マイナス・リコイル   作:sem.

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本当は続けるつもりはなかったんですが………


『Former best friend』

 

 

「時間だよー!」

 

「勝負だ勝負!」

 

 

「………」

 

 場所は喫茶リコリコ内。店を閉める時間帯となった現在、店内では馴染みの客達が閉店時間だというのに集まって騒いでいる。

 そんない(・)つ(・)も(・)の(・)光(・)景(・)が広がる中、千束は閉店の後片付けをしながらも昨日の任務の事について考えていた。といっても、考えているのは任務の概要などではなく、そこで出会った一人の親(・)友(・)だ(・)っ(・)た(・)ナ(・)ニ(・)カ(・)のことである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『僕は悪くない』

『だって、僕は悪くないんだから』

 

「…もしかしてあれは、先ほど言った———球磨川」

「……禊!!?」

 

 

『いいや、違う』

 

 親友の名前を叫んだ私を嗜めるかのように、目の前の彼女は人差し指をすっ…と上げると、真顔でこう言った。

 

 

『僕は球磨川禊じゃない』

『彼女の双子の妹の』

『球磨川雪(そそぎ)だ』

 

「……え、いも…うと?」

 

 

 そうハッキリと言った彼女の言葉に、信(・)じ(・)ら(・)れ(・)な(・)い(・)と思いながらも何処かで納(・)得(・)する自分がいた。

 禊に妹がいたなんて、一度も言われたことはない。しかし目の前の人物は、禊にどこからどう見てもそっくりなのに、何(・)も(・)か(・)も(・)が(・)違(・)う(・)と感じていたから。

 だからこそ私は彼女のその言葉に『もしかしたら本当に…?』と、縋(・)り(・)つ(・)こ(・)う(・)と(・)し(・)た(・)。

 

『……なーんてね嘘嘘っ!』

『引っかかったあ?』

『だいじょーぶ正解正解っ!』

『あってるよ大正解!』

『そーです僕が球磨川禊で——っす!』

『いやんっ!』

 

「……!!?」

 

 

 そんな薄っぺらい否定の言葉を聞いた私は一つの感想が頭に浮かぶ。

 それは、口先では自分を球磨川禊だと語る彼女について、やはりこ(・)れ(・)っ(・)ぽ(・)っ(・)ち(・)も(・)信(・)じ(・)ら(・)れ(・)な(・)い(・)ということ。それに、私は別に感受性に優れているわけではないが、それでも分かる。

 この女にはまるで、最初っから心がないみたいな———。

 

「た……たきな。あの子のこと、知ってたりする……!?」

 

 

 だからこそ、つい最近まで本部にいたたきなに、あの赤い制服を着た(ファーストリコリスの)女の子のことを聞こうとして———。

 

「はぁ———っ! はあっはあっ!!」

 

 

 銃を禊モドキに向けて構えながらも、身体を震わせるたきなの姿が目に入った。

 

 

「……えったきな? ど…どうしたの?」

 

「———本部のリコリスの間では有名な噂…です。球(・)磨(・)川(・)禊(・)さ(・)ん(・)に(・)つ(・)い(・)て(・)の(・)こ(・)と(・)は…」

 

「噂…?」

 

『え——っ?』

『なにそれなにそれー?』

『僕についての噂だってーっ?』

『気になる気になるー!』

『教えて——っ?』

 

「……意(・)味(・)の(・)無(・)い(・)任(・)務(・)を引き受け、理(・)由(・)の(・)な(・)い(・)善(・)意(・)と意(・)図(・)の(・)な(・)い(・)悪(・)意(・)で、関(・)係(・)の(・)な(・)い(・)人(・)達(・)をもメチャクチャに巻き込んでいっしょくたにかき混ぜ、全てを一瞬で台無しにする歴(・)代(・)で(・)最(・)も(・)最(・)低(・)最(・)悪(・)な(・)リ(・)コ(・)リ(・)ス(・)……だとか」

 

「———えっ……は?」

 

『えーっ??』

『ひっどくなーいちょっとー!』

『風評被害だーっ!』

 

 

 誰だそれは?

 本当にそれは私の親友《球磨川 禊》のことなのか??

