ホグワーツ教師 ロード・エルメロイII世   作:木材

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魔眼蒐集列車編


ホグワーツレガシー要素が入ってます。
今回は魔眼蒐集列車の導入だけです。
予定では5話ほどで魔眼蒐集列車を終わらせ、その後謎のプリンスに入る予定です。魔眼蒐集列車では謎のプリンス要素はあまりありませんが、章管理としては謎のプリンス一括でいきます。


case.謎のプリンス
File.11


「わあ…」

 

 深夜のロンドンの街をグレイは興味深そうに眺めながら歩く。

 普段使う場所であるが、深夜になるとまた様相が変わる。夜よりもさらに遅い深夜になると、街も眠りについたように静かで、どこか別の街のようにも思えた。

 

「夜だと、街の様子も全然違うんですね」

「深夜だと顕著だろう。それに、君の寮からこの周辺は少し距離がある。深夜にこのあたりに来ることなどない以上、君の感想も当然の反応やもしれんな」

 

 グレイの呟きに、隣を歩くエルメロイII世が答える。普段のエルメロイII世とはやや異なり眼鏡をかけているが、これが何故なのかまだグレイは知らない。

 そしてそんな二人の後ろから、もう一人少年がついてきていた。

 

「あの、先生」

「なんだ」

「改めて、ありがとうございます!俺を連れてきてくださって」

「連れてくるも何も、押しかけたのはお前だろう。カウレス」

 

 少年はカウレス・フォルヴェッジ。つい先日、エルメロイ教室の門弟として入学した少年だった。

 そう言われたカウレスは苦笑しながら頭をかく。

 

「…立ち聞きしたのは申し訳なかったですけど…」

「責めてはいない。元はと言えばフラットが悪い」

 

 カウレスが今回の魔眼蒐集列車を知ったのは、フラットが元凶だった。カウレスは現在、エルメロイII世のもとで原始電池関連の魔術を学んでいるが、フラットがこの原始電池に盗聴魔術を仕掛けていたらしい。だが本人はこの魔術を仕掛けるだけ仕掛けて存在を忘れた挙句、里帰りでロンドンを離れてしまった。そしてこの魔術に気がついたカウレスがたまたまエルメロイII世とグレイの会話を聞き、こうして同行を申し出たという経緯があった。

 すぐには悟られないような手際の良さで魔術を仕掛けたにも関わらず、本人は忘却して里帰りという行動は、『天才馬鹿』と評されるだけのことはあるのかもとグレイは改めて思う。

 

 そしてカウレスがわざわざこうして魔眼蒐集列車への同行を申し出たのは、学べるものがあるなら学びたいという学習意欲から来るものだった。元々は優秀だが体に問題のある姉のスペアだったが、姉が出奔したためスライドして自分に魔術刻印が移植され、こうして時計塔にいるという経緯があった。こうした経緯故に学習意欲は高く、実際に魔眼の移植などはできなくとも目で見てみたいという思いがあったらしい。

 

「自己紹介は終わったか」

 

 エルメロイII世の言葉にグレイは振り返り頷く。そこで普段とはやや異なる様相のエルメロイII世への疑問を口にした。

 

「そういえば…どうして師匠も眼鏡なのですか?」

 

 エルメロイII世は普段、眼鏡をしない。特段視力が悪いわけでもないため必要はないはずだが、これからいく魔眼蒐集列車と何か関係があるのだろうかとグレイは問いかけた。

 

「これは魔眼殺しだ。何せ、魔眼蒐集列車だからな。一睨みで心臓が止まる程度ならまだしも、碌でもない契約や強制をかけられる可能性も大いにある。そんなことをされたら泣くに泣けない。まあ、急遽用意したため随分と足元を見られたが…保険と考えれば必要経費だ」

(魔眼殺し…)

 

