ホグワーツ教師 ロード・エルメロイII世 作:木材
胃薬の準備をお願いします、ロード・エルメロイII世。
…ああそこの君、何関係無さそうな顔をしているのかね。
そう、君だよポッター。君も胃薬の準備をしておくことだ。
近いうちに必ず必要になる。
そうは思わんかね?(外道神父ボイス)
シリアス回です。
「ああ…ああ、ウェイバー…」
「ダンブルドア、教授…」
レガシーに連れられ、エルメロイII世とグレイはまだ新学期が始まっていないホグワーツに足を踏み入れた。
そしてダンブルドアが待つ校長室に真っ先に向かうと、そこにいたのはやや憔悴したスネイプと、明らかに弱りきったダンブルドアの姿。終業式の際にあった活力は見る影もなく、今にも倒れてしまいそうなほど弱っているのが一目見ただけでわかるほどだった。
「…すまぬ、君が…君が、大変な時だと言うのに…」
「あなたには大きな恩がある。駆けつけるのは当然のこと。それより、一体何があったのですか」
呪いを受けたということまでは聞いた。だが問題はどうしてこうなったのか。それが最も大きな謎だった。
啜り泣くダンブルドアに代わって、傍らにいたスネイプが口を開く。
「…ダンブルドア教授は、闇の帝王を倒すためにある物を探していた。そのある物を見つけたが…ある物にかけられていた呪いを受けてしまったということだ」
「ある物…?」
「君が先日、吾輩へと提示した推理があっただろう」
「分霊箱…!見つけたのですか⁈」
エルメロイII世の言葉にスネイプはダンブルドアの目の前にあるデスクへと目を向ける。そこには貫かれた一冊の本と、黒い石がはめられた指輪があった。
「この指輪が?」
「分霊箱だ。既に分霊箱としては破壊しているが、防衛機能である呪いは残っている。下手に触れてはならん」
エルメロイII世は杖を抜き指輪に浮遊魔法をかけ、指輪を観察する。グレイ視点では特に変わった様子はない、何の変哲もない指輪に見える。しかしエルメロイII世は指輪に刻まれた紋様を見て、目を細めた。
「……この石に刻まれた紋様、見覚えがある。確か…死の秘宝を示す紋様では?」
「左様。その石は…蘇りの石だ」
「蘇りの石…!まさか現存しているとは…」
驚いたように声を上げるエルメロイII世だが、グレイは何がなんだかわからず首を傾げる。グレイの様子を見たエルメロイII世は、グレイが事情を理解していないことを察すると、指輪をデスクに下ろして杖をしまった。
「レディ、君は『死の秘宝』または『三人兄弟の物語』を知っているかね」
「いえ…」
「魔法界では有名なお伽話だ。今回のことに関係するため、簡単に概要だけ講義しよう」
『三人兄弟の物語』は吟遊詩人ビードルによって描かれたお伽話。
ある三人兄弟が川を渡るために魔法で橋をかけた。その魔法の腕前があまりにも素晴らしく、無事に川を渡りきった三人兄弟の前に『死』が現れた。『死』は三人兄弟の魔法の腕前を讃え、彼らに望む物をなんでも一つ与えると言った。一番上の兄は『最強の杖』、二番目の兄は『死者を蘇らせる石』、三番目の弟は『いかなる手段でも見つけることができないマント』を望み、『死』は望む物を与えた。
一番上の兄は杖の力に酔いしれたが、暗殺されて杖を奪われる。二番目の兄はかつて妻にと望んだ女性を呼び戻したが、生者として生きられず悲しむ彼女と一緒になるため自ら命を断つ。そして一番下の弟は、寿命が尽きると同時にマントを自分の子供に託し、『死』を古い友として受け入れた。
かくして、『死』は三人兄弟全員を手に入れた。
「大まかにはこういった流れのお伽話だ。死の秘宝とは、このお伽話の中で『死』が三人兄弟に与えた物のことさ」
「お伽話…なんですよね」
「ああ。ただこの三人兄弟の物語にはモデルとなった人物がいる。ペベレル三兄弟という過去に実在した人物だ。彼らは死の秘宝の作成者だと言われていて、魔術界隈でも有名だ」
「魔術界隈でも?どうしてですか?」
「封印指定を受けたからだ」
エルメロイII世の言葉にグレイは目を見開く。
「死の秘宝の再現は現状誰もできていない。近しい物ならばともかく、同じ性能を持つ物の再現が当時も現在も不可能だ。よって、彼らは封印指定を受け、魔術界隈でも名を馳せるようになった。実際のところ、彼らが作成したのか本当に『死』からもらったのかは定かではない。しかし、卓越しすぎた神秘は次世代への継承ができなくなる。封印指定になる条件としては揃っているわけだ。一般魔法界において封印指定を受ける事例は、魔術界隈と比較して少ない。こちらの界隈で有名になるのも頷けるだろう」
死の秘宝は再現が不可能と判断されたが故に、作成者であるペベレル三兄弟は封印指定を受けた。
そして封印指定を受けるほどということもあり、死の秘宝は現物が確認されている。しかし最後に三つの死の秘宝が確認されたのはかなり前の時代。それ以降は現物が確認されていないためお伽話としてほとんどの者が現物を信じていないのが現状だった。
死の秘宝についての講義が終わったところで、エルメロイII世が僅かにふらつく。傷も完治していない状態で来たため、体力の限界が近いのだろう。咄嗟にグレイが支え、近くのソファにエルメロイII世を座らせる。ただグレイも体力としては限界であったため、エルメロイII世の隣に腰掛けた。
「…ダンブルドア教授。何故、あなたは蘇りの石を使おうとしたのですか」
