ホグワーツ教師 ロード・エルメロイII世   作:木材

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おしおきの時間です。




…あれ?一月経ってる?


File.7

 アンブリッジは現状に苛立ち始めていた。

 理由は単純であり、端的に言えば成果を上げられていないからだ。ポッター達が集会をしていると掴んでから少し経つが、それ以上の明確な情報がない。生徒達に真実薬を使った尋問をしているが、碌な情報は出てこない。エルメロイII世の方では少しずつポッター達に近づいていると聞いているが、まだ現場を抑えるには至っていない。自分で捕まえる必要などなく、エルメロイII世に捕まえさせた手柄を自分のものにすればいいのだが、学者風情にできて自分にできないというのは少しだけ腹立たしいという思いもある。

 そんな日々が続き、とうとう我慢ができなくなってきたため、親が魔法省に勤めている生徒を脅して情報を得ようかと考え始めたところで、エルメロイII世が接触してきた。

 

「失礼、アンブリッジ女史。今はよろしいかな?」

「ええ、先生。構わないわ。どういった要件かしら」

「ポッター達の集会がどこで行われているかを掴みました」

 

 エルメロイII世の言葉に、アンブリッジは醜悪な笑みを浮かべながら頷いた。

 

「素晴らしい成果ですわ先生。よく見つけてくださいました。褒めてつかわしますわ」

「契約に従ったまでです」

「ふふ、そう。じゃあ早速捕縛に行きましょう。これでホグワーツは私のものだわ」

 

 エルメロイII世にとってはなにやら聞き捨てならない言葉が飛び出してきたが、そこに反応することなくエルメロイII世は続ける。

 

「アンブリッジ女史、今すぐ動いても無駄骨になります。彼らは既に、今日の集会を終えて寮に戻っておりますからな。しかしご心配なさらず。次の集会の時間も把握しています。その時間に合わせて、捕縛の手筈も整えました」

「結構ですわ先生。では、その時間に合わせて私はコーネリウスを呼んでおきます。あとは闇祓いもね。ダンブルドアに逃げられては、意味がないもの」

 

 認めるのは業腹ではあるが、あのアルバス・ダンブルドアは非常に卓越した魔法使い。少なくとも、アンブリッジ単体だけで対処できる相手では無い。アンブリッジの権限で闇祓いを呼ぶこともできるため、闇祓いを呼んでダンブルドアを捕縛しようと提案し、エルメロイII世は頷いた。

 

「仰る通りです。魔法省側の手配については、お任せしてもよろしいでしょうか」

「もちろんですわ先生。捕縛現場に私も同行しても良いわね?」

「ええ、問題ありません」

 

 その後、エルメロイII世はアンブリッジに日程と手筈を伝えると去って行った。

 アンブリッジはそのまま魔法省に連絡を取り、非常に醜悪な笑みを浮かべながらこれからのホグワーツをどうしてやろうかと楽しげに考えながら、紅茶を淹れ始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 エルメロイII世に伝えられた時間と場所に行くと、エルメロイII世と例の内弟子、そして二人のスリザリン生がいた。

 

「アンブリッジ女史」

「先生、お集まりいただきありがとうございます。それで、こちらの二人は?」

 

 アンブリッジは視線を二人のスリザリン生…セオドール・ノットとブレーズ・ザビニに目を向ける。グレイがいることは想定していたが、この二人がいることは聞いていない。どういった理由で連れてきたのかとアンブリッジは問いかけた。

 

「協力者です。何せ私程度では彼らを捕縛することは難しい。グレイがきても手が足りないので、彼らに協力を呼びかけました」

「良い心がけですわ先生。ポッター達がどれだけの人数を集めているかは分かりませんが、捕える数は多いに越したことはありませんもの。二人も良く協力してくださいましたね。スリザリンに10点、与えましょう」

「…ありがとうございます」

(…どうせ点数をもらうなら、エルメロイ先生にもらいたかったな。こいつに貰ってもカケラも嬉しくない)

 

 セオドールとザビニは形式上アンブリッジに礼を言うが、正直二人はアンブリッジを嫌っている(そもそもホグワーツにアンブリッジを嫌っていない生徒はほぼいない)ため、全く嬉しくない。どうせ点数を貰うのなら、尊敬に値するエルメロイII世から欲しかったなと考えた。

 

「それでは…いきましょうか」

「ええ。ではミスター・ノット、ミスター・ザビニ。力を貸してもらっても良いかな」

「はい、先生」

 

 楽しげに歩き始めるアンブリッジにエルメロイII世とスリザリンの二人はついていく。その際にエルメロイII世がほんの僅かに二人へ目配せをし、二人はその視線に気づいて頷いた。

 エルメロイII世の先導により、必要の部屋の前に集まる。この先ではハリー達が防衛術の練習をしている。魔法によりできた部屋といえど、部屋としてそこにあることは変わりない。壁を破ってしまえば、彼らは隠れる場所がなくなる。これで一網打尽にできると考えて醜悪な笑みを浮かべながらアンブリッジは杖を取り出した。

 

「私が壁を破ります。みなさんは、生徒の捕縛を」

「はい」

「では…ボンバーダ・マキシマ!」

 

 アンブリッジが壁を爆破して吹き飛ばす。破壊された壁の向こうでは、ハリーを筆頭としたたくさんの生徒がいた。

 

「捕まえて!」

 

 アンブリッジが叫ぶと同時に、ハリー達は破られた壁とは逆方向に向けて走り出す。だがエルメロイII世、グレイ、セオドール、ザビニはそれぞれ魔法を繰り出して何人かの動きを封じて捕縛した。しかし思いの外人数が多く、半数以上の生徒を取り逃してしまった。

 

「申し訳ない、アンブリッジ女史。まさかあれほど多くの生徒がいるとは私も思っていなかった。人数まで把握できなかったのは、私の落ち度だ」

「構いませんわ先生。主犯格のポッターを含めた何人かを捕縛できたのですから、成果としては十分です。それに…このリストさえあれば十分だもの」

 

 アンブリッジは部屋の奥にあったリストを呼び寄せながら言う。そこには『ダンブルドア軍団』と書かれており、参加者の名前が記されていた。

 

「ダンブルドア軍団…ふふ、証拠は掴みました。コーネリウスは既にホグワーツに到着しています。闇祓いの何人かもダンブルドアが逃げないように見張っているわ。さあこれで準備は全て整いました。学校を…私のものにしましょう」

 

 楽しそうに顔を綻ばせながら言うアンブリッジに吐き気を覚えながらセオドールは倒れているハリー達に目を向ける。捕まったのはハリー、ロン、ハーマイオニー、ルーナ、ジニー、チョウ、シェーマス、ネビル。逃げていく背中の中には他の赤毛もあったため、恐らく双子のウィーズリーもいたのだろうが、彼らは逃げられたらしい。

 捕縛に成功した二人に、エルメロイII世が歩み寄る。

 

「ミスター・ノット、ミスター・ザビニ。協力、感謝する。ダンブルドア教授の尋問のために主犯格であるミスター・ポッターとミス・グレンジャーを連れていく。他の捕えた生徒達のことを見張っておいてもらっても構わないだろうか。私の教室を使っていい」

「わかりました先生」

「頼む。ではポッター、行くとしようか。グレイ、君はミス・グレンジャーを連れてきてくれ」

「はい、師匠」

 

 エルメロイII世はハリーの腕を掴んで立ち上がらせ、グレイは少し肩を貸すようにしてハーマイオニーを立たせる。

 ハリーはちらりとエルメロイII世を見上げるが、不機嫌そうな表情のままアンブリッジの背中を追って歩き始めた。ハリーも特に何も言わずにエルメロイII世に半ば引きずられるようにして続いていく。

 暫し廊下を歩いていくと、校長室へと辿り着く。校長室前には魔法省大臣のコーネリウス・ファッジと闇祓いであり、不死鳥の騎士団団員であるキングズリー・シャックルボルト、そして闇祓いのパーシー・ウィーズリーがいた。

 

「ドローレス、手筈通りに進んだようだな」

「ええ、コーネリウス。証拠をお見せしますが、ダンブルドアが逃げないようにまずは取り押さえましょう」

「うむ、そうしよう。キングズリー、パーシー。ついてこい」

 

 校長室へと続く階段を登り、一行は校長室へと押し入る。中ではダンブルドアが不死鳥のフォークスに餌を与えていた。ダンブルドアが一行に気づくと、いつも通りの穏やかな表情を向けてきた。

 

「おおコーネリウス。それに皆の衆も。何用かな?」

「ドローレス、証拠を提示したまえ」

「ええコーネリウス。こちらを見てください、ダンブルドア軍団。私が集めていた動かぬ証拠ですわ」

「…パーシー、事実確認ができたら日刊預言者新聞に梟を飛ばせ。今ならまだ朝刊に間に合うはずだ」

「はい」

「さて、ダンブルドア…私が懸念していた通りだったようだな」

 

 勝ち誇ったように、そして残念そうにファッジは言う。ファッジの脳内では『ダンブルドアがヴォルデモートの復活を拝聴して恐怖を煽り、どさくさに紛れて魔法省大臣の座を奪おうとしている』という固定観念ができてしまっている。元々は良い関係だったはずだが、恐怖で正常な判断ができなくなっていた。そのため権力に物を言わせて、時計塔にまで協力を要請する始末なのだから。

