夢で推しと絡んだら原作まで改変された件について   作:ももいっぷ

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甘い彗星⑤

 ……ゴンドラの旅を終え、店に着く。店にはまばらに出入りする客が見えるが、どうやら持ち帰りが多数で飲食スペースを使用している客は少ないようだった。

「……あら、モミジさんにベルちゃん! また来てくれたんですね」

「こんにちはレンゲさん。ちょっと多いんだけど大丈夫ですかね」

「あら?」

 俺は店の入り口付近ではしゃいでいる二人を指す。それを見てレンゲさんは嬉しそうに頷いた。

「もちろんです。ほらツツジちゃん、お友達が来ましたよ」

「友達? あんた、また――ってボタン先輩っ!?」

「わたしもいるよ!」

 カウンター奥から姿を現したツツジは二人の姿を見て昨日以上に驚いていた。

「こんにちはツツジちゃん。ごめんなさいね、急に押し掛けちゃって」

「ととと、とんでもない! 今すぐにご案内しますぅ!」

「あの、もしかしてツツジちゃんのお姉さんですか? とってもお綺麗ですね!」

「あらあら。ありがとうございますっ」

 昨日同様店内のテーブルに他に客は居なかった。俺たちは二人用のテーブル席にそれぞれ付き、ツツジが急いでケーキやらドリンクを運んでくる。

「私からのサービスです! ……シオンにも、普段お弁当もらってるお礼よ」

「お前、これ……」

 差し出されたのはフルーツケーキだった。昨日見たものとは違うようだが……まさかレンゲさんのケーキじゃないよな?

 そんな俺の考えを察したのか言い切る前にツツジは首を振った。

「安心して。それはあたしが焼いたケーキだから安全よ」

「すごい、ツツジちゃんケーキ焼けるの!?」

「まあ! とっても美味しそうね」

 二人は喜んで手を付けている。俺は向かいの席のベルと顔を合わせ、二人して息を呑み恐る恐るそれを口に運んだ。

 ……感じるのは柔らかいクリームの口当たり、新鮮なフルーツの甘さ。美味しさよりも安堵が勝って俺はため息をついた。

「う、うぅ……私のケーキは安全じゃなかったんですね……」

 カウンターでは俺たちの会話をこっそり聞いていたレンゲさんが膝を着き、常連らしい客に慰められていた。あれでいいのか……。

「ところで、どうして先輩たちまでここに?」

「新聞のネタを探そうと思ってな。ついでだから全員連れてきたんだ」

「はあ……あんた本気でやるつもりなのね。いいわ、好きなだけ見てきなさい」

 ツツジはついに観念したように肩を落とした。

「とは言ってもな。確かにケーキの味は良いし店内の雰囲気も悪くないんだが……」

 俺は店を見渡す。狭くも広くも無い清潔な店内、決して多くは無い種類のケーキやお菓子。まばらな客足はほとんどが持ち帰りの常連客。レンゲさんのケーキを除けば味も悪くない。

 ……ただ、いまいち見た目のインパクトに欠けている気がした。

「ふむり。そういえばお店も看板が立ててあるだけでしたし、モミジさんに案内されなければ気付かなかったかもしれません」

 ベルの言葉にシオンも反応する。

「赤い屋根に白い壁のおうち、素敵だと思うよ! でも、そう言われると……この街には似たような建物が多いから目立たないのかも」

「一方で店の中は至って普通の洋菓子屋……か」

「う……そうなのよね。あたしも何か足りない気はしてるんだけど……」

 元ネタ的に、この水の街は観光街としても有名だ。となると似たような店はそこかしこにあるのだろう。だからこそ雑誌に取り上げられる事が差別化となり客足も増えるのだ。

 一方で素人の自分たちがいちからお店のPRをしようとなると何か大きな要素、インパクトが欲しくなる。

 うんうんと頭を悩ませている俺たちの元へ接客を終えたレンゲさんがやって来て首を傾げた。

「あら、もしかして例の新聞の話ですか? ツツジちゃんから聞きましたよっ」

「い、一応お店の事だからね」

「もし私たちに手伝えることがあれば協力させてくださいねっ!」

「わあ! ありがとうございます!」

 レンゲさんからの協力も得られるのならこれは絶対成功させたい。しかし、どうすべきか……いっそレンゲさんのケーキのインパクトで勝負しに行くか?

