彼女に初めて会ったのは、仕事でゲンヤさんのところに呼ばれた時だった。
その時は同じ日本人という位しか意識はしておらず。こんな場所にいるなんて余程魔力があるのだろうと、少しだけ嫉妬してしまった。
後日、改めて仕事の話をしにゲンヤさんのところに行く。
受付で連絡をとってもらい、ゲンヤさんが来るのを待っている時、八神さんの事を噂しているのが聞こえた。
なんでも八神さんは犯罪者らしい。いや、決めつけるのも悪いとは思うが「火のないところに煙は立たない」だったか、そんな諺があるくらいだ。きっと昔何かあったのだろうと結論ずける。
なんて、少しだけ、八神さんの事が気になってしまった自分に少しだけ驚く。
まぁ、この仕事が終われば八神さんに会うことも無く成る。気になる気持ちはきっと気の迷いであろう。
うんうんと、一人頷いているとゲンヤさんが此方に向かっていたので、気持ちを切り替え仕事の話をしてその日は終わった。
ティーダの妹であるティアナに、就職祝いに何かプレゼントでもしようとクラナガンに来て見た。
年頃の女の子に贈るプレゼントなんて、何を贈ればいいのやら。デバイスを持っているのでそちらに関連する物でも贈ろうか…?そう考えるとデバイスにアクセサリー…。いや、ありなのかもしれない。ティアナだって女の子なのだ、オシャレの一つや二つしても可笑しくは無いだろう。
雑貨屋に入り、店員にその旨を伝えると苦笑いを浮かべながらも選んでくれた。こういったものは店員に、それも女の子に贈るものならば女性の店員に選んでもらうに限る。
我ながらいい判断だ。
プレゼント用に包んでもらった物を受け取り、少しだけ店員と話をしていると、何だろうか。
「お客様、なんかすごい睨まれてますよ?」
そうなのだ、先程から何故か視線を感じるのだ。
少し立ち位置を変え、鏡で背後を確認して見ると、その、なんだ
(何故睨んでいる、八神さん…!)
世間一般で言われている、ジト目とやらで此方を見ている彼女がいた。
果たして自分が何かをしたのだろうか?考えて見るが思い当たることは何も無い。ならば何故睨まれるのか…
そんな自分の考えを店員さんがわかるはずも無く。
でも彼女は何かに思い当たったかのように微笑み、何故か手を振っていた。
何故…?
プレゼントを購入した日の夜。ティアナに就職おめでとうと言う激励混じりのメールを送る、が
「待てども待てども返事は来ず…」
嫌われているのだろうか…
もしかして自分は女性に知らず知らずのうちに何かしてしまっているのだろうか、何て考え迄頭に浮かぶ。
どうにも最近は悪い方に考えがいってしまう。これはいかん。熱いシャワーでも浴びて心身共にさっぱりしようと立ち上がると同時に端末が震えた。
「FROM:ティアナ」
その名前を確認し、安堵する。どうやら親友の妹には、少なくとも嫌われてはなさそうだ。
返信をする前に、シャワーを浴びるとしよう。
シャワーを浴びている時に、ふと八神さんの事が浮かんだ。
彼女と会う機会はゲンヤさんを介して、一度だけあったことがあることを思い出した。
「いや待て、確かその前にも会った事があるはずなんだけど…」
薄れかけている記憶を掘り起こす。
何処で会ったのだろうかとしばし顔にお湯を当てながら考え、思い出す。
会ったといってもテレビ越しの事だ。
少し前に空港で火災事件が発生した。現場のアナウンサーが興奮しながら喋っているその後ろに、確か彼女はいた。まだ幼さの残る顔立ちで、それでも自信の持った顔立ちで。消化作業に多大な貢献をした彼女。背中には何故か羽を生やし、神々しく、美しく思えた彼女。
その姿に見惚れていた当時の自分もまだ若く、何時かは自分もテレビに出演し、人気者になってやると意気込んでいたのを思い出した。
シャワーを終えティアナになんて返事を返そうか悩む。
『悠人さん。お久しぶりです。
気を使わなくても良かったと、言いたいところですがありがとうございます。
プレゼントまで買ってくれたとの事ですが、これまでの悠人さんのセンスを思い出すに今回も少し的外れな物を買ったのでは無いかと今から不安になっています。
最近は気候が安定せずに温度差が続くこともあります。
体調管理には気をつけてください』
何であろうか。自分よりも年下の筈なのに、自分よりも社会的なメールに笑ってしまう。
……しかし私はセンスが無いのだろうか。
「たぬきのストラップ、可愛いと思うのにな…」
またある日、クラナガンに赴く。
今回は結婚式の仕事の打ち合わせのため、会場を一度視察してきた。
ただ、なんだろうか。胸に残る虚しさは…
新郎新婦共に二十歳。一方の私は25。
辞めよう、これ以上は考える度に心にダメージを負ってしまう。甘い物でも食べてから帰ろうと、何時の間にか立ち止まっていた足を動かし、見つけた
ナンパ男である。
なんと言うか古代の遺産を見つけた気分だ。いや、単純に私の周りでこういった事をする人がいないだけ、遺産扱いするのはお門違いであろう。
しかし、珍しいものを見たのも事実。相手の女性はどんな顔をしているのかなと、背伸びして確認し
「またあなたか八神さん」
…最近よく八神さんを見かけることが増えた気がする。
彼女はナンパに困った様な顔をしていたが、まぁ自分には到底関係のない事である。踵を返し、今来た道を戻ろうとしたところ、整った顔が歪んでいるのがみえた。
それを見たとき、何故だろうか。私の心に少しだけ怒りが湧いた。
「わ、私の連れが何かしましたでしょうか?」
気がつくと声をかけていた。
何をしているんだ自分は!と思うがもう遅い。ナンパ男が何かを言って来るのだろうかと思ったが、意外なことに彼はすんなりと去っていった。
ホッとし、八神さんの様子を確認すると何だか嬉しそうな顔をしている。はて、そんなにナンパ男がいなくなったことが嬉しいのだろうか?
それから、ティアナに接するように。単純に女性との接し方がわからないからそういった接し方になったのだか。頭を軽く叩くようにしていると、八神さんの反応が消えた。
流石に、関わりの全くないといってもいい私にこんな事をされるのは嫌なのだろう。
(嫌われたかな…)
そんな考えに少しだけ心が痛み、何故だろう?思う。
結論、糖分が足りないと思い至り、場を去ろうとしたら袖を掴まれた。
何であろうか、気安く触れたことに対する仕返しでもされるのであろうか。それともセクハラされたと訴えられるのであろうか。……それだけは避けたいところである。
困惑し、次のアクションに戦々恐々していると
「あなたが好きです!うちと付き合って下さい!」
告白された。
告白された?
告白されたの?
誰が?誰に告白?
その後の記憶はほぼない。気がついたら家におり、着替えも済まして食事を口に運ぶところであった。
何だろうか、夢でも見ていたのかなと思うが
(告白されてしまった…)
鮮明に覚えているその言葉、八神さんの表情。
そして自分が返事を先延ばしにしていたことに、頭を抱えることになった。
神楽さん視点。
恋愛物は台詞回しが難しい