夢で推しと絡んだら原作まで改変された件について   作:ももいっぷ

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甘い彗星⑧

 その日、寮の食堂にて。

「まさかあの婆さんがボタンの親族だったとはな」

 さっきの写真……ボタンの言っていた『落ち込んで帰って来た』件はベルの話で間違いないだろう。俺も関わっていたわけだし、これでは会った瞬間門前払いされてしまってもおかしくないぞ……。

 なんて頭をうんうん悩ませていると。

「おまたせ、モミジくん! あれ、どうしたの?」

「……シオンか。いや、なんでもな――」

 そう言い掛けて顔を上げた俺の目の前には……羽根付きの豪華装飾仮面を付けたウサ耳メイド服の不審者が立っていた。思わず椅子からひっくり返りそうになる俺。

「わ! 大丈夫?」

「お前の方が大丈夫か? なんだその恰好は……」

「ふっふー」

 呆れながらツッコミを入れるとシオンは得意気に腰に手を当てる。

「これはこの街伝統のマスクだよ! 驚いたでしょ! 似合ってるかな?」

「驚きはしたが似合ってはないだろ、その恰好に」

「ええ、そうかなあ」

 シオンは残念そうに肩を落とした。まったく、何を考えてこんなトンチキなものを身に着けようと考えたのか。

「ツツジちゃんの喫茶店にもっとインパクトを加えようと思ってね、たまたま見かけたお店でこれを買ってみたの」

「だからって組み合わせるな」

 さっきから周りにジロジロ見られまくってるじゃないか。ただでさえ俺は目立つのに。

 そもそも、こんな物つけて接客してたら誰が誰か分からなくて怪し過ぎるじゃないか……ん?

「……そうか。もしかしてこれは使えるかもしれないな」

「ふぇ?」

 席から立ち上がってシオンの仮面をよく見るべく顔を近付ける。さっきは声で判断出来たものの……なるほど、これは確かによく見ても分からない。

 俺はもっとよく観察すべくシオンの顎に手をやった。

「ももも、もみじ、くん?」

「悪いなシオン。ちょっと動かないでくれ」

「ふぁ、ふぁい……」

 ふむ。身分を隠し周囲と平等に盛り上がる為のカーニバル。それに必須となる仮面は、こと正体を隠すという意味ではこの上ない代物だ。これなら……やれる!

 そうと決まればさっそくベルと連携を――

「――あなたたち、何をしてるの」

 そう声を掛けられて振り向くと、今度はそこに腰を手に当て呆れた様子の寮母がいた。

「ああ、すみません。ちょっと」

「……ちょっとじゃない。食堂から通報があった。仮面の女の子を口説く怪しい男が居るって」

「別にそういう訳じゃ無いんだけど」

 言いながら今の状況を再度確認する。

 俺はシオンの(仮面を)至近距離で見つめ顎を手で引いている。シオンは俺にされるがまま、さっきから黙って硬直してしまっていた。そして、いつの間にか周囲の人々からの視線を欲しいがままに集めヒソヒソと何か話をされている……。

「……あ。ごめんなさい寮母さん。わたし、もう大人にされちゃうのかも……」

「お前は何を言ってるんだ」

「……はあ。何か事情があるにしてもこんな所ではダメ」

「すみません。ボタンのお婆さんの件で少し焦り過ぎちゃって」

 そこで寮母はピクっと耳を動かした。

「……姫松葉さんのこと?」

「あれ、知ってるんですか? 実は……」

 俺はそこで軽く事情を説明した。それを聞いた寮母は何か少し考える素振りを見せたあと、俺とシオンの二人を指して告げる。

「……ん。ここではなんだから、場所を変えよう」

 

