ホグワーツ教師 ロード・エルメロイII世   作:木材

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魔眼蒐集列車二話目



型月もハリポタも時間の設定が難しいですね。


File.12

「ん…」

 

 目覚ましの音に反応してグレイは目を覚ます。

 魔眼蒐集列車が進む心地のいいリズム故か、いつもより深く眠っていたように感じる。それとも慣れない環境故の疲れでもあったのだろうか。そんなことを考えながら、グレイはむくりとベッドから起き上がる。

 エルメロイII世とカウレスはまだ眠っていた。普段の寮ではいつも一人で目覚めるため、他者がいるということは少し新鮮だった。

 

「んん…」

 

 ぐっと大きく伸びをしてグレイはベッドから抜け出す。ふとガラスに映った自分の顔を見て、思わずグレイは自分の頬に手を添えた。

 この顔は、自分の顔ではない。かつて存在した英雄の顔は、かつての自分の顔と似通ってはいるが、決して自分のものではない。まるで乗っ取られるようで、ずっと怖いと思っていたし、その思いは今でも変わらない。だが、今は師匠と共にいられればどうにかなるような気がしていた。無論確証などない。勘と言うにもあまりにお粗末な感覚だろう。それでもグレイはそう思えた。

 

 今はそれでいい。

 

 そう考えてグレイはトランクから着替えを取り出すと、別室で身支度を整え始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エルメロイII世の寝起きがやたら悪く、食堂車へと向かう時間が少し遅れた。当のエルメロイII世はこのほとんどの人物が食堂車へと向かっているタイミングを利用して少し調査がしたいとのことで、グレイは残りの身支度をカウレスに任せて一人食堂車へと訪れた。

 

「お、内弟子ちゃん。こっちこっち」

 

 食堂車へ入ると、席についたばかりのイヴェットがグレイを呼ぶ。特に断る理由もなかったグレイは軽く会釈をしてイヴェットに勧められた正面に腰掛けた。

 

「どーせ先生は寝覚め悪いから、起こされてももう五分とかなんとか言ってたんじゃない?」

 

 グレイは図星過ぎて思わず感心してしまった。

 

「…よくご存知なんですね」

「そりゃ愛人志望だからね。あ、スパイだからでもいいよ!」

 

 そんな本気なのかどうかもわからない言葉をイヴェットが口にするとほぼ同時に、オークショナーが大きな保存容器を持って食堂車中央に立つ。保存容器の中には、二つの眼球が浮いていた。よく見ると、オークショナーの背後にある柱にはびっしりと保存容器が並んでおり、その全てに眼球が保管されている。

 

「こちらがノウブルカラー、炎焼の魔眼にございます。視界に入ったものを燃やす…自然発火現象を引き起こす魔眼です」

 

 オークショナーが魔眼の解説を始めると、グレイとイヴェットの前に朝食が並べられる。解説を聞きながら朝食を食べていると、イヴェットが呟いた。

 

「もともとこのオークションは先代支配人がとびきりの魔眼を自慢するための口実なんだけどね。とびきりの…文字通り目玉商品は明日のお楽しみってわけ。お披露目数も普段と変わらないし、明日の方が本命ってところね」

「自慢のため?」

「うん。もともとはどこぞの死徒の道楽だったとかだしね。ロズィーアンとかいう家名だったかな?」

(死徒…)

 

 その名を聞いて、グレイはエルメロイII世の講義を思い出す。確か、一般的には『吸血鬼』と呼ばれる吸血種で、生物としての在り方を根本から捻じ曲げるような存在だとか。

 

「あたしがオークションに参加し始めたのは支配人代行になってそこそこ経った後だから詳しいことは知らないけどね。でも何回か来ると、ある程度客の判別もつくようになるよ。例えば…あれは売主だろうね」

 

 そう言ってイヴェットが目を向けたのは、聖堂教会のカラボー・フランプトン。

 

「カラボーさん、ですか」

「聖堂教会にも魔法の使い手はいるけど、母体が母体なだけあって洗礼詠唱以外は歓迎されない。だいたい、あんな歳取ってから魔眼をいれても習熟している時間も体力もない。寧ろ制御できなくなってきた魔眼を売りにきたと考えるのが順当だよ」

「年齢で変わるんですか?」

「おやま。魔術や魔法には疎いって聞いてたけど、本当なんだね」

「す、すみません…」

 

 グレイの謝罪にイヴェットは軽く首を振ると、指を立てて解説し始める。

 

「魔眼はね、魔術師や魔法使いに付属した器官でありながら、それ自体が半ば独立した魔術回路だってことは知ってる?」

「はい。師匠の講義で習いました」

「さすが先生。ただ普通の魔術回路と違うのは、独立しているってとこ。だからこそ摘出・移植の話になるわけ。んー、魔眼ごとに個々の能力があるのを考えると、血筋に関係なく適応できる魔術刻印みたいなものかな」

 

 魔術回路とは魔力を生み出すための器官。魔術師、魔法使い全てに備わったものであり、その質と量によって扱える魔力に天地ほどの差が出る。だからこそ、魔術師はどの家系も一本でも多くの魔術回路を子供に持たせるべく血道を上げる。そして、魔法使いの中でも純血主義という思想が生まれる要因でもあった。

 そして、魔眼が制御できなくなる要因もここにある。魔眼は単体でも魔力を生成し、術式を起動できる。故に、魔術師でも魔法使いでもない者にも稀に魔眼の使い手が現れる。しかし、魔眼が生み出す魔力と術式が釣り合うかどうかはまた別。場合によっては魔眼が勝手に術式を発動した挙句に当人の魔術回路から精気を強引に絞り出すこともあるという。足りない量が僅かならば若いうちはあまり問題ない。しかし、全盛期を過ぎると歳を重ねるごとに生成できる魔力量は減る。故に、絞り出される魔力の割合が大きくなり、結果として当人に牙を剥く形になるのだとか。

