ホグワーツ教師 ロード・エルメロイII世   作:木材

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謎のプリンス本格始動


死の秘宝のプロットは大体できたのに謎のプリンスのプロットが完成していないバグが発生。フラットにハッキングされたか…?


File.19

「グレイ、戻って早々ではあるが…来週からホグワーツに向かう。テスト期間中の集中講座と、分霊箱の調査だ」

 

 エルメロイII世の言葉にグレイは頷く。

 ダンブルドアからの依頼である非常勤講師としてホグワーツに赴くことと、そしてヴォルデモートの不死性を齎す分霊箱の調査を目的としていることは予め聞いていた。

 もうグレイはホグワーツの生徒ではない。だが、エルメロイII世の護衛としてホグワーツへの出入りを許可されていた。

 

「今回はテスト対策…なんですよね」

「予めテスト範囲は把握している。全学年の講義をするとなると、かなりの量になるが…今回はOWLとNEWTではなく中間試験。理論のみなら、どうとでもなる」

「調査の方は…」

「こちらは手がかりがあまりにも少ない。闇雲に調べても時間を徒に浪費するだけだろう。故に、あまりやりたくはなかったが…生徒の力を借りる」

 

 ホグワーツは神秘の砦であり、非常に広大な面積を持つ。闇雲に調査したとしてもまず間違いなく時間が過ぎるだけになる。また、エルメロイII世の調査能力はそう高くないため、全力で探したとしても見つけられる可能性は低い。砂漠の中から小石を見つけ出すに等しい行為だと理解しているが故に、再び生徒の力を借りることを決心した。

 

「拙以外の生徒を連れて行くんですね」

「ああ。先日のように、フラットとスヴィンに依頼する」

 

 なるほど、とグレイは納得する。グレイの故郷でも調査を依頼したため、あの二人ならとグレイは少し安心した。

 

「とはいえ、あの二人をホグワーツに連れて行くとなると…どう考えても何かしら騒ぎを起こす。ただ絡まれる程度ならいいが、ホグワーツの生徒にはウィーズリーのように悪ノリする者もいる。無駄に大きな騒ぎにならなければいいが…」

「師匠…それは…」

「わかっている。不可能だ。絶対に何かやらかす」

 

 げんなりとしながら言うエルメロイII世にグレイは苦笑することしかできない。彼らの手が必要とはいえ、連れて行くことでどんな騒ぎになるのかは想像もつかない。マクゴナガル達教師陣に迷惑をかけることになるだろうと考えると、エルメロイII世としては胃痛を避けられない事態とも言える。

 

「だが、あの二人の力がなければ間違いなく無駄に時間を使うことになる。手段を選んではいられん。グレイにも苦労をかけるが、頼む」

「はい」

 

 グレイは頷き、窓の外に目を向ける。

 空は曇り、薄暗い空が広がっている。まだ何か起こる予感がしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今回のテストやべーよ…どうしよう」

「でも今回のテストはエルメロイ先生が全学年特別講義してくれるんでしょ?ならどうにかなりそうじゃない?」

「エルメロイ先生の授業あってもギリギリな気がしてならない…」

 

 テスト期間に入り、そんな会話をする生徒とすれ違ったハリーは『本当に来るんだ』と思いつつ少しだけ気が重くなるのを感じる。ハリーはいまだに、エルメロイII世の課題を解決できる糸口を見つけられていない。加えて、ダンブルドアからの指令として『スラグホーンから重要な記憶を提供してもらうこと』についても難航している。さらには親友であるロンとハーマイオニーの空気感が悪い(主にロンのせいで)。ハリーとしてはやや精神的に疲れが溜まってきているのを感じていた。

 

「気晴らしに、一人で勉強するかな」

 

 気晴らしに勉強というあまりにもハーマイオニーのような言葉を呟く自分に苦笑し、ハリーは図書室へと向かう。

 

 少し歩いていると、廊下で二人の人影を見つける。片方はふくよかな体型で、もう片方は細身で長髪だった。

 

