夢で推しと絡んだら原作まで改変された件について   作:ももいっぷ

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甘い彗星③

「――ごめんなさい。妹のお友達に恥ずかしい姿をお見せしてしまいました」

 ……少し間をおいて。

 俺たちはカウンター前の席に改めて座り直していた。ベルと俺は二人並んで、カウンターを挟んでツツジとさっきの店員。どうやら予想していた通り彼女こそツツジの姉のようだ。

「改めまして、姉のレンゲです。いつも妹がお世話になってます」

 店員改めレンゲは深々と頭を下げた。さっきまでとは別人のようで、最初に感じたものと同じお姉さんオーラを放っている。その隣ではツツジが若干不機嫌そうにこちらを見ていた。

「は、初めましてです。私はゴンドラ『スイレン』のベル・ホワイトです。こちらこそ、さっきはすみませんでした」

 ベルは緊張しながらも軽く挨拶を返す。俺もきちんとしておいた方がいいだろう。

「伊呂波モミジ。ツツジの兄です」

「はあ!? あんたみたいな兄妹知らないわよっ!」

 当然ツツジは怒ってこちらを睨み付ける。

「こら、ツツジちゃん。お客さんにそんな口利かないの!」

「う。ごめんなさい、お姉ちゃん……」

「そうだそうだ。お兄ちゃん深く傷ついちゃったぞ」

「殴るわよ」

「ツツジちゃん!」

 ツツジは姉に怒られてしゅんとしている。あのツツジを一言で黙らせるなんて……ぜひレンゲさんと呼ばせて頂こう。

「ていうかあんた。こんなところに何しに来たのよ。そもそも何でうちを知ってるの? まさか……」

「いや、ちょっと待ってくれ」

 このままではまた好感度がマイナスだ。そうなったら問題解決は更に難しそうな気がしてならない。

 だが、そこで俺は気付いた。ツツジは言いながらちらちらとベルを気にしている。この席に着いてからというもの、俯きがちなベルも時々顔を上げては二人の顔を確認しているようだ。

 そういえばベルには学校の話こそすれ、実際に彼女たちに会った事は無かったんだっけ……よし。

「こいつ……妹が、ど~してもここのケーキを食べてみたいって聞かなくてさ」

 その言葉にツツジはほっと胸を撫で下ろし、ベルはこいつマジかって顔で俺を見た。

「なんだ、そういうことだったの。びっくりしちゃったじゃない」

「あの、誰が妹で――」

「まて、ベル!」

 俺は慌てて彼女の口を塞ぐ。そして静かに耳打ちした。

(ここでまたストーカー扱いされたら話がややこしくなる。今だけ兄妹ってことにして乗り越えてくれ)

(む、むう。仕方ないですね……)

 どうやら分かってくれたようだ。呑み込みの早い妹で助かるぜ。

「なにぶつぶつ話してるのよ」

「ああ、いや、何でもない。……な?」

「は、はい。いつもうちのダメ兄がご迷惑をお掛けしています」

「まあ! 丁寧で物分かりの良いな妹さんじゃない」

 ……うまくいってくれたのは良いがそんなところで意気投合しないでほしい。

 それよりも折角来たんだ。ツツジもいるし、ここはさり気に探りを掛けてみるのが良いだろう。

「ところでさ、この店っていつもこんなに人がいないのか?」

「え」

 俺の言葉にツツジとレンゲさんは二人して固まる。……何か不味い事を聞いたか?

「なによあんた、まさかうちのお姉ちゃんのケーキが特殊なせいで客が逃げてるって言うの!?」

「いや、そこまで言ってないだろ」

「ふん。大丈夫よ、うちのお姉ちゃんはケーキ以外の洋菓子は得意なんだから!」

 胸を張って良いのか悪いのか難しい基準だ。

「うちは朝と夕暮れ時が一番お客さんが多いんです。だから、それ以外は暇になっちゃうんですよ」

 なるほど。どうやら朝から昼にかけては簡単なお茶をしに来る客が、夕時は手土産にお菓子を買いに来る客が多いようだ。

「……ちなみに、土日とかは?」

「観光客の方がたまに来てくれますが……基本的には暇ですね」

 ううん、とてもじゃないが繁盛してるとは言えないようだ。となると、どうして約束の日に突然忙しくなったのか疑問が残る。

「大丈夫よお姉ちゃん。きっとこれからは沢山お客さんが来るんだから!」

「どうしてそんな事が言えるんだ」

「ふっふー。何を隠そう、うちの店はつい先日雑誌の取材を受けたのよ」

「雑誌?」

「はい。この街では有名なガイドブックで、来週末には刊行されるそうです。そしたら大忙しですね、ツツジちゃん」

 ガイドブックの取材、観光客。……そういうことか。恐らくそれが原因で約束の日もてんてこ舞いになってしまったのだろう。

 しかし、そうと分かったところでどうすべきだろう。まさか発売を妨害するわけにもいかないし……。

 なんて悩んでいると、横で黙って話を聞いていたベルが口を開いた。

「……ふむり。となるとお菓子の材料が売切れたりしたら大変そうですね」

「そうですね。でも、普段からちゃんとストックしてありますから!」

「さすがに材料が切れるほど来ないと思うしねえ……」

 材料が切れ……そうか。ベルの意図していることが何となく分かってきた。

「そのもしもが起きたらどうするんだ?」

「ううん、まず無いけど……もしそうなったらお店は一日休業かも」

「ええ。お菓子の材料の仕入れに仕込みまで考えると、そうなっちゃいますね」

 それだ! 俺は思わずガッツポーズした。

 約束の日は来週末。つまりその日までに店の商品を材料のストックごと売り切ってしまえば、ツツジが約束を守れない事は無くなる。

 となると、問題はその方法だ。

「……すみません、お会計いいですか?」

「はあい! 少々お待ちくださいませ――」

 いつの間にやら入っていた客に呼ばれてレンゲさんはパタパタと駆けて行く。

 ……どうやらお店の方もそろそろ客足が増えてきたようだ。

「モミジさん。これ以上は……」

「ああ」

 必要な情報は手に入れる事が出来た。俺たちは邪魔にならないうちに店を出て行く。

 さて、何か効果的な方法はないものか……。

 

 店を出てからはベルと別れ寮に帰宅して寝た。目覚めた現実にて俺は今回もいつも通り改変されている『ゆるかいっ!』を読んでいる。

 この漫画は基本的にシオンの主観で描かれているため俺の出番は少なかったが、代わりに今回はボタンとの会話が多い。その中に気になる話が合った。

『ごめんなさいシオンちゃん。来週、ちょっと用事があって遅れちゃうかもしれないの――』

 それはボタンの台詞だった。どうやら家の都合で親戚の用事に付き合わなければならないらしい。

 タイミング的にもボタンの問題はこれが該当するだろう。明日以降はこの話の詳細を聞きつつ、ツツジの店についても考えなくちゃならないな……。

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