ホグワーツ教師 ロード・エルメロイII世 作:木材
前回の感想で愉悦神父どころか戦闘狂の変態ピエロまでいました。
こわい。
エルメロイ先生のありがたいお話。
四年生の試験は五年生の受けるOWLや七年生の受けるNEWTのような魔法省で制定された試験ではなく、ホグワーツの教員が作成した試験問題を解く。とはいえ、期末試験であることに変わりはないため、しっかり勉強しておかなければ到底合格点を取ることはできない。元々魔法の基礎知識が不足していたグレイはかなり苦労はしたものの、エルメロイII世とルーナ、ジニーのサポートもあり、無事全ての試験をパスすることができた。
「はぁ…」
試験結果を見て、グレイは安心したようにため息を吐く。どの科目も比較的余裕を持って合格しているが、占い学と魔法薬学はグレイの中でも苦手意識があり、平均よりもやや低い点数となっていた。ただパスはしているため、グレイがホグワーツの生徒だったとしたら追試や課題が与えられることはない。尤も、グレイは正式な生徒ではないため、パスしなかったとしても課題が与えられたりはしない。ただ時計塔に帰ってからの宿題が増えるだけだ。
「グレイ」
「ルーナさん」
グレイが試験結果を見て安心していると、ルーナが声をかけてくる。魔法省の戦いで負傷した口角付近はまだ湿布が貼られており、完治はしていない。
「試験、全部合格できたんだね」
「はい。ルーナさんとジニーさんが教えてくださったので」
「いいの。友達のためだモン」
「ありがとうございます」
柔らかく笑う二人だが、ルーナはすぐに少し寂しそうに表情に影を落とした。
「…グレイは、来学期にはいないんだよね?」
「……はい。拙は、ホグワーツの生徒ではないので」
「そっか。寂しくなるね」
この一年、ルーナは寮でグレイと寝食を共にしていた。ジニーも加わる時間が多かったが、同じ寮で行動することが多くなるためグレイと共にいる時間が一番長かった。元々一人部屋だったためそれが元に戻るだけだが、この一年がルーナにとっても非常に楽しいものだったため、やはりグレイがいなくなることは寂しい。
「拙もです。ルーナさんには良くしてもらったので」
「友達だモン。当たり前だよ。一緒に色々できて、楽しかったよ」
「学校のことや勉強も…色々、本当にありがとうございました。ルーナさんのおかげで、ホグワーツでの生活はとても楽しかったです」
「嬉しい。あたしも楽しかったよ。時計塔に戻ったら、あんまりこっちに来る機会はない?」
「…あんまり無いと思います」
ホグワーツとロンドンでは、それなりに距離がある。加えて、交通手段はホグワーツ特急しかない。簡単に来訪できるような場所ではない故に、グレイがロンドンに戻ったら簡単には会えないだろう。
「そっか。じゃあ、手紙書くよ!あ、でも…時計塔に手紙って届く?」
「拙の部屋に直接届けてください。それくらいはできるはずです」
「うん!毎週書くね!」
「はい。拙もお返事書きます」
そうして二人は残り少ない一緒の生活を惜しむように、お菓子をつまみながら雑談を重ねるのだった。
グレイとルーナが雑談に花を咲かせているのと同時刻、ホグワーツの校長室にはダンブルドアとハリー、そしてエルメロイII世が向かい合っていた。3人はそれぞれソファに腰掛け、真面目な表情で向かい合っている。
「…さて、ウェイバー、ハリー。この忙しい学期末に来てくれてありがとう」
「いえ、私がするべき仕事はほぼ終わっています」
「…あの、先生。ウェイバーって…」
「ああ、君は知らなかったな。私の本名はウェイバー・ベルベット。ロード・エルメロイII世はただの称号だ」
ハリーは内心で驚愕しつつも、ロード・エルメロイII世が本名だとは思っていなかったため、そういうことだったのかと納得する。
「それでダンブルドア教授、どういったご用でしょうか」
エルメロイII世が本題を切り出し、ダンブルドアはその言葉に頷く。
「うむ。君らには知っておいてほしくての。シリウスについてじゃ」
「シリウスは、無事なんですか?」
「生きている、という意味では無事じゃ。だが…」
「どう、なっているんですか?」
「失血が酷くての。脳にダメージが入っておる。意識は戻ってきていない。これは回復する見込みがあるが…目覚めたとしても他に色々と障害が残る」
「障害とは?」
エルメロイII世の問いかけにダンブルドアは重々しく口を開く。
「わかっておるのは、四肢の麻痺じゃ。幸い足の麻痺は軽度故に、魔力で補強すれば普通の生活はできる程度みたいでの。だが、戦闘は…もう二度とできんじゃろう。運動すらも難しかろう」
「…あの傷で、その程度で済んだと言うべきかもしれませんね」
「いや、まだあるのじゃ」
ダンブルドアは重々しく続ける。
「…シリウスの傷口から入り込んだ呪詛が、シリウスの魔術回路を蝕んでおる」
「魔術回路に?」
「…どういうことですか?」
「呪詛が体を蝕んで肉体の奥深くに食い込んでおっての。強い呪詛ではないが、それ故に侵食の仕方が複雑になっておる。絡み合う網のようにの。この呪詛を解除するには、魔術回路の大半を除去せねばならん。そして、呪詛を剥がさない限りシリウスは目覚めぬ」
「つまり、魔術回路のほとんどを捨てなければブラックは目覚められないと」
「…その通りじゃ。魔術回路の全てを除去する必要はないが、以前のように魔法は使えぬ。それに、この呪詛の厄介なところは…緩やかに肉体を衰弱させ続けるところじゃ。ただでさえ寝たきりの肉体は衰弱していく。その衰弱の度合いを加速させる、といったところじゃ。今すぐに死ぬことはない。当分は問題なかろう。じゃが、魔法による介護を続けていたとしても…三年は保たない」
ダンブルドアの言葉にハリーは愕然とする。
シリウス・ブラックは、あの神秘部での戦いで片腕を欠損した。その際に多量の血液を失い、意識不明の重体になった。この失血がかなり影響しているらしく、意識が戻ったとしても大きな障害が残るらしい。グレイのおかげで即死は免れたものの、あれだけの傷を負わされれば仕方ない。むしろ命が繋がっただけ幸運だと言えるだろう。
