夢で推しと絡んだら原作まで改変された件について   作:ももいっぷ

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甘い彗星②

 ツツジの店は学校やその周辺の通りとは別の、もっと街の中央によった商業区にある。

 ここはいつもの通りに比べて観光客が多い。もともと街の女性比率は非常に多いが、ここまでやって来ると男というだけで目立つものだ。

 ……だから、俺はいざその店を前にして立ち竦んでいる。

「どうしたんです。以前はあんなに来たがってたじゃないですか」

 近くのパリーナにゴンドラを固定し終えたベルがこちらにやって来て、せっついた。

「あの時とは状況が違うだろ。というか、お前が止めた方が良いって言ってたんじゃないか」

「大丈夫ですよ。まだ普通の生徒が帰ってくる時間じゃないですから」

「そうは言ってもな……っておい、今俺を普通じゃないって言ったか?」

「いきますよ」

 ベルは俺を無視して先へ進む。いくつもの建物が並んだ通りの一角、洋菓子店『ラビット・ラビリンス』と掲げられた店の扉を開けた。

「あ、おい!」

 慌てて俺もあとに続く。

 ……入ってまず見えるのはいくつもの洋菓子が立ち並んだショーケース。二段に分かれており、上段にはケーキ類がホールで並べられ、その一つ一つがカットされている。下段にはバタークッキーや砂糖細工の施された焼き菓子があった。ゴンドラや馬の形を象っており、見た目からも楽しいお菓子だ。

「わあ……」

 ベルはその一つ一つに夢中だった。目を輝かせ、ケースに張り付くようにして見ている。

 こいつ、まさかお菓子が目当てで来たんじゃないだろうな……。

「しかし、誰もいないのか?」

 俺は店内を少し進んだ。あまり広くはない内装だが綺麗に掃除されており、いくつかのテーブル席が用意されている。客は俺たち以外に見当たらないが、これなら普通店員が出てきそうなものだが……。

「モミジさん、見てください!」

「どうした?」

 突然名前を呼んだベルの元へ行くと、彼女はショーケースにある一際大きなホールケーキを指していた。

「『今日のウルトラスーパーゴージャスケーキ』って書いてあります。とっても美味しそうです!」

「……お前、まさか本当にケーキ食べに来たかっただけか?」

 俺の言葉にベルは急いで口元を拭う。

「そ、そんなわけないです。これはモミジさんの為を思ってるんです」

「ほんとかあ?」

 俺もそのウルトラなんたらケーキをよく見てみる。レアチーズのような白い土台に紫色のソースが塗られ、上部にはイチゴとオレンジでトッピングしてあった。まあ確かに、爽やかで美味しそうではあるが……。

 その時だった。

 

「――それ、うちの自信作なんです」

 

 言いながらカウンター奥から人が出てくる。

 背の丈が俺より頭一つぶんくらい低い、大学生風の人だった。ゆるいウェーブのかかった髪を後ろで一つに束ね、店のロゴであるウサギが描かれた薄い緑のエプロンをかけている。優しそうな人だ。けど、どこか面影を感じる。

 ……まさか、この人がツツジの姉なのか?

 彼女は朗らかな笑顔を浮かべながらこちらへやって来て、俺たちを席へと案内した。

「これ、良かったらどうぞ」

「わはあ……!」

 テーブルの上に先ほど眺めていたウルトラケーキが並べられた。

「良いんですか?」

「はい。どうせ売れ残りですから」

「あ、ありがとうございます! いただきますっ」

 そう言うとベルはケーキをフォークで掬い口に頬張った。俺もせっかくならもらっておこう。

適当にケーキにフォークを刺して口に含む。

 まず感じるのはソースの甘酸っぱさ。次にレアチーズの程よい風味。それが見事に調和して、最後に口の中でソースと生地とぐにゃりとした異物の食感が交わった。

「……」

「……えっ」

 一口食べてベルは固まっている。俺も似たような反応だ。だってこれは、この中に入っているものは……。

「どうですかっ?」

 店員が嬉しそうに尋ねてくる。ベルは苦笑いを浮かべ、俺は苦々しい表情を作って彼女に向いた。

「これ……何が入ってるんだ?」

「うふふ。これは『たこ焼きケーキ』なんですっ」

 気を失いそうになった。なんて?

「……」

 さて、当たり前だがベルも俺もすっかり手を止めてしまった。そんな様子を見て店員は自信満々そうな態度から打って変わって、心配そうに尋ねる。

「あの、どうしました? ……おいしくありませんでしたか?」

「いえ、あの……」

 ベルが世辞を言おうとして詰まっている。俺はもう一度ケーキを口に運んでから、確信をもって答えた。

「ハッキリ言うと……罰ゲームだ」

「ば、罰ゲーム?」

「ああ。悪いけど、こんな食べ合わせの悪いものはとても食べられない」

「えぇっ!?」

 店員はあからさまにショックを受けた様子だ。そのままふらふらと地面に膝を着いたかと思うと、両手で顔を覆って泣き始めてしまう。

「う、うぅ……。わだくじは、またやってしまっだのですね……」

「お、おい。何も泣くことないだろ」

 目の前で年上の女性に泣かれてしまうとさすがに狼狽える。

「ひどいですモミジさん。女の人を泣かせるなんて」

「お前も不味そうにしてただろ!」

「そ、それはだって……! その、衝撃的な味でしたので」

 それを聞くと店員はますます声を上げ、両腕で顔を覆う。

「ご、こんな優しそうな子でざえっ! ケーキがまずいって!」

「いい言ってません! その、とっても……おいしそうでした!」

「うわあぁぁんっ!」

「どうするんだよこれ……」

 次第に泣き声は大きくなり、外の通りまで聞こえてしまいそうな……その時だった。

 店の戸が思い切り開かれたかと思うと、何者かがどたどたと音を立てながらこちらへ飛んでくる。

「こらぁーっ! うちのお姉ちゃんを泣かせるんじゃないわよっ!」

 そいつはすごい剣幕で手に握っていたケーキサーバーを振りかざし、俺の鼻先に押し付ける。認識できたのは怒り狂った空色の瞳、怒気で逆立っている金髪。

「つ、ツツジ……!」

 何を隠そうそいつはツツジだった。まさかこのタイミングで帰って来たのか?

「え? あ、あんた何でここに……」

 ツツジは怒りを忘れて目を丸くする。そうやって互いにぽかんと間の抜けた俺たちを見て、店員とベルは顔を見合わせた。

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