ホグワーツ教師 ロード・エルメロイII世 作:木材
魔眼蒐集列車編を履修済みの方も、謎解きパートくらいはご覧になっていただけると作者は喜びます。
次回からまたホグワーツに行きます。
あとどうでもいいことですが、ハリーポッターシリーズの吹き替え版が密林プライムから消えました。どうして。
でも字幕版があるからOKです。
超長いです。
全部エルメロイII世が悪いんです。許して。
「ルックウッドを殺した犯人はお前だ」
エルメロイII世に指を向けられたのは、セバスチャンだった。指名されたセバスチャンは全く動じることはなく、寧ろ楽しそうに笑っている。
「へえ、僕か。なるほど、どうしてそういう推理になったんだい?」
「ルックウッド氏が殺される理由はいくつか考えられる。まず、神秘部出身ということ。神秘部には封印指定されるレベルの技術や魔法使いがゴロゴロいる。神秘部職員の中には、自らの肉体を改造して真理を探る者もいたと聞く。加えて、一部には神代の魔術も残されているとの噂まである。そんな部署にいた者ならば、封印指定の名目で頭部を持ち去り、脳髄を保管されたとしてもおかしくはないだろう」
神秘部については時計塔でも全容を把握できていない。今でこそ魔法省の部署として存在しているが、元を辿ると魔法省よりも以前から存在が確認されている。詳しい歴史を誰も知らず、記録も残されていないが、時計塔とは異なる形でホグワーツができるよりもさらに昔から、魔法によって真理を探究する組織だということはわかっている。
それほどまで古くからある組織ということもあり、必ずではないにしろそこに所属する者は何かしら特異性を持つ者が多い。所属しただけで何かしら神秘が肉体に宿るなどという眉唾なものもあるが、それがただの噂であると証明できた者はいない。所属者の中には既に封印指定を受け、神秘部の最深部から出てこなくなった者もいるのだとか。そんな場所にいた人物であれば、封印指定を執行される可能性は否定できない。
「尤も、これは考えにくい。そもそも彼は既に退職している。わざわざ天文台カリオンが彼に対して刺客を差し向けるとは考えられなくはないものの、些か確率は低い。ここには封印指定執行者もいない以上、理由としてはかなり弱い。他の理由としては、彼が死喰い人であることだろう」
「おいおい死喰い人だと?つい最近、魔法省が復活を認めたあの人の部下のことか?」
ジャン・マリオの言葉にエルメロイII世は頷く。
「そうだ。ルックウッド氏が神秘部を退職した理由が、捕縛された死喰い人からの内部告発によるものだった。十五年前、死喰い人であるとの告発を受け、アズカバンに投獄されたとの記録がある。同時に、同胞であるヤックスリー氏にも死喰い人疑惑がかけられるが、一旦置いておこう。死喰い人などという残虐な連中であれば、何かしら因縁や恨みを買っていたとしてもおかしくはあるまい。そして、彼がルックウッドの一族であることも要因としては考えられる」
ルックウッドの一族はゴブリン…ランロクの反乱を機に、完全に没落。闇の世界で生きることになった一族は元いた地位を取り戻そうとはせず、闇の世界でのし上がることに注力し始めた。結果的にはそれもそこまでうまくはいかなかったが、密猟や野盗のようなことを多く行ってきたため、どこかで恨みを買っていたとしてもおかしくない。
「封印指定、死喰い人、一族。殺される理由としてはいくつかあるわけだ」
「なるほどね。仮に僕だったとして、どうやって僕は彼を殺したのかな?死喰い人なら戦闘にも長けているはず。不意打ちできるかも怪しいし、何より過去視で現場を見られなかったんだ。僕を犯人にするには、そのあたりも証明してくれないと」
「今回、一番大きな謎はそこだ。カラボー氏が言っていた『ルックウッドが殺された瞬間の映像が存在しない』という言葉。制御が不完全だったとはいえ、抱影の魔眼でも全く観測することができないほどのプロテクトなどそうそうかけられるはずもない。しかもトリシャさんの時のように曖昧で見えないではなく、そもそも存在しないとなるともはや別次元だ。過去視を完全に出し抜いたわけだからな」
「じゃあどうやって…」
「ミス化野、頼めるかね」
エルメロイII世の言葉に頷いた菱理は、杖を振ってセバスチャンの体を調べる。そしてローブの内ポケットから砂時計のような何かが浮かび上がった。
「アクシオ」
エルメロイII世が浮かび上がった砂時計を手に収める。リングの中に砂時計がつけられたような、どこか神秘的な雰囲気のある砂時計を見て、エルメロイII世はやはりかと呟く。
「ルックウッドを殺した方法は、これだ」
「それはまさか、逆転時計か⁈」
「ここにいる者ならば逆転時計の説明など不要だろう。過去を改変することすらできる、一歩間違えれば特異点を作り上げる可能性すらある代物だ」
「それで?逆転時計がどうしたと?」
「ルックウッドは逆転時計を使った場合でも、未来視からは逃れられないと言った。だが、逆転時計を使うことで
エルメロイII世の言葉にその場にいた全員が驚愕する。全く動じていないのは、セバスチャンだけだった。
「逆転時計は、効果範囲内の者を過去へと飛ばす作用を持つ。飛ばす時間は逆転時計の回転回数と能力次第だが、今回使ったのは数時間単位のみ戻せる物のようだ。逆転時計は使うと一時的に過去へと戻り、行動することができる。そして戻った時間では、一時的に『自分が二人存在する状態』になる」
逆転時計は周囲の時間を巻き戻す効果を持つ。そのため、『元の時間軸の自分』と『時間を遡った自分』の二人が存在することになる。故に逆転時計を使う場合、誰にも会わない、または会っても問題のない人物以外には会わないということが必要になる。
「それで?仮に時間を巻き戻ったとしても、ルックウッドさんが殺されたのなら過去が存在しないなんてことはあり得ないんじゃない?」
「そこがポイントだった。どんな魔法道具を使おうと、過去から逃れることはできん。ではどうやって過去視から逃れたか。過去視で見られない…つまり、殺されたのは
ハートレスを含めたその場に居合わせた全員があまり理解できていない中、セバスチャンだけが驚いたように目を見開いた。
「どういうことだ?」
「セバスチャンが取った手順はこうだ。目眩しか何かの魔法でルックウッドに接近し、殺害。首を落としたルックウッドの遺体と共に逆転時計で過去へと移動。そしてあの場にルックウッドの遺体を置いて姿を眩ませるといった流れだ。その間にルックウッドが自分の遺体を見つける可能性もあるかもしれないが、それ自体はルックウッド本人を予め拘束しておくなどすれば問題ない。私とグレイがルックウッドと出会ってから遺体発見まで半日近い時間がある。いくらでも調整はできるだろう」
「でもそれだと、遺体の過去を見た時に殺された瞬間が見えるんじゃないのかい?ルックウッドはあくまで
尚も余裕の態度を崩さないセバスチャンに鋭い視線を向けながらエルメロイII世は続ける。
「抱影の魔眼について私も詳しくは知らない。だが、抱影の魔眼で見られるのはあくまで
エルメロイII世はセバスチャンからオークショナーに目を向ける。抱影の魔眼についてはエルメロイII世よりも列車側の方が遥かに詳しいだろうと考えたため、オークショナーにそう問いかけた。
「ロード・エルメロイII世様の推測は正しいです。抱影の魔眼は見た瞬間を基準とした過去しか見ることはできません。仮にロード・エルメロイII世様の推測通りの手法でルックウッド様が殺害された場合、抱影の魔眼で殺害の瞬間を見ようとしても恐らく見ることはできないでしょう。遺体にとっての過去はともかく、抱影の魔眼で観察できるのは所有者から見ての過去のみになります」