 その点、魔眼蒐集列車はそういった者にとっては救いの場でもある。魔眼の摘出に加えて、通常の眼球や低位の魔眼を確実に移植できるため、ほぼ売り得になるのだから。

 

「買う方はどれだけ覚悟してるかわからないけどね。ま、こんなところに来る以上、自分だけは例外とか考えていてもおかしくはないけど。でも、一代限りのサブとはいえ、魔術回路を上乗せできるんだもの。そりゃ美味しいだろうものね。魔術師以外がどう考えてるかは、さすがにわかんないけどね」

「どういうことですか?」

「今言ったように、魔眼はサブとはいえ本人に上乗せできる魔術回路なの。でも今あたしが言った理論は、あくまで()()()()()()()()()。魔術界隈と一般魔法界では価値観が違うでしょ?だから、内弟子ちゃんみたいに付き添い人じゃなくて、メインとして来ている魔術師ではない人の思想はちょっと想像しにくいってこと。あ、カラボーさんは別ね」

 

 イヴェットの言葉は、恐らくセバスチャンやヤックスリーのことを示しているのだろうとグレイは考える。エルメロイII世曰く、この二人は魔術師ではないとのこと。セバスチャンは今のところ不明だが、ヤックスリーは魔法省の人物だということが判明しているため、ヤックスリーは一般魔法界の者となる。エルメロイII世もどういった理由かわからないと言っていた以上、イヴェットとしてもどうして魔眼蒐集列車に乗ったのかを考察するには、情報が足りないらしい。

 

「イヴェットさんも、魔法省の方が来るのは初めて見たんですか?」

「一回だけあったよ。魔法省の神秘部の人が乗ったの。でもその人は魔眼を買いに来たというより、魔眼による真理の探究をテーマにするかどうかを検討するためだったみたい。理由としてはわかるし、結局その人は何も買わなかったけど…魔法法執行部の人がどうしてここに来たのかまでは全然。普通に考えれば、復活した例のあの人関連だろうけどね」

「…やっぱり、そうなんですか?」

「さてね。こればっかりは。それで言うと、あのセバスチャンとかいう人物も結構謎だけど。二人ともシンプルに戦力増強のために来るにしては、リスクが大き過ぎるような気もするんだよ。移植できるとはいっても、魔眼は個々で制御の癖が違うし、取引額も馬鹿にならない。余程の理由がないと、わざわざこんな所に来る理由は無いように思えるんだよねぇ」

 

 エルメロイII世が指摘していたことをイヴェットも指摘する。ヴォルデモート対策だとしても、わざわざ魔眼蒐集列車に赴くとは思えないらしい。有り得なくはないが、リターンに対してリスクが大き過ぎるからだ。

 

「まー時折こういう珍しい客が来ることもあるしね。一般魔法界…って言っていいかはわからないけど、前にいた魔法使いが魔眼蒐集列車で魔眼を買ったって聞いたしね」

「有名な方なんですか?」

「うん。今は例のあの人が知名度のほとんどを占めてるから、内弟子ちゃんは知らないかもだけど…ゲラート・グリンデルバルドの名前は知ってる?」

「いえ…」

 

 知らない名前にグレイは首を振る。どこかで聞いたこともあるような気もするが、思い出すことはできなかった。

 

「一般魔法界ともあんまり関わりなかったんだっけ。なら知らなくても無理ないよ。グリンデルバルドが猛威を奮ったのは相当昔だから。例のあの人が出てくる前は、史上最悪の魔法使いとも言われてたみたいでね」

「そんな人が、魔眼蒐集列車に?」

「うん。どこまで本当かわからないけど、未来視の魔眼を移植したんだって。そのせいで対処するのは随分苦労させられたみたいだよ」

 

 イヴェット曰く、グリンデルバルドの目的は魔法族とマグルの立場逆転。魔法族が隠れて生きることに不満があり、そのために様々な策を講じてきたらしい。グリンデルバルドは元々非常に卓越した頭脳を持っていたが、未来視の魔眼によってその策がより突破困難になった。それこそ時計塔も対処に出張ってきたらしいのだが、グリンデルバルドの頭脳と未来視の魔眼によって悉く回避されてきたのだとか。

 

「時計塔も対処に?」

「うん。グリンデルバルドの目的が成就されると、神秘の漏洩が相当な大規模で発生する危険性があったからね。執行者とかまで使ったけど、さすがに最悪の魔法使いと言われるだけはあるよ。時計塔が出張ってきたのにかなり苦労させられたらしいから。まあ未来視の魔眼相手で、頭脳も一流ならそうなっても仕方ないよね」

 

 最終的には時計塔と魔法省、そしてアルバス・ダンブルドアが手を組むことでグリンデルバルドは確保されたのだという。そうまでしなければならないほど魔眼の力が優れていたというよりは、その力を扱うグリンデルバルドの頭脳が卓越していたと言えるだろう。

 

「そんなにすごい事態だったんですか?」

「あたしも記録でしか知らないけどね。でも一般魔法界と時計塔が本格的に手を組んだのは、多分これが最初。そこまでしなきゃならない事態ってだけで、事態の大きさはわかるよね」

「なるほど…」

 

 そこまで話したところで、エルメロイII世が食堂車に現れる。

 いつも通り不機嫌そうな表情だが、その隣には何故か見慣れない顔がいた。

 

「師匠…と、セバスチャンさん?」

「昨日ぶり、グレイさん。あと…イヴェットさん、だっけ」

「そうでーす!先生の愛人志望のイヴェットちゃんでーす!」

「先生、愛人がいるんだ」

「違う。イヴェットは黙っていろ」

 

 一瞬で混沌とした場に遠い目をしながらエルメロイII世はグレイの隣に腰掛け、空いたイヴェットの隣にセバスチャンは断りを入れて腰掛けた。

 エルメロイII世は先にグレイをいかせて、その間に招待状についてスタッフに調査するといっていたが、何故そこにセバスチャンがついていたのかはグレイもわからない。どういうことかを問いかけようとエルメロイII世に視線を向けると、エルメロイII世は朝食を口にしながらグレイの疑問に答えた。

