夢で推しと絡んだら原作まで改変された件について 作:ももいっぷ
翌日。
「こんにちはー! 今日も生徒会、はりきっていこー!」
「……あれ。お前ら何してるんだ?」
放課後。俺とシオンが生徒会室の扉を開けると、そこには必死にPCを叩くボタンとツツジの姿があった。
「なになに、ゲーム?」
「そんなわけないでしょ、生徒会新聞よ!」
「……へえ」
この学校そんなものまで出してたのか。確かにPCの画面にはデザインソフトが起動されている……しかし、そこはまだまだ空白が目立っていた。
「ううん、こればっかりは難しいわね」
意外なことにボタンはこういった作業が苦手らしい。ツツジも苦い顔をして操作しているが、どちらも上手くいってないようだ。
「ここ、操作間違ってるぞ」
「え?」
俺はツツジの代わりにソフトをいじって簡単なレイアウトを作成する。すると、それを見ていたボタンが顔を輝かせた。
「伊呂波くん、こういうの得意なのね!」
「得意ってほどでもないけど」
「こういうのは前の生徒会の先輩たちに任せきりだったから、助かっちゃったわ!」
「むう。伊呂波モミジのくせにやるわね……!」
仕事を取られたツツジは悔しそうだ。一方でシオンはテーブルに出ていた過去の生徒会新聞の記事に興味を示している。
「ねえねえボタンちゃん、これにはどんな事を書くの?」
「いつもは学校のイベント案内や全校集会のお知らせなんかを書くのよ。だけど……」
「だけど?」
「今月はもう特別な事が無いのよね。だから記事に困っちゃって」
確かに四月は入学式やらで頭からバタバタするものの、月末にかけては特に何も無いんだよな。季節の話題を乗せようにも、桜はちょうど散り始めて微妙な時期だし。
「せっかく作るなら、生徒の皆の興味を惹くものがいいですよね」
ツツジもうんうんと頭を悩ませている。興味を惹くものか。まあ、俺はこういったプリントなんてほとんど読まないし、関係ない――いや、待てよ。
生徒の興味を惹く記事……それはもしかしたら使えるかもしれない。
「……今月に関することなら、記事の内容はなんでもいいのか?」
「ええ。もしかして代わりに書いてくれるのかしら?」
「まあ、少し考えがあるんだ」
俺の言葉にまっさきに反応したのはシオン。
「はーい! わたしお手伝いしますっ」
「ああ、助かる。これには出来るだけ多くの人間の協力が必要だからな」
その言葉に呆れてツッコミを入れるのはツツジだ。
「やめときなさいよシオン。こいつ絶対ろくなこと考えてないわよ」
「おいおい、そんな事言っていいのか?」
「な、なによ……」
そう。これはツツジにとっても……いや、彼女たちにとっても最高の話になるはずだ。
俺はホワイトボードへ向かうとペンを取り、そこに大きく記事のタイトルを書きながら宣言する。
「俺はこの生徒会新聞で……ツツジの店を取り上げる! 購買のあんパンにも負けない、最高の甘味があると宣伝するんだ!」
「……え、えぇ!?」
驚愕するツツジと感心する残り二人。
そう、これこそが今回の計画。雑誌の刊行によってツツジの店が混雑する前に、こちらから先手を打って行列を作らせる。そして見学会当日には店が材料切れを起こす状態を作り上げる!
これでツツジは当日絶対にシオン達と一緒にいられるようになるはずだ。
「さあ、そうと決まれば――」
「ち、ちょっと待ちなさいよ、そんなの……」
「おもしろそう! やろうよ、ツツジちゃん!」
「私も賛成よ! ふふ、一躍有名店になっちゃうわねっ」
「せ、先輩までえ……!」
恥ずかしさからか反対しようとするツツジを二人が抑えている。今のうちに急いで記事を作り上げてしまおうか。
……こうして不純な動機といえど、俺は初めて真面目に生徒会の仕事をこなすのだった。
「という訳なんだ」
その日、とりあえず印刷した生徒会新聞のひな形を持って俺はベルと合流した。まじまじと新聞を眺めるベル。
「ふむり。案は悪くないかもしれませんが……」
さっと目を通すとそう言って苦い顔をする。何か問題があるだろうか。
「ちょっと簡易的すぎますね。ただ洋菓子が美味しい、とだけ書いても効果は薄いです」
「ううん、そうだよな……」
なにぶん一回いったきりだし、俺はあまりお菓子に興味も無かったので淡白な紹介文となってしまっている。自覚はあるんだが、こればかりは……。
一番良いのはツツジに書いてもらうことなんだが、自分の店を自画自賛する文章は中々恥ずかしいらしい。とにかく情報が不足していた。
「そういう事ならもう一度行くしかないのでしょうか」
理に適った発想だがベルの表情からは昨日までの輝きは消えていた。またレンゲさんのケーキを食べさせられるのが怖いのだろう。俺だって怖い。
「とはいっても、今一度足を運ぶのが最善か。……そうだ。折角なら」
「なんです?」
「ちょっと待っててくれ。この時間帯ならちょうど出てくるはずだから」
「?」
頭に疑問符を浮かべるベルを余所に俺は校舎の方を見やった。ツツジは既に店の手伝いに帰ってしまったが、あとの二人は残った仕事を片付けていたはずだ。
そこで部活動の帰りらしいジャージを着た運動部たちに紛れ、階段を降りてくるシオンとボタンの姿を捕捉する。
「あれ、モミジくん?」
俺が近付いてきたのを見て二人が反応した。
「実はこの後ツツジの店に行こうと思ってたんだ。もし良かったら一緒に行かないか?」
「わあ! 行きたい行きたい!」
「あらあら、素敵な話ね。でも確か、ツツジちゃんのお店はここから遠いんじゃ……」
「それについては心配しないでくれ」
俺は二人を連れてゴンドラのある桟橋へと向かう。そこには先ほどまで一緒に話していたベルが待機して……いなかった。どういう訳か彼女は、傍にあるベンチの影に隠れるようにしてこちらの様子を伺っている。
「……ベル?」
「う」
名前を呼ぶと一瞬引っ込み、またひょっこりと頭を出してこちらを見る。その頬はほんのりと朱色に染まっていた。まさか恥ずかしがってるのか……?
