マイナス・リコイル   作:sem.

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千束のプラスっぷりに脳が焼かれたので、マイナスを投入しました。

この小説を読む際の注意点としては
原作崩壊
キャラ崩壊
設定ミス
の可能性があります。

また、タグに球磨川禊とありますが、めだかボックスの球磨川禊本人が出るわけではないです。あくまでめだかボックスのマイナスプラス要素と球磨川のそっくりさんが出てくるだけです。


『It’s not my fault』

 

———年—月—日

 

 今日から私は日記をつけることにした。

 私はまだ正式なリコリスではないため、任務に出ている訳ではない。しかし今の早い段階から備えておくことで、実際の任務の際には教官に学んだことや先立に教わったことなどを記録に残しておくことで、後で学び直せるように記録を残そうと思った訳である。

 

 ……なーんて、大人ぶって書いてみたものの、正直何を書けばいいか分からないし、多分これは日記じゃなくてそのうち()の日々の鬱憤を書き溜めるだけの“愚痴ノート”になることだろう。だって初日からこんな調子だし。

 まあ、別に誰かに見せるわけでもない。ここに何を記そうがそれは僕の自由であるからして。

 だから、いくらここに上官の悪口を書こうが、それを誰かに見られてしまおうが、()()()()()()のである、まる。

 

 

 

    —月—日

 

 めんどくさがりな僕でも、習慣にすれば意外と続くものだ。

 日記をつけ始めてかれこれ———数えるのがめんどくさいから正確な日数は分からないが、まあ数ヶ月くらい。それほどの期間をちゃんと継続して日記を書け続けている自分に驚きである。

 “習慣は第二の天性なり”とはよく言ったものであり、今の僕は寝る前になったら「あ、今日の分の日記」と思い出すくらいには生活の一部となっている。

 ただし、内容を振り返ってみれば、上司への恨みつらみばかりであるため、誰にも見せることはできない黒歴史となっているが。

 

 

 

    —月—日

 

 うう……今日は特に怒られてしまった。訓練に手を抜いていたことがバレてもう大目玉だ。

 教官の()()先生は呆れていただけなようだったが、他の教官は唇を震わせて額に青筋を浮かべていた。タコみたいで面白かったが笑ったらまた怒られるので必死に耐えたものの、結果的にかなり絞られた。

 やれ「真面目に行え」やら「お前は才能がある」やら。僕に才能がないことなんか一目瞭然だろうに。

 潜入もダメ、車の運転もダメ。狙撃やら何やら色々な分野があるもののその全てで最下位。

 僕ほどの弱者もなかなかいないだろうなぁ。

 

 確かに近接戦闘は、他に比べて少し得意ではあるが、それも自慢気に語るほどのことでもない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、特筆すべきことじゃないからね。

 見える道筋に沿って銃弾を撃てば誰でも命を奪えるし、ナイフをなぞれば誰でも殺せる。

 そんな()()()()()()()しか出来ないんだから。

 

 

 

    —月—日

 

 なんか知らないけど、教官に呼び出された。

 その先に行けばなんか大人がわらわらといて、何やら話している。

 そして、そこで僕に告げられた言葉は、自室に戻ってきた今でもハッキリ覚えている。

 

「今度、キミにはとある子と模擬戦闘をしてもらいたい」だと。

 

 ———んぬぁーにが「してもらいたい」だ! 「してもらう」の間違いだろブラック上司が!!

 

 てかなんで僕なのさ? 僕以外にもいっぱいいるだろ僕以上のが!

 成績ドベの僕なんかじゃなくてさー、ほらあの子……なんだっけ? ああそうそうあの子、サードですらない今の段階でもう既に将来セカンドやファーストに上がるであろうと言われてる《春川 フキ(・・ ・・)》とかいう天才っ子もいるじゃん!

 

 なーーんで僕なのさ。もう全てが憎いよ。ふぁっきゅーまざーふぁ⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎(ピーーーー)

 

 

 

    —月—日

 

 ……とうとうこの日が来てしまった。

 名も知らぬ少女との模擬戦闘もとい公開処刑。非常に憂鬱です。

 いつもは、その日の日記はその日の終わりに書いてるんだけど、今はまだお昼時。これから行う状態であります。

 この鬱憤を新しいうちに書き溜めるべく、いつもとは違う時間にこうしてわざわざ日記を書いているというわけだぁ!

 あ、とうとう呼ばれてしまった。はぁ……行くか。

 死なないように頑張って負けてくるであります。

 

 

 

 結論。

 友達が出来ました。

 

 まず最初に、僕の対戦相手は多分、人間じゃありませんでした。

 ビックリしたよホント。だって銃弾を相手に向かってパァンって打ったらさ、それを()()()()()()()()()()()()()。フィクションの産物でしょあんなの。

 もうその時点でこりゃ勝てねえなと思ったものの、大人の目がガンギまってて怖かったから必死にやったよ。もう人殺す目をしてたよ。まあリコリスって人殺す仕事だけど。

 そうやって死に物狂いでやってたらさ、なんか対戦相手の僕を見る目が変わったんだ。なんかこう、嬉しさというか、もはや歓喜の目というか。

 それまでは真面目ながらも何かすこし諦めが見えたその目が、光を浴びて僕を初めて写したような、そんな目。

 結局僕が負けたものの、なんか終わってからその子に名前やら何やらいろいろ聞かれて、挙げ句の果てに言われたわけですよ。

「友達になろう」って。

 

 

 その言葉がすっごく嬉しかったよ。

 今までなんの才能も無く、どの科目でもドベドベで、最低(マイナス)だった僕に、友達になろうなんて言ってくれる子がいたんだから。

 そしてそんな子と、友達になれたんだからさ。

 

 そうしてそうこうしているうちに名乗られたわけですよその子に。僕はもう絶対に忘れないように心の日記にも刻もうとその名前をよく聞きました。

 へぇ、《錦木(にしきぎ) 千束(ちさと)》って言うんだぁ。どこかで聞いたことある名前だなぁ……。

 

 ……え? まさか、あの《錦木 千束》?

 ファーストリコリスどころか、史上最高のリコリスになるだろうって噂の?

 ———へ?

 

 そこで思考が止まったよ僕は。

 今でこそこうやって日記を書いているけど、多分数分はフリーズしてた。とんでもない奴と友達になってしまったなぁって。

 

 ……あ、ちなみになんか僕、サードリコリスになるそうです。錦木千束とペアで。

 

 ……ぷぇ。

 

 

 

———年—月—日

 

 いやはや、時が経つのは早いものよ。なんせ僕も明日ついにセカンドに昇格とのことだから。ついこないだまでドベドベだった僕が、今では正規のセカンドリコリスでござるよ。

 え、千束? 決まってるでしょ、とっくにファーストだよ。もう慣れすぎて今更驚かんよ。

 僕がセカンドになれたのは、千束のおかげであり、千束のせいでもあるね。断言できる。

 なぜなら、多分僕は千束がいなけりゃどこかの任務で死んでいたからである。それほどまでに千束は凄かった。今まですごいと思ってた子達が霞むぐらいにはもう。

 ただし、そんな屈指のファーストリコリス様と相棒を組んでいたせいで、僕の練度にあっていない危険な任務がよく回ってくるようになった。

 何度「千束(おまえ)一人でよくないか」と思ったことやら。

 

 ……ただ、最近千束の様子がおかしい。

 公私の時間、昼夜問わず、時折心臓を抑えるようになった。特に、今まで当然の如くしてきたバケモンじみた動きした後なんかは顕著である。ということで、明日詳しく検査することになった。

 なんともないといいな、千束は僕のたった一人の親友だからさ。

 

 

 

 

 

 

 ——次のページは、水滴の跡と震えた文字により読むことが出来ない

 

 

 

 

 

 

    —月—日

 

 千束が心臓の病気だった

 詳しいことはわからないけどもう長くは生きれないって

 千束の誕生日祝いたかったのに

 千束と相棒になってうれしくて、もうすぐで1年経つから

 千束の誕生日も近いし一緒にお祝いしたいって

 1日泣いたのに、昨日は日記もまともに書けないくらい泣いたのに

 また、出てきた 止まらない

 

 

 

 ——この後はまた、文字が崩れており読むことが出来ない

 

 

 

 

 

    —月—日

 

 しばらく日記を書いていなかったが、今日からまた書き始める。どうやら千束の病気が治せるかもしれないらしい。

 詳しいことは何もわからないけど、千束が「もしかしたらまた一緒に過ごせるかもしれない」って。

 でも、そのための手術がかなり難しいらしく千束自身も少し不安だって言ってた。

 

 だから僕は、頑張って笑顔を作って千束に言った。「絶対大丈夫だ」って。

 本当は僕も凄く不安だ。もし失敗したらどうしよう、千束ともう会えなくなったらどうしよう……って。

 でも、今日まで千束は泣いている僕を励ましてくれた。千束本人の方が絶対辛いはずなのに、自分がもう生きれないと言うのに彼女は泣き言も言わないで僕を励ましてくれた。

 だから今度は、僕が彼女に寄り添う番だ。

 

 彼女が不安そうにするたび、何度でも言ってあげた。「絶対大丈夫」「また一緒に遊べるよ」って。

 そう言うたびに千束は笑顔になって、それが僕も嬉しかった。実際どれだけ彼女の不安が取り除けたのかは分からない。けど、千束は「ありがとう、もう大丈夫」って、いつもの笑顔を僕に見せてくれた。

 

 僕の親友は、本当に最高だと思う。

 この子の為なら、僕はなんだって出来そうだ。

 

 

 

    —月—日

 

 どうやら、手術は無事に成功した()()()