 朗報、とはこのことを言うのだろうか。

 寮母の部屋にやって来た俺たちはテーブル越しに向かい合って話をしていた。それによると、なんと寮母はボタンのお婆さんの事をよく知っているらしいのだ。

「……昔、たまたま同じゴンドラに乗り合わせて一緒に行動したことがあって、それ以来の仲。上品そうに見えてアクティブな人だった」

「へえ、そうなのか……」

 俺が見たのはおしとやかそうな貴婦人だが。まあ、どうであろうと揉めたから今回は困っているのだ。

「でも、それでこんな仮面付けてたら余計に怪しまれちゃうよ!」

「こんな怪しい仮面付けて接客しようとしてたシオンに言われたく無いな……」

 けど確かに怪しさ満点ではある。相手は上客になるわけだし、こんな奇をてらった方法を取れる訳ないか……。

「……いや。そうとも限らない」

「え?」

「……あの人は水の街やその伝統が大好きだから、こういうの喜ぶと思う」

 ほ、本当に? 一度は自分でもいけると思っておいて何だが、これで喜ぶのは驚きだ。

「じゃあ、せっかくならウサ耳も付けようよ!」

「シオンはベルのウサ耳メイドが見たいだけだろ」

 さすがにそんなコスプレをして喜ぶわけが――

「……いや。あの人は喜ぶ。ああ見えて可愛いもの好きだし、そういう人」

「マジかよ……」

 じゃあ当日はウサ耳メイド仮面の姿で案内するのが正解だっていうのか。さすがに空いた口が塞がらない。確かにボタンも似たようなこと言ってたきがするけどさ……。

「わあ! なんだかすごいことになりそうだねっ」

「あのな……当日は俺も同行しなくちゃいけないんだぞ」

「モミジくんのウサ耳メイド!?」

「おかしな想像をするなっ!」

 気味が悪いし、俺なんかがやれば間違いなく通報されるだろ!

「……大丈夫。ここに丁度良いものがある」

「は?」

 そう言って寮母が取り出したのは……執事なんかが使う黒い燕尾服?

「これと仮面を付ければ立派な紳士の出来上がり」

「めちゃくちゃ不審者っぽいんだけど……」

「……大丈夫。あの人はこういう男が好き」

「不安しかない情報だな」

「すごい! 名付けてウサ耳仮面だねっ」

「いや、だからウサ耳付けないし」

 しかし俺だけ素顔という訳にもいかないし、私服なのも変だし。ここは恥ずかしいが寮母の案に乗るしかないのか……。

「ねえねえ、それじゃあお婆ちゃんにもツツジちゃんのお店、来てもらおうよ! きっと喜ぶよ!」

「……賛成。あそこはウサ耳メイド天国と聞く。わくわく」

「これ、寮母さんの趣味じゃないだろうな」

 ……といった様子で、気付けば当事者であるベルの与り知らぬところで話が進みまくっていた。

 こんな調子で本番は大丈夫だろうか? いや、もう懸けるしかないのだろう。当日はこれに加えてあのボタンまでいる訳だし。

 頼むぞベル、こうなった以上お前の手腕だけが頼りだ……!

 

 ……その後は順調に事が進んで行った。

 生徒会新聞はツツジの承認のもと無事に発行され、その日から俺たちは学校中を駆けずり回って生徒たちに新聞を配った。

 かわいらしい店員のいる美味しいケーキの店、という情報は華の女子高生たちの間で瞬く間に広がったようだ。その日からツツジの店は日に日に忙しくなっていった。

「人手が足りないのよっ!」

 そうツツジに泣きつかれ、シオンとボタンは喜んでウサ耳メイド姿になり、一時的なバイトとして店に入る。正直なところ俺も通い詰めたかったが……そんな暇はない。

 俺はベルと当日の行呈について相談をすすめていた。お互いに街について知っている情報を出し合い、土日を利用して実際に回ることを繰り返す。

 ……ちなみに、件のウサ耳メイドについては割とすんなりと受け入れてくれた。

「も、もちろん恥ずかしいです。でも、これが無くちゃもっとダメなんです」

 そう言えばベルは仮面を付けると少しだけ積極的になれていた気がする。案外相性は悪くないのかもな……。

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