マイナス・リコイル   作:sem.

3 / 4
 中々筆が進まなくて泣きそう。
 ただでさえ手元にあるアニメや漫画見ながら少しずつ進めてるってのに、リアルがクッソ忙しい。

 そんなこんなで亀投稿じゃが、頑張って描いていくんでどうか温かい心で見守っててくれぃ(泣き顔土下座)。



 そしてなるべく失踪しない様に頑張るので祈っててくだせえ。


『A burnt child dreads the fire』

 

「そういえば千束、健康診断と体力測定は済ませたのか?」

 

「へ…あ、いや…まだ……あんな山奥まで行くのダルいし…。———それに」

 

 ふと思い出したのか、それとも話を変えようと思ったのか。

 唐突にそう切り出したミカだったが、その内容は千束自身全く思いもよらない事だったようで、千束はその口から素っ頓狂な声を漏らした。また、千束からしたら億劫な内容でもあったようでそのテンションは著しく低かった。

 

 しかし、例年の千束は健康診断の話をしてもここまでテンションが低くなることはなかった。というのも、今までは本部に()()()()()がいた為、『今回は本部に行ったら久々に会えるかも』という微かな期待を胸に秘めて向かっていたのだからであった。まあ、結果は全て空振りだったのだが。

 ただ、今回ばかりは違った。その()()()()()()とも言ってよかったものすらも、昨日のことにより()()()()()()()()に変わってしまったのだから。

 

 

「それに昨日のこともあって……禊と顔が合わせづらいというか……」

 

「そうは言っても明日が最終日だぞ。ライセンスの更新に必要だ。仕事を続けたいなら行ってこい」

 

「うえ〜そこは先生うまく行っといてよぉ……先生の頼みなら聞いてくれるでしょ? ()()()()

 

「———っ!」

 

 

 そのような話を繰り広げていた二人だったが、部屋の前から移動せずその場で会話していた為、当然部屋の中で着替えていたたきなにも聞こえている。

 

 

「司令と会うんですか?」

 

「うおっ! バカ、服!!」

 

「………」

 

 

 その為、聞こえて来た名前である楠木司令と「自分も会って話がしたい」という気持ちが先走ったたきなは、下着姿のまま扉を開ける。ミカという男性の存在など気にしていないかのように、あられもない姿であることなど全く構わず扉を開けたたきなへと大声を浴びせながら千束は急いで扉を閉めた。

 そしてそんなバシィィンという音を傍に急いで先生の方へと視線を向けるが、ミカは何気な〜く視線を外しており、どうやら女子高生への気遣い自体はしっかりとやっているようだった。

 ……まあ、いくらミカが女子への気遣いをしてようとも、当の(たきな)本人が全くと言っていいほど無頓着であったのだが。

 

「わたしも連れて行ってください」

 

「はやっ!」

 

「お願いします」

 

 

 その後10秒も待たないうちに扉は再び開けられる。扉の先のたきなはしっかりと着替えを終わらせており、そのあまりの早着替えに驚く千束だったが、そんなことをしてる間にたきなは即座に頭を下げて、千束に懇願してくる。

 

 

「……………お願いします」

 

 

 一度では足りないと思ったのか。

 必死な声色で、切実な様子で深く頭を下げるたきなの様子を見下ろす千束は、僅かに迷う様子を見せた後に———

 

 

「……わかったよ、たきな」

 

 

 と、優しい声色で了承の意を示したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「———おや〜?」

 

「———! 千束……」

 

 

 そうしてたきなを連れて二人で本部に出向いた千束だったが、たきなとは別の目的であるため彼女と受付で別れることとなった。正確に言えば、たきなが走って逃げたような形にはなるが、何はともあれそうして一人となった千束は、運動着へと着替えるべく更衣室へと向かう。

 そうして更衣室の扉を開けたその瞬間、千束はそこに見知った顔を発見した。

 

「しっかり者のフキさんが、ライセンス更新が最終日なんてっ、どうしちゃったの?」

 

「忙しかったんだよ、お前のズボラと一緒にすんな」

 