 グレイはここに来る前に受けた簡易的な講義の内容を思い出す。

 魔眼はそれ単体で魔術を発動できる独立した器官であり、魔術回路だとエルメロイII世は講義していた。独立した魔術回路であるため、魔力を生み出して起動もできるとか。ただし、能力としては魔眼ごとに異なり、基本的には一つの能力しか無いのだとか。そして魔眼は主に『視る』ことで効果を発揮することが多い。目を合わせることで何かしらの強制や契約を結ばれるタイプの魔眼もあるらしく、それを防ぐために魔眼殺しを用意したのだとか。

 そんな話をしながら一行は深夜のキングズ・クロス駅へと足を踏み入れる。この時間に人などいるはずもないのだが、駅は電灯がついていない以外は何事もないように入ることができた。本来なら施錠されて入ることすらできないはずの駅は施錠されていない。警備員などもおらず、人が誰もいない以外は普通に運営されている駅のようにも見える。

 

「普通に入れるんですね」

「この時間帯ならば一般人はほとんど出歩かない。加えて、招待状を持つ者とそれに追従する者しか近づかないような人払いの結界もある。恐らく、魔眼蒐集列車のスタッフによる結界だろう」

 

 そんな話をしながらホームまで足を運ぶと、既に何人かが待機していた。

 そしてその中には、見知った顔もあった。

 

「お久しぶりです、ロード・エルメロイII世」

「あなた、は…」

「……何となく、お会いする気はしていましたよ、ミス・化野。貴女がこられるということは法政科が魔眼蒐集列車オークションに一枚噛むということですか?」

 

 友禅の振袖を着こなす美女は、化野菱理。法政科の魔術師であり、何かと縁のある顔を見てグレイは驚いたように目を見開いた。

 一方、化野は余裕のある態度を崩さずにゆるりと笑う。

 

「いえ、今日は個人的な用向きでして」

「法政科の鼠のあげくはどこかのロードまで来てると思ったら、噂の現代魔術科なの」

「これは…ご無沙汰しています、レディ」

 

 化野の声を遮るようにもう一つの声が響く。グレイがそちらに目を向けると、そこには白髪を携えた少女がいた。

 

「師匠、こちらは…」

「オルガマリーよ。オルガマリー・アースミレイト・アニムスフィア」

天体科(アニムスフィア)のロードの娘だよ」

「!」

 

 想定よりも大物であり、グレイは再び目を見開く。

 

「ふうん。お飾りのロードといえど、私の顔くらいは覚えてたのね」

「年若いアニムスフィア一族が山から下りてくることも珍しい」

「別に。お互いこんなことで時間を無駄にしても仕方ないもの。で?あなたは狙いの魔眼でもあるわけ?」

「…さて、どうでしょう」

 

 エルメロイII世の言葉にオルガマリーはつまらなさそうに鼻を鳴らす。

 

「ふん、あっても言うわけないわね。オークション前に情報を渡すわけないし」

「そうとも限りません。互いに狙いの魔眼が違えば負担を減らすことはできます。あなたもそういう意図だったのでは?」

 

 オルガマリーは答えない。

 そんなオルガマリーの背後から、一人の女性が前に出てくる。

 

「ロード・エルメロイII世様、化野菱理様ですね。オルガマリー様の付き人をしております、トリシャ・フェローズと申します。さあ、お嬢様」

「な、何よトリシャ」

「失礼いたしました。また改めてご挨拶させてくださいませ」

 

 それだけ言ってオルガマリーとトリシャは去っていった。その時にトリシャのコートの隙間に何か卑猥な物が見えた気がしたが、グレイは見間違いだと頭を振った。

 その後ろ姿を見ながら化野が再び口を開く。

 

「引きこもりのアニムスフィアが山を下りてくるのは珍しいですね。余程目当ての魔眼でもあるのでしょうか」

「さて。あそこなら魔眼に金を出すくらいはやるでしょう」

「ふふ、そうですね」

 

