ホグワーツ教師 ロード・エルメロイII世 作:木材
誤字報告、内容指摘。いつもありがとうございます。
来年度もよろしくお願いします。
良いお年を。
夕刻、エルメロイII世とグレイは手紙で指定された場所へと向かう準備を終えて一度部屋を出た。
少し前に気絶させられていたオルガマリーは目を覚ました。明らかに強がりをしていたが、少なくともフィジカル面では問題ないだろうと判断し、オルガマリーのことはカウレスに任せてエルメロイII世とグレイはラウンジを後にした。
「指定された時間までまだ少しあるが、早めに現地へ向かおうと思う。先に何かしらのトラップが仕掛けられている可能性もある。少し周囲の調査をしておきたい」
「わかりました師匠」
イスカンダルの聖遺物を盗んだ者から指定された場所は、魔眼蒐集列車最後尾の貨物車両。向こうから指定された場所である以上、罠が仕掛けられている可能性もある。先に調査をし、待ち受ける形にしたいというのがエルメロイII世の考えだった。グレイもその理屈はわかるため素直に頷いてエルメロイII世の後に続いて貨物車両へと足を向ける。
そんな中、後方車両から一人の人物が現れる。
「…ロード・エルメロイII世。何故ここに?」
「それはこちらも聞きたいところではあるな、ミスター・ルックウッド」
その人物はルックウッドだった。
エルメロイII世達が向かっている貨物車両は最後尾の車両。その間にいくつか車両はあるが、ラウンジや食堂車、オークション会場は前方。後方にいく用事はエルメロイII世のような例外を除けば基本的にはないはず。
「尤もな質問だが、先にこちらの問いに答えてくれ」
「待ち合わせだよ」
エルメロイII世の言葉にルックウッドが眉を顰める。
「待ち合わせ?後から乗車する誰か相手か?」
「そんなところだ」
魔眼蒐集列車の招待状は同行者を二人まで同行させられるが、エルメロイII世はグレイとカウレスで二枠使っている。他に同行者を連れて来ることはできないが、聖遺物のことを言うわけにもいかない。ルックウッドが聖遺物窃盗の犯人という可能性は少ないが、詳細を話す理由にはならないため、エルメロイII世は濁した答えを返した。
「…まあいい」
無論ルックウッドもそれは理解している。言いたいことはありそうだが、向こうにも事情がある故か特に追求はしてこなかった。
「そちらは?」
「探し物だ。悪いが詳細を話す気はない。これ以上聞くな」
(探し物…?)
魔眼蒐集列車で何を探すというのか。考えても答えは出そうにないが、どうにも良い予感はしない。
(前にヤックスリーが未来視の魔眼に反応していた…そしてルックウッドの探し物。まさか、二人の目的は未来視の魔眼?)
検死を行った時、ヤックスリーは未来視の魔眼に対してやや過剰な反応をしていた。そしてルックウッドが探し物をしているということも考慮すると、この二人の目的はトリシャの未来視の魔眼なのではないかと予想した。
これ自体は別段変ではない。魔眼蒐集列車には魔眼を求めて来る者がほとんどだ。未来視の魔眼があるのではないかと期待して来ることはあることだろう。そしてトリシャが死んだ以上、その頭から魔眼を取り出して移植することもできる。オルガマリーあたりが突っかかってきそうだが、魔眼蒐集列車において倫理観というものはほぼ存在しない。魔術師や魔法使い同士の諍いに魔眼蒐集列車自体は全く関与しない。先にトリシャの頭部を発見すれば、魔眼を取り出して移植することくらい全く問題なくできるだろう。
(…予想でしかない。証拠も何もない以上、何も言うべきではないな)
ルックウッドとヤックスリーの言動からの予想でしかない。エルメロイII世としてはトリシャとオルガマリーの尊厳を尊重したいところだが、予想でしかない以上、ルックウッド達にとやかく言うことはできない。ここは何も言わずにさっさとこの場を去るべきだろうとエルメロイII世は判断した。
「ならばこれ以上、お互い何も言わずに去るべきですな」
「ああ。ではなロード」
「ええ」
そう言ってルックウッドの隣を抜けてエルメロイII世とグレイは後部車両へと足を進める。すれ違う際、ルックウッドからどこかで感じたような気配をグレイは感じ取った。
(今の気配…どこかで)
どこかで感じた気配。どこだろうと少し思い返してみると、神秘部で感じた気配だ。正確には、神秘部で戦闘をしていた時の気配。ルックウッドは神秘部にいたという経歴があるため、それに由来しているのだろうとグレイは考えた。
少し歩くと、二人は貨物車両にたどり着く。
「杖を抜けグレイ。周囲に何か仕掛けられていないか調べる。探知魔術はここに来る前に教えただろう」
「はい師匠」
エルメロイII世とグレイは杖を抜くと、周囲に探知魔術をかけて何かないか調査を開始する。しばらく調査をしてみたが、結果は何も見つからなかった。
「…何もないか。かえって不気味ではあるが…見つからない以上、どうしようもないな」
「何もないなんてこと、あるんでしょうか」
「余程自信があるか、虚数術式などを使われたら見つけることは困難だろう」
「虚数術式…検知不可能拡大呪文のことでしょうか」