 

 いや、そんなはずはない。

 

 私(・)の(・)知(・)る(・)球(・)磨(・)川(・)禊(・)は(・)そ(・)ん(・)な(・)こ(・)と(・)し(・)な(・)い(・)筈(・)だ(・)。

 

 

『にしても君、千束ちゃんのとこに新しく飛(・)ば(・)さ(・)れ(・)た(・)子(・)だっけ?』

 

「……私の事を知ってるんですか?」

 

『いーや?』

『君のことなんてこれっぽっちも知らないよ』

『自意識過剰ー!』

『けど一目見て分かるね』

『僕は見る目があるからさ』

『君はあれだ!』

『命令無視して仲間を殺そうとするタイプだね!』

『顔に書いてあるもん』

『命令無視楽しーっ!』

『味方殺しヒャッハーって』

 

「な! この———!」

 

『あは!』

『なーんて嘘嘘!』

『冗談冗談!』

『千束ちゃんとこに新しい子が入ったって聞いて』

『ちゃーんと前もって調べておいたんだよ!』

『エスパーじゃないんだからさー!』

『僕にそんなの分かるわけないじゃん?』

『僕偉くない?』

『事前に情報収集を欠かさないとか』

『エージェントの鏡って奴だね!』

 

「………!!」

 

『ところで』

 

 

 そう言うと禊は一歩ずつこちらに歩み寄ってきた。つかつかと真っ直ぐ、迷いなどなに一つない足取りでこちらに向かってくる。

 銃を構えていたたきなだったが、今の禊モドキの言葉で自身が支部(リコリコ)にやっくる原因となった《命令無視》を思い出してしまった事で、禊に向けていた銃を下げるしかなかった。

 

 

『君のその命令無視ってやつさ』

『もしかして何かあったんじゃないかい?』

『聞かせてごらん?』

『僕が慰めてあげよっかー?』

 

「……結構です。その必要はありません」

 

『ふーん』

『クール気取りってやつー?』

『うわーカッコイイねー』

『僕も一時期そーゆーの憧れたなー』

『具体的には中学二年生のとき』

 

「………」

 

『まあけど確かに』

『味方諸共銃をあれだけブッ放しておいて』

『誰かに慰めてもらえるなんて』

『そんな上手い話はないかー!』

 

「……ッ!! あなたに何が———」

 

「ちょちょ! そこまでにしよっか。二人とも」

 

 一触即発。今にも銃を撃ちそうになったたきなを嗜めるべく、二人の間に割って入る。

 正直まだ事態の把握はまるで出来ていない。ア(・)レ(・)は本当に、私の親友の球磨川禊なのか。何故彼女がここに居るのか。———何故わざわざ標的を殺したのか。色々知りたいことはある。

 それを一つずつ、禊本人に確かめるために、一旦二人の間を取り持つ事にした。

 

 

「……禊…だよね? 久々だね」

 

『うん!』

『千束ちゃん久々!』

『君(・)が(・)本(・)部(・)を(・)出(・)て(・)行(・)っ(・)た(・)ぶ(・)り(・)く(・)ら(・)い(・)かな?』

 

「…う…うん、そうだね」

 

 ……やっぱり、禊は怒(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)のだろうか。私が本部を抜けて出て行った事に。

 確かに私は出ていく際に、禊のことも誘った。「一緒に支部に行かないか」と。しかし、後から考えれば断られるのは当然なのだ。

 

 DAとは、私たちリコリスからしたら、自分を拾ってくれた親のような存在だ。リコリスの中には、DAを家族だと言っている子もいたほどだ。そんなところから出て行こうとするなんてまさしく“異端”。ともすれば、恩知らずと言えるほど。

 あの頃はそこまで考えつかなかったが、気が弱く、それでいてとても優しかった禊に、一緒について来いと言うのは酷な話だったのだ。

 

 

「……禊、やっぱさ…怒ってる…かな?」

 

『えー』

『何のこと?』

『僕は千束ちゃんに怒ったことなんて』

『ただの一度もないよ!』

『勿論、君を忘れた事もね!』

 

「そ…そっか!」

 

『うんうん当然さ!』

『ただまあ』

 

 

 

 

 

 

『千(・)束(・)ち(・)ゃ(・)ん(・)は(・)違(・)っ(・)た(・)み(・)た(・)い(・)だ(・)け(・)ど(・)ね(・)』

 

 

「———え?」

 

 

『まったく、ひどいよー千束ちゃん』

『僕はずっと君を覚えてたってのに』

『そんなに薄情だったなんて!』

 

「そ…そんなわけ無い! 私も禊のことはずっと覚えてた!」

 

 

 そうだ、彼女は私に取って数少ない心残りの一つだった。

 支部(リコリコ)にいる時は何度も何度も禊のことが頭によぎった。

 

 大事な親友で、気が弱くて自分のことをすぐ卑下する彼女のことは、リコリコにいた時からずっと心の片隅で気になっていた。だから本部に行った時は必ず、禊に会う為に彼女について聞いてまわっていた。