「おお!ここで会えるとは思わなかったよ!かの時計塔の君主にここで会えるとは思わなかったよ!久方ぶりだね、ウェイバー・ベルベット。いや、もうロード・エルメロイだったかな」

「お久しぶりです、ホラス・スラグホーン教授。それと、私をエルメロイと呼ぶならばII世をつけていただけますかな」

 

 スラグホーンとエルメロイII世が廊下で談笑しているところに偶然出会してしまう。エルメロイII世の側にはフードを被った少女、グレイの姿もある。

 

「ああ、そうだったね。では改めてロード・エルメロイII世。久しぶりだね」

「ええ、お久しぶりです」

「いやあ、まさか君がここまで立派になっているとは思わなかったよ。私が魔法薬学の教師をしている時、確かに君の薬学の腕は良かったが…まさか君主になるほどとは思わなかった。ああ、君の才能を見抜けなかったことが実に口惜しい」

 

 スラグホーンの言葉にエルメロイII世は表情を変えない。

 

「当時の私の成績を見て、あなたがどう思うかは明白でしょう。それに、この君主という立場は私が優れていたが故のものではない。諸事情、としか言えませんがね」

「だが、時計塔に所属していない私にも君の名声は届いているよ。まさか当時の教え子が君主になるとは私も思わなかった。魔法薬学の成績は確かに良かったが、時計塔に行ってそこまで伸びるとは思わなかったよ」

「…成り行き、としか言えませんな」

 

 苦笑するエルメロイII世にハリーは首を傾げる。何故褒められてあそこまで微妙な雰囲気になるのだろうと思うが、その理由はわからなかった。

 

「それより、あなたが復職なさるとは思いませんでした」

「ああ、アルバスに頼まれてな。セブルスが防衛術の教師になるから、魔法薬学の枠が空いてしまい、その枠を埋めてほしいと頼まれてね。こうして改めて教師になるのも案外悪くない。セブルスや君のように、教え子と共に教師ができるのだからね」

 

 人の良さそうな笑みを浮かべるスラグホーンにエルメロイII世は小さく笑う。いつも不機嫌そうな表情をしていたエルメロイII世がこうやって笑う様を見ることは少ない。意外な表情を見れたなとハリーは少しだけ驚く。

 

「私が在学中の時、スラグホーン教授は…見込みのある生徒とよく過ごされていた記憶があります。今のホグワーツに、スラグホーン教授のお眼鏡に叶う生徒はいますか?」

「ああもちろんだとも。我がスリザリンはもちろんだが、今のグリフィンドールはなかなか良い生徒が多い。ハーマイオニー・グレンジャーは言うまでもなく、ジニー・ウィーズリーは成績優秀でクィディッチでも素晴らしい。あの子は将来、プロチームに入ってもやっていけるだろう。ああそうだ、クィディッチといえばハリー・ポッターを忘れてはいけないね。あの子は父のジェームズに瓜二つだが、母のリリーにもよく似ている。防衛術はもちろん、薬学の腕の良さはまさにリリーそのもの!とても素晴らしい生徒だよ」

 

 スラグホーンの言葉にハリーは少しドキリとする。

 ハリーは五年生までは魔法薬学が大の苦手だった。ほとんどの理由は何かと合わない教師であるスネイプが理由ではあるが、成績は下の方。OWL試験はエルメロイII世のおかげでなんとか受講を許される成績だったものの、ギリギリ。そのくらい苦手意識の強い科目だったのだが、今年に入ったひょんなことから入手した『上級魔法薬学』の古い教科書を手に入れてから成績は大きく改善され、今やトップにまでなっている。

 だがこれは、この教科書にビッシリと書かれていたメモ書きによるもの。言うなればカンニングに近いものだった。当然ハーマイオニーには咎められたが、スラグホーンに近づくというダンブルドアからの使命を果たすためには必要なものである以上、手放す気はない。

 

「…ほう、ポッターがそこまでの成績を」

 

 だが昨年の魔法薬学の成績を知っているエルメロイII世からは違和感しかない。進路のことで何か事情があり、魔法薬学を勉強する必要性があったのかもと考え、それ以上のことは口にしなかった。