先日ホグワーツでエルメロイII世が五年生向けに授業していた内容であり、ハーマイオニーがダンブルドア軍団の練習の合間にグレイやルーナに向けて簡易的に説明してくれたことを思い出す。虚属性、または虚数属性と言われる属性は、本来存在しない空間を作り出すことができるらしい。そして検知不可能拡大呪文はその名の通り、外からは如何なる手段を持っても検知することができない。ならば今回、二人の探知魔術に引っかからないなにかも検知不可能拡大呪文なのではとグレイは問いかけた。
エルメロイII世はグレイの問いかけに首を横に振る。
「それも含める。だが今回については、検知不可能拡大呪文の可能性は排除していい」
「どうしてですか?」
「検知不可能拡大呪文には起点となる扉が必要だ。この貨物車両で起点となり得る場所は全て調べてある。それでなお見つかっていないのなら、それはない」
「じゃあ…なにもないということですか?」
「かもしれん。何かあった方がわかりやすく警戒できるのだがな。だが何もない。うむ…場所もさることながら、さらに警戒した方が良さそうだ」
「場所、ですか?」
「先程停車したところもそうだが、車内同様この霧の中は半ば異界化している。外部から侵入、脱出…共に難しいだろう。予め移動キーとビーコンを持たせておいたとしても、停車して乗降可能な時でもなければ出入りは困難だ」
先程停車した時は正式ではないにしろ、乗降可能な瞬間の一つ。だからルックウッドも移動キーでたどり着くことができた。それ以外の時であれば、たとえ移動キーでも列車への乗車は難しかっただろう。異界化しているのであれば、移動キーは移動先のビーコンをうまく感知できず、どこかで迷子になっていた可能性もある。
「箒で飛んで逃げたりはできないんですか?」
「そもそも箒を持ち込める環境ではないが、難しいな。例え世界最速の箒…ファイアボルトであったとしても、この列車の速度に追いつくのは難しい。何より異界化している関係で、外部から感知することが難しい。無論不可能ではないが、箒による飛行をしながらこれほどの神秘を探知し続けるのは些か難易度が高すぎる。移動キーの術式を利用したトーコ・トラベルとかいう裏技なら難易度はかなり落ちそうだが、前提条件を作るのがな」
「?」
グレイには箒による侵入が不可能ではないが相当難易度が高いということしかわからなかった。
そこでふと窓の外を見ると、雲が出てきているのが見える。そしてそこから数秒もしないうちに、二人がいる貨物車両の天井に雷が落ちた。
「雷⁈」
「師匠、こっちに!」
グレイは車両に取り付けられていた梯子を登り、ハッチを開く。凄まじい風がグレイの頬を叩くが、そんなことを気にしている余裕はなかった。
グレイの視線の先には、黒髪の女性が立っていたからだ。その女性からはただならぬ気配を感じる。
「…ああ、本当に来たんだ」
声だけでわかる覇気。立ち姿からもただ者ではないことがわかる。まるでお伽話から抜け出てきたかのような佇まいは、グレイが冷や汗を流すのに十分なものだった。
「罠かもしれないのに飛び込んできたのを愚行と蔑むべきか、蹴散らすだけの実力を伴った剛毅と讃えるべきか。さて、君たちは自分をどちらだと思っているんだ?」
「……」
「ん、どうした?言葉は通じてると思うんだが…ひょっとして、現代じゃ使わない語句でも混ざっていたか?」
「あなたが師匠から盗んだ犯人ですか?」
「ははは、なるほど間違いじゃない。その盗賊の郎党ではある」
その言葉にグレイは右手でアッドのカゴを、左手で杖を握る。
臨戦態勢に入ったグレイの後ろでエルメロイII世が顔を顰めながら問いかけた。
「お前は誰だ」
エルメロイII世の言葉に、女性は鼻で笑うように口を開く。
「ふうん…気に入らない顔だな。ケチ、せせこましい、暗くて偏屈、寝起きが悪い、黴びた書物ばかり読んでる、卑屈なくせに傲慢、さも苦労人って顔をしてるくせに終わってみれば一番事態を掻き回してる。どうだ、全部当たっているだろう」
「っ……」
女性の言葉が全て当たっているため、思わずグレイは頭を抱えた。何一つ間違っていないせいで反論の余地が全くない。
「気に入らない。そんな偏屈な顔はエウメネスで見飽きているというのに、この時代でも見せられるのか」
「エウメネス?」
「仮にも彼を従えていたなどというからどんな魔術師かと思えば…こんなろくでなしとはな。いやエウメネスに比べてすらまるで足りない。現代の魔術師、魔法使いでももう少しマシな奴もいただろうに。アリストテレスの叡智などもちろん期待していなかったが、これじゃあいっそ半端な脳みそをくり抜いて猿に食わせたほうがマシだろう」
「お前…!」
ひどく一方的な物言いにグレイが激昂しかけるが、そんなグレイの肩をエルメロイII世が掴んで抑えた。
「お前を呼び寄せたのは単に私の興味を優先したからだが…
嘲笑を浮かべていた女性の表情が一瞬で温度をなくす。その表情を見て、グレイの背筋に冷たいものが走った。
「だから死ね」
グレイは咄嗟にアッドを展開し、エルメロイII世に迫っていた凶刃を防ぐ。
『イッヒヒヒヒ!まさかの展開すぎるだろうこれは!』
あまりにも重い一撃。グレイの脳裏に危険信号がけたたましく掻き鳴らされる。触れてはならない、近づいてはならない、関わってはならないと警鐘が鳴り止まない。