 らしい、というのは、僕はその現場に立ち入っていないからである。

 どうやら本部は、錦木 千束(最高のリコリス)がしばらく抜けた分、その穴埋めに必死らしい。7歳にも満たない女の子の穴埋めにここまで必死になるとか、組織形態としてどうかと思うが、それほど彼女がすごいと言うことで無理やり納得しておいた。

 まあつまりは、その穴埋めでセカンドの僕もしっかり駆り出されたと言うわけでございます。そりゃ当然ごねたかったよ。僕は今だに失敗ばかり、千束がいなきゃ何も出来ない役立たずなんだから。

 だけど、やめた。千束(しんゆう)が頑張ってる中で、彼女の相棒として弱音を吐きたくなかったから。

 

 ああ、任務は成功したよ。僕はしっかりと標的の首を取ることに成功した。

 ———まあ、指揮は出来ないから他の子に丸投げしたし他にもミスをやらかして上司にこってり絞られたけど。

「やっぱりお前は錦木がいないとダメだな」って言われた。喜べばいいのやら悲しめばいいやら。

 

 明日は早く千束の所に行く。そのために早く寝よう。

 

 

 

    —月—日

 

 千束は元気そうだった。昨日手術したのが信じられないくらいには。というか、運動しようとして看護師に止められてた。当然だと思う。

 千束は、フクロウが書かれたチャームを大事そうにしていた。どうやら、自分を助けてくれた人を“救世主”と慕っていて、そのフクロウをその人からもらったらしい。

 彼女は、「私も誰かの救世主になりたい」と語った。とても優しい彼女らしい、いい願いだと思う。

 

 けどさ、千束。既に僕は君に凄く救われてるんだよ。

 今から目指す必要もないくらい、君は僕にとってどうしようもなく“救世主”なんだよ。

 

 

 ……本人には言わないけど。小っ恥ずかしいし。

 

 

 

   —月—日

 

 今日は千束の誕生日。

 この間までは、もう祝えないと思っていたが、今日こうやって千束の誕生をお祝いすることができた。

 千束には、赤色の髪留めをプレゼントした。それを本当に嬉しそうな顔をして僕から受け取った千束は、自身の髪に早速それを取り付けた。

 思った通り彼女には赤色が良く似合う。ファーストが見に纏う赤色の制服と合わせれば誰がどう見ても、赤色モチーフの可愛らしい女の子だろう

 

 そうして喜んでもらえて良かったなぁと思っていると、反対に今度は千束が僕にプレゼントをくれた。僕の誕生日は今日じゃない……というか、全然違うと言ったが、どうやら相棒になって一年くらい経つから、その記念で彼女も僕に何かプレゼントしたかったらしい。

 そう言えば彼女が病気だと分かる前、そんなこと言ってたっけ。今見返したら、日記にもしっかり書いてあったよ。

 

 ———彼女の病気が助かったのは、奇跡だと思った。

 偶然彼女を救うことのできる人が、偶然彼女の前に現れただけだと。

 

 でも違った。これはきっと必然だったのだ。

 だって、こんな僕なんかにここまで嬉しそうに接してくれて、楽しそうに祝ってくれるようないい子が、あんな簡単に死んで良い訳ないんだから。

 彼女の心臓病(マイナス)が、彼女の強すぎる運命力(プラス)をもってして、プラスマイナスゼロになっただけなんだと。

 そしてこれから、彼女の輝かしい未来(プラス)が待っているんだと。

 

 そんなことを僕は今、この日記を綴りながら考える。

 彼女からもらった、世界一大事な紺色の髪飾りを付けて。

 

 

 

    —月—日

 

 あれから千束は実弾銃を使わず、ゴム弾を使うようになった。今までも、優しい千束は極力無意味な殺しはしなかったけど、“救世主”に憧れる今やそれはゼロになった。

「誰かを救う人になりたいから、誰かの命を奪うのは嫌だ」といって、敵も味方も誰も殺さないように動くようになったのだ。

 本部の人間は、大人も子供も飾って千束を異物扱いするようになったし、そんな甘くはいかないと怒られることも多くなったが、流石は千束と言うべきか。

 その信条を完全に守りながらも、任務は完璧以上にこなしていったのである。

 護衛任務では次々と襲ってくる敵達をゴム弾を駆使して全滅(きぜつ)させ、標的の殺害任務では対象の意識を奪ったあとは本部に送りつけていた。

 そうやって、異物ながらも任務を完璧にこなしていくうちに、表立って千束への不満を挙げる声は少なくなっていった。

 

 ちなみに僕もゴム弾を使うことにした。

 千束に習って僕も不殺を志してみることにしたのだ。確かに僕も、人を殺すことにはあまり賛成じゃなかったし、千束にも勧められたからである。

 ただ、僕は自分の実力にあまり自信がないため、一応使い慣れている実弾銃も持っておくことにしよう。

 

 

———年—月—日

 

 今日は本当に疲れた。

 明日詳しく書こう。

 

 

 

    —月—日

 

 ほんとうにつかれた。

 何があったかって? 簡単だよ。テロリストどもが、電波塔を占拠しやがったんだよ。死ぬかと思ったし、死んでもおかしくなかった。

 いくら相棒が千束だからといってさ、いくら僕が千束の相棒だからといってさ、今回の任務は本当にバカだと思ったよ。7歳の女の子二人にテロリストが占拠している場所の防衛を命じるか? 普通に考えて。

 

 今回は断言できる。僕は千束がいなかったら死んでたね。

 千束が前に出て大立ち回りをしながら、僕は敵の隙をついて『殺す道筋』を頼りにヒットアンドアウェイ。

 本当に生きて帰れて良かった、死を何度覚悟したことか。

 

 ……ただ、ちょっと困ったことがある。千束と顔を合わせずらいのだ。理由は簡単で、僕がこの電波塔事件で実弾を使ってしまったからである。

 いつもの、なんちゃって裏社会とも呼べるような有象無象と違って、どっぷりその道に漬け込んだ手強い奴らばかりだったのだ。

 死を全く恐れていなかった訳ではないが、応戦までの判断や何やらの技術がかなり高く、このままだと僕や千束が危ないと思った。だからこそ、「やばい」と思った時に咄嗟に腰の実銃を抜いてしまったのだ。

 しかし、これはただの言い訳だ。千束と一緒に不殺(ころさず)の信条を守ると決めたのは僕自身なんだから。……あと、咄嗟に引き金を引いた時の千束の顔は……あまり思い出したく無いや。

 

 その結果撃たれた人はどうなったかって? 僕は殺す為の道筋が見えて、それをなぞるしか脳が無いんだ。言わなくても分かるだろう。

 ほとんど無意識的に放った実弾は、吸い込まれるように敵の脳天を貫いていったよ。

 そこからはほとんど覚えていない。たしかその後も実銃使い続けた筈だから、殺した数は積み重なっていったと思う。

 

 その後千束は、何も気にしていないように僕と接してくれたけど、親友だからこそ()()()理解(わか)()()()()()。あれは演技であると。

 千束は優しいから、親友の僕を責めないでくれているんだ。だけど、()()()()()()()不殺(ころさず)を破った僕に複雑な気持ちを抱えているんだ。

 

 ……ああ、きょうはほんとうにつかれたなぁ

 

 

 

   —月—日

 

 あれから千束とはまともに会えないまま数日が過ぎてしまった。そんな中、僕と千束は上官に呼ばれていた。

 

 どうやら、僕の電波塔での活躍を顧みて、セカンドからファーストリコリスに昇格させるらしい。

 ……今までだったら、千束とようやく並べたと喜んだだろうが、今の僕はそれどころじゃ無い。早く千束と話したいと、そう思うばかりだった。

 それと、こうも言われた。

「ファースト同士でコンビを組むような贅沢なことをする余裕は今のリコリスには無い。だからお前達はコンビを解消し、それぞれ新たなリコリスと組んでもらう」だと。

 

 ふざけるな。僕は千束以外と組む気はない。

 そもそも、確かにファーストの数は少ないものの、そこまで切羽詰まった状況になるほどというわけでは無い筈だ。というか、ファースト同士のコンビも、前例なんていくらでもあるだろう。

 

 明らかに何か別の意図がある。そう思って声を荒げようとした。……けど———

 

———なんで千束は、反対してくれなかったんだ。

 まるで僕の言葉を遮るように、「わかりました」って

 ………なんでなのさ、千束

 

 

 

   —月—日

 

 千束が、DAを離れることになった。僕たちの教官だったミカ先生も連れて、支部に転属らしい。

 僕も誘われたよ、一緒に行こうって。当然二つ返事で承諾したかったけど、僕はまだあの時のことを千束に何も言えていない。

 まだなんて言うべきかはっきりとは分からない。だけど少なくとも、彼女に着いていくのなら有耶無耶にしては行けないと思う。だからこう返した、「明日までに答えを出す」って。

 千束は笑って、待ってくれると言った。だから今日は必死に考えよう。

 千束に何を言うべきか、そして僕はついていくのか、DA(ここ)に残るのかを。

 

 ———と、ここまで書いたら、部屋の扉をたたかれた。来客みたいだが、こんな時間に一体誰だろうか?