 

「そうとも。上級魔法薬学であそこまでの腕を見せるのは、彼の母であるリリーを彷彿とさせるほどだった。いやあ、戻ってきて良かったよ」

「優秀な生徒と交流が持てるのは、確かに喜ばしいことですからね。私としても、かつての恩師と共に教師の立場を預かるのは新鮮な気持ちです」

「時計塔の君主にそう言われるとは。私もまだまだ捨てたものではないな!ではそろそろ行かせてもらうよ。この後、スプラウト先生と共に薬草に関する談義をする予定でね。話せてよかったよウェイバー。それと、内弟子の君ともね」

「私もです、スラグホーン教授」

「失礼します」

 

 そう言って二人は別れていき、グレイもエルメロイII世の後についていく。残されたハリーは、小さくため息を吐いて図書室へと足を向けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 深夜、エルメロイII世はホグワーツ城内を歩いていた。

 

「すごいや!これがホグワーツ!こんな複雑に魔力と術式が施されている建物、時計塔以外に初めてみたよ!」

「静かにしろフラット!生徒たちの目につかないように使っている隠密の術式が無意味になるだろ!」

 

 そんなエルメロイII世の後ろには、グレイだけでなくフラットとスヴィンの姿もあった。今回、エルメロイII世がホグワーツを訪れた目的は分霊箱の調査。スヴィンの鼻とフラットの感受性を頼る必要があるため、今回は例外的に二人を連れてくる選択をした。

 

「でもなんで深夜なんですか?昼間でも調査はできますよ?」

「分霊箱の事情を生徒達に話すわけにもいかん。だがコソコソ隠れながらできる調査でもない。生徒の目を気にすることなく調査するためには、深夜しかあるまい」

 

 生徒達に事情を知られないようにするためとエルメロイII世は言っていたが、ホグワーツの生徒と二人が遭遇して面倒事が増えるのを避けるためだった。ただでさえ分霊箱という厄介事に関わっている以上、フラットとホグワーツの生徒が騒ぎを起こした日には、エルメロイII世の胃は間違いなく破壊されてしまうだろう。

 

「二人には事前に説明した通り、分霊箱の隠し場所調査を頼みたい。私の推測なら、ヴォルデモートの分霊箱はホグワーツに隠されている」

「分霊箱…ホークラックスのことですよね。そんな邪悪な物が隠されていると」

 

 スヴィンの言葉にエルメロイII世は頷く。

 

「そうだ。魂を引き裂き、できたカケラを物体に宿らせて擬似的な不死を実現する魔法だ。当然、通常の魔法とは術式が大きく異なる上、魔法としての気配も大きく異なるだろう。そこでスヴィンの鼻とフラットの感受性を頼りに調査したい」

「神秘の砦の中で宝探しですね!ゲームなら鉄板の展開ですよ教授!」

「本当に宝ならば良かったのだがな。あいにく、探すものは厄災が込められたパンドラの箱みたいな厄ネタだ」

 

 魔術師視点であっても分霊箱という魔法は非常に悍ましいもの。加えて、不老不死を実現するためには()()()()()()()()()()()()()な手法であるため、魔術師からも忌み嫌われている魔法だった。

 だがそれ故に、分霊箱そのものの気配は独特だろうとエルメロイII世は考えていた。通常の魔法とは異なり、闇の魔術により魂を封じ込めた物体であるため、魔法としての気配は異質なはず。ならばフラットやスヴィンの索敵能力で発見できる可能性は高いと踏んだ。

 

「探すとは言ったが、ホグワーツ城内のどこにあるかはわからん。ひたすら練り歩いて二人にとって違和感のある場所をしらみつぶしに行くしかないような状態だ」

「分霊箱の匂いは嗅いだことありませんが、先生の助けになってみせます」

「俺も俺も!ゲームのダンジョン探検みたいで楽しみながらやりまーす!」

「…好きにしろ。とにかく行くぞ。あまり騒ぐなよ。わざわざ隠蔽の術式まで展開しているんだ。教師はともかく、生徒に見つかると面倒だ。スヴィン、人の気配を感じたらすぐに知らせてくれ。隠蔽の術式も、そこまで強い効果はない」