抱影の魔眼でルックウッドの遺体を見た際、カラボーは過去を見ることができなかった。それはルックウッドの遺体が時を超えてきたが故に起こったバグのようなものの結果だった。抱影の魔眼はあくまで見た瞬間を基準とした過去しか浮かび上がらせることができない。
「君がこの魔眼の能力をどこまで把握していたかは私にもわからない。だが過去視である以上、未来での殺害ならば抱影の魔眼で追跡することはできない。そう考えたのではないか?」
「なるほどね。でも、彼自身が殺される理由はともかく、僕にはルックウッドを殺す理由がない。それに、どうしてわざわざ首を刎ねるなんて面倒な殺し方をしたんだい?殺すことが目的なら、他にも労力がかからない方法があるだろう?」
「殺し方については
エルメロイII世は葉巻の灰を携帯灰皿に落としながら続ける。
「セバスチャン・サロウなる者を調査してみたのだが、百年以上前にホグワーツを退学になった生徒のことだった。そしてそのセバスチャンは、既に寿命で亡くなっている。つまり、お前はセバスチャンの姿と名前を騙る誰かであることは間違いない。そしてセバスチャン本人がホグワーツに在籍していた時に、魔法界だけでなく魔術界隈にも影響のある出来事が起こった。ゴブリンの反乱だ」
ゴブリンであるランロクがとある特別な魔力を求めて魔法使い達に反乱を起こし、ホグワーツの地下に封印されているという特別な魔力を求めて行動を起こしたとの記録がある。そしてこの反乱時期とセバスチャンがホグワーツに在籍していた時期は全く同じ時期だった。
「ゴブリンの反乱に、闇の魔法使いもいくらか手を貸したとの記録もある。手を貸したのは密猟者のようなゴロツキが大半だが、中でも強力な闇の魔法使いがいた。それがビクトール・ルックウッド。オーガスタス・ルックウッドの先祖だ。ビクトールがどうやって死んだかまでは記録にはない。だが、このゴブリンの反乱を止めたのはホグワーツ教師陣と当時在籍していた
「じゃあその反乱を止めた生徒が、セバスチャン・サロウだと?」
「いいや。セバスチャン本人はランロクの反乱終結の少し前にアズカバンへ収監されている。事故か何かで叔父を殺してしまったからね。解決したのは別の生徒だ。だが、セバスチャンはその生徒と深い親交があった。そしてセバスチャンは釈放後、友人と共に世界各地を回ったという」
エルメロイII世は再びセバスチャンに視線を向ける。
「セバスチャン自身はこれ以上の情報はない。だが既に亡くなっている以上、お前はセバスチャンではない。ではお前が誰なのか。これこそがルックウッドが殺された理由に関わる。先程、ルックウッドが殺される理由が封印指定、一族、死喰い人だと言った。お前がルックウッドを殺した理由は、これら全てが関係しているのではないか?」
「そう考えた理由は?」
「先程、セバスチャンと共に旅をした生徒の話をしたな。この生徒の名前は記録されていないが、ゴブリンの反乱を止めた生徒も卒業後の記録がない。そもそも、セバスチャンとこの生徒の記録が何故、ここまで時計塔に存在していたか。それは、その生徒には封印指定がかけられていたからだ」
「封印指定?ホグワーツの生徒にですか?」
ハートレスが驚いたように呟く。ホグワーツは神秘の砦ではあるが、ホグワーツに在籍する生徒は基本的に魔術界隈に関わる者よりも有している神秘は薄い。そもそも魔術刻印を受け継いでいない者しか基本的にはいないため、当代のみな神秘になる。そんな生徒達の中で封印指定を受けるレベルの者がいるという事実にハートレスは驚いた。
「そうだ。恐らく、在学中に封印指定された生徒はこの生徒が初だろう。お前がルックウッドを殺した理由はかつて起こったゴブリンの反乱。そこでできたルックウッド一族との因縁、そしてお前が宿す神秘の気配を感じたルックウッドが時計塔に密告する可能性を感じたことが主な理由だったのではないか?」
「はは、すごいな!本当にすごいよ!この程度の情報でここまで正解を導けるなんて!さすが、アルバスが信じた数少ない教師だね!」
セバスチャンは縛られたまま指を振る。すると白い煙のようなものが彼の体を包み、縛っていた縄が弾けた。ローブについた埃を払いながら立ち上がると、アカシアの木でできた杖を抜く。
「じゃあ答え合わせといこう。僕がルックウッドを殺した理由は、概ね先生が言った通りさ。一つ訂正を入れるとすると、ルックウッドの通報を恐れたのではなく、ルックウッドが封印指定の詳細情報を手に入れる可能性を排除したかったんだ。天文台カリオンと神秘部は切っても切り離せない関係だ。天文台は常に神秘部の職員と技術を狙っているし、神秘部は天文台カリオンがある墓へ潜り込むことを望んでる。だからお互いがお互いにある程度情報を持っている。つまり、封印指定対象者の情報もある程度把握しているんだ。ルックウッドが神秘部にいた時、すでに僕は対象だった。セバスチャンの姿をしている以上、セバスチャンから僕に辿り着く可能性はゼロじゃない。封印指定と神秘部の情報…これらが合わされば僕が抱えている秘密にも、もしかしたら辿り着く可能性があったんだ」
神秘部は魔法省よりもはるかに古くから存在している。そのため、魔術協会との関係も長く、神秘部所属者で封印指定対象になった者もいる故に、神秘部は封印指定に対する情報を多く把握していた。
彼からすると、セバスチャンの姿から封印指定された自分に辿り着かれることがまずかった。自分の情報を知られることではなく、自分の情報から
「あとは先生の言う通りだよ。ゴブリンの反乱の時、僕はビクトール・ルックウッドを殺した。その後も僕の前で密猟やら野盗やらをしていたルックウッド一族は大体殺した。おかげでめっきり数を減らしたからもういないかもなーとも思っていたけど、死喰い人として悪さをしていた。でも脱獄して本当にたまたまいたから殺した。これだけの理由だよ」
そう言ってセバスチャンは杖を振って、近くに縛られたまま転がっているヤックスリーに目を向けた。
「もしオーガスタス・ルックウッドが改心していたら殺さないつもりだったけど、いまだに死喰い人とつるんでいるみたいだったからね。ただ、どう殺すかは少し迷ったよ。僕はルックウッドを殺すつもりでここにきたわけではない。普通に殺したら面倒になるかなってやきもきしていたんだ。そしたらトリシャさんが殺されてしまったから、これと同じ方法でやれば僕は目立たないんじゃないかなって思って、先生が言った方法でルックウッドを殺したんだ」
まあ結局は逆効果だったみたいだけど、と肩を竦めながら言うセバスチャンは、どことなく宿題を忘れて怒られる学生のような態度は実にこの場には不似合いなものだとグレイは思った。悪人相手とはいえ、ここまであっけらかんに殺したことを言えるあたり、グレイには理解できない精神性を持っているのだろう。
「問おう。お前は誰だ」
エルメロイII世の問いに、セバスチャンは腕を広げた。
「先生の言う通り、在学中に封印指定を受けたホグワーツ卒業生さ。在学中はホグワーツの庇護があったから執行者は来なかったけど、卒業してすぐに来たからね。全員殺して、セバスチャンが釈放されるまで姿を変えて生きていたんだ。普段は変身術を使ってないけど、僕の姿のまま魔術師の領域に踏み込むのはリスクがあるかなって。だから友達のセバスチャンの姿を借りたんだ」
セバスチャンは杖を撫でると、楽しそうに笑う。
「本当の名前は名乗れない。名乗ると天文台カリオンに感知される呪いを受けててね。昔、例のあの人の名前を呼ぶと死喰い人が現れるのと同じ原理の呪いさ。だから僕のことは……そうだな、レガシーとでも呼んでくれ」
「
どうしてそのような名前を名乗るのか。グレイどころかエルメロイII世にもわからない。