 この続きは戻ってから綴ろう。

 

 

 

 ———最悪だ。

 返す言葉は決まったけど……いや、もう……今日は寝よう

 

 

 

   —月—日

 

 千束にハッキリと伝えた。僕は、()()()()()()()()()

 ……千束は少し悲しそうにした後「そっか」と呟いてから、いつものように笑って「じゃあ、バラバラになっちゃうけど元気でね」と言ってくれた。その様子は少し無理をしてるように感じ、そんな千束の顔を見た瞬間、僕の心はまるでガラスにヒビが入ったように、少しだけ悲鳴を上げたように感じた

 

 ……昨日楠木司令に言われた。

「二人のファーストをまとめて一つの支部に送れるわけがないだろう。不殺を勝手に掲げた、扱い難い千束には許可を与えたが、お前はDA(こちら)に残れ。もし断るのなら、千束が支部に行くのを認めないがどうする」

 

 ……本当に最悪だ。

 彼女の為に何でもできると思ったのに、彼女の為に出来る一番のことが、彼女から離れることなのだから。

 

 千束もきっと、DAにウンザリしていたのだろう。

 彼女ほどの傑物が、左遷なんかされるわけが無い。本部側も、僕に言った通り最高のリコリスを好き好んで手放すわけがない。

 つまりこの転属は他でも無い彼女自身の意思だ。理由なんか、考えなくても分かる。優しい彼女がここを離れる理由なんか。

 きっと千束は、支部に行っても不殺を続けるだろう。むしろ、本部と違って止める人がいない支部(そこ)では、その信条が遺憾無く発揮されるだろう。だからこそ、彼女の移動は邪魔をするべきではない。

 つまり、彼女の為に僕が出来る最適解は、DA(ここ)に残って千束の分も働くことなんだ。

 

 司令にはこうも言われた。

「お前はファーストに上がるが、それに差し当たってゴム弾の使用を禁ずる。お前がファーストになれたのは、お前が標的を本気で殺す場合の殺傷力が、ファーストに相応しいと評価されたからだ。千束と違い、ゴム弾などで不殺()()()をしているお前にファーストリコリスとしての価値は無い」と。

 ああ、僕はどうやら思ったよりも本部に評価されていたらしい。僕自身は特に優れているとは思っていなかったが、その評価は千束に並ぶファーストの座を手にする事ができるほどだったみたいだ。

 

 そして、その座を手にする事ができたおかげ(せい)で、僕は千束との約束を破ることになってしまった。

 

 再び、ガラスが割れるような音が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

———年—月—日

 

 ファーストになって、どれくらい経っただろう。

 あれから僕は、基本的に相棒(ペア)を作る事なく、一人で任務にあたるようになっていた。理由はいくつかある。

 

 まず、僕の技能が特殊である事。

 あれから理解したのだが、どうやら普通の人は、相手を殺すことのできる道筋が見えないらしいのだ。

 千束は何も言わなかったのだが、あれは彼女も出来たからなのか、それとも気を遣ってくれたからなのか、脳足りんな僕では答えを得る事ができなかった。

 まあ、つまり()()()()()()()()()()()()()()()、その他の技能はサードリコリスにも劣るような極端(ピーキー)な性能の僕が、他の誰かとペアを組んだところで、お互いの強みを消し合うだけだと評価された。

 そしてそんな状況になって初めて、こんな僕なんかと文句も言わずペアを組んでいた千束の凄さを本当の意味で実感した。ただそれは果たして、動きにくいなどという僕に対する不満を感じてはいたけど、彼女の優しさから僕には言わなかっただけなのか、それともそんなのをそもそも気にならない程彼女がハイスペックだったのか。

 千束のことに関しては結局ほとんど、悩むだけ悩んで答えが出ないままだなぁ僕は。

 まあ、脳足りん(マイナス)な僕にはそれが普通か。

 

 それと、千束と離れてから僕は夢を見るようになった。その夢の中では、千束が僕に指を刺して、【嘘つき】と言っていた。

 ……彼女はそんなこと僕に言わない。言う訳がないと、声を荒げてキレたけど、結局はこれは僕が自分で見てる夢だ。いくらそんなことをしても気分は良くならず、夢から目覚めるとただただ虚しいだけだった。

 

 

 

   —月—日

 

 ……最近、夢の住民が増えた。それは、この間僕が殺した敵だった。彼らは僕に指さして、夢の千束とは違う言葉を僕にぶつけてくる。【人殺し】と。

 今までは敵を殺しても、別に良い気分はしないものの「任務だから」と割り切れていた。

 しかし千束と別れてからは、人を撃つ音が、ナイフで切る感覚が。

 人の命を奪うと言う行為がとても怖く感じるようになった。血を見ると背筋が冷たくなった。

 敏感だったはずの自身の五感が、その瞬間だけ少し遠くなったように感じた。

 

 そして変わらず僕は言われ続けるのだ。【嘘つき】【人殺し】と。

 

 ごめん、千束。

 

 

 

   —月—日

 

 人を殺すことに忌避感を覚えて来て、任務のノイズとなり始めた頃、一つ閃いた事があった。意味の無い殺しを忌避するのであれば、その死に()()()()()()()()()()()()のだと。

 誰かが彼ら彼女らをしっかりと覚えていれば、殺した人間の生と死に意味を与えたことになるのでは無いかと。

 

 だからこそ僕はその日から、殺した人間の遺品の中からなるべく小さいかつ大事そうな物を回収し保管。また、本部に帰ってからは殺した相手の名前を調べてもらい、それらをこの日記の最後のページに記すことにした。

 

 千束は言っていた。「自分が人を殺さないのは、ただそうしたいから」だと。

 だから僕も「したいからしてるだけ」である。この行動に深い意味もなければ論理的行動でも無い。

 

 ただそれでも、少し僕の心は休まったような()()()()

 

 

 

———年—月—日

 

 今日は、本当に何年かぶりに僕にペアが出来た。その人はセカンドの子らしく、そして僕よりも年上だった。年齢的には、もう高校生になるくらいだ。

 僕の年齢はまだ………えーっと、あれ? 確か十———ちょっとだったはずだ。10は超えたはずだし、15は迎えてなかったはず。まあつまり、僕よりも結構歳が上であった。

 しかし彼女は全然そんな事を気にせず、むしろ僕に尊敬の目を向けて来た。なんでも「僅か7歳で旧電波塔をたった二人で守った小さな英雄の片翼。東京でも1、2位の腕前を持つ()()なリコリスと共に行動できるなんてとても嬉しい」だとか。

 噂というのは恐ろしいものだ。火のないところになんとやらとはいうものの、(うそ)(ほんと)と勘違いしつつ、さらに勝手に神輿にするもんだから。馬鹿馬鹿しすぎて否定する気も出なかった。東京で1、2位の腕前? 優秀なリコリス?

 何をねごと言ってるんだろう。無能(マイナス)な僕の噂にしては事実無根すぎて笑えてくるよ。確かに電波塔を守った少女の片方は、凄く優秀だし東京1の実力者だろう。けどそれは僕じゃ無い。

 

 ……ただ、その目があまりにも敬意と好意を含んだ綺麗な目だったから、僕は何も言い返すことができなかった。そして、ほっといても別に害はないと諦めることにした。

 

 やっぱり僕は【嘘つき】だ。もはや笑い声が出てくるよ。

 

 そして相変わらず、今でも夢を見る。夢の住民は、任務の度に増えるばかりだ。

 

 

 

   —月—日

 

 ペアになった人と、軽く演習をした。僕と模擬戦闘をしたり、任務の際のお互いの動きを打ち合わせをしたりなどなど。

 ただ、僕の《殺す道筋》は所謂直感であり、理論的な要素はない為、誰かに教えるのは無理だし、他の分野では歴としたセカンドリコリスの彼女に僕が教えれることは何もない。だからこそ、模擬戦闘はひたすら僕が彼女の急所を突いていく半分イジメのようなものになってしまった。

 また、任務の打ち合わせといっても僕の任務はほぼ全てが対象の殺害であり、それも《殺す道筋》の見える僕一人でやった方が効率が良い為、車の運転や周囲の確認など、半分雑用のような事を頼むことになってしまった。これは果たして相棒関係と呼べるのだろうか。

 ただ、彼女はとても純粋だったようで、模擬戦闘も僕の殺しの技術に「すごいすごい」と言っていたし、打ち合わせも「全力で頑張ります」と元気たっぷりに答えていた。

 

 上官が彼女を僕のペアにした理由がわかった気がする。セカンドになれるほど優秀で、僕に敬意を持っていて、何よりチョロい。まさに僕にピッタリの人選だと言えるだろう。少しだけ本部に感謝した。

 

 

   —月—日

 

 彼女と初めて任務に出て分かったが、彼女はとても優秀だった。

 彼女がいるお陰で僕は対象を殺すことに集中できるし、行き帰りも誰かを待ったり徒歩で帰る必要もなく、彼女が運転する車の後ろでゆっくり休める。

 便利……というと少し言い方は悪いかもしれないが、いかんせん使い勝手が良い。———無能(マイナス)の僕が誰かに上から目線で評価するなんて、死にたくなってくるが。

 初任務を終えて、彼女とペアになって良かったと実感できた。彼女自身も「ファーストリコリスの仕事ぶりを見学できて良い経験になりました」と言ってたし、しばらくは彼女とペアを組んで任務をするのも悪くないだろう。

 

 ちなみに、死者の遺品と名前を残す僕の様子に彼女は疑問を浮かべていた。確かに、僕たちが殺したのは悪人であり、悪人を殺している自分達は正しい事をしている言えるだろう。そして、幼い頃から()()()()()()()()()()()()()

 だから僕は「どんな人間であれ生きた証を残すことが人として大事なことだと思ってるんだ」と、嘘と本当を混ぜて濁して説明した。

 あくまでそうあるべきだと()()()()()だけであって、僕は心からそう()()()()()わけではない。むしろ、気持ち悪さを紛らわせたいという実に利己的な理由が本音であるからこそ、よく回る舌だと自分で思った。