 しかし、楠木司令からは「任務に出ていて今ここにはいない」と帰ってくるばかり。私自身あまり本部に好んで来ようとは思えず、数少ない本部に来た時は総じて空振りだった。

 

 ただ、任務に元気に出れていること。そして、数多くの任務をこなす事で《歴代最優(・・・・)》と呼ばれる程に至っていたと聞いて「元気に過ごせているんだ!」と思ってあまり気にしないでいた。

 

 

「だって禊は、大事な親友だから!」

 

『…ふーん?』

『でも君さ』

『さ(・)っ(・)き(・)こ(・)う(・)言(・)っ(・)て(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)?』

 

 

 

 

 

 

 

『た(・)き(・)な(・)、(・)あ(・)の(・)子(・)の(・)こ(・)と(・)知(・)っ(・)て(・)る(・)?(・)って』

『まるで初めて会った人を』

『知ってるであろう彼女(たきな)に』

『僕の事を紹介してほしいみたいにさ』

 

「———あ そ…それ、は………」

 

『…なーんて!!』

『勿論冗談さ』

『わかってるよ僕は!』

『君は最初に僕の事をちゃーんと』

『《球磨川 禊》って呼んでくれたじゃんか』

『優しい君が僕の事を忘れていないだろうことは』

『あははっ!』

『最初から頭に入れてなかったよ?』

 

「………」

 

 

 言葉が出ない。

 出すべき言葉が見当たらない。

 

 

『それに僕最近よく言われるんだー』

『球磨川先輩変わりましたねーって』

『十数年振りくらいかな、君とは』

『確かになかなか気付かなくても不思議じゃ無いねー!』

『だから大丈夫!!』

『たとえ久々に会ったからだといっても』

『僕がいくら昔と変わって見えたからといっても』

『そ(・)れ(・)ら(・)が(・)理(・)由(・)で(・)確(・)信(・)が(・)持(・)て(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)と(・)し(・)て(・)も(・)』

『君はこれっぽっちも悪く無いさ!』

 

「………うぁっ」

 

 喉が痛い。

 肺が痛い。

 心が痛い。

 

 彼女の言葉ひとつひとつがとても痛く感じる。ひりひりと身体が叫んでいる。

 

 

「……球磨川…先(・)輩(・)、と呼ぶべきでしょうか」

 

『おや』

『どうしたんだいたきなちゃん?』

『そんな球(・)磨(・)川(・)先(・)輩(・)だなんて他人行儀な』

『ぜひ僕のことは『禊ちゃん』と』

『クールな君らしく』

『僕のようにカ(・)ッ(・)コ(・)つ(・)け(・)て(・)』

『馴々しく呼んでほしいなー?』

 

「……球磨川さんは、何故こんなところにいるんですか?」

 

『あれ』

『まさかの完全無視(フルシカト)??』

『ひどいよー』

『僕謹製のガラスのハートが砕けちゃうぜー』

 

「質問に答えてください。私たちに何の用があって来たんですか?」

 

 

 呆然としていた私の代わりに、たきなは質問する。それをのらりくらりと躱わす禊に少し怒りが湧いたのか、たきなの語気が僅かに強くなった。

 

 

『んー?』

『僕が』

『君たちに』

『何の用が』

『ねぇ———』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『別に無いけど。』

 

 

「…………」

 

『あー!』

『ひょっとして勘違いしてる?』

『僕がきみ達に会いに来たとか!』

『影から待ち伏せしてたとか!』

『さ!』

『うわ恥っずかしいー』

『ほんっと自意識過剰ー』

『どんだけ自己中な考え方してんのきみ達!』

『自分のことをそーんな重要人物だと思いながら日々を生きてるんだ』

『おもしろーい』

 

「———じゃあどうして、禊はここにいるのさ?」

 

「…千束さん、大丈夫ですか?」

 

「うん、もう大丈夫。ありがとね、たきな」

 

 

 少し頭が冷えた。色々考えるのは後でいい。

 禊は確かに変(・)わ(・)っ(・)て(・)し(・)ま(・)っ(・)た(・)のかもしれない。でも彼女が変(・)わ(・)ら(・)ず(・)私の親友であることは確かだ。だからこそ、今は彼女のことを変に警戒するのではなく、彼女から色々と聞きたい事を聞こう……と、そう考えた。

 

 

『えー』

『理由?』

『僕も仕事場がこの辺だっただけだよー?』

『近くにいたから、増援のために寄っただけさ』

 

「……そっか、それならいいんだけど———」

 

「証拠はありますか?」

 

「ちょっ、たきな!?」

 

「DAが出した任務だというのなら、それなりの根拠を出してください。偶然近場の任務だっただけにしては、いろいろと不自然ですから」

 