「色々僕に対して言いたいことがあるとは思うけど、時間切れだ」
「何?」
「もう一人、いや正確には二人かな?まあ一人でいいか。客がいる」
突如、ライネスの背後にある扉が爆発する。ギリギリで礼装であるトリムマウがライネスを爆発の範囲外から守ったため、ライネスは無傷だった。
「俺様の部下を殺したのは、お前のようだな小僧」
扉の奥からゆっくりと誰かが歩いてくる。
蛇のような風貌とやけに青白い肌。つい最近、グレイは対峙したはがりのその姿に、思わずグレイは杖を抜く。
「またお会いしましたな、ヴォルデモート卿」
「ああ、ここ最近縁があるな。ロード・エルメロイII世」
忌々しそうに吐き捨てるヴォルデモートは、どう見ても不機嫌な表情をしていた。その場に居合わせた全員が杖を抜く。一般魔法界で猛威を奮った最悪の魔法使いである以上、何をしでかすかわからない。自衛のためにも杖は手に持っていなければと全員が判断した。
だがヴォルデモートは魔術師に目を向けない。ただ苛立たしげにエルメロイII世とレガシー、そしてハートレスのことを見ている。
「だがお前のことはどうでもいい。俺様は今、そこの赤髪の魔術師が持っている首とグレイに用があるだけだ」
「え…拙?」
突然名前を呼ばれたグレイは左手で杖、右手でアッドの入った鳥籠を持つ。
「まずはそこの魔術師。貴様を縛っている縄は…未来視の魔眼を持った女の頭が変化したものだな?寄越せ」
「やれやれ…縛られている私に対してその要求はどうなのだろうね、ヴォルデモート卿」
「黙れ。俺様が求めるのは未来視だけだ。貴様の命など、どうでも良い。不愉快だ、死ね」
「っ!令呪を持って命ずる!来たれ!」
「アバダ・ケダブラ!」
ヴォルデモートの杖から緑の光が放たれ、同時にハートレスの目の前が光る。ヴォルデモートが放った死の呪いは、光と共に現れた女性によって弾かれた。
「やっと呼んだなマスター」
女性はハートレスを庇うように立ち塞がり、その背中に隠れながらハートレスは立ち上がり杖を抜いた。余裕を全く崩さなかったハートレスの頬には冷や汗が流れている。どうやら本当にギリギリだったらしい。
「いや危なかった…助かりましたよ」
「ふん、今の私の役割だからな」
ハートレスは自身を拘束していた縄にかけられた魔法を元のトリシャの首に戻しながら冷や汗を拭う。
女性…ヘファイスティオンはエルメロイII世、そしてヴォルデモートに視線を向けた。
「ほう、英霊か!実在するとはな!」
物珍しそうに見てくるヴォルデモートに対して、ヘファイスティオンは心底不愉快そうに顔を顰めた。
「…随分と醜悪なものがいるなマスター」
「くく、俺様を醜悪と言うか。過去の亡霊如きが。興味深くはあるが、お前に用はない。お前の主が持つその首を寄越せ。そうすれば、俺様はお前達に手出しはしない」
『…だそうだ、マスター。私としてはその首自体はどうでもいい。あの醜悪な蛇擬きは私でも殺し切ることはできん。さっさと首を渡して退散したいところだが?』
ヘファイスティオンからしたらトリシャのことなどどうでもいい。ただ、目の前の醜悪な存在を
「後は逃げるだけなので、下手に刺激したくありません。大人しく渡すとしましょう」
「待て」
ハートレスに向けてエルメロイII世は杖を向ける。無論エルメロイII世の実力ではハートレスを捕えることなどできはしない。
「その首を持っていかれるわけにはいかない」
「そうは言っても、僕には必要ない。ただここで争えば、多くの魔眼が犠牲になりかねないし、ヘファイスティオンでもヴォルデモート卿を殺すことはできない。退けるだけでも破壊規模は大きくなる。彼に渡すのが僕としては一番良い選択肢なんです」
そう言ってハートレスはトリシャの首をヴォルデモートに向けて浮遊魔法をかけて投げる。ヴォルデモートは首に対して杖なし無言呪文で手元に引き寄せようと手を前に掲げる。
「アクシオ!」
だが首はヴォルデモートの手元に辿り着く前に、オルガマリーの方に引き寄せられた。ヴォルデモートがそちらに目を向けると、トリシャの首を守るように抱えながらもヴォルデモートに杖を向けているオルガマリーの姿があった。
「小娘、その未来視の首は俺様の物だ。許可なく俺様の物に手を出した盗人は…万死に値する」
「トリシャは、私の従者よ!勝手なのはどっちよ!アニムスフィアの後継者として、そんな暴挙を見過ごすわけにはいかないわ!」
杖は震えている。明らかに恐怖心を抱いているが、それでもオルガマリーは引き下がることはしなかった。
「時間の無駄だな。死ね」
ヴォルデモートの杖から緑の閃光が走る。オルガマリーも咄嗟に魔法を放つが、簡単に突き破られる。
眼前まで緑の閃光が迫ってきた瞬間、突如現れた白い閃光が緑の閃光とぶつかり合い、弾けた。
「いいパッションだねアニムスフィア」
白い閃光を放ったのはレガシーだった。杖の先から迸る閃光は、明らかに通常の魔力とは異なる。そしてその魔力の感覚は、ヘファイスティオンの宝具の進路をずらした白い雷や、
「貴様、今の魔法は…」
「ちょっと出てくるのが早いよトム。僕らはまだ先生の推理を聞き終えていないんだ」
レガシーに「トム」と呼ばれ、ヴォルデモートの額に青筋が浮かぶ。
「どうでもいい。邪魔立てするなら貴様から…」
「アレスト・モメンタム!」
レガシーがヴォルデモートに向けて杖を振る。ヴォルデモートの周辺が白い空間で仕切られる。ヴォルデモートは自分を取り囲む白い空間に手を触れると、驚いたように目を見開いた。
「…これは、空間固定か?」
「そう!さすがに
(動作停止魔法を空間そのものに…魔法の扱いならば君主以上のレベルだ)
本来ならば物理動作停止の魔法である『アレスト・モメンタム』だが、レガシーは空間そのものに魔法をかけることで、一時的にヴォルデモートを拘束した。これほどの魔法を杖の一振りだけでできるとなると、魔法の扱いは君主以上のレベルだとわかる。
「俺様を閉じ込めるか。だが、この程度の魔法で俺様を完全に拘束できるとでも?」
「やめておきなよ。君と正面からまともにやり合える魔法使いは多分アルバスくらいだし、僕も撃ち合いで勝てるとは思わないけど、その空間は魔法を全て弾くし姿あらわしもできない術式を込めてる。こちらから干渉できないけど、そちらも一切魔法的干渉はできないよ。もって数分だろうけど、まだ終わってないんだ。そうだろう?先生」
レガシーはエルメロイII世に目を向け、エルメロイII世は頷いた。法政科視点ではレガシーも捕縛対象ではあるのだが、最悪の魔法使いとサーヴァントがいる以上、下手に動くことは得策ではない。そもそもエルメロイII世自身、まだヘファイスティオンへ用があった。
エルメロイII世はヘファイスティオンに目を向ける。
「あなたについて考えていた。あなたが何者なのか」
「ヘファイスティオンと名乗ったはずだが」
「クラスの問題だ。私から聖遺物を盗んだ以上、聖遺物はあなたの召喚に使われているはず。あの聖遺物は学術的にはともかく、魔術的な価値はさほどない。ならば召喚の触媒に使われたと判断するのが妥当だろう。だがあの聖遺物で呼び出せるのはイスカンダル本人か、『彼もまたイスカンダルなのだから』という逸話のあるヘファイスティオンだけ。あなたはイスカンダルではない以上、ヘファイスティオンだという説明も筋が通る」
『それだけならばな』と付け加え、エルメロイII世はヘファイスティオンに向けていた杖を下ろす。
「だがクラスは別だ。極東の儀式…聖杯戦争のシステムと接続し、召喚を成功させた以上、必ずクラスが存在しているはず。だが接続しただけでハッキングまでできたわけではないだろう。ならば、全く新しいクラスを作らざるを得ない。あなたはそれを偽物で通したのではないか?
