ホグワーツ教師 ロード・エルメロイII世   作:木材

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魔眼蒐集列車4話目


(待っていた方がいるかはともかく)お待たせいたしました。
せっかく書いたファイルがアバダ・ケダブラされて不貞寝してました。
おのれお辞儀様許すまじ。


File.14

「はぁぁ…」

 

 安心感のあまり、グレイは大きなため息を吐いた。

 霊脈のポイントを示しにいく作業をカラボー、イヴェット、メルヴィンと共にこなしているうちに、腑海林(アインナッシュ)の仔に襲われて、雪原に取り残されてしまった。その際にヘファイスティオンに助けられるという不可思議なこともあったが、発車し始めていた魔眼蒐集列車へとどうにか追い付き、合流することができたからだ。この時にアッドをスノーボードにすることで追いつくことができたが、アッドには後で散々文句を言われるだろうなとグレイは少しだけ内心で苦笑した。

 

「本当に無事でよかったよ、グレイさん」

「…色々と、幸運に助けられました」

 

 この『色々』にはやや複雑な事情がある。あのヘファイスティオンと名乗る女性が『戦士である君は戦場で死ぬべきだ』と言って助けた。ただこれを説明するとなると、どこから説明するかがグレイにはまだ整理できていない。故に言葉を濁した。

 

「師匠は?」

「まだ目覚めていない。とりあえず、様子を見に行こうか」

「はい」

 

 そう言って差し出された手を取り立ち上がると同時に、車両の扉が開く。そこには友禅の振袖を着こなす美しい女性…化野菱理がいた。

 

「あら…誰かまた乗ってきたようだと感じて念の為見にきてよかったですわ」

「化野菱理…どういうご用で?」

「皆様にロビー車両へ集まってもらってます。お二人も」

 

 どういうことだとグレイは眉を顰める。

 

「どういうつもりなんです?」

「仕方ないでしょう?私の柄ではありませんが、いつもの方が眠っているのですから、私が探偵の真似事をするしかありません。皆様揃っていなければ、犯人を突き止めるわけにはいきませんもの」

 

 口調から察するに、菱理は今回の事件の犯人がわかったらしい。犯人が判明したのなら、ヘファイスティオンとの関連も何かしらわかるかもしれない。聞いておいた方が良さそうだとグレイはカウレスに目を向け、カウレスも同じように考えていたため頷く。

 

「わかりました」

「では、こちらへ。皆様には既にお集まりいただいてますわ」

 

 菱理に続いてロビー車両へと向かう。道中、カウレスはエルメロイII世の様子を見にいくため一度部屋へ戻り、グレイだけ菱理に続いてロビー車両へと足を踏み入れた。

 

 菱理が言うように、ロビー車両には既にグレイとカウレス、そしてエルメロイII世以外の全員が集まっていた。

 ロビー車両に入ると、イヴェットやカラボーが歩み寄ってくる。二人ともグレイの無事を喜ぶような言葉を口にしてくれた(内弟子の空席云々について言われたが、グレイは気にしないようにした)。オルガマリーはまだ表情が硬く、態度も冷たい。しかし最低限人前に出られるくらいには回復したのだとグレイは少しだけほっとする。さらに車両のデスクで果物を食べているセバスチャンの姿もある。セバスチャンはグレイに気づくとヒラヒラと手を振ってきた。

 

 ふと、グレイの視界に入った人物が目に留まる。その人物…ヤックスリーはオルガマリーとは逆に、非常に顔色が悪かった。ここ数時間でやつれたようにも見えるほどだったが、ヤックスリーはグレイの姿を見ると()()()()()()()()()()()()。まるで久々に呼吸をしたかのような態度がグレイは気になったが、その思考を遮るように菱理が話始める。

 

「皆様、お集まりいただきありがとうございます。お揃いのようですので、始めさせていただきますね」

「要件は?」

「どなたかがだらしなく眠っているようですから、私が探偵の真似事をしようかと。魔眼蒐集列車としても、オークション前に事件が一通り片付いている方が有益でしょう」

 

 菱理の言葉にカラボーとイヴェットが席を立とうとする。魔術師であるイヴェットにとって殺し合いは日常茶飯事であり、カラボーは聖堂教会の人間である以上、菱理に行動を縛られる理由はないからだ。