 

 まるで相手を馬鹿にするような内容を言い合う二人からは『仲がいい』ような雰囲気は感じられないものの、そんな言葉の応酬とは裏腹に二人からは険悪な空気は全く感じられない。どうやらこれはただの軽口のようで、二人の全く言葉を選ばないその様子からは気の置けない関係であることが伺える。

 

 

「……先生はお元気か?」

 

「元気だよぉ、たまには遊びにおいでよ」

 

「だから……」

 

「はいはい。「任務外の勝手な外出はできない」って言うんでしょ?」

 

「不満はねーよ」

 

「会いたい人に会えないのにぃ?」

 

「あ〜っ! うっせぇ!!」

 

 

 千束のそんな煽りに過剰に反応するフキは、その照れ臭さを隠すかのように声を大きく荒げる。それを見てニヤニヤと笑う千束だったが、それが頭に来たフキはそのままの声色で言い返す。

 

「それを言うならそっちもだろうが千束!」

 

「なんのこと?」

 

「とぼけんな! 毎回毎回、本部(コッチ)に来るたび()()()()()()()って聞いて回ってるお前が言えたことじゃねぇだろ!」

 

「……仕方ないでしょ〜? だって中々顔を見せないんだもんあの子。私が本部に来るタイミングで偶然任務が被ってばっかなのはしょうがないけどさぁ」

 

 

 突然禊の名前が出たことにより、ついこの間のことを思い出した千束は少し言葉を詰まらせながらもそう返した。しかしやはり、千束は禊のことについて非常に気になっているようであり、少し間が空いてからフキに質問する。

 

 

「………ねぇ、フキはさ…禊のことについて何か知らない……?」

 

「……なんのことだ?」

 

「いや…そのさ、実はこの間、久々に偶然禊と会ったんだよね」

 

「……!」

 

 

 少し詰まりながらも、千束の口からぽつぽつと出て来たその言葉は、「何か知らないか?」という酷く曖昧なものであり、具体性はまるで無いものだった。しかしフキは、そんな曖昧な問いの意味をしっかりと理解したようで、彼女の心には大きな驚きと共にわずかな()()が生まれる。その反応は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()であった。

 

 フキはよく知っていた。禊が変わってしまったことを。だからこそ、千束が禊に会っていたという知らなかった事実に驚く反面、禊と久々に会った千束が大きく混乱するのも無理はないだろうと納得したのだった。

 

 しかし納得したからと言っても、まるで似合わない様子で弱々しく聞いてくる千束に、フキはなんて言葉をかけていいのかわからなかった。

 

 

「禊がさ……昔と、まるで別人に見えたんだ。当然最後にあったのはもう何年も昔のことだからさ、変わっているのは当然なんだけど……」

 

「………」

 

「でもその、なんというか……『変化(かわ)っている』…っていうよりかは、『変貌(かわ)っている』ように感じたんだ……それも、あまり良くない方向に」

 

「……そうか」

 

 

 

 

 禊とフキは、そこまで大の仲良しというわけでは無いものの、()()()()()()だけであれば、おそらくリコリスの中では()()()()()()()()と言えるだろう。

 かつて千束と同室だったフキと、千束の親友で相棒だった禊は、()() ()()()()()()()()()()()がいる。そんな千束の存在の影響によって、フキと禊(ふたり)の出会いはもう10年以上前まで遡る。また、千束は同じく10年ほど前に本部から離れて行ってるため、千束の関わった期間自体はこの二人とそこまで長いとは言い難い。

 当然、千束は時々本部に戻っていたものの、そうは言っても常に本部でファーストリコリスとして顔を合わせることも多い二人とでは、関わる機会に差が出るのは仕方がないことだろう。

 

 

 とまあそんなこんなで、禊とフキはもはや幼馴染とも言えるくらいの付き合いがある。

 

 

 

 ———しかしそもそもの話、禊とフキは()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 強気な言動と行動が特徴的で、自分が許せないと思うことがあったら、例え同じリコリスだろうと容赦なくブン殴るほど素の我の部分が強いフキ。