 

「まず、招待状についてだが…こちらは何人かに配っているフリー枠の招待状だった。時折新しい客を招くためにこうした招待状を出しているらしいな。一応調査依頼はしてみたが、向こうもこの招待状が元々誰のものなのかはわからないらしい」

「そうでしたか…それで、セバスチャンさんは?」

「彼はまた別件でスタッフに用があったらしい」

「僕は今回のオークションで出す予定の魔眼のカタログをスタッフに聞いてみたんだ」

 

 グレイとエルメロイII世の会話を聞いていたセバスチャンが口を開いた。

 

「実は僕、直前まで魔眼蒐集列車に乗る予定はなかったんだ。だからギリギリになったんだけど…まあそれはいい。それで、今回のオークションでどんな魔眼が出品されるのかはほとんど知らされないまま来たんだよ」

「何が出るかわからないのに、来られたんですか?」

「うん。知り合いからの依頼…というか、アドバイスかな?だからスタッフに聞いたんだよ。今回出品される魔眼のカタログはあるかって。そしたら今の時間なら食堂車で出品される魔眼の一部を公開してるって聞いてね。僕がスタッフに聞こうとした時に、エルメロイ先生が先にいたんだ」

「…そういうことだ。それより、ミスター・サロウ。何故私を先生と呼ぶのかね」

 

 エルメロイII世は生徒から先生と呼ばれることが多いため気にならなかったが、エルメロイII世の生徒ではないセバスチャンも何故かエルメロイII世のことを先生呼びしている。違和感がなかったため特に気にしていなかったが、確かに言われると変である。どうしてなのかとエルメロイII世が問いかけると、セバスチャンはクロワッサンを口にしながら答えた。

 

「僕がホグワーツにいた時、魔法理論の先生には色々お世話になったんで。後釜…というには時間が経ち過ぎているけど、縁のある科目の教師で、()()()()()()()()()()()なんだし、先生呼びがしっくりくるかなって。不愉快なら辞めますけど」

「…好きにしたまえ。だが、可能ならII世をつけてくれ」

「じゃあ普通に先生って呼びますね」

 

 そう言ってセバスチャンは朝食を食べながら魔眼に関することをイヴェットと話始める。そんなセバスチャンを尻目に、エルメロイII世は朝食を食べながらセバスチャンに関する思考を纏めていた。

 

(…急遽くることになった、直前までスコットランドにいた…仮説にすぎないが、ミスター・サロウはここに来る直前までホグワーツにおり、()()()()()()()()()()()が故に、魔眼蒐集列車に来ることになったとは考えられないか?)

 

 小出しにされる情報をもとに、エルメロイII世はセバスチャンに関する仮説を出す。ホグワーツはスコットランド周辺に存在する。そして直前に魔眼蒐集列車へ赴く必要になったということは、ホグワーツで何かしら動きがあり、そして卒業生であるセバスチャンが魔眼蒐集列車へと派遣されることになったのではないかと、エルメロイII世は考えた。

 

(……情報としては少なすぎる。仮説程度にしかならんな)

 

 そう考えてエルメロイII世は仮説を口にすることなく、朝食を食べ進める。

 その後、オークショナーにより『掠取の魔眼』が紹介されると、同時にオルガマリーがオークショナーに『虹の魔眼』の有無を問いかけた。しかしオークショナーはこの場では答えられないと言い、どこか緊迫した空気で紹介は終わるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オルガマリーとトリシャとの対談を終えた後、聖遺物を持ち去った犯人からの手紙を受け取ったところで、魔眼蒐集列車は森の中で停車する。二時間ほど停車するため、その間に外を軽く散策できると車掌からアナウンスが入る。

 オルガマリーとトリシャの目的は『虹の魔眼』とのことだった。付き人のトリシャは予測の未来視の魔眼を持っており、トリシャの魔眼で虹の魔眼が出品されるのを見たらしい。いくら魔眼蒐集列車といえど、虹の魔眼が複数出品されるとは考えにくい。宝石ランクの魔眼ですら出品されるのは稀なのだ。虹となれば一つしかないだろうというのがオルガマリー達の考えだった。そして、トリシャと聖杯戦争に関する問答を行ってその場は終わりとなった。

 一方受け取った手紙には、夕刻に車両の最後尾に来いという内容だった。夕刻までしばらく時間があるため、エルメロイII世はグレイとカウレスを伴って停車中の列車から外に出る。

 ぼんやりと霧が出ているが、その方は至って普通の森だった。夏にしては冷たい空気がグレイの肺を満たし、とても心地よく感じる。そんな中、どこか緊張した面持ちのエルメロイII世にグレイは声をかけた。

 

「師匠…手紙は」

「ここにある。ここまで来たのだ。夕方、いくとしよう」

「拙も行きます」

「当然だ。君がいなければ死ぬ」

 

 殺し文句のような言葉を平然と言うエルメロイII世に優しく微笑みながらグレイは頷いた。

 少しだけ歩くと、足元にキノコが円形に生えているのを見つける。

 

「…妖精の輪(フェアリーサークル)か」

「お、いつものですね」

「イヴェット、知ってるのか?」

「この列車は霊脈に線路を形成しているみたいなんですよ。多分、魔力の維持に活躍しているんじゃないですかね。で、時々停まる場所もある種のパワースポットになってるわけです!」

「なるほど、英国で霊脈を辿れば妖精絡みになるのは当然か。どちらかといえば補給による停車なのだろう。当たり前だが、この列車もこの列車なりのルールで動いているわけだ」

 

 そう納得して立ち上がると同時に、何か空気が弾かれるような音が響く。まるで姿あらわしのような音であり、音がした方をみると一人の男性が立っていた。そしてその傍らにはコーバン・ヤックスリーの姿もある。男性とヤックスリーは少しだけ言葉を交わすと、そのまま列車の中に入っていった。

 

「今の…」

「恐らく、移動(ポート)キーだ」

 