「了解しました先生」

「では行くとしよう」

 

 エルメロイII世、グレイ、フラット、スヴィンはそれぞれ杖を抜くと、杖先に光を灯してホグワーツ城内探索を始めた。

 昨年在籍していたグレイにとっては馴染みのある光景であるホグワーツだが、フラットとスヴィンにとっては初めての光景。興味深そうに周囲を見渡しながら歩いていた。

 

「フラット、スヴィン。どうだ」

「いやぁ〜術式が複雑に絡み合っててすごいですね!いろんな術式があるから、どれからいじるか迷っちゃいます!」

「いじるな馬鹿者。分霊箱について聞いている」

 

 一喝されながらもフラットは解析と感知を続け、感じ取れた所感を口にする。

 

「魂に関係するような術式は今のところ見当たりません。闇の魔術に関する術式も探してみてますけど……ホグワーツの中には、今のところ闇の気配はしません。ル・シアン君は?」

「ル・シアンと呼ぶな。…いろんな魔法の匂いがあちこちからします。ただ、先生の言う闇の魔術に関する匂いは今のところありません」

「さすがにそう簡単に見つけられるはずはないか」

 

 エルメロイII世も、二人の力を借りたとてすぐに見つかるとは思っていない。魔法の才能だけならば、恐らく時計塔の君主にも引けを取らないヴォルデモートの作り出したものである以上、簡単に見つかるような場所には隠していない。そもそも敵であるダンブルドアが校長を務めるホグワーツに隠した以上、ヴォルデモートしか知らないような場所に隠されている可能性すらある。

 

「分霊箱はヴォルデモートにとって命づなのようなもの。簡単に見つかるようにはしていないだろう。根気よく行くしかあるまい」

 

 そう言ってエルメロイII世達は夜のホグワーツを歩いていく。グレイは通っていたことがあるとはいえ、深夜に校内を歩くことはなかった。そのため、深夜の学校がここまで空気が変わるとは思っていなかったため、少し新鮮な気持ちでエルメロイII世の後についていく。

 

 しばらく歩くと、フラットが唐突に足を止める。

 

「あれ、教授…ここって」

「ん?ああ、ここは必要の部屋がある壁だな」

「必要の部屋?」

「この部屋の前を通り過ぎながら『今自分がほしいもの』を思い浮かべると、部屋が用意してくれる。例えば空腹時に必要の部屋の前を通り過ぎると、食料を用意した状態で部屋が現れる、といった具合にな」

 

 必要の部屋はグレイにも馴染みがある。ダンブルドア軍団での防衛術練習で何度も必要の部屋を訪れた。一年しか在籍しなかったグレイからすると、レイブンクロー寮と同じくらい思い出が詰まっている部屋と言っても過言ではないだろう。

 

「……なるほど、この部屋は人の思考を読み取る術式が組まれているんだ」

「何かわかったのか?」

「いえ、ちょっと思いついたことがあります。少し、干渉してもいいですか?」

「元に戻せるのなら許可する」

「大丈夫です!じゃあちょっといじりますね!」

 

 フラットは杖を抜くと、壁に向ける。

 

干渉開始(ゲームセレクト)

 

 フラットがそう呟くと、目の前の壁から扉が現れた。

 必要の部屋は本来、求めるものを思い浮かべながら目の前を3回横切ることでしか出現しない。だがフラットは必要の部屋の術式をハッキングし、すぐに出現するように術式を改造した。

 

「ほい、観測完了(ゲームオーバー)

「フラット、今何をした」

「この部屋の術式をハッキングして、俺が今求めているものが出現しているであろう部屋を出力しました!」

 

 ホグワーツは魔法学校ではあるものの、まだ神秘が濃い時代に建てられた神秘の砦。当然ホグワーツに存在する術式は簡単に干渉できるものではないし、改造なんてもってのほか。仮に現在の時計塔君主であったとしてもそう易々とできることではないはずなのだが、フラットはまるで課題を提出する程度の気軽さで術式に干渉し、改造までした。この能力を買って今回はホグワーツに連れてきたが、凄まじいと同時にこんなに危険なことを気軽にやるフラットに対してエルメロイII世が頭痛を覚える気持ちに駆られたのは言うまでも無い。