 

 ……確かにそうだ。そもそも今回の私たちの任務は、標的一名の暗殺のみだ。禊は本部で確か、《史上最優》のリコリスだとか言われていた覚えがある。そんな人材を、いくら近くにいたからと言ってそれだけの任務のために向かわせるのはどう考えても不自然だ。

 それに増援に来たのなら、本部を通して私たちに何か通達がなければおかしい。しかしそれがないということは、これは禊の勝手な行動の可能性がある。

 

 

『へぇ———』

『色々考えているみたいだねー』

『だけど残(・)念(・)!』

『僕が任務をしていたのは事実だよー?』

『だってほら!』

 

 そうして禊はスマホを操作し、その画面を私たちに見せて来た。依頼書でも写真に撮っていたのだろうか……と考えた私の脳みそは、そ(・)の(・)写(・)真(・)を(・)見(・)た(・)瞬(・)間(・)完(・)全(・)に(・)停(・)止(・)す(・)る(・)。

 

 

「———え」

 

 

『いやー』

『すごく苦労したな———っ!』

『こ(・)れ(・)ほ(・)ど(・)の(・)人(・)数(・)を(・)僕(・)一(・)人(・)に(・)相(・)手(・)さ(・)せ(・)る(・)な(・)ん(・)て(・)』

『本部も酷いことするものだよ!』

『いやーつかれたつかれた!』

 

 

 禊が見せて来たスマホの画面の中には。

 

 

 ———真(・)っ(・)赤(・)な(・)液(・)体(・)が(・)そ(・)こ(・)ら(・)中(・)に(・)散(・)乱(・)し(・)た(・)地(・)面(・)に(・)。

 

 

 ———数(・)十(・)人(・)の(・)男(・)達(・)の(・)死(・)体(・)が(・)転(・)が(・)っ(・)て(・)い(・)た(・)の(・)だ(・)か(・)ら(・)。

 

 

 

 もはやその光景は、地獄よりもドス黒いナ(・)ニ(・)カ(・)とも表現するような。

 

 悲惨で壮絶な惨状だった。

 

 

「……みそ、ぎ…? これ、は……」

 

「……悪趣味ですね」

 

『えー?』

『悪だなんてひっどいなー』

『僕らリコリスは正義のための組織だぜ?』

『だからせめて』

『正(・)義(・)趣(・)味(・)と言ってくれよ』

 

「………」

 

 

 

 《異常》。いや、そんな言葉すら生ぬるい。

 リコリスとして、今まで私は様々な人間を見て来た。中には犯罪者や、それに伴う異常者も多くおり、その数はゆうに100や200は超えるだろう。そしてそれは、たきなも同じだろう。

 しかし目の前の少女は、私たち二人がリコリスとして見て来た異常な人間達の誰(・)と(・)も(・)違(・)う(・)。

 

 

「……なんでここまでのことをしたのさ?」

 

『え?』

 

「禊なら、ここまで悲惨にしなくても任務を遂行できたはずでしょう……?」

 

『えー!』

『禊ならって千束ちゃん』

『僕のことそこまで信じてくれるんだー』

『うっれしいなー!』

『でもうーん』

『そっかー理由かー』

『弱ったなぁー』

『あ、そうだ!』

 

 

 

 

 

 

『この写真の奴らに両親を殺されたからってど(・)う(・)?』

『だから復讐に及んだみ(・)た(・)い(・)な(・)?』

『実の妹がコイツらに攫われたと(・)か(・)ー』

『親友だと信じてたこの人たちに裏切られたって(・)い(・)う(・)の(・)も(・)萌(・)え(・)る(・)よ(・)ね(・)ー』

『んー?』

『ど(・)れ(・)に(・)す(・)る(・)か(・)迷(・)う(・)な(・)あ(・)』

 

「「………っ——!」」

 

 

 私たちは理解させられた。禊があっけらかんと語ったその言葉に。

 

 禊が演出したこの惨状に理由なんて。

 

 意味なんてものは、ハナから無かったことに。

 

 

「……球磨川さん。あなたの行動は認められません」

 

「…え? たきな?」

 

『……?』

 

 そんな時、たきなが口を開いた。そして禊の言葉を否定する彼女に少し驚く。

 たきなも殺しをすることは必要であると考えていた筈だ。実際リコリコに来る原因となった事件では敵を銃火器で全滅していたらしく、私自身その銃の矛先で弾丸の雨を浴びていたのだから。

 

「リコリスは確かに人を殺す仕事ですが、それは社会の安寧のためであり、殺すという行為に快楽(りゆう)を持つことも、ましてや貴女のように理由を持つことすらないのは認められないのです」