 だが魔眼蒐集列車の車掌およびオークショナーは菱理を支持する方針だった。さすがに列車の方針とあらばカラボーとイヴェットも無視するわけにはいかない。二人はおとなしく元の席につき、菱理の話に耳を傾ける。

 

「では今回の事件について、法政科の立場から進言させていただきたく思います」

 

 まず菱理は前提条件として『7年前に同じ手口の連続殺人事件があり、聖堂教会と魔法省の介入があった』というものを提示した。そしてその当時、聖堂教会から派遣された調査員がカラボーだと言う。

 

「何故、そのことを言わなかったのですか?」

「過去の事件について無駄に情報を漏洩することは守秘義務に反する。当然だろう」

「…もう少し話を進めましょう」

 

 今回の事件の奇妙な部分。それはカラボーの過去視で現場を見ることができないだけでなく、トリシャの未来視でも身を守れなかった点。過去からも未来からも見えない時間の特異点が存在していること。

 

「どうしてこのようになったのか。それは、犯行現場があそこではなかったからです」

「…そうか、なるほど。それはそうよね」

「魔眼の専門家なだけありますね。過去視、未来視…両者はあくまで時間軸を超越する()()のもの。いくら見ようとしたところで、現場でないのなら『見ること』はできないのです」

「…では、誰がトリシャとルックウッドを殺したんだ」

 

 ヤックスリーの問いかけに菱理は視線をオルガマリーに向ける。オルガマリーは一つの箱を取り出すと、そこからトリシャの生首を取り出した。

 

「失われていたトリシャ・フェローズの生首です」

「…どういうことだ?現場には残されていなかっただろう」

 

 ヤックスリーの言葉に菱理はゆるりと笑いながら続ける。

 

「彼女の首は虚数魔術で隠されていました。恐らく、自分自身で封印していたものだと思われます」

(虚数魔術…!空間そのものをポケットにして自分の首を隠していたか!くそ、見つからないわけだ)

 

 菱理の言葉にヤックスリーは内心で苦虫を噛み潰したような表情をする。ルックウッドと手分けして列車内部を極力隅々まで探したとしても、虚数魔術で隠されていたのならば見つかるはずがない。

 

(だが見つかったのは僥倖。あとはどう手に入れるかだが…)

 

 ヴォルデモートからの指令を達成するためにもあの首は必要。どうやって手に入れるか頭を回している間にも、菱理の話は続く。

 

「彼女は自分の首が落ちて死ぬ未来を見た。だから最低限できるだけのことをする必要があった。だから虚空にポケットをつくり、自分の首が入るようにしたんです。そして、オルガマリー様が虚空ポケットから首を取り出した時…まだトリシャ様の生首は死にきっていませんでした」

「どういうことだ?」

「虚数魔術の術式の内側では、時間の流れが止まります。ああ、起点となる扉が現実と物理的に繋がっている検知不可能拡大呪文は別ですが。虚数魔術のポケットに入った瞬間に首が死んでいなければ、虚数魔術から出ない限り死ぬことはありません。彼女は喉に残った最後の吐息でダイイングメッセージを残したんです。ほんの一単語(ワンフレーズ)ですが、彼女は何を言い残したと思います?」

 

 菱理は一呼吸あけると、一人の老人に目を向けた。

 

「カラボー、と呟いたんです」

「…俺、だと?」

「ええ。カラボー・フランプトン、あなたの魔眼は測定寄りの過去視じゃないんですか?」

 

 過去視は本来変えられないもの。故に、予測も測定もあってないようなものだが、それはあくまで通常の手段であればという前提。逆転時計のように非常に特異的な道具を用いなければ、過去の改変は不可能。

 そしてカラボーの魔眼は『過去(最初)』を見ることで、泡のように『現在(いま)』に浮かびあがらせることができるのではないかと考えたのだという。

 

「真の意味で始まりを見るには至らないでしょうが、あらかじめ設定しておいた過去の事象を特定のタイミングで認識して呼び起こさせる…そういう魔眼なのではありませんか?測定の過去視なら過去がそうであったと確定させてしまう…その魔眼は過去の事実を現代に甦らせてしまうのでしょう」