 

 対して禊は、常に弱気で自分のことを簡単に卑下するようなネガティブな性格()()()

 

 そんな風に、二人は性格が正反対で()()()ため、その関係は期間が長くとも深いわけではない。

 見知った顔ではあるがプライベートではまず関わらない、しかし会えば時々話すくらい———それがこの二人の関係性だった。

 

 

 

 

 

 

 

 ———()()()()()()

 

 

 

「……私自身、あいつとはそこまで深い仲じゃない。あいつが変わっちまったこと事態は見りゃ分かるが、なんで変わったのか……その理由は分からねえし、()()()()()()()()

 

「う——ん……そっかー!」

 

 

 ———()だ。千束にいま吐いた言葉は、嘘っぱちである。

 正確には、完全な大嘘というわけではない。禊がどんな考えで、何で変わっちまったのかは本当にわからない。しかし、()()()()()()()と言ったのは少し誤りである。

 

 

 

 理由は分からないが、()()()()()()

 

 真相は分からないが、()()()()()()

 

 

 

 確かに禊は少しずつ変わって行っていた。昔では考えられないような行動を多くするようになった。

 昔は良いことがあれば遠慮がちにではあるが笑うやつだった。

 一つの出来事に喜んだり、悲しんだりできる普通のやつだった。

 

 確かに少し卑屈気味ではあったものの、普通に喜んで、普通に悲しんで、普通に人を思いやることのできる、至って普通の少女だった。

 

 

 

 少しずつ、少しずつ。歯車が合わないように彼女は変わって行った。

 

 うすら寒い笑顔を浮かべ、仲間に手を出すようになった。

 

 その理由は本当にわからない。

 その真相は本当にわからない。

 

 

 

 

 

 ———()()()

 

 

 

 

 彼女が決定的に()()()()()()()()のは、()()()()()()()()()()()()だった。

 

 だからこそ分かる。

 

 

 あの事件が原因なのだろうと。

 あの事実が原因なのだろうと。

 

 

 

「……たきなからは聞いてないのか? アイツも本部にいたんだから何か知ってるんじゃねえのか」

 

「う———ん……私もそう思って聞いてみたんだけどねぇ。昨日の夜も、()()()()()()()()()()

 

 

 フキの少し鋭い視線に、千束は背を向けているため気付かないまま思い出すように考える。

 

 

 

 

———ねえたきな、禊のことについて教えてよー?

 

———何度も言いますが、私は彼女のことについてほとんど知りません。

 

———だからさー、本部での噂ってやつをーー。

 

———これから本部に行くでしょうし、そこで聞けば良いのでは。

 

 

 

 

「の一点張り」

 

「正論だな」

 

「もーっフキもそう言う〜?」

 

 

「いいじゃん聞くくらい〜」などとぼやく千束を無視しながら、千束とたきなの会話内容を頭で反芻させるフキは()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 どうやらたきなもちゃんと()()()()()ようだ。ファーストリコリスかつ禊の親友でもある千束にすら、情報を渡さないどころか、それらをチラつかせるような言動すら避けているたきなの様子からは、()()()()()()()()()()を徹底的に守っていることが伺えた。

 なぜなら、千束の話によるとたきなは禊のことを知らないと、どうやら「会った事もない」とすら()()()()()らしいからである。

 

 

 

 

 ………というより、わたしもたきなもそもそも言えるわけがないだろう。

 

 

 たきなもフキと同じ思いなのかは知らないが、少なくともフキは、()()()()を千束に伝えることは()()()()()()()()()()()()()できなかった。できるわけがなかったのだ。

 

 

 だってそうだろう?

 

 

 禊の親友で、お互いに一番仲の良かった千束に対して。

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

「……………言えるわけ……ねぇだろッ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そもそもとして。

 

 《春川 フキ》にとって球磨川禊は幼馴染でいわば腐れ縁だ。

 

 

 

 

 

 

(なぁ………禊。)

 

 

 

 

 

 そもそもとして。

 

 《春川 フキ》は喧嘩っ早くはあるものの、仲間思いで優しい性格だ。

 

 

 

 

 

(……なんで、あんなことしたんだ…?)

