なんかこれまでの見たら月一になってしまっていました。
今回は早く書けたのも含め、更新します。
夏の長期休みは終わりを迎え、学業の再開にして二学期が開始される。
出久もまた同じであり、
同時に出久自身もまた、ホタルが中にいることにより、昔より心はどこか軽くなっている。
されど今回に限りそれとはまた別。
それは未だ彼の頭部に留まり続ける一匹の蝶が関係していた。
『イズク、大丈夫?』
「うん、大丈夫だよ」
蝶が現れ、出久に接触してからの変化。
ホタルは学業が再開するまでに、何度か出久の夢に干渉を試みていた。
しかしその全てが失敗に終わり、朝を迎え彼は起床してしまう。
不審に思った銀狼にそれらに関する、もしくは近しい情報がないか探りを依頼したが、銀狼からの報告では、そういった情報はなかった。
故に、最近のホタルは出久の心配ばかりである。
「(ホタルさん以外の人が出てくる夢…あの人は誰なんだろう…?)」
一方の出久、彼の脳は淡い藤色髪の女の子の姿だけが映し出されている。
墓場にただ一人立っている女の子のその姿は、『誰でも救ける』という常軌を逸する緑谷出久には刺激が強く、彼は無意識に救けたいと思っていた。
だが夢でありその場にいようとも動くことも、口を開き喋ることも叶わない。
「(やっぱりこの蝶が関係してるんだろうな……)」
頭部に留まる蝶を、直接見ることは叶わない。
だがいることはわかる。
最初こそ家におとなしく置いていこうと試みたものの、蝶は出久から離れんとばかりに、幾度となく頭部へと羽ばたき飛び乗った。
故に出久は諦め、ホタルと共に学校へと足を踏み入れた。
しかし次の瞬間、蝶は頭部から離れ、出久の背負う黄色い鞄の中へと自ら入っていく。
驚愕する出久たちだが、出久はすぐに思考を動かし、他の蝶とはやはりどこか違うと確信を得た。
「リュ、リュックの中にいて大丈夫かな…?」
『でもずっと頭の上にいるよりはいいと思うよ?』
「そ、そうだけど……まぁいいか」
息はでき、抜けられない程の隙間を作り、出久は中靴へと履き替え学校内へ入る。
見慣れた光景、その廊下を歩き、自身が最も通う教室へと向かう。
そして教室へ着き、扉を開ければ先についていた者たちの視線が出久へと集まる。
されど興味をすぐに失い、視線はすぐに向けられなくなる。
同時に彼を見てあざ笑う者たちが数人といた。
『もうイズクは"無個性"じゃないのに、なんでこの人たちは変わろうとしないの?』
「(簡単に変わることはできないよ。それに僕がホタルさんを覚醒させたのは今年で、それまでは"無個性"だったのに変わりないからね……)」
多少なりと減少したと言えどそう簡単に変わることはない。
出久は自身の机にノートなどを出そうとするが、蝶がここで出てきてしまうのではと、今更に状況が難しいことに気づく。
だが彼の心配とは裏腹に、開き中身が露になろうとも、蝶は出ていこうとせず留まり続けていた。
まるで、状況を理解しているかのように。
それは出久がノートや筆記用具を取り出し、終えるまで出て行こうともしない。
出久は思わず安心の息を吐いてしまうが、自らの元に近寄ってくる人物に気づき、慌てながらに鞄を閉じた。
「か、かっちゃん……」
「よぉクソナード。テメェ受ける場所は決まったのかよ?」
「……ッ」
今まで通りであれば、小声で、怯えながらに憧れの母校である雄英と発言しただろう。
そしてその様子を見た幼馴染である爆豪は鼻で笑う。
「……ハッ! 前のテメェなら雄英って言っていやがったが、とうとう現実を見たか。いくら"個性"を発現しようと、テメェが木偶の棒のデクに変わりねぇんだからな」
瞬間、出久の中にいるホタルが揺らいだのを出久は感じ取る。
内心出久は慌てながらにホタルを落ち着かせるが、ホタルの機嫌は斜めになり始めていた。
『一発ぐらい殴ってもいいのに…!』
「(よ、よくないよ! それにかっちゃんは、口は悪いけど実力は本物だし、言い方はあぁでも現実を突きつけてるのに変わりないから……)」
それだけではない。
憧れよりも、身近で凄い人。
追いつきたい、憧れの一人でもある故、出久は彼を自己満足で暴力をやり返したくはないのだ。
勿論とばかりに、内心では彼に対し文句は垂れるが、それを口を滑ってでも本人に言う勇気はない。
それが出久であるからだ。
『…優しすぎるよ、イズクは……』
『——に優————す———出—さ——』