 移動キーは物体に魔法をかけて特定の場所へ移動できるという魔法。あの様子からして移動先のビーコンの役割をしていたのは、ヤックスリーが持っていた何かだろう。

 

(だがそれより…あの移動してきた男、どこかで見覚えが…)

 

 先ほどヤックスリーと共に列車に入って行った男に、エルメロイII世は見覚えがあった。ただどこで見たのかは思い出せない。名だたる魔術師や魔法使いなら覚えているが、思い出せないということはどこかで見かけたり何かの記事で見た程度だろう。そう結論付けてエルメロイII世は森に目を向けた。

 その瞬間、列車から悲鳴が響き渡る。声に聞き覚えのあったグレイとエルメロイII世は即座に走り出し、グレイは真っ先に声の発生源に辿り着いた。

 そしてその光景を見て、言葉を失った。

 

「っ!」

「トリシャ!トリシャ!」

 

 オルガマリーが、首のない胴体に半泣きになりながら縋り付いていた。服装や状況から鑑みても、この胴体は間違いなくトリシャのものだろう。

 

「何寝てるのよ!いつもみたいに人のことを叱りつけなさいよ!」

「なに、が…」

「れ、列車で少し酔ったから…離れて、森の…空気を吸ってたの…そ、それから…ロビーでお茶して…戻ってきたら…トリシャが、トリシャが…」

 

 縋り付かれた胴体は、動かない。グレイはかける言葉が見つからずに絶句してしまい、その間に乗客が続々と集まってきた。

 

「……お前らが、お前らが犯人なの⁈ふざけないで!トリシャを返して!」

 

 気が動転して、オルガマリーの動揺が怒りへと変換されていく。

 

「お、お前ね!お前なんでしょ聖堂教会!それともお前⁈()()()!」

 

 オルガマリーはカラボーとヤックスリーに鋭い視線を向ける。視線を受けてもカラボーは全く動じず、ヤックスリーは不愉快そうに眉を顰めた。

 

「人をいきなり殺人犯扱い、か。ロードの娘だかなんだか知らないが、随分な態度だ」

 

 忌々しげに吐き捨てたヤックスリーの隣に、カラボーが並ぶ。そしてその特殊な色を持つ眼球をオルガマリーに向けた。

 

「…あいにくだが、俺に検死をさせてもらっても構わんかね」

「け、検死⁈」

「専門家ではないが、この手の死体は慣れている。何かわかるかもしれない。いかがかな?車掌殿」

 

 車掌は懐中時計を取り出すと、いつもと変わらない口調で答える。

 

「…こちらは構いません。ですが、運行スケジュールと部屋の清掃も考慮し、一時間ほどで終わらせていただきたい」

「承知した」

「ふざけないで!」

 

 勝手に話が進むことに逆上したオルガマリーは杖を抜き、カラボーに向けて呪詛を放つ。

 だがカラボーは一切動じることなく、剣と言うにはあまりにも柄が短い武器…俗に言う黒鍵で呪詛を切り裂く。武器を取り出す速度は、グレイにすら見切ることができないほどの速度であり、その気になればにこやかに歓談している中で心臓を一突きにすることも、被害者に痛みを感じさせることなく絶命に至らせられるほどだと直感で感じ取った。

 

「なっ…!」

 

 カラボーのあまりに卓越した腕前に、逆上していたオルガマリーの表情が驚愕と恐怖で染まる。魔術協会と聖堂教会の関係を考えれば、このまま殺されても不思議ではない。オルガマリーが身を守ろうとカラボーに向けて杖を向けた瞬間、カラボーの隣にいたヤックスリーが動いた。

 

「ステューピファイ」

 

 ヤックスリーの放った魔法はカラボーの真横を通り、オルガマリーを貫いた。カラボーに意識を向けていたオルガマリーはヤックスリーの呪詛を防げずに意識を失って倒れた。

 

「……ミスター・ヤックスリー、だったかな?魔法省の」

「何かな、ミスター・フランプトン」

「どういうつもりですかな?責めるつもりはないが、貴方が彼女に手を出す理由は無いように思えますが?」

 

 怒りではなく純粋な疑問といったところだろうか。実際、手を出されていないヤックスリーが反撃する理由はない。

 そう問われてヤックスリーは不愉快そうに顔を歪めながら答える。

 

「否定はしない。だが、いくら同胞が理不尽に殺された直後だとしても人をいきなり殺人犯扱いは些か無礼が過ぎるのでは?報復の一つ程度されたとて責められる理由にはならないと思うのだが?」

 

 どうやら殺人犯扱いされたことが不愉快だったが故の反撃だったらしい。ヤックスリーの言っていることも全く筋が通っていないとは思わないが、カラボーではなくヤックスリーがやるのはどうなのだろうとグレイは思ってしまう。

 

「…そうですか。まあ、貴方がやらなかったら私がやっていた。これ以上とやかく言うつもりはない」

「そうか。まあこちらとしても、ここで聖堂教会と事を構える気はないから助かる。ついでと言ってはあれだが、検死の手伝いをしよう。魔法法執行部にいる以上、こういった死体の現場には出くわすこともある。サポートくらいならできるだろう」

「…ではお願いするとしよう。その前に、誰かオルガマリー(彼女)のことを別室に運んで見ていてくれないかね。目覚めた時、この部屋ではショックも大きかろう」

「あ、はい。なら俺が」

 

 エルメロイII世についてきたカウレスがカラボーの頼みを受け、オルガマリーを背負って退室する。

 それと入れ替わるように、化野菱理が現場に到着し、エルメロイII世の隣に立った。

 

「こんなことになってたなんてね。よくよくあなたは魔術師の事件に縁があるみたいね?ロード・エルメロイII世」

「それはあなたもだろう」

「気分じゃなかったからさっきは野外に出なかったけど…そうすると私にはアリバイがないことになるのかしら?」

「そんなものが魔法使いに通用しないのは貴女もよく知っているだろう」

「ふふ、ならよかった」

 