 これは僕の信条であり身勝手だから押し付けるつもりはないと説明したら「先輩はとても優しい人なんですね、悪人のことも思いやれるなんて」と言われた。

 

 ……違う。だからこれは僕が苦しみたくないからやってるだけの自己満足だ。評価されることではないし、賞賛されるべき事でもない。

 そんな風に、素直に、純粋に僕の事を思ってくれる相棒の彼女に、僕の頭ではかつての相棒の姿が重なった。

 

 ———この人も、千束と一緒なんだろう。

 誰かの事を思い、心の底から気遣うことのできる優しい人なんだろう。だって、こんなマイナスの僕にも彼女たちは、心の底から心配してくれて、骨の髄まで僕を気遣ってくれる優しい人たちなんだから。

 

 これからも、この()()()()()と任務をやっていくのが少し楽しみになって来た。

 

 

 

   —月—日

 

 相棒が死んだ。

 僕以外の子達と、別の任務に出かけている最中に呆気なく死んだ。

 爆発に巻き込まれて亡くなったらしい。身体の半分が吹き飛んでいた。

 クリーナーに頼んで、彼女の遺品を受け取った。彼女がいつも左手にしていたミサンガだ。

 どうやら爆発の衝撃で一度千切れてしまったらしく、一見するとただの紐にしか見えない。

 

 ミサンガとは、奇跡を願い乞うための願掛けのようなものであり、それが切れた時は願いが叶う時であると言われている。

 しかし、このミサンガは彼女が死んだ爆発で切れた。つまり、切れた際に叶ったのは、奇跡とは程遠いクソみたいな現実だったということだ。

 本当にクソだ。これほど僕に似合う最悪(マイナス)は中々無い。彼女が死んだ事も、そしてこのミサンガ(マイナス)が僕に届いたのも、天が授けた奇跡だとでも言うのだろうか。

 

 ()()()()()

 ()()()()()

 ()()()()()

 

 

 

 ゆめのなかに、かのじょもでてくるようになった

 

 

———年—月—日

 

 あの日から、味方(リコリス)の子達も夢に出てくるようになった。

 僕はペアを組んでいないからと言って、別に任務を全て完全に単独で行なっているわけでは無い。むしろ僕の任務遂行の邪魔をする敵達の妨害役として出されるリコリスも少なく無いわけだ。

 そして、そんなリコリス達も当然無事に済むわけは無い。

 流れ弾に当たって死んだ子。味方を庇ってしまい死んだ子。僕の奇襲のために陽動役をして死んだ子。本部から駒扱いされ意味もなく死んだ子。

 僕が受けた任務で一緒になったリコリスが、そしてそれにより死んだ人たちがこぞって夢に出てくるようになった。

 

 相棒(あのひと)が死んでから、僕は予想以上に堪えていたらしい。今まで以上にリコリスの生死を気にするようになった。

 そして死んでしまったら、こうして夢の仲間入りするほどである。だからだろう、僕は今やリコリスの人達の遺品も集めるようになった。敵と同じく、彼女らの死に意味を与えるために。僕の心のおもりを軽くするために。

 そう、僕は止まれない。敵を殺す事以外、僕がファーストで居続ける方法はないんだから。他の何もかもがダメダメで最悪(マイナス)だからこそ、この長所を全力で遂行し続けなきゃいけないんだから。

 

 

 

 ———誰のために……?

 

 

 

———年—月—日

 

 今日、達成した任務の数が歴代トップになったらしい。そして、それに伴って殺した人間の数もトップであると言う事を理解してしまった。

 僕が1位(トップ)か……。これは本来喜ぶべき事なのだろう。本部の人達も、僕の事を《史上最優(・・)》のリコリスだと僕に言って来た。

 

 ———人を殺して得た歴代一位の称号。

 これを彼女が知ったら果たしてどう思うだろうか。僕の事を軽蔑するだろうか。それとももう親友ではなくなってしまうのだろうか。

 本部の人間は褒めてくれたのに、僕は目の前が真っ暗になった。今までの行動が、その意味が、全て裏返ってしまったのだから。

 

 ———いや、ちがう

 彼女のためだなんだ言っても、結局それをして来たのは僕自身だ。

 最初からわかってたはずだろ、彼女の為だと自分に言い聞かせてしてきた今までの行動は、全て()()()()()()()()()()()()()()()()くらい。

 

 ———はじめからわかっていたことだったんだ

 

 ぼくのしてきたことは、ぜんぶ()()()()()()()()()()

 

 ぜんぶはじめから

 

 

 

 

 わるいのは、ぼくだったんだって

 

 

 ぼくは、しじょうさいていのマイナスだったんだ

 

 

 

   —がつ—にち

 

 いままではとくにきにしてなくむひょうじょうだったけど、つねにえがおでいるようになった。

(今までは特に気にしてなく無表情だったけど、常に笑顔で居るようになった。)

 

 といっても、なかなかうまくえがおができず、すこしのじかんかがみでれんしゅうした。

(といっても、中々うまく笑顔ができず、少しの時間鏡で練習した。)

 

 なんというか、こうかくはあがっているけどめがわらっていなくて、へらへらとしたきもちわるいかおになった。

(何というか、口角は上がっているけど目が笑っていなくて、ヘラヘラとした気持ち悪い顔になった。)

 

 えがおなんていうしごくかんたんなことができないなんて、とことんぼくはまいなすらしい。

(笑顔なんていう至極簡単な事ができないなんて、とことん僕は無能(マイナス)らしい。)

 

 

 

   —がつ—にち

 

 ぼくというまいなすなんかにはちかよらないほうがそのひとのためだとおもって、しつもんしてきたりこりすをけりとばした。

(僕というマイナスなんかには近寄らない方がその人のためだと思って、質問して来たリコリスを蹴り飛ばした。)

 

 このあいだれんしゅうしたえがおのままけりとばしたら、みんなぼくからきょりをとってくるようになった。

(この間練習した笑顔のまま蹴り飛ばしたら、みんな僕から距離をとってくるようになった。」

 

 いわく、【きみがわるい】らしい。いみがよくわからないな。

(曰く、【きみがわるい】らしい。意味がよくわからないな?)

 

 

 

   —がつ—にち

 

 あれから、あうりこりすぜんいんにけんおのたぐいのめでみられるようになった。これでいい。

(あれから、会うリコリス全員に嫌悪の類の目で見られるようになった。これでいい。)

 

 

 

   —がつ—にち

 

 にんむちゅうはげんちょうがきこえはじめてきた。きみがわるいきみがわるいだのといったものだ。

(任務中は幻聴が聞こえ始めて来た。きみがわるいきみがわるいだのといったものだ。)

 

 それに、てのひらにはつねにあかいちがべっとりついている。げんかくもついからしい。

(それに、手の平には常に赤い血がベットリ付いている。幻覚も追加らしい。)

 

 ゆめではたくさんのひとが、ぼくをゆびさしてうそつきうそつきいってくる。

(夢ではたくさんの人が、僕を指さして嘘つき嘘つき言ってくる。)

 

 けど、べつにいい。ぼくのしごとはひとをころすことなんだから。ぼくがぜんぶわるいんだから。

(けど、別に良い。僕の仕事は人を殺す事なんだから。僕が全部悪いんだから。)

 

 

   —がつ—にち

 

 きょうくすのきしれいに「かわったなおまえ」っていわれた。ひとはかわるものですよ?ってかえしたら、しぶいかおになった。

(今日楠木司令に「変わったなお前」って言われた。人は変わるものですよ?って返したら、渋い顔になった。)

 

 

 

   —がつ—にち

 

 ほんぶにまさかのちさとがきてた。どうやらけんこうしんだんとたいりょくそくていにきたようで、そのようすがとおめからみえた。

(本部にまさかの千束が来てた。どうやら健康診断と体力測定に来たようで、その様子が遠目から見えた。)

 

 そういえばちさとがこっちにくるたびに、ぼくはにんむやらなにやらでふざいだったから、あのひからあってないとおもいひさびさにこえをかけようかとおもった。

(そういえば千束が本部(こっち)に来る度に、僕は任務やら何やらで不在だったから、あの日から会ってないと思い久々に声を掛けようかと思った。)

 

 やっぱり、やめた。かのじょにぼくなんかがいまさらこえをかけたところで、いったいなんのいみがあるってんだ。

(やっぱり、やめた。彼女(プラス)僕なんか(マイナス)が今更声をかけたところで、一体何の意味があるってんだ。)

 

 それにかのじょはなにもかわっていなかった。かのじょとあっていたらしいふきがいうには、まだだれもころさないでそのしんじょうをつらぬきつづけているらしく、やはりかのじょはとてもつよいひとだった。

(それに彼女は何も変わっていなかった。彼女と会っていたらしいフキが言うには、まだ誰も殺さないでその信条を貫き続けているらしく、やはり彼女はとても強い人(プラス)だった。)

 

 あと、どうやらぼくなんかとあえないことをざんねんがっていたらしい。どこまでもやさしいな、かのじょはやっぱり。

(あと、どうやら僕なんかと会えない事を残念がっていたらしい。どこまでも優しいな、彼女はやっぱり。)

 

 

 

   —がつ—にち

 

 きょうもころす。だれかのために。だれかを。

(今日も殺す。他人(だれか)の為に。他人(だれか)を。)

 

 あたまがいたい。

(あたまがいたい。)

 

 からだがおもい。

(からだがおもい。)

 

 えんぎだったはずのえがおは、はりついてかえられなくなった。

(えんぎだったはずのえがおは、はりついてかえられなくなった。)

 