 そんな話をしていると、ホームに漂う霧が少しずつ深くなってくる。もしかしたら魔眼蒐集列車が迫っているのかも、とグレイは少し緊張した面持ちでホームを見渡していた。

 すると突如、ホームに空気を弾いたような音が響く。何事だろうとグレイがホームの出入り口に目を向けると、グレイとそう変わらない年齢に見える茶髪の少年が走ってきた。

 

「間に合った、かな?」

 

 少年は周囲の雰囲気に合わない明るい声で周囲を見渡す。ローブを揺らしながらホームに入り、グレイと目があった。

 

「君。魔眼蒐集列車を待っているの?」

「は、はい」

「良かった!じゃあ間に合ったってことだね!さっきまでスコットランド付近にいたから間に合うか微妙だったんだよ。待合の駅が()()()()()()()()で助かった。おかげでひとっ飛びで来られたから。君も魔眼蒐集列車に招待された客だよね。僕もなんだ」

「は、はぁ…」

 

 気楽に話しかけてくる少年に、グレイは少し圧倒される。そんなグレイを見かねたのか単純に気になっただけなのかはわからないが、エルメロイII世が声をかけてきた。その後ろにはカウレスの姿もある。

 

「失礼、彼女は私の内弟子なのだが…少し困っているようだ。落ち着いてもらえないかね」

「ああはい。それもそうですね、失礼しました。勝手に来ていきなり色々喋ってすみません」

「いえ…」

「とりあえず、数日一緒の列車に乗るわけだし、簡単に自己紹介だけしておくね」

 

 少年は見覚えのあるローブを正しながらエルメロイII世、グレイ、そしてカウレスに向き直った。

 

「僕はセバスチャン・サロウ。皆さんと同じ、魔眼蒐集列車の乗客としてここに来た」

「私は、ロード・エルメロイII世。彼女は内弟子のグレイと、門弟のカウレスだ」

「ああ、貴方が噂の。はじめまして。弟子のお二人もよろしくお願いしますね」

「はじめまして」

「よろしくお願いします、サロウさん」

 

 セバスチャンと名乗った少年は穏やかに笑う。先ほどまでのやや剣呑な挨拶と比べると遥かに一般的で普通な挨拶にグレイは少し気が抜けてしまいそうだった。

 

「…ミスター・サロウ。先ほど君は、ここに来る前はスコットランド付近にいたと話していたな。どうやってここまで?」

 

 ロンドンとスコットランドはそれなりに離れている。グレイにした話の中では『さっきまでスコットランドにいた』と言っていた。彼の言うさっきがどの程度の時間なのかはわからないが、ロンドンまで来るとなると相当な時間が必要だ。世界最速の箒であるファイアボルトを使っても数時間はかかるだろうとエルメロイII世は考えていた。この時間だと煙突飛行ネットワークも使えない場所が多いし、移動(ポート)キーを事前に用意していたらわざわざ間に合うかどうか焦る必要はない。単純な興味からだが、どうやってここまで来たのかを問いかけた。

 

「姿あらわしですよ」

「……何?」

「掃除してたら時間がすっかり過ぎてて焦りましたよ。駅がキングズ・クロス駅で助かりました。()()()()()()駅だったので、イメージもしやすかったのも幸いでした」

 

 セバスチャンの言葉にエルメロイII世はほんの少し目を細める。彼の服装とキングズ・クロス駅に馴染みがあるという言葉から、エルメロイII世は彼の縁がどこにあるかすぐにわかった。

 

「…君は、ホグワーツに縁のある人物か」

「ええ、ローブの通りね。ま、卒業したのは随分前で、このローブは気に入ってるから着ているだけなんですけど」

 

 そう言ってセバスチャンは両手を広げてローブをグレイ達に見せる。そのローブはグレイにとって最近まで毎日のように着ていたローブだった。見たところ、寮はスリザリンらしい。

 

「そういうことか。まさかホグワーツの在校生がこんな場所に来るとは思えなかったのでね」

「それはそうでしょうね。生徒レベルで手に負える場所じゃない。どれだけ優秀な生徒だとしても、死徒の領域だ。簡単に踏み込んでいい場所じゃない」

 