 そんな会話の最中、検死は進行する。

 一通り検死が済み、カラボーとヤックスリーは立ち上がった。

 

「死亡推定時刻は数十分以内。死亡も頭部切断によるショック死で間違いないだろう」

 

 ヤックスリーの言葉に、カラボーは頷く。

 

「でしょうな。争った形跡もない。犯人が彼女を殺すのは一瞬だったのだろう。だがなぜ、犯人は頭部を?魔法の触媒にでもするためか?」

 

 カラボーの推測に、エルメロイII世が口を開いた。

 

「彼女は未来視の魔眼だったそうです」

「何っ?」

 

 エルメロイII世の言葉に強く反応したのは、カラボーではなく共に検死をしていたヤックスリーだった。何故ここまで強く反応するのかわからずエルメロイII世が視線を向けると、ヤックスリーはなんでもないとでも言うように首を振ってエルメロイII世に続きを促した。

 

「犯人は彼女の魔眼を奪うつもりで頭部ごと持ち去った可能性はないでしょうか」

「眼球目的で頭部ごと、か。そんなことが可能なのか?」

「私どもの技術を持ってすれば、きちんとした保存ができているという前提であれば魔眼の摘出は可能です。付け加えれば、魔眼蒐集列車でなくとも移植自体は不可能ではありません。無論、確実性は著しく落ちるでしょうが」

「…そうですか。なら、私も改めて検死に参加してもよろしいかな?」

 

 保存ができていれば移植はできるのなら、トリシャの頭部は魔眼を目的に持ち去られた可能性が高い。そう考え、エルメロイII世はカラボーと共に検死に参加することを申し出た。

 

「カラボー・フランプトン。一つ伺ってもいいですかな」

 

 カラボー、ヤックスリーと共に検死を進める中でエルメロイII世はカラボーに問いかける。

 

「何かな」

「あなたは、感受型の魔眼の持ち主ですか?」

 

 エルメロイII世の問いかけに、ヤックスリーの手が止まる。

 

「…どうしてそう思うのかね」

「あなたの年齢を考えると、魔眼の購入よりも売却と考えるのが普通だ。そもそも聖堂教会は洗礼詠唱以外は認めていない。検死を買って出たのも、自分の魔眼が有用だと思ったからでは?」

 

 エルメロイII世の推測にカラボーは手を止めると、重々しく頷いた。

 

「俺の目は過去視の魔眼だ」

「ほう」

「大したものではない。ノウブルカラーとやらには引っかかるかもだが、黄金の位階だとか騒がれるようなものでもない。だが…お嬢ちゃんは今朝、ロードの髪をセットしたね?」

 

 突然声をかけられたグレイは驚きながらもカラボーの問いかけに頷く。

 

「随分手慣れている。もう5分寝かせてくれとかロードは言っていたが、結局さっきのカウレス君に支えさせてやり終えたね。ん、何か調査をしているが…事件とは関係ないようだな」

「!」

「このくらいのことは見える…が、あいにく時間や場所を指定できるような便利なものではなくてね。発動はある程度制御できるが…この歳になると魔眼に引きずられることも多くなってきた。君の言うように、売り払うつもりでオークショナーにも話していた。明日のカタログには載るだろう」

「では、犯人のことは?」

 

 本人が言う能力が真実であるのなら、トリシャを殺害した犯人のことも見えたのではないか。そう問いかけたが、カラボーは首を振る。

 

「見えなかった。何かしら防御手段(プロテクト)をしていたのかもしれん。彼女がこの椅子に座っていたことまでは見て取れたが、首が落ちた前後の状況は曖昧ではっきりと見えない」

「じゃあ、この未来視の女にもそうだった可能性があるわけですかな?」

 

 カラボーの言葉にヤックスリーがそう問いかける。エルメロイII世もヤックスリーの言葉に頷いた。

 

「未来視を持つ彼女なら、自分の首が落ちる様を見る事ができた可能性が高い。ならば何かしら措置が取れたはずだと言うのに、そうならなかった。つまり、未来視を持つ彼女にも犯人のことが見えなかったのではないかと」

「過去からも未来からも見えない…」

「ええ、まるで時間の透明人間だ」

 

 エルメロイII世の言葉に、ヤックスリーが顎に手を当てる。

 

「…随分と神秘的な物言いですな、ロード・エルメロイII世」

「そうでしょうか」

「ええ。ロードの言葉で思いついたのだが、神秘には神秘を研究する者の意見を聞くのもいいかと」

「と、言うと?」

「私の同行者が神秘部出身でね。何かわかるかもしれん」

 

 そう言ってヤックスリーが一度席を外して、先程エルメロイII世がどこか見覚えのあると考えていた男を連れてきた。青白い顔をした男はヤックスリーから簡単に説明を受けると、カラボーとエルメロイII世に向き直る。

 

「彼は神秘部で働いていた者でね。この手の神秘には詳しい」

「ルックウッドだ。元々、神秘部で時間に関する研究を行っていた。今はもう退職しているがな」

(ルックウッド…うむ、思い出せんな…)

 

 名前を聞いても思い出せないのなら、思い出すことは不可能だと結論付け、エルメロイII世はルックウッドの話に耳を傾ける。

 

「時間に関する研究…逆転時計か?」

「ああ。時間繋がりで予言についても少しは知見がある。ヤックスリーの話を聞いたが…役に立てるかはわからん」

「それでもよければ、あなたの意見を聞かせてほしい。犯人はどのように、未来視と過去視から逃れたのかを」

 

 エルメロイII世の問いかけに、やや疲れたように息を吐きながらルックウッドは答え始めた。

 

「未来視でも過去視でも見えない、か。具体的な方法はさすがにわからん。だが未来視でも捉えられないとなると、()()()()()()()だということはわかる」

「ほう」

「あくまで憶測として聞け。神秘部でも時の間と予言の間の二つがあるように、過去と未来についての研究をしている。神秘部での知見だと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということだ」