「ほう、真っ向から受け止めるか。ペルシャの雑兵よりはマシらしい」
「あなた、は!」
「覚えておけ。戦闘技術があるからといって戦士たり得るわけではない。戦士たるとは、肉体と意思と魂の全ての問題だ!」
重い一撃をグレイはなんとか防ぐ。
冠位の魔術師、蒼崎橙子やヴォルデモートと対峙したときですら控えめだった警鐘が全力で自分を遠ざけようとしている。
戦士と言った。単に戦闘技術を修めた者ではなく、肉体、意思、魂の問題だと。ならば彼女の正体が何なのか。グレイにもその答えは現れる。
「
「はは!忠告がちょっと遅いだろお前の師匠!」
横凪の一閃をグレイは飛んで女性の攻撃を回避しつつ、アッドで女性の魔力を吸い取る。それを見て女性はにやりと笑みを深くした。
「面白い芸当をするな。今の私からしたら天敵のような能力だが、規模が小さい。そこらの亡霊ぐらいなら今のだけで消滅するだろうがな。師匠は愚図でも弟子は悪くない。こんな出会いじゃなければ手元で育てたくなるが、これもまあ一興だろう。褒美としていいものを見せてやろう」
そう言って女性は一度瞼を閉じると、左目をグレイに向けた。その瞬間、グレイの肉体が動かなくなる。
動きはなかった。ただ彼女はグレイを見ただけ。余計な動作も生じぬ
「お前達は強制のノウブルカラーと呼ぶのだったか。この場に似合いの決着だろう」
「…お前!」
『おいおいおいおいグレイ!マジかマジか!ちょっとお前!』
珍しく動揺したアッドの声と同時に、アッドの鎌がエルメロイII世の肩を切り裂く。ネクタイピンに込められた盾の魔法すらも容易く切り裂き、エルメロイII世の肩から血が吹き出す。
「師匠!」
『この野郎…っ!』
「ほう、その鎌の力か?あとはそのピンに込められた魔法か。悪くないな。強度は軟弱だが、攻撃を自動で判別して展開する盾か。なら仕方あるまい。お前達が自分らで決着できる程度にはマシであることを望んでいたのだが…」
「させ、ない!」
魔眼の強制を断ち切るようにグレイはアッドを振り上げる。しかし、女性は興味なさげに下がると、剣を振り上げた。
「いや、もう遅い」
剣が指し示す先には、影。
上空に現れた影を見て、これがアッドの内側に秘された聖槍と同じ類のものだとグレイは本能的に察知した。
そしてエルメロイII世もかつて共に駆けた彼の王が操った戦車と全くの同一のものであることを理解した。戦車を引いているのが骨竜であるという違いはあるが、戦車は全く同じものだと確信した。
「刮目せよ暗黒時代の遺物共!我が名はヘファイスティオン!史上最も偉大なる征服王、イスカンダル第一の腹心なり!」
ヘファイスティオンが召喚された戦車に乗り込むと同時に、エルメロイII世に向けて雷が落ちる。グレイが咄嗟にエルメロイII世を抱き寄せたことで事なきを得たが、ヘファイスティオンの突撃は止まらない。止められるはずもない。もしも手段があるとしたら、一つだけ。魔力をアッドに集中させる。
「
「駄目だグレイ!こんな不安定な足場で使えばこっちもただではすまない。向こうは真名解放すらしてないんだ」
「でも!」
この足場ではまともに回避もできない。あの戦車の面積では迎撃以外の手段がない。魔法で防ぐ術もない。
それはエルメロイII世もわかっている。ナイフを取り出すと、一歩前に踏み出した。
「自殺か!」
「まさか」
「ほう?威勢はいいな!ならばこれはどうだ⁈」
ヘファイスティオンは戦車に乗りながら剣を振り上げる。空から雷が降り注ぎ、エルメロイII世に襲いかかってきた。
「っ⁈」
咄嗟にエルメロイII世はナイフで切った髪をばら撒き、避雷針として雷を受け流す。流れを逸らすことで僅かにかすった程度だが、これほどの規模となると掠っただけでもダメージが大きい。
「ぐっ⁈」
「師匠!」
「ここまでだな!」
既に目の前には骨竜と戦車。先程の奥の手も一回しか通用しない。
当たる。そう直感した瞬間、グレイの頭上から
「何っ⁈」
「アクシオ!」
突如、グレイとエルメロイII世の体が背後に引き寄せられる。
「先生!グレイさん!」
引き寄せられた二人の体はハッチから顔を出していたカウレスが受け止め、そのまま貨物車両の内部に戻った。
「よく来てくれたカウレス。それに、
エルメロイII世の言葉に、壊れかけの原始電池を手に持つカウレスと、アカシアの木でできた杖を持つセバスチャンは苦笑しながら頷く。
「慌てましたよ。さっきから雷の魔力を感じて、様子を見に来たら先生がバケモノみたいな戦車と向き合ってるんですから」
「僕もカウレス君と同じ感じです。ちょっと用事があって後方車両にいたんですけど、そしたら雷がどっかんどっかん落ちてるから様子を見にきたんです」
カウレスとセバスチャンは安心したように笑う。カウレスは原始電池の魔術を学んでいたため、雷の魔力に敏感になっていたのだろう。セバスチャンはわからないが、あれだけ雷が落ちてきていたため何かしらトラブルの気配を感じていたのかもしれない。
「こちらもおかげで助かったが…手心を加えられていたのは間違いない。そうでなければ…あの程度では流せなかっただろう」
「髪を、避雷針にしたあれ…ですか?」
「髪は魔力を留めるにも儀式の触媒としても都合がいい。無数に礼装をつけたとしても意味はないが、奥の手を用意するくらいは…する。それよりも、ミスター・サロウ。君のあの魔法は…」