 

「……あとで術式は元に戻しておけ。この部屋は悪用される可能性もある。下手に存在を知られるようにするべきではない。それで、今の必要の部屋には何がある?」

「今俺たちが探しているのは分霊箱でしょ?だから、分霊箱を探すことができるものがある部屋か、分霊箱がある場所に直通で繋がる通路を入力してみました!」

「なるほど、悪く無いアイデアだが…」

 

 エルメロイII世はそう言って必要の部屋の扉を開く。しかし、部屋の中には何も無かった。

 何も無い部屋を見てフラットは不思議そうに頭をかく。

 

「あれ…確かに入力したんだけど」

「恐らく、術式の限界だろう。必要の部屋にも実現可能なものの限界がある。極端な例だが、根源の渦を求めてこの部屋を訪れたとしても、実現は不可能。そういった具合で、今回フラットが入力したものは必要の部屋では実現ができなかったと考えられる。そして実現できないものだというのに部屋そのものはフラットが出力させたことで何も無い部屋になった、といった流れだろうな」

「…フラットの入力内容で何も出力されないとなると、必要の部屋に分霊箱は無い、ということですか?」

「……いや、そうとも限らないな」

 

 エルメロイII世は顎に手を当てながら目を細める。

 

「必要の部屋の限界は私も把握していないが、分霊箱を隠す場所を作り出すだけならば、不可能ではないように思える。しかし、フラットの入力内容で何も出力されないこともまた事実。仮に必要の部屋に分霊箱がある場合は…()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を必要の部屋に出力させる必要があるように思う。例えば、あらゆるものを隠すことができる場所を用意してほしいとか、自分以外は見つけることができない部屋を用意してほしい、とかな」

「つまり、ヴォルデモートが当時考えたことを正確に読み解く必要があるってことですね!」

「そうなる。だが、そう簡単にはいかないだろう。一旦、ここは離れよう。今夜は、二人にホグワーツ全体を見てもらうことを優先する」

 

 そう言ってエルメロイII世達は必要の部屋を出る。一番後ろにいたスヴィンが扉を閉めると、扉は壁の中へ溶けるように消えた。グレイは何度見てもこの光景が不思議でならなかった。その思いは今も変わっておらず、やはり不思議な光景だと思った。

 

「フラット、術式を元に戻しておけ。完了次第、次に行くぞ」

「はい教授!」

 

 フラットの術式書き換えは1分もかからずに終わり、四人は次の目的地へと足を運んでいく。

 

 

 その夜、収穫は何もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、エルメロイII世はホグワーツにて特別講義を終えて一息ついていると、教室に一人の生徒が入ってきた。

 

「あ、エルメロイ先生!」

「II世だ。ミス・グレンジャー、私をエルメロイと呼ぶならII世をつけてくれ」

 

 入ってきたのは、ハーマイオニーだった。何冊か本を抱えているあたり、次のテストに向けてエルメロイII世へと質問に来たことが見て取れる。

 

「その様子を見るに、試験に関してなにか質問があるようだな」

「はい、そうなんです。薬草学と魔法史、あと魔法薬学で」

「ふむ、では順番に見て行くとしよう。まずは薬草学から始めよう」

「お願いします!」

 

 教科書を広げたハーマイオニーが質問箇所をエルメロイII世に投げかけ、エルメロイII世は全ての質問に対して的確かつ最高にわかりやすく解説していく。

 一通りの質問が終わったところで、ハーマイオニーは満足そうに笑いながらノートにペンを走らせる。

 

「ありがとうございます先生!疑問点が解消されました!」

「今回はこのために来たようなものだ。気にしなくていい。しかし、君が魔法薬学について質問してくるとは少し意外だった。得意科目だったと思うのだが」

 