 

 

 

 

 

 そもそもとして。

 

 《春川 フキ》は()()()()()()()()()()()()()()()である。

 

 

 

 

 

(何があったんだ…?)

(なぁ禊…教えてくれよ。)

(そんなに私らは………。)

 

 

 

 

 

 腐れ縁が少しずつ曇っていき、狂っていく姿を何年も近くで見続けて。それに対して手を差し伸べることもせず。

 幼馴染が挙げ句の果てには、自分で自分を銃で打つような狂気的な行動をして。そんな地獄の惨状を直接目の前で確認して。

 

 球磨川禊が最終的には記憶を失って、全くの別人になってしまった。

 

 

 

 

 

 春川フキは許せない。

 何もしなかったことに対する自分の業を。

 

 春川フキは忘れない。

 血塗れの幼馴染が目の前で力無く倒れ伏す情景を。

 

 

 

 

 

 

味方(リコリス)は………頼りなかったのか…ッ?)

 

 

 

 

 

 

 少なくともフキは、禊の狂行を千束に伝えることは()()()()()()()()()()()()()、また、()()()()()()()()()()()()()()()()()できなかった。

 なぜなら、人に伝えるどころか、そもそもフキ自身まだ飲み込めていないのだから。

 

 

 

 

 

「ちくしょう…………ッ」

 

 

 

「———……フキ?」

 

 

 

 

 

 

 そもそもとして。

 

 少なくとも今現在、球磨川禊の起こした一連の行動に世界で一番囚われているのは。

 世界で一番打ちのめされているのは。

 

 

 

 禊の幼馴染で、仲間思いで優しいこの少女《春川 フキ》なのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「———司令!!」

 

「……フキか」

 

 

 空間に、一つの声が響き渡る。その声は辺り一体を揺らすほどの大声であり、またその声自体にも僅かに揺れがあった。

 動揺、混乱。それらの多分に含まれた揺れるその大声に返答する、反対に冷静さの塊のような小さな声にくってかかるかのように、再び大きな声が辺りを震わせる。

 

 

「アイツは……()()()()()()()()()()()!!」

 

 

 その声色から感じ取れる“焦り”は、時間が経つごとに強くなってきており、普段はリコリスとして冷静でいようと心がけているフキも、この時ばかりはそんなことなど頭の片隅にもなかった。

 

 

「……ひとまず手術は成功…峠は越えたようだ。可能性がないとは言えないが、容体が急変しない限りは大丈夫だろう」

 

「———っ!! ……………よかった」

 

 

 大声をあげていた少女……【春川フキ】が“焦り”を感じていた理由。それは、昔から顔馴染みで幼馴染みな()()()()()が、自分の部屋で血塗れで発見されたからであった。

 

 

 その少女は一人部屋であり、同室は存在しない。だというのに、彼女の部屋から()()()()()大きな笑い声が聞こえてきたため、何事かと思ってその部屋に向かったフキはその直後に、その部屋の方角から耳をつんざくような破裂音を耳にしたのである。

 

 その破裂音は、リコリスであるフキにとっては耳に慣れ親しんだ音であり、それと同時に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()であった。訓練所や任務現場ならばともかく、明らかに異質な場所から聞こえてきたその音は、フキの想像通りならばおそらく———“銃声”だった。

 

 

 狂気的な笑い声。

 異質な場所から聞こえる銃声。

 

 

 嫌な予感がしたフキは、その足を早く動かし始める。

 

 走って

 走って

 走って

 

 

 

 そして焦りすぎたフキは、力加減など気にせず、慌ててその扉を開けた。

 バアァァンという音と共に開かれたその扉の先には、()()()()()()()()な光景が広がっていた———。

 

