夢で推しと絡んだら原作まで改変された件について   作:ももいっぷ

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傷一つ⑤

 金曜日になった。俺は早朝から軽く外を歩いて回り、家に帰ってシャワーを浴びた。ちょうど上がったところでリビングにいる妹とでくわす。

「うわ。お兄ちゃんまさか外出たの?」

「ああ。たまには身体を動かしておこうと思ってな」

「……足はいいの?」

 一年生の時に受けたある事故がキッカケで、俺の右足はもう思い切り走る事の出来ないようになっている。だがこれくらいなら問題ない。

「ちょっとやることがあってな。これくらいはしておきたいんだ」

「へえ……。どういう風の吹きまわしなんだか」

 妹はそれだけ言うとあとは無関心で持っていた雑誌を読み始める。そこでは白黒のページの中でシオンがテニス部の体験を受けていた。運動神経が良いらしく、レギュラーメンバーといい勝負を繰り広げている。

 ……そしてその放課後、俺と二人で二年生の教室に足を運ぶ姿が描かれていた。

 

 良い感じに疲労も溜まり、準備ができたところで眠りにつく。桜並木でシオンと合流し、今日の予定について話し合いながら登校する。

 そうして適当に授業を聞き流し続け昼休み。シオンの機嫌もすっかり直って、俺たちは再びツツジの元を訪れた。

「やっほーツツジちゃんっ」

「一日ぶりだな。風邪でも引いたのか?」

「シオン。と、伊呂波モミジ。また何か用なの?」

 ツツジは元気そうだった。風邪……ではなかったのだろうか。まあ何でもいいか。俺も現実の学校はサボりまくっているし、言えた口ではない。

「一緒にお弁当食べようよー!」

「えぇっ! ……こほん。どうしてもって言うならご馳走になろうかしらねっ」

「じゃあいいや。シオンの作った春巻きは俺が全部食う」

 目を輝かせたツツジに背を向け、シオンの弁当を引っ提げたままその場を去ろうとする。

「ま、まちなさいよっ! 食べさせて! いやご相伴に預からせてくださぁい!」

「別に頭下げなくも……」

 よっぽどシオンの料理が美味しかったのだろう。しかしまったく、素直じゃない奴だな……。

 ……こんな調子で再び屋上に向かって昼食を広げる。今日のシオンの定食ラインナップは中華だった。にんにく不使用で作ってくるあたりが女子って感じで大変に良い。

「それで、昨日はどうしたんだ?」

 食事を続けながら聞く。

「そうそう、わたし心配しちゃった!」

「ああ、うちの店が忙しかったのよ。ちょうどリニューアルオープン記念だったから。だから手伝い」

「なるほど……」

 そういえば原作でも見た気がする。この世界はこういったイベントごとも忠実に合わせてきているようだ。

「そっか! ツツジちゃんの家って洋菓子屋さんだって言ってたもんね。大変そうだけど、いいなぁ」

「……そ、その。お弁当のお礼に今度うちに来てくれたらサービスしてあげなくも、ないけど」

「俺、モンブランで」

「あんたに言ってないし!」

 すかさず突っ込まれる。くう、そう美味しいところには預かれないか……。

 しかし、そこでシオンが無意識に助け舟を出してくれる。

「良いじゃん! 三人で行こうよ!」

「……まあ、シオンが言うなら。一緒にきてくれても、その……いいけど?」

「お前すっかり飯で懐柔されてるのな」

「やっぱあんたは自腹! むしろ倍の価格で買いなさい!」

「まあそう言うなよ。実は俺、放課後にあるおもしろイベントにお前を誘おうと思ってたんだ」

 俺はそのままシオンに目配せする。事前に打ち合わせていた事もあり、こういう時察しの良い彼女はにやりと笑い小さく頷いた。

「おもしろイベント?」

「ああ。放課後に時間が取れるなら一緒にどうだ?」

 しばしツツジは頭を悩ませる。

「ううん、怪しいわね。それに店の手伝いもあるし……」

「でもわたし、ツツジちゃんともっと一緒にいたいなぁ」

「……しょうがないわねぇ。お店のことがあるから少しだけよ?」

 やっぱりちょろかった。シオンと二人で小さく親指を立て合う。

「あんたたち、本当に何か企んでいるんじゃないわよね……?」

 多少怪しまれたが問題は無い。俺とシオンはツツジの口にシュウマイを突っ込んで静かにさせる。

 今日のメインイベントは放課後の部活動体験だ。そしてその最終日でもある。こうでもしないとツツジは帰ってしまっただろう。

 また、今日は様々な部活動を巡る事で必ずある『チャンス』が訪れるはずだ。せっかくベルに貰ったアドバイス、俺は今日ここで活かさせてもらおうじゃないか。

 

「――ちょっと、聞いてないわよ!」

 放課後。俺たちはグラウンドの端でジャージに着替え、三人ともミットを手に嵌めている。

 ここは女子ソフトボール部。今まさに体験会の真っ最中だった。

「よそ見してると捕れないぞ」

「もう! こんなことなら早くおうちに帰れば良かったぁ!」

「ツツジちゃん、一緒にがんばろ!」

 今やっているのはノック体験。がきん、と音がして部長の打球が飛んでくる。ツツジはそれを屈んで避けた。

「うお。すごい反射神経……」

「ひいいん!」

 避けられるのはすごいが、前に自分で言っていたようにツツジは運動が苦手なようだ。試しに打つ側に回ってみるも、ノックすら空振りを連続していた。

「も、もうダメ……」

「これだけやって球に一度も触れないのも才能だな……」

「とっても惜しかったよ~」

 このままでは体力が持たないだろう。早々に切り上げて次は文化部に向かう。

 