 だれもちかづけさせないようしてきたぼうりょくは、あたりまえのようにでるようになった。

(だれもちかづけさせないようしてきたぼうりょくは、あたりまえのようにでるようになった。)

 

 だれもぼくにちかづかなくなった。

(だれもぼくにちかづかなくなった。)

 

 

 

 ああ

 

 きみがわるい

 きみがわるい

 きみがわるい

 

 

 

 きみがわるい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「———標的補足」

 

 夜の闇に紛れて、遠くから標的を視認する。標的は街頭にわずかに照らされた公園のベンチで、誰かと電話をしているようだった。

 僕は今回も()()()()()、社会の安寧に仇なす敵を排除すべく、任務を遂行していた。

 ……いや、いつも通りと言えない点が一つあった。それは、()()()が潜んでいた点である。任務のためにこの近辺についた瞬間、僕は謎の勢力から突然奇襲されたのだ。

 

 人数は10人前後であり、それ自体はよくある事であったが、そいつらは今までの半グレ裏社会モドキどもとはいろいろと違った。かなり訓練されていたようであり、銃の狙いの正確さやそいつら同士の動きはまさに熟練のそれといったものだった。

 僕はそんなに目がいいわけではないため、そいつらの見た目や()()なんかは見えなかった。ただまあ、そこに人がいるという気配さえわかれば、あとは何となく【殺す道筋】が見えるため殺す事自体はそう苦ではなかったけど。

 そして殺したあとは標的がすぐ移動しようとしたため、見失う訳にはいかずその死体を適当な茂みに放り投げた。標的を始末したら、また遺品回収をするために帰ってこようと、そう思って。

 

 あとそういえば、そいつらは僕がどう動くのか想定外だったようで、わずかに乱れた作戦の隙をつく事が出来た。しかしそれは、裏を返せば僕がどう動くのか()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということだ。

 

 そんな、奴らの軍隊めいた動きについて僕はすごい既視感を覚えた。自分はこのような集団を知っている気がすると———

 

 

 

「……いや、今は任務に集中しよう」

 

 考える時間なんて帰ってから腐るほどある。僕は今や常に一人でいるため、誰かに思考の邪魔をされることはないだろう。

 

 そうして、銃の照準を標的の頭に合わせる。標的の電話相手が誰かはわからないが、その表情はかなり穏やかであり、特に激しい動きもなかったので狙いは容易だった。

 ゆっくりと僕は、引き金を引く。その重さをしっかりと噛み締め、殺人の罪を背負うように、ゆっくりと。引き金を引いた瞬間、再び心が軋む音がする。それはいつものことであり、表情は笑顔が張り付いたまま微塵も動かない。

 放たれた銃弾は、僕の視界にある線を綺麗になぞっていき、寸分の狂いもなく合わせた照準の部分に吸い込まれるように突き刺さった。

 

「いぎゅ…っ?」

 

 銃に取り付けたサイレンサーは発砲音を極限まで小さくし、人一人の命を奪ったものとは思えないほど小さな音が静かに響く。やがてそれは夜の街に消えていき、そして標的の命は、周りの夜の街のように静かになった。

 

「………」

 

 標的を始末した僕は、いつも通り小さな遺品を一つ回収し保管するべくその標的に近付いた。死体はベンチにもたれかかるように座った状態になっており、脱力しきっていることで尻の位置が少しずつ前にズレていき、体勢が低くなって来ていた。

 電話中に突然力が抜けたことで、電話を持った右手はベンチに叩きつけられていたものの、少し傷が付く程度で済んでいた。

 

 そして遺品を探ろうと胸元を物色した、その瞬間———

 

『父さん? どうかしたの〜?』

 

 ———若い女の声が、電話から小さく聞こえて来た。

 

 ………父さん。つまり、電話の奥の女はこの標的の娘、ということだろう。

 

『父さ〜ん、おーい』

 

 そして僕が手を入れた胸元からは、一つの箱が出てくる。小さな箱は綺麗にラッピングされており、それだけで自分では無く誰かに向けた贈り物である事が容易に伺える。そしてそのリボンを解き、箱を開けると、中には二つのものが入っていた。

 

 中身は、『happy birthday 望美(のぞみ)』と書かれた一枚のカード、そして()()()()()()()()

 

『うーん、電波が悪いのかな〜? ねーぇお母さ〜ん、ちょっと———』

 

 

 その髪留めは僕がかつて、たった一人の親友にあげたものとそっくりだった。

 

(……なんで、その幸せを噛み締めて平和に過ごす事が出来なかったのさ)

 

 電話の様子から伺える、父の事が好きな娘と、仲のいい母親の存在。そしてこの男自身、娘の誕生日に髪留めを贈る優しい父親であるという事実。

 穏やかな日常を過ごすには、十分過ぎる要素であるはずだ。しかしこの男はそれをわかっていながらも、人を苦しめる仕事を裏で行なっていたのだ。

 

「……ままならないなぁ」

 

 通話を切り電源を落とす。そして、彼の贈り物の中からカードだけを抜き取り、その場を後にした。髪留めだけがなくなって、カードのみが箱に入っているより、プレゼントだけが入っていた方が不自然ではないだろうと。

 そう考えながら、カードをポケットにしまったその瞬間———

 

「———っ!!?」

 

 

 こちらに向かって銃が撃たれた。しかしそれは全くと言っていいほど照準があっておらず、遠くの木に当たったようだった。

 

 撃たれた、僕が。新たな、敵襲? それとも、第三者だろうか。

 いろいろな可能性が頭に浮かぶものの、ひとまず銃口の先にただ立っているのは危険だと思いすぐさま近くの木を障害物にして隠れる。敵襲が一人とは限らないため、別の角度からの襲撃も考え姿勢を低くし辺りの様子を伺う。

 そしてその状態でしばらく時が経つ。30秒か、1分か。はたまた実際は数秒しか経過していないのか。

 

 それだけの時が経っても、いつもは見えるはずの【殺す道筋】は全く見えない。今までの経験上、銃で打たれたのならその先に向かって伸びて見えてもおかしく無いのにである。

 僕は、この異能とも呼べる直感に関しては信頼している。この技能がなければ今まで何十回と死んでいてもおかしくなかったためである。

 

 敵を【殺す道筋】か見えるということは、そのルートをなぞれば確実に殺せるということであり、裏を返せば()()()()()()()()()()()()()()()()である……と僕は考えている。何故なら、僕がそのルートに従って動いている限り、何故か敵の放った銃弾は僕に被弾する事がないからである。

 千束のように見て避けるなんてことは出来ないものの、それに近しいことはこの技能のおかげで今まで幾度となくやって来ているのだ。

 つまり、道筋が見えないということは、殺すべき相手はもうそこにいないか、もしくは()()()()()()()()ということである。

 

 だからこそ少し警戒しながらも、僕は木の影から身体を表すと、銃が打たれた方向へ一歩、二歩と近づいていった。

 自身の足跡だけが暗闇に響く中、不意に足元に一人の人間の気配、もとい()()が現れた。

 

「火薬の匂い、それと少なくない血の匂い。どちらもこの人間からだ」

 

 その場には一人の人間の死体があった。よく見えないが、流血をしていることから先ほど僕に奇襲して来た人間の一人だろう。

 

「……殺し損ねたのか。久々だね、こんな失態は」

 

 血の匂い、そして今はもう既に死んでいることから僕がコイツに致命傷を与えていたことは間違いない。しかし()()()()()()()()()()()コイツはギリギリ生き残ったようだ。

 

「しかしその時にはもう既に意識が朦朧としていたのだろう。なんとか身体を引きずりながら僕の後をついて来たコイツは、最後の力を振り絞って僕に向かって銃を打った……ってところかな」

 

 なんという執念だろうか、もはや怨念ともすら呼べる。この底意地は元来のこの人の性分なのだろうか、それとも訓練によって鍛えられたものなのだろうか。

 仮にそれが後者なのだとしたら、先ほどの軍隊めいた部分などからも、この人にそれを教えた奴らからは狂気すらも垣間見える。

 

「やっぱ似てるんだよな……どことなく、()()と」

 

 呟きながら僕は手元にあるライトでその死体を照らす。僕の任務は殺害などの暗殺が多い関係上、基本暗闇の中で行う事が多い。その為、遺品を漁るための小さな電灯を常に僕は携帯しているのだ。

 だからこそ、なんの気兼ねもなく僕はその人間のことを照らした。

 

 

 

 それが、最大の間違いだったことを知らずに。

 

 

 

「———え…………はっ?」

 

 そこには、一人の死体があった。その死体はまだ若く、本来ならば平和の中安全で気儘に暮らしているべき年齢の少年だった。

 その少年の死体はまるで軍服のような物を纏っており、今までの想像通りこの少年は軍隊めいたものに所属していたのだろう。

 

 ———ただ、()()()()()()()()()()()()

 ———そんなことは()()()()()()

 

 

 ———問題は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということだ。

 

 

 

「う……そ、だ…?」

 

 

 

 見覚えのあったその軍服。

 それは、自身もよく知る部隊———否。

 

()()()()()D()A()()()()()()()()()()()()………

 

 

「リリ……ベル…??」

 

 

 自身ら、女性のみのエージェントであるリコリスと()()()()、男性のみのエージェントが集う特殊部隊が纏うはずの服であった。

 

 

 

 

 ———リリベルとは、DA所属の男性エージェントが集う特殊部隊の名前であり、一言でまとめるならば『男版リコリス』である。

 

 リコリスの強みが、相手に警戒されにくい姿であることを利用した暗殺向きのエージェントだとするならば、リリベルの強みは体格の強い男であることを利用した白兵戦向きである点が挙げられる。