ソファに腰掛けたエルメロイII世がダンブルドアに目を向ける。エルメロイII世の視線を受け、ダンブルドアは弱々しく呟いた。
「わしは…家族に会いたかった。謝りたかったんじゃ…わしが犯してしまった過ちを……あの子に、謝りたかった」
「…アリアナ・ダンブルドアのことですね」
ダンブルドアは答えない。
「あなたの妹のことは聞きました。なので、気持ちは理解できます。それに既に起こってしまったことだ。これ以上の詮索はしません」
「まったく、馬鹿だよねぇアルバス。蘇りの石は指につけるんじゃなくて、3回手の中で転がすんだよ」
重々しく言うエルメロイII世に対して、レガシーの口調は軽い。だが声に宿る軽さは、どこか空元気のようにも感じられた。
「先輩…」
「今はレガシーって呼んでよ。先生達にはこう呼んでって言ってるから」
レガシーはダンブルドアの隣に立つやや憔悴したスネイプに目を向ける。
「セブルス、呪いの状態は?」
「ひとまず右手に呪いを封じ込めました。しばらくは右手がやや動かしにくい程度で済むでしょうが…やがては広がります」
「僕が出発する前に聞いた一年から、変わりはないんだね」
「…ええ」
グレイがダンブルドアの右手に目を向けると、右手がどす黒い痣のようなもので染まっている様が目に入る。一目見ただけで命に関わるほど強い呪いだとわかる。
「…僕の力でも、この呪いは解けない。不可逆の呪いとは…トムは本当にすごい魔法使いだ」
「そこまで凄まじい呪いだと」
「…ああ。こうして見ると右手のみが呪われているように見えるが、実際のところは魔術回路だけでなく、魂にまで絡みついている。仮に呪いを封じ込めた右手を切り落としたとしても、呪いそのものは消えない」
やはり魂を切り分けた物を守る呪いなだけあり、呪いの強さは凄まじい。ダンブルドアや特殊な魔力を持つレガシーですら、解除することはできない。
「……ウェイバー」
現状を把握したエルメロイII世に、ダンブルドアは弱々しく口を開く。
「はい」
「わしは…あと一年しか生きられぬ。じゃが、あと一年でトムを止めることは…不可能じゃ。トムを止めねば、魔法界に未来はない。トムを止めてくれとは言わぬ。じゃが…トムに立ち向かうことになるハリーを…助けてくれ。頼む…」
弱々しく頭を下げてくるダンブルドアにエルメロイII世は目を伏せる。ここまで弱々しくなったダンブルドアは、今まで見たことがない。ダンブルドアにとって家族のことはそれほどまでのトラウマなのだと理解すると同時に、かつての己と重ねてエルメロイII世は眉間の皺を深くした。
「…どこまでお手伝いできるかはわかりません。私自身、立場とやるべきことがある。ですが、必ずポッターの一助になることだけはここに誓いましょう」
「ありがとう…ありがとう、ウェイバー、グレイ…巻き込んですまぬ…すまぬ…」
弱りきったダンブルドアを前に、グレイは何も言えなくなってしまう。魔法省であれほど頼れる背中だったダンブルドアがここまで弱ってしまうほどの後悔とは、どんなものなのかグレイは知らない。だが、罠が仕掛けられているとグレイでもわかるような状態であったとしても、その後悔が判断を鈍らせた。それほどまでダンブルドアの心に深く突き刺さる出来事だったのだろうとグレイは察した。
弱ったダンブルドアに向けて、エルメロイII世は目を向ける。
「ダンブルドア教授。今、私にできることはありますか」
エルメロイII世には、やることが山積み。ロードとしての仕事と教師としての仕事はもちろん、今回の一件でハートレスとヴォルデモートに対してもすべきことができた。エルメロイII世にもキャパがある以上、できることは限られる。だがかつての恩師が弱る姿を前に、動かずにはいられなかった。
「……トムは、ヴォルデモートは…分霊箱を複数作り上げた。この指輪と日記…二つを破壊することには成功したが、確実にまだ複数ある。わしは、探さねばならない。しかし、闇の勢力は…ホグワーツに入り込もうと虎視眈々と機会を狙っておる。昨年のように常にいてほしいとは望まぬ。時折で良い…また、ここで教鞭を取ってはくれぬか」
「私が非常勤講師として働くことに、どういった効果が?」
「ウェイバーがホグワーツに来ることで、ホグワーツと時計塔のつながりを強調するのじゃ。トムも時計塔を相手にすることはできるだけ避けたいはず。君がホグワーツに来ることでホグワーツへの手出しを牽制し、動きを鈍くするために」
いくつかはわからないが、分霊箱はまだ複数ある。そのためダンブルドアは分霊箱に関する調査をする必要があった。だがヴォルデモートは勢力を拡大しつつあり、いつホグワーツに侵入してくるかわからない。その動きを牽制するためにも、エルメロイII世をホグワーツに呼ぶことを望んだ。エルメロイII世がホグワーツに来ることでホグワーツと時計塔の繋がりを強調し、ヴォルデモートがホグワーツへと侵入する動きを牽制。調査する時間を少しでも増やすための依頼なのだろうとエルメロイII世は判断した。
「…いいでしょう。試験前などの限定的な時期に限りますが、非常勤講師としてまたホグワーツで教鞭を取らせていただきます。それに、私もホグワーツで調べたいことがある」
「調べたいこと?」
「分霊箱についてです。私の推測が正しければ…分霊箱の一つはホグワーツにある可能性が高い」
エルメロイII世の言葉にスネイプは目を見開く。