 

「例のあの人にかこつけて、恐怖を煽っても無駄だ。魔法省大臣の座を奪おうとしていた。そのために生徒を唆し、私設兵団を結成していた。異論はあるかね」

「異論も何もあるまいよコーネリウス。全て事実であり、全て…わしの責任じゃ」

「認めるというのだな」

「うむ。ポッターはよく動いてくれた。生徒は校長の指示に従うという、彼の持つ道徳に沿って動いてくれたのじゃ。実に良い働きじゃった」

「…残念だよ、ダンブルドア。キングズリー、パーシー。ダンブルドアを拘束しろ。そして、アズカバンで裁判を待つのだ。裏切りと扇動の罪によって裁かれるのをな」

 

 気が重そうなキングズリーと仕事を全うしようと杖を手に取ったパーシーがダンブルドアに歩み寄る。だがダンブルドアは余裕な態度を崩さず、ゆったりとしたまま口を開いた。

 

「コーネリウス、一つ勘違いがあるようじゃな」

「この期に及んで、なにか弁明をする気か」

「弁明などない。じゃが、勘違いはある。東洋ではこう言う時、『神妙にする』という言葉があるのじゃが、わしは…神妙にする気もないし、アズカバンに送られるつもりもない」

「抵抗するか?いくらお前でも、ここから姿くらましはできまい。ホグワーツの結界はもちろん、重ねがけされた姿くらまし防止呪文の中ではな」

「その通りじゃな。さすが闇祓いじゃ。部分的とはいえ、ここまで鮮やかに結界を作り上げることは、並の魔法使いではできん。じゃが、わしにも都合があっての。すまんが、暫しの間留守にせねばならん」

「留守、だと」

 

 ダンブルドアはゆるりと笑いながら頷き、立ち上がる。

 

「うむ。わしにはやるべきことがあっての。その間、この部屋を管理する者がいなくなってしまうのが心残りじゃがな」

「あなたの部屋の管理などどうでもいいことですわ!」

「そうじゃの、この部屋の留守番については…ロード・エルメロイII世。君に依頼しようかの」

 

 突然話を振られたエルメロイII世は目を細めた。

 

「……理由をお伺いしても?」

「君はホグワーツの教師ではあるが、わし側でも魔法省側でもない中立じゃ。どちら側でもない者であれば、悪用することもあるまい。これはわし個人として、時計塔ロードである君への頼みじゃ。受けてくれるかの」

「…いいでしょう。ロード・エルメロイII世として、次期校長が就任されるまでの間、この部屋をお預かりいたします」

 

 エルメロイII世の言葉にダンブルドアは嬉しそうに頷く。これで後腐れなく行くことができる、とでも言うような表情にアンブリッジは我慢の限界が来た。

 

「もう沢山!捕まえなさい!」

 

 パーシーが杖を振り上げた瞬間、ダンブルドアの背後から飛んできたフォークスがダンブルドアの頭上で勢いよく燃え上がる。炎は爆風を伴い、ファッジ達を吹き飛ばした。咄嗟にグレイは盾の魔法を出すことで、エルメロイII世、ハリー、ハーマイオニーのことを守った。

 空中で燃え上がったフォークスは、空中に吸い込まれるようにして、ダンブルドア諸共部屋からいなくなった。

 

「あれは…」

「姿くらましだ」

「え、でも…この部屋は…」

 

 グレイが疑問を口にすると、エルメロイII世は吹き飛ばされたファッジに手を貸しつつ、答える。

 

「姿くらまし防止呪文は、()()()使()()姿()()()()()しか防止できない。妖精や魔法動物が使う姿くらましは、我々が使うものとは術式が異なる。人の使う姿くらましの術式を防いだとしても、他のものは防げない」

「くそ、ダンブルドアめ…まだ諦めていないのか…!」

「お気に召さないでしょうが、あの方を相手にするのは…とにかく骨ですよ大臣」

 

 キングズリーの言葉に納得はしていないながらも、ファッジは逃げられた以上ここでできることはないと諦めたのだろう。不満そうにしながらも、帰ろうと服を整え始めた。

 

「キングズリー、パーシー。一度、魔法省に戻るぞ。捕まるとは思えんが…ダンブルドアを指名手配しておく。ドローレス、君には引き続きホグワーツの問題解決に尽力してくれ。生徒達の更生も任せる」

「お待ちください、コーネリウス」

 

 帰ろうとするファッジに対して、不満そうにアンブリッジは声をかけた。

 

「どうした。ホグワーツの問題解決に何か問題が?」

「いえ、そちらについては問題ありませんわ。ですが、先ほどダンブルドアはエルメロイ先生に校長室の管理を言い渡しました。これについて、エルメロイ先生に何か言うべきことがあるのではありませんか?」

「…彼が校長になる、というのなら話は別だが、部屋の管理だけだ。契約違反にはならん。部屋の管理をしたところで、何かあるわけでもあるまい」

「契約としてならそうかもしれません。ですが、我々魔法省がこうしてホグワーツの管理に来ているという中で、魔法省管轄下組織風情(時計塔の魔術師)が管理を行うというのは不自然ではありませんか?」

 

 要するに、自分の配下であるはずのエルメロイII世が自分を差し置いて部屋の管理をするという事実が気に入らなかったのだろうとエルメロイII世は判断し、そしてその判断は正しいものだった。

 

「契約に反していない以上、言うことはない」

「ですがコーネリウス」

「これについて言うことはない。良いな、ドローレス」

「……ええ、承知しました」

 

 明らかに納得していない様子だが、魔法省大臣に直接そう言われてはさすがのアンブリッジといえど何も言えなくなる。権力の亡者であるからこそ、自分の権力よりも強い権力には弱い。

 だが内心では苛立ちが募っていた。何故魔法省という魔法界の政府が、こんな学者もどきの陰険な集団をのさばらせているのかと。魔法省こそが魔法界の頂点であり、全て魔法省の方針通りに動くべきではないのか。そんな思いをアンブリッジは燻らせていた。

 

「ロード・エルメロイII世。君の働きには感謝する。この部屋の管理については、我々は関知しない。好きにしたまえ」

「ええ、ではそのように」

「キングズリー、パーシー。帰るぞ」

「はい、大臣」

 

 それだけ言ってファッジは闇祓い二人とアンブリッジを連れて部屋から出て行く。その背中を見送ったエルメロイII世とグレイ、ハリー、ハーマイオニーは疲れたように息を吐いた。

 

「諸君、ご苦労。ひとまずだが、関門の一つは超えた」

「師匠もお疲れ様でした。ハリーさんとハーマイオニーさんも」

「僕らはついてきただけだよ。先生、ありがとうございます」

「構わない。これも仕事なのでね」

 

 エルメロイII世に依頼を先に持ってきたのはダンブルドアであり、エルメロイII世の意思に沿った依頼もダンブルドアのもの。時計塔の立場的には中立だが、どちらに意欲的に手を貸すかといえば間違いなくホグワーツだろう。

 

「それで先生、これからは…どうするんですか?」

「君らは引き続き防衛術の練習を続けたまえ。だが、集まり方はこれまで以上に気をつけることだ。そして、必要の部屋に求めるものも追加するといい」

「追加?」

「今回の件で理解したはずだ。必要の部屋は、出口ですら用意してくれると。寮から直通…はできないかもしれんが、寮から近いところから必要の部屋へと通れる道を用意してくれる。必要の部屋が準備した道を通って必要の部屋へと向かうことだ」

 

 エルメロイII世がダンブルドア軍団に自らが企てた『計画』を伝えた際に実験したが、必要の部屋は所定の出入り口だけでなく別の場所に繋がる出入り口をも用意してくれた。このことからわかるように、ここ以外の場所から出入りすることができる通用口もどこかしらに用意できる。これからはそこから出入りするようにすれば、見つかる可能性はさらに低くなる。

 

「先生、質問いいですか」

 

 グレイがかけていた縄の魔法が一時的に解除されたハーマイオニーはエルメロイII世に問いかける。

 

「答えよう、ミス・グレンジャー」

「先生は、この後の私たちの活動がバレないって…どうして確信できるんですか?」

「何、簡単なことだ。奴は君らを捕縛し、罰を与える。罰を与えた後に君らが見た目上大人しくしているように見えれば、奴は君らの心が完全に折れたと判断する。そうすれば、そもそも君らを探すという考えすら浮かばなくなるのは目に見えている。それだけだ」

 

 アンブリッジは狡猾で決して馬鹿ではない。だが、自分よりも立場が低い者を露骨に侮る傾向がある。表向きでもハリー達が大人しくしていれば、アンブリッジはハリーの心が完全に折れたと判断するだろうと予想していた。

 

「奴は決して馬鹿ではないが、立場が低い者を侮る。今までみたいに露骨な反抗心を見せない限り、君らのことを探そうなどとは思わないさ」

「…でも、罰則は…」

「ああ、それについても問題ない。時間は取られるだろうが…少なくとも君らに肉体的苦痛は与えられんよ」

「え?」

「そのうちわかる。罰則が終わった後に恐らく()()()から種明かしがあるだろう。時間が取られること自体は私では防げん以上、そこはすまないが受けてくれ」

「どういうこと?」

「いや…僕もわからない」

 