 

「……たきな」

 

 

 その言葉になんとなく、たきなのあ(・)り(・)方(・)が分かった。彼女の行動理由は「悪人は殺すべき」であり、「それがリコリスの使命であり守るべきものである」という考え方の(・)み(・)で生きて来たんだろう。

 

 

「悪(・)人(・)を(・)殺(・)し(・)た(・)結(・)果(・)の安寧を求めるのがリコリス(わたしたち)の使命であり、その殺(・)す(・)と(・)い(・)う(・)行(・)動(・)自(・)体(・)に意味を持たせることもなんの意味もなく殺(・)す(・)と(・)い(・)う(・)こ(・)と(・)も正義(リコリス)として決してやってはいけないことです」

 

 不器用で効率的。

 クールで猪突猛進な性格。

 それが彼女なのだろう。

 

 

「……今回のことは一応本部にも知らせておきます。リコリスとして私は貴女のことを認めることは出来ませ———」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ———パアァン!

 

 

 

「———え」

 

「……な、」

 

 

 唐突だった。

 

 なんの前触れもなかった。

 

 禊(・)は(・)右(・)手(・)に(・)持(・)っ(・)て(・)い(・)た(・)拳(・)銃(・)を(・)。

 

 た(・)き(・)な(・)に(・)向(・)か(・)っ(・)て(・)な(・)ん(・)の(・)躊(・)躇(・)い(・)も(・)な(・)く(・)向(・)け(・)て(・)。

 

 そ(・)の(・)引(・)き(・)金(・)を(・)引(・)い(・)た(・)。

 

 た(・)き(・)な(・)の(・)腹(・)部(・)に(・)は(・)。

 

 赤(・)い(・)液(・)体(・)が(・)飛(・)び(・)散(・)っ(・)て(・)い(・)た(・)。

 

 

『へーえ』

『じゃ』

『何か分かりやすいものでも作るかい?』

『リコリス免許証みたいな?』

 

 

 ドサッと膝をつくたきな。

 

 

『味方なら攻撃されないと思った?』

『正義ヅラしてれば安全だと思った?』

『僕が君にとって千束(しりあい)の親友(しりあい)だから』

『おしゃべりの最中なら死なないと思った?』

 

 

 そしてそのまま力無く倒れ伏そうとするたきな。

 

 身体の力が失われているのがわかる。

 

 そんなたきなの顔全体に。

 

 たきなの顔全体で。

 

 

 

 

 

 

『甘ぇよ。』

 

 

 ———パアアァァン!!

 

 

 赤(・)色(・)の(・)液(・)体(・)が(・)。

 破(・)裂(・)し(・)た(・)よ(・)う(・)に(・)飛(・)び(・)散(・)っ(・)た(・)。

 

 

 

 

 

 

 

 ………た———

 

 

「たきなあぁぁぁァァァァァッッッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「———ゃーん?」

 

「………」

 

「千束ちゃーん?」

 

「あぁ! はいはいなんでございましょう!!?」

 

 

 昨日の任務で起きたことを思い出していると、千束は自身の名が呼ばれた事で咄嗟に返答する。

 

「ほらほら千束ちゃーん。どうしたのそんなとこで」

 

「いつもの一発決めてくれよ〜?」

 

「やっぱこれがないとね」

 

「始めるぞ、千束」

 

「…………なるほど、そんなに求められちゃあ仕方がありませんな。———コホン」

 

 

 

 

 

 

「それでは、リコリコ恒例閉店ボドゲ会スタートぉ!!」

 

 

「「「オォォ——————ッ!!!」」」

 

 

「締切明日って言ってたっすよね?」

 

「今日の私には関係ないし〜」

 

「よしましょう、仕事の話は」

 

「実は自分も勤務中で…」

 

「刑事さんワルだねぇ」

 

「早く始めましょうよ〜」

 

「じゃあ順番決めるぞぉ〜」

 

 

 閉店後だというのにも関わらず、店内には従業員以外の者達がまだおり、しかもボードゲームをこれから繰り広げようと盛り上がりを見せていた。例に漏れず千束もその一員の中にいるのだが、やはり昨(・)日(・)の(・)出(・)来(・)事(・)が脳裏によぎりイマイチ集中ができない。

 そんな自身の思いを払拭するためか、もしくはその枠組みから外れている相(・)棒(・)の(・)こ(・)と(・)を(・)思(・)っ(・)て(・)か(・)、千束はその相(・)棒(・)の(・)少(・)女(・)に声を掛けた。

 

 