「ダンブルドア教授のお話で、ヴォルデモートはホグワーツの教員になることを二度希望したとのこと。しかしヴォルデモートもダンブルドア教授も、お互い早い段階で警戒していることに気づいていた。互いに警戒しているとわかっていてもなお、二度の来訪。一度目はわかる。当時ダンブルドア教授は校長ではなかった。しかし二回目は既にダンブルドア教授が校長だった。教員になれる可能性はさらに低いのはヴォルデモートもわかっていたはずだが、それでもなお来訪した。それは別の理由があったと見ていいでしょう」
「それが、分霊箱を隠すことだと」
「ええ。分霊箱は強力な闇の魔法。必ず何かしらの痕跡が残るでしょうが、ホグワーツのように神秘の砦であればその痕跡も隠しやすい。加えて、一部の部屋は現れたり消えたりする。隠す場所としてはかなり良い場所と言えるでしょう」
エルメロイII世の推理を聞いて、ダンブルドアは視線を鋭くし、スネイプは目を見開いた。
「…では、君はホグワーツで分霊箱の捜索をすると?」
「限られた時間で見つけ出すに至れるかは…正直わかりません。しかし、何かしら手がかりくらいは見つけ出して見せましょう」
「……ウェイバー」
ダンブルドアに呼ばれ、エルメロイII世はダンブルドアに目を向ける。エルメロイII世の瞳に宿る光は、ホグワーツ在学中とは比べものにならないほど強く、まるで何か遠くの誰かを見据えているかのようだった。
「頼んでも、良いかの」
「承ります。形は大きく異なりますが、再び一助となりましょう」
「…ありがとう、ありがとう…」
ダンブルドアが弱々しく頭を下げる。エルメロイII世はふらつく体をグレイに支えてもらいながら歩み寄ると、ダンブルドアの肩に優しく手を添えるのだった。
*
非常勤講師として再びホグワーツへと赴くことを決めたエルメロイII世は、グレイと共にマダム・ポンフリーの治療を受けた。まだ新学期が始まっていないこともあり、マダム・ポンフリーの治療をつきっきりで受けられた二人は二日で退院できる程度に回復し、ロンドンへと戻ってきた。
スラーへと足を運ぶと、フラットを中心としてエルメロイ教室の生徒達が集まってくる。
「あ、教授!お帰りなさい!」
「フラット。故郷で色々あったそうだが…無事に終わったのかね」
「はい!モナコでのあれこれは無事完了です!」
ビシッと敬礼してくるフラットに頷く。その隣にはスヴィンもいた。
「先生、ご無事で何よりです」
「心配をかけたな。腕のいい癒者の治療をつきっきりで受けたおかげで、重傷ではあったが私もグレイもこうして問題なく動ける程度にまでは回復した」
「グレイたん!」
隣にいたグレイに気づいたスヴィンの目がぐりんとグレイに向く。怯えたように後退るグレイを庇うようにエルメロイII世は前に出ると、スヴィンの頭を小突く。
「グレイに近寄るなスヴィン。距離を取れ」
「す、すみません…」
スヴィンが大人しく下がり、呆れたようにため息を吐くエルメロイII世はフラットに目を向ける。
「とりあえずフラット、お前は原始電池に盗聴機能をつけたことについて反省文を書いてもらう。それから帰省中の宿題を四倍にしておくから、次の授業までに終わらせておくように」
「鬼ですか教授⁈」
「黙れ」
フラットの頭をアイアンクローで締め上げるが、そこで見慣れない物がエルメロイII世の目に入る。
「…フラット」
「はい教授!」
「その帽子、初めて見るな。どうした」
フラットの頭には見慣れない帽子があった。一見なんの変哲もない帽子だが、魔法の気配がする。また何かをやらかすのではないかと考えて聞いてみたところ、フラットはアイアンクローで締め上げられながらも満面の笑みで答えた。
「あ、これですか!最近できたお店の人と仲良くなりまして!仲良くなった記念にもらったんです!」
「魔法の気配がするな」
「さすが教授!この帽子は自分に向けられた呪詛や魔法を自動で判別して弾いてくれる帽子なんですよ!」
エルメロイII世の表情が固まる。あまりにも聞き覚えのある効果に、嫌な予感がした。まさか、そんなはずない。あの二人が卒業してからまだ一月程度しか経っていない。さすがにそこまでのハイスピードで店を構えられるとは思えない。そんなことがあってたまるかと、エルメロイII世の背中に冷や汗が流れる。
「……その帽子、どこで手に入れた」
「え?ダイアゴン横丁ですよ!俺たまに行くんです!いろんなお店あって面白いでしょあそこ!最近は例のあの人の手下にオリバンダーの店が襲われて一気に寂れちゃいましたけど…新しい店ができたんです!そこでもらったんですよ」
「新しい店、だと…」
エルメロイII世の表情が一気に険しくなる。
「はい!魔法道具を専門に扱ってるお店です!」
「その店は、なんという」
「
数日後、グレイはダイアゴン横丁へと赴いた。
「……そんな」
初めて赴いた時と様相が違いすぎて、思わず絶句してしまう。あれほど賑やかで人に溢れていた明るい町は既になく、荒廃してしまった町並みはかつての姿を連想できないほど荒れていた。ほとんどの店は閉めており、空き家になっている場所すらあった。
「先日、死喰い人がダイアゴン横丁を襲撃したと新聞に出ていた。私たちが魔眼蒐集列車に乗車してすぐのことらしい」
「どうして…」
「一番の理由は、オリバンダー翁だろう」
エルメロイII世はオリバンダーの店『だった』場所を見上げる。内部から爆破でもされたかのようにめちゃくちゃになっており、あの静かで歴史のある店の様子は見る影もなかった。