『———は…? み……そぎ…??』

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 銃声が聞こえてきた時には、赤色が埋め尽くすその光景が()()()()()()()()()。だって銃というのは、()()()()()()()なのだから。しかしだからと言って、幼馴染が自分の部屋で()()()()()になっているなど、誰が想定できようか。

 

 あれから1日が経って、峠を越えたと言われた今でも、あの光景は頭を埋め尽くす。

 あの時の大きな銃声が耳で鳴り響いて止まない。

 あの時の血の匂いが鼻に染み付いて薄れない。

 

 あの時の惨状(こうけい)が目に焼き付いて離れない。

 

 

 

「フキ。今回の顛末を耳にした全リコリス、全職員への通達だ。今回の事柄は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()。また、この事件の概要、真相を()()()()()()()()()()()()()()()()()だろう」

 

「———……は???」

 

 

 

 意味がわからない。

 いや、情報統制をされることは理解できる。ファーストリコリスが自室で血塗れになっていたなんて、他者に知られるわけには行かない大事件であることは確かだ。

 今回の事件を知ったのはかなり少数。

 第一発見者の私、そして近くにいて()()()()()()()()()()()私の相方である【井ノ上 たきな】。あとは禊を運ぶ際にすれ違ったリコリスや職員数名と楠木司令。

 もしかしたら他にもいるかもしれないが、概ねこれくらいの人数だろう。

 

 その人達に対して強い口止めを行うこと……それ自体は非常にわかる。

 

 

 

 ———しかし、だからといって()()は決して理解できないことだった。

 

 

 

「なんで…なんでですか司令!? 禊が何であんなことをしたのか!! アイツに何があったのかを、知りたくないんですか!!?」

 

「……フキ」

 

「ここ数年でアイツが大きく変わったのなんか、誰だって見ればわかります!! 昔の禊の面影が全く無いほどにです!! それが今回の事件に無関係なわけがありません!!!」

 

「……………」

 

「本部はまさか隠すどころか……今回の事件を()()()()()()()()()()ですか!? DAにとって都合の悪い禊の()()を———」

 

 

 

 

 

「言葉を慎め春川フキ」

 

「ッッッ!!?」

 

 

 

「一つ、情報の漏洩を規制する行為は、ファーストリコリスが死にかけたなんて事実自体が、他のリコリスの士気全体に関わってくるからである」

 

「……はい」

 

 

 

「二つ、野次馬根性は結構だが、真相究明はリコリスの仕事では無い。よってお前達がそれを探る必要はない」

 

「……なっ!?」

 

 

 

「そして三つ、そもそも今回の事件は禊が自室で()()()()()()()()()()()()()()()()()だと調べがついた。よってこれは、自殺なんかではないということだ」

 

 

 

 

「———………は?」

 

 

「これは【ラジアータ】が出し、本部が認めたこの事件の“結論”だ」

 

「……司令は、本気でそう言うおつもりですか……?」

 

「私ではない。あくまで本部が決めたものだ」

 

 

 

 それだけを言い残すと、「他に質問はないな」とだけ述べた後、司令は歩いて去っていった。

 

 

「わかり………ました」

 

 誰も居ない、誰も聞いていない空間でフキは一人そう呟く。

 それは、誰に対する言葉だったのだろうか。恐らくは、【春川フキ】に対する———自身に対する言葉だったのだろう。

 まるでわかっていない、分かりたくないことなのに、わかるべきだと———分からなければならないと思った故、それを理解するべく———飲み込むべく呟いたようなものだった。

 

 

 本部に釘を刺されてしまった。だからこそ自分は本部の指示に従って禊の事件を誰にも話さないと誓った。本部の指示に従うこと、それが()()()()()()()()()()()()であるから。

 

 

 ———ただ、そう考えることと、どう感じるかはどうやら別だったようであり。

 

 春川フキの心には、本部への忠誠心とは裏腹に、本部への僅かな懐疑心が住みつくようになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「久しぶりだな、千束」

 

「あ………」

 

「……ど〜も〜」

 

「リコリスの義務は果たさないくせに、ライセンスの特権は欲しいんだな」

 

 

 