だが、同時に大きな二択を突きつけられていた。シリウスを魔法使いとして死なせるか、半ばスクイブのようになりながら生きるか。シリウスが魔法使いとして誇りを持っていることは知っている。故に、そのシリウスが魔法を使えなくなった時、どんな反応をするのかハリーには想像もできなかった。
「…ハリー」
「…………」
「気持ちは、ようわかる」
「わかるはずない」
ピシャリと遮るハリーの言葉にダンブルドアは押し黙る。エルメロイII世は腕組みを解いて紅茶を口にするが、特に何も言わない。
「僕のせいだ」
「…いや、わしのせいじゃ。君への無関心を装い、奴の関心を削ごうとしたのじゃ。だが、失敗してもうた」
「先生は、僕とあいつの絆について気づいていたんですか?」
「気づいておった。あやつが君との絆を利用するのは時間の問題じゃった。奴の関心を削ぐことで利用されることを未然に防ぎたかったのじゃがな…」
「エルメロイ先生がホグワーツに来たのも、それが理由ですか?」
「いいや。ウェイバーは魔法省から干渉されることがわかっておったからの。魔法省の干渉で皆の身動きが取りにくい時に、皆の力になってくれるようにな」
「君ら生徒には魔法省からの人員と知らせていたが、ダンブルドア教授の方が先に私へ声をかけてきた。日刊預言者新聞の報道も確認していたのでね。どちらに手を貸すかは、言うまでも無い」
エルメロイII世は日刊預言者新聞が圧力をかけられたのだろうということを瞬時に察した。わざわざ大々的に否定したことで無理矢理隠蔽したのだろうということがわかる。そもそも復活していないのであれば、セドリック・ディゴリーが死んだ理由に説明がつかない。セドリックが死んだこと自体はすでに日刊預言者新聞で報じられている。その理由もハリーとダンブルドアの発言をもとにヴォルデモート復活によるものだと記載されているが、その後にあそこまで大々的に否定する必要はない。誤報であったという可能性はあるが、それについては誤報だったと記載するだけでいい。ハリーとダンブルドアをあそこまで糾弾する必要などまるでない。ヴォルデモートによる魔法界の被害を考えれば冗談で復活したなどと口にしてはならないことはわかるものの、オーバーリアクションだというのはエルメロイII世の目から見て明らかだった。
「どうして、先生は僕とダンブルドア先生を信じたんですか?」
「状況からして、日刊預言者新聞に魔法省が何かしらの圧力をかけたのは明らかだ。ポッターのことは知らなかったが、ダンブルドア教授はヴォルデモートの復活を冗談で言うような人物ではない。そもそも、奴の復活を冗談で言うような愚か者などいないだろう。それくらい奴の影響は大きいのだから」
「………」
「仮にポッターの見間違いや誤解であったとしても、ヴォルデモートが復活している前提で話を進めておけば、いざと言うときに動ける。復活が誤報であれば、備えが少し無駄になる程度だ。だが逆の場合、被害は何倍にも膨れ上がる。魔法省と時計塔に大きな繋がりはない。しかし、一般魔法界が被害に遭えば多かれ少なかれ時計塔にも影響がある以上、こちらとしても事前に動かない理由はない」
「なら時計塔が直接魔法省に働き掛ければよかったんじゃないんですか?そうすれば、魔法省だって考えを…」
「それはない」
ハリーの言葉をエルメロイII世が遮る。そして煙草に杖で火をつけて煙を吐き出すと、鋭い視線をハリーに向けた。
「君らが時計塔のことをよく知らないことからわかるように、時計塔は一般魔法界への関心が薄く、関わることがほとんどない。時計塔の存在理由は、魔術の探究と神秘の漏洩の防止。その時計塔がわざわざ魔法省に対して報道に対する干渉などするはずがないのだよ。今回はダンブルドア教授から依頼があったから動いたにすぎん」
「でも、一般魔法界が被害に遭ったら時計塔も困るんですよね?なら時計塔が動く理由もあるじゃないですか」
「困るというのは、神秘が漏洩する可能性があるということだ。一般魔法界の秩序が覆される場合、多かれ少なかれマグルの社会にも影響がある。その場合どうなるかわかるかね?神秘…魔法の存在が彼らにも広まる可能性があるのだよ。つまり、時計塔が対処する場合は神秘の漏洩の危険性が出てきた場合のみだ。言い方は最悪だが、神秘が漏洩しない限り時計塔は一般魔法界自体はどうなろうが知ったことではない。そういう組織だ」
エルメロイII世のせいでハリー達にはイメージしにくいだろうが、時計塔、ひいては魔術協会に属する魔術師は基本的に人でなしである。それこそ研究のために命を使うことになんら躊躇いはない者がほとんどだ。それこそ神秘が漏洩しなければ基本的に何をしても黙認される。そんな組織がホグワーツのためだけに動くかと言われたら、間違いなく否。今回手を貸したのは、ダンブルドアが直接エルメロイII世に話を通したことと、エルメロイII世がこの現状を見ていられなかったというだけにすぎない。端的に言えば、エルメロイII世がいなければ今回の状況にはならなかった。
「私がここにいるのは、ダンブルドア教授の要請があったからだ。恩師の一人である教授の要請ということと、私としても本件は思うところもあった故にこうして教鞭を取ることにした。だが組織としてはどうでもよかったのだろうな。本件に関して私が関わることに対して、時計塔という組織からは特に何もなかった」
「…そんな場所なんですか、時計塔って」
「君が時計塔への理解が薄いのも無理はない。なにせ、ホグワーツからわざわざ時計塔を進路に志望する生徒はほとんどいないのだから。まあ、私はその数少ない生徒だったわけだが」
「先生、ホグワーツ出身だったんですか?」
「ああ。十年以上前だがな。当時はレイブンクローだった」
「ウェイバーが卒業し、時計塔に進んでから
「そうでしたな」
ほんの少しだけ表情が険しくなるエルメロイII世を見て、何かしら大きなことがあったのかもしれないとハリーは考える。
エルメロイII世は煙草の灰を灰皿に落とし、再び煙を吸い込むと、吐き出しながら口を開いた。
「私の話はいいでしょう。今回の件に話を戻しましょう。ヴォルデモートと実際に対面してみてよくわかりましたが、奴の力はとてつもない。ダンブルドア教授ですら、正面切って戦えば互角。かつて猛威を奮ったのもよくわかるほどだ。奴がどれほど力を有しているかは、今回の一件で君もよく理解できただろうポッター」