イスカンダルと目の前の英霊は似ても似つかない。だが写真などない古代においては本来の姿が伝わっていない時点で、格好が似ている意味などない。影武者として動くには十分な環境とも言える。
エルメロイII世の言葉を聞いてヘファイスティオンは少しだけ感心したように頬を緩めた。
「ネーミングセンスはマスターに近いらしいな。お前の推理通り私はマスターからフェイカーというクラスを与えられた。そしてお前の推理だが…八割は正しいが、二割は間違いだ。動機からもたらされる推理は正しいが、事実には至らない。ヘファイスティオンの名は兄のものだが、私が借り受けることもあったんだ」
「兄?」
「これ以上、戯言を聞く気はない。いいな、マスター」
「僕としてはもう少し聞きたいところではあるんですがね」
ハートレスの言葉に心底呆れたようにヘファイスティオンは顔を顰める。
「
「ふむ…君がそこまで言うのに、わざわざ殺しにいかない理由を聞いてもいいかな?」
「それは俺様が特別であり、死を超越した者だからだ」
固定された空間の中からヴォルデモートが答える。卓越した魔法使いであってもまともに戦うことすらできないサーヴァントが『醜悪』と形容しながらも殺しにいかない。その事実にはエルメロイII世だけでなくハートレスも違和感を抱いた。決してレガシーの魔法が原因ではない。
「俺様は何よりも特別だ。生命の終焉である死を超越した、この世で最も偉大なる魔法使いだ。たとえサーヴァントであろうとも、俺様を殺すことなど不可能。高位とはいえ所詮は使い魔。俺様の偉大さを理解できなくとも仕方あるまい」
ヴォルデモートはくつくつとヘファイスティオンを嘲るように笑う。不愉快そうにヘファイスティオンは眉を顰めるが、ヴォルデモート自身が特別であることは理解していた。方法としては唾棄するような醜悪な手法ではあるものの、ここまで突き詰められたという事実は特別である。また、ヴォルデモートが持つ凄まじいほどの魔力は、ヘファイスティオンの生きていた時代でも稀有なレベル。そこだけは認めざるを得ないことが、より不愉快だった。
「殺すことができない、それに死を超越…なるほど、やはりあなたは擬似的な不死ということか」
「擬似的か。ああ、認めよう。今の俺様は…完全なる不死ではない」
ヴォルデモートは自分を取り囲む結界に触れる。結界はヴォルデモートが触れた手を基点に少しずつひびが入り、結界全体に広がっていく。
「俺様は確かに不死を実現したが、肉体は不滅ではない。どれほど魔法で保護しようとも、少しずつ劣化してしまう。これは俺様でも止められないいわば世界の理だ。だが俺様はもう克服する術を見つけている。そして俺様は不死そのものは既に実現済み。例えサーヴァントといえど、俺様には決して敵わない」
「不死ではあっても、擬似的。だがその手法を破られれば、不死性は剥奪される。違いますかな?」
エルメロイII世の言葉にヴォルデモートは目を細める。
「人類史においても、完全なる不死性を持つ者は存在しなかった。古代ギリシャのケイローンは神性からなる不老不死ではあったが、ヒュドラの毒に蝕まれて不死性を返上した。神の血を引くアキレウスは無敵にも思える不死性を持っていたが、唯一踵だけはその例外だった。最後は踵を射抜かれて死に至る。ジークフリートも邪竜の血を浴びたことで無敵の肉体を手に入れるが、唯一背中だけは弱点として残り、最後は背中を貫かれて死ぬことになる」
ベースが人の枠組みにある以上、必ず不死には代償や弱点がある。神代の存在であったとしてもその例外を取り払うことができない。神秘が薄れた現代ならば、それはより簡単になる。
「長い人類史においても人間である以上、完全なる不老不死を実現できた者は存在しない。人という枠組みで生まれた以上、不死を手に入れるためには相応の
エルメロイII世はヘファイスティオンからヴォルデモートに視線を移すと、側に控えているグレイがエルメロイII世を庇うように一歩前へ出た。空間固定がそろそろ限界であることを察したのだろう。
「あなたが肉体を失うことになった一件であるポッター家襲撃。この時、ハリー・ポッターの母親であるリリー・ポッターはその身を犠牲にして息子を守り、あなたは肉体を失った。この時、リリー・ポッターが息子に施したのは防御魔法では最強格の『愛の護り』。一時的にあらゆる危害から対象を守るが、代償として術者の命を落とす魔法だ。この魔法により、あなたが放った死の呪いは跳ね返り、自らの肉体が滅びることになった」
「だが俺様はこうして戻ってきた」
「そう、それこそがポイントだ。肉体が滅んでもなお、生命としての活動を終えることなくゴーストよりも希薄でありながらもギリギリ生命として残った。そんな状態でもなお生きていられる手法はそう多くない」
ヴォルデモートの瞳に怒りと焦りが宿る。
それを感じ取ったエルメロイII世は畳み掛けるように続けていく。
「賢者の石や死徒、そう言った手法であったとしても死の呪いを受けた場合は肉体のみが滅びるということはない。肉体だけが滅び、魂が現世に残る手法かつ、現代でも再現が可能な手法は一つしかない」
「あなたが取った手法は、分霊箱だ」
突如、殺気にも似た魔力が満ちる。
ヴォルデモートを取り囲んでいた結界が弾け飛び、エルメロイII世に向けて緑色の閃光が放たれた。しかしヴォルデモートの呪いはグレイの魔法によって弾かれる。
「ほう…」
グレイの魔法のキレを見て、ヘファイスティオン…フェイカーは感心したように息を吐く。神代に生きていた以上、グレイ以上の魔法使いは多くいたものの、その杖と魔法に宿る意思の強さはまさしく戦士そのものだったからだ。師匠は気に食わないが、やはりグレイには見どころがあると改めて感じ取る。
「グレイ、すまない」
「いえ。師匠は師匠の言いたいことをぶつけてください。拙が守ります」
「そこをどけグレイ!お前の後ろの男を殺す!」
続け様に死の呪いを放つヴォルデモートだが、グレイは全て弾く。余波はオークショナーと車掌の貼った結界により魔眼への被害はない。しかし長くは持たないと察したレガシーが杖を振り、結界の強度をさらに底上げさせ、エルメロイII世が『解体』に集中できる環境を整えた。
「分霊箱は魂を無理矢理現世に留めるための魔法。だがあくまで留めるだけ。死なないだけ。非常に希薄な存在だ。本来なら生きる以上のことはできないはずだが、あなたは自分の配下に指示を出し、肉体を取り戻すための策略を張り巡らせた。分霊箱の作成者はあまり多くないが、記録にある作成者は皆、生きる以外はできなくなったという。だがあなたはそうではなかった」
「黙れ!アバダ・ケダブラ!」
「エクスペリアームス!」
ヴォルデモートの魔法とグレイの魔法がぶつかり合う。徐々にグレイの魔法が押され始めるが、グレイはアッドを手に取り反撃に転じる。
「アッド!第一段階、限定解除!」
『おうさ!』
杖からアッドに持ち替え、ヴォルデモートの魔法を切り裂く。ヴォルデモートは忌々しいものを見るように顔を歪めた。
「魂を切り分け、保存することで魂を現世に留まらせる魔法だが、魂の欠片では現世に留めるしかできない。しかし、この欠片が多く存在していたとしたらどうだろうか」
「っ!その口を閉じろロード・エルメロイ!」
再び死の呪いを放つが、グレイが切り裂く。続け様に悪霊の火を放つが、その炎もグレイとヘファイスティオンによって切り裂かれた。
「…あなたは」
グレイは警戒したように
「お前の師匠を守ったわけではない。マスターを守るためだ。それに、あの醜悪な魔法使いの顔が歪む様は見ていて悪くない。お前の師匠は心底気に食わないが、今しばらくその口が回る手伝いくらいはしてやろう」
「…感謝はしません」
「いらんよ。こちらの都合だ」
実は戦士であり揺るぎない精神を持つグレイのことを少し気に入ったことも理由にはあるが、ここでは口にしなかった。
「あなたには複数の分霊箱がある。つまりそれだけの数、魂を現世に留まらせる鎖が存在することになるが、その鎖が全てなくなった場合は現世に留まることはできなくなる」
「……大層な推理だな。ああ、認めてやろう。俺様は分霊箱を複数作り上げる偉業を成し遂げた。だがお前達では見つけることも破壊することもできん」