 この言葉でセバスチャンがそれなりに魔眼蒐集列車への理解があることをエルメロイII世は察する。元々ロズィーアンとかいう死徒の道楽として始まったのがこの魔眼蒐集列車の起源とのこと。それを把握しているとなると、それなりに魔眼蒐集列車のことを調べてきた者しかいないだろう。

 

「ロード・エルメロイII世は何かお求めの魔眼でも?」

「さて、どうでしょうね。そういうあなたは何かお求めで?」

「はは!まあね。求めているというか、必要だからってだけですよ。僕自身はあんまり魔眼には興味がないから、競り落とすつもりではあるけど移植する気はないかな」

 

 あっけらかんに言うセバスチャンの言葉の真意はわからない。嘘をついているようには見えないが、真偽を確かめにくい言葉でうまく誤魔化している。ただ魔眼を欲しがってきたわけではないのは確かだが、目的が何なのかはいまいち測れない。

 表情を変えずに思案するエルメロイII世に対して、笑顔のままセバスチャンは視線を線路の方へ移した。

 

「…神秘の匂いが強くなってきましたね」

 

 セバスチャンの言葉通り、ホームにかかる霧が濃くなってくる。同時に、汽笛のような音がホームに響いた。

 列車はホームに停車すると、扉を開く。エルメロイII世は列車に足を踏み入れ、グレイ、カウレスを含めた他の客も続々と乗り込んでいく。ラウンジに入ると、既に何人か乗り込んでいた。

 

 先にいた乗客は4人。白いスーツのジャンマリオ・スピネッラ、聖堂教会のカラボー・フランプトン、エルメロイ教室のイヴェット・L・レーマン。

 そして最後の一人に目を向けようとした時、その人物がエルメロイII世の前に歩み寄ってきた。

 

「……ほう、時計塔の君主か」

「ええ。おっしゃる通り、現代魔術科のロード・エルメロイII世です。それであなたは?」

「コーバン・ヤックスリー。魔法省の者だ」

 

 ヤックスリーの言葉にエルメロイII世は目を細める。

 

「…魔法省が魔眼蒐集列車に来るとは」

「珍しくはあるが、無い話では無い。過去に何度か足を運んだと記録がある」

「…もしや、あなたは無言者?」

 

 無言者とは、神秘部職員の総称。時計塔とはまた違った形で魔術の探究をする者であれば、魔眼を欲しがることもあり得るとエルメロイII世は考えた。

 ヤックスリーはエルメロイII世の言葉に肩を竦めながら答える。

 

「いいや、私は違う。だが無言者に知り合いがいてね。彼の縁で足を運んだまでだ」

「そうでしたか」

 

 これ以上情報を出す気が無いことを察したエルメロイII世はそこで言葉を切ると、ヤックスリーの背後…列車の先頭方面から一人の男性が現れた。

 

「今宵も定刻通り運行ができております。これも皆様のご協力あっての賜物です。まずは感謝申し上げます。申し遅れました。当列車車掌のロダンと申します。皆様、ご歓談の最中に失礼いたしました。では、本オークションのスケジュールについてご説明させていただきます」

 

 車掌のロダンの説明でオークションのスケジュール説明が始まる。

 この魔眼蒐集列車は三泊四日で霧の国を一周し、ロンドンに戻ってくる予定になっていた。その間は列車の中で過ごすことになり、列車で保管している魔眼のコレクションを見ることができるらしい。そしてオークション自体は三日目の夜に開催され、魔眼を出品する場合は三日目の夕方までに車掌やオークショナーに声をかけることになった。

 

「それでは皆様を客室へとご案内いたします。こちらへ」

 

 車掌に連れられて、グレイ達はそれぞれの客室へと通された。

 グレイとカウレスはエルメロイII世と同室であった。エルメロイII世はコートとジャケットをハンガーにかけ、カウレスも同じように上着をハンガーにかけてベッドに腰掛けた。