あの骨竜の軌道を逸らす魔法がなければ、引き寄せの魔法で引き寄せられていたとしても何かしらダメージが入っていた可能性は高い。ただあの雷の魔法…あれが何なのか。ただの雷の魔法ではない。真名解放をしていないとはいえ、宝具の進路を変えられるレベルの魔法など、現代で実現はほぼできない。
問いかけられたセバスチャンは杖をローブの内側にしまうと、肩をすくめた。
「先生ならなんとなくわかるんじゃないですか?」
「………」
「それより、さっきのは…」
セバスチャンの問いに、エルメロイII世は強く顔を顰める。
「…あれは…一体どうやって……私が見たこともない腹心が…?」
セバスチャンの問いに答えることなく、エルメロイII世は譫語のように呟く。同時に、力が抜けたようにぐらりと膝から崩れ落ちる。
「師匠!」
「他のスタッフには…隠しておけ…」
「先生!」
それだけ言って、エルメロイII世の意識は暗闇に落ちていった。
それから客室に戻ると、カウレスが予め招待していたオルガマリーがいた。重傷を負ったエルメロイII世を見て少し狼狽えていたが、最低限事情を理解したためすぐに大人しくなるあたり、君主の娘として育てられただけあるだろう。
カウレスはすぐに生体電流を応用した治癒力の増加を促し始めるが、カウレスの実力ではそこまで強い効果はない。セバスチャンが持ち込んでいたウィゲンウェルド薬を飲ませたり傷口に塗り込んでみているが、さすがにウィゲンウェルド薬の許容範囲を大きく超えていた。セバスチャンも治癒魔法はエピスキー程度しか習得していないため、エルメロイII世の治療には足りない。
それを見たオルガマリーはトリシャに持たされていたドルイドの霊薬をカウレスに渡す。非常に効果の高い霊薬であり、塗るだけで単純な外傷にも強い治癒効果がある。霊薬を使ってセバスチャンが傷を塞ぎつつ、カウレスが電気魔術で自己治癒を促すことでなんとか峠を越すことはでき、それを確認したセバスチャンは去っていった。
その後、オルガマリーと最低限の情報交換をする。サーヴァントであるヘファイスティオン、過去と未来の定義、未来視における予測と測定。それらについて情報交換を終えると、アナウンスが入る。アナウンスは列車の進路が変更になり、
暖房も効かなくなってきたところで、グレイの視界に白い知らない人のようなものが入ってくるが、同時に部屋の扉がノックされる。来訪してきたのはイヴェットとカラボーだった。
イヴェットの感情視の魔眼で何か事情があることを隠せないことを悟ったカウレスはイヴェットとカラボーを室内に案内し、重体のエルメロイII世を見せた。
「せ、先生⁈どうしちゃったんですか!」
「事故みたいなものです」
「それって、トリシャさんを殺した犯人です?」
「わからない。それでそちらはどういう要件だ?」
来訪した以上、何かしら用事がある。まずはそれを聞こうとカウレスが切り込むと、イヴェットは振り返りながら答えた。
「列車が止まってるじゃない?このままだとオークションが遅れる…場合によっては開催そのものが危ういんじゃないかって周囲に呼びかけてるの。開催されないのはあたしにとっても他の人にとっても色々困ることがあるから。ね、カラボーさん」
「ああ。先に話したように、俺は魔眼をここで提供するつもりだった。来年まで待つことはできない。オークションがなくとも摘出は行うかもしれないが、不確定要素が多すぎる。このまま座したまま待つことはできん」
魔眼蒐集列車のスタッフは魔眼そのものにさほど興味はない。今のスタッフは主人が所蔵していた魔眼を自慢するためのオークションを続けているだけであり、主人がいなくなった今は続ける意味はない。ならばちょっとした不備でやめてしまう可能性も大いにある。だからこそこうしてカラボー達は動こうとしているのだという。
「そちらの事情は理解しました。ですが、どうやって対処を?」
「この森については知識がある。この森本体の腑海林はとある死徒が操っている。それ自体が思考し、捕食する一つの生物であり、上級死徒が操る固有結界とも言われている。五十年に一度姿を現し、人を糧にしてその深奥にとある実を熟するのだとも言う。この実には不老不死伝説などという眉唾なものがあるのだとか」
「じゃあ、腑海林の仔は…その実が元に?」
「察しがいいな。その通りだ。どうやらこの仔は氷雪という進化を辿ったらしい。それで、腑海林の仔からの脱出だが…車掌曰く霊脈のポイントを見つければすぐにでも動き出せるらしい。この森の魔術的作用で霊脈を失っているならば、直に歩いて霊脈のポイントを見つけ出し、道標を打ち込む。これで脱出が叶うそうだ」
「どうする?協力してくれる?」
イヴェットの問いかけにグレイは頷く。この冷気に長く晒されてしまうと、エルメロイII世も長くもたない。そう判断したからこその即断即決だった。
『イッヒヒヒヒ!どうやら、やれることぐらいは見つかったみたいだな!』
アッドの囁きに小さく頷いたグレイは杖を手に取る。イヴェットも同様に杖を抜くと、全員に防寒魔法をかけた。
「では、向かうとしよう。準備はいいかね」
「あ、待ってくれ。グレイさん、これ」
