彼の名は毛利 後郎。
それは正しい答えの1つ。
彼女の名はまだ無い。
それも正しい答えの1つ。
ソレが何であるのか…。
強いて言うならば、それはーーー。
◆
「到着…へ、はへ……あ゙〜、
ポポちゃんワールドサーキット、その裏世界へと迷い込んだゴロー。暗闇の世界でガンダムとエルメスの曲芸に襲われ、ほうほうのていで逃げ込んだのは木々の緑に縁取られた門の内側。
「映像だとしても………ふぅ。地面があんのは、ありがてぇなぁー、マジで」
流石にここまでくれば宇宙世紀なロボット達の戦闘に巻き込まれる事は無いだろう。
それに見た感じこの場所はそれほど広くない。
木々でカモフラージュされているが、天井も高くないし門の側には壁がある。
全体的には土や草木で構成されているものの、壁の質感は明らかに人工的。感覚的には動物園の檻の中に迷い込んだような、そんな歪なジャングル風のお部屋であり、そこまで狭い場所なら流石にMSやらMAやらの兵器は動けない…という予測がゴローの緊張を緩ませた。
そしてそれは別の問題を浮上させるトリガーとなる。
「喉…乾いた……流石に…」
ここまで幼女のクソ雑魚ナメクジボディーをフル活用して、汗だくになりながらバイクを手で押して歩いたのだ。
当然、喉はカラカラ。
オシッコになるのが嫌だから…と言う理由で水分補給を必死で堪えていたけれど、流石に我慢も限界。
バイクのサイドに取り付けたクーラーボックスにはキンキンに冷えた焼酎とレモン風味の炭酸水が………ある*1!!!
せめて氷にするべきだ。
グラスに入れるハイボール用の氷をかじる。
それだけに留めるべきだと、頭では理解している。
どれだけ映像がリアルであろうとも、ここはゲーム筐体の内部だ。
最悪
だが、どうしても焼酎の瓶から目が離せない。
「ゴクリッ………!!」
ゴローの中の悪魔が囁く。
悪魔
【オイオイオイ〜! 氷なんかで潤しちゃって本当にイーのかぁん? こんな疲労困憊で喉もカラッカラ、蒸し風呂状態のこの部屋で! ハイボール…飲んだら飛んじゃうぜぇ!?!?!?】
ゴローの中の天使が告げる。
天使
【ダメだよダメダメぇ! おチッコになっちゃったらど〜するの!? ドアが開かなくたってポポちゃんが見てるかも知れないじゃん! ボク、ポポちゃんに恥ずかしいトコ見せたくないもん!!】
悪魔
【おん? なんだぁ〜この意気地無しが】
天使
【なんだよ変態あくま!】
悪魔
【やんのか!?】
天使
【負けないもん!】
悪魔&天使
【【うわ〜! ポカポカポカポカポカ!!】】
砂煙を立て、ゴローの頭上でイマジナリーゴロー(悪魔&天使)の喧嘩が繰り広げられる。
そんなゴローの視線は焼酎に釘付け。
例えば…そう、例えばだ。
グラスに薄〜く焼酎を垂らして、あ…ちょっと、ちょっとだけ手違いですこ〜し大目に入ったけどここは大目に見るのが肝心。
そして氷をザババババっと入れて…そこから炭酸水をトゥクトゥクトゥクぅ〜〜〜っと注げはほら、コレってほとんど水じゃね? うん水! これぁ誰がどう見たってお水ですよ!? あ、けど人間見た目だけで判断しちゃダメだって婆ちゃんが言ってたもんな!? 試飲してはじめて判断できるもんな!? そんな訳で…イザ!!
「ちゅるる〜〜〜………!!」
あえて下品に音を立て、歯の隙間から吸うようにして焼酎をお迎えしたーーー瞬間。
乾いた舌が潤いに踊り、生暖かい室温に嫌気がさしていた脳みそが焼酎の冷気に覚醒する。
ーーーつまり、それは。
「ぱひぁ!! クッッッソうめぇ!!」
ぱは〜っ!