荒れ果てた店の扉を開けてグレイは内部に足を踏み入れる。古い木の匂いがしたはずの店は焼けこげた匂いに変わっており、たくさんの杖を収納していた棚は倒れ、粉々になっている。たくさんあった杖の箱は根こそぎなくなっているあたり、杖は全て奪われたらしい。
「死喰い人…いや、ヴォルデモートにとって、杖を供給できるオリバンダーの存在は邪魔だったのだろう。杖があるのと無いのとでは、余程熟練の魔法使いでない限り…その力は大きく異なる。敵の戦力補給線を断つという意味では真っ当なやり方かもしれん」
「オリバンダーさんは…無事なのでしょうか」
一年前、グレイにトネリコの杖を売ってくれたオリバンダー。彼との付き合いはそこまでだったが、杖を見つけてくれたオリバンダーに対してグレイは一定の恩義を感じていた。
「生きてはいるだろう。だが、無傷ではあるまい。杖を作らせるために多少痛めつけられるくらいはありそうだ」
「オリバンダーさん…」
「今は彼の無事を祈るしかあるまい」
エルメロイII世とグレイはオリバンダーの店を出る。外で待っていたフラットは真剣な表情で店を見上げた。
「フラット、お前の杖もオリバンダー製だったな」
「はい。俺が時計塔に来た時に買い替えました。だから…」
「無事を祈るとしよう」
杖を何度か修理してもらった身であるエルメロイII世としても、オリバンダーの身は心配ではある。しかし闇雲に動くわけにもいかない以上、今は祈るしかなかった。
足を進めると、荒れ果てたダイアゴン横丁とはあまりにも場違いすぎるほど明るい店を見つける。明るくライトアップされた店にはカタカタと動く人形まで展示されている。
この店を見つけた瞬間、エルメロイII世が白目を剥いた。
「あ!あそこですよ教授!俺の友達の店!」
「わあ、面白そうなお店ですね師匠」
「……………」
「師匠?」
フラットはさっさと走っていってしまう。本来なら追いかけるべきなのだろうが、エルメロイII世の足は動かない。
グレイもエルメロイII世があの店の店主であろう双子に手を焼かされたのは知っている。しかし、関係性は決して悪くなかった。むしろ、ホグワーツを去る時にわざわざ見送りにくるくらいの関係性ではあったため、ここまで嫌がる要素はないように思える。
「…グレイ、行くぞ」
「は、はい」
意を決したエルメロイII世が足を進め、店の扉を開いた。
「おーフラット!また来たか!」
「今回も新商品できてるぜ!試してみねえか?」
「本当⁈見たい見たい!今度はどんなの作ったの?フレッド、ジョージ!」
扉を開いた先には、赤毛の双子とフラットが楽しそうに魔法道具をいじくり回す姿があった。
双子はエルメロイII世の姿を見ると、パッと顔を明るくする。
「あー先生!きてくれたんだな!おっ、グレイも!久しぶり!」
「見てくれよ先生!俺たちの店、WWWだ!いい店だろ!」
「フレッド、ジョージ…やはりお前達か」
店主は予想通りフレッドとジョージだった。
卒業してからまだそう時間が経っていないというのにダイアゴン横丁の中で店を開店済みとは思わなかった。しかも既にフラットと交流を持っているとは本当に思わなかった。
「フラットから聞いてまさかとは思ったが…」
「フラットはうちの最初のお得意様だぜ。開店日からよく来てくれたんだ!」
「ダイアゴン横丁に新しい悪戯専門店ができるって聞いたら、そりゃ行くよ!いざ来てみたらすっごく面白いものばっかりだし!」
目を輝かせるフラットに呆れたようにため息を吐くエルメロイII世と苦笑いするグレイ。確かにこの双子とフラットは相性が良いだろう。
「でも驚いたぜ。まさかフラットが先生の教え子だったなんてさ」
「俺もだよ。教授がホグワーツに行ってたのは当然知ってるけど、まさか教授の教え子がダイアゴン横丁でこんな面白い商売してるなんて!」
「先生の教えは俺たちにとって超〜有意義なものだったからな!基本的に発明自体は俺たちがやってたけど、先生がいなかったらできなかったものとかもあるんだぜ。ずる休みスナックボックスの使い勝手の良さは先生の教えあってこそだ!」
「暴れバンバン花火も水対策についてアイデアをくれたんだぜ!あと何より、インスタント煙幕!これの環境設定は先生のアドバイスがあったから完成したんだ!」
「さっすが教授!」
褒め称えてくる三人を前にエルメロイII世は店全体を見渡す。あらゆる魔法道具が棚に敷き詰められているが、全部が全部悪戯用の魔法道具というわけでもない。フラットがつけていた盾の魔法を自動で出してくれる帽子やインスタント煙幕のように戦闘で役立つ物や、粘着力を活かして壁を登れるようにする靴、効果は短いが効き目抜群の惚れ薬など、かなり幅広い。
(…案外、普通に商売できそうなラインナップだ)
普段悪戯ばかりしている双子だが、かなり頭はいい。真面目に勉強すれば恐らく学年でトップレベルの成績を残すこともできただろう。そんな彼らが真面目に商売するとなれば、こうして悪戯道具以外の物も取り揃えるのは必然と言えるだろう。
少しだけ感心しながら店の奥へと足を運ぶ。店中央にある階段に足を乗せて2階へと向かおうとしたところで、エルメロイII世の足が止まった。エルメロイII世の後ろについていこうとしていたグレイは何かあったのだろうかとエルメロイII世の視線を追うと、そこには一枚の大きな肖像画が飾られていた。
不機嫌そうな視線と眉間に寄る深い皺。特徴的な長い髪は、見覚えのある容姿だった。
ロード・エルメロイII世の肖像画だった。