カウレスはグレイに袋を手渡す。中にはウィゲンウェルド薬が数本入っていた。
「セバスチャンさんからもらったものだ。先生の治療用にって言われていたけど、先生の傷の具合的に許容範囲を超えてる。それに、今はパナケアもあるからね。余った分は好きにしていいって言われてるから、グレイさんに渡しておくよ」
「ありがとうございます」
カウレスの言葉でグレイは一つ思いついたことをイヴェットに提案した。
「イヴェットさん。セバスチャンさんにお声がけはしましたか?」
先の一件でセバスチャンの戦闘能力はある程度あることはわかっている。腑海林の仔がどれほどのものかはわからないが、ある程度腕が立つ者でないと足手纏いになるだろう。しかしセバスチャンならば力になってくれるだろうと考え、グレイはセバスチャンのことを提案した。
だがイヴェットは首を横に振る。
「それがいないのよ。一応部屋にも尋ねてみたんだけど姿がなくて。どこにもいないし時間もないから声はかけてない」
「そう、ですか」
この広くない車内でどこに行ったのだろうとグレイは考えるが、答えを探す余裕はない。カウレスに渡された袋をローブの内側にしまうと、カウレスに目を向けた。
「行ってきます」
「気をつけて。最後にイヴェット」
「んー?」
急に話しかけられたイヴェットは首を傾げる。
「トリシャさんが殺された時、何か気になる感情の動き方をしていた人はいるか?焦っている人とか…」
「オルガマリーを除くのよね?なら特にいなかったかな。ああでも…気になる感情の動きの人はいたよ」
「それは?」
「トリシャさんの魔眼が予測の未来視だって言われた時、驚きと喜びの感情をしてる人。あの魔法省から来たヤックスリーさん」
ヤックスリーが何故喜びの感情を浮かべたのか。もしかしたらエルメロイII世が前に言ったように、彼は未来視の魔眼を探して魔眼蒐集列車に来たのかもしれないとグレイは考えた。
「話は終わったか?」
カラボーが黒鍵の柄を手に取りながら問いかけてくる。カラボーの問いにカウレスが頷くと、カラボー、イヴェット、グレイは腑海林の仔へと足を踏み入れた。
腑海林の仔は雪原と化しており、強い冷気に覆われていた。イヴェットの防寒魔法がなければ、身体機能も落ちてしまうほどだった。
白い息を吐きながら少し歩くと、男性が倒れていた。手には、魔眼蒐集列車の招待状を握っている。
「君、大丈夫かね」
カラボーに声をかけられて男性はむくりと起き上がる。全体的に色素の薄い整った顔立ちの男性だった。
「オゲーーーー!」
いきなり吐血した。
まさかそうなるとは思っていなかったグレイとイヴェットは固まってしまう。
「君!」
カラボーが慌てて容体を見ようとしたところ、男性は吐血したとは思えないほど爽やかに笑ってカラボーを手で制した。
「いや大丈夫大丈夫!増血剤打ってきてるし吐血には慣れているから!」
「………え?」
一瞬で混沌と化した状況にグレイはフリーズしかけていた。ただこのままここでは話をすることもできないため、出発して間もないが一度引き返すこととした。グレイが男性に肩を貸して立ち上がらせ、列車へと向かう。その間に男性のクズすぎる女性観を聞かされイヴェットと共にクズ判定しながらも吐血する男性を列車まで引き摺る。
「いやあすまないね。どうにも寒くて体がさっぱり動かなくて…」
「いえ」
「君は…ウェイバーが連れてきた内弟子?」
「拙をご存知ですか」
「もちろん。私はウェイバーの親友だからね」
ウェイバー。その名はエルメロイII世の本名であり、ダンブルドアもウェイバーの名でエルメロイII世のことを呼んでいたことをグレイは思い出す。
「あなたは?」
「ああ、名乗ってなかったね。私はメルおぼろろろろぉおおおお!」
肩を貸しながら歩く人物がいきなり吐血すれば、さすがに驚く。幸い吐血した血がグレイの服につくことはなかったが、あまり落ち着いて話が出来なさそうだと考え、列車でちゃんと話を聞こうとグレイは考えた。
そうして歩いていると、列車の姿が見える。出た時は中間くらいの車両だったはずだが、見えてきたのは後部の車両だった。
「腑海林の仔は常に流動する地形みたいなものだ。何らかの方法で地形を操作している可能性が高いな」
カラボーの解説を聞きながらグレイ達は車両に足を踏み入れる。すぐに男性を暖めるためにラウンジへ向かおうとグレイが車両の扉を開くと、その光景に思わず絶句した。
「………え?」
そこにあったのは、トリシャと同じように首がなくなった胴体だった。
「…魔眼蒐集列車は、随分と面白いことがおこる列車みたいだね?」
肩を借りながら呟いた男性の言葉すら、グレイの頭には入ってこなかった。
「またか…どうなっている」
グレイの背後から重々しく呟かれたカラボーの言葉でグレイはようやく我に帰る。トリシャに続き、またもや首なしの死体が現れるなど誰が予想できただろうか。しかもエルメロイII世が重体の最中に起こるなど、グレイとしては頭を抱えたくなるような事態の連続だった。
ひとまずスタッフから呼びかけて乗客を集める。車掌は腑海林の仔への対応でいないが、オークショナーが代わりに現場へと現れる。一通り揃ったようだが、一人だけ姿が見えない。
「まず…今回のこの死体は、ルックウッド氏で間違いないだろうか」