 エルメロイII世の言葉にハーマイオニーの手が止まる。

 

「…去年までは得意科目…だったと思います。ただ、上級魔法薬学に入ってからは…その…教科書通りにやっても上手くいかないことが多くて…」

「上級魔法薬学の難易度は去年までのものと比較して数段高い。何より、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()こともある。それ故に、教科書通りに調合を進めてもうまくいかないものもある」

「ど、どういうことですか⁈」

 

 教科書に書かれていることが全てとは言わずとも、正確な情報が書かれていると思っていたハーマイオニーは驚いたように声を上げる。エルメロイII世は腕を組みながら続けた。

 

「当然と言えば当然だが、情報というものは常に更新されていくものだ。そしてそれは学問においても例外では無い。仮に教科書に載っているものであったとしても、研究が進むことで内容が変わることなどよくあることだ。上級魔法薬学も例外ではない。それどころか、まだ最適化が進んでいないものも多いだろう」

「……じゃあ、あの蔵書の方が正しいってことなの…?でも、ならどうして…」

「何か、気になることでもあるのかね?」

 

 小声で呟くハーマイオニーに問いかけると、ハーマイオニーは目を伏せながら頷いた。

 

「実は…今年になって……ハリーが、とても魔法薬学の成績を伸ばしているんです」

 

 ハーマイオニーの言葉を聞いてエルメロイII世はスラグホーンの話を思い出す。昨年のハリーは(エルメロイII世の授業を受ける前まで)魔法薬学の成績は決していいものではなかった。エルメロイII世の授業を受けた後も、ハーマイオニーと比べたら低い。

 だがそんなハリーが現在はハーマイオニーを抑えて魔法薬学の成績一位。何かあるとは思っていたが、やはりハーマイオニーも何か事情を把握しているらしい。

 

「ほう、それはいいことであるように思えるが」

「ちゃんと勉強して成績を伸ばしたのなら文句ありません!でも、ハリーは…」

「何か不正をしていると?」

「そうなんです!ハリーがたまたま手に入れた上級魔法薬学の教科書、随分昔の人が残した中古だったんですよ。でも、そこに書かれていることを使って成績を伸ばしているんですよ⁈これって不正ですよね⁈」

「中古の教科書に書かれていたメモ書きを利用して、成績を伸ばしたと」

「そうです!カンニングに近いでしょうこれ!」

「…グレーゾーンだな。明確な不正とも言い難いが、決して誉められた手法でもないことは確かだ」

 

 あくまでメモ書きであり、そのメモが正しいかどうかもわからない。だがそれでハリーが成績を伸ばしているのなら、真面目に勉強して成績を伸ばしたハーマイオニーからすると面白く無いのは確かだろう。

 

「だが所詮、付け焼き刃の知識だ。授業はそのメモを頼りにして授業の課題をクリアできたとしても、試験ではまた別だ。その知識を試験までに定着させられるかはポッター次第だ」

「………」

 

 ハーマイオニーは納得していない様子だが、エルメロイII世の言うことも筋が通っているとわかっているため何も言わない。

 これ以上この話を続けてもいいことは無さそうだと判断したエルメロイII世は煙草に火をつけると、煙を吐き出しながらハーマイオニーに問いかけると。

 

「そのメモは、誰のものなんだ?」

「半純血のプリンス蔵書…そう書かれていました。先生はご存知ですか?」

「半純血のプリンス?いや、知らないな」

 

 エルメロイII世は訝しむように眉を顰める。

 

「魔法族に貴族はいても王族はいない。魔法族としてのプリンスはいないはずだが…ただの自称ならばいくらでもできる。半純血についてはそのままだろう。その人物を割り出すのなら、やはり鍵になるのはプリンスだろうな」

「やっぱり先生でもご存知ないんですね…誰なんだろう」

「その人物が残したメモによりポッターの成績が著しく上がったとなると、その半純血のプリンスとやらは相当魔法薬学に精通している人物なのだろう。スラグホーン教授やスネイプ教授のようにな」

 

 どんな人物なのかはわからないが、そのメモだけでハリーの成績が上がったということから、メモ書きをした人物は相当魔法薬学に精通していたと予想できる。

 