 そのため、より警戒されにくくするために、リコリスの制服は学校の制服に類似した姿だが、リリベルは最初から戦闘に重きを置いているため、リコリスと違って軍服に近い服装が特徴である。

 

 そんなリリベルだが、ただのリコリスはその存在すら認知していない。訓練や任務を共にするなんてことはまず無く、男版リコリスとはいうものの、そんなリコリスとリリベルが実際に会うことなどはまず無い。自分もその存在を知ったのは、ファーストになってからである。それほどまでに自分達からしたら、謎に包まれた部隊であるのだ。

 

 

 昔、ファーストに上がった時に、楠木司令からその存在と同時に制服のデザインも見せてもらったのを覚えている。自分達リコリスとは違い、戦闘が前提に作られたようなその作りに少し興味を持ったものだ。

 

 

 その時に見たリリベルの制服のデザインはそう———まるで目の前の死体が身に纏っている服のような……

 

 

「ま…まさ、か??」

 

 

 そこで()()()()()()が頭によぎる。

 

 この人は、僕が先ほど戦った者たちの生き残りではなかったか…と。

 

 そんな筈はない。そんな筈は……ない…のだ。

 

 その人は身体を引きずって来たようで、後ろには彼から流れた血液で道が出来上がっている。

 

 それを辿るように、足を動かす。そんな筈はない…と、まるで機械のように、頭の中で繰り返しながら。

 

「そんなはずは、そんなはずは」

 

 進むのが怖い。

 

 だって、既にわかっていたから。

 

 頭や口先では否定しながらも、僕の頭は既に答えを導き出していた。

 

 分かっていたからこそ、僕の足はこんなにも重かったのだから。

 

 

「あ……あぁ、嘘だ、うそだうそだうそだうそだ」

 

 

 そして僕が足を止めた場所は。

 その血の道を辿った先は。

 

 絶望が扉を開いたその果ては。

 

 

 先ほど僕が死体を放り投げた茂みであった。

 

 そしてそこには、乱雑に投げられた()()()()()()()()()()()()()()()の死体が散乱していた。

 

 

「あ…ああああああ」

 

 

 ようやく気付いた、軍隊めいた集団への違和感———もとい、既視感の正体。

 

 当然だ。なんせ彼らは、自分がよく知るどころか、自分自身も所属している組織(D A)の人間なのだから。

 

 

 味方である筈の彼らを自分の手で直接殺した。

 

 それは、リコリスを見殺しにするのとは訳が違う。

 

 明確な殺意を持って彼等を殺したのだ。

 

 

 

 その後、本部にどうやって帰ったのかは覚えていない。

 呆然と、おぼつかない足取りでひたすら歩いて、気付いたら本部にいたことだけが———僕の記憶に残っていた。

 

 

 

 

 

 

「くすのき……司令」

 

「……なんだ?」

 

「本日の……任務の概要、なのですが」

 

「……」

 

 聞かなければならないと思った。

 

 今回の任務について、本当のことを。

 

「今回の任務の最中……リリベルと思わしき部隊と交戦しました」

 

「……そうか、それで?」

 

「そのリリベルたちは僕に向かって、()()()()()()()()()襲って来たように感じました」

 

「………」

 

「任務中のファーストリコリスである僕への妨害行為、目的は……一目瞭然、考えるまでもありません」

 

 今回リリベルがいたことは、何かの間違いだと。

 

 何か、上での手違いがあっただけなのだと。

 

「おそらく目的は……僕の殺害。標的を守る様子も、僕のように始末するそぶりもなく、彼等はただ僕を()()()()()()あそこにいたと考えられます」

 

 ただ僕は、否定して欲しかった。

 

 楠木司令は、冷静沈着な人だが冷酷な人ではない。

 

 言動からは分かりにくいものの、その言葉の端々に僕らへ対する愛情が垣間見える優しい人だ。

 

「僕にはどうしてもそうとしか考えられないんです。だから……だから———」

 

 だからこそ、この人が()()()()()()()()()()()()と。

 

 他に何か、理由があるはずだと。

 

「だから教えてください、司令! どうして彼等(リリベル)はあの時あそこに居たのか、彼等に降っていた指令はいったい———「時として」

 

「し……司令…?」

 

 ハッキリと、違うと言って欲しかっただけ……だったのに。

 

「人を殺す我々の任務には時として、知らなくていい事が山ほどある」

 

 ただ、自分の考えを()()()()()()と否定して欲しかっただけだったのに。

 

「今回もそうだ。リリベルが何故そこにいたか? 我々(リコリス)とリリベルは、同じDAでもほとんど別組織だ、知らないことなど山ほどある。()()()()()()()()()()()……な」

 

「しれ…い、それ……はつまり…?」

 

「あくまでお前に向けられたという殺意も、お前が感じただけであり証拠はない。ただ、一つ言えることは……D()A()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……それだけだ」

 

「———あ、あ…」

 

 

 ラジアータとは、DAが所有する人工頭脳———AIのことであり、あらゆる犯罪に関する情報を取り扱うDAの主軸だ。

 

 

 つまり今回の接敵はラジアータが、すなわちDA本部が下した命令で間違いはないということであり、明確に言葉にせずとも僕の予想への肯定の意を表す、決定的な言葉だった。

 

 

 

 

 

 

 

 僕は……何が悪かったんだろう。

 

 

 千束に並ぶために僕ができる唯一の特技は、千束の一番嫌いな事で。

 

 久々に出来た千束以来の相棒は、僕のいないとこで死んでしまって。

 

 僕なんかに近づけさせないためとはいえ、仲間に簡単に暴力を振るって。

 

 千束のためにやっている行動は、全部千束の嫌いな事ばっかだ。

 

 

 みんなが口を揃えて僕のことを、『きみがわるい』———『()()()()』と言ってくる。

 

 そうだ、僕が全て悪い。そうに違いないんだ。

 

 

 

 

 

『———それは何故?』

 

 

 

 

 

 その疑問を発したのは誰か。

 今自分は自室におり、一人部屋のここには他に誰もいない。

 

 明らかにおかしいその声。

 しかし、今の僕にはそこまで気にしている余裕はなかった。

 

 

 だって僕に出来る唯一の特技は人を殺せるこの直感、《殺す道筋》だけで、それは千束の嫌いなことだ。

『———たとえそうであってもそれはキミの長所だ。蔑むべきものじゃない。むしろ誇るべきものだよ。』

 

 

 新しく出来た相棒は、僕と組んですぐ簡単に死んじゃって。

『———それはキミが関与しない別任務でのことだろう? キミがした間違いじゃない。』

 

 

 仲間のリコリスに暴力まで振るって。

『———それは彼女たちを思ってのことだ。キミだけはそれを知っているのなら、キミだけはそれを後悔しちゃダメさ。』

 

 千束が嫌っていることばっかやっていて、何が千束の為だ。

『———そもそも疑問なんだけどさ。』

 

 

 

 

 

 

『何故キミは、錦木千束の為にばかり行動しているんだい?』

 

 

 

 

 

 ———え?

 

 

『キミは口を開けば千束の為、千束の為って、キミは彼女の親か何か? 千束はすごい人だ。彼女なら、()()()()()が助けなくてもやっていけるだろうさ』

 

 で……でも、僕がここで働いていないと、彼女は支部から戻されちゃうから。

 

 

『彼女なら大丈夫だろうさ。この間の体力測定も少し見ただろう、彼女はなにも変わらず強いままだったじゃないか。』

 

 で、でも。

 

『彼女なら、キミの助けなんかなくても何とか支部に入れる方法を探せるだろう。彼女の人となりから得られた人脈なり何なりを使ってね。』

 

 

 そ……そんな…ことは、でも。

 

 

 

 

『キミがいくら『僕が悪い』と言い続けても、ボクは何度でもそれを否定してあげよう。』

 

『キミがいくら自分の欠点を挙げ続けても、ボクはそれを長所だと教え続けよう。』

 

『そして、ボクだけは何度でもこう言ってあげるさ。』

 

 

『『キミは悪くない』ってね。』

 

 

 

 

 

 そんな……今更そんな———

 

 

「そんな訳ないだろう!!!?」

 

 声を荒げる。

 腹の底から怒りを吐き出す。

 

「僕は悪くない!!? そんなハズはない!!」

『キミは悪くない。そんなハズがないハズがない』

 

「僕は今までたくさん殺した!! 殺人は、絶対やってはいけない事だ!!」

『キミのそれによって今の表の安寧は存在する。それに任務だった事だ。『キミは悪くない』。』

 

「仲間であるリコリスをたくさん見殺しにした!! 標的を殺す為に、わざと囮にした!!」

『彼女らはリコリスであり、いつか死ぬことを理解して自覚していた。囮に使ったのも本部の任務ゆえだ、『キミは悪くない』。』

 

「うそだ! うそだうそだうそだ!!」

『うそじゃない、うそじゃないうそじゃない、ほんとだ。『キミは悪くない』。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ……じゃあ、さ———」

 

 僕の今までの苦労は…何だったのさ。

 

 僕が今までして来た事は……意味がなかったの…?

 

 

 

『キミに一つ、助言してあげよう。』

 

 

『人間は無意味に生まれて』

『無関係に生きて』

『無価値に死ぬのさ』

『キミだけじゃなく、この世の全ての人間の行動に』

 

 

 

 

『最初から意味なんて存在しないんだよ。』

 

 

 

 ……………………あ……あ

 

 

 

『そもそも、キミは一つ勘違いしている。』

『キミは自分が悪いと何度も何度も言い続けている。』

『しかし、じゃあ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?』

『キミがしていた行動全て自分が悪いと言うのなら、悪いのは無意識に従っていた———というより、()()()()()()()()()()()()()()()じゃあないのかい?』

 

 行動の…理由?