「どういうことでしょうか」

「逆転時計は、一時的に過去へ自身を跳躍させる技術だ。過去へ飛び、そこでの事象を書き換えることが可能となる。タイムパラドクスによる反動を考えなければだが、あらゆる過去を観測し、書き換えることも可能ということだ。これは過去が未来から滑り落ちた砂粒が過去という砂の山へと落ちていくものであり、砂粒そのものは既に決まったものだ。元々あるものを書き換えることにかかる労力はさほど大きくない。だが予言…未来は違う。常に変動するため、枝葉のように広がる未来へと干渉することは非常に難しい。あるものを別物にすることより、ないものをあるものにする方が労力が大きい。それが世界相手となれば尚更な。故に、予言の力を持ってしてもごく局所的な部分しか()()できない。このことからもわかるように、過去への干渉は未来への干渉よりもハードルが低い」

 

 逆転時計は神秘部が管理している魔法道具であり、時間を巻き戻して干渉することができる非常に貴重なもの。一般的に知られているのは数時間程度を巻き戻すことができる代物だが、物によっては年単位で巻き戻すこともできるのだとか。そしてこの魔法道具のすごい所は、過去の事象を書き換えることができるということ。この時エルメロイII世とグレイは知らなかったが、ハリー達は既に逆転時計でシリウスの命運を書き換えた経験もあった。

 対して未来はまた別。無数に広がる未来は魔法道具といえど容易に干渉することはできない。枝葉のように広がる未来は流体に等しいものであり、それらに干渉するとなると過去のようにはいかない。神秘部にある予言は局所的に未来を()()したもの。だが予言の力を持ってしても完全な測定は難しく、限定的なものしかできないのだという。

 

「なるほど…神秘部の予言は言うなれば局所的な測定の未来視だと」

「ああ。神秘部の技術を持ってしても完全な未来測定はできない。予測ならばもう少し高精度で可能だろうが、測定…未来を固定することは神秘部でも事実上不可能だ。その未来が遠ければハードルはさらに跳ね上がる。過去への干渉よりも未来への干渉の方がハードルが高い理由は以上だ」

「…つまり、犯人は過去からの干渉をすることでトリシャの首を落としたと。逆転時計を使った可能性は?」

「無いとは言えんが、逆転時計を使っても未来視の魔眼から逃れられはしないだろう。神秘部でも想定していない逆転時計の使い方をされたらわからんがな」

 

 結局、この場では過去と未来ならば過去からの干渉の可能性が高いということしかわからなかった。

 その後、目を覚ましたオルガマリーをカウレスに任せると、エルメロイII世とグレイは手紙の差出人の言葉に従うための準備をするために部屋へと戻る。

 

「師匠」

「なんだね」

 

 準備を進める中、グレイがエルメロイII世に問いかける。

 

「トリシャさんの件ですけど…今回の件とトリシャさんの件、犯人は同じ犯人なんでしょうか」

「現時点ではなんとも言えん。だが仮にそうだとしたら…かなり厄介だ。過去からの攻撃となると、現状防ぐ術がない。直接的な武力なら君がいればある程度はどうにかなるだろうが、時間を超えた攻撃となるとな。だが制約は多いはずだ。それに、私を殺すつもりなら先にやっているだろう。とりあえず、トリシャ氏と同じ方法でやられることはないと思っていいだろう。それよりも…少し気になることがある」

 

 エルメロイII世は自分の杖を懐に戻すと、顎に手を当てながら訝しげな表情を浮かべる。

 

「先の検死の時、何故ヤックスリー氏は未来視の魔眼に反応したんだ?」

「…珍しいものだからではないんですか?」

「そうだ。だが、魔眼蒐集列車において予測の未来視であればあってもおかしくはない。測定ならともかく、予測ならば珍しいと言われるような環境ではない」

「じゃあどうして…」

「ヤックスリー氏は、もしかしたら未来視の魔眼を目当てに来たのかもしれん。カラボー氏のように売却ならともかく、購入の場合は事前のラインナップがあまり公開されない。出品されることを祈って来たというのもありえん話ではないが…招待状の入手難易度が高い以上、祈って来るのは些かリスクが大きすぎるように思える。加えて、あのルックウッドという同行者。どこかで見た記憶があるのだが…」

 

 どこかで見た記憶があるのだが、いまだに思い出せない。少なくとも直接顔を合わせたことはないのだが、どうにも初見ではないように思える。顔色が悪いことも相まってそれなりに印象的な顔であるため忘れてはいないだけなのだろうが、肝心のどこで見たのかが全く思い出せない。

 

「どこで見たのかはそのうち思い出せることを祈るが、問題なのは元神秘部職員ということだ」

「どうしてそれが?」

「神秘部は魔法省職員ですら何をしているのかを知らないような部署だ。つまり、内部のことを話す者がほとんどいない。それ故に無言者とも呼ばれている。神秘部は有している神秘が非常に濃いかつ、魔術協会で言えば封印指定レベルの技術がゴロゴロしている。その特異性故か、神秘部を退職したという者はほとんどいないのだよ」

 

 魔術協会と神秘部は似た組織ではあるが、全く異なる。魔術協会は学問として魔術を学び、根源を目指す。対して神秘部はあくまで魔法の深淵を研究し、魔法技術の発展が目的であり、根源への到達は目的としていない。結果的には似たような方向を向いているが、神秘部は根源そのものは重要視していないという点が大きく異なるのだ。

 そしてそんな神秘部に所属する者は多くはない。同時に、退()()()()()()()()()()()()()という点が非常に異質な部分であった。絶対数が少ないということもあるが、神秘部に入った者は引退と同時に姿を消すこともあったという話だった。神秘部という後ろ盾を失えば時計塔に封印指定される可能性もあるため別段おかしな選択ではない。エルメロイII世が疑問視しているのは、ルックウッドが神秘部を退職しているという点。無論普通に退職した者もいるだろうし、エルメロイII世も魔法省の事情に精通しているわけではないため探せばいるのかもしれない。しかし、それなら神秘部がここまで謎な部署になることもなかったのではないかとも思える。守秘義務があるとはいえ、神秘部に関する情報が全くない現状を考えると、ルックウッドがただの退職者とは思えなかった。