 千束とフキはそれぞれ体力測定を終え、ベンチに座り休憩しながら二人で会話している中、そこに入ってきたのは楠木司令だった。あって早々嫌味をぶつける楠木だったが、千束はあっけらかーんとした態度で言葉を返す。

 

 

「DAの仕事もたまにはやってるじゃないですかー、この間もちゃーんとやったし〜?」

 

「千束、司令の前だぞ」

 

「たきな、何で追い出したんですか?」

 

「命令違反だ、聞いてるだろ」

 

「だけど、仲間を救った!!」

 

 

 淡々と千束に反論する楠木に対して、千束は少しずつ声を荒げていく。椅子に座っていたのを立ち上がって講義するほど、感情的になっていった。

 

 

「その結果1000丁の銃の行方は以前不明だ。商人を殺してはいけなかった」

 

「コレ見たでしょ!? 取引時間間違っていた司令部のせいですぅ! 楠木さんにだって責任あるでしょ!?」

 

「他人の処遇を気にする前にもっと働いて欲しいものだがな。遊びでお前にライセンスを出してるわけじゃないんだぞ」

 

「あ〜ごまかしたぁ〜!!」

 

「やめろ!!」

 

 

 依然ヒートアップしていく千束にフキは押さえつけるように手を伸ばす。しかし、千束はかなり頭に来ていたようで、フキのその手を問答無用に振り払った。

 

「だいたいっ状況判断ができなかった現場リーダーにも責任あるんじゃないですかねぇ!?」

 

「……ッ仕方ないだろ! 通信障害で司令部と連絡が———」

 

 

 

 

「フキ」

 

「———あッ」

 

 

 楠木に名前を呼ばれた直後、「やってしまった」と言ってるかのような顔と漏れ出た声に千束が反応する。

 

 

 

「通信障害ぃ? ラジアータでモニターされてる作戦中に通信障害なんて普通じゃないでしょ!?」

 

「ただの技術的トラブルだ」

 

「いやいやちょっと楠木さん、ラジアータをクラックされるなんてヤバすぎでしょ!!」

 

「何を言ってるのかさっぱりだな」

 

「楠木さん!!」

 

「やめろ!! 千束!!」

 

 

 去ろうとした楠木に声を荒げる千束に向かって、今度はフキが大きく声を上げる。その感情には今のヒートアップしてる千束に負けず劣らずの強い感情が現れていた。

 

 

「そもそもの原因はたきなの独断専行だ! どんな理由があろうと、命令も聞かねえリコリスは使い物にならねぇってだけだ!!」

 

「フキ、けどたきなは仲間を———」

 

 

 

 

「それは結果論だろ!!」

 

「……フキ………?」

 

「あの銃弾のうち一発でもズレてたらエリカが死んでた!! アイツは仲間を殺しててもおかしくなかったんだ、そんな奴が団体行動なんて出来るわけがない!! 本部からしたら当然の判断だろ!!」

 

「…………」

 

 

 そのフキの言葉を千束は、()()()()()()()()()()()。何故なら千束は、たきなの銃口の先、その現場に居たからである。

 しかし、千束はそんなことよりも()()()()()()()()()()()()()()()()()()。何と言うか分からないがまるで……()()()()()()()()という思いを持ってるような…?

 

 

 

「———フキ、何かあったの?」

 

「……は?」

 

 

 何と言うか、()()()()()()()

 

 いや、千束を嗜める所や、たきなが悪いと述べている部分は昔から変わらないフキの性格で正しい。しかし、フキはここまで声を荒げて反論するだろうか?