最初の1杯は知らぬ間に消えていた。
たぶんコレは悪魔の取り分とかいう現象に違いない。うまい酒を飲むためには悪魔にみかじめ料を払わなくてはならないのだ。
つまり、実質ゴローはまだ1杯も飲んでいない。
「なな…なんだってぇ〜www」
飲んでないなら飲んでも良い。
当然の権利としてゴローは2杯目を用意する。
2杯目こそ本物。
ちゃんと、しっかりと味わって試飲しなくては…。
「ちゅぱ、チュパ、ちゅるる………っぱ!!」
う〜ま〜い〜ど〜〜〜〜〜!!
筐体の中にゴローの歓声が響く。
「こりぁもう、食うしかない」
ネタのつもりで仕込んでいた十徳ナイフと、新鮮なキウイフルーツを取り出す。
ゴールデンキウイも悪くないが、今まさに旬を迎えてパリパリの果肉にはち切れんばかりの果汁を湛えた緑色のスタンダードキウイがゴローのイチ押し。
皮をそのままに唐竹割り。
半分になったキウイを今度は横からスパッと切り割り、4分割したキウイの果肉にカブリつく!!
「ふぅ〜〜〜めぇぇぇぇ〜〜〜〜!!」
やはり旬。
旬を逃したキウイは石のように硬いかゼリーのように溶けているか…そうした悲しみを知っているからこその、この幸せ!!
キウイをあと2個、欲を言えば3個は欲しかったが、しかし。よく考えろゴロー。ゴローの肉体は酔うじょ幼女だ、体積はどうしたって少ない。
少量の果肉を最大限味わい、その少し物足りない胃袋にお酒をお裾分けしてあげるのが…真実の正義と言うべき物なのではなかろうか!?
「うひ〜〜〜!!」
齧る。
飲む。
笑う。
良い感じに酔いが回ったその頃。
「ぬぉぉぉぉぉぉぉ………お??」
何故か叫んでいたゴローの脚に、何か柔らかいモノが触れた。
「グォルにゃん?」
「ふぉ!?」
それは猫だった。
正真正銘、誰が何処からどう見ても、猫。
「ほぇ!?」
映像ではない。
明らかに、リアルに、本物の。
ふわふわした毛並みのぶち猫がゴローの膝に頭を擦りつけていた。
「おまえ………ど、どっから、来たん??」
「グるぉ…グるぉグるぉ」
妙に人懐っこい猫。
触ってみると、やはり体温があり、手触りを感じ、フサフサの毛の奥にあるぷにぷにの肉球がゴローの指を押し返す。
「お………はれ!?」
猫の顔を見て、妙な既視感を感じた。
【ノ】の字で色分けされた顔。
左が黒く、右が白い。目の上にはそれぞれ顔の色と反対の色の眉毛模様があって。
「マロ………か?」
昔、婆ちゃんの家に居た猫に、あまりにも似ていた。
「グルぉん??」
「おー! しゅげー!! マロじゃん! え、ここって天国かなんかランかな? わかる…いや流石にわかんねーか! 俺だよマロ、ゼンタ! ゴローの兄貴のゼンタらよ!!」
マロはたぶん、推定で20年生きたバケ猫だ。
ゴローが6歳で後郎が4歳の頃まで婆ちゃんの家に住んでいた猫で、何年経っても毛並みは艶々で気付いたらフッと居なくなっていたと言うエピソードからもバケ猫感が強い。
「ゴローが石垣からおチッコた時ぁ、世話んなったよら…学校まで呼びに来たもんら〜??」
それはもう、とても頭の良い猫だったが。当然ながらゴローの思っているマロはもうこの世に存在しない。
「……………!?」
マロは。
今この瞬間にマロと名付けられた猫こと元男性は。
TS獣化おじさんこと、毛利 後郎は。
人間そっくりの表情で目を見開き、口をポカンと開けて目の前の酔いどれ
ご心配おかけ致しました。
完治まで20日かかりましたが、やっと復調しました。
やっぱり、健康がイチバンなんだなぁ…。
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