「…わかりました。魔法薬学に詳しい人を調べてみます」

「私の方でも心当たりがある人がいないか少し聞いてみる。だが、あまり期待はしないでくれるとありがたい」

「はい先生。ありがとうございます」

 

 納得はできていない様子のハーマイオニーだが、ひとまず本来の目的である質問箇所の解消はできた。目的は果たしたとして荷物を纏めて、ハーマイオニーはそのまま去っていった。

 入れ替わるように、グレイが教室へと入ってくる。ハーマイオニーと簡単に挨拶を交わしたグレイはエルメロイII世のもとは歩み寄った。

 

「師匠、おはようございます」

「よく眠れたかね」

 

 深夜に活動をしていた故、グレイは今起きたばかり。生活リズムが完全に崩れてしまっていることを申し訳なく思いつつ、エルメロイII世はそう尋ねた。

 

「はい。レイブンクロー寮ではありませんが、客室も随分と快適させてもらっています」

「何よりだ。客室も屋敷しもべ妖精が管理している。快適なのは当然だろうな」

 

 エルメロイII世は煙草から煙を吸い、吐き出す。一度灰皿に灰を落とすと、グレイに向き直った。

 

「そうだ。先ほど、ミス・グレンジャーから少し気になる話を聞いたのだが…レディ、君は半純血のプリンスと名乗る人物について何か知っているかね?」

「半純血のプリンス…ですか?いえ、何も…」

「そうか、まあそうだろうな」

 

 エルメロイII世は簡単にグレイに事情を説明する。ハリーが持つ上級魔法薬学の教科書に『半純血のプリンス蔵書』というメモが残されており、ハリーはそのメモを使って成績を伸ばしたが、この人物が誰なのかわからないということをグレイは聞いた。

 

「プリンス…王子、ってことですか?」

「直訳すればな。だが、イギリス魔法界に王族はいない。魔術界隈も含めてな」

「ロード・バリュエレータのような他の君主も、ですか?」

「君主は学部におけるトップであり、貴族ではある。王のように振る舞う者もいるが、決して王族ではない。故に、立場としてプリンスと名乗れる者は存在しないはずだ」

 

 時計塔の君主さそれぞれの学部における頂点であり、時計塔を支配する者たちではある。王のように振る舞っているようにも見えるが、決して国を治める王族ではない。故に、プリンスと名乗れる人物は魔術界隈、一般魔法界でも存在しないはずだった。

 

「でも、プリンスと名乗る人物がいると…」

「ああ。それに、相当魔法薬学に詳しい人物であることは間違いない。魔法薬学分野に強い人物は魔術界隈、一般魔法界の両方いる。しかし、その中でプリンスと名乗る人物はいないはず」

「では、どうしてプリンスと…」

「考えられるのは、二つ」

 

 エルメロイII世は煙草を吸いながら視線を鋭くする。

 

「一つはあくまで自称であること。あだ名として存在していたか、何かしらの理由で偽名としてプリンスを名乗っていたか…どちらにしろ、自称プリンスであることが最もわかりやすく、そして候補を絞ることができない理由だ」

「もう一つは…?」

「プリンスという名前であること」

 

 グレイはよくわからず首を傾げる。

 

「たとえば、私のフルネームはウェイバー・ベルベットだ。ウェイバーが名を示し、ベルベットは家系名だ。仮に、名が『プリンス』だった場合…私はプリンス・ベルベットになる。ならば、半純血のプリンスと名乗ったとしても、なんら不思議ではない」

「あっ!」

 

 名前としてプリンスをつけられる。確かにありえない話ではない。決して一般的にいるような名前ではないものの、可能性としてはありえなくはない。

 

「もしくは、姓がプリンスの可能性もあるやもしれない。何にしろ、ここで考えるだけでは何も始まらないだろう。多少調べてはみるが…本来の目的ではない以上、後回しにはなるだろうがな」