しかも肖像画には『グレートビッグベン☆ロンドンスター』と書かれている。
「わあ、師匠ですね!」
エルメロイII世は白目を剥いて額に青筋を立てた。
「おっ、みつけたな先生!」
「……ウィーズリー、この肖像画はなんだ」
青筋を立てながら問いかけるエルメロイII世に対し、まるで当然だろうとでも言うような表情で双子は答える。
「何って、見ての通り先生の肖像画だぜ。俺たちの商売が上手く行くためにも、どんな時も『先生ならどう言ってくれるか』ってことを考えながら動けるようにするために
「超いい出来だろ?この絵については、フラットが持ってた写真を参考に描かせてもらったんだ!何枚も失敗したけど、おかげで先生そのものとも言えるくらいそっくりな絵になったぜ!」
「本当に教授そのものだよジョージ!俺も写真を貸した甲斐があったってことだ!」
フラットの言葉にエルメロイII世の額に走る青筋が増える。
「フラット、お前…この肖像画を知ってて放置したのか」
「はい!だって教授の絵がこうして展示されてたらかっこいいじゃないですか!」
ドカン、と衝撃音が店に響く。
グレイが音のした方を見ると、店の隅にあった金属製のゴミ箱にフラットが頭から突き刺さっていた。
「貴様!何故こうなる前に止めなかった!」
「止めるなんてとんでもない!教授のすごさをダイアゴン横丁に来た人にも知ってもらうためにも大事なことですよ!なんなら俺は店の外にも見えるように置くことを提案したんですから!」
ゴミ箱に突き刺さったまま答えるフラットに、エルメロイII世はドロップキックをかます。情けない声と共にフラットは店の奥まで転がされていった。
エルメロイII世は双子に目を向ける。その表情には隠しきれない怒りが浮かんでいた。
「ウィーズリー…何故
「何故って、先生のおかげだからだ!先生が色々してくれたからこうしてスムーズに店を開けたんだ!先生がいなかったら、もっと時間かかってたぜ!」
「その感謝を込めて、先生の肖像画を飾ることにしたんだ。フラットの言うように店の外からでも見えるようにしようとも考えたんだけど、こっちの方が先生を称えている感じになるだろ?」
「そんなこと許した覚えはないぞ!」
キレ散らかすエルメロイII世を前に、双子は肩を組みながら笑う。
「やだなぁ先生、一年だけの付き合いだけど先生ならわかるだろ?」
「俺たちが許されなければやらないような奴に見えるか?」
次の瞬間、エルメロイII世はそこら辺に落ちていたカボチャと空箱を手に持ち、二人の頭目掛けてダンクシュートを叩き込んでいた。
「ぐぼ⁈」
「へば⁈」
「貴様らぁ!NEWTを通して少しはまともになったと思ったらこれか馬鹿者共が!」
卒業前、試験もあるということからか、双子の悪戯はなりを潜めていた。寮に関わらず勉強を教える双子の姿が見られたため、エルメロイII世の視点では多少真面目になったという印象はあった。
あったのだが、結果はこれ。やはり根っこはすぐに変わらないものなのかもしれないとグレイは思う。
「俺たちにとっちゃ先生は大恩人だぜ⁈そりゃ称えもするだろ!」
「黙れ
「フラットが先生のあだ名だって言ってたぜ!」
「フラットォ!!!」
店の隅で相変わらずゴミ箱に体が刺さったままのフラットの足が極められ、再びフラットの情けない声が響く。
「貴様は貴様は貴様はぁ!どこまでふざけ倒せば気が済むんだこの馬鹿者が!なんだそのふざけたあだ名は!しかもそれをまるで私が日常的に使われているような言い草で広めるな!」
「ぐええぇええぇ!」
痛みでのたうち回るゴミ箱に刺さったフラットを見てグレイは思わず感心してしまう。あれは前にルヴィアが見せてくれた淑女の嗜みではないか。さすが時計塔の君主である師匠なら、淑女の嗜みを部分的とはいえ修めているのだと尊敬の眼差しを向けていた。
あまりにも見かねたのか、双子がエルメロイII世の肩を叩く。
「先生、そのあたりにしてやってくれよ」
「フラットはうちのお得意様なんだからさ」
「お前達もお前達だ!どう考えても意味不明なあだ名を私の名前であるかのように書くな!」
エルメロイII世の言葉に双子は目を見合わせると、へらりと笑った。
「「だって、超面白いと思ったから」」
二人の頭が棚に突き刺さった。
問題児達を折檻し終えたエルメロイII世は埃を落とすように手を叩くと、杖を抜いて肖像画に向ける。
「インセンディオ」
火の魔法を放ち肖像画を燃やそうとするが、魔法は盾の魔法のようなもので弾かれた。よく見ると、盾は水でできている。
「これは…」
「いてて…保護魔法だぜ先生」
頭を棚から抜いたが、いまだにカボチャが頭に刺さったままのジョージが自信たっぷりの声色でそう言った。
「炎や水、爆破、斬撃、圧縮…いろんな手段に対して自動的に反対魔法を展開して相殺する。そんな術式を込めた保護魔法だ」
相変わらず空箱で頭を覆われたフレッドが言う。
「あらゆる魔法…とまではいかないかもだけど、普通の魔法に対してはほぼ確実に対処できる保護魔法なんだ。簡単にはいかないぜ」
「この術式…なるほど、フラットが被っていた帽子に込められた術式を応用したものか」
空箱が頭を覆ったままのフレッドが埃を叩きながら言う。
「ああ。フラットがこの帽子を見て、術式を解析したんだ。そんでそこから術式の応用アイデアを出し合って、盾の魔法じゃなく反対魔法で相殺できるような術式をフラットと作り上げたんだ」
