ヒカルの九路盤   作:九路星人

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エイプリルフール、二日目――。


第2話「佐為と九路盤」

 碁会所の静かな空気の中、ヒカルは佐為と向かい合って座っていた。

 

 目の前にあるのは、九路盤。

 

(ヒカル、どうしました? いつもならすぐに打ち始めるではありませんか)

 

 佐為は不思議そうな顔でヒカルを見つめていた。ヒカルは無言で盤面を見つめる。九路盤の碁は知っている。単純なルールながら、奥深い戦略が存在することも理解している。

 

 しかし、ヒカルにとって囲碁は十九路盤で打つものだった。

 

(……本当に、この世界には十九路盤がないのか?)

 

 ヒカルは深く息を吐き、重い考えを振り払った。

 

「……いいよ、打とう」

 

 碁石を手に取り、ヒカルは九路盤での対局を始めた。

 

(佐為の九路盤の実力……試してみるか)

 

 最初の一手を打つと、佐為の目が輝いた。

 

(いざ、勝負です!)

 

 ヒカルは佐為の応手を見て、改めてその実力を感じた。九路盤では十九路盤と異なり、序盤から激しい戦いが始まる。広い布石の概念が存在しない分、いきなり接近戦となる。

 

 佐為の打ち回しは精密だった。小さな盤面の中で、的確に地を確保しつつ攻撃の糸口を探る。ヒカルは焦ることなく、慎重に応じた。

 

(この狭い盤面なら、十九路盤のように広い構想は使えない。でも……)

 

 ヒカルは佐為の打ち筋を見ながら、ふとひらめいた。十九路盤の考え方を九路盤に落とし込めば、相手の意表を突けるのではないか?

 

「……試してみるか」

 

 ヒカルは大胆な一手を打った。

 

 佐為が目を見開く。

 

(これは……?)

 

 九路盤では一般的でない手だった。しかし、十九路盤の布石理論を応用すれば、九路盤でも新しい可能性を生み出せる。

 

 佐為は興奮した様子で盤面を見つめた。

 

(面白い……! では、私はこう打ちます)

 

 佐為の手が鋭く打ち込まれる。ヒカルは一瞬息をのむ。さすが佐為だ。九路盤においても、彼の読みの深さは健在だった。

 

(やっぱり、佐為はすげえ……)

 

 九路盤は単純に見えて、極限まで研ぎ澄まされた攻防が求められる。十九路盤よりも一手の価値が重く、どんなミスも即座に命取りになる。

 

 ヒカルは慎重に応じながらも、佐為の棋風を観察していた。

 

(……うーん、佐為は九路盤の棋士として完璧すぎる。でも、だからこそ……)

 

 ヒカルはさらに十九路盤の知識を活かした別の一手を試した。

 

 佐為がまた驚いた顔をする。

 

(ヒカル……今日のあなたの打ち方は、まるで別の囲碁のようですね)

 

「かもな」

 

 ヒカルは苦笑した。この世界では誰も十九路盤を知らない。だが、自分は知っている。

 

 ならば、自分がこの九路盤の世界で新しい戦略を生み出せるかもしれない。

 

(佐為、まだまだ行くぜ!)

 

(ええ、全力でお相手します!)

 

 二人の対局――傍から見ればひとりで黒と白を置いていっているように見える――は熱を帯びていった。

 

 それから数日後。碁会所の入り口でパタパタと足音がした。

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