カラボーの問いかけに、ルックウッドを同行者として呼んだヤックスリーは重々しく頷いた。
「…間違いないだろう。服装も杖も…ルックウッドの物だ。昨夜から別れていて…一度合流しようと探していたが見つからなかった…まさかこんなことに…」
「トリシャさんに続き、ルックウッド氏もか…どうなっているんだ」
殺されたのはルックウッドだった。少し前から姿が見えずヤックスリーが探していたが、見つからずにいたらしい。
「誰か、昨夜にルックウッドを見た者はいないか。多分、後部車両の方を彷徨いていたと思うんだが」
「昨夜ではありませんが、昨日の夕方に後部車両でお会いしました」
ヤックスリーの問いかけにグレイが答える。
「夕方か。俺とルックウッドが別れた直後くらいだろう。何をしていた」
「いえ…ただ見かけただけで」
「違う。お前達が何をしていたのか聞いているんだ」
ヤックスリーがやや鋭い剣幕でグレイを見る。その手には杖を握っており、何か一つきっかけでもあればグレイに向けて杖を振り上げそうな剣幕だった。身を守るためにグレイは袖の内側にある杖をいつでも取り出せるように手のひらまで落とす。
「答えろ。何をしていた。それとも…お前がルックウッドをやった犯人か?」
「違…!」
「それを聞くならさ、ルックウッドさんとあなたは何をしていたんだい?」
突如、二人の会話にセバスチャンが割って入った。
「あなたはルックウッドさんと別れたと言っていた。つまり別行動をしていた。それだけならいいけど、あなたはルックウッドさんが後部車両の方にいたことを知っていた。つまりルックウッドさんが何をしていたか知っているんですよね?」
セバスチャンの言葉にヤックスリーは苛立ちを隠さない声色で吐き捨てるように言った。
「黙っていろ。高貴なるスリザリンのローブを着ているとはいえ、これ以上口出ししたらただではおかない」
「トリシャさんの時、自分が殺人犯扱いされた時にやたら怒っていたけど、今度は自分が同じことするんだ。ならここで僕があなたを昏倒させても文句は言えませんよね」
「……ちっ!」
旗色が悪いと見たヤックスリーは苛立たしげにソファに腰掛ける。冷静に話が出来なさそうだと判断したカラボーは、場を引き継ぐようにグレイに問いかけてきた、
「ルックウッド氏と会った時、何か会話はしたかね」
「いえ…特には。挨拶程度で…」
本当は少しだけ会話をしたが、グレイ達の事情もある。下手に喋るのは良くないのではと考えたグレイはそう言って内容を濁した。過去視を持つカラボーにはエルメロイII世とルックウッドの会話が浮かんできていたが、確かにグレイが言うように挨拶程度となんら変わらない内容だった。
「なるほど…」
「あのーごめん。今回のももちろんだけど、トリシャさんの件ってのは?」
そこで先程雪原で拾ってきた男性が気さくな声で問いかけてくる。場違いすぎる雰囲気に少しだけ辟易しながらも、カラボーは男性の問いかけに答える。
「こちらもわからないことが多い。端的に言えば、似たような死体が既に一体出ているのだ」
「首なし死体がもう一体いたのかい⁈そうか〜それはなかなか面白い事態になってたんだねぇ!もう少し早くくればよかったよ」
あまりにも場違いすぎる言葉を言う男性にグレイは辟易としつつ、隣にいたイヴェットに問いかけた。
「この方、どなたですか?」
「メルヴィン・ウェインズ。時計塔三大貴族に連なる名家の出よ。体が弱いとかで調律師をやってる変わり種。先生とは古い友人だと聞いてるわ。イギリスの調律師としては折り紙つきだったはずよ」
どうしてそんな人が、とグレイが考えていると、メルヴィンが簡単にここまでの経緯を話し始める。本人曰く、魔眼蒐集列車にヘリで向かっている最中に腑海林の仔に襲われてあそこで遭難しかけていたらしい。
「オークショナー、列車の状況は?」
「いまだに霊脈を見つけられていない状況です。当列車で対処を進めていますが、想定よりも状況が複雑です。脱出には、少々ご助力をいただきたく存じます」
「…余裕は無さそうだな。ヤックスリー氏、同行者を亡くした状況だが列車の状況は芳しく無い。検死はするが、先程より時間は取れない」
「…ふん」
不服そうだが、ヤックスリーとしてもオークションが始まらないのは困る。肯定とも否定とも取れないような反応だが、異論はないらしい。そう判断したカラボーは手短に検死を済ませる。
(死因は頭部切断によるショック死なのは変わらないか。死亡推定時刻も、ここ数時間以内。争った形跡もなく、切り取られた頭部もない。トリシャさんと同じやり口か?だが…
カラボーの魔眼に映ったものが先程と比較して異質すぎるためか、思わず口をつぐんでしまう。だが共に検死をしていたヤックスリーがカラボーに問いかけてきた。
「聖堂教会。何かその魔眼で見えたか?」
「いいや。だが先程とは様子が違う。首が落ちた瞬間の映像が
「存在しない?」
カラボーの言葉にヤックスリー含めて、その場にいた全員が眉を顰めた。
「トリシャさんの時とは違い、曖昧ではなく存在しない…プロテクトの練度が上がった?いやそんな次元ではない。そもそも観測できないような…そんな感覚だ」
「…どういうことだ?」