 なんて悪魔の発想が浮かび始めたころ、ボタンが手を挙げて発言した。

「はぁい。いっそのこと、制服をがらっと変えちゃうのはどうかしら」

「制服?」

 言われてみれば今の店の制服は服と言うより、ロゴが描かれたエプロンを上から提げているのみで捻りは無い。素朴な喫茶店みたいでこれも悪くは無いのだが……。

「確かに、うちの高校に宣伝するならかわいい制服とかの方が人気は出そうか」

「かわいいウサギさんを店内に放すのはどうでしょうか!」

「衛生的に問題があるな……」

「うふふ。いい線いってるわ、ベルちゃん。実は生徒会室からこんなものを引っ張り出してきたの」

 そう言うとボタンは鞄から何かを取り出した。それを見て俺は……絶句する。

「じゃーん! メイド服にうさみみよっ」

 取り出されたのはふりふりのフリルが付いた白黒のメイド服、そして白や茶色を始めとしたカラフルなカラーが取り揃えてあるウサ耳カチューシャ。

 俺はこいつを知ってるぞ! 原作第三巻にある文化祭編第二十五話にて生徒会がよそのクラスのヘルプに入った時に使った衣装じゃないか。まさかこんなところでお目に掛かれるなんて!

「モミジさん。目が怖いんですけど」

「せ、先輩。メイド服なんて恥ずかしいですよぅ……」

「いいや着ろ! 今、ここで!」

「な、なんなのあんた!? 今あたしに服を脱げって言ったの!?」

 誤解を生むような言い方はよしてほしい。俺はただメイド服を着た彼女たちの姿を網膜に焼き付けておきたいだけなんだ。

「かわいいー! 良いじゃんツツジちゃん、一緒に着ようよ!」

「あ、ちょっとシオン……!」

「それならどうぞこちらへ」

 シオンは気に入ったようで、着替えのためボタンやレンゲさんと共にツツジとベルを引っ張ってカウンター奥へと消えていく。

「え? な、なんで私も連れていかれてるんですかっ」

 ナイスだシオン! 俺は拳を固く握りしめる。

 ……そのまま十数分ほど経過して、まず最初に出てきたのはシオンとベルだった。

「じゃーん! えへへ、似合うかなぁ。ぴょんぴょんっ」

「う、うぅ。どうして私までこんな……」

 両手を大きく広げて自分をアピールするシオンに、恥じらいながらスカートの裾をきゅっと握るベル。コスプレカフェにあるようなミニスカートではなく、かっちりとしたロングスカートのメイド姿。すっかり彼女たちに目を奪われて俺は心肺停止していた。

「大変! モミジさんが息をしてないです!」

「だめだよモミジくん! まだツツジちゃんにボタンちゃんもいるんだよ!」

 その一言で九死に一生を得た俺は上半身をがくがくと震えながら起こす。まだこれ以上があるというのか……?

「ほらほらツツジちゃん、隠れてないで行きましょう?」

「や、やっぱり恥ずかしいです! こんなので接客するなんて……」

 言いながらボタンに後を押される形で出てきた二人。俺はその姿に思わず失明しそうになる。

 ツツジはウサ耳で自分の目を隠すように引っ張りながら、おずおずとその姿を現した。ベルと横に二人並んで共に恥じらう姿は俺に何とも言えない感情を引き起こさせる。

 そして何と言ってもボタンだ。黒髪ロングで雅な雰囲気を漂わせる彼女のメイド姿はただのメイドではなく、和メイドを思わせる。こういういかにもな大和撫子に弱い俺はボタンを見つめたまま動けなくなった。

「まあまあ、みなさんとっても可愛らしいですねっ」

「お姉さんもとっても似合ってます!」

「あらあら」

 レンゲさんはこの中ではその身に纏う上品な気質から、さながらメイド長といったところか。メガネでも付けたら特に似合いそうだ。

 それにしても想像以上の破壊力だ。これなら客を呼ぶきっかけには充分だろう。

 そして丁度その時、一人の客が店の扉を開けた。同時にメイド服姿の少女たちは一斉に扉の方を振り返り、とびきりの笑顔で大きな声をあげる。

 

「「「いらっしゃいませー!」」」

 

「……あ、あれ? メイド喫茶?」

 間違えられるのも当然だ。しかし客は始めこそ戸惑っていた様子だが、当然のように店員として接客を行うシオン達と接している内に徐々に馴染んで行った。

 そして最後には「また来るわ!」と笑顔を残して退店。ふむ、客からの印象も悪くない。

「でもいいんでしょうか、こんな事勝手にして……」

 ベルが呟く。すごく今更な気はするが、まあここ他人の店だしな……。しかしツツジより先にレンゲさんが嬉しそうに言った。

「もちろんです! 私、この衣装気に入ってしましましたから!」

「ちょ、ちょっとお姉ちゃん!?」

「良いじゃないですかツツジちゃん。たまにはこういうのも。それに、せっかくお友達がお店を盛り上げようと頑張ってくれてるのですから」

「うぅ、まあ一時的になら……」

 フットワークの軽いお姉さんで助かった。とにかく、これで話のネタには困らなさそうだ。

「みんなありがとう。よし、絶対にこの店を来週には人気店に仕立て上げるぞ!」

 新聞の製作から配布まで考えると残りの期限は少ない。俺も急ぎ新聞を完成させなくちゃな……。

 そのためにもっと俺に出来る事はなんだろう。

 俺は考えていた。もう漫画の展開がとか、そんな憂いは無い。ただシオンを笑顔にしたい。

 それだけだ。

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