 

「グレイさん、大丈夫?」

 

 ぼんやりとソファに腰掛けていたグレイはカウレスの言葉に苦笑しながら答える。

 

「ちょっと…いろんな人に会い過ぎて混乱しているみたいです」

「メンツとしてはあまりにも濃い人物ばかりだ。君がそうなるのも無理はない。まあ、イヴェットについては予想はできたがな」

「イヴェットさんの眼帯は、魔眼に関係している…ということですか?」

「半分正解で半分間違いだ。あの眼帯の下には生身の眼球はない」

 

 意味がよくわからずグレイが首を傾げると、カウレスが補足するように解説を加えた。

 

「イヴェットさんは宝石を魔眼の代わりにしているんです」

「宝石を?」

 

 魔眼の複製は低位の劣化品しか作れないが、宝石加工の場合はその例外となる。レーマン一族は加工の魔術を得意としてきた家系であり、限定的ながらもノウブルカラーすらも再現可能なのだとカウレスは解説した。

 

「多分、より精巧に魔眼を再現するためのモデルとして魔眼蒐集列車のオークションに定期的に参加してるんじゃないかな」

「…あ、なるほど」

「恐らく、生身の眼球を代償とする行為や宝石ならではの魔術的属性で複製の限界を乗り越えているのだろう。異物を身体に埋め込んでいる以上、拒絶反応はある。イヴェットがそれに耐えられるのも何代にも渡って肉体改造をしてきた結果だろう」

 

 そこまで言って、エルメロイII世は魔眼殺しの眼鏡を外す。そして疲れたように息を吐いた。

 

「…支配人代行は現れなかった」

「じゃあその人は…」

「後で現れるつもりなのかもしれない。ここへの招待状を置いていった意図さえわからない以上、思い煩っても仕方ない…が、少しイレギュラーな人物が混ざっていたからな」

「イレギュラー?」

 

 誰だろうとグレイが頭を巡らせている間に、カウレスが口を開く。

 

「もしかして、魔法省の…」

「まあそちらも十分イレギュラーだ。魔法省職員という一般魔法界の人物がわざわざ魔術界隈に首を突っ込んできたのだから。ありえない話ではないが、魔法省がヴォルデモートの復活を認めた最中にここへ来るというのも変な話だ」

「どうしてですか?」

「魔法界の秩序を守るためにも、魔法省はヴォルデモートという史上最悪かつ最強レベルの魔法使いの対策を立てる必要がある。かつてはイギリスの大半が奴の手に落ちたのだ。そんな人物の対策を放っておいてわざわざ魔眼蒐集列車に来るというのもおかしな話だろう。尤も、魔眼蒐集列車への参加自体がヴォルデモート対策ならば話は別だがね」

 

 仮にヴォルデモート特攻の魔眼が出品されるのなら、魔法省は恐らく大金を積んでも手に入れようとするだろう。戦力増強や予防のことを考えればありえない話ではないが、招待状の入手難易度や出品される魔眼の不確定性、魔眼の制御を考えると、わざわざ人を寄越すとは考えにくい。尤も、仮にヤックスリーが個人として来ているのなら話は別になるが、そこは考えてもわからない以上エルメロイII世は言及しなかった。

 

「それ以上に、あのセバスチャン・サロウと名乗った者の方が不可思議だ」

「セバスチャンさんが…?師匠は、セバスチャンさんのことを知っているんですか?」

「いいや、初耳だとも。だが、彼の言動からいくつか不可解な点がある」

 

 グレイはセバスチャンの言葉を思い出す。

 スコットランド付近から慌てて姿あらわしでロンドンまで戻って来たこと。着ているローブはホグワーツのスリザリン寮の物で、気に入っているから着ているとのこと。そしてホグワーツの卒業生だということ。

 グレイ視点では特別気になる点は無いように思えるが、エルメロイII世は違った。

 