 エルメロイII世の言葉の意味がいまいちわからないが、とりあえず傷つくことはないと言っている。とりあえずそれならいいだろうと納得し、ハリーは頷いた。

 

「さて、あまりここに留まっているわけにもいかん。そろそろ、寮に戻るといい。ああ、念の為捕縛しているようには見せるがね」

「先生」

 

 今度はハリーがエルメロイII世に疑問をぶつける。

 

「先生の言っていたアンブリッジを無力化する計画…疑う気はないです。でも、この計画が立てられるなら、ダンブルドア先生がホグワーツを去る必要はなかったんじゃないですか?」

「言いたいことはわかる。だが、これは奴を無力化する上でもダンブルドア教授のためにも必要なことだ。これ以上のものはない」

「ダンブルドア先生のため?」

「再びダンブルドア教授が戻ってきた時にでも聞くがいい。さあ、戻るとしよう」

 

 エルメロイII世は見た目だけハリーとハーマイオニーを捕縛すると、グレイと共に捕縛した二人を連れて校長室から去っていく。

 校長室の歴代校長の肖像画達は、何をすべきか確認し、そしてダンブルドアが戻るまでの間、この部屋に入れられる人物が誰なのかを定めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、大広間の前に新たな教育令が吊り下げられた。

 内容は『アルバス・ダンブルドアの代わりにドローレス・アンブリッジをホグワーツ校長とする』という、ある意味予想通りのものだった。

 

「…アンブリッジがホグワーツ校長」

「こんなに学校が最悪になりそうな言葉ねえよな」

「まったくよ。これならスネイプが校長の方がまだマシに思えるわ」

「認めるのは嫌だけど…僕もそう思うよ」

 

 あれだけ嫌っているスネイプだが、それでもアンブリッジよりはマシだと思えてしまう。ハリーとしては認めるのは癪ではあるが、アンブリッジよりは良さそうだとは思える。

 

「やあ、みんな」

 

 新しい教育令をげんなりしながら見ていたハリー達に、ネビルが話しかけてくる。

 

「やあネビル」

「うん。それよりみんなどうしたの?」

「あれ」

「ん?……ああ、そういう」

 

 新しい教育令を見てネビルは気が重そうに小さく息を吐く。ネビルとしても同じような考え方になったらしい。

 ただ、ふと何かを思い出したようにネビルが顔を上げた。

 

「あ、そういえばね。さっき見たんだけど…」

「どうしたのネビル」

「さっき、アンブリッジが校長室の前ですごい怒ってたんだ。多分校長室に入れなくて怒ってたんだと思うだけど…」

「校長室に?」

「うん。遠目にみただけなんだけど、校長室に入れない!って随分怒ってたよ」

 

 ハリーはこの時知らなかったが、ホグワーツの校長室は『ホグワーツ』に校長と認められた者しか入れないようになっている。無論校長自体がその縛りを一時的に解くことで他の者も入れるようになるが、ダンブルドアはこの時エルメロイII世とエルメロイII世に追随して入ってきた者しか入れないようにしていた。

 

「それでか。僕らへの罰則があまりにも早すぎると思ってたけど、僕らを痛めつけて憂さ晴らししようってことだ」

「おっどろき。そこまで早い切り替えはある意味尊敬するぜ」

「でも…僕ら大丈夫かな?あれだけ怒ってたんだし…きつい罰則になるんじゃ」

「私たち一人一人にきつい罰則をさせる時間はないし、だから全員をまとめて痛めつけられる手法を取るはずだってエルメロイ先生が言ってたわ」

「痛めつける…あの羽ペンか」

 

 かつて傷つけられた左手を撫でながらハリーは言う。経験者故にわかるが、あの罰則は結構しんどい。直接手の甲に刻みつけられる痛みはかなりきつい。ハリーがやった時は短時間で終了したが、今回の罰則の時間を考えると左手に何回刻み込まれるのか考えただけでも身震いしてしまう。

 だがここでエルメロイII世が言っていた言葉をハーマイオニーが思い出す。

 

「エルメロイ先生が大丈夫って言っていたわ。今は…先生を信じましょう」

「そうだね。僕らの活動についても裏から支援してくれた先生だ。この罰則はとりあえずみんな出よう」

「だな。逃げたら面倒なことになるのは間違いない」

 

 その夜、ハリー達は罰則として大広間に集められた。()()()()()()リストには四年生以上の生徒しか書かれていないため、四年生以上の生徒しかいない。だがアンブリッジはそれに疑問を持つことなく、生徒を集めた。

 大広間には机が並べられており、紙と羽ペンが並べられている。その羽ペンを見て、ハリーは顔を顰めた。かつて罰則として使ったものと同じ羽ペンであることがわかったからだ。

 

「みなさん、罰則の時間です。机の上に紙とペンを用意しています。これを使って、時間内はひたすら書取りを行なってください。罰則はこれだけです」

 

 時間は、ハリーが以前行った時と比べると遥かに長い。この時間で与えられる痛みに思わず足が竦みそうになるが、フレッドとジョージがハリーの肩を叩いて追い越すと、さっさと席について書取りを始めた。

 あまりにも従順な二人に違和感を覚えながらもハリーも席につき、他の生徒達も席について書取りを始める。

 ハリーは痛みを覚悟して書取りを進めていくが、違和感があった。以前の罰則の時は文字通りペンで刻まれるような痛みがあったが、今はただくすぐったいだけだった。左手を見ると、書取りの文字が確かに写っているが、体に刻み込められる様子はない。

 

(これは…)

 

 ふと、エルメロイII世の言葉を思い出す。

 彼は『時間は取られるが、肉体的苦痛はないようにする』と言っていた。どうやら彼の仕業らしいとハリーは納得する。くすぐったさから思わず左手を動かすが、痛みはない。むしろこうして左手を動かしてくすぐったさに耐える姿が、アンブリッジからは痛みに耐えているように見えるらしい。醜悪で満足そうな顔で生徒達を見下ろしながら紅茶を楽しんでいた。その姿に怒りを覚えそうになるが、騙されていることを考えると滑稽に思えてしまう。

 ひたすら書取りを行い、くすぐったさに耐える時間を終えると、ハリー達はさっさと談話室へと戻る。そしてロン、ハーマイオニーと目を見合わせた。

 

「なあ、今回の罰則…」

「うん、絶対エルメロイ先生の仕業だ。僕が前に使った羽ペンを、先生が違うものとすり替えたんだよ!」

「くすぐったさに耐えるだけの時間で、罰則としては相当緩いものね。でも、いつのまにかすり替えたのかしら」

「ただすり替えただけじゃないぜ」

 

 ハリー達が振り返ると、フレッドとジョージが不敵な笑みを浮かべながら立っていた。

 

「二人は何か知ってるの?」

「知ってるも何も、俺たちもこの罰則には一枚噛んでるからな」

「どういうこと?」

「説明してやるよ。先生と俺たちの協力プレイをな!」

 

 

 

 

 

 

 

 エルメロイII世がハリー達に自らの計画を話す少し前。グレイがエルメロイII世の計画の全貌を知った翌日のこと。

 フレッドとジョージはエルメロイII世の私室にいた。

 

「えっと、先生。俺らに何か用?」

「用がなければ呼ぶことなどしないさ。さて…早速本題に入るとしよう。グレイ、二人にあれを」

「はい、師匠」

 

 エルメロイII世に言われてグレイがフレッドとジョージに何かを手渡す。渡された物は、傍目には何の変哲もない羽ペンだった。

 

「羽ペン?先生、これが何?」

「これは、先日ポッターがアンブリッジの罰則で使わされた羽ペンだ。使用者の血を吸い上げてインクに変えるだけでなく、書き記した文字が書いている方とは逆の手に文字通り刻みつけられるようになっている」

「なっ⁈」

「これを、二人には複製してほしい」

 

 驚いたように目を見開くジョージに対して、フレッドは真面目な表情でエルメロイII世に目を向ける。

 

「先生。俺らは魔法道具を趣味で作ってるし、将来は魔法道具の店を開いて食っていくつもりだ。先生のおかげで俺たちの魔法道具はすごい進化した。だから先生には感謝している。でもよ、こんな闇の道具を与えられて喜ぶと思ってんのか?それに複製とか…こんなこと、俺らがやるとでも?」

「思わんよ。複製といっても、そのまま複製するわけではない」

「どういうことだ?」

「これを、()()()()()()()()()()()()のだよ」

 

 フレッドとジョージはエルメロイII世の言いたいことがいまいちわからず目を見合わせる。そんな二人にエルメロイII世は一枚の写真を見せた。写真には痛々しい傷跡のある腕を持つ男性の姿があった。

 

「うわ…ひでぇ傷跡だなこりゃ」

「で?これがどうしたんだよ先生」

「これはマグルの技術で『特殊メイク』という。化粧の技法を活用し、傷跡のように見せる技術だ」

「え、マグルって化粧でこんなことができんのか⁈」

「すげえ…本物の傷跡にしか見えないぜこれ」

「二人には、特殊メイクの要領で()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を作製してほしい」

 

 エルメロイII世の言葉に双子は目を見開く。

 

「お前達の道具作成スキルは、目を見張るものがある。今まで作ってきた道具のコンセプトはともかく、出来と作製期間、そして改良期間を考えると、お前達のスキルと発想力は天賦のものだ。その能力を将来的には他者のために活かすのであれば、魔法道具の()()()()…人の悪意の一端を知っておくことも、早い方がいい」