「…つまり、過去に起きた出来事を再現する魔眼ってこと?」

「概ねその通りかと」

 

 今回の場合、斬撃を記録して置いておき、後に魔眼の保持者が記録した斬撃を浮かび上がらせる。その斬撃の軌道上に首があれば、浮かび上がった斬撃により首が自然と落ちるという流れだと菱理は予想した。

 

「つまりこの事件は…」

「カラボー・フランプトン。あなたじゃないんですか」

「俺が、だと」

 

 カラボーは鋭い視線を菱理に向ける。しかし菱理は一切動じない。

 

「なら7年前の事件とやらも、ルックウッドもか?」

 

 ヤックスリーの問いかけに菱理は視線を向けることなく答える。

 

「あなたが7年前の殺人鬼で、今回の二つの事件の犯人だと断定しているわけじゃありません。そんな証拠はない。ですが、これだけの状況がそろえば、私たちがそれなりの措置を取る理由にはなるのでは?ねえ、カラボー・フランプトン。あなたの魔眼なら…首をはねてからずっと後に結果を押し付けるような所業もかなうのではありませんか?」

「私の過去視にそんな力は…」

 

 

 

「待って欲しい」

 

 

 

 ロビー車両に突如、違う声が響く。低く、どこか緊張感のある馴染み深い声を聞いて、グレイは思わずそちらに視線を向けた。

 そこには、車椅子に腰掛けたエルメロイII世の姿があった。

 

「師匠!」

「ウェイバー!」

 

 グレイとメルヴィンがエルメロイII世に駆け寄る。

 エルメロイII世は心配そうに覗き込んでくるグレイの頭を優しく撫でた。

 

「師匠、お身体は…」

「まだうまく歩けんが、こうして車椅子なら問題ない。差し支えあるようならわざわざ出てくることもない」

 

 そうは言っているが、やはり顔色はまだ悪い。万全には程遠いことくらいはグレイにもわかった。

 

「色々あったようだな」

「はい…でも、拙なんかより余程師匠が…」

「…サーヴァントに、腑海林の仔、虚数魔術に過去視…まったく、ダンブルドア教授の授業でもここまで詰め込んでくることはないだろうに」

 

 苦笑するエルメロイII世は心配そうな表情をするグレイの肩を優しく叩き、ほんの少しだけ引き寄せる。

 

「グレイ、色々聞きたいことはあるだろうが…例の件(サーヴァント)についてはあとで話そう」

 

 エルメロイII世はグレイの耳元に顔を近づけて小声で言う。確かにここで話すべきことではないとグレイも判断し、頷いた。

 エルメロイII世も頷くと、駆け寄ってきたメルヴィンに目を向けた。

 

「しかし…メルヴィンまでいるとは」

「親友のピンチに駆けつけるのは当然のことさ!」

「親友なんてお前が勝手に言っているだけだ。とりあえず後で色々話してやるから、今は黙っていろ」

 

 そうメルヴィンを切り捨てると、エルメロイII世は菱理に目を向けた。

 

「ようやくお目覚めのようですね。その様子だと、どこかから聞いてらしたのですか?」

「聞こえたのは『斬撃を浮かび上がらせる』あたりのところからだよ。だがそれだけ聞けばおおよそ推測がつく」

 

 エルメロイII世は一呼吸置くと、菱理を真っ直ぐ見据えた。

 

「ミス化野。今の話には、四点ほど問題がある」

「早速、名推理を聞かせてくださるのですね」

「一つ、カラボー氏の魔眼にそんな力があるかどうか。二つ、仮に能力があったとして、他の者にもトリシャさんの殺害ができないとは限るまい。三つ、トリシャさんの殺害方法がミス化野の言う通りだったとして、ミスタールックウッドが同じ手法で殺害されたという確証はない。四つ、今の推理には動機がない」

 

 魔法使いと対立関係にある聖堂教会だが、ここでわざわざトリシャを狙い撃ちにして殺害する動機がない。そしてそれはルックウッド相手も同様。他者を追い詰める理由としてはあまりにも不完全すぎる理論だとエルメロイII世は告げる。

 