 

 

『簡単さ』

 

 

 

 

『DAだよ。』

 

 

 

 ———え

 

 

『だってそうだろう?』

『キミが自身の罪だと吐露するそれは、全てDAがキミに下した任務が原因じゃないか。』

『今回のリリベルの件なんかそれが特に顕著だ。まさに、上層部の闇とやらがビンビンだっただろう。』

『なら悪いのはDA、間違いないだろ?』

『ちなみにボクは嫌いだね。』

『だってアイツら、気持ち悪いし。』

 

 

 ———でもそんなわけ。

 

 

『そしてもう一つ、悪いのはD()A()()()()()()()

『キミの殺しの才能を見出した教官も』

『キミのその才能に憧れを抱いたリコリスも』

『キミに殺されるような悪いことをしていた悪人どもも』

『キミの殺しの才能を利用していた本部の人間たちも』

『キミに守られてなきゃ簡単に死んでしまう二代目相棒も』

『キミを殺しにやって返り討ちにあったリリベルも』

 

 

『だれも』『かれも』『あれも』『それも』『これも』『どれも』

『どいつも』『こいつも』『あいつも』『そいつも』

 

 

『楠木司令も』

 

『春川フキも』

 

『そして、錦木 千束も』

 

 

『みーんなわるいんだよ?』

 

 

 

 ……………そ、そう………なの……?

 

 …………僕は……悪く…ない………の?

 

 

 もう、限界だった。

 限界まで張り詰めていた僕の心は。

 

 

『そうだよ、何度も言ってるだろ?』

 

 

 その悪魔の、甘言に。

 

『『キミは悪くない』って』

 

 

 簡単に絆されてしまった。

 

 

 

 

「僕は……………悪くなかったんだ」

 

 

 

 

 そして———

 

 

 

 そして———

 

 

 

 

『そう、だからさ———』

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「————————————え」

 

 

 

 悪魔は、そこから笑っていた。

 

『キミがこれまでに壊した人間(もの)や壊した物体(もの)は二度と元の形には戻らないのに』

 

 

 悪魔は、底から嘲笑(わら)っていた。

 

『のうのうと改心なんてフツーはできるわけないからさ』

 

 

 享楽(わら)っていた。愉悦(わら)っていた。

 

『でも、キミがそんなことをすっかり忘れて』

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 その悪魔は、心の底から美味(わら)っていた。

 

 

 

 ———僕……は、そんな……つもり…じゃ

 

『何が違うんだい?』

『だってキミは今いったじゃないか』

『僕は悪くなかったんだーって』

『それってつまり』

『自分の過去を開き直ろうとしたってことじゃないか』

『キミって、思ったより()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 ———うそ…だ

 

 

 

 

 

『あは! という冗談でしたー!』

『大丈夫だよ、安心して』

『ボクは知ってるからさ』

『キミはどうしようもなく最低なやつだってことを』

『キミはどうしようもなく無能なやつだってことを』

 

『キミの限りないその欠点(マイナス)を、ボクはしっかりと理解しているから』

 

 

『大丈夫だよ、『キミは悪くない』』

『その開き直るクソみたいな性格(マイナス)も全て』

『余すことのないキミの欠点(ちょうしょ)なんだからさ』

『どうしようもない【大嘘つき】で』

『【手のひら翻し】が優れた』

『そんなキミという過負荷(マイナス)を大事にして』

『その長所と個性という自分らしさを誇りに思って』

 

 

 

 

 

 

 

『キミはキミのまま、明るい明日を踏み出そうじゃないか!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ———その時だった。ついにその時が来てしまった。

 

 絆されて開きかけた、ボロボロの心は。

 

 歪んで、ヒビの入った、ガラスのように砕けそうだったその心は。

 

 

 

 

 

 

 —————————————あ

 

 

 音を立てて、コナゴナに壊れ果ててしまったのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ア"ア"あ"ァア"ア"あ"ァア"あ"あ"ア"ああァあァああアアアアアァああアアアあァァアあァァぁ—————」

 

 

 

 

 

 

『うんうんーその叫び声、すっごく『気味が悪い』ねぇ』

 

 

『気味が悪い気味が悪い気味が悪い気味が悪い気味が悪い気味が悪い気味が悪い気味が悪い』

 

『気味が悪くて』

 

 

『いい気味だ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 きみがわるい

 

 

 きみがわるい

 

 

 きみがわるい

 

 

 

 

 そうだ、すべて、さいしょから

 

 わるいのは、きみだったんだ

 

 きみがわるい

 気味が悪い

 君が悪い

 

 

 先輩(きみ)が悪い

 後輩(きみ)が悪い

 教官(きみ)が悪い

 本部(きみ)が悪い

 (きみ)が悪い

 友人(きみ)が悪い

 他人(きみ)が悪い

 恋人(きみ)が悪い

 親友(きみ)が悪い

 リコリス(きみ)が悪い

 リリベル(きみ)が悪い

 DA(きみ)が悪い

 楠木司令(きみ)が悪い

 春川フキ(きみ)が悪い

 錦木千束(きみ)が悪い

 

 

 全て(きみ)が悪い

 

 

 

「そうだったんだ」

 

 

 もうすべてがどうでもいい。

 だって、わるいのはすべてなんだから。

 

 あれもこれもそれもどれも

 

 ぜんぶがわるい

 

 

 ———そして

 

 

 そして

 

 

 

 

『僕は悪くない』

 

 

 

 心の底から気味の悪い笑顔でそう言うのと同時に。

 

 

 僕は、胸に押し付けた銃の引き金を躊躇なく引いた。

 

 

 

 

 そして、僕の見た最後の景色は———

 

 

 世界一大事にしていた紺色の髪飾りに、僕の血の赤が染まっていき。

 

 

 

 

 

 僕に残った最後のプラスが、混沌のようにドス黒く成り代わっていく様だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ふーん』

『これが今までの、()()()()()()()()()()かい?』

『こんな日記をわざわざ書いているなんて、マメな人間だったようだね』

『しかもこーんな()まで見るなんて。まるで今の僕に過去の自分を思い出させるようにさ』

 

『———ん? ああ、なんだい?

『もしかして、僕が何を言っているのかわからないって?』

『というより、死んだハズじゃないのかって?』

『バカだなー()()()は』

『死んでいたらこんなところにいるハズないじゃないか』

 

『答えは簡単だよ』

『僕はあの後、死にかけはしたけど()()()()()()()()のさ』

『僕が———というより()()が自殺未遂をしたあそこは』

()()()()()()()()だったんだよ?』

『そんな場所で銃声なんかしたら、誰か来ることくらいわかるだろうに』

『それにその前には一回大声で叫んでいるんだ』

『心の底から気味の悪い大声を、腹の底から絞り出してね』

 

『まあけど、撃ち抜いた場所は心臓部分だった』

『すぐに処置を施せたのは良いものの、急所を撃ち抜いた結果、結局は生死を彷徨ったのさ』

『聞けば、十何時間にも及ぶ大手術だったらしいよ?』

『本部の人間も、《歴代最優》のリコリスを自殺で失うのは惜しかったみたいだね』

『———ま、というわけで、僕は何とか助かったわけさ』

『これぞ、世紀の大復活という奴だね!』

『いやーさすがは僕だ。諦めが悪く醜いね!』

 

『まあ、お察しの人もいるかもしれないが、完全に無事って訳ではなくてね』

『ちょっとまあ、記憶をね』

『ポロッと失ってしまったわけさ』

『だからこそこうやって自分の日記を読んで』

『わざわざ過去の自分を振り返っていたわけさ』

『まあ日記には前日までしか書いてないから最終日は何があったのかよくわからなかったんだけどさ』

『わざわざ夢なんてもので教えてくれるなんて』

『日頃の行いのおかげかなー?』

 

 

『まあ、それにしてもだが』

『まったくもう僕ってば』

『その程度のことで根を上げるなんて』

『すっごくすごーく』

『情けない奴だったんだなぁーって』

『でもいーんだよ』

『僕はいつでも』

『そんなどーしようもない君を肯定してあげるから』

 

『人を殺すしか才能がなくて』

『それ以外のことはてんで出来なくて』

『役立たずな負け犬で』

『出来る技術(もの)も出来ない事実(こと)も』

『そのなーにもかもが』

『底冷えするほどのマイナスなキミを』

『肯定してあげるさ』

『僕が』

『僕だけが』

 

『錦木千束でもなく』

『春川フキでもなく』

『楠木司令でもなく』

 

『えーと』

『あとは誰がいたっけ?』

()()()()()()はーーっと』

 

 

『えーー…と、何々…』

 

『松浦 蓮でもなく』

『紅 結大朗でもなく』

『古家 雅空翔でもなく』

『崎 想那太でもなく』

『藤原 杏でもなく』

『虎川 絢魅でもなく』

『益見 阿幾子でもなく』

『西種子田 笑葉でもなく』

『村田 ナナミでもなく』

『後藤 富羽でもなく』

『小間物谷 ケンでもなく』

『柾 昌昌でもなく』

『平田 甘でもなく』

『内谷 勝久でもなく』

『四十八願 英一でもなく』

『岡崎 裕でもなく』

『白金 ヨリイチでもなく』

『廻 陽でもなく』

『光明 ちとやでもなく』

『安脇 真徳でもなく』

『泉崎 丈路でもなく』

『本多 ユキハルでもなく』

『中代 文景でもなく』

『宮下 咲霧でもなく』

『孟 そのあでもなく』

『金坂 羽でもなく』

『新阜 舞瑠亜でもなく』

『藤田 士でもなく』

『柴草 未有でもなく』

『肥前麓 ハルナでもなく』

『中嶋 敬でもなく』

『盛坪 森羽でもなく』

『中原 耀でもなく』

『松本 雄大でもなく』

『四条 ナガトシでもなく』

『高路 とし子でもなく』

『関 真波でもなく』

『半村 萌望春でもなく』

『本田 竹四郎でもなく』

『男全 陽策でもなく』

『村田 遥斗でもなく』

『とまあ、こんなもんでいいかな?』

 

 

『キミが今までその手で殺した悪人でもなく』

『キミが今まで見殺しにしたリコリスでもない』

『他の誰でもないこの僕が』

『無価値で無能で無意味という君の個性を』

『ちゃーんと肯定してあげるからさ』

 

 

 

『———それにしても』

『殺した相手のことをいちいち覚えていないと精神が保てなかった弱さ(マイナス)も』

『逆に、()()()()()()()()()()()()()()歪み(マイナス)も』

『何もかもが狂ってて』

 

 

 

 

 

 

 

『すげぇ気持ち悪いなぁー、ドン引きするぜ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

———年—月—日

 

「標的の暗殺任務なんて、本部は物騒なものを命令するもんですなぁ」

 

 私は錦木千束、喫茶店『リコリコ』のかわいい看板娘! 別にこれは自称じゃないよ? 食べモグの口コミにもしっかりと書かれている、歴とした事実!!