「……ねぇ、た(・)き(・)な(・)も一緒にやろうよ。レジ締めなら私も手伝うからぁ」

 

「もう終わりました」

 

「はや!」

 

「レジ誤差ゼロ、ズレなしです」

 

「てことはもう暇でしょ〜?」

 

「たきなちゃ〜んほらおいでよ、こっちこっち」

 

 

 い(・)つ(・)も(・)通(・)り(・)の(・)様(・)子(・)で(・)淡(・)々(・)と(・)仕(・)事(・)を(・)こ(・)な(・)す(・)た(・)き(・)な(・)に、ボドゲで盛り上がっている常連達は声をかける。

 

 

「どうだ〜たきな?」

 

「いえ…結構です」

 

 

 しかしそれらの声に拒否の解答をしたたきなは、そのままの様子でスタスタと店裏に消えていった。

 

「おじさん多すぎなのかな〜?」

 

「恥ずかしいのよ。お年頃。」

 

「店で遊ぶほうがおかしいんだけどね」

 

「そうかぁ〜?」

 

 

「…………」

 

 

 そう言いながらゲームを始めようとする場の中で、千束はたきなのほうを見つめている。普段の自分だったら、たきなとも一緒になってやりたいと思い、誘(・)う(・)た(・)め(・)に(・)彼女を追っただろう。しかし今の千束は、そもそも今回はたきなと同じようにあまりゲームに意欲的ではなく、別のことがずっと頭を支配していた。

 

「……うーん、今日は私もパスで」

 

「あら、千束ちゃんも?」

 

「千束ちゃんがいないと盛り上がりにかけるな」

 

「ノリが悪いな、千束」

 

「あははっごめんごめん、明日はやるからさ!」

 

 

 そのため千束は自身も今回は見送るむねを伝えると、たきなの後を追うようにその場を離れた。

 向かった先では、たきなと先生が何か話しているのが見える。おそらくは「一緒にどうだ」的なことを伝えていたのだろう。相変わらずお節介で優しい人だと考えながら千束は割り込むようにたきなに話しかける。

 

「ねぇ〜たきな」

 

「…なんです? ゲームには混ざりませんよ」

 

「あ〜違う違う。実は今日は私も抜けて来てさ」

 

「……珍しいですね」

 

「あ、明日もあるんだけどそっちはどう?」

 

「明日は定休日ですよ、着替えるので」

 

「いやいや違うの、待って待って」

 

 

 こちらを振り向くことなく返答しながら扉を閉めようとするたきなを静止させるように肩を軽く掴む。それだけで扉を閉めようとしたたきなの動きは止まり、こちらを振り向いた。

 

「……なんですか、千束さん」

 

「うーん…ちょっと聞きたいことがあって。禊(・)の(・)こ(・)と(・)…なんだけどさぁ」

 

 

 そう言いにくそうに伝えてきた千束に、たきなは僅かに目を見開いたまま言葉を返した。

 

「……言っておきますが、彼女とわたしはあれが初対面です。今まで一度も会ったことないですから、彼女のことはあまり知りませんよ」

 

「いやいや、まあそう慌てなさんな。わたしが聞きたいのは、禊の噂(・)のことだよ。ほら、たきな言ってたじゃん。リ(・)コ(・)リ(・)ス(・)で(・)は(・)有(・)名(・)な(・)噂(・)だって」

 

「そのことですか…」

 

「………うん」

 

「……」

 

 

 そんな私の言葉に、たきなは少し考えるように指を顎に置く。横にいる先生も、私から聞いた昨日の禊の———私たちの知る《球磨川 禊(・・・ ・)》ら(・)し(・)か(・)ら(・)ぬ(・)様子が気になっているようで、黙ってたきなを見つめていた。

 

 

「……私はこれから着替えるので、少しだけ」

 

 そう言って扉に手をかけたたきなは———

 

 

「少なくとも、球(・)磨(・)川(・)禊(・)が(・)噂(・)通(・)り(・)の(・)人(・)物(・)だ(・)っ(・)た(・)の(・)な(・)ら(・)、ア(・)レ(・)が(・)実(・)銃(・)だ(・)っ(・)た(・)可(・)能(・)性(・)も(・)充(・)分(・)あ(・)り(・)得(・)ま(・)し(・)た(・)。本部での彼女の噂とは、そんな感じなのばかりです」

 

「……そっ、か………」

 

「………」

 

 

 そう言いながら、たきなは新(・)し(・)く(・)頭(・)部(・)に(・)出(・)来(・)た(・)湿(・)布(・)を気にするように軽く触れる。僅かにその傷は青くなってはいたものの、生活には全く支障のない軽傷だった。

 

 