「お得意のホワイダニットですか。確かに理由はわかりませんし、他の魔法使いにも似たようなことはできるのかもしれません。ですがダイイングメッセージはどう説明されるのですか?どうしても理由が必要というのなら、魔眼が暴走したとかそのあたりの可能性もあるのでは?7年前の殺人鬼を見るうちに魔眼に引っ張られ自分と同一視し、同じ手法を取ったとか」

 

 しかし菱理は余裕を崩すことはない。ダイイングメッセージがあるという点や、法政科としての立場もあり、菱理はカラボーを拘束するという方針を崩そうとはしなかった。

 

「それに、一つ目の疑問については答えてもらえば良いのですから」

「…俺の魔眼にそんな力はない」

「あら、そうですか。でもあなたが()()()()()()()()()()という可能もあるでしょう。あなた自身ができなくとも、魔眼の能力として可能かどうかは…魔眼蒐集列車に答えてもらいましょう」

 

 

 

『ええ、その魔眼ならば可能です』

 

 

 

 突如、知らない声が響く。

 現れたのは、白い姿の人物。

 

(あの人は…!)

 

 グレイの視界には何度か映り込んでいたが、他の人には見えていなかった人物だった。しかし今回は全員に見えている。魔眼蒐集列車の関係者以外の全員が驚いたように目を見開いていた。

 

『刻限となりましたので、オークション前にいただきに参りました』

 

 白い人物はカラボーを見つめ、淡々と告げる。

 

「刻限…?」

『スタッフから説明があったはずです。オークションの半日前に、摘出を行うと』

「だ、だが待て!今は…」

 

 カラボーが言い終わらないうちに白い人物はカラボーの目に手を添える。そして指がカラボーの顔に沈み込み、カラボーの眼球をするりと抜き取った。抜き取られたカラボーは眼孔を抑え、倒れ伏す。

 

「支配人代行」

 

 オークショナーが白い人物…支配人代行に容器を差し出す。支配人代行は抜き取った眼球を容器に納め、そのまま姿を消した。

 

「今のが摘出…」

「皆様もご存知の通り、魔眼の取り扱いにおいて魔眼蒐集列車は随一の技術を持っております。我々でも移植はできますが、摘出は支配人代行のみが為せる絶技です」

 

 そう説明したオークショナーは魔眼の入った容器を見つめ、感動したように口を振るわせた。

 

「おお、おお…これは素晴らしい。カラボー様に自覚はなかったようですが、これは宝石の位階に位置します。我らがオークションの目玉商品に相応しい。とっくに終わったはずの過去の影を泡のように浮かび上がらせる…泡影の魔眼とでも名付けましょうか」

 

 感動するオークショナーを他所に、菱理はゆるりと笑った。

 

「どうやら一先ず解決したようです。皆様の貴重なお時間を奪い、大変失礼いたしました。どうぞ魔眼蒐集列車での快適な旅を続けられますよう」

 

 それだけ言って菱理は去り、他の乗客も去っていった。眼球を失い気を失ったカラボーはスタッフにより拘束され、空き部屋へと隔離させる。

 残されたグレイ、エルメロイII世、メルヴィンはカラボーが隔離されている部屋へと向かった。メルヴィンへの状況説明や、法政科である菱理がわざわざ犯人探しをした謎、グレイとエルメロイII世が遭遇したサーヴァントであるヘファイスティオンと名乗る女性。

 ヘファイスティオンは史実であれば男性。女性であったあのサーヴァントがイスカンダルの母であるオリュンピアスであればまだ納得できる。だがエルメロイII世は彼女を『王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)』で見た覚えがなかった。第一の腹心であるヘファイスティオンが王の軍勢にいないとは考えにくい。だが彼女はイスカンダルの宝具である『神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)』を使っていた。イスカンダルの宝具を使えるのは『彼もまたイスカンダルなのだから』という逸話があるヘファイスティオンくらいだろう。

 

 状況について整理し、謎が深まるばかりの状況。これらについて説明が終わったところで、カラボーが目を覚ます。

 

「う…」

「カラボー・フランプトン。申し訳ありませんが拘束させていただいています。法政科…ミス化野の命ですので」

「ああ、その声はロード・エルメロイかね」

「弟子のグレイと、一応友人のメルヴィン・ウェインズもいます。あと、できればII世をつけてもらえますかな」

「ああ、現代魔術科のロードがII世をつけて欲しいとふれて回っているという噂は本当だったのだね」

 