「………」
エルメロイII世の言葉をハリーはよく痛感していた。以前墓場で対面した時は両親の霊魂のおかげでどうにか逃げ切れたが、今回は本当にどうすることもできなかった。ベラトリックスを追いかけようとして返り討ちにあい、開心術によって精神的ダメージを与えられ、挙げ句の果てには友達を危険な目に遭わせた。それだけにとどまらず、もはや唯一の家族といって差し支えのないシリウスを間接的とはいえ、再起不能に陥れた。どれほど無軌道なことをしたのか、今ならばよくわかる。グレイとエルメロイII世がいなかった場合どうなっていたか、考えたくもない。
「今後、奴を相手にしていくのであれば、その無謀な行動は控えることだ。君がどういった理由で一人で動こうとしたのかは理解している。だが結果として、その行動が皆を危険に晒したことを努努忘れるな」
「僕は……シリウスを助けたかっただけで…そんなつもりは…」
「君がどういうつもりだったのかはともかく、今重要なのは実際はどうなったのかだ。君は今回の件で、他者の言葉に耳を傾けようとした時はあったかね?現に、私はあの時止めたぞ」
「っ!」
鋭い言葉にハリーは思わず俯く。エルメロイII世はいつも授業している時と同じトーンであるにも関わらず、ハリーに投げかけられる言葉はいつもと比べてはるかに鋭い。その意図を理解しているためダンブルドアは何も言わないが、ダンブルドアの瞳には憐憫と後悔があるように思えた。
「君は友を、家族を思いやる心を持つが、反対に己を蔑ろにする。加えて、頭に血が上ると他者の話を聞く余裕がすぐに無くなる。自分を大事にしろなんてありふれた説教をするつもりなどない。だが、その行動の結果がどうなったのかを己に刻みたまえ。君一人でどうにかなるのならまだいい。しかし君の一人で解決しようとする暴走が周囲を巻き込み、傷つける可能性があることを学ぶことだ」
「僕はシリウスを助けたかっただけだ!」
「それで実際はどうなった?」
エルメロイII世の言葉にハリーは歯を食いしばって押し黙る。実際、助けるどころか助けられ、友に怪我をおわせただけでなくシリウスの魔法使いとしての生命を奪ってしまった。グレイとエルメロイII世がいなければシリウスは死んでいたし、他の友人達ももしかしたら死んでいた可能性もある。自分がどれほど愚かだったか今ならわかるが、その事実を受け入れられるほど今のハリーに余裕はなかった。
「助けたいという思いを否定するつもりはない。だがな、本当に助けたいのなら、あらゆる手段を尽くせ。使えるものは全て使え。ただ突撃していくことしか能のない者では、救えるものも救えん。被害が増えるだけだ」
「友達を、巻き込めって言うんですか。危険な場所に引っ張り出して、どうなるかもわからないような場所に連れ出せって言うんですか⁈」
「そうだ。その覚悟も無いのなら、そもそも助けに向かうな。被害が増えるだけだ」
エルメロイII世は煙草の灰を再び落とす。そのまま指に挟んでいる煙草から立ち昇る煙を眺めながら口を開いた。
「君は簡単に助けに行くなどと言うが、それにどれほどのリスクがあるのか考えているのか?君が動かせる人材で、助けに行けるだけの能力は足りているか考えたか?ヴォルデモートと直接対峙した時、ブラック以外の被害が出る可能性を、少しでも考えたのか?」
「考えた!考えました!でもそんなことより、シリウスの命の方が大事だ!」
「ならば君は、友の命とブラックの命…どちらかを選べと言われた時はブラックを選ぶのだな」
「何が言いたいんだ!」
激昂するようなハリーに対して、エルメロイII世は全く動じることなく続ける。
「選択の話だよポッター。どちらかしか選べない。その時にどちらを選ぶかは君次第だ。先ほどの君の選択を軽視したわけではない。だが、どちらかしか選べない瞬間というのはいつか必ず来る。その時に、君はどうする」
「なんでそんなことを聞くんですか⁈」
「君に自覚がないようだったからだ。いいかね。君がどう思おうが君は間違いなく選ばれし者だ。好きでなったわけではないだろうが、それでもそうなってしまった以上、君はいつか選択を強いられる時が来る。その時に選べず、全てを台無しにしないためにも…今、こうして選ぶことの重要性と意味を、問いかけているのだ」
「僕が、何を選ぶって…」
「君がヴォルデモートに立ち向かうならばだがね」
エルメロイII世は再び煙草の煙を吸い込み、吐き出しながらハリーに視線を向ける。
「君は何故、ヴォルデモートに立ち向かう」
「…あんな奴を野放しにしていいわけない。僕の両親を殺した奴だ。放っておくなんてできない!」
「そうだな、奴は極悪人だ。野放しにしていたら、魔法界はいずれ奴に掌握されるだろう。それだけの力が奴にはある」
「そうです!そんな奴を野放しにしちゃいけない!」
「皆そんなことはわかっている。だというのに、誰も奴に立ち向かおうとしないのは何故か。それは立ち向かうのが怖いからだ」
「…それがなんですか」
「これも選択だよポッター。多くの魔法使いは、奴に対して強制的な二択を突きつけられている。立ち向かうか、諦めるか。細かく分類すればもっとあるが、大きくはこうなる。ポッター、君は前者を選んだ。だが、それにより多くの友人や知人を巻き込むことになることを理解しているか?」
「どういう意味ですか」
「君が立ち向かうことで、多くの人が死ぬ可能性があることを理解しているかと聞いたんだ」
エルメロイII世の言葉にハリーは大きく目を見開いた。
ハリーはヴォルデモートに立ち向かうほど強い心を持つ。だが、皆が同じような心や力を持ち合わせているわけではない。しかしハリーが立ち向かうことで彼を守ろうとする者や、ハリーと一緒にヴォルデモートの好きにさせないように戦おうとする者が現れるだろう。それこそロンやハーマイオニーはついていくだろうし、ネビルやルーナもそれに続く。彼らだけでも立ち向かう選択をしている可能性はあるが、ハリーがいなければ立ち向かう選択をしない可能性もある。ハリーはヴォルデモートに立ち向かうことがさも当然かのように振る舞っているし、エルメロイII世もそれを止めることはしないし間違っているとも思わない。だが、その選択により他者が傷つく可能性とそれを背負う覚悟はあるのかとエルメロイII世は問いかけたのだ。