 しかしそれは世を忍ぶ仮の姿。かわいい女の子である私の本当の姿は、実はとある組織に所属する優秀なエージェントなのだ!!

 

 とまあ、非常に分かりやすい自己紹介を誰かに向けてした私は、今回本部から出された任務をするべく現地へと向かっていた。

 

 

「千束さん。今回の任務は確か、暗殺任務のはずでは? なのに非殺傷弾(それ)を使うのですか?」

 

「分かってないようだね()()()。何度も言ってるでしょ、「いのちだいじに」って」

 

「敵を無闇に殺すなというのは理解しましたが、今回は標的を殺せという任務でしたよね。いいんですか?」

 

「ダイジョーブ、ちゃーんと眠らせて、無力化してから本部に送りつければ何も言ってこないから」

 

「そういうものですか」

 

「そういうものだよ! 実際これで何度もやってるし、 “経験者は語る”って奴だね」

 

 

 いや、()じゃなくて、()()()だったね。この子はたきな。最近出来た一個下の相棒で、すっごくかわいい子!

 

 

 今回私たちは、とある著名人を暗殺する任務を受けて、夜の道を歩いていた。暗殺という響きは、私はあまり好きではない。というか、人が死ぬこと自体私は嫌い……とまでは言い切らなくとも、あまり好ましいと思わない……が、これはかなり個人的な理由のため割愛する。

 まあ要するに私のモットーは「いのちだいじに」ということだ。

 だからと言って別にDAのやり方を否定する気は無い。実際今までちゃんと表の治安の維持をこれで行ってこれた事は知ってるから。

 

 これはあくまで私のわがまま。私がただ単に、人の命を大事にしていきたいってだけだ。誰かに強要するつもりは毛頭ない。どうせなら、みんなもいのちをだいじにして欲しいと思ってはいるけどね。

 

 

「……そういえば、しばらく()()()とは会ってないなぁ」

 

「あの子、ですか? それはもしかして、()()()()()()()()()()()()()()と言われている()()()()()()()ですか?」

 

「…え、英雄…? なに、私たちそんな風に言われてるの……?」

 

「本部のリコリスの間では有名な話です。……本人は知らなかったようですが」

 

「初耳だよぉ」

 

 英雄なんて、小っ恥ずかしい呼び名だ。それに結局壊れちゃったし、完全に守れたとは言い難い。そんな呼び名を冠すには、些か力不足だと思うなぁ。

 

「千束さんとその人は、かつて相棒(ペア)を組んでいたと聞きます。その両方ともファーストリコリスの腕前であり、任務の完全達成率も高く、歴代随一のペアであった……とか」

 

「うへー、脚色されてるねー」

 

「そうなのですか?」

 

「当時のあの子はまだファーストになってなかったし、そもそもペアを組んでた期間は1、2年ほどだよ。任務数がそもそも少ないから、割合が高くなるのは当然だよ」

 

 アハハっと笑い飛ばしながら当時の様子を振り返る。私と()()()、二人でペアを組んでいろんな任務をした事。

 そして私の病気が分かった時に誰よりも悲しんでくれて、治った時には誰よりも喜んでくれたとても優しい子。彼女は今でも、私のいちばんの()()だ。

 だからこそ、今でもこれは自信をもって言える。

 

「まあ、実際やってみないと分からないけどさ……あの子と一緒だったあの頃は、たとえ相手が誰だろうと()()()()()()()()()()()()()()()よ。それを考えたこともね」

 

 

 

「……と、そろそろ現地に着くね。まあ、過去は過去で、今私はたきなとペアを組んでるからさ。少なくとも今の私は、過去の私たちに負けるつもりもないよ?」

 

「慰めのつもりですか?」

 

「んにゃ、本心だよ。……あ、あそこに居るの、今回のターゲットじゃない?」

 

「……みたいです。帰宅途中でしょうか?」

 

「多分ね。見たところ時計を気にしてるみたいだし、タクシーでも待ってるんじゃないかな〜」

 

 思いの外、簡単に終わりそうだ。帰ったらなにをしようか……と、そんなことを考える。

 

 

 

 

 ———その瞬間だった。

 

 

 パァン!パアァンッ!!

 

「———な!?」

「———えっ!?」

 

 

 二発の銃声が響き渡った。その音は私たちの後ろから聞こえてきたため、私とたきなはすぐさまそちらへと振り向———こうとして。

 

「うぐぁッ??!」

 

 

「———え」

 

 

 ()()()()()()()()()()()、小さな呻き声のようなものが聞こえた。その音の出所は、振り向いた私たちの背後、つまりは前方ということ。そして、私たちの前方には何があった? ()()()()

 

「え……まさか…?」

 

 

 先ほどまで見ていた方向を再び振り返ると、そこには血を流し倒れ伏したターゲット達の姿が見えた。

 

「今の…だれが!?」

 

「私ではありません」

 

 

 そんなこと分かってる、音の出所はもっと後ろだ。

 私はそちらの方向を睨みつける。誰が出てきてもすぐ対処できるよう、非殺傷弾をそちらに構えて。

 そして、そちらから人影が姿を表す。その影は小さく、少なくとも大人ではない。

 

『暗い夜道を突っ立っていた男が』

『誰かからいきなり銃で撃たれてしまったようだね』

 

 

 その影に光が僅かに刺す。街灯が当たる場所に来たため、私たちの位置から見えるようになったその人物を見て、私は素っ頓狂な言葉を溢した。

 

「———え?」

 

『しかも両目を通過して脳みそを貫通するようにわざわざ狙って撃ち抜かれている』

『どんな人間だろうと、自殺で自身の両目を撃ち抜くなんて不可能だよ』

 

 

 聞き覚えのある声と僅かにズレた声色。

 見覚えのある姿と僅かにズレた容姿。

 

 何もかもが記憶の()()と一致しながらも、まるでパズルが足りないかのように、ズレているかのように()()()

 

『これは明らかに第三者の仕業に違いない』

『一体どういう目的があって、こんな面白半分の惨状を演出したのかはさっぱり分からないけれど』

 

 それでもわかる。理解できてしまう。

 

 

『この場にいる人間はわずか三人』

『また、銃弾はこちらの方向から飛んできた為、容疑者はその3人のみに絞られる』

『君たちはこの現状に驚いているから、おそらく違うのだろうね』

『となると犯人は、残ったもう一人で決定なのだろうけど』

 

 

 私たちの目の前に現れた彼女は、私の()()()()()()だ。

 私たちの目の前に現れたアイツは、私の()()()()()()()()だ。

 

 

『おおっと! 早とちりしないでおくれ』

『僕は確かに君たちの後ろに立ってはいるが』

『僕は今、やっとこさここに到着したばっかりなんだよ』

『だから』

 

 

 彼女は私の()()だ。

 アイツは誰だ。私は知らない。

 

 矛盾する二つの言葉が頭の中で叫んでいる。

 相反する二つの感情に私の心が悲鳴をあげる。

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()

『だって、()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 硝煙の立ち上る銃をその手に持ちながらも、まるで当然のようにすっとぼけるその女に向かって、私は自身の親友の名前を大声で口にあげた。

 

 

「球磨川……禊!!?」

 

『千束ちゃん久しぶりっ』

『僕だよ』

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

【挿絵表示】

 

 




ここまで読んでくださりありがとうございます。

前書きでも書いた通り、あくまでこれはめだかボックスの《球磨川 禊》とは別人です。
あと、主人公の心を破壊した球磨川が身体を乗っ取ったわけでもないです。
主人公は完全に記憶喪失でございます。

なのでこの小説には
① 千束に脳を焼かれたネガティブオリ主。
② ①の心を壊した球磨川モドキ。
③ ①の心が壊れた結果、記憶喪失前の気味の悪い笑顔と行動が本性となってエミュしてるなんちゃって球磨川。
の3人がいる訳です。

ややこしいですね。



あと、日記を書き始めたのは設定的に5歳前後の筈なのですが、それにしてはオリ球磨川はかなり賢いです。なので“めちゃめちゃ早熟なだけ”、もしくは“記憶を引き継いでいなけど実は転生者”とでも考えておいてください。

挿絵は自作でほとんどトレスです。まじ疲れたんで二度と書きません。(切実)
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