夢で推しと絡んだら原作まで改変された件について 作:ももいっぷ
――思えば最初からこの世界はうまくいってなかった。
そもそも、桜並木で俺がツツジの代わりにシオンと出会った頃から全ておかしかったのだ。一連の出来事が現実に影響する事を知ってからというもの、原作の展開通りに……と意識していたがうまくいかない事だらけで。
そして今日、見たことのない聞いたことの無い出来事だらけの世界にまた新たな問題が生まれていた。
「すまんボタン。聞き間違いかもしれないから、もう一回言ってくれないか?」
「あらあら」
週明け、場所は生徒会室。何故かまた生徒会室にいる俺の向かい側にはボタン。両隣にシオンとツツジ。先日と変わらない光景の中で、かの生徒会長様はとんでもない爆弾発言をかます。
「――モミジくんはとっくにうちの一員よ。もう、入会届は受理されているもの」
……それは新生徒会初の役員会議だった。黒板には『シオンちゃん・書記』『ツツジちゃん・会計』等の文字が並んでいる。そこにどういう訳か俺の名前まで刻まれているのだ。
『モミジくん・副会長』……俺は絶句していた。
「えへへ、よろしくねモミジくん!」
「ま、男手があった方が何かと便利かもね。副会長っていうのは納得いかないけど」
二人は呑気にそんなことを言い合う。しかし俺の意識は目の前で薄ら笑いを浮かべる現生徒会長にのみ向けられていた。
「……おかしいだろ。俺、届けなんて出した覚えは無いんだが」
つい先日までしみじみとここでの出来事に思いを馳せていたところだったのに。少し寂しくなるけど、あの日々をこの目で見られるならと思い直していたところだったのに。
俺が、いつ、生徒会に入るなんてフラグを立てたんだ……!?
「あらあら。もう忘れちゃったのかしら」
言いながらボタンがひらひらと摘まんで一枚の紙を見せる。それには見覚えがあった。ええと確か、ここに初めて来たときに書いたカーボン紙つきの……。
……。
「お前、まさか……」
「ふふ。これはちゃーんとモミジくんに書いてもらったものだから、今更撤回はさせないわっ」
こ、こいつ! やっぱりあの時のプリント、怪しいものだったんじゃないか! よりにもよって手段を問わずに入会させてくるとは……!
「それは無効だろ!」
「もう受理されちゃったわ。それに、親愛なる副会長の頼みだったからこそ忙しい先週に予定を開けることが出来たのよ」
「……先週」
脳裏に言葉が浮かび上がる。『いいのよ。あなたの頼みですもの』……。
なるほど。あの時点で俺は既に生徒会役員と認識されていたわけか。思えば放課後が一番忙しく捕まえるのが難しいボタンが、ああもうまく来てくれたのはそういう理由だったのだろう。
でないと全てがうまくいきすぎだったものな……。しかし、いくら人手が足りないからってここまでするとは。
「……モミジくん、生徒会嫌なの?」
意気消沈する俺の制服の裾を引っ張るシオン。桜色の瞳が上目遣いに合って、思わず目を逸らしてしまう。
「べ、別に嫌なわけじゃ……」
ついツツジみたいな事を言ってしまう。これは生徒会というグループが好きなのであって、俺が生徒会に所属したいという訳じゃ無いのだが。
「まったく、素直じゃないわね」
「お前にだけは言われたくない」
「なんですって!?」
「あらあら二人とも、同じ役員同士仲良くしなきゃだめよ~?」
同じ役員同士、ね……。
俺はちらりと周囲を見渡す。ツツジはそっぽを向いて、シオンは手を振った。そしてボタンはにこにこしながらピースをしている。
……これはまったく、どうしたものか。
恐らく今回目覚めたあとの漫画では、これじゃ日常系漫画じゃなくて単なるハーレム漫画じゃねえか! といった感想を抱かれるのだろう。ハーレムがどうか事実はどうあれ、これは原作の流れに沿っていると言えるのか?
「ではそろそろ、お茶にしましょうか」
「あれ? 仕事はどうするんですか先輩?」
「ふふ。もう役職は決め終わったでしょう? あとはのんびりしましょう」
「生徒会の仕事五分で終了!?」
「お茶を飲んで語らうのも仕事のうちよ。今日はケーキもあるの」
「やったー! 生徒会に入って良かったあ~!」
「も、もう! 真面目にやってくださいよ!」
わいわいと騒ぎだす役員たち。これはこれで原作でよく見る光景ではあるし、まあ、軌道修正はうまくいってはいるのだろうが。
……なんとも複雑な気持ちのまま、その日の生徒会活動の時間は過ぎていく。こうして今日はこのまま何もなく終わるのだと思っていたのだが、去り際にボタンに呼び止められた。
「そうそう、モミジくん。先生から連絡を受けてない?」
「連絡? 生徒会のことなら全く聞いてなかったけど」
「それは問題ないわ。ただ、なんでも書類全般に不備があるそうよ」
「全般?」
そう言って見せてもらった俺に関する書類。名前、家族構成……そのほとんどは現実で見るのと似たようなものだったが、ある一つの欄が綺麗に抜け落ちていた。
「――あなたの住所、どこにも書いてないの」