「ダンブルドア教授から予言のことは聞いた。一方が生きる限り、他方は生きられぬ。つまり、君かヴォルデモートか。最後はどちらかが死ぬことになる。どちらが死ぬにしても、その過程で君を守るためにどれだけの人が傷つくか、考えたことは?」
「…あ、ある!だから僕は一人で行こうと…」
「自分なら一人でも助けられるという傲慢さと、他者が傷つく可能性を考えながらもそれを背負うことができない臆病さ。それらが表に出てきた選択だよポッター。いいかね、君のその選択は決して勇敢ではない。君の心の奥底に存在する傲慢さと、己でも自覚している恐れが具現化しただけのものだ。一見勇敢に見える選択も、裏を返せば君の心の弱さを誤認しただけのものだ」
「っ!」
エルメロイII世はハリーから視線を逸らし、煙草に宿る小さな火を見つめながら独白するように続けた。
「誰かを助けたいと思うのは、人として至極真っ当だろう。だが、誰かを助けても自分が救われるわけじゃないし、自分が助けたと思っても本当に相手が救われたかどうかなんてしれたものじゃない。誤解で勘違いですれ違いで思い違いで、ひたすら滑稽なだけの繰り返しが、私たちが生きている世界だよ。それでも、私たちはその誤認の世界で生きている、誤認こそが我々だ。誤解こそが我々の世界だ。私たちが触れられるのは多種多様な事実であって、たったひとつの真実じゃない。君はまず、この事実を理解し、受け入れることからだ」
「誰かを助けることは、無駄だって言いたいんですか」
ハリーの問いかけにエルメロイII世は首を振る。
「無駄ではない。だが、自分が救ったと思っていたとしても相手にとって救われたかどうかはわからない。命を救ったとしても、救われた側は死にたかったかもしれない。救われたとしても、致命的な欠陥を受けてその後の人生に多大な苦しみが着いて回るかもしれない。このように、私たちが触れる事実というのは一つでは無い。そんな単純なモノではないのだよ、ポッター。我々はモノを見る角度や価値観で、捉えられる事実が変わる。そしてそれだけ、
エルメロイII世の言葉は
「どれだけの賢者がどれだけの歳月を捧げても、絶対的に揺らがない唯一無二の真実に辿り着いたりはしない。それを忘れて、無闇にたった一つの真実だけを求めようとするならば──ポッター、それこそ本当に最悪なのだと覚えておきたまえ」
「………わかりません。真実は、一つしかないモノじゃないんですか?一つしかないから真実なんじゃないんですか?」
「ならば考えることだ。君ならば理解できる」
ハリーにはまだ理解できない。だが、エルメロイII世が自分なら理解できると言う言葉があまりにも強かったため、ハリーは納得がいかないように俯いた。
「…僕は……」
「今回のことを踏まえて、考えてみるといい。そして自らの行動が齎した結末が何故起こったのかを見つめ直し、己の過ちに向き合うことだ」
エルメロイII世は煙草を灰皿に押し付けて消した。ハリーはエルメロイII世の言葉に震える口で聞き返す。
「僕の、過ち?」
「君が一人でなんでもやろうとするのは、友と家族を危険に晒したくないが故だとはわかる。だが、なんでも一人でやろうとするのは周囲の想いを考えないあまりにも愚かな行いだ。根底にある想いは天地ほど離れていようと、その行いは君が嫌悪するヴォルデモートと近いものがあるということも理解することだ」
エルメロイII世の言葉にハリーは激昂したように立ち上がり、鋭い視線をエルメロイII世に向けた。
「そんなはずない!僕とあいつは…」
「ああ、君と奴は違う。だが、一人でやろうとするということは、他者を信用していないとも取れる。どちらも『一人でやる』という傲慢な行動は近いだろう。そう誤認されてしまうことを君は防げるのかね」
「っ!」
エルメロイII世の言葉に、立ち上がったハリーは力なく座り直す。何か言い返そうと頭を巡らせるが、ハリーもそれが事実であることを理解しているが故に何も言えなかった。
「…僕、は……」
「さっきも言ったが、君と奴は違う。だが結果として現れる行動がどんなものなのか。そこも含めて考えるべきだと私は思うがね」
『どうするかは君の自由だが』と付け加えながら、エルメロイII世は立ち上がり襟を正す。そして近くのデスクに置いてあったコートを手に取ると、ハリーに視線を向けた。
「私がホグワーツにいる期間は残り僅か。この期間に君が答えにたどり着くことができるとは思わんが、これは君への宿題としよう。いつの日か己の中で理解し、答えを得られることを願っている」
「…はい」
「ダンブルドア教授。他に用件がなければ、私はここで」
「うむ。ありがとう、ウェイバー」
「では」
エルメロイII世はそう言って部屋を後にする。
残されたダンブルドアはハリーに優しく声をかけた。
「ハリー」
「…………はい」
明らかに意気消沈した声。正論パンチによって詰められたことでハリーの精神はすっかり疲弊していた。目を背けようとしていた事実を突きつけられ、己の傲慢さを露見させられたことでハリーは完全に意気消沈してしまったらしい。
「ウェイバーの言葉は、強く身に染みたじゃろう。じゃが、君も自覚はある。だからこうして落ち込んでおる。違うかの?」
「…僕は……僕が、やったことを……でも、僕は……シリウスを…」
「うむ。シリウスの一件は、ウェイバーの言うように…君が引き起こしてしまったことじゃ。すぐに受け入れられはせんじゃろう。じゃが、ちゃんと向き合い、いつか受け止めるのじゃ。どれだけ後悔と慚愧に苛まれようともな。形は違えど、誰もが通る道じゃ。わしも…ウェイバーもな」
ダンブルドアの目には深い後悔が宿っていた。こんなに弱々しいダンブルドアの姿を見たことがなかったハリーは少し意外そうに目を見開く。
何があったかはわからないし、ダンブルドアも語る気はない。そのためか、瞳に宿った後悔はすぐに感じられなくなる。そしていつものダンブルドアの雰囲気に戻ると、真剣な表情でハリーに語りかけた。