「まず、姿あらわしについてだが…スコットランド付近からロンドンまで相当な距離がある。あの距離を姿あらわしで移動できるとなると、魔法の扱い方だけならばダンブルドア教授レベルだ。時計塔の魔術師…それこそ君主レベルでもあの距離を姿あらわしで移動しようなどと考えない。途中でどこかを経由しながら来たのなら話は別だが、あの口ぶりから判断するに、一度の姿あらわしで移動してきたのだろう」

 

 姿あらわしでの移動は、魔法を使える者であれば誰でも使うことは可能。だが、誰でもできるのにほとんど誰も使おうとしない理由は、難易度が高く、移動に大きな負荷がかかるから。

 姿あらわしは一定の年齢に達し、魔法の扱いにある程度精通してから講師の指導のもと訓練を積んで初めて使用許可が下りる。それほどまで危険な魔法であり、扱いを間違えると大惨事になりかねない。加えて、移動そのものに慣れるまでそれなりにかかる。初めて体感した者は大概吐くほどには強烈な魔法であるため、慣れていたとしてもあまり多用する魔法使いはいない。そして姿あらわしでの移動は、距離が長くなればなるほど肉体にかかる負担は大きくなり、()()()()可能性も高くなる。

 セバスチャンがもし本当にスコットランドからロンドンまで一度の姿あらわしで来たのであれば、相当な腕を持つことになる。それこそダンブルドアと魔法の扱いだけならば同レベルかもしれないと思えるほどに。

 

「それに、彼はホグワーツの卒業生と言っていたな」

「はい」

「ホグワーツは、スコットランド付近にある。正確な場所はともかく、そのあたりから来たとなると…ホグワーツに何かしらの用事で向かっていた可能性がある」

「あ…!」

「卒業生が夏休み期間中にホグワーツへ行くということ自体は別段おかしくはない。だが、わざわざ魔眼蒐集列車の直前に行くような理由があるとは思いにくい。いや、あるのかもしれないが…今この場では到底思いつかないような理由だろう」

 

 そもそもホグワーツにいたかどうかもわからないがな、と付け加えてエルメロイII世は息を吐く。

 あのセバスチャンという少年、グレイ視点ではただの明るい少年に見えた。普通の少年ではないことは確かだろうが、それでもグレイから見たら普通の少年にしか見えなかった。

 

「想定外の人物がいたが、支配人代行は現れなかった。今日のところは休むとしよう」

 

 それだけ言ってエルメロイII世はベッドの中に潜り、間も無く穏やかな寝息を立て始めた。

 そんなエルメロイII世を見て、グレイは少しだけカウレスと話をしてからベッドに潜るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 一方、同時刻。

 

「あれが噂のロード・エルメロイII世か」

 

 セバスチャンは部屋で杖を手で回しながら一人呟く。

 

「会いたいとは思っていたけど、ここで会えるとは思わなかったな。不器用だけど優しそうな感じだったし、()()()()と少しだけ似てるかも」

 

 どこか懐かしそうに、そして少しだけ寂しそうにセバスチャンは呟く。セバスチャンしかいない部屋に響く声に反応はない。

 

「僕がいた時の魔法理論の先生はすごい良い人だったけど、違う方向で良い人っぽい感じがする。評判も含めて()()()()が任せるだけはあるね」

 

 セバスチャンはソファから立ち上がる。

 

「目的の人物も来てくれたし、うまいことやらないとね」

 

 そう言ってセバスチャンは杖を振って自らに目眩しの魔法をかけて客室を後にするのだった。

 

 

 




Q.セバスチャン・サロウって誰?
A.ホグワーツレガシーに出てくる主人公の友達です。スリザリン生で、呪われた妹を助けるために闇の魔術を調べているけど、ちゃんと心優しい。暴走癖があるところはちょっとハリーに似てるかもしれません。

Q.魔眼蒐集列車に乗った駅ってキングズ・クロス駅なの?
A.わかりませんので、コミックス版『ロード・エルメロイII世の事件簿』のシーンから想像しました。見た感じキングズ・クロス駅っぽい感じだったのでいいかなと。