「先生…」

「…俺たちが、これを解析することで…闇の魔法道具を作ることは考えなかったのか?」

 

 二人はまだ闇の魔法道具に触れたことはない。無論どういうものがあるかは知っているが、実際に見たことはない。エルメロイII世にも自分達がいたずら好きであることは承知の上だろう。そんな自分達が闇の魔法道具を作る危険性はないのか。そう問いかけた。

 だがエルメロイII世は全く動じることなく煙草に火をつけると、煙を吐き出しながら言った。

 

「そんな危険性がある生徒に、こんな危ない物を預けるはずなかろう。私とて、時計塔で教鞭を取る身だ。最低限、人を見る目は身につけている。お前達は問題児だが、心に宿す芯の強さは理解しているつもりだ。お前達にこれを与えたとしても、これを悪用するとは思わん」

 

 フレッドとジョージはいたずらばかりする問題児だが、決して悪の道に堕ちる人間ではないとエルメロイII世は評価していた。心に宿す正義と他者への思いやりの深さは、まさにグリフィンドール生そのものといえるものだと理解している。そんな二人に闇の魔法道具を渡したとしても、決してそれを悪用するとは思えなかった。

 そんな評価を受け、双子は目を見合わせると照れたように笑った。

 

「わかったよ先生。これを解析して、傷じゃなくて傷跡に見えるようなメイクが手の甲に浮かび上がるようにすればいいんだな」

「そうだ。残念ながら私では解析はできても道具の作製はできん。君らの道具作成スキルを存分に発揮するチャンスとも言える。やってくれるか」

「もちろんだぜ先生!」

「先生にそんなこと言われちゃあやらないわけにはいかねえよ!」

「感謝する。一本できたら持ってきてくれ。出来を見せてもらう。必要な材料があれば、私かグレイに申し付けてくれ。こちらで手配しよう」

 

 頷く双子を見てエルメロイII世も頷くと、煙草の煙を吐き出して煙草の灰を落とす。そして改めて、双子に目を向けた。

 

「本題はここまでだが、もう少しいいかね」

「ん、なんだよ先生」

「二人とも七年生なわけだが、卒業後はどうするつもりかね」

 

 エルメロイII世の言葉に双子は目を丸くする。まさか進路について聞かれるとは思っていなかったが、二人は既に進路を決めていた。

 

「先生。俺たちは自分の店を持つんだ。ダイアゴン横丁にもう目星もつけてる」

「一刻も早く、自分達の店を持ちたいんだ。そのために、このホグワーツで必要なことはもうないって俺たちは判断した。最後にアンブリッジの奴をとっちめて、俺たちはこの学校を去るぜ」

「それは構わん。卒業すること自体は好きにしろ。だが、お前達はNEWT試験を受けるべきだと私は考えている」

 

 エルメロイII世の言葉の意味がわからず、双子は首を傾げる。

 

「どういう意味だよ先生」

「俺たちにとって、あんな試験受けることに意味はないと思うぜ」

「直接関係することはないだろう。だが、あの試験対策をすることでしか学べないことは確かにあるのだ。魔法界において、あれほど難しい試験は他にない。故に、()()()()()()()()()()()()()()()()()というものも確かにあるのだよ」

 

 一般魔法界において、NEWT試験ほど難しい試験はないとされており、エルメロイII世もその意見には賛成だった。エルメロイII世となる前、時計塔に入学する前に受け、実技以外はそれなり程度の成績をおさめたことは記憶に残っている。講師という立場に身を置きしばらく経つが、いまだにあの試験の難易度はおかしいと思えるものだった。今ならある程度解けるだろうが、学生に解かせる問題としては些か難易度が高すぎるように思える。

 だがそれほどまでの難易度であるからこそ、この試験対策でしか学べないこともある。この試験対策の機会を逃せば、まず間違いなく触れることのない知識というのもある。これから魔法道具作成を生業にしていくのであれば、こういった貴重な機会を逃すことはあまりにも勿体無いとエルメロイII世は考えた。

 

「お前達が今後どのように魔法道具を作っていくかは知らん。だが、道具作成を生業とする以上、『発明』という分野で生きていくことと同義だ。発明そのものは一瞬の閃きから生まれるものかもしれないが、その下にあるのは無数の失敗と日頃から蓄えたたくさんの知識だ。お前達も、道具作成の際にはたくさんの失敗を積み重ねてきているだろう。そして、新しいものを作るか決めた時、どんな知識が必要になるか調べ直すこともしてきただろう。試験そのものは決してお前達には必要なものではないが、お前達の将来を考えればこの試験を通して得られるものは決して無駄にはならないと断言しよう」

「先生…」

「さっきも言ったが、卒業するかどうかは好きにしろ。お前達の進路を見るに、卒業そのものが必要とはとても思えん。だが私個人としては、NEWT試験は受けておいた方がいいと思う」

 

 最後に決めるのはお前達だがな、と付け加えてエルメロイII世は煙草の煙を吸い込み、吐き出した。

 

「…先生」

「なんだ」

「先生がそんだけ言うってことは、よっぽど有意義なんだよな」

「さてな。有意義になるかどうかは、お前達次第だ」

「…OK先生、俺達決めたよ!」

 

 フレッドとジョージは笑顔をエルメロイII世に向けながら言った。

 

「俺たち、試験受ける!先生の言ったこと信じて、全力で対策してやる!」

「ああ!ママに店出すことを文句言わせないくらいの良い成績取って、卒業してやるよ!」

「そうか、励むといい」

「え?先生も付き合ってくれるんだろ?」

「…何?」

 

 フレッドの言葉にエルメロイII世は固まる。

 

「俺らに試験を受けさせるよう決心させたのは先生だぜ?なら、先生も試験対策に付き合ってくれるんだろ?」

「いや待て、私は魔法理論の講師だ。NEWT試験に魔法理論は…」

「先生は実技以外なら大体なんでも教えられるだろ?なら充分だろ」

「そうと決まれば、他のみんなにも声かけようぜ!先生が試験対策に付き合ってくれるって聞けば、きっとみんな飛びついてくるはずだ!」

「そうだなフレッド!じゃあ俺はグリフィンドールとレイブンクローの七年生に声かけてくるぜ!」

「おう!じゃあ俺はハッフルパフと…一応、スリザリンの連中にもやることは伝えておくか」

「ま、待て!私はやるとは…」

 

 どんどん話が進んでいく双子を制止しようとするも、そんなものを聞かないことはエルメロイII世もよく承知の上だった。

 

「じゃあ先生!試験対策、よろしくな!」

「楽しみにしてるからな!」

「話を聞かんかこの馬鹿者共!!!」

 

 走り去っていく双子にキレるエルメロイII世の怒号が廊下に響き渡るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「って感じで、俺たちが作った偽の羽ペンを使ったんだ」

「なかなか面白い作成だったな!特殊メイクのこと調べるの、結構面白かったぜ!」

「そんなことが…」

 

 やはり、エルメロイII世が裏で色々やってくれていたらしい。自分達だけではできなかったことをあの人はやってくれている。ハリーが信じた通り、彼は信じるに値する人物のようだ。

 

「おっどろき!あの人、裏でそんな暗躍してたのか!」

「さすがとしか言えないね。僕らだけじゃ…多分、普通にあの罰則を受けていたと思う」

「それは確かにすごいことだし、とても助かったのは確かだけど!それより重要な話が出てきてるわよ!」

 

 突如声を上げたハーマイオニーにハリーとロンは目を丸くする。

 

「どうしたんだよハーマイオニー…あ、もしかしてフレッドとジョージが卒業しないつもりだったってことか?」

「それも驚いたけど、違うわよ!エルメロイ先生が試験対策用の特別講義をするってことよ!」

「ああ。今は週末の夜にやってるぜ。まだ2回しかやってねえけど、これがためになるのなんの!」

「実技用講師としてフリットウィックも呼ばれてるけど、メインはエルメロイ先生だな。エルメロイ教室なんて呼び方されてて、魔法理論の教室に入りきらないくらい生徒が集まってるぜ」

「どうしてそんな有意義な教室があることを教えてくれなかったの⁈」

 

 ハーマイオニーの言葉に、ハリーはなるほどと納得する。

 エルメロイII世の授業はとんでもなくわかりやすい。ホグワーツの教師達も長年やっているだけあり教え方は(多少の差異はあるが)上手い。しかし、彼の教え方は既にホグワーツの中でも有名になっており、彼の授業の出席率はほぼ100%だった。授業への意欲の薄いロンでもエルメロイII世の授業は必ず出席しているほどなのだから。

 そんな中、授業への意欲が非常に高いハーマイオニーはエルメロイII世の授業を誰よりも大切にしていた。元々、彼女は魔法理論の授業を大切にしていたこともあった。だが、エルメロイII世が教鞭を取るようになってから、他の授業への理解が更に深まり、如何に素晴らしい授業をしてくれるかを誰よりも身をもって体感していたからだ。それだけ尊敬している講師が、独自の授業で試験対策をしてくれるとなれば、ハーマイオニーとしては出ないわけにはいかない。

 