「シリウスのことは、ハリー…君が決めるのじゃ。シリウスが自分の意思で決められん以上、君がどうするか考えるのじゃ」
「僕が…?」
「うむ。ウェイバーにも言われたじゃろう。シリウスがこうなったのは、君が要因じゃ。無論全て君の責任ではない。じゃが責任の一端がある。そしてシリウスの身の上を決められるような人物が他におらんのじゃ。家族といえるのはもう君しかおらぬ。だから、君が決めるのじゃ」
「……僕が、決めることなんですか?」
「そうじゃ。君が決めるのじゃ」
ハリーはさらに愕然とする。
ダンブルドアは今、ハリーに対して『人間と魔法使い、どちらのシリウスを殺すか選べ』と言ってきたのだ。どちらを選んでもどちらかのシリウスが死ぬ。その事実をハリーに選べとダンブルドアに言われてハリーはさらに落ち込んだ。
「…そんな……僕は、選べない…僕は…」
「すぐに答えを出す必要はない。しばらくシリウスも大丈夫だからの。じゃが、いつか決断を迫られる日が来る。その時までに自分の中で答えを見つけておかねばならん。良いな、ハリー」
「……僕が…決めることなんですか?僕のせい…でも…僕が……」
「どんな人間も、若い頃には多くの失敗をする。小さなものから取り返しのつかないものまでの。君の今回のことはその一つじゃ。今回のことはきっと今後ずっと、君を苦しめ続ける。じゃがのハリー、犯した罪は、過去は消えぬ。誰かが許してくれても己が許してはくれぬ。今後ずっと己は後悔と慚愧に苦しめられる。それでもその後悔に飲み込まれてはならぬ。苦しみながら今を生きるしかないのじゃ」
どこか、己に言い聞かせているような言葉。ハリーはそこには気づかなかったが、ダンブルドアはハリーにそう伝えながらかつてを思い出して苦しみながら口にしていた。同時にエルメロイII世がハリーに伝えながらも、自分へ向けた言葉だということにも。
「厳しいことを言っているのはわかる。じゃが、愛おしさ故にとったわしの選択が君を危険に晒し、罪まで背負わせてしもうた。これ以上、君が同じことで苦しまないようになってほしいのじゃ。すまぬ」
「………」
「では、戻るといい。友達が、君を待っておる」
「…はい」
ハリーは弱々しく頷いて校長室を後にする。その背中を見送りながらダンブルドアは大きく息を吐き、かつての過ちを思い出しながら一筋の涙を流すのだった。
*
大広間で終業式が始まる。今年の寮はスリザリンが優勝となった。一応公式の教師であったアンブリッジがスリザリン生徒を過度に贔屓した結果であり、それを理解しているスリザリン生徒はなんとなく喜び方がイマイチだったのが印象的だった。なお、グレイが所属しているレイブンクローは二位、ハッフルパフは三位、グリフィンドールが四位となった。もしアンブリッジの贔屓と減点がなければ、もう少し競った点数だっただろうが、今となってはどうだったかはわからない。
優勝の寮の発表が終わり、ダンブルドアが壇上に立った。
「スリザリンの諸君、よく頑張った。来年も励むことじゃ。さて、今年もこれで終わりとなる。それにあたり、一部先生がここで退職になるのを皆に伝えておこう。魔法理論を今年一年担当してくれた、ロード・エルメロイII世先生じゃ。元々先生は今年一年の契約だった。皆にとって非常に有意義な授業をしてくれただけに残念に思う者も多かろう。最後に先生から、皆にお言葉をもらおうかの。では先生、お願いしても」
「…承りましょう、ダンブルドア教授」
エルメロイII世はダンブルドアの言葉に頷いて立ち上がる。始業式の時もあったように特に打ち合わせされたことではなく、完全な思いつきによるものらしい。だが、始業式の時と違ってエルメロイII世の表情はどことなく晴れやかにも思えた。
エルメロイII世はダンブルドアの隣りに立ち、生徒達を見渡した。一瞬だけエルメロイII世とハリーの視線が合うが、散々現実を突きつけられて意気消沈から抜け出せていないハリーは俯く。そんなハリーに構う事なく、エルメロイII世は口を開いた。
「諸君。一年間、ご苦労だった。まずは私の授業や講義に対して多くの者が積極的に参加してくれたことに、この場を借りて感謝を伝えたい。ありがとう。さて、今年が諸君にとってどういう一年だったかは、各々違うだろう。目標にしていたことを達成できた者やできなかった者。己が為すべきことを為せた者や、そうでない者。どんなあり様であったとしても、君らはまだ若い。今年の経験を基に、来年もまた学ぶことだ」
エルメロイII世は一度言葉を切り、特に関わりの多かった生徒やグレイに一瞬だけ目配せをしながら続けた。
「私が赴任した際に、皆には『知るところから始めてほしい』と言った。授業で学ぶことに限らず、自身の興味で調べたものなどもあるだろう。それこそが進み始めるための第一歩だ。既に諸君は自らの進みたいと思える道への第一歩を踏み出している。例えそれが自分が知りたくて調べたことや知ったことではなく、知りたくて知ったものではなかったり、
エルメロイII世の言葉にハリーはハッとしたように顔を上げた。ハリーとエルメロイII世の視線は合わないが、今の自分の言葉がハリーに届くことを願いながらエルメロイII世は続ける。
「どんな課題も苦しみも現実も、正しく見据えるところから始まる。そして見据えた先に、自分一人ではどうしようもない現実が待っていることもある。一人でできないことも多くあり、一人で苦しむだけでは前に進めないこともあるだろう。己の限界を知り、自分だけでは決して乗り越えられない壁というのは…世の中にはある。むしろ大半がそうだ。学校というのは、他者の力を借りるということを学ぶ上でこの上ない場所だ。勉学だけでなく、そういったことも学びながら、今後も励むといい。さて、長くなったな。この一年、君らの一助になれたことを嬉しく思う。諸君が今後、この学校でなりたい自分に少しでも近づけることを願っている。以上だ」
そう言って教員席に戻るエルメロイII世の背中にはホグワーツ全生徒からの万雷の喝采が送られた。そんな後ろ姿を見ながらグレイは優しく微笑み、ハリーは苦しむようにまた俯くのだった。