 カラボーの言葉にエルメロイII世は魔眼殺しの眼鏡を押し上げながら僅かに目を伏せる。

 

「いくつか、確認させてもらいたい」

 

 エルメロイII世はカラボーに7年前の事件の担当をしていたことを確認した。もしそうであれば、確実に今回の事件との繋がりがある。そう考えての確認だった。

 しかしカラボーはその自覚がなかった。正確には、そのことを菱理に言われるまで忘れていたらしい。魔眼の制御がうまくいかず、自身の記憶を塗りつぶすように、虫食いになっていっていたとのことだった。

 

「今こそあの魔眼があれば当時の事件のことについても多少わかることがあったかもしれないが…こうなってはな」

「…もう一つ確認を。当時、魔法省も情報統制関連で関わってきたと聞きました。その時、誰が担当していたかご存知ですか?」

「…いや、わからない」

「そうですか、ありがとうございます」

 

 そこで一度話が途切れる。その隙を狙って、メルヴィンがグレイに視線を向けた。

 

「ところでグレイさん、僕は残念ながら今回の被害者であるトリシャさんとルックウッドさんのことは殆ど知らないんだ。何か思い出せることはあるかな?」

「お二人についてですか?」

 

 確かにグレイはトリシャともルックウッドとも多少関係を持った。だが特徴と言えるほど二人のことを知っているとは言えない。

 何かあっただろうかと少し思い返すと、出会った時にトリシャが身につけていたものを思い出し、思わず赤面する。

 

「どうしたグレイ」

「トリシャさんと初めて会った時……その……えっと…服の内側に、その……何か卑猥なものが…」

「なんだって?もう一度言ってくれ。何が見えた」

「ええええ⁈えっと…服の内側に、卑猥なものが…」

 

 赤面しながらゴニョゴニョと口籠るグレイに対して、エルメロイII世は少し考える素振りを見せる。

 

「…現場にそんなものはなかった。防御策としてはあまりにも不安定だ。魔眼殺しほど安定性はない。なら何故持ち込んだか。それは、別の使い方があるということだろう」

「師匠…」

「推理ですらない想像だ。これを推理に昇華させるには、調べることがあるな。グレイ、もう一人…ミスタールックウッドに対しては何かあるかね」

 

 ルックウッドとの関係はさらに少ない。トリシャの事件の時の時間に関する話を聞いた時と、ヘファイスティオンと出会う少し前に列車の廊下で出会った程度。トリシャ以上に印象が薄いのが実態だ。

 それでもエルメロイII世の役に立つため頭を巡らせると、一つの出来事を思い出す。確かヘファイスティオンと出会う前に列車ですれ違った時のことだと思い出した。

 

「あ…ルックウッドさんでしたら、少し特殊な気配を感じたことを覚えています」

「特殊な気配?」

「はい。先日、拙と師匠は神秘部に行きました。そこで戦闘になったのですが、その神秘部で感じたものと同じ気配を感じたんです」

「神秘部で感じた気配…?」

 

 グレイの言葉にエルメロイII世は思考の海に潜る。

 何かまずいことを言ってしまっただろうかとグレイがメルヴィンに目を向けると、メルヴィンは気にするなとでも言うように肩をすくめた。

 

「あ、そうだ」

 

 突如、メルヴィンが何かを思い出したように口を開く。

 

「ルックウッドって言えば、昔ゴブリンが反乱を起こした時にゴブリン側についていた闇の魔法使いがルックウッドって名前だったなぁ」

「ゴブリンの反乱…ですか?」

「そう。グリンゴッツの銀行は知ってるよね?あそこで働いているゴブリンの同族が魔法族に反乱を起こしたことがあるんだ」

「どうして反乱が…?」

 

 グレイの中でゴブリンのイメージは『愛想は良くないが仕事はきっちりやる』程度。魔法族を良くは思っていないかもしれないが、反乱を起こすほど険悪とは思えなかった。

 

「記録によると、特別な魔力を求めていたとのこと。真偽のほどは知らないけど、『神代の魔力』を求めていたとかなんとか」

「神代の魔力?そんなものがどこに…」

「ホグワーツの地下だと聞いたことがあるな」

 