「かなり苦労したぜ。盾の魔法を自動で出すならともかく、反対呪文だ。相手の破壊手段を自動で分析、適切な出力で放つように組んだ術式だ。すんごく繊細な魔法コントロール力が必要だったけど、そこはそういうの得意なフラットが手伝ってくれてな。おかげでここまでの完成度になったんだ」
フラットの魔力コントロール能力は凄まじい。時計塔の結界を全く悟られずにハッキングすることもできるほどの才能を持つため、術式構築の手伝い程度なら朝飯前だろう。
「反対魔法用の魔力は……予めの備蓄を使っているな。しかもこの備蓄は…店に入った客からチャージしたものか」
「さすが先生!その通り。俺たち魔法使いや先生達魔術師はみんな一定以上の魔力を持ってる。基本的に魔力は体内を循環しているが、体外にも微力ながら垂れ流される魔力がある。この術式はそういう垂れ流された魔力を自動的に吸収し、備蓄できるようにしてるんだ」
「人体に影響は与えない。微量レベルの吸収量だが、基本的には作動しないし、俺たちはいつも店にいる。客も来てそれなりに繁盛してるから、チャージは案外困らないぜ。それに、必要になる時はほぼないから」
「術式としては相当高度なものだ。だというのに、こんなふざけた使い方をするな」
よりにもよって何故自分の肖像画にそんなものをかけているのか。エルメロイII世からすれば理解に苦しむことこの上ないのだが、双子はまるで当然であるかのように言った。
「だって、恩人が傷つけられたら嫌だろ?たとえ絵であってもな」
「それにこの術式、作るのに超時間かかるんだ。フラットの手伝いがあれば多少短縮できるけど、フラットを頼りにしないとできないものを商品にはできない。だからこの店で一番壊されたくないものにかけることにしたんだ」
「…まったく」
そこまで言われてしまうと、エルメロイII世としても毒気を抜かれてしまう。それに、想定以上に双子が考えながら商売をしていることに感心してしまい、怒る気も失せた。呆れたようにため息を吐き、カボチャ頭と空箱頭の状態の双子を小突く。
「お前達が想定以上にちゃんと商売をしているのはわかった。私としては今すぐにでもあの肖像画は破壊したいところだが、どうやら私にはできないらしい。心底不快かつ業腹ではあるが私に対処ができん以上、放置するしかあるまい」
「へへ!先生ならそう言ってくれると思ったぜ」
「ただ、あのふざけたあだ名だけは書き換えろ。いいな」
「えー…かっこいいのに」
がっかりした双子を見て、エルメロイII世は小さく笑う。ふざけているが、真っ当に成長している姿は見ていて悪くない気分にるなる。アンブリッジのせいで散々な目にあったが、こういったことにも繋がるのなら案外悪くない一年だったなと、エルメロイII世は笑った。
「フレッドさんとジョージさん、師匠のことを本当に尊敬してらっしゃるんですね」
小さく笑うエルメロイII世に、グレイはそう言った。不機嫌そうな表情がデフォルトであるエルメロイII世がこうして穏やかに笑う姿はそう多くない。そんな機会を持ってきた双子は問題児ではあるものの、エルメロイII世にとって大切な生徒なのだろうとグレイは考えた。
「変な奴に懐かれたものだ。まあ、こうして悪戯以外にも真っ当な商売をしてるならいい」
「師匠のおかげだと、拙がホグワーツにいた時からよく聴いてました。師匠の教えはお二人にとって、とても有意義だったと」
「軽くアドバイスしたにすぎん。結局、あいつらが努力しなければどうにもならんのだから」
そう言ってエルメロイII世は不機嫌そうな表情に戻るが、声色はどこか明るい。ハートレスやフェイカーのこともあり、やや神妙な面持ちが多かったエルメロイII世だが、ここでは表情が少し柔らかくなっている。そんなエルメロイII世を見て、グレイは笑った。
せっかくきたのだし、エルメロイII世は他の商品も見てみるとしようと店をぐるりと見渡す。半分ほどはホグワーツ卒業前に個人的に開発したものや既製品を置いているようだが、いくつか知らない商品もある。
「ウィーズリー、この中で私が知らない発明はあるかね」
「おっ、じゃあ先生。これなんか自信作だぜ」
いまだに空箱を頭につけたフレッドが一つの玉を差し出してくる。サイズは小さく、ビー玉程度の大きさ。見たところ布に包まれた玉であり、どんな効果があるのかはぱっと見では判別ができない。
「これは?」
「姿くらまし玉だ。使い方は簡単。自分の足元に叩きつけるだけだ」
「どんな効果があるのかね」
「一、二時間姿をくらませられるんだ。先生はボージン&バークスって店知ってる?あそこに『姿をくらますキャビネット』ってのがあるんだ」
あれか、とでも言うようにエルメロイII世は頷いた。
「ああ、知っている。一昔前に流行ったものだな」
「それはどんなものなのですか?」
「ヴォルデモートが猛威を奮った時に流行ったものだ。キャビネットに飛び込むだけで、二、三時間ほど姿を消せる便利な代物だ。だが少し気まぐれな部分もあってな。姿をくらませられるが、どこに飛ばされるかわからないのが難点な道具だ。既に生産は終了しているが、まだ現物が残っていたとは」
「ま、ボージン&バークスにあったやつはぶっ壊れてたけどな。キャビネット本体が古すぎて術式の方にも欠陥が多かったから、あそこにあるやつは修理しないと使えないだろうぜ」