終業式も終わり、生徒達が帰宅のために荷物を纏めている中、エルメロイII世とグレイは一足先にトランクを持ってホグワーツを後にしていた。ホグワーツのエントランスから伸びる大きな石橋を渡りながら、エルメロイII世はグレイに声をかける。
「忘れ物はないかね」
「はい。確認したので大丈夫です」
「うむ」
エルメロイII世が頷くのを見たグレイは背後を見上げる。大きく聳え立つ古城はいつ見ても荘厳でありながらも、どこか暖かい。この一年をホグワーツで過ごしてきたこともあり、グレイはホグワーツに対して少なからず愛着が湧いていた。新たにできた友のこともあるが、ホグワーツでの生活がグレイにとって快いものだったのが一番の要因だろう。
「時計塔とは違う不思議な場所だろう」
「はい。最後まで驚くようなことばかりでした」
「古代の魔法がかけられた神秘の要塞だが、いざそこで生活してみると案外違和感はないものだ。何にしても、君にこの学校を気に入ってもらえてよかった」
柔らかく微笑むエルメロイII世にグレイは笑い返しながら頷いた。
グレイは、一般的な学校を知らない。自身の環境や
そんなグレイを見て、エルメロイII世は少しバツが悪そうに視線を落とす。
「……君には謝らねばならないな」
「どうしてですか?」
「今回の一件で、私と君にヴォルデモートとの因縁ができてしまった。君ほどの力を持つ者ならば簡単にはやられないだろうが、君の周囲に危険が及ぶ可能性がある。連れてくるべきではなかったとは思わん。だが…これで良かったのかと思うこともある」
ヴォルデモートはまだ完全に活動を再開させたわけではないが、少しずつ勢力を伸ばしている。ロンドンにいれば当分は問題ないだろうが、いつか完全に勢力を復活させるだろう。その時、因縁ができてしまったグレイに何もないとは言い切れない。グレイならば簡単にはやられないだろうが、彼女の周囲が傷つく可能性がある。グレイはきっとその様を見て、心を痛める。その原因を作ったのは自分である以上、悩んでしまうのも仕方ないだろう。
だがそんなエルメロイII世にグレイは優しく笑いかけた。
「拙は…ホグワーツに連れてきてもらって嬉しかったです。時計塔じゃない学校に行けて、友達もできて…普通の学生として過ごせたことが、嬉しかったです。ヴォルデモートとの因縁ができてしまったかもしれませんけど…でもここに来れたことは拙にとって、とても素敵な体験になりました。だからそんな風に思わないでください。何かあったら、拙が師匠を、みんなを守るので」
「……グレイ」
「はい」
「これから、私が目指す先には…多くの困難がある。ヴォルデモートだけではない、多くの困難が。きっと…いや、間違いなく私だけでは乗り越えられない。だからグレイ、この先も…私と共に戦ってほしい」
「はい。もちろんです、師匠」
「ありがとう」
エルメロイII世が目指す場所は遠い。辿り着けるかどうかもわからない。その道中にどれほどの困難が待ち受けているかもわからない。そして、それらの中には間違いなく自分一人では乗り越えられないものがあることを確信していた。
だからグレイには共に来てほしかった。出会いは偶然とも必然とも取れないようなものではあったが、今では心から信頼できる存在となった。そしてそれはグレイにも言えることであり、師匠の存在が自分の中で大きなものになっていることを自覚していた。いつも必死で手段を選ぶ余裕なんてないような師匠だが、心から信頼している。だからそんな師匠の行く末に、自分も共にいたいと。そう思えた。
「さて、ではロンドンに…」
「先生ー!」
ロンドンに帰ろう、と言い終わらないうちに声が響く。声がした方を見ると、何人かの生徒たちがこちらに走ってきていた。
「先生!黙って帰っちまうなんてひどいぜ!」
「ちゃんと挨拶くらいさせてくれよな!」
やや息を切らしながら走ってきたのは、双子のウィーズリーとルーナ、ハーマイオニー、ロン、そしてハリーだった。ハリーは少し俯きがちにロンに腕を引っ張られ、半ば引き摺られるようになっており、エルメロイII世とは目を合わせない。
「挨拶は終業式で済ませた。あれ以上、何かを言う必要はあるまい」
「だとしてもだぜ!俺たち、先生のおかげでNEWT試験に合格できたんだからよ!」
「そうだぜ!文句なしの成績で合格できたから、ママの説得もスムーズにいったんだ!お礼くらい言わせてくれよ」
双子は神秘部での戦いの後、NEWT試験の結果が届いた。結果は合格。点数としては、相当出来がいい結果だった。本人達曰く、上の兄であるパーシーはもっといい点数だったらしいが、この成績ならば就職先にも困らないと言えるほどのものといえる。それだけの成績を持って母であるモリー・ウィーズリーを説得し、出店の許可をもらえたと嬉々として報告しに来たのは記憶に新しい。
「私の指導がどれほど良かったとしても、本人達がちゃんとやらねば意味はない。それは私ではなく、君らの努力の賜物だ」
「でも先生が試験受けることを言わなかったら、俺たちホグワーツ中退してたし、説得にももっと時間がかかった」
「だから、先生のおかげだ。ありがとう、先生」
「お前たちには散々苦労させられたが…まあ、こうして成果になったのだし、不問にしておいてやろう」
エルメロイII世の言葉に双子は笑って互いの肩を叩き合う。
そんな双子の横からハーマイオニーが前に出てきた。
「先生、一年間ご指導ありがとうございました。私、先生のおかげで魔法を学ぶのがもっと好きになりました!」
「それは何よりだ。だが、私が教えたのは魔術のほんの一部。これから先、君たちがここで学ぶことは残っている。まだ学びの道…その入り口に立ったにすぎないのだからね」
「は、はい!あの…」
「ん?」
少しだけ躊躇うように、ハーマイオニーは口を開く。
「私が時計塔に行くことを志望したら、変ですか…?」
「ほう?」
「私、その…魔法をもっと深く学びたいと思ったんです。時計塔に行けばもっと魔法を学べるって聞いたので…」
「ミス・グレンジャー」
「は、はい!」