 思考の海から戻ってきたエルメロイII世が言う。

 

「どこまで本当かはわからん。私もホグワーツ在籍時に地下室へ赴いたことはあるが、他に地下に空間があるとは思えん。だがあそこは神秘の砦だ。資格なき者を通さず、資格ある者にのみ道を開く仕組みを作ることくらい造作もないだろう」

「あの城に…そんなものが…」

 

 不思議な城ではあった。何か危険なものがあったとしてもおかしくはないが、そんなものがあるとは思いもしなかった。

 

「それでウェイバー、何か思いついたかい?」

「ああ。それに、もう少ししたら()()()だ。後でもう一度会っていただくよ、カラボー・フランプトン」

 

 そう言ってエルメロイII世はグレイとメルヴィンを引き連れて部屋を去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オルガマリーの説得と情報収集を終え、エルメロイII世は部屋へと戻ってくる。メルヴィンも自分の部屋へと戻った。

 オークション開始まであと数時間ある。本来なら夕方であったはずのオークションだが、メルヴィンがオークショナーに対してクレーム(駄々こね)を入れることで深夜開催となった。

 英気を養うために戻ってきたはずだが、エルメロイII世はすぐに休もうとはしなかった。

 

「師匠…おやすみにならないのですか?」

「ああ。最後に、調べておく必要があることがあるのでね」

 

 そう言ってエルメロイII世は携帯電話を取り出し、誰かに電話をかけ始めた。

 

「私だ」

『なんだ兄上、こんな時に電話をかけてくるなんて。私の状況をわかっているのなら、わざわざ連絡してくるなんてことはしないでくれたまえ』

(ライネスさん?)

 

 電話から聞こえてきたのは、ライネスの声。だがライネスの声だけではない。何故か風のような音も僅かに聞こえてきた。

 

「依頼した件はどうだ」

()()については今こうして輸送中だ。調()()については、さっきスヴィンとフラットからメールが届いてね。私も()()から読み上げてもらったばかりだよ』

「わかったのかね」

『兄上の予想は概ね当たりだ。まず、ルックウッドについて。ルックウッド家はあの有名なゴブリンの反乱で、ゴブリンの手助けをした者の家だね。ただ、ルックウッド家自体は元々温厚な地主だったそうだよ。ただゴブリンの反乱を機に当時の当主が死亡、残された子孫たちはホグワーツ近辺にあった城を捨てて散り散りになった。兄上が調査を依頼してきたオーガスタス・ルックウッドも散り散りになったルックウッド家の子孫の一人さ』

 

 ルックウッド一族は、元々ホグワーツ近辺に城を構える名家だった。一時期はホグワーツの教師としても教鞭を取っており、代々スリザリン寮に配属される誇り高き一族だったと記録がある。

 しかし詳細時期は不明だが、徐々に力を失う。そしてビクトール・ルックウッドがランロクというゴブリンと手を組み、最終的には死亡。そしてそれ以降は完全に没落し、残された一族は散り散りになったのだという。

 

『ビクトール・ルックウッドが死んだ理由まで詳細はなかったがね。まあ大方、ランロクとやらに裏切られたのだろう。元々ゴブリンは魔法族に対して印象が良くないだろうし、当時ならより顕著だろうから』

「…なるほどな」

『ルックウッド関連についてもう一つ。というか、兄上としてはこちらが本命だろう。オーガスタス・ルックウッドについてだ』

 

 名前が出てきたことにグレイは目を見開く。そういえばエルメロイII世が見覚えがあるようなないようなみたいなことを言っていた。どこかでエルメロイII世と関わりがあったのか、それとも魔術界隈で何かしら大きなことをしたのかもとグレイは固唾を飲んだ。

 

『結論から言うと、オーガスタス・ルックウッドは我々魔術界隈との関係は一切なかった』

 

 しかし全く関係なかったとの答えを聞き、グレイは肩透かしを受けたような気持ちになる。だが、次のライネスの言葉を聞いて、緊張が走った。

 