「それともう一つ」

 

 

 そういいながらたきなは、軽く頭部に触れていた右手を下ろしながらこちらから背を向けると———。

 

「これはわたしの感想なのですが、私たちが昨日出会った彼女は、噂(・)の(・)球(・)磨(・)川(・)禊(・)以(・)上(・)に(・)、球(・)磨(・)川(・)禊(・)と(・)し(・)て(・)異(・)常(・)な(・)存(・)在(・)……いや」

 

 

 

「もはや噂(・)以(・)上(・)に(・)噂(・)以(・)下(・)な(・)ナ(・)ニ(・)カ(・)だと……私は個人的に感じました」

 

 

 それだけを言い残し、やがて扉がピシャリ……と音を立てて完全にしめられてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『甘ぇよ。』

 

「たきな!! 大丈夫!??」

 

 

 

 急いでたきなに近寄って倒れ伏す彼女の側に膝を落とす。彼女の身体は赤い液体で溢れており、一目で致命傷だと分かった。

 

 

 ———も(・)し(・)こ(・)の(・)赤(・)色(・)の(・)液(・)体(・)が(・)血(・)だ(・)っ(・)た(・)場(・)合(・)の(・)話(・)だ(・)っ(・)た(・)が(・)……。

 

 

「これ…は、血(・)じ(・)ゃ(・)な(・)い(・)……赤い、何…絵の具……?」

 

『……が』

『その甘さ』

『嫌いじゃあないぜ』

 

 

 その赤い液体からは、嗅ぎ慣れた鉄のような匂いは全くせず、目を凝らして見てみるとそもそもそれは血ではなかった。

 何が起きたか分からず呆然とすると、何故か禊はまるでカ(・)ッ(・)コ(・)つ(・)け(・)て(・)い(・)る(・)かのように、漫画やアニメのようないい台詞を発していた。

 

 

『心配しなくていいよ』

『実弾なんて撃つわけないじゃん』

『大事な味方に向かってさ』

『これはアレだよ』

『ペ(・)イ(・)ン(・)ト(・)弾(・)ってやつ』

『ホントの銃はコ(・)ッ(・)チ(・)さ』

 

「———う…ぅ」

 

「…!? たきな!!」

 

 

 禊が反(・)対(・)の(・)左(・)手(・)に(・)も(・)う(・)一(・)つ(・)の(・)銃(・)を(・)出(・)し(・)な(・)が(・)ら(・)、へらへら笑ってそう説明すると同時に、たきなは少し苦しそうな声を出しながらも、赤色に塗れた目を少しずつ開いてこちらを見る。

 

 

『僕は愚か者と弱い者の味方だから』

『敵以外には実銃なんて向けないさ』

『ま』

『ちなみにだけど』

『ペイント銃(これ)って実は千束(きみ)の腰についている』

『非殺傷弾(それ)をモチーフに作ってるから』

『まあそこそこ痛いんだけど』

『そんな程度は大丈夫だよね』

 

「……たきな、大丈夫?」

 

「はい……少し腹部と頭部に痛みはありますが———」

 

 

 そう言いながらインクが真っ赤に飛び散る部分を触りながら、たきなは自身の傷を確かめていく。

 

「多分、打撲かなにかですね。銃創どころか流血もありません」

 

「…そっか……よかった、本当に」

 

 

『あ』

『ねえ千束ちゃん』

『ところでなんだけどさー?』

 

 

 そうやって安堵していると、まるで自分は関係ありませんとでもいうかのように異質な声を禊があげた。そこに罪悪感どころか、もはや関(・)心(・)すらなく、その声ひとつとっても気持ち悪く感じるような、間の抜けた声色だった。

 

『僕この辺来るの初めてでさ』

『道がよくわからないんだよね』

『よかったら駅までの道のりを教えてくれない?』

 

「……それを教えれば、その後は…?」

 

『やだなぁ』

『そりゃ帰るに決まってるじゃん?』

『僕の任務と君らの任務』

『どちらも終わった今となっちゃ』

『こんなとこにも君たちにも』

『もう用なんてないし』

 

「……………本当?」

 

『しつこいなぁ』

『信用してよ』

『僕を』

 

「…………そっか。じゃあ最後に聞かせて」

 

『ん———っ?』

『何をだい?』

 

 

 そこまで確認した私は禊の方へ、最後に質問を投げかける。「聞かせて」という言葉の最後に「?」を付けないのは、話を逸らすのは許さないという強い意志を込めてだった。

 

 

「……なんでわざわざ撃ったの…?」

 

『だからあれはただのペイント弾だよ』

『いわゆるあれさ』

『リコリスジョークってやつ?』

『聞いたことないけど』

 