「わからん。ヤックスリー氏、ルックウッド氏は魔眼を持っていたりしたかね?トリシャさんは未来視の魔眼を持っていた。それが殺害理由の可能性がある以上、ルックウッド氏の方もその可能性がないか確認したい」
「違う。ルックウッドは魔眼を持っていない」
「…ならば、違う理由か?だがここで考えても答えは出そうにないな」
ルックウッドが魔眼持ちではないとすると、ルックウッドとトリシャの殺害理由は別のものになる。しかし情報がない以上、これ以上考えても答えは出そうにない。探偵でもいればまた別だったかもしれないが、生憎今はいない。まずは列車そのものを元に戻すことが先決だと考え、カラボーは立ち上がった。
「すまないが、一旦ここまででいいかね。まずは列車の運行を通常に戻すことが先決だ」
「…ちっ、好きにしろ」
ヤックスリーは納得いっていない雰囲気だったが、カラボーとしてはそれに構っている余裕はない。
カラボーは立ち上がると、イヴェット、グレイに目を向ける。
「現状、わかることがない。俺の魔眼も役に立たなかった。そうなると、今やるべきことは、まず列車を通常通り運行できるようにすることだ。イヴェットさん、グレイさん。行けるかな」
「もちろんでーす!」
「問題ありません」
カラボーの言葉にイヴェットとグレイは頷く。
「ヘリから這いずってきた彼…メルヴィン君がすぐ近くで倒れていたのなら、外部までの距離はさほどではないだろう」
「お、そちらは行くのかい?こっちも面白そうだけど、今はそちらに協力させてもらえないかい?きっと役に立てるよ」
カラボーの言葉に反応したメルヴィンが楽しそうに手を上げる。あまりにも場違いな声音だが、それにいちいち突っかかるような人物はいなかった。ヤックスリーもさすがに突っかかるだけの気力はないらしく、顔色を悪くしたままスタッフにルックウッドの遺体を任せて去っていった。
*
グレイ達が腑海林の仔に向かっていき、霊脈に対して直接道標を打ち込んでいる最中、ヤックスリーは青い顔をしながら誰かと話をしていた。
『ヤックスリー、首尾はどうだ』
机に置かれた鏡から見える蛇のような目に睨まれながら、ヤックスリーは口を開く。
「ルックウッドが…殺されました」
『ヤックスリー、俺様は首尾はどうだと聞いたのだが?ルックウッドのことなど聞いてはいない』
どことなく苛立ちが込められた声に、ヤックスリーは怯えたように目を伏せた。
「…ご、ご報告します。首尾についてですが…お求めの物が魔眼蒐集列車にあることは、確認いたしました」
『ほう。あの
「左様でございます」
『では、あとは競り落とすだけだ。マルフォイの資産を好きに使って、なんとしてでも競り落とせ』
話は終わりだとでも言うように、男…ヴォルデモートが立ち去ろうとした瞬間、ヤックスリーはヴォルデモートを呼び止める。
「お、お待ちください我が君。確かに物は存在しましたが…オークションの商品ではなかったのです」
『ほう?どういうことだ?』
ヤックスリーは事の経緯をヴォルデモートに説明する。目的のものは確かに魔眼蒐集列車にあった。だがそれは出品物ではなく、別の形で列車にあったのだ。
『…なるほどな。出品物ではないが、確かに魔眼蒐集列車にはある。嘘はついていないな。俺様を謀ったことは万死に値するが…もう死んでいる者は殺せん。俺様への最期の抵抗だが、あまりにも矮小だ。それで?現物はどうした。既に魔眼の持ち主が亡き者になっていて、出品物でないのなら強奪すればよかろう』
「…ま、魔眼は……頭部ごと隠されており…現在、その捜索を行なっています。その過程でルックウッドが…」
『早急に見つけ出せ。オークションが終わるまでは待ってやる。それを過ぎたら、お前にも罰を与える』
この罰が碌なものではないことくらい、ヤックスリーにもわかる。最悪の場合、殺されてもおかしくない。自らの身の危険を感じ冷や汗を流しながら、ヤックスリーは頷いた。
「仰せのままに、我が君。して、魔眼を確保した後は如何なさいますか?」
『保管しろ。俺様といえど、移植は簡単にはできん。魔眼蒐集列車ならば移植が可能らしいな?奴らが大人しく移植を行うのであれば、俺様に移植させる。断ることは考えにくいが…死徒などという不完全な連中の領域に居座り続ける偏屈者の集まりだ。殺されてもやらん可能性がある。その場合は活用方法を俺様自ら探る』
「承知いたしました、我が君」
ヴォルデモートは魔法使いとしてダンブルドアと並び立つほどの存在。仮に魔眼を移植できなくとも、魔眼の力を使う方法を開発できる可能性は十分ある。
「最後に、一つよろしいでしょうか」
『なんだ、まだあるのか。手短に話せ』
ヤックスリーの問いかけに、ヴォルデモートは面倒くさそうに応える。だがヤックスリーの言葉を聞いて態度を変えた。
「先日我が君と一悶着あったという、時計塔の君主…ロード・エルメロイとその従者が乗車しています。この者達は如何なさいますか」
『何?ロード・エルメロイII世とグレイか?』
「ええはい。もう一人カウレスとかいう従者もいますが…」
『ヤックスリー、グレイ…灰色の髪をした女は確かに乗車しているのだな?』
急に前のめりな態度で聞いてくるヴォルデモートに困惑しつつ、ヤックスリーは頷く。あの灰色の少女の名は確かにグレイだった。そしてヴォルデモートと直接戦ったのも、グレイという少女だったとヤックスリーは聞いていた。