『だが兄上がぼんやりと名前を聞いたことがあったのも無理はない』

「というと?」

『オーガスタス・ルックウッドは1()5()()()()()()()()()捕縛されている』

「15年前?まさか…」

『ああ。オーガスタス・ルックウッドは死喰い人(デスイーター)だったんだ。身内であるイゴール・カルカロフの告発により捕縛され、そして昨年のアズカバンからの集団脱獄により脱走した。15年前の日刊預言者新聞にその内容が書かれていたよ。なるほど、15年前に捕縛されたとなると、兄上の記憶に引っかからないのも頷ける』

 

 死喰い人。その言葉を聞いて、グレイは目を見開いた。まさかここでヴォルデモートに関連する存在と関わりを持つとは思わなかったからだ。

 

「つまり、オーガスタス・ルックウッドはヴォルデモートの配下だったというわけか」

『そうなるね』

「つまり同胞であるヤックスリーも死喰い人か。既にヴォルデモートの手は魔法省に及んでいたようだ。そしてグレイが感じた気配…これについても説明がつくな」

 

 突然グレイが感じた気配の話になり、グレイは首を傾げる。今の話のどこから繋がるのかわからずにいると、それに気づいたエルメロイII世が口を開いた。

 

「神秘部の戦いで感じた気配と同じものを感じたと言ったな」

「はい」

「ヴォルデモートの配下は皆、ヴォルデモートから『闇の印』と呼ばれる刻印をつけられる。特殊な魔法かつヴォルデモートのオリジナルらしくてな。印をつけたヴォルデモート本人しか解除はできないようだ。だがそんな特殊な魔法ならば、特異的な魔力が込められていてもおかしくない。グレイが感じた特殊な魔力の気配というのは、恐らく闇の印のものだ」

「あっ!」

 

 あの神秘部にはたくさんの死喰い人がいた。仮に闇の印自体に込められる魔力が微弱なものだとしても、あれだけの人数がいれば同質の魔力としてグレイが気配を感じ取れる可能性は高い。そしてその魔力をルックウッドから感じ取ったのだろう。

 

「既にヴォルデモートの手は魔法省に及んでいるようだ。いるとは思っていたがな。だがこれにより、奴等がここに来た理由もいくつか考えられるようになった」

『悪いが兄上、それは後にしてくれるかな?私の状況を知っているだろう』

「む、そうだな。それでもう一件はどうだ?」

 

 ライネスはやれやれといった雰囲気の溜息を吐きつつ、依頼されていた件について報告を続ける。

 

『もう一件についてだが、大した情報は出てこなかったぞ』

「それでもいい。些細なことでも」

『わかった。じゃあ依頼されていた()()()()()()()()()()についてだ』

 

 セバスチャンの名を聞いて、グレイは目を見開く。確かにエルメロイII世はセバスチャンについて気にかけている部分はあった。だがわざわざライネスに調査を依頼するほどとは思いもしなかったからだ。

 

『セバスチャン・サロウという人物は確かに実在している。そちらにいるのが本人かどうかはともかくな。だが、彼は100年以上前の人物だったよ』

「え…?で、でも…セバスチャンさんは拙とそんなに変わらない年齢なんじゃ…」

「そうとも限らん。何しろ、一般魔法界であろうと魔術界隈であろうと、見た目と年齢が一致しないことなどざらにある。蒼崎橙子…奴もまた、見た目を固定しているだけで……いや、やめておこう」

 

 何か嫌な予感でも感じ取ったのか、エルメロイII世は口を噤む。そして気を取り直すように咳払いを一つすると、再び口を開いた。

 

「それに、彼自身も言っていただろう。ホグワーツを卒業したのは随分前だと。ならば、彼が言っていたことも嘘では無い」

『卒業した?それはないよ兄上』

「何?」

『セバスチャン・サロウは、ホグワーツを退()()()()()()()()。卒業はしていない』

「どういう、ことですか…?」

『どうやら彼は、叔父であるソロモン・サロウを殺してしまったらしい。理由までは定かでは無いが、闇の魔術を使ったことが書かれている。闇の魔術を使って叔父を殺し、そしてアズカバンに投獄された』

 

 アズカバン。その名はグレイもホグワーツで聞いた魔法界の牢獄。吸魂鬼がうろつく絶海の孤島に造られた牢獄であると聞いていたため、そんな場所にいれられたはずの人物が何故ここにと頭が混乱してしまう。

 