Q.姿あらわしってどこまで移動できるの?
A.詳細の描写はありませんが、少なくとも大陸横断できるほどの使い手はほぼいないそうです。スコットランドからロンドンまでの距離をひとっ飛びできるほどの使い手もあんまりいないのではないかなと考えてます。長距離姿あらわしした描写があるのは、今のところダンブルドアくらいです。ちなみにエルメロイII世も姿あらわしは使えますが、移動距離がせいぜい50mが限界程度です。グレイはできませんが、練習したら多分結構遠くまで移動できます。

Q.ヤックスリーって魔法省職員なの?
A.死の秘宝時点では魔法省職員ですが、それ以前は明言されていません。でも死の秘宝時点でパイアス・シックネスを簡単に服従させているので、元々魔法省職員だと判断しました。ちなみに無言者の知り合いはオーガスタス・ルックウッドです。彼は神秘部職員でしたが、イゴール・カルカロフの告発により逮捕されました。

Q.ハリポタ世界の人物が魔眼蒐集列車に乗ることってあるの?
A.ほぼありませんが、稀にあります。グリンデルバルドの未来視の魔眼は魔眼蒐集列車のオークションで買い取ったものです。
なお、トレローニー一族の未来視は魔眼蒐集列車ではなく、血縁によってできたものなので関係ありません。

Q.どうして作者はハリーを苦しめるの?
A.愛です、愛ですよ読者の皆様。ハリーポッターシリーズのテーマである愛なんです。わかりますか。



ロード・エルメロイII世
イスカンダルの聖遺物を盗まれて焦りまくり、平静を保っているように見せかけて実は狼狽えまくってた先生。今回つけている魔眼殺しは誰から入手したものなのかは描かれていないが、本作では橙子さんから購入したということにしてます。ついでに、橙子さんには何か別件について話を通したらしいが、そのあたりはまだグレイも知らない。


グレイ
普段住んでいるのが寮ということもあり、深夜に街へ出歩くことがほとんどないため、深夜の街が少し珍しく映った。そういえばグレイとエルメロイII世、カウレスの客室は同室だったのだろうかと書きながら思ったが、特に描写もなかったので同室になった。


カウレス・フォルウェッジ
Apocryphaで出てくるバーサーカーのマスターと同一人物。尤も、この世界線では聖杯大戦はないのでマスターにはなっていない。姉が非常に優秀でやや劣等感が強いが、エルメロイII世のもとで電気系統の魔術を着々とモノにしている。
姉は魔術師を辞めたが魔法使いを辞めたわけではなく、今は足を治す方法を探して世界を旅しているとか。


化野菱理
法政科。ロード・エルメロイII世同様、事件には関わりがち。


オルガマリー・アースミレイト・アニムスフィア
天体科の娘。どっかの世界では所長になりカルデアスに飲み込まれ、挙げ句の果てには宇宙大統領と名乗りながらドスケベ衣装を披露した人。


トリシャ・フェローズ
オルガマリーの従者だが、結構厳しい教育をしていたっぽい人。


セバスチャン・サロウ
ホグワーツ卒業生。見た目はフレッド、ジョージと大差ない年齢に見えるが、卒業したのは本人曰くかなり前とのこと。エルメロイII世は蒼崎橙子同様、見た目を固定していると予想している。明るく優しい性格だが、熱くなりやすい傾向にあり、目的のためならばどんな手段を取っても達成すべきと考える部分はやや危ないようにも思える。それこそ闇の魔術にも踏み込むくらい危なっかしい。
オミニスという友人がいる。


コーバン・ヤックスリー
魔法省の職員。死の秘宝では陥落後の魔法省で魔法法執行部部長に就任しているため、本作では魔法法執行部職員としている。乗車目的は不明だが、失った物の代替品を求めて魔眼蒐集列車に乗車したらしい。
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