「作り上げた数も隠し場所も確かにわからない。だが、一つは既に破壊されており、一つはホグワーツにある」
ヴォルデモートの表情が完全に消え、目が見開かれる。
「ホグワーツから戻る前に、ダンブルドア教授とポッターから聞いた一件がある。それは、サラザール・スリザリンが残した秘密の部屋での一件だ。始まりは一冊の日記帳…そう、あなたの日記だ。日記は持ち主であったジニー・ウィーズリーの生命力を吸い上げ、意識を操り、バジリスクを目覚めさせた上にポッターを秘密の部屋に誘い出した。ジニー・ウィーズリーから生命力を吸い上げた『日記』は霊体ながらも実体化を果たし、受肉まであと一歩のところまでたどり着いたという。ポッターはこの『日記』を記憶だと考えていたようだが、ただの記憶にそんな力はない」
「魂が宿っていたのなら、この一件の行動全てが理解できるものになる。自律行動し、自ら生命として足りない肉体を補うために所有者から生命力を吸い上げる。霊体の構成ができた後は、受肉のために必要な要素を揃える。結果としては失敗に終わったが、この魂の自律行動は勘付かれなければ実に厄介極まりない。だが魂の欠片はポッターによって破壊されてしまった。そして、分霊箱という魂が物質に定着したものは通常の方法での破壊が不可能になるというのに、破壊できる手法をポッターが図らずも実践してしまった」
「貴様っ…!」
ヴォルデモートの表情がさらに歪み、死の呪いを放ってくる。しかしそれらは全てグレイによって防がれた。
「そしてホグワーツにある分霊箱。これはあなたが二度、ホグワーツの教師になることを望んで来訪したことを元に推測できる。ホグワーツの教師になることを望んでホグワーツに来訪した事実。一度ならばわかる。しかし二度目に来訪した時の校長はダンブルドア教授だ。在学時からあなたのことを警戒していたダンブルドア教授が校長になった以上、教授の職を得られる可能性がほぼゼロであることはあなたもわかっていた。だがそれでもなおホグワーツを来訪したのは、
「ロード・エルメロイ!!!」
激昂したヴォルデモートが死の呪いを放ってくるが、アッドの鎌で弾かれる。我を忘れたヴォルデモートがエルメロイII世に飛びかかろうとするが、その瞬間レガシーが杖を振った。
「アセンディオ!」
突如、ヴォルデモートの姿が列車の天井を突き破り、飛ばされる。元々天井は開閉式だったのか、大した抵抗もなく飛ばされた。
飛ばされたヴォルデモートの姿を見送ったハートレスはにこりとフェイカーに笑いかける。
「さて…聞きたいことは聞き終えましたし、そろそろ退散しましょうか」
「ああ」
フェイカーはハートレスを抱えると、空いた天井へ飛び上がる。
「行かせるか。グレイ、カウレス。追うぞ」
「わかりました」
「は、はい!」
フェイカーが飛び上がったのを追うため、エルメロイII世はグレイとカウレスの肩を組む。グレイとカウレスは杖を取り出すと、穴に向けて杖を向けた。
「アセンディオ!」
エルメロイII世達もフェイカーとヴォルデモートを追って飛び上がり、列車の上に着地する。フェイカーとハートレスはもちろん、ヴォルデモートも列車上にいた。
「やれやれ…ここで別れるのが賢明だと思うのですが。怒り心頭の方もいることですし」
「そうはいかない。あなたが盗んだ聖遺物を返していただきたい」
「おお、いいでしょう。召喚が終わった以上、もう不要ですからね」
ハートレスは聖遺物を取り出すと、風に乗せるようにしてエルメロイII世に渡す。その瞬間、悪霊の火が襲いかかってくるものの、フェイカーが悪霊の火を切り裂いた。
「まだいたのか」
「邪魔をするな亡霊如きが!」
突如、ヴォルデモートが杖を空に掲げる。杖から放たれた魔法は空を覆い、髑髏のような雲が作り出された。髑髏の口から煙のようなものが吹き出してくると、列車と並走するように飛行してくる。
「グレイ!」
「プロテゴ!」
グレイはエルメロイII世とカウレスを囲うように盾の魔法が展開され、同時に盾の魔法に複数の魔法が直撃して弾けた。
「死喰い人を呼んだか!」
(一掃…いや、まだ魔力が足りない。どうすれば)
グレイの持つ宝具であれば、死喰い人を含めた全員を退けさせることはできる。だが魔力の充填がなければ解放できない。今はまだ溜まっていないため解放ができない以上、各個撃破するしか手段がない。だがこうも飛び回られていると、グレイであったとしても相手にすることは難しい。
どうすれば、と歯噛みした瞬間、煙の一つが白く爆発した。
「殺人犯の僕に助けられるのは癪かもだけど、助太刀するよ」
姿現しでグレイ達の隣にレガシーが現れる。
「…信じていいんですか?」
「うん。
そう言ってレガシーはグレイ達とフェイカー全員が入るほど大きな結界を展開し、どこかから取り出したバッグの口を開く。するとバッグからはヒッポグリフが現れ、レガシーを乗せて空に飛び立ち、死喰い人達を叩き落とし始めた。
「ほーらトム!もう少し僕と遊んでいこう!」
「殺す!」
殺気立ちながらもヴォルデモートはレガシーに向けて魔法を放つ。ヒッポグリフと共にあまりにも場違いな笑い声を上げながら飛ぶレガシーを見てフェイカーはハートレスの手を取った。
「ちょうどいい。今のうちに行くとするかマスター」
「待てフェイカー、お前にはまだ言うことがある」
フェイカーに向けてエルメロイII世は杖を向ける。フェイカーは呆れたようにため息を吐きながらも剣を抜いた。
「どれだけ回る口なんだお前は」
呆れるフェイカーに構うことなくエルメロイII世は続ける。
「ヘファイスティオンという名は、ヘパイストスという男の名から派生した名だ。故に、性別も出身も曖昧になる。ヘファイスティオン…お前の兄は忠臣として育てられ、妹であるお前は魔術的な影武者として育てられた。当時の魔術はより強大であるが故に、王へと向けた呪詛も強力だった。だからこそ、魔術的な身代わりが必要であり、それがお前だったのだろう」
「っ!黙れ!」
フェイカーが激昂し、エルメロイII世に迫る。グレイが鎌を構えると、踏み込んできたフェイカーの足元から電気が迸った。
「させない。ぶっつけ本番だけど、練習してたこれなら時間稼ぎにはなる。
「アッド、喰らって!」
グレイが鎌を振り抜くと、反撃するようにフェイカーから衝撃波が放たれる。この衝撃波は魔法によるものだと、グレイは本能的に感じ取った。
「今のは…」
「そいつは魔術師だ。イスカンダルの時代の魔術師…つまり、神代の魔術師だ」
「っ!」
「魔術的な身代わりになるのなら、自らが魔術師や魔法使いになるのが一番手っ取り早い。加えて、あなたはイスカンダルへの呪いが自分にくるようにするため、イスカンダルの偽の情報を流し続けたのだろう。実際にイスカンダルの名代として動くこともあったのやもしれない。だからイスカンダルの姿はあなたのそれが多く混じった」
イスカンダルは伝承だと小柄かつ黒髪、そして瞳の色が左右で異なると伝わっている。だが
「解体ですね。ヴォルデモート卿にも行っていた」
「ああ、ご高説賜った礼に教えてやる。元々、私に名はなかったんだ」
「……名前が、ない?」
「なるほど。固有の名前がなければ、完全なる王の影武者になりきれるからだな。イスカンダルという王へのあらゆる呪いに対して、『名を持たない』ことで無欠にも思えるほど強靭な盾になれるということか」
「そうだ。あの王はそれでも私に何度も名を与えようとしたがな」
「そこまで互いに信頼を寄せていたというのなら尚更、大きな疑問が残る。あなたが
フェイカーがエルメロイII世の口を封じようと剣を振り下ろし、杖を抜いてグレイを攻撃してくるが、グレイはアッドを盾の形に換え、さらには盾の魔法を使うことで攻撃を防ぐ。
「そこをどけ!」
「どき、ません!」
「名を与えようとしたと言ったな!それを拒んだのは、名があっては身代わりになれないと思ったからだろう!間違いなくあなたはイスカンダルという王の忠臣の一人だ!そんなあなたが王の呼びかけに応えなかったのは、あなた自身が
「黙れぇ!」
激昂したフェイカーの左目が輝いた。
(強制の魔眼!師匠!)
