酔うじょオペレーション   作:マキシマムとと

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裏世界の酔うじょオペレーション・後郎編

 

 もう何年も前の話になる。

 彼の兄、毛利 前田(ゼンタ)は新型TSウイルスに倒れた。

 

 

 新型TSウイルスの発症はC国。

 諸説あるし、国力の関係も有るのだろう。

 既存のウイルスの遺伝子組み換え。それにより生物兵器として製造された物が外部に流出したのではないか。とする説はまことしやかに囁かれつつも、決して世界を動かす事はない。

 

 彼はそれが嫌だった。

 

 単純に許せなかったし、納得出来なかったし、兄の居ない世界を生きる事が寂しかった。

 だから、彼はC国へ渡った。

 

 危険とか、未来とか、名誉とか。

 本当に、心底、どうでも良かった。

 

 兄の無念を晴らすとか、そんな考えもなかったと思う。ただ寂しくて、悔しくて、やけっぱちになって。

 ジャーナリストとしてC国の闇を突いた。

 

 そんな中、単に運が悪かったのかC国の構成員が優秀だったのかは不明だが、彼は新型TSウイルスに感染。

 担ぎこまれた大学附属の医院にてウイルスの特殊変異を確認。C国政府は在外公館を通じて日本に圧力をかけ、書類上での毛利 後郎の死亡が確定した。

 

 意識の無い後郎は軍の秘密研究所に搬送され変異の経過観察と研究実験が行われた。

 それは意識を取り戻し、猫として第二の猫生を始める事になってからも変わらずに。

 

 …しかし、運が良いのか悪いのか。それともそう言う種類の能力でも備わったのか。

 彼の研究に宛てられた高名な学者達は一人の例外も無く、尽くが彼に魅了された。

 国家への反逆などあり得ないようによく訓練された筈の彼らは全員で結託し、猫にとって不利益となるデータを隠滅。

 仕舞には死亡届けを提出して秘密の猫部屋に猫を匿う所にまで至った。

 

 悠々自適。

 

 猫としての本能を満たされ、人間として微かに残された尊厳を守られ。自由こそ無いものの、彼はあの状況下からすれば有り得ない程に満ち足りた生活を送っていた。

 

 スタッフはみんな優しいし、パソコンを使えば意思の疎通も出来る。

 外に出られないこと、外の情報が入らないことを除けば生きるには十分な環境。

 

 時折新しい検体が搬入される事もある。

 つい先週もやたらと学者連中が忙しそうにしていたので、おそらく新しく新型TS細胞関連の人間が捕まったのだろうが、猫である猫にできる事はない。

 

 退屈ではある。

 絶望感もある。

 しかし猫は猫であるが故。

 死を望むより眠る方が早くて楽だ。

 

 今日も樹上で微睡み、猫は猫が毛利 後郎だった頃の夢を見ていた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 最初に感じたのは匂いだった。

 

 夢うつつ。

 ぼんやりとした思考に、妙に鼻をくすぐる匂いがふんわりと香る感覚。

 

 (人間の匂いだ)

 (知らない人間の匂い)

 (C国人とは違う匂い)

 (…妙に、ソワソワする匂い)

 

 この猫の鼻には一般的な人間の20万倍の性能があるらしい。普通とは違う猫は感覚でその情報の取捨選択をして、不要な情報を減らして脳への負担を軽減させる。

 

 (汗をかいて…疲労している)

 (声からするとかなり若い)

 (メスだ。メスの子供)

 (………ん、日本人)

 (ーーーは?)

 (日本人………だと??)

 

 嗅覚と聴覚により判別した人種・性別・年齢。

 その事実が猫の脳を混乱させる。

 

 (なんで………??)

 (被検体?)

 (いやそうだとしたらココには来ない)

 (そも、あまりにも堂々と……ん?)

 (んは!?)

 (この匂い……)

 (酒じゃね?)

 (えーーー飲んでね!?!?)

 

 あまりの驚きに眠気が消し飛ぶ。

 

 (子供…だよな??)

 (焼酎?)