「やってる内容がNEWT試験対策だけだからだ。ただでさえ教室がパンパンなのに、これ以上増やせるわけないだろ?」

「それにハーマイオニーまだ五年生だろ。NEWT試験受けるのまだ先なのに、試験対策しかしない授業に誘うと思うか?」

「それは……そうかもしれないけど…」

「そんなわけだ!先生のこと尊敬してんのはわかるけど、さすがに上級生に譲ってくれ」

「私達がNEWT試験受ける時には、先生いないかもしれないのに…」

 

 結構本気で落ち込んでいるハーマイオニーにハリーとロンは苦笑する。まさかここまでエルメロイII世を尊敬しているとは思っていなかったため、さすがに苦笑せざるを得なかった。

 

「まあ…でも試験受ける方が優先だよね」

「…エルメロイ先生、OWL試験でも対策してくれないかしら」

「おいおいハーマイオニー、エルメロイ先生を過労死させる気か?さすがに無理があるぜ」

「はぁ…」

 

 ここまで落ち込むのか、と若干引きながらもハリーとウィーズリー三人は今後のことへと話を進めていこうと話を逸らしていくのだった。

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

 ハリー達が罰則を受けた数日後。

 ホグワーツ校長室でエルメロイII世とアンブリッジが向き合っていた。

 

「さて…アンブリッジ女史。どういったご用ですかな」

 

 エルメロイII世はデスクの裏手にある天球モデルの前から、アンブリッジを見下すように視線を向ける。エルメロイII世の側にはグレイもおり、手に持っているはたきを見たところ掃除の途中だったようだ。

 

「もう夜も更けてきました。手短にお願いしたいです」

「ええ、私も長引かせるつもりはありませんわ先生。単刀直入に言います。校長室を、私に明け渡しなさい」

 

 あれから数日、結局アンブリッジは校長室に入れずにいた。魔法省がホグワーツに干渉した理由の一つであるハリーやその友人達は罰則以降大人しくしているが、ロード・エルメロイII世が七年生を集めて試験対策の課外授業をしている。これについて本人に詰め寄ったが、『実技はしていない。それに契約には違反していない』と言った。実際その通りであったこともあり、アンブリッジは反論できなかった。加えて、ファッジにこのことを伝えたとしても『実技をしていないなら契約違反ではない』と一蹴されてしまった。結果、アンブリッジは我慢が効かなくなりエルメロイII世から部屋を奪い取ろうとのことらしい。

 

「ふむ、明け渡すも何も、私はこの部屋の管理を任されただけであり、部屋の主人ではありません。その権利を私は持ち合わせていません」

「ですが、あなたは個人としてこの部屋に入れる。どうやったのかは知りませんが、ホグワーツの校長たる私を差し置いてあなたがこの部屋に入れるという事実は看過できませんからね。どうにかしなさい」

「どうにかするも何も、私にはどうすることもできません。この部屋への入室許可を得る権利は、ホグワーツの校長、または歴代校長からの許可が必要なのです。私はダンブルドア教授に許可を与えられましたが、許可を与える権利は持ち合わせておりません」

「ホグワーツの現校長は私です。私を差し置いて部屋に出入りできるなど、到底認められるものではないですわ。それにあなたの立場上、私の指示を聞く義務があります。それは先生もご存知のはずでは?」

「契約に関する指示ならばともかく、契約に関係しないものであれば話は別です。ポッターを処罰し、ダンブルドア教授がホグワーツを去り、魔法省への叛逆を未然に防いだ以上、本件の契約はほぼ完遂している。今の私に残されているのは、ダンブルドア教授が残した可能性のある残存勢力の監視と魔法理論の教師として教鞭を取ることくらいです。この部屋の管理については、契約とは無関係。アンブリッジ女史が私を縛る権利はお持ちではありません」

 

 魔法省と時計塔の契約は要約すると『ホグワーツの教師として潜り込み、ポッターとダンブルドアの監視をする』というもの。あくまでダンブルドアが叛逆しているということに対する監視・報告をするという契約である以上、この部屋の管理についてはアンブリッジがどうこう言える立場ではない。

 

「それに、以前魔法省大臣がこの部屋の管理について貴女がどうこう言うことではないとおっしゃっていたはずでは?」

「あの時はまだ校長ではありませんでした。ですが、今の私はホグワーツ校長です。校長である私がそう言っているのですから、教師であるあなたは私に従う義務があります」

「ふむ、それは最新の教育令についてですかな?」

「ええ。私はホグワーツ校長です」

「いえ、貴女は校長ではありません」

 

 エルメロイII世の言葉にアンブリッジは目を見開く。

 

「魔法省から出された教育令は魔法省から出されている以上、ある程度人事に対する強制力はあるでしょう。しかし、校長は別だ。校長は先代校長が任命し、理事会が承認。そして最終的に()()()()()()()()()に認められなければなりません。教育令として出されただけでは、校長の立場は確立されません」

 

 ホグワーツの校長はホグワーツに対するさまざまな決定権を持つため、教師と比べて任命されるまでいくつか承認が必要となる。先代校長が任命し、それに対して理事会が承認した上で、ホグワーツの()()()()から認められることで初めて校長という立場になる。魔法省が独断で決められるのはあくまで教職員の人事までであり、校長の任命権はない。故に、魔法省から教育令が出されたからといって、アンブリッジが校長になることはできない。

 

「部屋については私にはどうすることもできず、できたとしてもそれを命令できる立場ではありません。おわかりでしょうか」

「先生…私、あまりこういうことは言いたくないのですが、きちんと立場をわきまえた方が身のためですわよ」

 

 アンブリッジは平静を保っているように見せかけているが、内心は穏やかではない。それをわかっていてなお、エルメロイII世は一切の動揺を見せず、ただ事実を淡々と述べていく。

 

「私と貴女の立場は、契約の中のものでしかない。例え貴女が如何なる権力をお持ちであろうとも、契約以外のことであれば私には関係ない。今回の貴女の要求は契約とは一切関わりがないものであり、魔法省大臣自身がこの部屋の管理に対して言及しない以上、貴女にはどうすることもできません」

「できますわよ、先生」

 

 醜悪な笑みを浮かべながら言うアンブリッジに、エルメロイII世は目を細める。

 

「ほう?では、どうするのかお聞かせ願えますか。手法次第では、こちらも手を打てないか考えましょう」

「時計塔を、魔法省の権限で閉鎖するのです。学科の君主であろうとも、時計塔そのものが閉鎖されては困るでしょう?そうされたくなかったら、私の…」

「アンブリッジ女史、それは不可能です」

 

 あまりにも予想通りすぎる言葉に呆れながらエルメロイII世はアンブリッジの言葉を否定する。否定されたアンブリッジはさらに顔を歪め、怒りを通り越して憎しみに染まった顔でエルメロイII世を睨みつけたが、全く動じる様子はない。

 

「何故なら、魔法省は時計塔をどうにかする権利も武力もないのですから」

「そんなはずありませんわ。時計塔は魔法省の管轄に…」

「ありません。時計塔は独立した研究機関であり、魔法省とは不可侵な関係です。やり取りすることはありますが、魔法省は時計塔を管理などしておりません。故に、魔法省大臣であったとしても閉鎖などできません」

 

 時計塔と魔法省の関係は対等かつ不可侵。権力として上下関係はなく、互いに積極的に関わることはない。魔法省は一般魔法界の秩序を管理し、時計塔は魔術の研究を進めて根源へと至る道を探す。時計塔にとって一般魔法界などどうでもいいことであり、魔法省にとって根源などどうでもいいこと。互いに向いている方向が大きく異なるが、規模としてはどちらも大きい。時計塔は危険ではあるが、取り締まり管理するには規模が大きくリスクとしては大きすぎる。加えて、時計塔内部の神秘は魔法省の神秘部にも通ずる『何か』がある。そのため魔法省は時計塔とは敵対したくないと判断しており、一般魔法界が脅かされない限りは決して手出ししない方針を()()()()()()()()()()()立てている。これは魔法省大臣が変わっても決して変動しない方針であり、歴代の魔法省大臣の誰も覆そうとしなかった事実でもある。

 

「そんなはずありません!魔法省は、魔法界の政府なのですよ!我々に管理されずに存在できる組織など、あるはずがありませんわ!」

「どう捉えるかはご自由に。しかし、どうすることもできないことが事実です。お引き取り願います」

「お黙りなさい!私は魔法省高等尋問官です!お前のようななんの役にも立たない研究しかしていない無能共が!黙って私の命令を聞いていればいいんです!」

 

 とうとう取り繕うことすらできなくなったアンブリッジが捲し立てる。思わず杖を抜いてきそうな剣幕に、グレイはローブの内側に挿してある杖をそっと手に取った。

 

「ふむ。そう言われたとしても、私は貴女の命令を聞く義務はなく、そして聞きたいとも思わない。そのような横柄な態度を取られれば、誰でもそうなるだろう」

「あなたの意見など聞いておりません!いいから黙って、私の命令を聞きなさい!これは魔法省としての命令です!」

「我々時計塔は、契約により魔法省からの命令はダンブルドア教授の叛逆とポッターの虚偽関連以外は要請を受けたとしても拒否することを容認されている。そして、時計塔としても魔法省からの命令を受ける義務はない。これ以上、契約を逸脱するような言動を続けるようであれば、契約を無効にします」

「黙れ黙れ黙れ黙れ!黙って従いなさい!インカーセラス!」

「プロテゴ!」

 