 

「魔法省の二人…少し、注意しておいた方がいいかもしれんな。何か…魔法省で起きているのかもしれん」

「それは…アンブリッジさんの件があったから?」

「恐らく関係ない。アンブリッジは所詮、単独の暴走だ。あるとしたらヴォルデモート関係と考えるべきだろう。尤も、あの二人とヴォルデモートにどういった関係があるかはわからんがね」

 

 ヴォルデモートはかつて魔法省にスパイを送り込んだりしていたらしい。そう考えると、魔法省のスパイに対抗するため、または彼ら自身がスパイという可能性もある。尤も、考えたところでなにも情報がないため確証はないのだが。

 

「セバスチャンもだが、一般魔法界の人物については注意しておこう。だが今はこの手紙だ。こちらに集中するとしよう」

「はい、師匠」

 

 そういって二人は礼装や杖をしっかりと装備して、準備を進めていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 一方、とある客室。

 

「おいヤックスリー、いいのか」

 

 ヤックスリーの客室でルックウッドは問いかける。

 

「何がだ」

「あのロードとその従者のことだ。あいつら、()()()()が言ってた連中だろ?特に…」

「わかってる。だが、あの首切り事件があった以上、向こうの警戒心も上がってる。そもそも、我らの同胞のことを赤子の手を捻るように圧倒した奴だぞ。下手に手を出せん」

「あのゴイルが相手だったんだろ?なら…」

 

 ルックウッドの言葉にヤックスリーは首を振る。

 

「ゴイルは馬鹿だが、魔法の馬力はある。ベラトリックスから聞いた話だと、あの従者はゴイルの魔法を正面から全て完全に防いでも平然としていたらしい。正面から戦えば、俺たちでも手強いを通り越して負ける可能性すらある」

「む…」

 

 ヤックスリーの言葉にルックウッドは押し黙る。頭はともかくゴイルの魔法の腕は認めていたルックウッドとしても、ゴイルの魔法を完全に防ぎきったとなると、さすがに分が悪いとわかった。

 

「何よりあの従者…あのお方と魔法を撃ち合って生きていた。単純な実力でいえば、ポッターよりも遥かに警戒すべき相手だ」

「…そうだな」

「先程の事件がなければ一考の余地はあったが…それも難しい。全く、誰かは知らんが魔術師だろう。余計なことをしてくれた。だが、こうなった以上、我々はここに来た目的に向けて動くとしよう」

 

 ヤックスリーは部屋に置かれていたワインを口にし、グラスを揺らしながら続ける。

 

「ふん、魔術師の領域だが…なかなかいいワインを置いているな。どうだルックウッド、お前も飲まないか?」

「こんな場所でなければご相伴になったがな。むしろ良く飲む気になれるな」

「ん?」

「魔眼蒐集列車だぞ。魔術師連中ですら噂や伝説レベルのものだ。そんな場所で、あのお方からの無理難題を課されている今はとてもじゃないが、飲む気にはなれん」

 

 重々しく言うルックウッドにヤックスリーはそれもそうかと口元を歪める。先日の神秘部での一件の後、ヴォルデモートはマルフォイの館で怒り狂っていたのだ。なんでも、ルシウスに預けたヴォルデモートの私物が紛失…いや、破壊されていたらしい。何かは知らないが、相当な怒り様だったらしく、その場に居合わせていたルックウッドの命がまだあることが奇跡だと思えるほどだったとか。そこからあまり日も経たずに伝説の魔眼蒐集列車に行かされれば、飲む気にもならないだろう。(ヤックスリーは魔法省にいたため、その場には居合わせなかった)

 

「それより、目的についてだ。お前から渡されたカタログには、例のものはなかったぞ。あの予見者の出鱈目だったんじゃないのか?」

「そうとも限らない。あのお方が直接聞いた情報だ。それに、寿命による死に際だったかもしれないが、占いや予言において奴が偽ることはない」

「だがカタログには…」

「カタログは明日、追加でラインナップが記載される。そこにあればいいが…先ほどの一件から考えると、そもそも俺たちが想定していた形ではないかもしれん」

「……その場合どうする」

 

 やや深刻に聞いて来るルックウッドに、ヤックスリーは少しだけ憂鬱そうに答える。

 

「どうにか見つけるしかあるまい。幸い、この列車は検知不可能拡大呪文ほど拡張された空間ではない。それに、隠し場所もそう多くない。スタッフにやられたらお手上げだが…そこはなんとかなる。手分けして探すとしよう」

「そうだな。この列車程度の広さなら捜索もそう難しくない。確か、神秘部で失せ物探し系統の魔法の資料を見たことがある。失せ物とは違うが…少し使い方を変えれば活用できるだろう」

「なんだ。いつになくやる気だな」

 

 ワイングラスを揺らしながら皮肉げに笑うヤックスリーにルックウッドは表情を歪めた。

 

「お前はあのお方の怒り様を見ていないだろう」

「ルシウスがあのお方の私物…日記だったか?それを紛失したと聞いたな」

「ああ。4年ほど前に破壊されたらしい。預けていた大事にしていたものが壊されれば怒りもするが…あそこまでお怒りになるのはそうそうない」

 

 ヴォルデモートは機嫌がコロコロ変わるため、気に食わないことがあるとすぐに機嫌が悪くなる。そのためルックウッドも不機嫌なヴォルデモート自体は見慣れていたが、あそこまでの怒り様はほとんど見たことがなかった。配下に当たり散らし、怒りの発散のために痛めつけることは何度かあったが、磔の呪いを何度もかけるほどの怒り様はルックウッドも見たことがなかった。

 

「ルシウスの奴は一体何を無くしたんだ?」

「無くしたというより壊されたと聞いた。だがあのお方があそこまでお怒りになるということは…相当大事なものだったのだろう」

「何にしろ、そこまでお怒りなところに失敗の報告は待っていけんな」

 

