」
「でも先輩にあんな人居たっけ?見た事ないんだけど」
「中等部にも居なかったし、転校してきたんじゃない?」
とか言って騒いでいるが、俺はそれ所じゃなかった。
え?は?挑戦すらさせて貰えないのか?俺は・・・と泣きそうになる。
「大丈夫か?大喜」
「匡・・・」
「まだ彼氏だと決まった訳じゃないんだから、そんな泣きそうな顔しなくても良いと思うぞ、ホラ」
匡が指し示す方を見ると、渚先輩が両手を握られてブンブンと上下に振られている。
「彼女の前で他の女子の手を握るなんて普通はやらないだろ、しかもこんな人目の多い所で」
「た、確かに。でも仲良いのは間違いないだろ。どんな関係なんだろ」
「それは部活の時に分かるんじゃないか?バスケ部っぽいし」
「そうだな、その時に聞けば良いか。先ずは入学式だ、切り替えていこう」
「切り替えるのはお前だけだけどな」
「おはよう、どしたの大喜?ヘコんでるみたいだけど?」
「おはよう蝶野さん。アレが原因だよ」
「ん?えーーー!何あのイケメン、千夏先輩のカレシ?
・・・ははぁ、あのツーショットを見たからヘコんでる訳ね」
「まだ彼氏だと決まった訳じゃない!」
「え~、でもイケメンくんを見る千夏先輩の目が、いつもより優しい感じがするんだけどなぁ」
「気になるのも分かるけど、そろそろ行かないと遅刻するぞ」
匡の一言で俺たちは会場へ向かった。
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式が終わって振り分けられた教室に向かう。
匡と雛も同じクラスでホッとした。
内部進学とは言え、知り合いが同じクラスだとやはり心強い。
教室に入ると、そこには件のイケメンが既に座ってキョロキョロと周りを見回していた。
ー同じクラスなのか。だったら千夏先輩との関係を聞かなきゃ。でも何て声掛ければ・・・ー
「ねぇねぇ、朝騒いでたの見掛けたんだけど、千夏先輩のカレシなの?」
入り口で立ち止まってる俺と匡を置き去りにして、いつの間にか雛がイケメンに質問していた。
「はぁ!?アイツ何であんな謎に度胸あんの?初対面の人に聞く事じゃないだろ!」
「いや、あれはもう蝶野さんだからとしか・・・」
しかしそれを聞きたがっているのは俺だけじゃなかった様で、クラス中が彼の返答に耳を傾けていた。
「ナツ姉との関係?幼馴染みだけど」
その一言でクラスの緊張が解けたのを感じる。
男子は謎のイケメンが千夏先輩の彼氏じゃ無かった事に安堵し、女子は学園のマドンナが謎のイケメンの彼女じゃなかった事に安堵していた。
ー良かった、彼氏じゃなかったんだ。
「安心してる所悪いが“幼馴染み”って事はお前より近い関係だって事を忘れるなよ」
「分かってるよ!でも幼馴染みってだけで、恋愛感情があるとは限らないだろ」
「それはまぁ、確かにそうだけど」
「ねー、2人ともコッチ来て自己紹介したらー?」
そう言われて俺たちも彼の側に行く。
「じゃあ私から。
私は蝶野雛、新体操部で中々の実力者よ!これから宜しくね!」
「俺は笠原匡。バドミントン部でそんなに強くないけど、レギュラーを目指してる」
「お、俺は猪股 大喜。匡と同じバド部でインハイ出場を目指してる!」
ー俺は猪股大喜ー
そう自己紹介する彼。
まさか由紀子さんの息子と同じクラスになるとはね。これも何かの縁か?と心中で呟いた。
さて、向こうから自己紹介しに来てくれたんだから、こちらも礼を尽くさないとな。
「いやー、最近コッチに来たばかりで知り合いが居なくてな。
どう声を掛けたもんかと思案してた所に、ピヨちゃんが声掛けてくれて助かったよ」
「ピ、ピヨちゃん!?」
「雛だからピヨちゃんw
さて、じゃあ自己紹介と行くかね。
俺は鶴羽雪(つるば ゆき)、雪で良いぞ。
去年までアメリカに居て向こうの中学卒業してから日本に戻ってきた、いわゆる帰国子女って奴だな。
部活はバスケ部で目標は全国制覇だ」
「へぇ、言うねぇ雪くん」
「おう、子供の頃からの目標で約束だからな。
誰に笑われて馬鹿にされても、それを曲げるつもりは1ミリもねーよ。
お前らも目標があるなら馬鹿にする奴が居ても相手にすんな、時間の無駄だからな。そんな時間があんなら自分の為に使え」
「何か思ってたよりしっかりしてるんだな、雪は。
大喜と一緒に朝の騒ぎ見てたから、悪いけどもっとチャラい人かと思ってた」
「あー、朝のアレはなぁ。
ナツ姉が学内外での人気者って事を忘れてて、幼馴染みだからって並んで歩いてた俺の落ち度だ。
ただ、それを見てた女子と目が合ったら悲鳴上げて逃げてくもんだから、そんな逃げなくても良くね?って流石にヘコんだわ(´・ω・`)ショボーン」
「「「いや、それは理由が違う!!!」」」
「ははっ息ピッタリだなお前ら、見てて飽きないわ。
俺もその仲間に入れる様に、これから宜しくな」
ーこれから宜しくなー
そう言う彼の人懐っこい笑顔を見て俺は、不思議と彼とはこれから長い付き合いになりそうだと感じた。
あれ?
栄明で全国制覇が子供の頃からの約束って、千夏先輩も同じ事言ってなかったか!?
しかも「去年アメリカから帰って来た」って言うのも当てはまるし。
ま、まさか千夏先輩の約束の相手って雪なのか?
お世話になってる知り合いの家って言うのも、もしかしたら・・・
気になる事があり過ぎて混乱するが、今聞いたらマズいと思い直し、また今度改めて聞いてみよう、うん、それが良いと自分を納得させるのだった。
おまけ
~一方的な約束~
「あ、そうだ大喜コレ」
「スポドリ?何で?」
「今から部活だろ?あって困るもんじゃないし、何ならウチ帰ってからでも飲んでくれ」
「うん、何でくれるのか良く分からないけど、ありがとう!」
「おう、コッチの事情だから気にすんな」
大喜が気付き掛けてますね。
まぁ、この3人には同居について明かすつもりですが。