グレイはフェイカーが魔眼を使おうとしていることを本能的に察知する。グレイ自身はともかく、エルメロイII世の場合は対抗手段がない。咄嗟にアッドを盾から鎌に換装し、フェイカーを攻撃することで魔眼の発動を防ごうとするも、間に合わない。フェイカーの瞳は的確にエルメロイII世を射抜いた。
しかしその瞬間、フェイカーの体が停止する。
「何っ⁈」
その隙をグレイは見逃さない。アッドを振り抜くことで、フェイカーの魔力を多く取り込みつつ、フェイカーの体に傷をつけた。
「ちぃ!私が魔眼に頼るのを待っていたのか!」
「ああ、きっと魔眼に頼ると思っていた。無論私ではなくミス化野の魔法だがね」
エルメロイII世が掲げていたのは、眼球を模したレンズ…ナザール・ボンジュウ。魔眼へのカウンターとして使える、トリシャが持ち込んだお守りだった。魔眼殺しほどの防御力はないものの、エルメロイII世はこの瞬間において最高の切り札を切ることで、一時的ではあるものの魔眼を封じ込めた。だが高位の魔眼を封じ込めたことにより、ナザール・ボンジュウは砕けてしまう。
砕けたナザール・ボンジュウが列車の風に吹かれて消えていくのを眺めながらエルメロイII世はフェイカーに目を向けた。
「…あなたの物言いからすると、あなたは心の底からイスカンダルを最高の王だと信じ、イスカンダルの忠臣であることを誇りに思っているのだろう。だからこそ私のような者が臣下であることが気に食わなかった。だが、あいつの性格からすると…私とヘファイスティオンの名を持つあなた達兄妹を会わせようとしたかもしれんな」
「たかが半月程度付き従った程度で失われた我が王を語るな!」
「失われてなどいない」
激昂するフェイカーをエルメロイII世は真っ直ぐ見据える。その瞳に宿る光は、かの王の臣下として恥じることのない、金剛石の如き硬い意志を宿していた。
その瞳が気に入らなかった。脆弱で、大した力も持たないが、その瞳が見据える先にあの王がいることを本能的に感じてしまうことが気に食わない。
剣をエルメロイII世に向け、再び肉薄しようとしたその時、エルメロイII世達を覆っていた結界が砕けた。そしてヒッポグリフに乗っていたレガシーが列車に落ちてくる。
「カウレス、受け止めろ!」
「はい!」
カウレスはクッション魔法でレガシーを受け止める。レガシーの体にはいくつもの傷ができており、ボロボロだった。乗っていたヒッポグリフはレガシーが持っていたバッグの中に落ちていくように戻っていった。
「いてて…さすが闇の帝王だ…正面からじゃあ無理だったよ」
「大丈夫かね」
「うん。とりあえず、取り巻きは全部倒しておいたよ」
グレイが周囲を見渡すと、確かに死喰い人の姿がない。この僅かな時間でヴォルデモート以外の死喰い人全員を倒した事実にグレイは目を見開く。
とはいえ、ヴォルデモートは別格。死喰い人達を相手にしながら戦うことは難しく、致命傷にはならなかったものの、これ以上の戦闘は難しいくらいには追い詰められた。
ハートレスは杖を手にしながら、背後に視線を向ける。ヴォルデモートは怒りに表情を歪めながらエルメロイII世達を睨んでいた。ローブもいくらか損傷しているあたり、レガシーの攻撃はそれなりに通じてはいたようだった。
「…ヴォルデモート卿が万全に戻りましたか。フェイカー、退きましょう。今ここでヴォルデモート卿を相手にするつもりはありません。彼を相手にするとなれば、万全とは言えない貴女では無事に終わる保証はない」
「……いいだろう」
魔眼を封じられ、グレイによって魔力もかなり消耗させられた。
不承不承といった雰囲気ではあるものの、フェイカーはエルメロイII世に背を向ける。しかしその背中を呼び止めるようにエルメロイII世は口を開いた。
「待てフェイカー、まだ話は終わっていない」
「俺様を差し置いてその下らん問答をまだ続ける気か?」
ヴォルデモートの杖から緑の閃光が走る。しかしヴォルデモートがそうくることを読んでいたハートレスは杖を抜くと、ヴォルデモートの魔法と競り合うように魔法を放った。
「俺様と競り合えるだけの魔法とはな!」
「これでも、時計塔の先代学部長なので。それに、今回の事件は私のわがままで起こしたことだ。少しくらいは役に立たないと」
威力はヴォルデモートの方がはるかに上だが、ハートレスは魔法を上手く使うことでヴォルデモートの攻撃を捌いていた。
ハートレスにヴォルデモートを任せ、フェイカーはエルメロイII世に剣を向ける。
「何故、あなたは王の軍勢を憎んでいる」
エルメロイII世は杖を下ろしながら問いかける。かの王の部下である自身にとっては、それが何よりも気にかかることだった。
エルメロイII世の問いかけに、フェイカーは視線を鋭くしながら応えた。
「決まっている。王の築き上げた全てを破壊した愚か者の集団だからだ!そんな結末を知っているのに、なおあの愚か者共と轡を並べようとする兄も憎い!」
「…なるほど、そういうことか」
イスカンダルは『最強の者が国を治めよ』と遺言を遺して亡くなった。この遺言がきっかけとなり『
王の身代わりであったフェイカーは、当然イスカンダルよりも先に死んだ。そして後継者戦争の顛末は英霊の座で知ることになり、顛末を知ったからこそ王の軍勢に加わることを拒絶した。王のことを心から尊敬していたが故に、築き上げた全てを破壊したその部下達と並び立つことが許せなかったから。
「ふ、ふふふ…」
小さく笑うエルメロイII世に、フェイカーは眉を顰めた。
「何がおかしい」
「いや、らしいと思ったにすぎん。あれだけの大遠征を強いてなお、数万の兵士と絆を結ぶほどの大王が、自分の影武者にそっぽを向かれるとはな。詰めが甘いんだ。実は才能ないんじゃないか?」
エルメロイII世は穏やかに笑う。
「ありがとう」
「……何を」
「ずっと、考えていた」
それはあの背中が貫かれ、消えていく様を見届けてからずっと。
あの背中を追いかけて、至るべき場所を探し続けたが、何をすればいいのかなどわからない。英霊の器ではない己がどうすべきかなど、わかるはずもない。弟子ばかり育っていく様を見届けることしかできなかった。
「だが、これだけは胸を張ってあいつに言える。もう一人のお前に一矢報いることができたとな」
フェイカーは一度目を閉じ、開くと同時に剣を空に向けた。
「私に勝てるつもりか」
「さてね」
「…魔眼と魔法を封じた今、私が弱体化していることは認める。加えて…」
突如、フェイカーは剣を背後に向けて振り抜き、ハートレスに向けて放たれていた呪詛を切り裂いた。
「三つ巴の状況である今、お前たち全員を纏めて消し去るための手段が必要だ。故に、私がとるべき手段が決まった」
フェイカーが再び空に向けて剣を掲げると、空が裂けた。
「あれは…!」
「宝具…!」
現れたのは、骨の翼竜と戦車。フェイカーと初めて遭遇した時にも見た宝具だった。ただし、あの時とは比較にならないほどの魔力を激らせていた。
「お前たちも、あの魔法使いも…まとめて屠ってやろう。マスター!」
フェイカーはヴォルデモートとの撃ち合いを続けるハートレスに手を伸ばし、ハートレスもその手を取る。フェイカーが視線を宝具の戦車に向けると、姿あらわしの魔法で戦車へと乗り込んだ。
ヴォルデモートの杖から緑の閃光が迸るが、翼竜はその翼一振りでヴォルデモートの魔法を消し去る。
「ほう!俺様の魔法をここまで簡単に消し去るとは!素晴らしい魔力だ!」
「王がゼウスの神威によりて戦車を操るように、私は魔術で戦車を操った。王の部下だと宣うのなら、生き延びてみせろ」