「……それもあるけど、結局私が聞きたいのはあ(・)の(・)タ(・)ー(・)ゲ(・)ッ(・)ト(・)に(・)対(・)す(・)る(・)射(・)撃(・)だよ」

 

『ん—————っ?』

 

 

「………私たちはもう既にターゲットが視野に入ってたし、敵襲の気配もなかった。つまり奪(・)わ(・)な(・)く(・)て(・)も(・)い(・)い(・)命(・)だったんだよ」

 

 

『えーっ?』

『でも確か』

『暗殺任務じゃなかったっけー』

 

「うん、それはそうだよ。でも、禊(・)な(・)ら(・)私(・)の(・)信(・)条(・)をよく知ってるでしょ?」

 

『………』

 

「だからこそ聞きたいの。私の信条をよく知ってる貴女が、な(・)ん(・)で(・)わ(・)ざ(・)わ(・)ざ(・)私(・)の(・)前(・)で(・)、わ(・)ざ(・)わ(・)ざ(・)見(・)せ(・)つ(・)け(・)る(・)よ(・)う(・)に(・)殺(・)し(・)た(・)の(・)か(・)を(・)」

 

 

『別に狙ってたわけじゃないよーっ?』

『それにさ』

『何度も言ってるけど僕がやったんじゃないって!』

『けどまあそうだねー』

『気持ちはわからないでもないかもだし?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『じ(・)ゃ(・)あ(・)こ(・)れ(・)で(・)お(・)あ(・)い(・)こ(・)っ(・)て(・)こ(・)と(・)で(・)。』

 

 

 

「———はっ?」

「なっ!!」

 

 

 

 そう笑顔で言い切った禊は、ペイント弾が入っていたはずの右手で(・)は(・)な(・)く(・)、も(・)う(・)片(・)方(・)の(・)実(・)弾(・)が(・)入(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)と(・)言(・)い(・)な(・)が(・)ら(・)取(・)り(・)出(・)し(・)た(・)左(・)手(・)の(・)銃(・)をこめかみに当てながら、な(・)ん(・)の(・)躊(・)躇(・)い(・)も(・)な(・)く(・)引(・)き(・)金(・)を(・)引(・)い(・)た(・)。

 

 

 

 

 

 ———パアァァン!!!

 

 

 

 

 

 

 ぽた——ぽた———っと。

 

 禊の頭からは、赤色の液体が流れ出ている。

 

 しかし、当の禊本人はま(・)る(・)で(・)何(・)事(・)も(・)な(・)い(・)か(・)の(・)よ(・)う(・)に(・)そ(・)の(・)場(・)に(・)立(・)ち(・)尽(・)く(・)し(・)て(・)い(・)る(・)。

 

 

 

「……あっ?」

 

「え……」

 

 

『……なーんて』

『あはっ!!』

『びっくりしたかい?』

『実はこ(・)っ(・)ち(・)も(・)ペ(・)イ(・)ン(・)ト(・)弾(・)なんだよ』

『しかもこっちに至っては』

『ただのインクしかでないだけの』

『イタズラ道具ってやつさ』

 

 

 そうケラケラと笑いながら禊は、こめかみのインクを懐から出したハンカチで拭うと踵を返す。

 

 

『やっぱ駅ぐらいは自分で探すよ』

『自分のことは自分でやらなきゃダメだしね』

『あ』

『そういえば千束ちゃん』

『まだ例の信条続けてるんだって?』

『フキちゃんが言ってたよ』

 

「……え、…あ、う…うん」

 

『ふーん』

『ま』

『応援してるよ』

『頑張ってね』

 

 

 

 

 それだけ言い残すと、禊はスタスタと歩き始める。その後ろ姿からは、その歩く姿からはなにも迷いなど感じず、かつて見た弱気な親友の面影は、変(・)わ(・)っ(・)て(・)し(・)ま(・)っ(・)た(・)性(・)格(・)も相待って、何ひとつ見る影がなかった。

 

 

『んじゃ』

『また明日とか!』

 




前書きでも書いた通り、正直アレで終わらせたつもりでした。

ただ、投稿して数日経った後、いつものようにランキングで小説を漁ってたらなんか見たことあるタイトルが……
リアルに「え!?」て声出ました。
というわけで急遽続きを書いたわけです。

なので「短編」から「連載」に変えました。
てなわけで、この後も一応続けていく予定です。

ちなみにストーリー展開は全然考えてなかったし、現実世界がちょっと忙しいんで亀投稿になります。






Former best friend
「か(・)つ(・)て(・)の(・)親(・)友(・)」
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