エルメロイII世の呼びかけにハーマイオニーは上擦ったような声を上げる。ロンはちょっと面白いものを見たように笑うが、エルメロイII世は笑うことなく真摯に語りかけた。
「君のその魔法に対する姿勢は素晴らしいものだ。だが、時計塔は学ぶよりも研究という側面が強い。君が想像しているものとは違う可能性がある。君は次、六年生になる。進路を考え始める年代だが、まだ進路を確定させるには早すぎる。興味があるのなら、今度時計塔の見学でもするといい」
「ほ、本当ですか⁈」
「閉鎖的な時計塔だが、見学を拒むほど閉鎖的ではない。尤も、私の権限で見学ができるのは
「是非お願いします!」
「わかった。だが研究施設である以上、気軽に見学させてやることもできん。日程については……フクロウで改めてやり取りしよう」
「お願いします!」
嬉しそうに頭を下げるハーマイオニーの隣に、ロンと俯きがちのハリーが並ぶ。そんな二人の隣では、グレイとルーナ、そして双子が楽しそうに話していたが、気にすることなくロンはエルメロイII世に話し始めた。
「僕、勉強好きじゃないけどさ。先生の授業はすごいためになった。先生の授業受けてから他の授業受けると、理解しやすくなったんだ。勉強自体はいまだに好きじゃないし、ハーマイオニーみたいにはできないけど…もうちょっと頑張ってみてもいいかなって思うようになったよ」
「最初に言ったように、諸君には知るところから始めて欲しかったのだよ。知識だけではなく、『できるようになった』という実感も含めてな。だがそれは私がどれほど尽力しようとも、君ら自身が動かなければならない。そう思えるようになったのも、君らが動いた結果だ。私はきっかけを作ったにすぎん」
「…先生、なんかあれだな。素直じゃないんだな」
「君にだけは言われたくないなウィーズリー」
そう言って笑うロンの隣でハリーは依然として俯いたまま。そんなハリーをロンは膝で軽く突くと、ハリーはゆっくりと顔を上げた。
「先生…僕…」
「ポッター」
「…はい」
「君には、厳しいことを言ったと思う。だが、君が今進もうとしている道は、こういう選択を強いられる道なのだと知っておかねばならない。どんな選択を取るにしろ、君は…そういった覚悟をまだできていないように思えたのでね。敢えて厳しいことを言わせてもらった」
「………はい」
エルメロイII世の言うことは正しい。実際ハリーはまだ親しい人を巻き込み、失う覚悟を持っていなかった。だというのに、必然的に巻き込んでしまうような暴走をし、結果としてシリウスを傷つけた。その事実を、若さゆえの過ちを受け入れなければ、ハリーはどこかで大きく躓いてしまうと思ったからこそ、エルメロイII世は厳しいことを言った。
ハリーもそれはわかっている。だがわかっていてもすぐに受け入れられるかと言えば、また違う。まだエルメロイII世に対して素直にお礼を言えるような精神状態ではなかったが、それはそれとして感謝すべき部分が大いにあるのも確か。僅かな期間だが悩み、苦しんだ中で、ハリーは一つだけ得られた答えがあった。
「先生…僕、その…まだ、先生が言ったことを全部理解できたわけではないです」
「それでいい。ゆっくり考えることだからな」
「はい。でも、僕…一つだけわかったことがあります」
ハリーは弱々しくも、しっかりとした視線をエルメロイII世に向けた。
「…僕は、確かにあいつと…ヴォルデモートと似ている部分があるかもしれない。認めたくはないけど…先生に言われたように…似てるところは部分的にはあるかもしれない。でも…僕は、あいつとは違うものがある」
「それは何かね」
「…守る価値があるもの。僕は、この守る価値があるものを…わかっていながらも、甘えていたんだと思います。価値があるとわかっていたけど…心のどこかで実感しきれていないことが、あったんだと思います。だから僕は……間違えてしまった」
「正解だ、ポッター。まだまだ先は長いが、一つの答えは得られたな」
エルメロイII世の言葉にハリーはホッとしたように笑い、エルメロイII世もハリーに笑いかける。そして優しく肩に手を置いた。
「君は特別故に重い選択を強いられる。だが、だからこそ…その価値のあるものを忘れてはならない。人は一人でできることなどたかが知れてる。だから、君にとってその本当に価値のあるものと
「…はい、先生」
エルメロイII世は頷くと、地面に置いたトランクを持ち上げ、ハリーを含めた生徒たちに目を向ける。
「諸君、君たちにはこれからたくさんの困難が待ち受けている。そんな時こそ、隣にいる友を、本当に価値のあるものを忘れるな。君らは決して、一人ではないのだから」
エルメロイII世の言葉に生徒たちは力強く頷いた。そしてエルメロイII世は隣に立つグレイに目を向ける。グレイはエルメロイII世の視線に気づくと頷いてルーナ達生徒に向き直った。
「皆さん。少しの間でしたが、拙によくしてくれてありがとうございました。皆さんのおかげで楽しく過ごすことができました。また、お会いできる日を楽しみにしてます。ありがとうございました」
「グレイ、またね!」
ルーナの言葉に笑顔で頷いたグレイもトランクを持ち直すと、エルメロイII世は頷いた。
「諸君、ここまで見送り感謝する。また会えることを願っているよ」
「先生、ありがとうございました!」
「先生!先生の肖像画を俺たちの店に飾っていいか?」
「駄目だ。飾ったら燃やすからな」
「グレイもまた会おうね!」
「はい。ではみなさん、また」
生徒たちに見送られながら、エルメロイII世とグレイはホグワーツを後にする。
ホグワーツ特急に乗ったグレイはルーナやハーマイオニー、双子達からもらったお菓子やお土産を楽しみつつ、エルメロイII世のホグワーツ時代の話を聞きながら、時計塔に戻っていくのだった。
次回は悩み中。
謎のプリンスに絡めるか、魔眼蒐集列車にハリポタ要素を入れるかで悩んでます。
ハリーとダンブルドアとエルメロイII世の対話は「誰かを救っても自分が救われるわけじゃない」あたりからのところが書きたかっただけです。グレイが野良猫を埋葬したときにエルメロイII世がかけた言葉を踏襲してます。
Q.エルメロイII世はダンブルドアにグレイのことを話していない?