翼竜は空を駆け、魔力をさらに激らせる。例えヴォルデモートであったとしても、通常通り魔法を放つだけでは到底対抗できない。
「良かろう。ならば俺様の全力を見せてやろう。俺様の力が宝具にも通ずるか…ここで試すとしよう」
ヴォルデモートは杖を高く掲げる。その瞬間、ヴォルデモートから凄まじいほどの魔力が迸った。グレイにはどんな魔法なのかまだわからないが、あれが放たれてフェイカーの宝具とぶつかり合えば、グレイ達は纏めて吹き飛び、エルメロイII世は確実に死ぬ。そう思えるほどの魔力だった。
「グレイ、お前に任せる」
「師匠」
「あれが相手となると、私にできることはない。一応聞いておくが、レガシー。君は何かできるかね」
「余波を防ぐ防壁くらい。結界張るのに魔力かなり使っちゃったから」
「だそうだ。グレイにできなければ、もうどうにもならん。私の命は君に預ける」
そう言われてグレイは空に視線を向ける。フェイカーの宝具とヴォルデモートの魔力。どちらも常人離れしたもの。並大抵の手段ではどうすることもできないだろう。
なれば、グレイが取れる手段は一つしかない。幸い、フェイカーへの攻撃により魔力は十分充填された。今なら、解放できる。
「突破します」
そう言ってグレイは鎌を地面に突き、構えた。
光が鎌から伸び、少しずつ鎌から『槍』へと姿を変えていく。
「
聖なる光が槍の形へと姿を変えていく。
「
「…驚いた。これは宝具だね。人の身で扱えるなんて。彼女こそ封印指定ものだろうに」
レガシーはそう呟きながらも自分とエルメロイII世、カウレスを盾の魔法で包む。
「…グレイさん。その槍には祈りが詰まっている。十三のカタチに凝縮された祈りだ。耳を澄ませれば、槍の声に、古く誰かの祈った在り方が聞こえてくるだろう」
祈り。そう聞いてグレイは耳を澄ませるように槍へと意識を集中させる。微かに『声』に近い何かが聞こえる。
これが祈り。かつて誰かがこの槍へと込めた、祈り。
『イッヒヒヒヒ!在り方と来たぞグレイ!お前はずっと膝を抱えて部屋の隅で俯いていただろうが!そんなお前が、自分がどう在りたいとか考えるはずもなかったってのにな!でもなあお前も自分に聞くべき時だぞ!お前はどうしたいのかってな!ああお前がどうにかなりたいってんなら、そりゃあ口に出すべきだ!』
響くのは、アッドの声。
自分がどう在りたいか。確かに、考えたことはなかった。少なくとも、師匠に出会うまでは考えなかった。ただただ、自分がなくなってしまうことを恐れていただけ。
「拙、は…」
今はどうだろう。師匠だけでなくエルメロイ教室の生徒、ホグワーツの生徒とも触れ合った今、自分がどう変わったか。彼らと共に過ごした時間を、失いたくない。彼らと過ごす穏やかな時間が好き。
「拙は…」
この時間を、みんなを守りたい。
「師匠を、みんなを…守りたい。守れる自分で、いたい」
これがグレイの出した答えだった。
師匠のように誰かを導くようなことはできない。でも、師匠を、師匠と共にいる皆を守ることはできる。
今自分がどういう風に在りたいか。その答えが、皆を守れる自分であることだと、グレイは強く自覚した。
ヒヒヒ、確かに聞いたぞ。
愚図グレイ
槍が高く空へと掲げられる。
その槍の姿を見て、ヴォルデモートは目を見開き、高らかに笑った。
「は、ははは!はははははは!そうか、
ヴォルデモートの魔力がさらに上がる。グレイにはわからないが、大規模な魔法を放ってくることだけはわかった。
フェイカーの宝具もヴォルデモートの魔法も纏めて突破する。それしかグレイには選択肢がない。だが今ならできる。そう確信できる何かを感じていた。
是は、己よりも強大な者との戦いである
──承認、ベディヴィエール
是は、生きるための戦いである
──承認、ケイ
是は、真実のための戦いである
──承認、アグラヴェイン
是は、人道に背かぬ戦いである
──承認、ガヘリス
是は、精霊との戦いではない
──承認、ランスロット
槍に込められた
擬似人格停止
魔力、臨界点を突破
槍の拘束が外されていく。
同時に、フェイカーの宝具がヴォルデモートとグレイに向けて駆け始め、ヴォルデモートの術式が完成した。イスカンダルと同じ戦車を魔術により操るフェイカーの宝具と、悪霊の火をさらに複数の悪霊で呪い、死の呪いも混合させた最高峰レベルの呪いが放たれた。
「いざ駆けよ!『
「ペスティス・インセンディウム・マキシマ!」
三つ巴の状況下、フェイカーとヴォルデモートがそれぞれ奥義を放つ。
グレイはそれらが迫り来るのをただ淡々と見つめていた。
祈りが込められた槍。螺旋状に捩れたような光が空を貫くように掲げられた槍を構え、迫り来る脅威を見据えた。
守る
ただその一心で槍を構えた。
「聖槍、
「
光が翼竜を、魔法を纏めて包む。
「裏返れ、僕の心臓」
その言葉がグレイの耳に届くと同時に、翼竜と魔法が消し飛ばされる。
そして何も見えなくなった。
「グレイ」
目を開くと、目の前にエルメロイII世の顔があった。
「師匠…どう、なりましたか?」
起き上がると、何もない空が広がっていた。エルメロイII世に支えられて立ち上がると、遠くにロンドンの街が見える。そして空は白み始めていた。
「どうやら、二人とも寸前で逃げ切ったようだ」
「あの状況下で?」
「ハートレスは虚数魔術に近い何かしらの魔術を、ヴォルデモートは
ハートレスは自身特有の魔術、ヴォルデモートは予め用意していた移動キーでギリギリのところで逃げた。どちらも無傷では済んでいないだろうが、致命傷には至っていない。しかし、再起するには少し時間を要する程度にはダメージを受けていることは予想に難くない。
「いやぁ、すごいね」
起き上がったグレイとエルメロイII世にレガシーが歩み寄ってくる。その姿は相変わらずセバスチャンのままだが、傷ついたローブはすでに修復されていた。
「レガシー」
「まさか人の身で宝具を使えるなんてね。個人情報だしあまり詮索はしないし封印指定を受けてる僕が言うのもアレだけど、とんでもない力を持っているね」
レガシーは真剣な表情をしながらグレイに歩み寄る。
「助けてくれたお礼に、一つ忠告と手助けをしてあげる」
「忠告…?」
「君が持っている魔法道具…君らの界隈に合わせると、礼装と言うべきかな?グレイさん、君の礼装は一種の封印だ。
「どういうことですか?」
グレイは匣に戻ったアッドを抱えながら尋ねる。
「
「封印そのものが壊れかねない、と」
エルメロイII世の言葉を肯定するようにレガシーは肩を竦める。そして手に持った杖をアッドに向けた。
「レパロ」
白い煙が杖から吹き出し、アッドを包み込む。包まれたアッドには特に変化はないように見え、グレイは首を傾げた。
「少しだけ礼装の負担を軽くできる魔法をかけた。とはいっても、僕が有する神秘じゃあ完全には無理。手助け程度だよ」
「ありがとう、ございます」
気にしないでと言いつつ、レガシーは杖をローブにしまう。
そんなレガシーにエルメロイII世は歩み寄った。
「レガシー、まずは私とカウレスへの保護呪文、感謝する。君が扱う魔法については、こちらも詮索しない」
「そうしてくれると嬉しい。話してもいいけど、ここでは勘弁」
「ああ。それより、君の目的について聞きたい。私たちに会うことが目的だと言っていたな。どういうことか、説明してもらえるかね」
レガシーの目的は『二人に会うこと』だと言っていた。初めて会うはずのレガシーが何故自分とグレイに会うことを目的として魔眼蒐集列車に乗り合わせたのか。これについてはエルメロイII世にも推測できなかった。
それを理解しているレガシーはエルメロイII世の言葉に頷く。