「どうしたんだ。昨日ツツジと会う時は平気だったじゃないか」
「……あれはお店の店員さんとして接していたので」
そういうものなのか? しかし今回ここにいるのはシオンだ。そう甘くはない。
「な、なにこの子!」
「ああ。俺の妹みたいなものだ」
「あの……よく考えたら妹って設定じゃなくて、普通に知り合いで良いのでは」
「妹!」
ベルから抗議の声が上がり掛けたが、それはシオンの発した大声にかき消された。
彼女はきらきらと目を輝かせて両手を胸の前で握り、じりじりとベンチへ近付いていく。
「怖くないよ、怖くなぁい……」
「ひん……! も、モミジさん!」
「取って食われたりしないからそんな怯えるな」
助けを求められたがおもしろそうだから放置しておく。原作での絡みをあまり見れなかった二人ゆえ、俺もいちファンとしての好奇心が疼いているのは内緒だ。
「捕まえた~!」
やがてベンチへ辿り着いたシオンは震えて覚えるベルに対し、隙をついて思い切り抱き着いた。
「ひゃあぁぁ!」
聞いたことの無い悲鳴をあげるベル。あんな大きな声出せたのか……。
「ちっちゃい! やわらかい! かわいいよ~!」
「や、やめてください! なんなんですか!」
さすがに高校生と中学生、それもベルは特に小柄だから体格差がある。シオンに抱き着かれて身動きが取れずもがいてる様はおもしろい。
ボタンと二人並んでその尊い光景をゆっくりと眺める。
「あらあら。可愛らしい妹さんがいたのね」
「そういや原作でもこんなだったな……」
「妹ちゃん、わたしシオンって言うの! 良かったら妹になって~!」
「初対面で抱き着いてくる人の妹なんてやです!」
そう言うとベルはするりとシオンの束縛から抜け出し俺の背後に隠れる。ふーふーと息をしている様がまるで威嚇する子犬の様に思えた。
「あらら。ふられちゃったわね」
「ずるいよモミジくん、こんな可愛い妹を今まで隠してたなんて!」
「別に隠してたつもりは無いんだけど……」
原作で見ていた以上にシオンはベルに対し執着しているらしい。まあ確かに、小動物的な魅力はあると思うけども。
とはいえこれで人数は揃った。
「さて、ベル。彼女たちが生徒会のシオンとボタンだ。会うのは初めてだろ?」
「はあ。シオンさんは聞いていた以上にやんちゃな方ですね……」
そうだな。俺もこの世界で初めて会った時はこんなパワフルな奴だとは思わなかった。今ではもうすっかり慣れたけどさ。
「よし、それじゃあベル。ツツジの店までお願いできるか?」
「大丈夫でしょうか。こんないっぺんに押し掛けても……」
「まあ、ちゃんと客として行くならいいだろ」
「……まあ! もしかしてベルちゃんはスイレンの社員さんなのかしら」
「え? ま、まあ、はい」
ベルの着ている制服に気付いたらしいボタンが驚いている。何か知っているのだろうか?
「うちの家族がよくお世話になってるの!」
「へえ。確かに同じ制服は何人も見るし、有名なところなんだな」
「そうよ。それに、来週末も私の――」
「わあ、これがゴンドラ! わたし初めて見るよ~!」
ボタンの声がシオンにかき消される。見ればシオンはベルのゴンドラに興奮している様子だった。
「まあ、こんなところで話すのもなんだ。そろそろ行くか」
「ですね。それじゃあボタンさん、シオンさん。お手をどうぞ」
ベルが二人を丁寧にゴンドラへと案内する。ボタンは慣れた手付きで乗り込んだが、シオンはぐらぐらと危なそうだ。水の上に立つというのは慣れていないと厳しい。俺も初日は少しバランスを崩したっけな。何だかもう随分昔のことのように感じられる。
「……はぁ。最近はモミジさんばかり乗せていたから、こんな大人数は緊張します」
「悪いな。料金はちゃんと払うし、好きな菓子も食べさせてやるからさ」
「私、やります!」
「現金なやつ……」
こうして俺たちは大広場を発つ。少し時間は掛かってしまったが、早いところ記事の内容の参考になるものを見つけて新聞を造らないとな。