「ええ、間違いありません」
『……わかった。ヤックスリーよ、お前への指令を一つ追加する』
「は…」
苛立たしげな態度が一変、深く笑みを浮かべるようになったヴォルデモートに、ヤックスリーは困惑を隠せない。グレイがいるだけで何故ここまで態度が一変したのか全くわからないからだ。
『お前への指令、一つ目は変わらん。予測でも測定でも、失われた予言の代わりとなる
ヤックスリーはヴォルデモートの指令で、未来視の魔眼を求めて魔眼蒐集列車に乗車していた。予言は局所的な未来測定。神秘部の戦いでそれが失われたため、代替となる未来視の魔眼を手に入れることをヴォルデモートから仰せ付かった。未来を知ることでより戦況を有利に進め、イギリス魔法界を手に入れるための道具として使うことを目的としていた。それこそかつてのゲラート・グリンデルバルドを超え、ゆくゆくは全世界を手に入れることも目論んでいる。
そのためにヤックスリーを遣わせたが、想定外の会合があり、ヤックスリーへの指令を急遽追加することになった。
『そして二つ目は、グレイという少女を捕えろ。手段は問わん。だが決して殺すな。あの娘が有する神秘は俺様への利用価値が高い』
「あの少女をですか?それは一体どういうことで…」
『お前に説明するつもりはない。どれほど痛めつけても構わんが、決して殺すな。殺した場合、お前の命も無いと思え』
「しょ、承知いたしました…では、ロード・エルメロイも?」
『そちらはいらん。ロード・エルメロイII世は好きにしろ。ロードと名乗っているが、あれ自体は全く脅威にならん。いてもいなくても変わらん程度だ。殺そうが生かそうがどうでもいい。重要なのはグレイだけだ』
何故あの少女へここまでの興味を示すのか、ヤックスリーにはわからない。だがここまで釘を刺された以上、やり遂げなければ己の命はない。
その事実をより強く実感しながら、ヤックスリーは両面鏡の向こうで楽しげに笑うヴォルデモートを見て、その悍ましい笑い方に冷や汗が流れるのを実感するのだった。
Q.調律師ってこの世界だとどういう立ち位置なの?
A.通常とあまり変わりありません。型月では魔術刻印を持ってる人専門の役職ですが、本作では魔術刻印が無い人の魔力循環効率を上げたりすることができるため、通常の魔法使いも時折依頼することがあるそうです。ただ一般魔法界だとそこまで重要視されていません。自分の子供がスクイブであることを認めたく無い人が依頼してくる人が多いとか。
杖設定
マシュ・キリエライト
木材:ナシ
芯材:不死鳥の尾羽
ナシの木は思いやりがあり、おおらかで賢明な所有者の手に渡ると最高の力を発揮する。また、ナシの杖の持ち主は人望が厚く、広く尊敬を集める人物だと言われてんおり、闇の魔法使いが所有者になった例を一度たりとも見たことがないとオリバンダーは述べ、マシュはその性質に当てはまる。思いやりがあり、高潔な精神を持つマシュはナシの木以外の杖に選ばれることは少ない。
ロード・エルメロイII世
重体。セバスチャンの魔法がどういうものかをなんとなく理解しているが、それ以上の衝撃があったせいで推理を披露する前に倒れた。ヘファイスティオンとの人間的相性は悪い。
グレイ
生身でサーヴァントとやり合う人間辞めてる少女。戦闘はできるけど治療や調査、探索系統の魔術はからきし。最低限教えてもらったが、扱いのレベルは
カウレス・フォルウェッジ
電気魔術を学び始めて数ヶ月程度だが、メキメキ腕前が上がってる。おかげでヘファイスティオンの落雷にも気づいたし、電気を応用した治癒魔術でエルメロイII世の命を繋いだ地味にすごい人。
セバスチャン・サロウ
特異的な魔法が使える謎の少年。彼が使った魔法は宝具相手にも対抗でき得る凄まじいものであり、エルメロイII世も通常の雷の魔法とは根本から異なることまではわかっているが、それ以上のことは不明。持ち込んだウィゲンウェルド薬は彼が調合したもので、特異的な魔力が込められていることで肉体だけでなく魔力の回復も促進させるが、当然限度がある。
カラボー・フランプトン
ルックウッドの現場とトリシャの現場で見え方が全く異なるため、前回と今回で犯人が違うのではないかと考えているが、確証がない。
コーバン・ヤックスリー
ルックウッドが殺されたことで次は自分なのではとビビり散らかしている上に、どこかのお辞儀を強要してくる人にパワハラされて胃へのダメージがマッハ。
オーガスタス・ルックウッド
死亡。死因は頭部切断によるショック死。
ヴォルデモート
予言を欲しがる、予言を信じて赤ん坊のハリーを殺そうとするなど、結構未来を知りたがる傾向の持ち主。神秘部の戦いでハリーに関する予言が失われてしまったため、代替品として未来視の魔眼を求める。そのために寿命が尽きかけていたカッサンドラ・トレローニーのもとを訪れ、『魔眼蒐集列車に未来視の魔眼がある』との予言を受ける。カッサンドラ自身はヴォルデモートが殺す前に寿命で亡くなるが、その言葉を信じてヤックスリーを派遣した。想定していた在り方とは違ったが求めていた魔眼があること、非常に希少な神秘を持つグレイがいることでテンションが上がってしまう。お辞儀をするのだグレイ。