「もちろん。じゃあ簡潔に話そう。僕はアルバス・ダンブルドアの使者だ。君に協力を望んだアルバスのためにここに来た」
「ダンブルドア教授の使者だと?」
「うん。本来ならアルバス自身で来るべきだし、本人もそのつもりだった。だけど、今のアルバスはそれができない状態にある」
どういうことだとエルメロイII世が視線で問いかけると、レガシーは真剣な表情で言った。
「アルバスはとある事情で呪いを受けてしまった。だから君に直接お願いをしにくるのではなく、僕が代理で来た。ただ僕は君たちのことを知らない。だから信頼に足る人物かどうかを確かめ、アルバスのもとへ連れて行く。これが僕の目的だ」
「協力…具体的には、どのような協力を?」
「さあ?それはアルバスに直接聞きな」
エルメロイII世は目を細める。アルバス・ダンブルドアが現状存在する魔法使いの中では最高峰の存在であることはレガシーも理解しているはず。そんなアルバス・ダンブルドアが直接赴くことすらできないほど強力な呪いだとすると、ただ事ではない。
「…ダンブルドア教授の状態は?」
レガシーは表情を変えることなく言う。
「端的に言えば、一年以内にアルバスは死ぬ」
レガシーの言葉にエルメロイII世だけでなく、グレイとカウレスも目を見開いた。あのアルバス・ダンブルドアが解除することもできないかつ、死に至らしめるほどの呪いを受けた。その事実はアルバスを直接見たことのないカウレスですら驚愕するものだった。
「受けた呪いは極めて強い。僕らも進行を遅らせることと封じ込めることはできたけど、解除はできない。だから、遠くない未来にアルバスは死ぬ」
「……レガシー、今すぐホグワーツに向かうことはできるかね」
エルメロイII世の怪我は治りきっていないし、グレイもフェイカーと斬り合ったことと宝具の解放で大きな負担がかかった。本来ならすぐにでも休まなければならない状態ではあるものの、それよりもダンブルドアの状態を確認し、ダンブルドアが自分とグレイに何を求めているかを知るべきだと判断した。
レガシーはにこりと微笑むと、エルメロイII世に手を差し出す。
「もちろん。今すぐ行けるよ」
「…カウレス、すまないがライネスとメルヴィンに事情の説明と持ち込んだ荷物を頼む。事情を把握したらすぐに戻るつもりだ。明日には戻ると伝えてくれ」
「は、はい先生」
カウレスが列車に戻るのを見届けたエルメロイII世とグレイはレガシーの手を取る。
「じゃあ行こう」
「…ここからホグワーツまで、姿現しで行くのかね」
「うん。僕、得意でね。ロンドンからホグワーツくらいなら、誰もバラけずに行ける。じゃあ行こう」
空気が弾けるような音と共に、グレイ達の姿が列車から消えるのだった。
グレイ達がホグワーツに向かったのと同時刻のマルフォイ邸には、エントランスに突如現れ、そのまま倒れ伏したヴォルデモートの姿があった。
「わ、我が君⁈いかがなされたのですか⁈」
ドラコの母親であるナルシッサ・マルフォイが突如現れたヴォルデモートに驚きの声をあげる。
ヴォルデモートはローブに攻撃を受けた跡がいくつもあり、戦闘後であることが容易に想像できる。だがナルシッサには、ヴォルデモートがここまでなる様を見たことがないため、驚きと恐怖が半々となった感情のままヴォルデモートを助け起こす。
「くく、くくく…」
ヴォルデモートは笑っていた。何故笑っているのかわからないナルシッサは、困惑した表情を浮かべる。
「見つけた、見つけたぞ!ああやはり俺様が感じた気配は間違いではなかったのだな!」
「我が、君?」
「見つけた!これで俺様は不死を実現できる!くくく…はははははは!グレイよ!お前は俺様のものだ!」
ここまでボロボロだというのに楽しそうに笑うヴォルデモートに戸惑っていると、ヴォルデモートはナルシッサに目を向けた。
「ナルシッサよ、これから全ての死喰い人や俺様の配下達に伝えよ。グレイという娘を捕えろとな。ただし、決して殺すな。必ず生きて俺様の前に連れてこい、とな」
それだけ言ってヴォルデモートは高らかに笑いながら立ち上がり、去っていく。
残されたナルシッサは訳が分からず頷くしかできなかった。
次回からまたホグワーツに行きます。
さあハリー、出番だよ。
Q.魔法省からの違約金ってどのくらい?
A.ライネスと菱理さんのドSコンビが魔法省大臣及び財務担当に死ぬほどふっかけて、魔法省の運営に支障が出る一歩手前まで搾り取りました。具体的にはエルメロイ派の借金の二〜三割程度が返せるレベルの巨額。シンプルなお金だけでなく、土地や呪物、聖遺物などもこれに含まれます。ハリウッド映画の制作費は高いものだと二、三億ドルほどなので、それを基準に考えてもらえればと思います。結局法政科と半分ずつになったので、エルメロイ派に入って来たのは借金の一割五分程度です。既に返済に使われたので聖遺物や呪物以外はほとんど残ってません。
Q.抱影の魔眼が見られる過去が『見た瞬間の時間を基準にした過去のみ』って公式?
A.私の想像です。型月では時間を超える事例はあまりないため、実際とところどうなのかはわかりません。ただ、本作を書き始めた時から『抱影の魔眼と逆転時計を組み合わせたらどうなるんだろう』という考えが私の中にありました。今回、謎のプリンスの前に魔眼蒐集列車編をいれたのも、この組み合わせの事件を書きたかったからです。私の妄想と趣味全開ですが、大目に見ていただけると幸いです。
Q.ヘファイスティオンはどうしてお辞儀様のことを醜悪な者扱いしたの?
A.分霊箱を作ったのが一目でわかったからです。分霊箱を開発した腐ったハーポは紀元前5世紀頃、イスカンダル、ヘファイスティオンは紀元前4世紀頃の人間なので、ヘファイスティオンが生きていた頃には既に分霊箱がありました。魔術師であるヘファイスティオンも当然分霊箱については知っていましたが、当時の人から見ても醜悪な魔法だったようです。
単純な魔法の威力
ヘファイスティオン>>お辞儀様>ハートレス≧グレイ>化野さん>カウレス>>(越えられない壁)>エルメロイII世
魔法の扱い
ヘファイスティオン>お辞儀様>ハートレス>化野さん>>エルメロイII世>カウレス>グレイ
グレイは防衛術関連全般は闇祓いでも上澄みですが、その他の魔法はからきしです。ホグワーツに通ったおかげで基礎は身につけましたが、基礎レベルです。
ロード・エルメロイII世
話が長すぎます。3行で纏めてください。タイピングする身にもなってください。
グレイ
エルメロイII時の話は大体理解しているけど時折わからなくて宇宙猫になっていた。
レガシー
レガ主。あることを目的として列車にやってきた。ルックウッドが乗り合わせたのは本当に偶然だが、まだ悪さしてるみたいだし殺すかくらいのノリで殺した。実は七年前の事件の時、魔法省から派遣された人間になりすまして現場に来ている。その時は『ソロモン・サロウ』と名乗っていた。ただ事件の方には何も関係ないため書くことがなかった。
属性は善・混沌
ドクター・ハートレス
ルックウッドが死んだことに対しては結構本気で謎に思っていたため、エルメロイII世の推理を聞いて納得。犯人と聴衆、両方の立場を併せ持つ人。
ヴォルデモート
結局、目的としていたものは何もかも得られなかった上、ガチで邪魔者扱いされていた。ただグレイの宝具を見て、何かを確信した模様。ヤックスリーは菱理さんに連れて行かれました。
次回から本格的に謎のプリンス編です。
とりあえずエルメロイII世にはWWWに行ってもらいます。
謎のプリンス編で一番書きたい部分はむしろそこなので。エルメロイ教室の生徒と双子を絡ませるつもりなので、お楽しみに。