 (この匂いと音は氷と炭酸で割ってる)

 (いや、おいおい…)

 (ペース…早くね?)

 

 覚醒した猫は樹上から飛び降り、音もなく幼女の背後を取った。

 

 「ぬぉぉぉぉぉぉぉ………お??」

 

 何故か叫ぶ幼女。

 猫の脚はひとりでに動き、気付けば彼女の脚に身体を擦りつけていた。

 唐突に現れた猫に驚いた様子の幼女。

 

 (なんか、この子の匂い…)

 (脳が痺れるくらい)

 (なんだこれ)

 (酒の匂いとは無関係だと思われる)

 (この子の匂いに)

 (細胞が………惹き付けられてる)

 (……は?)

 (何だそれ??)

 

 何処から来たのか。

 そんな風に問いながら幼女が猫を撫で、軽く前足を持ち上げて肉球を触る。

 

 (むむ…!)

 (苦しゅうない…)

 (そこ、ソコだ)

 (もっとコショコショせよ)

 (むは〜)

 (至高なり)

 

 脳汁が溢れ、喉が鳴り、身体から力が抜ける。

 そんな時、幼女が猫の名を呼んだのだ。

 

 「マロ………か?」

 

 マロ。

 確かに猫の額の眉毛模様は平安貴族風味。

 しかし、幼女の声は懐かしさに震えていて。

 

 「グルぉん??」

 

 「おー! しゅげー!! マロじゃん! え、ここって天国かなんかランかな? わかる…いや流石にわかんねーか! 俺だよマロ、ゼンタ! ゴローの兄貴のゼンタらよ!!」

 

 マロ…ゼンタ……ゴロー………兄貴???

 古い記憶が脳裏に過る。

 

 「ゴローが石垣からおチッコた時ぁ、世話んなったよら…学校まで呼びに来たもんら〜??」

 

 石垣、落ちて、脚が、曲がって、泣いても、一人で、誰も居なくて。

 けど猫が…ヘンテコな眉毛の猫が。

 ーーー兄ちゃんを………!!

 

 「……………!?」

 

 マロは。

 今この瞬間にマロと名付けられた猫こと元男性は。

 TS獣化おじさんこと、毛利 後郎は。

 人間そっくりの表情で目を見開き、口をポカンと開けて目の前の酔いどれ幼女(ゴロー)を見上げたのだった。

 

 もちろん、真偽はわからない。

 ここの職員達による盛大なドッキリの可能性もある。目の前の幼女=TS幼女化した自分の兄だと確信するには、まだあまりにも情報が少ない。

 

 だが、心の奥底はザワザワしてたまらない。

 

 兄だと。

 この幼女は兄で、俺を俺だと知らぬまま迎えに来たんだと叫んで止まない。

 

 (いや待て)

 (いったん落ち着け俺)

 (仮にこの子が兄ちゃんだとして)

 (何処から来た?)

 (このバイクはいったい………)

 

 見渡す限り異常はない。

 草木と土の匂い。

 その奥に隠された金属の匂い。

 何処とも通じる穴は無い。

 

 本当に唐突に。

 お化けのように現れた幼女に理解が追いつかない。

 

 (ーーーあ!)

 (てか、マズい!)

 (そろそろ巡回の時間じゃねぇのか!?)

 (ど………どうする)

 (匿う…とか言っても隠せる場所も無いし)

 (せめて何処から来たのかを聞ければ)

 (あぁクソ、ここにパソコンが有れば…!!)

 

 毛利 後郎は混乱していた。

 自分がどうにかせねばと奮起していた。

 だから、気が付かなかったのだ。

 

 「んぉ…………やべ」

 

 「グルぉん??」

 

 「おチッコ…したくなっちった………」

 

 幼女(ボクのおにーちゃん)の膀胱が。

 限界を迎えていた事に。

 




   ∧∧
 弟=(ΦωΦ)の伏線が無くてすまんかった。

 ゴローの弟くん、虎とか豹とか猫とか猫耳幼女とか最後まで悩んでたのが悪かったんだな〜。
 反省しる。

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