 エルメロイII世に向けて放たれた縄をグレイは防ぐ。それを見てアンブリッジは更に激昂した。

 

「邪魔をしないで!時計塔の能無し学生と無価値な研究者如きが、この私を邪魔するなどあってはならないのです!」

「貴女は…!」

「私自身はお飾りだが、生徒まで侮辱されることは見過ごせん」

 

 エルメロイII世はジャケットの内側から一つの封筒を取り出す。それは以前、エルメロイII世がライネスに頼んで取り寄せていたものだった。

 エルメロイII世は封筒から一枚の紙を取り出す。そこに記されていたのは、時計塔と魔法省が交わした契約だった。エルメロイII世が杖で契約書を叩くと、契約違反を伝えるように契約書の文字が青く輝いた。

 

「たった今、魔法省から時計塔への契約違反を確認した。魔法省側からの一方的な契約違反および侮蔑行為を受け、ロードとしてここに宣言する。時計塔は魔法省への協力を今後一切拒否。また、違約賠償として時計塔現代魔術科及び法政科への違約金の支払いを命令。本命令を拒否した場合、更なる違約金の増加及び魔法省管轄下の霊地の没収(強奪)を強行します」

「私に、命令しないで!クルーシオ!」

「ステューピファイ!」

 

 放たれた呪詛にグレイの失神の呪文がぶつかり、弾けた。

 

「…その呪詛は、人に向けることを魔法省が禁じていたはずですが」

「お黙りなさい!私の命令は!絶対です!」

「契約違反についてはすでに法政科および魔法省に通達されました。法政科から魔法省へ契約違反に関する通達がいくので、魔法省側でどうするか決めていただければ」

「時計塔の命令がなんだというのです!黙って私に…従え!インペリオ!」

「っ!エクスペリアームス!」

 

 グレイの魔法がアンブリッジの呪詛を突き破り、アンブリッジの杖を弾き飛ばした。武装解除されたことで完全に丸腰となったアンブリッジは為す術がなくなり、グレイとエルメロイII世を睨みつけた。

 

「師匠に手出しはさせません」

「助かる、グレイ」

「……後悔させてあげますわ先生。魔法省を敵に回すということがどういうことなのか、その選択がどのような結末になるのかを、たっぷりと教えて差し上げますわ!」

「ほう、どうされると」

「闇祓い総出で、時計塔を陥落させます。そして魔法省への叛逆行為を企てたとして、時計塔が所有するあらゆる資産を魔法省が没収し、君主は全員アズカバン行きです!所属している魔術師達は全て、魔法省の監視下でなければ動けないようにしてやります!研究についても結果は全て魔法省が没収し、価値のある研究結果を魔法省の研究結果として発表。残りは全て記録としてだけ残し、今後研究を進めるのは魔法省の手の者だけにするのです!」

「不可能ですな」

 

 エルメロイII世は葉巻を取り出すと、火をつけて煙を吸い込む。煙を吐き出すと、冷ややかな目でアンブリッジを見つめた。

 

「まず、闇祓い総出だったとしても、時計塔は落とせない。全員がヴォルデモートやダンブルドア教授レベルなら話は別ですが、戦闘に長けている程度では到底落ちません。時計塔には闇祓いと同等以上の実力を持つ者もいる。少数精鋭の闇祓いであっても、時計塔を陥落させることはできません。次に、仮に魔法省が時計塔の研究結果を所持したとして…それを誰が管理するのでしょうか。管理する、と一言で済ませるのは容易ですが、時計塔の研究結果は膨大な量だ。1つの学部だけでも魔法省が管理できる量ではないというのに、12も学部があれば管理は不可能でしょう。そしてその研究結果は、まず間違いなく大抵の者に理解できない。そんなものを管理するなど、夢物語でも実現不可能だ」

 

 魔法省は政府ということもあり、それなりの人材がある。しかし彼らはあくまで役人であり、研究者ではない。そのため時計塔の研究成果を完全に理解できる者は多くないだろう。加えて、西暦元年から続く組織の研究成果は、公式の記録として残されているものだけでも膨大。そんな膨大な量の研究を管理することなど、どう足掻いても不可能。加えて研究者である魔術師の中には戦闘に長けている者もいる。戦闘力では上位に位置する闇祓いといえど、数としては多くない闇祓いでは時計塔を落とすことなどできないだろう。

 

「魔法省の権力が届く範囲なら貴女の望み通りに動いたかもしれませんが、時計塔は魔法省の権力が及ばない組織だ。貴女の望みは、何も叶わない」

「ロードのお飾り如きが!高貴なる純血一族の私を、見下すな!」

「ほう、純血」

「そうです!私は、聖28族であるセルウィン家の末裔であるドローレス・アンブリッジ!お前のような大した歴史もなく、無価値同然の家系の人間とは人としての価値が違う!お前のような下賤な存在は、私のような高貴なる存在に支配されていれば…」

「貴女は純血でもなければセルウィン家の末裔でもないだろう。虚偽の出自を騙るのは感心しないな」

 

 エルメロイII世はライネスから受け取った封筒に入っていたもう一つの紙を取り出す。そこには家系図が記されていた。

 

「貴女の父はオーフォード・アンブリッジ、そして母はエレン・クラックネル。オーフォードは純血のようだが、エレンは俗にいうマグル生まれ。世間的に言われている純血の定義に当て嵌めれば、貴女は半純血ということになる。そして、オーフォード・アンブリッジの家系はセルウィン家とは一切関係のない家系だ」

 

 呆れたように葉巻を吸うエルメロイII世と『ライネスが用意していたのはこれか』と納得するグレイを見て、アンブリッジはぽかんと口を開いていた。

 

「貴女のいうとおり、私の家系は3代しか続いていない。歴史という意味では無いに等しいものかもしれないが、他の家系の歴史を掠め取り、その威光を他者を貶めるだけにしか使えない外道と比べられるのは良い気分はしないものだ」

「なっ、何故…」

「この程度、調べることは造作もない」

 

 尤も、調べたのは法政科だが、と内心で付け加えながらエルメロイII世は続ける。

 

「歴史ある家系には続いてきただけの誇りがある。ただ由緒正しいということでなく、積み上げて、後に繋げてきた先人達への敬意が誇りへと昇華するのだ。お前のような外面のことしか考えていない愚か者は、その歴史の価値を真に理解することなどできはしない」

「っ!」

「お前は他者や先人への敬意などない。全ての存在は、弱く脆い己を強く見せるためだけの道具としか考えてない。自分を直視することなく、他者を貶めることでしか己を確立できなかったお前になど、誰もついていかない。どれだけ権力があろうとも、他者を『見る』ことを無意味と断じ、目に見える権力にしか価値を感じないような輩はいつの日か背中から刺されて終わりだ」

「この…この、陰険な策謀家め!魔法省の力を、今に思い知りなさ…」

 

 再び捲し立てようとするアンブリッジの目の前に、突如として白い光の塊が降り立つ。まるで白い煙の塊のようなそれが守護霊であることを、グレイはすぐに悟った。

 

「師匠、あれは…守護霊ですか?」

「ああ。恐らく、魔法省から飛ばされてきた謂わば伝書鳩代わりだろう。一方的に伝言を伝えることしかできないが、フクロウよりも早い」

 

 この守護霊が闇祓いのキングズリー・シャックルボルトのものであると悟ったアンブリッジは、怒りの表情を一変させ勝ち誇ったかのような表情になった。

 

「魔法省からの伝言が届きましたわ。これは魔法省が時計塔への報復を決めたというものに違いありません。契約があれど、魔法省はイギリス魔法界を管理する組織なのですから」

「では、伝言を聞いてみるとしましょう。話はそれからです」

 

 もう話すことなどないが、と内心で付け加えながらエルメロイII世とグレイは守護霊に託された伝言を待つ。

 アンブリッジは嬉々として守護霊の伝言を開いた。これで気に食わないロード・エルメロイII世も時計塔も全て管理下におき、立場をわからせてやることができると思っていたから。

 しかし、守護霊の伝言はアンブリッジの想像していたものとは真逆だった。

 

『魔法省大臣コーネリウス・ファッジから、ドローレス・アンブリッジの降格と減給、謹慎、異動を命じる』

「………は?」

『処分の要因は、時計塔君主であるロード・エルメロイII世との契約に関して魔法省大臣の許可なく一方的に違反し、時計塔と魔法省の関係を著しく悪化させる危険性のある軽率な行動を独断で実行したこと。また、時計塔君主であるロード・エルメロイII世およびその内弟子への極めて侮辱的な言動も、時計塔との関係性を大きく悪化させる要因たり得る。以上のことから、ドローレス・アンブリッジには先述した処分を言い渡す。詳細については、魔法省への出頭時に改めて説明する』

 

 キングズリーの声で伝えられた伝言の言葉が理解できず、アンブリッジは口をパクパクさせるだけだった。

 呆然としているアンブリッジを他所に、エルメロイII世は葉巻の灰を携帯灰皿に落とす。まるでこうなることをわかっていたかのような態度に、いつものアンブリッジなら逆上していただろうが、今はそんなことを突っ込む余裕すらないらしい。

 

「ど、どうして…こんな…」

「公式の記録を取った上で契約違反をしたのだ。こうなることなど目に見えていただろうに」

「ば、馬鹿な…こんな…」

「懲戒免職されなかったあたり、魔法省大臣は貴女の功績そのものは認めているのかもしれんな」

 