 今回体験するのは軽音楽部。提案したのはシオンだ。人気の部活で先輩の手が空いていないため、機材を眺める時間の方が多かった。

「お前、ギターとか演奏できるのか?」

「ううん、全然!」

「あたしも楽器はダメね……」

「じゃあ三人全員でボーカルだね! 斬新なユニットが出来そうだよ!」

「合唱部でやれ」

 というわけで軽音楽部の体験? も終わる。次はなるべく得意なものがいいと、ツツジの提案で料理部へ向かった。

 全員エプロンを着ての調理実習だったが男モノが無かったため、俺はかわいいウサギ柄のエプロンを着させられる……。

「あはははは! 似合わな過ぎよっ!」

「そんなことないよ、とってもかわいいよ! このうさ耳も付ければほら! ふふ、ふ……」

「……お前たちを調理してやろうか」

 ちなみに作ったのはサラダだった。火は危ないので活動では滅多に使わせてくれないらしい。健康になりそうな部活だ……。

 

 ……体験会巡りは始終こんな感じだった。橙色の光が昇ってくるころになってついに体力が尽き、俺たちは他に誰もいない教室でへたり込む。

「これでだいたい周れたわね……」

「さすがに疲れちゃったね~」

 体力お化けのシオンさえもこんな事を言う始末なのだから、俺やツツジはくたくただ。しかし、ツツジの言う通りこれで一通りの部活動を見ることが出来た。

「どうだ。何かやりたいことは見つかったか?」

「ううん。そう言われても、ねぇ」

「うん。今日やった部活ってさ、全部……」

 俺は二人の様子を眺めていた。疲れ切った表情にだらしない休み方。……たぶん、三人の意見は一致している。そう。今日一日こうしてみて俺たちは――

「……すっごく楽しかったよね!」

 そうだ。今日はとても……楽しかった。俺とツツジは互いに顔を見合わせてくすくすと笑い合う。

「シオンは本当にいつも楽しそうな子ね」

「まったく。毎日が日曜日みたいなやつだよ」

「だって本当に楽しかったんだもん! ここ何日か一人で色々見て回ってたけど、間違いなく今日が一番良かったの!」

「じゃあ、もうどこがいいか決めたのか?」

 俺の質問にシオンはよくぞ聞いてくれましたとばかりに胸を張った。すうっと息を吸い込んで吐き出す。

「わたしはね、二人と一緒がいい!」

 それは彼女のとびきりの笑顔だった。窓から差し込む夕陽に照らされて眩しく、それでいて温かだ。だからだろう、俺たち二人もつられて同じように笑う。

「それ、答えになってるのか?」

「……でもあんたたちとなら、何だか退屈しない気がするわ」

 その時、校舎のチャイムが鳴った。丁度午後五時を知らせる鐘の音だ。それを聞いてツツジは慌てた様子をみせる。

「や、もうこんな時間!? お店の手伝い忘れてたわ、どうしよう……」

「悪いなツツジ。けど、もう一件だけ付き合ってくれ」

 俺の言葉にツツジは怪訝そうな顔をする。

「今から? もう遅いし、部活だってもう全部見たんじゃ……」

「いや。もう一件だけ、どうしても見せたいところが残ってるんだ」

「……見せたい?」

 その時だった。時間帯的にもう誰も開けること無いだろうと思われていた教室の扉が開かれ、一人の女子生徒が俺たちの前に姿を現す。

「――良かった。間に合ったのね」

 彼女は腰まで届くほど長い黒髪をかき上げ、深く優しい色合いの緑の瞳で俺たちを見ている。同じく緑色のリボンは二年生の象徴。大和撫子の権化というべき雰囲気を纏った少女は、その場でうやうやしくお辞儀をした。

「生徒会会長の姫松葉ボタンよ。お待たせしちゃってごめんなさい」

「んな、な、な……!?」

「わあ! 本当に生徒会長さんだ!」

 ツツジは彼女を指差して固まり、シオンは感激の声を上げた。生徒会唯一の役員にして会長を務める彼女は常に多忙の身。同じ学校でありながら、学年まで違うと滅多に出会う事は無いのだろう。

「急に呼び出して悪かったな。今日も忙しかったんだろう?」

「いいのよ。あなたの頼みですもの」

 ……妙に引っかかる言い方だ。何故か背筋に悪寒が走る。

「ちょ、ちょっと待って! どうして会長がここに!? それにあんた知り合いなの!? あ、あとずっとあたし憧れててあのその!」

 ようやっとぎこちなくツツジが動き出した。しかし緊張でロボットみたいだ。ボタンもそんなツツジの様子を見て微笑んだ。

「うふふ。それじゃあ、詳しくは向こうでお話しましょうか」

「ああ。よろしく頼む」

「……む、むこう? ええと、それじゃあ最後に見せたいところって」

 ツツジもやっと状況を理解できて来たようだ。まあ、この場ではツツジ以外の人間は全て知っていた事なんだが。

「さあ行きましょう? 今から生徒会を案内するわ」

「ぴえ!?」

 辺りにツツジの驚きの声が木霊する。

 ……そう、最後の場所は生徒会だ。もっとも、普通は体験会なんて無いのだから驚くのも無理は無いだろうが。

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