 ヤックスリーも事態の重さを理解すると、苦笑してグラスのワインを飲み干した。そして杖を取り出すと、列車の見取り図を机に広げる。

 

「そうとなれば、早速動くとしよう。どこからどうやって探していくか詰めるぞ」

「ああ…ん?」

 

 ふと、ルックウッドは部屋を見渡す。突然周囲に視線を巡らせたルックウッドに、ヤックスリーは首を傾げた。

 

「どうした」

「いや…今、何か……神秘部で感じたことがあるような…異様な雰囲気があった気がして」

「ここは魔眼蒐集列車だろ?そのくらいあってもおかしくないだろ」

「…それもそう、か?」

 

 いまいち納得できていなさそうなルックウッドだが、今はそれより重要なことがあると考え直し、ヤックスリーの正面に腰掛けて作戦会議を始めた。

 

 

 

 

 

 

「…勘がいいな。さすが神秘部の元職員」

 

 作戦会議を進める二人を()()()()()、その人物は呟く。

 

「神秘部にいただけある。神秘の気配に敏感だ」

「ふん。この程度の気配なら、感知していてもおかしくないだろう。何故気づかん」

 

 二人を眺める人物の隣で、黒髪の女性がつまらなさそうに答える。女性に対してこの人物は肩をすくめた。

 

「神代の魔術師と現代の魔術師で感知能力も大きく違う。そもそも、()()()()の気配を感じ取れる人は現代にはいない。あのアルバス・ダンブルドアですら感知できないんだから」

「だが今の魔法、お前はわざと()()()()()()()()()だろう」

「気づくとは…さすがですね」

 

 人物は楽しそうに笑うと、杖をしまう。周囲にあった白い煙のようなものが霧散した。

 

「もういいのか?」

「ええ。必要な情報は手に入れましたから。あとは下準備さえ済ませてしまえば、目的は半ば完了。ところで、そちらはこんなところにいていいんですか?そろそろ、()()()()()()()()?」

「マスターの命令だ。とりあえず出迎えてやるさ。興醒めにならんことを願うばかりだ」

 

 女性は勝ち気に笑いながら答え、人物も笑った。

 

「どうなりますかねえ」

 

 そう呟いて、人物はどこかへ去っていくのだった。

 

 

 




Q.魔法法執行部って検死とかするの?
A.しないと思います。でも事件現場に赴くことはあると思うので、死体には見慣れているかと。そもそも死喰い人なので見慣れているのは当然ですが。

Q.ルックウッドって時計の間で働いていたの?
A.不明です。なので私の想像になります。

Q.ルックウッドとヤックスリー、なんか普通すぎない?
A.彼らの目的のために大人しくしているだけです。内心ではエルメロイII世を含めたほとんどの魔術師を見下してます。場所がお辞儀様ですら容易に干渉できないということもあるので、目的を優先するために波風を立てないようにしているだけ。

Q.エルメロイII世、ルックウッドのこと知らないの?
A.10年近く前に捕まった魔法省職員のこと覚えてる方がおかしいと思ったので。

Q.予言って型月で言う未来測定なの?
A.局所的な未来測定だと判断しました。その理由として、ハリーへの予言である『一方が生きる限り他方は生きられぬ』は『ハリーかお辞儀様のどちらかが死ぬことは確定している』ものであり、未来が固定されている、つまり測定されていると考えました。ただし、どちらかが死ぬだけことは確定していてもどちらが死ぬかは確定していないということもあり、局所的な測定と判断できます。

Q.過去への干渉と未来への干渉だと過去への干渉の方がハードルが低いのって公式?
A.私の想像です。逆転時計という過去改変可能ぶっ壊れアイテム(ただし反動は考慮しない)がハリポタ世界にはあり、これによりシリウスの運命を捻じ曲げたりしているということもあるので、過去への干渉自体はそこまで難しくないと考えてます。一方、未来は神秘部の予言やトレローニー一族の予言程度しか干渉している描写がありません。型月でも未来予測と未来測定の魔眼がありますが、非常に希少です。測定に至ってはどこぞの絵本作家しか出ていないため、さらに希少。形が既にある(決定した事象)に干渉することよりもまだ形のないものへの干渉の方が難しいと考えたため、ハリポタ世界でも型月でも未来への干渉は難しいと判断しました。

Q.セバスチャン、口調違くない?
A.君のように勘のいい読者は大好きだよ。



魔眼蒐集列車編の目標
エルメロイII世に『犯人はお前だ』と言わせる。



ロード・エルメロイII世
あまり出番無し。カラボーと一緒に検死して、ヤックスリーとルックウッドに違和感を覚えた。

グレイ
時間に関することはよくわかってない。

イヴェット・L・レーマン
魔眼女子。今回、ほぼ解説役。

セバスチャン・サロウ
描写はないが、一応検死現場は見てる。エルメロイII世からなんとなく警戒されていることは把握しているが、特に気にしてない。

コーバン・ヤックスリー
魔法省の権限をうまく使って魔眼蒐集列車に乗った男。乗車目的は当然お辞儀様関連。魔法省へスパイとして動いており、神秘部の戦いの際に警備員を服従の呪文で無力化したのはこいつ。本人はパーティーに呼ばれていたこともあり、警備員を無力化した後はパーティーにいたため捕まっていない。

オーガスタス・ルックウッド
元神秘部職員。実際どこの部署に所属していたのか、どの程度神秘に詳しいかはわからないが、神秘部にいたのならそれなりに詳しいだろうという作者の勝手な想像で解説役にされた。
原作では神秘部の戦いでダンブルドアに倒されてアズカバンに収監されているが、本作では予言と未来視の調査をお辞儀様から命じられていたため不在だった。そのせいで神秘部の戦い後に分霊箱が破壊されていることにキレて磔の呪いをかけられまくっているルシウスとそれに怯えるマルフォイ一家を目の当たりにさせられるはめになる。

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