 

 ———何かがおかしい。何かがズレている。

 

 千束は直感ながらも、そう感じ取っていた。

 

 

「そこまで声を荒げるほど盲信するなんて、らしくないじゃん。たきなにも悪いところがあるのは確かにそうだけど、けど本部にだって悪いところはある」

 

「……そんなことは」

 

「実際、時間を間違ったのは司令部でしょ。そしてフキもそれを聞いてたじゃん! なんでそれは無視するのさ?」

 

 

「……千束———」

 

 

「緊急事態を脱出できたこと、仲間を救ったこと、褒められるべきところは沢山ある。なのになんでフキは、頑なにたきなを批判———」

 

 

 

 

 

『でも、エリカちゃんを殺しかけたのは事実じゃんか?』

 

 

「「———ッ!!?」」

 

 

『やあ、おまたせまった?』

 

「……禊」

 

「………」

 

 

 千束とフキの口論が激しくなってきた頃、まるで見計らったかのように口を刺しながら少女が乱入してきた。

 

 その少女は、片方(ちさと)の親友であり、片方(フキ)の幼馴染の少女———【球磨川 禊】だった。

 

 

「……何のようだ、禊」

 

 

 フキは苦虫を噛み潰したような顔で質問する。その顔の意味は禊が現れたことによる“嫌悪感”か、はたまた別の感情か。

 そんな顔を知ってか知らずか、相も変わらず飄々とする少女は『べっつにー』と呟く。

 

 

『いやはや』

『見知った顔と見知った顔が』

『言い争ってたからね』

『僕としてはもう少し』

()()()()()()()ところだけど』

 

「「…………」」

 

 

 やはり、()()()()()()()()

 

 この間久々に会った千束も。普段からちょくちょく関わっているフキも。今の禊に対する印象として、同じことを思っていた。

 

 ただし、事の顛末を、起きた事態を知っているフキは、僅かに千束と違う思いも抱えていることは確かだろう。

 

 

『あ』

『そうだ二人とも』

『楠木司令知らない?』

『さっき受けてきた任務の報告書提出』

『さっさとしたいと思ってさ』

 

「………楠木司令なら、さっきまで一緒にいたよ。多分近くにいるんじゃない?」

 

『あっそう?』

『じゃあ早く追わなきゃ』

『ありがとね、千束ちゃん』

 

「う……うん、て…あ! ちょっと待って禊!!」

 

 

 楠木司令を追うべく、すぐにその場を立ち去ろうとする禊をさらに追いかけるように千束が走っていく中、フキはその場に佇んでいた。先ほど禊が現れた瞬間からフキの視線は下に固定されており、まともに会話することができなかった。

 

 

 千束の言葉が蘇る。

 

 実際は司令部のミスだったこと。

 そしてたきなも、あの状況の打破という褒められるべき行動をしてはいるということ。

 

 

 わかっている。

 

 

 

 わかっているのだ。

 

 

 

 

 

 しかし、今春川フキの心にあるのは()()()()()

 

 

 

 

 一つ目は、幼馴染を失いかけたことで、少し過剰となった仲間の死への忌避感。それに付随し、仲間を殺しかけたたきなへの怒りの感情。

 

 そして二つ目は、リコリスとして正しくあろうと、本部に従うことこそが自分(リコリス)には正しいことであるんだという、半盲信的なほどの本部への歪んだ忠誠心だった。

 

 心では本部に対する懐疑心が住み着いているのに———否。

 住み着いている()()()()、それを認めたくないと半分意地になっているのが、いまのフキの現状だった。

 

 

 

 

『………ふーーん?』

 

 

 後悔と怒り。

 

 

 そんなフキの悩む姿に千束は気付いた様子はなかった。先程の会話から、フキが何処かおかしいとは思っていても、確信があるわけではないから。

 

 

『さてさて』

『何が何だかわからねーけど』

『なんか彼女』

『僕と似た匂いがするなー?』

『春川フキだっけ?』

『おもしれー女』

『いや』

()()()()()()()()

 

 

 しかし、その場にいたもう一人。千束より先にこの場から去っていた少女は、追いかけてくる千束の更に後ろを見るように振り返ると、ただ佇んでいる様子のフキを見ながら、そのようなことを呟いていた。

 




A burnt child dreads the fire
「火傷をした子は炎を怖がる」

意味
一度経験した失敗がトラウマになってしまい、極端にその失敗を避けようとする状態。


 補足情報
 フキは禊が記憶喪失な事は知りません。
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