「出所はしたのか?」

『ああ。投獄から20年後にな。その後、彼は()()と共に各地を転々とし、80歳で亡くなった』

「…では、セバスチャン・サロウという人物は…」

とっくに死んでいる。そもそも、このセバスチャンとやらはあのアルバス・ダンブルドアが入学するよりも前にホグワーツへ在籍していた。つまり、アルバス・ダンブルドアよりも歳上だ。魔法族はマグルよりも寿命が長めではあるが、もう死んでいたとしても別段違和感はないね』

「では、あのセバスチャンさんは…」

「少なくとも、セバスチャン・サロウではない。その名を騙る誰かだな」

 

 驚愕するグレイに対して、エルメロイII世はそこまで驚いた様子がない。もしかしたらエルメロイII世はこの事実を予想していたのかもしれないとグレイは考える。

 

「師匠は、わかっていたんですか?」

「わかっていたという言い方は適切ではない。ただ、あのセバスチャン・サロウがただのホグワーツ卒業生ではないことくらいは予想していた。むしろ、彼がアルバス・ダンブルドアよりも歳上と聞いて()()()()()

「どういうことですか?」

「後で説明する。それよりライネス、物証はいつ頃届きそうだ?」

『人使いの荒い兄上を持つと大変だな。さすがにそちらから近づいて来ているとはいえ、まだ出発したばかりだ。深夜になるよ』

 

 深夜。それは確かオークションが始まる時間ではなかっただろうかとグレイは思い返す。

 

「深夜か…ふむ、ギリギリだな」

『わざわざ慣れない箒を使っているんだ。速度重視でいつものではなくニンバス2001を使ってきていることに感謝してほしいね』

「ふん、トーコ・トラベルも使って半ば自動で移動しているだろうに。それに通話も、どうせ物証に電話を持たせるなり固定するなりしているのだろう。だが、無理を強いていることはわかっている。すまないが、頼む」

『わかった。極力急ぐ』

「頼む」

 

 そう言ってエルメロイII世は通話を切る。

 グレイ視点、知らない所で色々と話が進んでいて混乱していた。ルックウッドが死喰い人であることやセバスチャンが過去の人物であること。色々と理解できないことが多く、グレイは頭を抱える。

 

「色々とわからないことが多いだろう。今回あった二つの事件…いや、一件は事件ですらない。事件だったものの残像だ。もう一件は、この残像に乗っかっただけのもの。この二件は()()()()()()()()のだよ」

「どういうことですか」

「これから説明する。では、まず最初の事件からだ」

 

 こうしてエルメロイII世の言葉にグレイは耳を傾けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからしばらくし、オークションが始まる頃の時間。

 魔眼蒐集列車の上空から一つの影が見下ろしていた。

 

「あれが魔眼蒐集列車か。さて、偏屈者どもの領域は俺様を楽しませてくれるか?」

 

 影、ヴォルデモートは楽しそうに笑う。

 

「そしてグレイ、今回で貴様を俺様の配下に加えてやろう。最上級の栄誉を甘んじて受け入れさせてやるとも」

 

 邪悪に笑うヴォルデモートの笑い声が夜闇に響き渡るのだった。

 

 

 




ロード・エルメロイII世の事件簿メインの話は、恐らくこの魔眼蒐集列車編のみです。その後のアトラスの契約、冠位会議については本編中に描写はしますが、ここまでがっつり書くことは恐らくしません。両方ともストーリーとしてハリーポッターシリーズを絡めることが難しいので…。


Q.魔眼蒐集列車って携帯繋がるの?
A.原作でライネスに繋げてます。

Q.お辞儀様はどうやって半ば異界化してる魔眼蒐集列車に辿り着いたの?
A.ヤックスリーの持つ招待状の同行者としての権限で場所を割り出し、ヤックスリーの持つ闇の印を頼りに姿現ししてますを




ロード・エルメロイII世
セクハラです、師匠。
捕縛されたカラボーとの会話ターンはぶっちゃけあのシーンがシリアスな笑いすぎて好きだから。


グレイ
セクハラされました。師匠を訴訟します。


メルヴィン・ウェインズ
金持ち。クズではあるが、クズなりに矜持を持っているためただのクズでもない。嫌いになれない私がいる。


化野菱理
エルメロイII世と敵対中(?)



次回、お辞儀様への解体。

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