「(あれ…?)」
ホタルの声と共に、別の女性らしき曇った声が、途切れ途切れでもあるが響き渡る。
ホタル自身は気づいておらず、出久だけに響いた第三者の声に気を取られている間に、予鈴が響き渡り、出久は現実へ意識を戻した。
——◆——
一般的に"個性"の使用は禁じられている。
しかしある程度の扱いは慣れておかなければ、暴発などにより、
それがこの世の理不尽であり、強制。
これまで"無個性"であった出久は、それらに関する授業に限り強制的に見学を教師に言いつけられていた。だが今は違う。彼も"個性"所持者となったことにより、教師の態度も多少なりと変わっている。
"無個性"ならまだしも、"個性"所持者を見て見ぬふりなどをしてしまえば己の立場が失いかねない。
そう思い込んでいるのだろう。
「それじゃあ緑谷、始めろ」
「は、はい!」
一方で出久はもう既に何回かやっているとはいえ、こういったのは未だ緊張によって上がってしまう。
今までは見るだけしかできなかったことができることは、それほどまでに大きなことなのだ。
「(ホタルさん)」
『うん、意識を集中させて……大丈夫、何度でも言うよ。あたしが傍にいるからね』
用意された木の板に向け、出久は片手をかざし伸ばす。ホタルの劫火を意識していき、サムを纏わずとも扱えるようにする。
それが今出久自身が決めた課題である。
ゆっくりと、ゆっくりと、現実では一人だけでも、身体の中には確かにいる。
出久の神経などにホタルの力が巡り巡っていき、その手にホタルが重ねるような感覚となり、微かに劫火が溢れ始めようと揺らめく。
「(あれ…?)」
『どうしたの?』
出久は自身から
それは燃え揺らめく
されど劫火はホタルの、サムの力でもある故、彼女が気づかないことは本来ありえない。
だが現実に、今事実に、出久だけが気づき、ホタルは気づいていない。
瞬間、
「おぉ、この間より調整出来てるんだな。その年で発現なんて本来ありえないのにも関わらず、頑張ったんだな」
「あ、はい……」
担任が今まで絶対言わなかったことを言い放つが、出久はそれ以上に先の淡い藤色が混ざった劫火のことで頭がいっぱい。
『イズク、本当にどうしたの?』
「(ホタルさんは、気づかなかったの…?)」
『えっ?』
出久はホタルに問いかけるも、ホタルはわからない。故に、出久は自身しか気づかなかったと理解した。
——◆——
学業を終え、帰宅した出久はホタルと別れ、自室に蝶を解放する。
やはりと、蝶は理解し鞄から羽ばたき出れば、迷うことなく出久の頭部へと舞い降りる。
この後には夕食と入浴を済まし、引子が寝静まった時を頃合いとし、ヴィジランテを行う。
されど今宵はしない。
否、出久はやめようと決心している。
それはなぜか?それは昼間の学業の際にサムとしての自身が噂となっていること。
幼馴染である爆豪は、出久の"個性"がそれらと合致していることから睨んでいること。
何より、No.2にもその姿が見られ、No.1には正体が知られている可能性があること。
これらのことから、出久はヴィジランテとしての活動は困難な状態にあることを悟った。
星核ハンターに頼めばうまく隠蔽することは可能だろう。
だからと、ヴィジランテを続ける気はもう既に彼の中にはない。
「情報が出てるってことは、仮に雄英に入学したら、体育祭とかでバレるかもなぁ……」
雄英体育祭。
かつて日本や海外で行われていたスポーツのオリンピック。
その代わりとなったのが毎年恒例の体育祭。
"個性"ありのほぼ何でもありな体育祭でもある故か、子が通っていないにもかかわらず多くの一般人とプロヒーローたちが席を埋めていくもの。
既にヴィジランテでサムの姿が目撃されている出久からすれば、致命的。
そもそも、ヴィジランテを始めたのはホタルを知る人物探し故、ここまでなることは彼も思いもしなかった。
半分は出久のヒーロー精神が問題でもあるが、当の本人は後悔していない。
「雄英は、正直言うと行きたいけど、やっぱりなぁ……」
他のヒーロー学校にするというのも選択の一つ。
しかし行動派オタクとも言えよう彼には、その選択をするのは難しい。
否定されようと憧れであるのに変わりない故の、彼の致命的な弱点とも言えよう。
「(なんか眠い…ちょっとだけ仮眠しようかな……)」
そんな出久は睡魔に襲われる。