「今夜も調査を?」

「ああ。今夜は、サラザール・スリザリンが残した秘密の部屋を探ってみようと思う。レディ、夜にまた動く。それまでは好きにしてくれて構わん」

「はい、師匠」

 

 深夜まで時間はある。その間にルーナに会いに行こうかと考えたところで、教室の扉が勢いよく開いた。

 

「先生!大変です!」

 

 入ってきたのは、スリザリンの生徒であるセオドール・ノットだった。

 

「何事かね、ミスター・ノット」

「ホグワーツのいたるところで、手足の生えた先生の肖像画が大量発生しています!」

 

 エルメロイII世の表情が固まり、グレイは顔を覆う。

 誰が犯人なのか、言うまでもないからだ。

 

「…グレイ」

「はい」

「手を貸してくれ」

「…はい」

 

 胃をおさえながら呟くエルメロイII世に、グレイは心底同情しながら頷くのだった。

 

 

 

 

 

 




Q.スラグホーンとエルメロイII世って面識あるの?
A.スネイプの前任者がスラグホーンなのであります。平凡だったウェイバーはお気に入りではありませんでした。

Q.フラットでも分霊箱を見つけられなかった理由は?
A.必要の部屋は『対象が必要なものを準備する』という特性を持っているため、『必要なものを読み取る術式』と『必要とされているものを自動的に出力する術式』が込められています。フラットはどれだけ希薄で魔力計ですら感知できない微細な魔力でも感知できるほどの感知能力を持っていますが、『現時点では存在しないもの』はさすがに感知できないと判断しました。必要の部屋は『必要とされているものを自動的に出力する術式』が起動し、出力されない限りは『必要なものを読み取る術式』が込められただけの部屋で、事実上()()()()()()()()()でしかないからです。フラットが術式を読み取り、部屋を解析したとしても必要の部屋には()()()()()()()()()()()であるため、分霊箱が隠された部屋はその時点ではその場に存在すらしていない状態です。さすがに存在がそこにない以上、フラットでも見つけられなかったと判断しました。



次回はマルフォイが登場します。
謎のプリンス編は正直、マルフォイとの絡みを書きたかっただけです。



ロード・エルメロイII世
特別講師としてホグワーツに来訪中。昼間は講義、夜は分霊箱調査で睡眠時間が短い。


グレイ
調査能力はないが、エルメロイII世の護衛として同行。故郷の一件から、ズェピアにアッドが限界に近いことを知らされている。ただ、レガシーの修復手助けにより、形態変化と通常よりも威力を抑えた第二段階解放(ロンゴミニアド)なら使える状態。


フラット・エスカルドス
問題児No.1。必要の部屋の術式をも簡単にいじり回す天才馬鹿。今回、仮にフラットが『あらゆるものを隠せる部屋』を入力条件としていた場合、分霊箱が隠された部屋が出力されていた。ただし、『あらゆるものを隠せる部屋』であるため、フラットでもすぐに分霊箱を見つけることはできない。しかし、簡単にいかないだけで部屋を出力できたら必ず見つけられる。分霊箱探しパートにおける便利屋兼厄介者。下手に扱うと物語が終わる。
手足の生えたエルメロイII世の肖像画をばら撒いたのは当然こいつ。II世の胃袋特攻。


スヴィン・グラシュエート
フラット同様、下手に扱うと物語を終わらせる危険性がある。フラットとは違う部分で捜索に向いているため、分霊箱捜索パートでは下手に活躍させられない。


ハリー・ポッター
魔法薬学の成績がいきなりトップになったが、全部半純血のプリンスのおかげ。スラグホーンに近づくためにこの本を手放そうとはしないが、本人もやってることはグレーゾーンであることと、ハーマイオニーが嫌そうな態度をしているため、ちょっと肩身は狭い。


ハーマイオニー・グレンジャー
魔法薬学は元一位だが、現在はハリーに抜かれて二位。ハリーが普通に勉強して成績が上がったのならともかく、半純血のプリンスのメモによるものだと知り、モヤモヤしている。
余談だが、屋敷しもべ妖精が隷属していることに対して憤りを覚えているが、妖精の在り方について理解していないだけ。

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