 時計塔と魔法省の関係性は一応対等かつ不可侵。ただ時計塔は縛られるものが少なく、できることが多い。そのため、魔法省が時計塔に協力を要請することはあるが、逆はない。結果、魔法省は時計塔との関係性を維持したいが、時計塔はそう思っていないというやや力関係が偏った関係性になっている。そんな関係性に溝を作りかねないほどのやらかしをしてなお懲戒免職にならないあたり、アンブリッジの功績そのものは認められているのかもしれないとエルメロイII世は考えた。

 

「こ、こんなことが…あっていいはずが…」

「さて、もう良いだろうか。こちらとしても、この無意味なやり取りはそろそろ終わりにしたいのだが」

「こ、の!」

 

 アンブリッジが近くにあった本をエルメロイII世に向けて投げるが、エルメロイII世は飛んできた本に杖を向けた。

 

「アレスト・モメンタム」

 

 飛んできた本がエルメロイII世の目の前で一気に速度が落ちる。ゆっくりと迫る本をグレイが手に取って側に積み上がっている本の山の一番上に置いた。

 

「どこまでこの私をコケにすれば気が済むの⁈無能如きがこの私を見下ろすなど、あってはならないの!」

「これ以上貴女と話すことはない。契約に基づき引き続きダンブルドア教授による反乱分子がないか調査は続けるが、ポッター達が大人しくしている以上、存在するとは思えないがね」

「私を、見下ろすな!」

 

 アンブリッジはグレイに弾かれた杖を走って拾い、エルメロイII世に杖を向けた。

 

「クルーシオ!」

「エクスペリアームス」

 

 再びグレイが武装解除し、アンブリッジは丸腰になる。許されざる呪文ごと貫かれたことで、アンブリッジとグレイの実力差が浮き彫りになった。何度繰り返しても同じになることは明白だった。

 

「ぐぅ…この!」

 

 逆上したアンブリッジが近くの机を蹴り倒そうとした瞬間、グレイが動いた。

 

「ペトリフィカス・トタルス!」

 

 石化の呪文を受け、アンブリッジは硬直して倒れる。地面に倒れそうになった瞬間にグレイがクッション呪文で衝撃を無くすが、動けないことに変わりはないためそのまま地面に倒れた。

 そんなアンブリッジの側にグレイとエルメロイII世は歩み寄る。

 

「グレイ、助かる。ロードとしてこの部屋を預かった以上、部屋に危害を加えられることは避けねばならなかった」

「大丈夫です。それよりも…どうされますか?」

 

 グレイは硬直して動けなくなっているアンブリッジに目を向ける。

 

「ふむ…この様子から察するに、魔法が解けたらまた暴れるだろう。魔法省が回収に来るまでは、どこかで隔離するしかない」

「でも、アンブリッジさんがいなくなったら校長はどうなるんですか…?」

「マクゴナガル教授が代理を務めればいい。とりあえずはそれで良いだろう。恐らく代わりに別の魔法省の役人が配属されるだろうが、いきなり新しく配属された者が代わりに成り替わろうなどとは思うまい。他の教育令はともかく、アンブリッジが校長という教育令だけは魔法省大臣自ら取り下げさせるさ」

 

 他の教育令はともかく、アンブリッジが校長であるという教育令は取り下げさせないと後々面倒があった時に事態が深刻化しかねない。そのためにもこの教育令だけでも取り下げさせておこうとエルメロイII世は考えた。

 

「とりあえず、彼女の部屋に軟禁しておこう。外部との連絡が取れるものは全て差し押さえる必要があるが…仕方なかろう。グレイ」

「はい」

「アンブリッジを軟禁したら、君は先に寮へ戻って休むといい。連絡道具と杖の差し押さえは私がやっておく」

「え…ですが、それでは師匠が…」

「構わんさ。石化の魔法は通常数十分で効果を失うが、重ねがけすれば効果は伸びる。硬直状態の相手に重ねがけするくらいは、私でも問題なく可能だ。ああ、運ぶのだけは手伝ってもらうがね」

「わかりました。では、今から?」

「ああ。早めに済ませよう。これ以上、君の睡眠時間を奪うわけにはいかん」

 

 その後、グレイは硬直したままのアンブリッジを浮遊させてアンブリッジの私室へと運び込んだ。エルメロイII世が『残りはこちらでやる』と言ってグレイは戻っていったが、外部との連絡手段を断ち、杖を奪われたため何もできなくなった状態でアンブリッジは私室に軟禁状態にされた。そして翌日から闇の魔術に対する防衛術はマクゴナガル教授が受け持つことになり、生徒達のストレスは大きく低減されたのだった。

 

 

 

 しかし、これで終わらないことをエルメロイII世は察していた。

 

「……何かしらの手段で脱出してくるとは思ったが、思いの外早かったな。アンブリッジ女史」

「あなたとは違い、私は有能なのですよ先生」

 

 怒りと憎しみに瞳を揺らすアンブリッジを前に、エルメロイII世は大きくため息を吐くのだった。

 

 

 

 




Q.この世界で聖堂教会って魔法族のことどう考えてるの?
A.全員燃やされればいいくらいには思っていますが、現在の魔術師と教会と同じくらいの温度で見てます。数が多いことも認識しているし、現代社会として成立していることもあって全滅させようとする過激な者はほとんどいません。ただ、お辞儀様に対しては別であり、危険視はしている。

Q.校長任命のくだりって本当?
A.調べても出てこなかったので、私の妄想で埋めてます。

Q.アンブリッジって自分の家系偽ってたの?
A.原作で偽ってます。ただ、本来はスリザリンのロケットを手に入れた後に偽っているため、時期としては少し異なります。

Q.エルメロイII世が校長室を管理することに対してファッジが何も言わなかったのはなんで?
A.時計塔に対して強く出られないからです。一応力関係は対等ということになっていますが、魔法省は時計塔を敵に回したくないですし時計塔も色々と面倒になるから戦いたくないくらいには思ってます。ただ、時計塔はそもそも時計塔だけで大体のことが完結してしまっているため、(やらかした魔術師の処罰など)魔法省への借りを作ることがほぼありません。そのため借りの多さから力関係はやや時計塔側に寄っています。特に今回は魔法省が時計塔にお願いしている立場かつ時計塔も乗り気ではなかったところをゴリ押しでやってもらっているので、契約以外のことに口出しをしないという方針をファッジが取っていたからです。なお、乗り気ではないというのは表向きで、菱理さんは内心ノリノリで契約してエルメロイII世を放り込んでます。


要望があったので、エルメロイ教室以外の人物の杖も考えてみました。

 マーリン
 木材:ヨーロッパナラ
 芯材:妖精の毛
 ヨーロッパナラの杖の持ち主は直感が鋭く、自然界の魔力と結びつきを持つことも多い。このため、魔法に使う手段として、また純粋な楽しみとして、動植物と密接な関係を築くこともしばしばである。
 芯材である妖精の毛は一般的に知られている妖精(ピクシー)ではなく、アヴァロンの妖精がかつて地上にいた時に残されたものであり、芯材としては実在を疑われるレベルの代物。この杖を作ったのは、マーリンがホグワーツに入学(潜入)した際に店主をしていたオリバンダー。マーリンがホグワーツを卒業する時にオリバンダーの店に残していったらしい。この杖をたくさんの魔法使いが求めたが、誰一人として選ばれることはなかった。一説によると、アーサー王伝説に出てくる湖の乙女(ヴィヴィアン)の髪とも言われているが、比較対象がなくそもそも他に妖精の毛を芯材とした杖が存在していないこともあり真偽のほどはオリバンダーにもわからない。
 杖としては非常に異質であり、資格の有無で所有者を選ぶ。資格は『星の内海(アヴァロン)に関連する素質を持つか否か』で判断されるため、セイバー、士郎もこの杖を使える。この杖は如何なる手段でも破壊することができず、分霊箱を破壊できる程の手段でも無傷で耐える。アヴァロン由来の濃密な神秘が妖精や星に関するもの以外の全てを弾く特性を待っており、現代では破壊する術を持つ者はほぼいない。
 この杖を使うことでしかできないことがあるわけではないが、この杖を使うと本人の能力を現時点での最大値を引き出すことができる杖になる。士郎の場合、投影(固有結界)の燃費が異様に良くなり、投影品のランクダウン補正もやや軽減される。
 仮に士郎がこの杖を持っていた場合、セイバールートではアヴァロンに辿り着くための鍵として作用するが、無くてもアヴァロンには辿り着ける。UBWルートでは凛が側にいる限りこの杖の所有者としての資格を失わないが、HFルートではそもそも肉体がどこぞの人形師製になるため、資格を失う。