A.話してはいませんが、それとなく意見は聞いてます。グレイの竜の因子は今のところ目覚めていないため、あまりちゃんと聞こうと思っていません。アルトリアが召喚された後に竜の因子がグレイにも発現した際にダンブルドアがいれば何かしら意見を聞くことはしたでしょうけど、その頃にはダンブルドアはもういません。
Q.ハリポタ勢がサーヴァントを召喚したら誰が来る?
A.触媒次第ですが、触媒を用意しなかった場合は本人に近い性質を持つサーヴァントが呼ばれるとのことなので、本人に近い、または相性のいいサーヴァントが来ることになります。ハーマイオニーにはケイローン先生呼びそうだなぁとか思ってます。ハリーは……アルトリアとか?
Q.この世界で魔術回路ってどういう扱い?
A.ハリポタ世界の『魔法を扱える因子』とイコールです。魔法を扱える者は皆魔術回路を開いていますが、型月世界よりも開くハードルが低く、魔術回路を持つ者は幼い頃に無意識に開いている者が多いです。それこそ幼少期ハリーは入学前にダドリーへの怒りで無意識に開きました。一応一年生の時に魔法理論で全員魔術回路については習う、という設定です。
シリウスは一応生存しました。
ただ、重体で目覚めていません。加えて、目覚めたら魔法をほとんど使えない。目覚めなければそのまま死ぬという究極の二択をハリーに突きつけてみました。
目覚めたら魔法がほとんど使えないかつ片腕もなく、わずかな魔力で足を補強しないと普通に歩くこともできないかつ、補強してる時は碌な魔法も使えないという状態です。死んだら死んだでシリウスを見捨てたという事実によりハリーの心に大きな傷になり、目覚めさせたら自分のせいで魔法と健康的な肉体、そして魔法使いとしての生命を終わらせてしまったという事実に苦しむことになるので、どっちを選んだとしてもよりハリーが苦しんでくれるかなって思ってこうしました。
ごめんハリー、正直君にはもっと苦しんでほしい。不死鳥の騎士団のハリーは結構な戦犯やらかしているので、これについて誰かがちゃんと咎めないといけなかった。ダンブルドアでもルーピンでも、『人の話を聞くこと』と『状況を整理すること』、『人を頼ること』を誰かがこの時点で教えなければならなかった。一人でやろうとする悪癖が暴走し始めたのは特にこの頃なので、エルメロイII世がいればここについてちゃんと叱ってくれると思いました。そもそもハリーの周囲にまともな大人と言える存在がほとんどいないのが原因なのでハリーだけのせいではないですが。
外道神父「己の罪と向き合うことを覚えるのだ少年(訳:シリウスと積極的に関わって己の罪と向き合い、いっぱい苦しむ姿を私に見せてくれ)」
ロード・エルメロイII世
ハリーの暴走癖と自分だけでどうにかしようとする傲慢さをかつての己と重ねていつも以上に饒舌になってしまった先生。ハリーは正義感に溢れた少年だが、同時に非常に傲慢な部分があることを見抜いていたため、多めに語った。先生ならどう言ってくれるか考えまくった結果、かなり厳しめの言葉になりました。
グレイ
ルーナと離れることになってしまい少し寂しい。お辞儀様に興味を持たれてしまっているが、まだ気づいてない。
ハリー・ポッター
己の傲慢さと暴走癖が大切な家族を半ば死に追いやる羽目になってしまい、内心ぐちゃぐちゃ。精神を保つために時計塔やエルメロイII世に対して無意識に責任転嫁をしようとした場面があったが、全部エルメロイII世に見抜かれて容赦なく罪を突きつけられたせいで意気消沈。ただ本人も自覚はあるのか、飲み込めてはいないがなんとか向き合おうとはしている。彼には他者を思いやる心はあれど、別の視点でモノを見るということができていない。それ故に優しさと傲慢さが同居するどこか歪な性格になり、将来は毒親っぽくなってしまったのではと思っています。
アルバス・ダンブルドア
エルメロイII世の言葉はハリーに向けて言っていたが、色々と思い出して後悔の念を色濃く蘇ってきた。エルメロイII世がいなくても分霊箱の指輪ははめてしまうが、呪いのように残る後悔を強く思い出したせいで指輪をはめることになってしまう。間接的にエルメロイII世のせい。
エルメロイII世「⁈」
今回はちょっと書くのが難しかったです。ハリーには苦しんでほしいけど、エルメロイII世なら苦しめすぎないだろうし、そのあたりの匙加減がほんとに難しかった。もうちょっとうまくできたかなとも思ってますが、私にはこれが限界でした。