「でも俺たちは術式を解析して、この玉に応用したんだ。地面に叩きつけてると、効果範囲内にいる使用者を姿くらましの要領で別の場所に飛ばせるんだ。ただ、姿くらましの術式に近いのもあってな。この玉もかなり気まぐれ。どこに行くかわかったもんじゃない。ウェールズに飛ばされた時はどうしようかと思ったぜ」
そこが面白くもあるんだけどな、と付け加えて双子は笑う。本来姿くらましは『行きたい場所を強く念じる』ことが肝になる術式。だがこの玉に込めた術式は行き先を念じない。故に行き先が不明瞭になるというデメリットがあるが、姿くらましの欠点である『ばらけ』が起こることがないというメリットもある。逃げることのみを考えれば、術式構築の手間やばらけの心配がないというのはかなりの利点とも言える。
「……なるほど、いいな。ウィーズリー、この玉を三つ、いや六つ買おう」
「おっ、ありがてえ!毎度あり、先生」
エルメロイII世は買った玉のうち三つを懐に入れると、三つをグレイに差し出した。
「レディ、君も持っていたまえ。ヴォルデモートとの因縁ができた我々はいつ必要になるかもわからん」
「ありがとうございます、師匠」
その後、エルメロイII世とグレイはいくつかおすすめの道具を見せられる。食べられる闇の印やら携帯沼地、特製羽ペンなど、悪戯をしないグレイ視点でもかなり面白いと思えるものが多かった。
一通り商品を見終わったエルメロイII世が時計を見ると、退散するにはいい時間であった。
「良い時間だな。さて、そろそろスラーに…」
戻ろう、と言い終わる前に、エルメロイII世の視界に別の魔法道具が目に入る。見たところマジックハンドのようなものだが、手の部分は妙にリアルな手を模していた。そして立てかけられている値札に書かれた名前を見て、エルメロイII世の表情が再び強張る。
「ウィーズリー」
「なんだ、先生」
ようやくカボチャから頭を抜いたジョージが首を傾げる。
「あれはなんだ」
エルメロイII世が指差した先にあったマジックハンドを見て、ジョージは笑顔で答える。
「ああ!あれは明日から店に並べる予定の商品だぜ!」
嫌な予感がした。何故か、マジックハンドの先についている手にどことなく見覚えがあるような気がしたからだ。
フレッドはマジックハンドを手に取る。
「…それはなんだ」
「これはおしおき魔法道具なんだぜ!名前は『先生のお仕置きアイアンクロー』だ!」
エルメロイII世の額にびきり、と青筋が立つ。
「なんだそのふざけた道具は…!」
「先生、俺たちにお仕置きでよくアイアンクローしてきただろ?フラットにもよくやってるって話、本人から聞いてるぜ」
「先生のアイアンクロー…めっちゃ痛えだろ?あのマジックハンドはそれを再現したものだ!使ったら、相手の頭を掴んで締め上げる道具なんだ!」
「締め上げられた俺たちはこの威力を知ってる!だから俺たちは作り上げたんだ!」
「「先生のアイアンクローをな!」」
突如、エルメロイII世の手が双子の頭を捉える。自己加速系の魔法を使っているわけでもないのにこの速度。やはり師匠は淑女の嗜みを修得しているのかとグレイは戦慄する。
「誰がそんな道具を作っていいと言った⁈」
「ぐおっ⁈さすが先生!死喰い人の魔法よりも速いアイアンクロー!」
「だが残念だったな先生!先生にあげたネクタイピンと同じ効果のバッジを俺たちもつけてる!」
双子は確かに『W』の形をしたバッジをつけている。これは双子がエルメロイII世にプレゼントしたネクタイピンと同じ効果を持っており、自動的に攻撃を判別して弾いてくれる効果を持っている。そのため、エルメロイII世のアイアンクローは頭を覆うように展開されている盾の魔法によって阻まれていた。
エルメロイII世の魔法の腕はお世辞にも高くはない。だが、双子はエルメロイII世の魔法の応用力を見誤っていた。
「フィニート」
魔法が唱えられた瞬間、双子はニヤリと笑う。このバッジに込められた術式は終了呪文にも対応している。これならエルメロイII世のアイアンクローにも対応できるとドヤ顔をしようとした瞬間、双子の頭を煽っていた盾の魔法が一瞬消失した。
「へ?」
「ん?」
そして盾の魔法が消えれば、エルメロイII世のアイアンクローは的確に双子の頭を捉えられる。盾の魔法が消えたことに驚き動くのが遅れた双子の頭は、エルメロイII世の手によってギリギリと締め上げられる。
「ぐおぉおおおっ⁈この痛みっ…!俺たちが作ったアイアンクローよりも、痛い⁈」
「どうなってんだ先生!術式はちゃんと作用してっ⁈」
「術式は作用している。だが、お前達の術式は『装着者』に対してのみ発動するものだ。だから私は、バッジに向けて終了魔法を使った」
「いい⁈それで止まるのかよ⁈バッジ自身も術式対象にしてたはずだぜ⁈」
「本来なら防げていただろう。だがお前達の作った術式は対象を二つ同時にすることはできん。私は一瞬だけお前達に終了魔法を向け、防がれた瞬間にバッジへと切り替えた。そうすることで防御術がバッジへと切り替わる一瞬、防御が消える。通常ならバッジを装着しているお前達を守ると同時にバッジ本体にも保護が働くが、この場合は術式対象が限定される。その特徴を利用させてもらった。術式対象の切り替え速度はさすがにフラットほどにすることは難しいだろうが、もう少し効率化できる」
「そういう仕組みかよぉおぉうぐええぇえぇ!」
ギリギリと締め上げられ悲鳴を上げる双子を見て、なんとなくグレイはホグワーツにいた時のことを思い出す。あの一年でこの光景は何度も見た。エルメロイ教室でフラットが折檻されているのと似たような光景である以上、グレイからしたら最早安心すらできる光景だった。