 衛宮士郎
 木材:柊
 芯材:ドラゴンの心臓の琴線(特質)
 柊の杖は古くから持ち主を守る杖と考えられており、怒りや衝動を抑えられない者と最も相性が良い。人を助けるという衝動が自分の根底にある士郎と非常に相性が良く、士郎が衝動で放った魔法であったとしても十分な威力を発揮することができる。また、危険な冒険(精神的な意味であることが多い)のさなかにある者を持ち主として選ぶことも多いため、人助け自体を生きる意味としており、人間のフリをしているロボット状態の士郎とこれ以上にないほど相性が良い木材となっている。士郎が杖を新しく選ぶ場合、どのルートであったとしても木材は柊のものになる。
 芯材であるドラゴンの心臓の琴線は、通常種のドラゴンから取れたものではない。アーサー王伝説に出てきた赤い竜のものだと言われているが、真偽のほどは定かではない。オリバンダー自身も『この芯材がドラゴンの心臓の琴線であることはわかるが、通常のドラゴンのものではない』ということしかわからず、芯材をどこから仕入れたのかもわからない。ギャリック・オリバンダーの祖父が店主になった時には既にこの杖が店にあったとの記録があるが、それ以上のことは不明。通常のドラゴンの心臓の琴線よりも強い力を持つが、制御に大きな癖がある。凛ほどの魔術師が使ってもうまく制御できないが、士郎は投影(固有結界)を使う場合のみ細やかな制御も可能。芯材が士郎の体内にあるアヴァロンを通して竜の因子を持つセイバーと繋がり、『剣』属性を有する魔法をうまく扱えるようにしている。

 間桐桜
 木材:サクラ
 芯材:ドラゴンの心臓の琴線
 サクラの杖は非常に珍しく、不思議な力を生み出す。サクラの木材からは、どんな芯材を用いても死をもたらすほど強力な力を宿す杖ができることが多い。ドラゴンの心臓の琴線と組み合わせた杖は、並外れた自制心と精神力を持つ者にしか扱えないが、我慢強さならば凄まじい桜ならばうまく扱える。桜自身が持つ虚数属性もあり、訓練すれば検知不可能拡大呪文などの虚属性の魔法を誰よりもうまく扱えるが、間桐の魔法に合わせて体を弄られていることやそもそもまともな魔法の手解きを受けていないこともあり、杖の扱いはホグワーツ新入生レベル。物体浮遊すらまともにできないレベルの腕前だが、自制心の強さが異常である桜の精神を認めて桜を選んだ。この杖はオリバンダーが作製したものではなく、日本の杖職人が作ったもので、最低限魔法が使えるように臓硯が適当に買い与えたものだが、適当に買ったのにも関わらず相性は最高レベル。真面目に魔法を勉強したら割とすぐに臓硯を証明から撃ち倒せるレベルになれるくらい相性が良い。

 衛宮切嗣
 木材:サンザシ
 芯材:ユニコーンの鬣
 サンザシ材は「奇妙で矛盾に満ちた杖を生み出す。杖の親となる木も同じように矛盾をはらんでおり、葉や花は人を癒す力を持つが、切り枝は死の香りを放つ」とされ、世界平和を望みながらも無数の人々を殺した切嗣の矛盾した精神に同調した。魔法の使い勝手は良く、呪詛や結界、保護などなんでもできるが、繰り出せる威力としてはそこまで高くない。切嗣亡き後は、士郎がこの杖を使って魔法の練習をしていた。
 なお、この組み合わせは闇の陣営に属しながらも、最後まで誰も害することなく戦いを終えたドラコ・マルフォイと同じ組み合わせでもある。

 イリヤスフィール・フォン・アインツベルン
 木材:ニワトコ
 芯材:ユニコーンの鬣
 不幸を招くと伝えられるニワトコの杖は強力な魔力を宿しているが、自分の持ち主がともにいる仲間より劣っていると感じれば、持ち主に見切りをつける。このため、あらゆる木材の中で最も扱いが難しく、抜きんでた力を持つ魔法使いでなければ、ニワトコの杖を長く所有することはできない。ニワトコの木材の杖と相性がいいのは、極めて並外れた人間だけであり、オリバンダーは「しかし、もしそのようなたぐいまれな人間がニワトコの杖を持てば、その者は必ずや特別な宿命を背負うことになるだろう。」と考えている。ホムンクルスと人間のハーフという特異的な出自や聖杯との繋がり、そして限定的な第三魔法との関係を感じ取ったことで杖に選ばれる。イリヤが扱えるあらゆる魔法を最高の形で実現でき、戦闘力ならば凛を軽く凌駕できる。

 蒼崎橙子
 木材:カシノキ
 芯材:不死鳥の尾羽
 カシノキの杖は真実と知恵を象徴し、カシノキに惹かれた人は自信家で楽観的で、内面の強さと深い知識を持つ。魔法への理解が非常に深く、強い信念と好奇心を持つ橙子との相性が良い。不死鳥の羽根の芯の杖は例外なく所有者候補の選り好みが激しく忠義を得ることは難しいが、橙子は自分で杖を解析して自身に合うよう調整を加えており、あらゆる面で橙子の望み通りに杖が動くようにされている(橙子はこれを調教と言っている)。橙子自身が魔法を放つよりも魔法で作り出した物が戦う方が強いためか、攻撃系の魔法の威力は高くない。
 スワンプマン式無限残機復活方法で目覚めた新しい体であっても、杖が破損していなければこの杖は橙子を必ず選ぶ。かつては死ぬたびに杖が破損していたこともあり、しょっちゅうオリバンダーの元に通っていたが、あまりにも高頻度で杖を修理か買い替えにくるためオリバンダーに出禁にされかけた過去もある。また、杖を買い替える際は妹に代金をツケていた。

 蒼崎青子
 木材:ヤマナラシ
 芯材:ドラゴンの心臓の琴線
 ヤマナラシの木の杖は、戦い向けの魔法に向いている。ゆえに強靭な精神を持ち、決闘や戦いや遠征に運命付けられた所有者を選ぶ傾向があり、第五魔法の使い手である青子の数奇な運命を感じ取って青子を選んだ。
 杖の能力としては、非常にピーキー。青子自身の能力に合わせて魔力を放出する系統の魔法は非常に強く、元々高い青子の基礎呪文の威力を倍以上の威力で放つことができ、軽く放った基礎呪文ですら岩石を粉々に砕ける。一方、それ以外の魔法は(青子の腕の問題が大きいが)制御が難しい杖となっており、浮遊魔法なら吹っ飛ばしてしまったり、消失呪文はそもそも発動しないことも多々ある。フラットの杖に近い異質さを持つが、フラットが本人にしか使えない万能型なのに対して、青子の杖は本人にしか使えないほどではないが破壊に超特化しているため、青子の魔法の腕が上がっても破壊系の魔法以外はこの杖ではあまりうまくいかない。

 化野菱理
 木材:クリ
 芯材:ユニコーンの鬣
 クリの木で作った杖の性質は、使う芯の種類によって大きく左右されるうえ、持ち主の性格にも染まりやすい。冷静かつ狡猾な法政科として動く菱理の性格に合った杖として、規模は大きくないがなんでもできる器用な杖になっている。クリとユニコーンの鬣の組み合わせの杖に選ばれる者は司法関係者を好む傾向にあるとの記録がある。法政科として時計塔を運営することのみを目的としており、根源への到達を目的としていない政治家気質の魔術師が選ばれやすい組み合わせでもある。


士郎やマーリンの設定考えてたら楽しくなってしまいました。


死の秘宝序盤、お辞儀様と死喰い人集団がマグル界で大暴れしてるけど…あれ普通に神秘の漏洩に繋がらないか?と思ってます。死の秘宝編になったら魔術協会がお辞儀様処しにいきそう。そうなると、最弱のエルメロイII世の出番が…。


ロード・エルメロイII世
ようやくアンブリッジに反撃できて鬱憤が晴れた。双子のせいで試験対策をやらされているが、あまりにも人気で教室の席がパンパン。知らぬ間にハーマイオニーが立ち聞き聴講生として参加しているらしいが、特に気にしていない。

グレイ
戦闘力はほぼないエルメロイII世の護衛。グレイだけでは当然校長室は入れない。アンブリッジのエルメロイII世への態度が不愉快であるため、アンブリッジに石化魔法をぶつけることになんの躊躇いもなかった。
期末試験が近くなってきて四苦八苦しながらも、ルーナとジニーに勉強を教えてもらっている。

ハリー・ポッター
エルメロイII世の手腕に感心してた。この時期のハリーにしては珍しく、結構ちゃんとエルメロイII世のことを信頼している。最近チョウと反りが合わなくなってきたが、描写されることはない。

フレッド・ウィーズリー
ジョージ・ウィーズリー
道具作成スキルは現代においては一級品。ダイアゴン横丁の物件を既に抑えており、試験勉強をしながら開店の準備を進めている。エルメロイII世のことはちゃんと尊敬しているが、悪戯好きな性格のせいでエルメロイII世への胃にダメージを与えていることは察しているが辞める気はない。案外勉強はできるのか、試験対策として同級生に勉強を教えている姿も見られるとか。

ドローレス・アンブリッジ
邪悪な闇のガマガエル。



エルメロイ教室
時計塔にあるエルメロイ教室とは別物で、NEWT試験対策専用の教室。週の半ばと週末夜に開かれており、激ムズ試験の筆記試験対策を行っている。あまりにもわかりやすいため、寮に関わらず試験を受ける七年生は全員受けているせいで教室の人口密度が恐ろしいことになっている。実技対策はフリットウィック先生やマクゴナガル先生を臨時講師として呼んで対策している。誰が命名したのかは不明。立ち聞き聴講生としてハーマイオニーが参加しているが、誰もツッコミをいれない。
双子「「名前つけたのは俺たちじゃないぜ」」


すごい。書きすぎた。


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