夢で推しと絡んだら原作まで改変された件について 作:ももいっぷ
「あらあら。それは素敵な話ねっ」
「彗星ね……。確かにちょっとおもしろそうね」
翌日の生徒会室。
本来会議に使うホワイトボードをふんだんに用いて、シオンは来週末の彗星見学会に関するプレゼンテーションを行っていた。
「そうなんだよ! きっと皆で見られたら楽しいよ!」
なんてことはない。彗星の日にみんなで集まって、お茶でもしながら星を眺めようというだけのことだ。提案の内容は好感触。俺はソファに座って何となくその様子を眺めている。
「もちろん参加させてもらうわ。とびっきりのお茶を用意するわね!」
「あたしも多分大丈夫なはずよ。土曜日でしょ? 日曜はお店も結構暇だからね」
「わあい! 二人とも大好き!」
「あらあら」
「ちょ、すぐに抱き着くなぁっ!」
相変わらずの微笑ましい光景。出来れば人型の身体ではなく観葉植物としてこの場を見守っていたい。……と、いつもは思うのだけど。
「……」
「あら、伊呂波くん。浮かない顔ね」
ボタンがこちらの様子に気付いた。シオンの抱擁をするりと抜けて、わざわざこちらに寄ってくる。
浮かない顔なのはまあ、そうだろう。今でこそ彼女たちは快諾しているが当日になると……。 俺はまだ自分がどうすべきか悩んでいた。
「……そういえば聞いたわ。伊呂波くん、シオンちゃんと一緒に住み始めたんですってね」
「!?」
飲んだ紅茶が逆流しそうになる。
「な、なに言ってるんだよ!」
「あらあら。動揺しちゃって、図星ねっ」
「先輩? まさか伊呂波モミジに何かされたんですか?」
騒ぎを聞いてツツジもこちらにやって来た。ボタンはにこやかに応える。
「この二人、同棲を始めたんですって」
「な!? ふ、不健全よっ!」
「うわあぶなっ!?」
壁にティースプーンが刺さる。どんな角度から投げたらそうなるんだよ。
二人に落ち着くように宥めるが効果が無い。仕方がないので説明はシオンに任せてみる。
「し、シオン! まさか脅されてるの!?」
「二人は本当に仲が良いのね~」
「えへへ……」
だめだこれは……。
「あのな、俺は寮に住み始めただけなんだ。同じ寮とはいえ学校寮だし、問題ないだろ?」
いやまあ実際はすごく問題ありそうな構図だけども。しかしそれを聞いてツツジはほっと胸を撫で下ろした様子。
「なんだ。そんなことだろうと思ったわ」
「でも既にお互いの部屋を行き来する関係なのよね?」
「ボタン?」
「うん! 昨日もいっしょに、疲れて寝る直前までたくさんお話したんだよ!」
「シオン?」
「あ、あんたまさか……」
ティースプーンを構えるツツジ。なんでこいつらってば、肝心な時に口を開けば余計なことしか話さないんだ!
……俺は背中から向かってくる凶器たちから逃れるように生徒会室を飛び出すと、そのまま階段を降りて昇降口まで向かった。
「待ちなさい、どさくさに紛れて仕事から逃げるんじゃないわよーっ!」
どうやらバレていたようだ。しかしここまで来れば俺の勝ち。運動が苦手なツツジではこれ以上追って来れまい。
そうやって校舎前の階段を駆け下りながら、俺はいつもの場所を目指すのだった。
校舎前の大広場をまっすぐ抜けてすぐ、桟橋の辺りにやはり彼女はいた。
相変わらず客を乗せずに暇そうに座り込んでいるのは長い銀髪のクールな少女、ベルだ。
「暇そうだな」
俺が声を掛けるとベルはむすっとした表情で振り返った。
「余計なお世話ですから」
言いながら彼女は立ち上がりゴンドラの方へと向かう。パリーナに結ばれたロープを外しながら、こちらを少し振り返った。
「せっかくなんで乗って話しましょうか」
「ちゃっかりしてるな……」
ゴンドラを運河に出し、のんびりとオールを漕ぎだすベルの姿をのんびりと眺める。そして、今日も俺たちは海に繰り出す。
「……なるほど」
運河に出て少し。他のゴンドラや船が滅多に通らない陰のある水路で、俺とベルは向かい合わせに座っている。
運河を進みながら俺は昨日経験したことを一通り話した。シオンの話はプライベートな問題だから一部除いたが、それにしても昨日という日の濃さはない。
「モミジさんの周り、聞いてるぶんにはおもしろいですね」
「聞いてるぶんにはな」
「はい。当事者になるとお腹が痛くなりそうな話ばかりです」
まったくだよ。
「でも良かったじゃないですか。生徒会に入れて、家も出来て」
「全部自分で望んだことじゃ無いんだけどな……」
「口ではそんなこと言いながら楽しそうに見えますけど」
そりゃ退屈はしないけども……。同じくらい精神も削られるというか。
「それで、今悩んでるんだ」
「……シオンさんのことですね」
ベルに教えたのはシオンが彗星を見たがっていること、それがうまくいかないことのみだ。彼女の事故や記憶については触れていないが、それでも察する部分はあるのだろう。
「私だったら何か対策を取りますけど」
「けど、そうやって見学会がうまくいって……新しい問題が起きないとは限らないだろ?」
俺だって出来る事ならシオンを助けたい。みんなで彗星だって見てみたい。けれど、ツツジの代わりに俺がシオンと出会った結果生徒会の成立が危ぶまれたように、また致命的な問題に繋がったら困るのだ。そもそも、俺の目的はどうにか原作の流れを維持することなわけだし。
「でも、このままだとシオンさんが悲しむだけですよ」
「う……」
「それにそこまで悩むってことはたぶん、本心ではどうにかしたいと考えているんです。あなたはあなたの心に従うべきですよ」
「それで、また……例えば見学会で大喧嘩して生徒会が解散するようなことになってしまったら?」
極端な例だが実際にどんな影響を及ぼすかは分からない。だから怖気付いている。
しかし、ベルはそんな意見もばっさりと切り捨てた。
「新たな問題は起きたら考えればいいんです。そもそも、モミジさんが存在するってだけで大きな違いがあるでしょう」
「それは……反論する余地もない」
「大丈夫ですよ。だって実際に、生徒会の話はどうにか出来たんじゃないですか」
「まあ、そうだよな」
何となく分かってはいた。さんざん悩んでおいて、俺は結局このままシオンが悲しむのを見ているだけでは居られない。
「とは言っても、具体的にどうするかな……」
問題はそこだ。なにせ、今回は当日になって状況が変わったせいでツツジとボタンは来れなくなってしまう。事前に打てる手は果たしてあるのだろうか……。
「お話だとお二方はどうして来れなくなってしまったんですか?」
「確か……ツツジは店の手伝いとかだったかな。当日急に忙しくなったらしいんだ」
ツツジの店はいつもはあまり繁盛していない、といった描写がされていた事はある。だからシオンから話を受けた当初は問題無いと考えていたらしいが、どうして当日になって……。
「ふむり。調べてみる必要がありそうですね」
ベルはそう言うと立ち上がってオールを手に取った。
「調べるって、どこに行くつもりだ?」
「そんなの決まってます。敵情視察です」
心なしかいつもより表情が明るく見える。何となく嫌な予感がするぞ……。
「行きましょう、お店に」