軽い仮眠をとってから勉強をするのも悪くはないだろうと、吸い込まれるように彼は寝台へ寝そべる。
その際、蝶は頭部から離れており、そっと枕に乗せている顔の横へと舞い降りた。
瞬間——蝶は光を放ち始めた。
——◆——
出久はまた同じ夢を見た。
神々が存在したと思わせる遺跡に、そこに生きる古代の人々。
それを映像とし、次に、また次にと断片的な記録の如く流れ、映り変わっていく。
男女、大人、子供、老人関係なくとばかりに多くの戦による断末魔が響き渡る。
戦にて戦う者の咆哮、死を拒絶する悲鳴、恐怖に駆られ泣きわめく叫び。
前に見せられた過去の風景とも言える光景が、未だ断片的であるにもかかわらず、より具体的なものとされていた。
そして墓場へとたどり着く。
一つの墓の前には淡い藤色髪の女の子がに立っている。出久との距離は離れているのに、彼はミステリアスであり、神秘的な印象を改めて与えられていた。
されど姿は見えようとも、顔だけは見えない……——
「(あれ?)」
——否、淡い藤色髪の女の子が振り向き、見えるはずのない素顔を見せた。
藤と紫を合わせた瞳に、他の人と異なる、長く尖った耳をした、ホタルと同等と言える美貌にして美女と言える顔。
それでもなお、夢から覚めることはない。
すれば淡い藤色髪の女の子は出久へと歩み寄り、
「——やはりあなたは生きているのに、私に触れても死なないのですね」
口を動かし、喋り出す。
その声はとても落ち着きがあり、とても丁寧なもの。すれば出久は気づく。
自分たちがいたはずの『墓場』が変わっているのを。そこは、地平線の彼方まで続く、アンティリンと呼ばれし花が咲き誇り、欠けた月が夜空にある『冥界』。
知る者は『記憶の中の花海』と呼ぶ場所。
「彼女と同じように、私もあなたの記憶を、全てを見ました」
淡い藤色髪の女の子は出久の目を見つめ、言葉を紡ぐ。すれば唸り声が響き渡り、一つの大きな影が二人に重なる。
思わずと出久は視線を、自身の顔を上へと向ければ、
だが次の瞬間、視界が光に包まれ、彼は夢から現実へと引き戻される。
その際、淡い藤色髪の女の子は微笑んでいた。
——◆——
これまで以上に変わった夢を見た出久は、重い瞼を上へと動かし、眼球を露にするように開ける。
まだ光に慣れていないのか、視界はぼやけるが、それも次第に慣れていき、見え始める。
そこまでは普通、そう普通であった。
「——おはようございます、出久さん」
「——へぁ?」
されど、彼の視界に映ったのは、
ホタルでも、銀狼でもない、知らない……否、知っているが知らない女の子。
まだ覚醒していない脳が急速に回転を始めていき、一瞬にて出久は近所迷惑とばかりの大声を荒げた。
瞬間、扉の向こう側から激しい足音が響き渡り、乱暴に扉が開かれる。
「イズク!? どうした…の……」
そして声の主の名を叫びながら心配するも、彼女は硬直した。
目の前に広がる光景が原因が原因である故に。
「申し訳ありません、驚かせてしまいました」
「…だ、誰……!?」
顔の知らない謎の美を持つ女の子が、出久の部屋で傍にいる。
ホタルは本能的に機械装置を顕現させ、警戒心を露にし身構えた。
その一方で淡い藤色の髪を持つ女の子は立ち上がり、ホタルへと身体を向ける。
性別は同じ女性、身長は近しく、どちらも今は亡き転生者の手により召喚されし存在。
ホタルだけが唯一、出久の"個性"とし召喚され宿らされた。
転生者は言った。ただ召喚された奴らと違う。
二人で一人で、別々にもなれる特別な存在であると。
しかし、
故に淡い藤色髪の女の子は、異なる形にて超常世界に召喚にされた。
「あなたは……ホタルさんですね。初めまして、私は『キャストリス』と申します。貴女と同じ——異なる形によって、
蛍火が住まう緑の谷に、新しく死蝶が住み込む。
・『キャストリス』
元の世界では『「死」の権能』を継承し異界の主となり、ホタルと形は異なるとはいえ、出久との繋がりを果たした女の子。
元の世界で備わっていた、触れる生命の悉くを散らしてしまう「タナトス」の祝福、底知れぬ「死」の力は超常世界でも健在であり、備わっている。
ホタルと既に繋がっている故、出久との繋がりがホタル以上に速く、接触して翌日には現実に死蝶ではなく、人の形として現れることに成功した。
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