「何故あんなふざけた物を作った」
「だって言っただろ先生いででで!」
「この痛みを再現したものをっ⁈作るってよ!」
「駄目に決まってると答えたはずだが⁈」
ギリギリと締め上げられながらも双子はニヤリと笑った。
「言っただろ先生!」
「俺たちが駄目と言われたくらいでやめると思ってんのか?」
再びドカン、と音が響く。フレッドはゲーゲートローチのモチーフ人形が持っている鍋に、ジョージは食べられる闇の印が入っている箱に頭を捩じ込まれた。
「なんでだよ先生ー!これは先生の名前も見た目も使ってないだろー⁈」
「もしかして、いつもつけてる革手袋がないと駄目だったのか⁈さすがに全部につけてたら原価がやべえよ!そんなの売り物にならないって!」
「違うに決まっているだろう!私の手を模しているだろう!というか、なんで私の手をここまで精巧に模倣できる⁈」
「フラットから借りた写真を参考にした」
頭が突き刺さったままの二人は投げ飛ばされ、店の隅で伸びているフラットに折り重なるようにして倒れる。エルメロイII世は頭痛がするように頭を抑え、大きなため息を吐いた。
「…グレイ、スラーに戻るぞ。これ以上ここにいたら、私の胃が保たない」
「は、はい」
一気に疲れたような表情になったエルメロイII世と共にグレイは店を後にする。
「…スプラウト先生は、胃薬の調合は行っていただろうか」
「どうでしょう…スネイプ先生にもお伺いしてはどうですか?」
「そうするとしよう…まったく…」
疲れたように言うエルメロイII世だが、その声色は少しだけ明るい。
グレイもまたホグワーツに行けるのが楽しみで、足取りは軽くなっていた。昨年のように住み込みで授業を受けるような生活ではないだろうが、またあの城でルーナ達と出会えることが嬉しかった。
障害は多い。だが、こうして日常に戻って来られたことを実感でき、グレイの表情は明るいものになっていた。少しだけの日常かもしれないが、今はこの日常を大切にしようと考え、グレイはエルメロイII世の後についていくのだった。
スプラウト先生「胃薬?ええもちろんありますよ!即効性のあるものから慢性的なものに効く薬までね!ロードなんて職についてたら胃痛も絶えなさそうだし、いくらか都合しましょうね!」
エルメロイII世「助かります、スプラウト先生…いや、本当に。先生の負担にならない程度に、可能な限りたくさんいただきたい」
スプラウト先生「本当に大変そうだね(さすが化け物の巣窟の時計塔だ。そこのトップにかかる重責は並大抵じゃないね)」
エルメロイII世「ええ、本当に(混ぜるな危険とはこのことだな…出会ってはならん
Q.ペベレル三兄弟はどうなったの?
A.一番下のイグノタス・ペベレルは寿命で死にましたが、上の二人は他殺と自殺なので、遺体を時計塔に回収されました。
Q.お辞儀様はグレイのアヴァロンを狙っているの?
A.お辞儀様はグレイの肉体に宿るあるものを見て反応しましたが、それはアヴァロンではありません。グレイを見て反応を示したタイミング、擬似的な不死と宝具ではないのがヒントです。正解した読者にはエルメロイII世の破壊された胃を差し上げます。
Q.レガシーの魔法でも呪いの解除できないの?
A.できません。レガシーの魔法は治療・解呪系統には向いていないため、お辞儀様レベルの呪いを解除することは不可能です。加えて呪いが魔術回路、魂にまで作用するタイプだったので、仮にレガシーの解呪レベルがマックスだったとしても不可能。アスクレピオスを連れてくればワンパンで解除できます。
胃薬が欲しい。植物科の胃薬にも限界があるのに、それを越す勢いで胃が破壊されている。もっと壊れてほしいし、他の人の胃を破壊するようなことをしてほしい。
グレイ
双子からいろんな試作道具をもらった。ツッコミにはなれないが、天然ボケをかますことがある。ルヴィアのプロレス技を半ば本気で淑女の嗜みだと思っている節があるため、グレイを淑女にしてはいけない。
フラット・エスカルドス
双子の店が開店した日から通っており、すでにお得意様。双子と関わっていることがわかった日からエルメロイII世の胃薬の量が増えた。
フレッド・ウィーズリー
ジョージ・ウィーズリー
ダイアゴン横丁に店を開いた。荒れ果ててきているダイアゴン横丁の中で一際異色を放つあまりにも場違いな店に思えるが、『こんな時だからこそ笑いが必要』だと言って店を開いた。かなり繁盛しているし、魔法省から発注が来るほど。フラットはお得意様かつ道具発明アイデアを出し合うほどの仲。エルメロイII世のことは出会った教師の中で一番尊敬してる。
アルバス・ダンブルドア
家族に会いたくて呪いの指輪をつけた結果、呪われてあと一年の命。かつてグリンデルバルドと死の秘宝を集めようとしていたが、その過程で弟と対立し、決闘の最中で妹が死亡。今でも心の傷になっているし、エルメロイII世がハリーに向けて言った言葉が思わぬところでダンブルドアにも刺さってしまった。
セブルス・スネイプ
呪いを封じ込め、なんとかダンブルドアの延命に成功。それと同時に、とある役割を果たす役目を押し付けられやや憔悴してるが、エルメロイII世は知らない。
レガシー
ダンブルドアの先輩。呪いを封じ込める手伝いをしたが、レガシーの魔力を持ってしても呪いを解除はできない。
シリアス回でした。
いいね?